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シナリオ詳細

子供たちのための遊園地☆にゃんだ~ランド

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今日の『砂嵐』の天気は晴天です
 乾いた風が頬を撫でた。砂混じりのその風が嫌いな人は多いかも知れないけれど、イヅナはそれが嫌いではない。
 鐘のある高い建物に登って窓枠に座り、外に出した健康的な足をブラブラしながら街を見下ろすのも好きだ。人々の営みを見下ろしながら甘味を口にし、今日は何をしようかなぁなんて考えるのは日課に近い。
「あ」
 そこにポンと、通知を報せる音が聞こえた。自分にしか聞こえない、メール音。『生まれた』時からあるものだから、不思議にさえ思わない。『そういうもの』だ。
「誰ッスかね……あ、ザミエラだ」
 メールの差出人の名前を見て笑みを浮かべたイヅナは、なになに~と本文を読んだ。

 >>To.イヅナ
  ハロー、イヅナ。元気にしている?
  楽しそうな遊園地のチラシを貰ったから、今日はそのお誘い!
  イヅナは遊園地には行ったことはある?
  色んなアトラクションと甘いお菓子とかがあるんだよ。
  ね、イヅナ。一緒にどうかな?
  他の子たちも誘って、皆で楽しもうよ!
                    >>From.ザミエラ(p3x000787)

「遊園地にお菓子……。アッシは子供じゃないんスけど? アッシが行かないとザミエラがひとりで行くかも知れないし? それは友達としてどうかと思うッスよね」
 仕方ないなぁなんて口にしながらも、イヅナは『行くッス!』と秒で返信していた。

●ようこそ! にゃんだ~ランドへ!
 軽やかなメロディと、ピカピカ光る電飾はポップに。
 キャアキャアと楽しい声の響くアトラクション。
 カラフルな猫の尻尾チュロス。
 ここでしか買えないパケットに入ったポップコーン。
 笑顔と希望、楽しいひとときをあなたに。
 ここは童心に帰れる遊園地、にゃんだ~ランド。

 そんな言葉の並ぶパンフレットを読みながら、『にゃんだ~ランド』の前でイレギュラーズたちは待ち合わせをした。
 全員揃えば「楽しそうだね」「マスコットはにゃんだ~くんって言うんだ」等と話しながらゆるやかにエントランスへと向かう。どんなにワクワクしたって、人の多いところでは走らない、がルールだ。
「ザミエラ、アッシ、その……お揃いの耳、とか? つけたいんスけど」
「わ~、いいね。つけちゃお、つけちゃお」
「ほんとッスか!」
 パンフレットにあったグッズ紹介が、これまた可愛いのだ。購買欲を上手に刺激してくるそれらは色も形状もたくさんで、けれどもひとつ着ければ『お揃い感』がある。
 何処のお店で売っているのかな、ワゴンかな。専門店の方が種類が多い? なんて皆で話し合いながら、イレギュラーズwithイヅナは入場ゲートを潜った。

「え?」

 その瞬間、イヅナの呆気にとられたような声が響く。
「え? ど、どうしたんスか、みんな……」
 イヅナだけだ。他の皆からは返らなかった。
 びっくりしているのかもしれない。
「突然小さくなるなんて……」
 そう。イヅナの隣りにいたはずのザミエラも、他のイレギュラーズたちも、皆小さく――幼子のような姿になってしまったのだ。
 きょとんとしたやっつの顔が、イヅナを見上げてくる。
「あれ~? どうして君は大きいままなのにゃ~?」
 見知らぬ声が響いた瞬間、イヅナは早かった。
 素早く腰の後ろに手を回してダガーを抜き取りながら地を蹴り、気の抜けた喋り方をした相手の後方に一瞬で回り込んで喉元にダガーを添えた。
「アンタのせいッスか? アンタ、誰っスか?」
「待って待って、ぼくはあやしいねこじゃないにゃ~」
「充分怪しいッス」
「見ての通りぼくはマスコットのにゃんだ~くんだにゃ」
「で?」
「ぼくが何かしたんじゃなくて、にゃんだ~ランドの仕様なのにゃ」
 白猫の王子様のような姿をしている、『にゃんだ~くん』。彼の説明曰く、にゃんだ~ランドでは大人も異形も全て『こども』になってしまうらしい。『幼児化』というステータスが付与されるのだ。
「なのに君は大きいままだから、ぼくはそっちのほうが気になるにゃ~」
「……アッシがバグってるせいッスかねぇ」
 ひとまず危害を加える存在じゃないと解ったイヅナはダガーを引くが、それで? とにゃんだ~くんをひと睨み。
「皆はどうすれば治るんスか?」
「にゃんだ~ランドを愉しめばいいだけにゃ~」
 はいこれ、と手渡されるスタンプカード。
「いつつ以上の乗り物に乗ってスタンプを押してもらって、ランドからでればいいのにゃ~」
 それだけで大丈夫だし、皆そうやって帰っていっている。危なくない安全な遊園地なのだとにゃんだ~くんが主張する。
 なんとも言えぬ表情で睥睨したイヅナは、チラリと子供たちを見下ろした。
 キラキラの瞳たちが、早くアトラクションに乗りたいと訴えている。
 イヅナは大きくため息をつき、解ったッスと子供たちの手を取るのだった。

