シナリオ詳細
<濃々淡々>遥風に乗せて
オープニング
●初夏色の。
煌々と降り注ぐ陽光に揺られ、木々は色をつけていく。
見守るように聳え立つ巨大な桜は、相も変わらず桜雨。太陽の熱気がほんのりと頬を朱に染める頃には、季節外れに風鈴の音が聞こえる、そんな<世界>のお話だ。
春風が吹いていた。
桜の精霊達が降らせた春の兆し。桜色の幸せ。幸せの蕾。春めいた木々は指先を揃えて綻ばせ、只、美しく。
「……んん、よいしょ、っと」
揺れる桜の木陰をからころ、下駄を鳴らして歩いた男――絢は、運んでいた荷物を置いてふう、と息を吐いた。
「暑いなあ……季節を感じて、良いんだろうけど」
吐き出した息に滲んだ疲れの色も、初夏の香りを感じればまた変わるというもの。黒い尾はしょんぼりと沈んでいたのが嘘のようにゆらゆらと揺れる。
「お、絢じゃあないか」
遠くから知り合いの声がしたならば、ササッと耳や尻尾を隠して人間に擬態する。其れが彼ら『妖(あやかし)』の生き方だ。
「おっと……やぁ。何か困りごと?」
「嗚呼。インク屋が店を閉めてて、此の儘じゃインクが切れちまうんだ。手紙が書けねえと困る奴も居るから、何とか声をかけてやってくれねえか?」
「なるほど……うん、解った。此の作業が終わったら行ってみることにするよ」
「いつも有り難えな、頼むよ。此れはほんの前払いってやつさ、受け取ってくれ」
「はは、助かるよ。其れじゃあ、また」
「嗚呼、また!」
男が差し出したラムネ瓶を開けて、ごくりと飲み干す。ビー玉がからん、とガラスの奥で鳴った。
「……さて、と」
此処最近の噂。
絢と名乗る飴屋にものを頼めば、上手くいくらしい。
(……不本意ながら、おれだけのおかげじゃないんだけどなあ)
うーん、と首を傾げた絢は。高く遠い空よりも彼方にある、友の姿を思った。
●
「ということでインク屋に行ってきたんだけど、いんすぴれえしょんが湧かないってことらしい。難しいね……」
職人でクリエイターである筈なのに絢は一向に理解を示さず、首を横に振った。
「インク屋『パレヱド』の店主はおれの友人なんだけれど、何か面白い話はないかって聴きたがってるんだ」
曰く。此の世界ではない客人の話が聴きたいのだと、絢に頼み込んでいたらしい。
以前訪れた特異運命座標のことを言っているのだろう、境界とライブノベルの橋渡しが出来る境界案内人の絢にしか出来ない所業であると理解しているからこそ、断れない頼みを行ったのだ。
「なかなか難儀な依頼ではあると思うけど、報酬にインクが貰えるんだ。其れもオリジナルの! おれも時折買ったりしているんだよねえ……」
ほら、と差し出されたインク。すべて絢という名前なのに、どれも違う色をしている。
「こんな感じのインクでよければ貰えるから……良ければ、一緒に行ってみない?」
- <濃々淡々>遥風に乗せて完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年05月14日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)の場合
「インクを作るのにインスピレーションがいるとは変わった話だな」
「うるせェ、それが俺の流儀なんだよ!」
「さすが職人は違うな。安定供給の面で問題が起きそうだが……というか実際に起こってるわけだが……」
「おい絢、こいつ返せよ」
「ええ?!」
驚き首を傾げた絢を横目に、世界はおずおずとインク屋に近づいて。
「さて話……話ね。大したエピソードが無いから聞いたところでいんすぴれいしょんとやらが湧くかは知らないが、出来る限りご要望に応えるとしよう。俺が話せる事と言ったらやはり色々な世界の出来事か」
ふむ、と首を傾げた世界。思い浮かべたのは、これまで向かったライブノベル世界。
「我が儘な妖精の女王と彼女を慕う妖精たちがいる世界で、その提案や行動に振り回されながら破茶滅茶な時間を過ごしたし。魚の一匹すら見当たらない暗く深い海の中に行ったこともあったな。なんか自分が死ぬときの体験をしてみたこともあった気がするし、病弱で入院していた女の子を助ける為に尽力したこともあった気がするな……」
書き手に対する何かを感じる。おい!
