PandoraPartyProject

シナリオ詳細

凍れ凍れ、魂だけ残して、全て全て

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある定点観測員は語る
 賑わう酒場。打ち合う金属カップの音と笑い声。景気の良いウェイトレスの呼び声。
 そんな酒場の端の端。淡いオレンジ色のランプが届かぬほどのカビ臭いカウンターテーブルの隅に、一人の男が座っていた。
 まるで長年掃除を怠った部屋に発生するカビのように、ちびちびとラム酒をすすっている。
 情報屋がコインと新しい酒をテーブルに滑らせてやると、目も合わせずに彼は語った。
「あれは酷い事故……いやモンスター災害だったよ。僕ぁ二度とみたくないね。ン、今は仕事の時間だろうって? サボってンのさ、アイツが居座ってる街道なんて近づきたくもないからね」
 彼――街道観察員が語るには、こうだ。

 僕が観察を任されたのは山岳に近い街道さ。
 幻想(レガド・イルシオン)の北東にあるだろう? 細いし険しいし、ネメシス行きの、それも金に困った商人くらいしか通らないところだよ。通ったとしても数日に一団ってところかな。
 その日も、久しぶりに商人が通ったのさ。
 運悪く、アイツが下りてきてる街道にね。

 アイツは見るからにヤバいモンスターだったよ。
 大砲を沢山積んだ氷の船がさ、ドライアイスみたいな煙を噴きながら宙に浮いてるんだ。
 それだけでも大迫力なのに、船首から巨大な女の上半身がはえてるんだぜ。
 全身氷みたいに透き通った女が歌うんだ。『凍れ凍れ、魂だけ残して、全て全て』ってさ。
 そんなヤツを見つけてきみ、近づこうなんて思うかい?
 俺だったら回れ右をして逃げるね。けどあの日の商人は違った。馬車を走らせて迂回すればいいなんて思ったんだろう。馬鹿なやつらさ。
 商人は足下を見るのが得意な筈なのにさ、地面がスケート場みたいに凍り付いてるのがわからなかったらしいぜ。
 ああ、言ってなかったかな? アイツが通る場所はさ、地面が恐ろしく凍り付くんだ。
 地面をしっかり踏んで進む馬だって滑って転ぶほどさ。当然荷車は転倒。荷物を大量にぶちまけて、商人も投げ出された。
 その後はどうなったかって。
 察しがつくだろう?

●貴族よりの討伐依頼
 明るい日差しと暖炉の炎。ここはギルド・ローレット。
 色鮮やかなピッツァを囲むようにして、プルー・ビビットカラーがグラスを置いた。
「――というのが、街道に現われるモンスターの情報よ。
 このモンスターの討伐依頼が貴族たちから合同であがっているの。
 道路を封鎖しても商人が近道をしたがって無理に通ってしまうから、モンスターのほうを討伐するしかないのよね。グレーでブルーな話だと思わない?」

 街道に留まる氷結の歌姫、仮に『グレイブルー』と名付けよう。
 グレイブルーは氷の船と女の上半身によって構成されるモンスターだ。
 これが生きている限り地面は常に凍結しつづけ、討伐にあたる者全てがスリップの危険に晒され続けるだろう。
 もし転倒したところに船から氷の砲撃を浴びせられれば……ひどいことになるのは想像にかたくない。
「依頼に集まったメンバーで力を合わせて戦ってね。
 手強いモンスターだけれど、倒せば人の命が救われ、経済は潤い、道ばたの子供がパンを食べられるようになるわ。
 だからってわけじゃないけれど……おねがいね?」

GMコメント

 ご機嫌いかがでしょうか、プレイヤーの皆様。
 この季節は冷えますね。地方によっては地面が凍り付いて、まともに歩くこともかなわないとか。車も常時徐行運転をこころがける始末です。
 さて、こちらのシナリオはそんなカチカチに凍った地面の上で、恐ろしいモンスターと戦うバトルシナリオとなっております。
 『氷の上なら任せろ!』と思ったプレイヤー様もいらっしゃるのでは? もしくは、凍った地面の上でキャラクターがどんな風に立ち回るか想像した方も、いらっしゃるのでは。