 ここはにゃんだ~ランド。
 童心に帰れる、夢と希望と魔法の遊園地。

GMコメント

 良い子のみんな、こーんにーちはー! 遊園地キャストの壱花だよ!
 今日はねぇ、皆で遊園地に行くんだってね。
 イヅナお姉ちゃんが一緒に遊んでくれるから楽しんできてね!

 これは「良い子のためのしおり」と遊園地MAPだよ。
 難しい漢字が読めない子は、後ろにいるお兄さんお姉さんに読んでもらってね!

●シナリオについて
 た、大変だー皆がちびっこになってしまったぁーーーーー(迫真の演技)
 という訳で、皆は小さくなってしまったよ。兎さんは子兎に、ドラゴンさんは仔ドラゴンさんに、どんな種族でどんなアバターだろうと皆『小さく』――人間で言うと4~6歳くらいかな? になってしまったんだよ。大変だぁ。
 基本的には思考も子供になってしまっているよ。でもすっごく何かよくわからないご都合耐久値が高くて、くっ子供になってたまるかぁ! みたいに耐えて、体は子供頭脳は大人! な状態でも大丈夫だよ。

 そうそう、このシナリオは『現実の時間』とは違うよ。
 皆が楽しく遊べる時間軸の『とある日』の出来事になるから、何だかちょっぴりお外が大変そうでも、ここでは皆で楽しく元気に遊ぼうね!

●アトラクション
 メインアトラクションの紹介だよ。
 他にもあるけれど、欲張っちゃうとイヅナお姉ちゃんが大変だよ~。

・にゃんだ~ジェットコースター
 風になったり一回転したり落下する乗り物だよ。
 身長制限は大丈夫。拘束のBS……魔法のベルトが着くからね☆ミ

・お化け屋敷『猫の怪』
 ヒイズル風お化け屋敷。
 化け猫が怖い顔で屋根に覆い被さっている建物だよ。

・キャットミラー
 少し暗いミラーハウスだけれど、何故だか皆の目が魔法の力を帯びるよ。
 薄っすら光って、少しの灯りでも見えるみたい。

・にゃんだ~カップ
 お耳のついたカップの持ち手は猫のしっぽ。
 くるくる回るカップは3人乗り。
 回し過ぎたら猫だって目を回しちゃう! 気をつけてね!

・さすらいのガンにゃん
 ガンコントローラーのついた乗り物に乗って、的を撃つアトラクションだよ。
 的に向かって引き金を引いて命中すると、ピカピカ光るよ。
 誰の点数が一番高くなるのかな?