「とまあこんな感じでぱっと思いついたことを話すだけでも枚挙に暇がない。もっともいろんな世界を巡るだなんて信じ難いだろう。実際ただの妄想や世迷言を吐いてるだけかもしれないしな」
「……ほう」
興味が無いわけではないのだろう。インク屋の瞳からは爛々と興味が滲んでいる。
「信じるか信じないかはインク屋次第だし、信じなかったとしても荒唐無稽な話を聞きゃインクの色の一つくらいは思いつくってもんだろ。というわけでお一つよろしく頼むぜ。できれば売った時に高くなりそうな感じでな」
「おいやっぱこいつ返せよ、絢」
「ええ??!」
俺の作品を売ろうとするとはふてぶてしいやつだ! と怒り狂うインク屋を止める絢。世界は店をそそくさと立ち去り、甘味を探し始めた。
◇
Name:世界
Color:緑ベースにきらきら煌めいたパーティクル。流れるような青色が軌跡に踊る。青い空と地の緑をイメージした一品物。売ったら怒る。
「こんなんでいいか?」
「お、売れそう」
「売るな」
●『微睡む水底』トスト・クェント(p3p009132)の場合
「話から出来上がるインクかぁ。どんな色になるのかな? 楽しみだ」
「おう、俺もアンタの話を聞くのが楽しみだぜ」
椅子に座るように促され、トストはゆったりと腰かける。ふうむ、と首を傾げては見せるが、何を話すかはもう決めてきたようで。
「そうだな、地元の話なんだけども」
と、にこり、小さく笑みを浮かべて見せた。
「うちの集落って地下にあるんだ。地下水脈が流れてるなかで、洞窟が広くなって、ホールみたいになってるところなんだよね」
「ほぉ、集落」
「うん、集落。で、そこに、水が溜まって湖になってる。そういうところの、水の中でみんなで暮らしてるんだ」
「……アンタ、生きてられるのか?」
「あ、真っ暗じゃないし、空気もあるんだよ。ただ歩けるような陸地はほとんどないし、苔の農地にしてるし、何より水中の方がずっと広いもの」
ぱち、ぱち。と瞬いて。インク屋は、ペンを落とした。
「水中?」
「そう、水中。だからおれは水中生活の方が長いんだ~」
「ほォ、となると地上はまた違う事があったんじゃないか」
「そうだね、地上でびっくりしたこともたくさん…」
「ふゥん。じゃあ何だ、食べ物とかも違いがあったり?」
「そうそう、パンなんか、こんなにふかふかして温かい食べ物があるんだって感動しちゃったよ!」
はつらつと笑うトスト。興味津々そうに頷いたインク屋。
「えーと、そう。明るさの話。壁に水晶の鉱脈が走ってて、自然の天窓みたいに光が入るんだ。昼の、窓の真下でも薄暗いくらいだから、今思うとかなり暗いよね」
「そりゃァなかなかだな。真暗とまではいかねェが」
「うん。だから水中は真っ暗なところの方が多いし、みんなカンテラを持ち歩いて生活してるんだ。こういうの」
「ほォ……」
湖底のともしびは煌めいた。きらきらと煌めいたそれは、酸素に満ちた地上で美しく輝く、
「綺麗でしょ。鉱石の向きによって光の色が変わるから、故郷じゃいろんなものがうつくしく見えた気がするね。
だからそう、暗いところでほんのり光るくらいの色や明るさが、落ち着いて好きなんだぁ」
◇
Name:トスト
Color:湖底の青。ぼんやりとにじむ枡花色に、零れ落ちた小さな金箔。水中に降り注ぐ太陽の光をイメージした。
「…だからちょっぴり、地上って眩しく感じるね。騒がしいし。流れが早くて、追いつけないような気が、たまにしちゃうけど」
立ち上がったトストはうんと伸びをして。
「最近はちょっと頑張れてる気がするんだ。一緒に歩きたいともだちもいるしね」
履き慣れた靴をしっかりと慣らして、進んでいった。
●『特異運命座標』九十九里 孝臥(p3p010342)の場合
「好きなこと、か」
「ああ、好きなことだ。なんだってかまわないぜ、アンタのことが知れりゃあいい」
「……ふむ。料理は、そうだな、腕は人並みであると思うが好きだ」
「ほォ、料理とな。そりゃまた凝ってるな」
「……家では冷めた出来合いの物しか出なくて、それが不満で自炊を始めたんだ」
過去を思い出す。
妾の子だから、という理由で、まともな食事を与えられることがなかった過去。
すべて酷かったけれど、特に食事に関してはなかったり食べられない物を出されることが多かった。
ちゃんと出されたように思われても、出来合いの冷めた物や土のついたままの生野菜だったり。それをどうやって、幼い子供が食べれば良いのかなんてわかるはずもない。