【シチュエーション】
・地面凍結:命中・回避-20のペナルティ
 魔法によって地面が常に凍り付いていきます。
 足場のすべる場所でうまく立ち回る技術や、そもそも無力化できる飛行技術があるととっても有利です。
 勿論それがなくても、工夫次第で足場ペナルティを軽減することができます。
 ぜひ、いろいろ考えたり話し合ったりしてみてください。

【エネミー】
 グレイブルー(仮称)
 氷の船から女の上半身がはえているというモンスターです。
 船には複数の砲台があり、砲撃によって攻撃します。

・通常砲撃(神秘/中距離/広域【氷結】):氷の爆弾による砲撃。爆発範囲が広く氷結の魔力をもつ。
・並列砲撃(神秘/近接/列【飛】):並んだ砲を露出させて近づく相手を打ち払います。
・レクイエム(神秘/至近/自【攻撃大アップ、回避ダウン】【HP3割時から使用】):最後の歌によって砲撃の勢いを増します。そのぶん回避能力が落ちます。いわゆる発狂モード。

【まとめ】
・滑る足場は対応次第でペナルティ軽減ができる
・発狂モードで攻撃アップ。回避も落ちるので殴り合いで押し切れ!

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』と書かれたお客様にはアドリブを多めに、逆に『アドリブなし』とお書きくださればアドリブ控えめで対応できますので、ぜひご活用くださいませ。

  • 凍れ凍れ、魂だけ残して、全て全て完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月25日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
アルバート・サン・ダームス(p3p000335)
従順な拷問神官
リナリア(p3p001041)
妖精の姫
レナ・フォルトゥス(p3p001242)
森羅万象爆裂魔人
祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
シュー・レウ・ラルトス(p3p002196)
リジア(p3p002864)
祈り
シルヴィア・C・クルテル(p3p003562)
ノーブルブラッドトリニティ

リプレイ

●氷の船
 いくら冬場といっても、ここまで冷え込むものだろうか。
 白い息を吐いて、リジア(p3p002864)はほうっとなにもない場所を見上げた。
「……寒い」
「寒いですねー! 私も寒いの得意じゃないですよぅ!」
 リジアのちょうど肩あたりの位置でふわふわと浮かぶ1フィート大の妖精さん。もとい『妖精の姫』リナリア(p3p001041)。
 どうにもこの辺りの冷え切った空気には慣れていないようだ。
 目を細めて遠くを見れば、ぼわぼわと白い煙をふいて飛ぶ氷の船がある。
 こちららにも気づいているようで、ゆっくりとだが接近してきていた。
「もんすたー……変な生き物だ。寒い……」
「ほんっと寒いですよねー! でも私、氷は好きですよ! キラキラしててひんやりで!」
「陸地に浮かぶ船なんて、おもしろいものもあるものですわね。あそこからは女性の上半身がはえているのでしょう?」
 深く息を吸う『ノーブルブラッドトリニティ』シルヴィア・C・クルテル(p3p003562)。
 彼女の背には蝙蝠を思わせる翼があり、マントのように身体を覆っていた。
 一方のリナリアには綺麗な昆虫のように菱形の羽がはえ、小刻みにぱたぱたとやっていた。
 ご覧の通り、と言っては変だが、彼女たちはみなこの世界の出身ではなかった。それぞれの価値観で、船を見ているのだ。
 同じくこの世界出身ではない『森羅万象爆裂魔人』レナ・フォルトゥス(p3p001242)。
「今までにも多くの魔物と相対したことはあったものの、こんな魔物、聞いたことなかったわよ」
「新しい土地には新しいモンスター、ということでしょうか」
 とはいえ、だ。
「相手が氷で固めてくると分かっていれば、こちらとしても、対処は簡単だと思うわね」
 レナは地面を踵でカツカツと踏んでみせた。
 情報屋からモンスターの行動パターンは聞いている。
 ある程度安全に、そして確実に倒すのだ。

