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シナリオ詳細

さまよう首とひとりぼっちの狼王

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●相容れぬ伝説
「昔話をしようか」
 紙煙草をくわえ、赤髪の女はマッチをこすった。
 顔全体を覆うやけど跡が照らされ、ちりちりと葉が燃える。ゆれあがる煙にはどこか甘い香り。
 女の名はバッケル。
「ある孤独な王の話さ」
 パサジール・ルメスのキャラバンを率いるリーダーであり、今回の依頼主である。

「ここから北の森に、狼の王国があった。
 やつらの毛皮は白銀で、月の夜には美しくきらめいた。
 一頭の王と、無数の群れ。やつらは最低限のエモノを狩り、慎ましく森で暮らしていた。
 人を襲うこともなくてね……ワタシたちの間じゃあ、夜道に彼らの姿を見たなら幸運が訪れるなんてジンクスもあったほどさ」
 煙を深く吸い込む。ちりちりと音をたてる煙草。
 ため息のように、バッケルは煙を吐いた。
「何年前だったか。とにかく暑い日だった。今日みたいな猛暑日さ。
 幻想貴族がやつらの毛皮に目をつけた。社交界で大流行してね。
 おっと、はやまるな。ワタシらは手をつけてない。ラサから流れた盗賊や、鉄帝からあぶれた山賊たちがハンターになったのさ。
 毛皮は飛ぶように売れたらしい。ワタシらの流通にも乗った。
 コートや、マフラーや、じゅうたんや、剥製になった。
 それが何年か続いた。
 そして、終わった」

 カタコトと車輪が鳴る。
 伝わる揺れをどこか心地よさそうに、赤い絨毯に座ったバッケルは目を閉じる。
「盗賊や山賊たちは銀狼を最後の一頭になるまでとりつくした。
 そして最後の一頭が……人間への恨みと憎しみの末に、化けたんだ」
 火の付いた煙草を、まるで指でさすように北の森へ向けた。
「あれ以来、この森は『亡狼の森』と呼ばれてる。
 ひとりきりになった狼の王が、亡霊と化した大量の仲間たちと共に、近づく全てを食い殺そうとする森さ」
 バッケルは皮肉げに、顔の左半分だけで笑った。
「けれどそっとはしておけない。ワタリらはパサジール・ルメスの民。諸国を巡るキャラバンさ。生きるための自分勝手さ。
 やつを倒し、一年閉じていたこの商路を開く。
 アンタたちに手伝ってもらうのは、まさにソレさ」

●亡狼の王
 バッケルは白い右目を指さして、黒い左目でウィンクをした。
「ワタシも一度しか見ていない。あまり目のいい方じゃ無いんだが、それでも忘れちゃいない。
 『亡狼の王』は見上げるほど巨大な狼さ。
 その周りを……なんていうんだろうねえ、首だけになった狼の亡霊たちがそれはもう沢山飛び回っていたよ。
 その時ゃラサの傭兵を2~3人ばかし連れていたが、用心の金をケチるもんじゃあないね……全員あえなく森の肥やしさ。キャラバンの連中もいくらかやられて、命からがら逃げてきた。
 その日からワタシのあだ名も変わったよ。『ローストフェイス』バッケルてね」
 亡狼の王を倒すには、亡霊たちを切り開く者と、王を討つ者、そしてキャラバンを守る者のみっつが必要だ。
 それが今回雇われた八人のイレギュラーズなのだ。
「なあに、恨みなんてないさ。これもワタシらの自分勝手。生きるために道を開き、生きるために殺すんだ。
 それが……人生ってやつなんだろう?」

GMコメント

 パサジール・ルメスのキャラバンを率いる女性、『ローストフェイス』バッケルよりの依頼で商路を塞いでいるモンスターを討伐することになりました。
 対象は『亡狼の王』。

 これ以降の情報は『戦いながら観察して得た』ないしは『より深く話を聞くことで得た』ものとして扱います。
 相談の流れが若干メタ寄りになりますが、プレイングとリプレイでリアルをお楽しみください。