そのために、孝臥は夜中誰もいない時に調理場で自炊を行うようになったのだ。
(懐かしいな……)
最初は指を切ったり、調理したあとの片付けに手間取ったり。苦労することも沢山だったけれど。
「それがある時、親友が俺の料理を食べて美味しい、また食べたいと言われて……。それからだな、料理に熱中するようになったのは」
「そんなに大切な親友なのか?」
「ああ。同じ世界からきた、唯一の同郷だからな」
……理由は、それだけじゃあないけれど。恋慕の気持ちを隠せていないのは紛れもない事実だけれど。まだ気付かれていないはずだから、きっと大丈夫だ。多分。
「まぁ本分は戦うことだから本格的に習う、ということはできなかったから本などを見ながらの自己流だが。……今も親友は美味いって食べてくれる。それが俺にとってはとても嬉しいことだ」
「俺も食いてえな。あー腹減った」
「調理する分には構わないが……ここには厨房もないのでな。また機会があれば、そのときにでも」
「おー。楽しみにしてるぜ、兄ちゃん」
◇
Name:孝臥
Color:まっしろなインクと華やかな赤、青緑のいろ。一本線をひくと三色の色が出る。かわいい。
「……歯磨き粉?」
「失礼なことを言うじゃねえか、着物の柄をイメージしてみたってのによ!」
「いや、冗談だ。大切にする」
●『紲家』紲 白虎(p3p010475)の場合
たったったーと勢いよく走って、白虎は満面の笑みを浮かべた。
「わーい! 異世界だー! へー、こーなってるんだ!」
「嬢ちゃんは元気が有り余ってるみてえだな」
「えへへー、初めて来るから見慣れないものばかりだー!」
「おう。まぁゆっくりしてけよな」
椅子を指したインク屋に頷いて、白虎はにぱーと笑みを浮かべて見せる。
「あ、君がインク屋さん?」
大きな瞳を瞬かせた白虎は、椅子の上で姿勢を正した。
「私、白虎! よろしくね!」
「おう、宜しく。嬢ちゃんはどんな話を聞かせてくれるんだ?」
「んー? 私の話?」
首を傾げた白虎はふむ、と思案して見せる。
「私、ドラゴニアっていう種族なんだけど事情があって皆、閉鎖された場所に住んでたんだ」
最近到達することができた覇竜領域はローレットのイレギュラーズにとっても新しい世界。
脅威として名を馳せていた竜と、その竜の特徴を持つ種族「ドラゴニア」。
既に沢山のドラゴニアの同士がイレギュラーズとして召喚をされている。もちろん白虎もそのひとりだ。
「でもイレギュラーズの皆と出会って外へ出れるようになったんだ。だから外の世界って知らないモノばかりでワクワクしてるんだ!」
ふんす、と高らかに胸をはってみせた白虎の様子は微笑ましいもので、意地悪なインク屋をも笑わせてしまう。
「了解した。嬢ちゃんらしいインクを用意してやるから待ってな」
「うん!」
◇
Name:白虎
Color:炎のような赤。明るく、誰をも照らす太陽のようなまばゆく輝かんばかりの赤。書いた線はいきいきと跳ね、踊ることだろう。
「これが私のインク?」
「おうよ」
「赤くて可愛い! ありがとうインク屋さん!」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
絢くんのイラストを頂いたので記念に。
貴方だけのオリジナルインクはいかがでしょうか。
●依頼内容
インク屋に貴方のお話を話す。
好きなことでも、最近熱中していることでも。貴方の話から、貴方だけの色を見出してくれるインク屋です。
拙作<濃々淡々>貴方色のインクは如何? に前回の様子が描かれています。参考程度に、読まなくても大丈夫です。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3190
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。
呼ばれればお供します。今回は相槌中心。
●インク屋
口調の荒い妖。皆さんの言葉に影響されて、カラフルなインクを生み出します。
●サンプルプレイング(絢)
おれ? おれも? 仕方ないなあ……
うーん……あ、此の間サイダーを貰ったんだ。あれはしゅわしゅわしていて、喉の奥がくすぐったいよね。
夏の始まりを感じるよ。
以上、ご参加をお待ちしております。
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