 一方。
「はぁー。寒いのって苦手。暑いのも苦手だけど」
「シューもこんなに寒いのは……くしゅんっ!」
 『ちょーハンパない』アクア・サンシャイン(p3p000041)と『小さな戦士』シュー・レウ・ラルトス(p3p002196)は、暖かい格好をして固まっていた。
「これくらいなら動きづらくはないでしょ」
「シューは、このくらいでも大丈夫」
 アクアは手袋とコート。
 シューはもふもふした手袋にマフラー。さらにはコートといったぬくぬくした防寒装備だ。
 ちなみに固まっていると言ったが、『従順な拷問神官』アルバート・サン・ダームス(p3p000335)を囲うように固まっていた。
 お湯をほかほか状態のままで保持したアルバートが暖まりスポットと化している。だからというわけではないのだろうが、彼自身はそれほど厚着という風には見えなかった。
「さむくないの?」
「凍気耐性を持っているから、寒さには自信があるんだー」
「寒いときは……やっぱり熱燗よねぇ」
 『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363)がため息をついて言った。これがないとやる気が出ないといって持ってきた銀のボトルを開くと、中身をくぴくぴと飲み始める。
「あったまるわぁ。帰ったらちゃんと飲みたいわねぇ」
 吐く息は白く、ほわほわと登っていく。
 モンスター――仮称『グレイブルー』の歌声が聞こえるほどに、近づいてくる。
 彼女たちは武器を取り、戦闘に備えた。

●迎撃
「ともかくとして、うちまくるわよ。奇っ怪な魔物なんて、近づく必要ないですし」
 レナはしっかりと足場を整えると、魔術を放つ姿勢をとった。
 グレイブルーの接近を待つ形で構え、超遠距離からマギシュートを連射していく。
 相手が一体のみである以上、射程圏外からの砲撃はとっても有効だ。
 リジアも背に光の翼を出現させると、ふわりと宙に浮かんで破壊の魔術を発動させた。
 レナの魔術によりそうかたちで発射され、弧を描いて氷の船体へぶつかっていく。
 船体からはえる女の歌が、どこか悲しげに歪んだ気がした。
 目を細めるリジア。
「お前の名を私は知らない。何を想って唄うのか、不明だ……」
 ちらり、とレナがリジアの横顔を見た。リジアが構わずに続ける。
「だが、その凍結が停滞しか生まないのならば、時を刻む為……私はお前を破壊する」
 以下同文、とでも言うようにレナは魔術に集中し始めた。

 グレイブルーを簡単に逃がさぬよう、扇状に囲むように展開していく。
 駆け足でよい位置へと移ったシルヴィアは、踵で氷上を滑りながら標的との距離を目測。
「ごきげんよう、グレイブルー様。そしてさようなら」
 やや手前に陣取ったアルバートの頭上を飛び越えるような形で、シルヴィアは魔術詠唱を始めた。
 ぶわり、ぶわりと彼女の周囲を渦巻いていく魔術の炎。それらが螺旋を描いて吹き上がり、手を翳すシルヴィアの動きに応じたように勢いよく発射された。
 弧を描いて飛び、グレイブルーの船体へと着弾していく。
「俺は攻撃に徹するよ。まずは遠術だね」
 それに続くようにアルバートも遠術での攻撃を開始した。
 次々と打ち込まれる彼らの砲撃。
 手のひらを翳して観察していたリナリアは、どこか悲しげに振る舞うグレイブルーに目をきゅっと細める。
「結構効いてるみたいですね。この調子でちゃっちゃと成敗しちゃいましょう!」
 背負っていた専用の長弓を取り出すと、竹串のような矢をつがえた。
 羽根をぴんとはって姿勢制御。
 よーくねらって、弓を引き、満を持して放つ。
 まるでライフル弾のように回転しながら飛ぶ矢がグレイブルー人間部の肩へと着弾。がくんとのけぞるように傾いた。
 着弾を確認し、ヒュウと息を吐く。
「やっぱり、狙いやすいです」