【戦闘データ】
 亡狼の王は周囲を飛び交う狼の亡霊『ゴースト』とそれを束ね魔物と化した『キング』によって構成されています。
 ゴーストの個体数は”たくさん”です。計測不明かつ次々と新規発生します。
 ですが『キング』を倒すことによって消滅し、その時点をもってこのシナリオの成功条件はクリアされます。

 よってこの攻略には
 ・キャラバンの馬車を守る人員
 ・亡霊を倒して道を切り開く人員
 ・キングと戦い倒す人員
 が必要になります。

 キングは炎を吐く能力を持ち、亡霊たちは噛みつきによる近接攻撃を行ないます。
 キングは非常に機動力が高いため、戦うには機動力があるととても有利にはたらくでしょう。

●ゴースト
 霊体であるためか首だけで飛んでいるためか回避性能が高めです。
 またゴースト系であるため一部のクラスに補正がかかります。
 キングへ迫ろうとするないしは攻撃しようとする者を阻み、場合によっては庇おうとします。
 これらを効果的に蹴散らすか引きはがす手段をもっておきましょう。

●キング
 機動力が高く、炎による攻撃を得意とします。レンジは不明ですがかなり自由がきくようです。
 いわゆる魔物の一種であり野生動物カテゴリーからは外れています。
 スペックは並程度ですが、しっかり戦うために最低でも2人は専用の人員をさいておきましょう。

【フィールド】
 森です。木が沢山生い茂っています。木はそれぞれとても背が高いようです。杉かな?
 一年ほど放置されたことで道がガタガタになっており、馬車は一旦とめて戦います。(わざわざ守らなきゃ行けないエリアまで馬車を入れるのは、森の外のほうがもっとヤバいからです。どうヤバいのかは依頼攻略や趣旨から外れるのでまた今度に)

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • さまよう首とひとりぼっちの狼王完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月12日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
武器商人(p3p001107)
闇之雲
琴葉・結(p3p001166)
魔剣使い
シーヴァ・ケララ(p3p001557)
混紡
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)
煌きのハイドランジア

リプレイ

●車輪かこの世に生まれた時から
 おうとつの激しい土道を、車輪ががたごとと揺れる。
 露出した木の根にあたってゆれる馬車を横目に、『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)は森の中を徐行運転していた。
「何だったか……メモリーにタイトルが残っていませんが、地球にも狼王の噺がありましたね。人は誇り高き王への行いを恥じた、という終わり方をしたと思います」
 ヘッドライトの点滅。『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)と『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、それぞれ馬車の上から視線を投げかけた。
 馬車は四台。世界中を回っているキャラバンとして大規模なのか小規模なのか、経験の浅い者からはわかりづらい。少なくとも、キャラバンはみな旅慣れた風貌をしていた。
「今回のケースですと狼への行いを恥じる当の人間が居ませんが……代わりに討伐する僕達が恥じらいを覚えるんでしょうか。それともバッケルさんのように、生きる為に割り切るんでしょうか。亡霊は、キングは……切れないでしょうね」
 エクスマリアが小さく息をつく。
「ただ一匹になるまで狩り尽くされて尚、被害は森に踏み入った者のみ。其処から出る事叶わぬ故か、或いは恨みと憎しみの末に化けて尚、復讐ではなく王国を守る事が望みなのか……」
 動かない表情の代わりに、エクスマリアの長い髪が感情を示すように動いた。
「どちらにせよ、今日が王国の最後に変わりはないが」
「白銀の狼も、わかっているだろうに」
 ヒヒヒ、と薄い笑みを浮かべる武器商人。
「ソコには誰も”いない”んだ。嗚呼――仲間が殺し尽くされた時では無い。キミは、”そう”なった時点で、ヒトリになってしまったのさ。気の毒に」
「そうですね」
 アルプスローダーがヘッドライトを消した。
「皆の居る場所に送ってあげましょう」