●ショップ
 猫耳や猫耳付き帽子、つけ尻尾、Tシャツ、手袋……とかが売っているショップがあるよ。外すのを忘れて帰ってしまう人もたまにいるよね。
 売店やワゴンでは、色んなフレーバーのチュロスやポップコーン、アイスクリーム等のお菓子が売っているよ。

●プレイングについて
 普段と喋り方や呼び方等違う場合、口調でプレイングを書いてくれると嬉しいなぁ。
 全部平仮名にしたいけど文字数が……な子は、プレイング一行目に『★』を置いておいてね。お星さまの名札が着いている子は皆平仮名なんだなって、おしゃべりも平仮名になるよ~。

●イヅナお姉ちゃん
 パラディーゾのお姉ちゃんだよ。
 「アッシ、子供の相手はしたことないッス~」ってアワアワしていたよ。
 腕は二本しかないから、皆があっちこっち行っちゃったら困っちゃうよ。皆で一緒に行動しようね!


 それでは、帰り道にお会いしましょうね。
 ばいばーい、いってらっしゃ~い!

  • 子供たちのための遊園地☆にゃんだ~ランド完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ザミエラ(p3x000787)
おそろいねこちゃん
吹雪(p3x004727)
氷神
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
シュネー(p3x007199)
雪の花
焔迅(p3x007500)
ころころわんこ
ひめにゃこ(p3x008456)
勧善懲悪超絶美少女姫天使
アマト(p3x009185)
うさぎははねる
ルージュ(p3x009532)
絶対妹黙示録

リプレイ

●ゆうえんち!
(くっ、どうなっているの?)
 頭上で交わされるイヅナとにゃんだ~くんのやり取りを頭の片隅に捉えながら、『氷神』吹雪(p3x004727)は信じられないものを見るように己の手を見ていた。
 小さな手は、まるで子供のようだ。
 否、子供なのだろう。一緒に来ていた仲間――2mもあった『前足スタンプ』焔迅(p3x007500)でさえ、ふわふわころころのまふまふわんこになっているのだから。
(かわいー、なでた……はっ、今、何を……!)
 思考力も落ちつつあることに気付いた吹雪はぐっと堪らえようとする、が――。
「わぁいゆうえんち~!」
「イヅナおねえちゃんとみんなと、アマトは、たくさんあそびたい、です!」
「ねぇ、はやくあそぼーよー!」
 小さくなった仲間たちの声を聞けば、吹雪から溢れたのはそんな声だった。
 キラキラの瞳で見上げれば、イヅナが「うっ」と息を飲む。すかさず『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)が「いこ!」と手を握って、『うさぎははねる』アマト(p3x009185)がそわそわとはにかみながらも服の裾を握れば、イヅナが陥落した。
「おっきいおと……きこえる……」
『アルコ空団“輝翼”』九重ツルギ(p3x007105)は、白い猫のぬいぐるみを不安そうにぎゅっと抱える。何故だかペンギンの着ぐるみ姿で来ていたツルギだったが、縮むと同時にペンギンの着ぐるみパジャマへとなっていたため動くのに不都合はない。けれど小さなツルギには、遊園地は色と音もたくさんで、ぐるぐると目が回りそうだったのだ。
 そこに、そっと小さな手が差し出された。手をたどれば見える水色――アマトが繋ごうって手を差し出してくれていた。
 以前一緒に遊園地へ行った時の記憶が朧気に蘇る。あの時とは少し違って、でも同じ人が居てくれる。不安が薄れ、差し出された手に手を重ね、笑い合う。
 今日はみんなで、沢山、楽しいことをしようね。

(……え?)
 早く早くと子供たちに押されたり引っ張られたりしながらイヅナが動き出し、子供たちも楽しげに歩き始める。その子供たちの背中を見た『雪の花』シュネー(p3x007199)は、思わずポカンと口を開けていた。
(皆さん、本当に子供なのですか!?)
 精神年齢が下がっているのか、フリなのかは解らない。けれどイヅナの腕にくっついたり、キャッキャとはしゃいだ声を上げたり、楽しげに弾むように歩いたり、尻尾をブンブンと振っている彼等が――フリのようには思えない。
(フリでも恥ずかしくないですか!?)
 けれど、仕方がない。郷に入っては郷に従うという言葉もある。
 ――やってやるしかないでしょう、『子供のフリ』を!!
「みんなー、まってー!」