 勿論、遠くから砲撃しているだけでは接近されてしまう。
 しっかりと足を止めて撃ち続けられるようにするには、相手を足止めする前衛チームが必要だった。
「さ、いきましょ!」
 アクアが始まりの赤で能力を上げつつ焔式による火炎攻撃を開始した。
 砲撃をくらったグレイブルーの船体が一部燃え上がり、すぐにぱっと煙になっていく。
 攻撃を嫌がってか、グレイブルーは船体から複数の砲を露出。
 一斉に砲撃を始めた。
 それを防御するアクア。入れ替わるように琴音とシューが飛び込んでいく。
 大地を斧で削るようにして走り、琴音はグイレイブルーの船体めがけて突撃した。
 接触直前に斧をふりこみ、叩き付ける琴音。
 わずかに作った傷に追い打ちをかけるかのように、シューが槍による突撃を繰り出した。
 それぞれの攻撃が船体をかすめていく。今はそれでもいい。目的はグレイブルーのマークだ。
 反撃のためにと砲を突き出し、氷の砲撃を始めるグレイブルー。
 琴音は斧の柄を翳すと、飛来する砲弾を斜めにはじいた。
「重いわねぇ」
「けど知ってるよ。攻撃し続ければ倒れない獣はいないって!」
 シューは美しく磨いた石槍をくるくると回すとグレイブルーめがけて跳躍。
 相手を串刺しにせんばかりに、槍を大きく振り上げた。

●氷の足場
 グレイブルーとの戦いはなかなかに苦労を強いられた。
 魔法によって凍り付く足場は攻撃の踏ん張りや戦闘時の 足運びを阻害するからだ。
「こうなったら、少しでもとっかかりを作るしかないわねぇ」
 琴音は斧で足場を粉砕し、そこに踵を突っ込む形で体勢を強制的に維持させる琴音。
 並列砲撃による吹き飛ばしには弱いものの、立ち止まった相手に攻撃を当てる点においてはむしろ適している。なかなかできない、思い切った作戦だ。
 シューはそれをまねるようにこっくりと頷くと、槍を突き立てて無理に姿勢を固定させた。
 でもって、グレイブルーからの砲撃をキックでもってはねのける。
「うぅ、足がつめたいよ。帰ったら温泉はいるの……!」
「いいわねぇ」
 琴音は暖かい湯に浮かぶ木桶を想像した。勿論中にはとっくりが乗っている。
 そうと決まれば、と琴音は斧を握りしめ、グレイブルーへの攻撃を再開した。

 遠術で攻撃を続けるアルバート。
 扇状の陣形は更に広がり、グレイブルーを両サイドから囲むような陣形に変わっていた。
 できるだけ走り回らないようにした結果こんな風になったようだ。
 たまに中距離から通常砲撃をしようと下がるグレイブルーの前後移動に対応した形といってもいい。
 しかしアルバートも、足場の氷にはやっぱり困っている様子だ。
「これ、どうにかなんないかな」
「そうね」
 足下を見やるシルヴィア。
 例えばお湯を撒いたりしてもすぐに凍り付いてしまいそうな冷えっぷりだ。
 となれば……。シルヴィアはお湯を落として一時的に溶かした地面に、レイピアをざっくりと突き刺し手すりとした。
「氷の上がどれほど滑りやすかろうと、止まってしまえば狙いを付ける分には問題ありませんわね?」
 レイピアを軸にして狙いをつけ直し、グレイブルーへとマギシュート砲撃を再開する。
「相手の動きを見て、色々と判断させてもらうわ。まだまだってところね」
 その一方、グレイブルーの前後移動に対応していたレナも側面からの砲撃を継続していた。
 二四指をピッと立てると、炎の魔術を詠唱。指先にぶわりと炎の球体ができあがった。レナ旧来の力からはとても見劣りするが、この世界で今現在引き出せるレベルにしては充分な力だ。
「さて、これからよ」
 ボールを放つように、ビッと指で空をきる。放たれた炎の弾がグレイブルーへと襲いかかった。
 畳みかけどきだ。
 リジアが破壊の魔術を練り始める。
 光の翼でわずかに宙へ浮き、姿勢をしっかりと整えると、壊しすぎないように、しかし充分な破壊になるように、魔力を鋭い槍のように発射させる。
 レナの魔術とあわさり、グレイブルーの片腕を破壊していく。
「いい具合です! 私たち、飛んでいるから氷の足場とか関係ないですもんねっ!」
 もうじき相手も追い詰められる頃だ。そう察したリナリアは距離を詰める準備をしつつ弓矢による精密な連射をしかけた。
 横向きに空中ダッシュをかけながら、次々に弓に矢をつがえて放ちまくる。
 人体部位にさくさくと刺さっていく矢が、グレイブルーにぴきぴきとヒビをいれていった。
 今だ、と思ったのだろう。
「魂だけ残してすべて凍れ、ね」
 砲撃によって吹き飛ばされたアクアは、再びグレイブルーへと駆け寄った。
「あれは、物質しか凍らない事を知っている。私たちの魂は凍らない。胸の熱をどうにもできない。こんなこと言うの、柄じゃないんだけれど……思い知らせてあげるわ」
 杖をしっかりと握り、焔式による火炎攻撃を叩き込んでいく。
「私たちが、イレギュラーズなんて仰々しい呼ばれ方をしている意味を。誰にとってのイレギュラーなのかを!」
 ヒビのはいったグレイブルーが、ついに崩壊を始めた。
 ばきばきと音をたて、船体が崩れ小さな氷塊のやまとなっていく。
 残されたのは女性の上半身をかたどった氷だけだ。
 それは、グレイブルーは、鎮魂の歌を歌い始めた。
 白い煙をまるで蛇のように長く長く胴から伸ばしながら。