 馬車の最後尾について、『魔剣少女』琴葉・結(p3p001166)は周囲を警戒しながら進む。
 長く人の手が入っていないためか、鳥や虫の声が多い。
 高い木は月光をまばらに遮り、朽ちた枯葉だらけの地面を広く照らしている。
 雨上がりのような、どこか苔むしたにおいがした。
「仕事とはいえ狼王がこうなった原因を考えると気が重いわね」
 結の言葉に同意するように振り返る『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)。
「互いに己が種族の利益を求め、そして誰も居なくなった。結末は悲劇であり喜劇だとしても、その想いを否定したくはありませんね。……どちらの想いも理解できますから」
「人の欲望のままに仲間を奪われて、今もまた私達の都合で彼らと戦おうとしている」
 杖をぎゅっと握り、『魔法少女』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)が目を細める。
「何処までも自分勝手で嫌になるけれど、誰かが決着をつけないといけないんだよね、きっと」
「イヒヒヒヒ。この世界じゃ、理不尽に死ぬなんてよく有る事だろう? お仲間は割り切ってるぜ。お前も、余計な事を考えてると黒焦げになっちまうぞ?」
 結は咳払いをして、喋る剣の柄を拳で叩いた。
「わかってるわよズィーガー。仕事は仕事、しっかりやるわ。例え恨まれてでも」
 生きるために殺すのだ。
 生命の全てが、そうであるように。

 森の闇が、ほんの少しだけ深くなったように思えた。
 『混紡』シーヴァ・ケララ(p3p001557)は不穏な空気を察して武器をとり、馬車を降りる。
「弱きものは狩られ、強きものが生き残る。単純明快わかりやすくて好きよ」
「まさに弱肉強食」
 『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)もまた馬車を降り、他のメンバーに身振りで敵の気配を知らせた。
 武器商人も展開していた偵察隊を引き下げ、他の者もファミリアーをはじめとするあれこれを撤収させた。
 ここより戦場。
 遠くより来たる巨大な……そして美しい影が見えようか。
 月光に美しくきらめく白銀の毛皮。
 その周囲を舞う大量の、狼の首。
 悲しげな遠吠えに、ダカタールは非憎げに笑った。
「縄張り争いと行こうじゃないか、狼王。死んだら毛皮に変えてやろうか」
 亡霊たちが、襲い来る。

●誰がために墓はたつ
「ヒヒヒ……」
 武器商人はゆらりと指を立てると、周囲から大量の残留思念を寄せ集めた。
 恐らくは狼王に食い殺されたであろう人間たちの怨念が無数の叫びと苦痛の表情となり、球状に固まってゆく。
 指揮棒をふるように放った指のさき。狼の群れを喰いころさんばかりに無数の怨念が食らいついていく。もはや獣と獣、いやそれですらない怨念と怨念の食い合いが巻き起こった。
 僅かに開く空白。
 アリスは杖を握って戦乱の空白地帯へと走る。
 杖を中心に魔術の殻が広がり、殻を破った時には魔法少女フォームへと返信していた。
 自らの顔を狙って食らいついてくる狼のゴーストをスライディングで回避。
 かがんだ姿勢のまま杖をライフル式に構え、現われた架空レバーを引いた。
「ゲンティウス――機関魔術、ファイア!」
 まるで分厚い壁のごとく広がっていたゴーストの群れに亀裂が入る。
 彼らの攻撃でもぬぐいきれないのは、ゴーストの身体を魔術弾が通り抜けるがゆえか、それとも対象の小ささゆえか。
 それでも僅かに開いた隙間を、アルプスローダーがフルスロットルで突っ切った。
 コミュニケーションアバターを消去し、バイク単体で細い隙間をすり抜ける。
 目指すは狼王(キング)だ。
 接近に気づいたキングが飛び退きながらも炎を吐くが、それよりも早く脇を抜けて後方へと回り込む。
「逃がしませんよ」
 機動力ある引き撃ちへの最も有効な対策は、高い反応値と機動力で回り込んで引きを阻むことだ。
 そこに気づく人間やそれができる人間はとても少ないという話だ。
「――」
 回り込んだアルプスローダーをにらむようにブレーキをかけるキング。
 魔剣をしっかりと握りしめた結が跳躍し、高い樹幹で三角飛びをかける。
「攻撃圏内――いくわよ!」
「なるべく森を荒らさないように戦いたかったけれど……そんな余裕はなさそうね」
 一方でシーヴァは巨大な剣を水平方向に振り込んだ。
 広がった切っ先が遠心力をもってキングへ迫る。硬い歯ではさみこんで止めたキングだが、それが決定的な隙となることを分からないわけではないだろう。
 頭上たかくより来たる結の斬撃。
 毛皮が燃え上がり、炎が彼女たちを包むように渦を巻く。
「――悪いわね」
 目を細める結。けれど、斬撃の手が緩むことは無く、むしろより鋭く走った。