「ごーってしてぐるぐるしてる……」
「みんなどれでいちばんあそんでみたい?」
「おれな、おれな、ぜんぶのばしょをまわってみたいんだ!!」
「ぜんぶまわりましょうぜんぶ!!」
 両手を大きく広げて『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)が全部! と示せば、『勧善懲悪超絶美少女姫天使』ひめにゃこ(p3x008456)も元気にびょんぴょこ飛んで賛成する。
「……全部は無理じゃないッスか? 皆小さいし……」
「だいじょうぶ! がんばれるから! やだやだぜんぶ回るのー!!」
 イヅナの空いている手を掴んだひめにゃこがブンブンと振る。
 いやぁでもぉとイヅナが案じるのは、勿論自分の精神面だったり体力だ。
「あ、あのおみせでねこちゃんのおみみとしっぽもらお!」
「あああ、ちょっと待っ……」
 イヅナの反対側の手を引っ張ってザミエラが駆け出した。自然とひめにゃこを連れたまま装飾品を売っているワゴンまで駆けることとなったイヅナは、途中で後ろを振り向くことを忘れない。ツルギの手を引いてぴょんぴょん跳ねるようにアマトは着いてきているし、シュネーも吹雪も「ねこちゃんになるー!」と着いてきているし、短い足を一生懸命動かしている焔迅を「おれはおねーちゃんだから!」と両手で抱えたルージュも着いてきてくれている。
「おれ、これきたい」
 ルージュが選んだのは猫耳フード付きパーカーだ。購入して着替えボタンを押せば一瞬で姿が変わるのは、ゲーム世界ならではだろう。
「パーカー、尻尾もついてて可愛いッスね」
「だろ? へへー」
「わ~! おみみとしっぽつけたイヅナおねえちゃんすっごくかわいいよ!」
「ザミエラ仔猫も可愛いッスよ」
 少し予定は狂ったものの、お揃いは最初からするつもりでいた。
「焔迅も猫耳つけるんスか? じゃあはい、こうして……ああ、ツルギもペンギンの頭の上につけれるッスね」
「ひめも見てください! どうです、フル装備ですよ!」
「着けないのも買うんスか? いや、似合ってるッスけど」
「にゃーにゃー! アマトも、にあいます、か?」
 いつもは兎のアマトも今日は猫。にゃんこの手をして見せれば、よしよしと頭を撫でられた。皆違って、皆可愛い。
「あっ、ポップコーンのおみせ!」
「シュネー! 待つッス!」
「こっちにはチュロスがうってるよー! ねぇ、みんなでべつのあじをかってちょっとずつこうかんしよ!」
「ひめ、アイスたべたいですー!」
 入口付近から全然進んでいないのに、既にイヅナが肩で息をしだしている。
 そんなイヅナをチラッと見上げたルージュは、少し考える。
 今日は皆小さくて、皆はルージュの弟妹だ。何故ならルージュは皆よりちょっと大きい、皆の中では年長さんのお姉ちゃんなのだから!
 一番大きいイヅナが大変そうなら、二番目にお姉ちゃんな自分が頑張るのは当たり前! 皆のお手本になれば、皆にはお姉ちゃんすごいって思われて、イヅナお姉ちゃんにも偉いって褒めてもらえるんだ。かしこい!
「みんな、おやつはあとでたべよう! まずはのりものだ。のりもののって、きゅうけいにおやつをたべたほうがきっとおいしいんだぞ!」
 まずはあれに乗ろう! と指差すのはぐるーんごごごーなジェットコースター。白猫っぽい乗り物だけれど、早くてとっても格好良い。
 皆のお手本となるべく良い子に列に並べば、顔を見合わせた他の子たちもルージュに倣って良い子に並び始めた。
「皆、ちょっとそこに並んでいるんスよ? アッシ、ポップコーン買って来るっすから!」
「「はーーーい!」」
 元気な声が揃うのを聞いて、イヅナは素早く園内のポップコーン屋を全て回っていく。様々な形のバケットがあることはパンフレットに乗っていたし、蓋もついたバケットがあれば並んでる最中でも食べられるのだ。
 どのバケットがいいかでまた一悶着あったが、子供たちはそれぞれ形や味の違うポップコーンバケットを首から下げ、待ち時間もへっちゃらとニコニコ楽しげに並んでいた。