●歌
 身体から無数にはえた砲身が、狂ったように氷の砲弾を発射していく。
 攻撃を集中的に引き受けていたアクアやシュー、琴音たちは早速猛攻に晒されることになった。
 遠術による攻撃を続けていたアルバートはその勢いに目を見張った。
「三人は大丈夫かな。回復は自分でできる筈だけど」
「今はきっと、『やられるまえにやる』って感じですよっ!」
 リナリアはぺろりと上唇を舐めると、小さな花のような矢を取り出した。
 それを弓につがえ、荒れ狂うグレイブルーへ狙いを定める。
「それってなあに?」
「とっておきですよ!」
 よおく狙って放つ。ただそれだけの動作に見えたが、起きた現象は簡単ではない。くるくると回る花が不思議な軌道を描き、吸い込まれるようにグレイブルーの胸へと突き刺さった。
 大きくヒビの広がるグレイブルー。
「これが終わったら、ローレットに戻って暖炉に当たりましょ。あと、温かいものが飲みたいわ」
 アクアはそんなふうに言うと、追い打ちのように焔式による攻撃を打ち込んでいった。
 彼女たちの猛攻によって勢いをうしなうグレイブルー。
 浮遊していた身体が徐々に高度をうしなっていく。
「さえて、そろそろシメにはいるわねぇ」
 どこからか空瓶を取り出した琴音が、くるんと投げて瓶の飲み口部を握りしめた。
「ん――んっ?」
 シューが純粋100%の顔で二度見した。
「たたみかけるわよぉ」
「う、うん!」
 シューは気を取り直して槍を投擲。
 グレイブルーの腹にざっくりと突き立てると引き寄せるように跳躍。ボディを蹴りつけた。
 更に、おもむろに酒瓶を振り上げた琴音がグレイブルーの頭部にぶん投げる。
 ガラスが砕け散り、あまりの乱暴さにグレイブルーが防御を忘れた。
「終わりだ……崩壊する時が、来たんだ……」
 リジアは全てを悟ったように呟いた。
 距離を急速に詰め、集中させた破壊の魔力を暴力的なほどに叩き付けた。
 しかしなぜだか、優しく弔うような力だった。
 ぼろぼろと崩れ始めるグレイブルー。
 まだ終わるわけにはいかないとばかりに腕を砲身にして突き出すが……。
「ここが、クライマックス、あたし達が終わらせてあげるよ!」
 レナとシルヴィアもそれぞれ距離をつめにかかる。
 中距離位置でブレーキをかけつつ、両手を突き出した大きな火炎の魔弾を放射するレナ。
 その一方でシルヴィアは翼を大きく広げ、青い炎を剣のように形成。握り込んだ。
「ほんとうにさようなら、ですわね」
 ばすん、と切り払う。
 腕どころか胴体もろとも切断されたグレイブルーは、何かを囁いてから砕け散った。
 パウダースノーのように細かい氷となって散るグレイブルー。
 それ以上何も言わず、シルヴィアは目を瞑った。

 ――こうして、街道を塞いでいたモンスターは退治された。
 もう商人が襲われることも、悲しげな歌が聞こえることもないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
 きっと寒いおもいをなさったことでしょう。暖かいお飲み物で、身体を癒やしてくださいませ。

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