 一方で、キャラバンの馬車も亡狼(ゴースト)たちの群れに襲われていた。
 固まって身を守るキャラバンの者たち。それを守るべくエクスマリアは立ちはだかり、長い髪を広く大きく展開した。
 無数のセントリーガンのごとく形成された髪がそれぞれの先端から魔術弾を発射。
 それをかわしながら、時折直撃をうけながら、ゴーストたちが迫ってくる。
 直撃をうけたゴーストは魔術にとらわれ、味方のゴーストに食いついていく。
「魅了によるつぶし合いはできそうですか?」
「手応えは薄い。目標が小さいからだろうか、回避がうまいらしい」
「であれば……」
 アイリスが更に迫ってくるゴーストに向けてヴェノムクラウドを発射。
 高威力ワンドの先端から放たれた有毒ガスの霧が森に広がり、接近してくるゴーストたちが巻き込まれていく。
 直撃による猛毒はこの際期待しないとしても、攻撃範囲の広さは群れ相手に魅力的だ。ネックとなるコストの高さも彼女の高い自己充填能力を加味すれば暫く打ち続けることも可能だろう。
 その一方で、防衛を任されているのはダカタールだった。
 シェルピアの光を展開し、ゴーストの攻撃にさらされている仲間たちの回復を始めていた。
 飛来するゴーストを鎌の柄で打ち落とし、連続で食らいついてくる群れの攻撃を走りながらかわしていく。
 回避はうまいが攻撃を命中させるのはあまりうまくないらしい。挑発的に笑うダカタール。
「ふふ。孤独な王、という割に周囲に首を侍らして。赤の女王気取りかな? どちらにせよさ、一匹狼としては失格だよねえ」
 かかってこいとばかりに鎌を握り込み、にらみ付ける。
「ああ失敬、元から一匹狼ではなかったね。弱かったから一匹になったのだったな!!」
 森のあちこちからわき出たゴーストたちが一塊になった馬車を取り囲む。
 三方向に展開し、ダカタールたちは身構えた。
 いよいよ猛攻が始まるのだ。

●怪談話は誰のため
「ぬぐいきれる量ではありあませんね」
 ゴーストは無尽蔵かと思えるほど大量にわき出てアイリスたちへと襲いかかる。
 その全てを範囲攻撃で払い去るのは難しいように思えた。攻撃の当たりにくさもあるが、それ以上にキリがない。
 しかし……。
「この亡霊たちは狼王の力によって顕現したもの。であれば、狼王(キング)を討つまでの時間が稼げればよいだけのはず……」
 アイリスは得意の術を組み立てると、周囲から大量の土人形を召喚した。
 いや、はしばしからはみ出てみえる白骨は狼王に食い殺された人々のものだ。木の枝や石を手に、アイリスを守るように展開する。
「賛成だ。キャラバンをそれまで維持する」
 エクスマリアも攻撃に使っていた長い髪をほどき、巨大な半球状の壁に変えてダカタールたちを守り始めた。
 通常状態でこれだけできるのであれば、二人同時にかばえるほどのスペックをもったときどれだけのことができるのか……。
「とはいえ、いつまでも持たない」
「いや、まだやれるだろう?」
 わざと憎らしいことを言って、ダカタールはアイリスやエクスマリアにメガヒールの光を送り込んでいく。
 高濃度の治癒魔術が彼女たちの痛みや苦しみをぬぐい去っていく。
「そう長くはないぞ。あまり手を掛けさせないで欲しいものだがね」