 どうしてジェットコースターって、一番高いところへ上っていく時間が長いのだろう。
「あっまってやっぱりたかくてこわい」
「ふふーん。こんなのよゆうですよー!」
 ぴたりと天辺でコースターが止まる。
「えっもうおちる? おちるの? まだおちな――あっまってまってまってあああーーーー!!!!!!」
「ぎゃああうわあああー!! ああぁぁあー!!!」
「びゅーん! ぎゅーん! たのしいです!」
「びゅーんってなるのたのしー!」
 悲鳴と歓声を載せてコースターはぐんぐんと駆け、風になった。

「たのしかったです!」
 大きさ的に乗れるか心配していた焔迅はジェットコースターからピョンと降り、尻尾をフリフリうきうきルンルン歩いていく。その後ろからよろよろと降りたシュネーの膝は笑っている。生まれたての子鹿のようにプルプルとしているシュネーに気付いたイヅナが「大丈夫ッスか?」と手を貸した。
「かぜになったみたいでした!」
「もう1かいのろー!」
 アマトと吹雪は楽しげに、キャッキャと跳ねている。他のも乗って時間があったらにしようとイヅナが提案すれば、笑顔で大きく頷いていた。良い子だ。
「ハァハァ……よゆうでした……でもつかれちゃったからイヅナちゃんおんぶしてー! べつにこわかったとかじゃないですー! いいからはやくー! ひめだぞ! ないちゃうぞ! おぎゃー!!」
「あー……はいはいッス」
 ひめにゃこをおんぶし、まだプルプルとしているシュネーの手を引き、イヅナたちはジェットコースターを後にした。

 次に向かうのはキャットミラー。ミラーハウスだ。
 鏡だらけのそこは、入れば自分が何人もいるような、不思議な空間だった。
「うーん……」
 薄暗い空間だが、ぼんやりと魔法を帯びた目が光り、姿は見える。
 けれどもちょっと歩けばゴツンと焔迅は鏡に当たってしまう。
 そうしている間にも皆の姿が遠ざかってしまって、あっあっと焦ってしまう。
「あれれ? アマトはどっちからきた、です?」
 それは他の子も一緒のようだ。
 自分ばかりの姿が映った鏡の前で、アマトの瞳にじわりと涙が盛り上がる。自分だけよりも、皆がいっしょの方がいい。一緒に並んで、いっぱいだねって笑いあった方がきっと楽しい。
「ふぇえ……」
「アマトみっけ。おれといこう!」
「焔迅も見つけたッスよ! 皆で手を繋ぐといいッスよ!」
 わんこな焔迅はイヅナが抱え上げ、皆で手を繋いで脱出した。

「イヅナおねえちゃん、つかれてない? だいじょうぶ?」
「ん、まだ平気ッス」
 白猫のぬいぐるみをギュッとしたツルギが、疲れたらいつでもソファーを出してあげるねと言ってくれる。
「おれもみんなのことみてるから、きゅうけいしててもいいぞ」
 何かに夢中になっている時はワーッと遊んでいる子供たちだけれど、時折イヅナのことを気遣ってくれる。何だかちょっとじんわりと胸に広がるものを感じて、イヅナは頑張ろうと気合をいれた。
「カップは三人くらいずつ乗るのがいいッスかねぇ」
 いっぱい回したい子同士で乗った方が良い。
 ちらりと見た子供たちは皆目をランランと輝かせていて、あっ、これは全員回しそう……と思ったイヅナはアマトとツルギと一緒に乗ることにした。
「あはは、ぐるぐるまわる~! もっともーっとはやくしよ!」
「もっとぐるぐるってまわしちゃおー! それー!」
「あはは!せかいがちょうまわってるー!! あはは!」
「ひゅー! ぐるぐるしてます! どんどんまわしましょう!」
 イヅナたちのカップ以外が盛大に回っている。
 小さな焔迅が飛んでいかないかとハラハラするが、一緒に乗ったルージュが助けてあげているようだった。
「……うぇぷ……うぅ……」
「うぅ、めがまわっちゃったよぉ」
「……せかいがぐるぐる……」
 後先考えないのは子供の特権だけれど、ちょっと……いや、かなり回しすぎた。
「アッシは飲み物を買ってくるから、他にお手伝いしてくれる人ー?」
「はい! おれ、てつだえる!」
「アマトも、いきます!」
「ぼくもにもつをもつおてつだいするよ」
 焔迅に目を回している皆を見ていて告げ、目を回していない子たちは冷たいジュースを買いに行った。

 一息ついたらまた、さっきまでのことをすっかりと忘れて遊びに出発だ。
「……本当に大丈夫ッスか?」
「い、いけるよ。だいじょう、ぶ」
「わ、わたしはこわいものなんてないからへいきだけどね!」
 ヒイズルが好きだというツルギが行きたいと告げたお化け屋敷は、入り口に立つだけでおどろおどろしい。建物の中からは冷たい空気が流れてきているし、時折キャーッと声が聞こえてくる。イヅナにはそれがBGMだと解るが、小さな子供たちへの効果は覿面だ。
「イヅナおねえちゃん、てぇにぎって! は、はなさないでね!」
「いづなおねーちゃん、わたしも!」
 イヅナの両手は、素直なシュネーと吹雪のもの。
「だいじょうぶですよいけますよだいじょうぶいけるいける」
 焔迅は平気なのだろう。大丈夫と繰り返し、声も明るい。
 けれどぴったりとイヅナにくっついているのは気の所為だろうか……?
「ぼ、ぼくもようかいのきぶんになっているのです! ようかいすねこすりですよろしくおねがいします!」
 イヅナの視線に大慌てで返した言葉は、焔迅自身が後から考えてもよくわからない言葉であった。
 子供たちはおばけに対抗するためにぴったりとくっつきあって進んでいく。
「おばけなんてつくりものだってしってるんだからな!!」
 虚勢を張って。
「けーさつだ、おっ……おどかしたらたいほしちゃうぞー!」
 特務高等警察手帳を見せて。
 けれどもおばけは、怯んでくれない。
 ひゅーっと時折どこからか風の音が聞こえ、ひんやりとした手のような何かが頬を撫でていけば、皆を勇気づけようと頑張っていたルージュだってちょっぴり泣きそうになってしまう。
「こわくなんかないぞ!! だからないたりしないんだからな!!」
 強い子だから泣かない、けど!

「う、ひ、ひっぐ、ぐすん、こわくなんて、なかったもん……」
「はーい、アイスッスよ~。食べたい子ー?」
「あいすたべる……」
「おばけなんてたいしたことなかったね!」
 怖い建物から出て甘いものを口にすれば、心も柔らかく溶けていく。
「つぎはね、じゅうのやつやりたいな」
「バンバンするの!」
『さすらいのガンにゃん』は、西部劇をイメージした建物内の乗り物に乗り、ペアやソロで射的を楽しむアトラクションだ。
「ぼくものれるでしょうか?」
「焔迅はアッシのアシスタントはどうッスか?」
「まとをみつめるかかりですね! まかせてください!」
「ぼくはまほうしょうじょにへんしんしてじゅっきゅんばっきゅんやっちゃうよ!」
「ひめよりプリンセスっぽくないですか!?」
 動く乗り物に乗ってガンコントローラーを握れば、もう夢中!
 一生懸命的に向かって打っていれば、おばけの怖さなんてどこかへ行ってしまった。

「ふう、何とか周りきったッスよ」
 ツルギのソファーのお世話にもならずに済んだイヅナは、大きく息を吐いた。
 あれからもう一度ジェットコースターにも乗ったし、他のも乗る! とはしゃぐ子供たちの後についてひたすら園内を歩き回った。途中の人混みで焔迅を見失って焦ったけれど、ちゃんと皆を見つけてパタパタと飛んできた時にはとてもホッとした。けれどやっぱり彼は大きい姿が恰好良いので、背に乗れない小ささは何だか少し寂しさを感じたりなんかした。
 パラソルのついたテーブルセットに座って眺める視線の先にいるのは、色とりどりのチュロスを手にする子供たち。どれが一番美味しいかを決めるべく、皆で一口ずつ食べ合って、意見を述べあっている。
「ぼくはぜんぶおいしかったです!」
「アマトは、ちょこのすき、です」
 皆が一番『おいしい』の顔をしていたから。常に何かを食べていた焔迅も、うんうんと大きく頷いて同意を示す。いちご味もハチミツ味も美味しかったけれど、やっぱりチョコが強い!