 炎が大量の蛇のように走る。
 爪が空を裂き、結やシーヴァ、アルプスローダーが吹き飛ばされる。
 周囲のゴーストたちがキングに群がり、まるで鎧のようにまとわりついていく。
 ゴーストの薙ぎ払いに徹していたアリスが駆けつけた。
「だめね、今攻撃してもゴーストが受けるだけになる」
「一気に薙ぎ払う?」
「それじゃあ私たちに当たるわ」
「なら……当たらないように鋭く撃つ!」
 アリスは杖をハンティングライフルのように構えると、立ち上がった架空アイアンサイトごしに亡霊のひとつへ狙いをつけた。
「いい考えだ。手伝うよ」
 隣に並んだ武器商人が鎌に亡霊たちを纏わせ、放つ構えをとる。
「チャンスは一秒だと思ってて。カウント――」
 みっつのカウントダウン。
 ゼロと同時に魔術弾と死霊の刃を放ち、キングを守っていたゴーストの鎧をはぎ取る。
 新たなゴーストがその穴を埋めるまでの一秒。
 シーヴァの打根がはなたれ、平三角の穂先が毛皮へ深々と突き刺さる。
「気合い入れなさいよズィーガー!」
「イヒヒ、お前こそ外すなよ」
 鎖のラインに沿って突撃をしかける結。
 彼女の魔剣が毛皮を更に切り裂き、白銀が真っ赤に染まっていく。
 痛みと苦しみに吠えるキング。
 青いオーラを纏ったアルプスローダーが、凄まじいスピードで突っ込んだ。
 タイヤに装着したスパイクが殺人的に回転し、キングの肉体に食い込む。えぐり、破壊し、突き抜ける車体。
 樹幹に激突して倒れ、土の上を滑っていく。
 その後ろで、身体に大穴をあけたキングは悲しげに吠え……そして、その場に倒れた。

●死してなお行く場所など
 狼王なき森は静かだった。
 亡者たちも見えず、あれだけあった狼の首もひとつとして見当たらない。
 シーヴァの提案で、狼王は土へ埋められた。
 あくまで人間式の、それも一部の葬儀様式ではあったが、シーヴァの言を借りるなら『アタシに出来る王への礼讃よ』である。
「おやすみ、白銀の狼。せめてよい夢を。ヒヒヒ……」
 武器商人は亡霊を引き連れてキャラバンの馬車へと戻っていく。
 アルプスローダーも、コミュニケーションアバターを再投影して馬車へと引き返した。
 『ローストフェイス』バッケルは煙草に火をつけ、大きく盛り上がった土の山を見ている。
「まだ出発しないのですか?」
 アイリスの問いかけに、バッケルは非憎げに顔を歪めた。それが顔の火傷によるひきつりなのか、感情からの歪みなのかは判別が難しい。
「あれを、もう暫く見ていたくないかい」
 戦闘の際に落ちた荷物を積み直す手伝いをしていた結やアリスが、ふと振り返る。
 自分たちの作った、誰にも気づかれないような墓らしきものの前で、エクスマリアが鎮魂の歌をうたっている。
「『生きるための自分勝手で殺したが、これも自己満足のための自分勝手』……だそうよ」
「そうだね。しないよりは、きっといい」
 シーヴァも、馬車に寄りかかって歌を聴いている。
 月の光がまばらにさして、森を、皆を照らしている。
 ダカタールは開いていた本に手をかけた。
「『白狼たちは毛皮や剥製になり、王はみなの思い出になりましたとさ』」
 本は閉じられる。
 これはある森の話。
 キャラバンの通り道の話。
 かつてあった、王の墓の話。
 孤独が消えた日の話。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――it beautiful world

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