 甘いものを食べ終えたら、帰る時間。
 ちゃっかり隣に来て手を繋いだザミエラと並んで歩き、満足そうな子供たちの顔を見れば少しだけ疲れもとれるよう。
 しかし――、帰るのを嫌がる子だっている。
「うえー、もう帰るじかんなのー!? いやだー! まだまわるー! まわ……」
 ぐー。
 イヅナの腕を引っ張って駄々をこねたひめにゃこの活動スイッチが唐突にオフになった。イヅナはザミエラにちょっとごめんッスと断ってから、よいしょとひめにゃこを抱き上げる。
 夜の魔法に灯るようなキラキラの照明の下を、皆で出入り口に向かって歩く。楽しかったアトラクションに背を向けるのは何だか少し寂しいけれど、子供たちの意識の殆どは手元の甘味に向いていた。
「あ! にゃんだ~くんだ!」
「にゃんだ~くーん!!」
 エントランスに立っていたにゃんだ~くんにザミエラが気がついた。すぐに駆け出したザミエラの後を、今日はしっかりとお姉さんをしていたルージュも追い、にゃんだ~くんへとワッと飛びついた。
「やあみんな、楽しめたかにゃ?」
 毎日子供たちの相手をしているにゃんだ~くんは慣れたもの。弾丸のように飛び込まれたってへっちゃらで、飛びついてきたルージュを受け止め、くるくるくる。しっかり回ってからお姫様のようにそっと降ろしてくれる。
「たのしかったよ、にゃんだ~くん!」
「カップがグルグルでね、コースターはゴーってかんじだったの!」
 元気に駆け寄った子供たちは今日の楽しかったことを口々に報告して。
「にゃんだ~くん! しゃしんとろう?」
「アマトもにゃんだ~くんとおしゃしんとる、です!」
「イヅナおねえちゃんも! はやく~!」
「はいはいッス」
 足元をポテポテ歩いている焔迅を抱え上げ、眠るひめにゃこと共にイヅナも子供たちの後を追った。
「はい、にゃんだ~!」
 にゃんだ~くんの掛け声で撮られた写真に写るみんなは――寝ているひめにゃこ以外――満面の笑顔。『子供のフリ』をしていたシュネーも、いつの間にかフリをするのを忘れて全力で楽しんでしまっていた。
 遊園地の特別仕様の写真を宝物みたいに抱きしめて、にゃんだ~くんへ今日はありがとうと大きく手を振って、ちょっと寂しいね、でもまた会えるよなんてお別れを。
「ゆうえんちたのしかったね! またいっしょにこようね!」
「ふふ……ってもたのしかったね。イヅナおねえちゃんもみんなも、あそんでくれてありがとう!」
 ニコニコ笑いあって『次』を約束しあったりしながら、皆揃ってゲートを潜った。
 今日は楽しかったね。
 また来ようね。
 楽しい気持ちは風船みたいにふわふわと浮かんで、えいっと出した足は元気よく外へと飛び出して――

「はっ!」
「あれ?」
「えっ!?」

 午前0時にサンドリヨンの魔法が解けるように、皆揃って元の姿。
 猫耳と尻尾はつけたまま。
 首からはそれぞれポップコーンバケットを下げたまま。
 手には食べかけのチュロスやアイス。
 お揃いのポーズと笑顔で写ったキラキラな写真(物的証拠)。
「……アッシは皆から労われてもいいと思うんスけど、意見を聞かせて貰ってもいいッスか?」
 そして、半眼のイヅナが居た。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

みんなー、おかえりー!
遊園地はどうだったかな、楽しかった?
え? 記憶にない? そんなー、またまた~。
はい、これ。今日の素敵なお土産だよ!
みんなとっても可愛かったね!

という訳で、楽しく過ごせていたら嬉しいです。
何だかんだとAAやFLで出番があったっため、相談期間中にイヅナのお顔を頼みました。
近々お目見えする日がきますので、その時はアトリエでお顔を見てあげてくれるとうれしいです。

それじゃあ良い子の皆! またねー、ばいばーい!

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