シナリオ詳細
憎しみの果てに
オープニング
●奪われたもの、奪うもの
森の奥に一頭の魔獣が住んでいた。魔獣は群れのリーダーだった。魔獣といってもあまり人を襲うことはない種族で、けれどその角に薬効があることからたびたび人に狩られることがあった。
魔獣にはつがいがいた。つがいとの子供たちがいた。ともに生きる仲間がいた。けれど今は一頭だけだ。
近くの村に疫病がはやって、村人たちは治療のために魔獣の角を求め、狩った。
はやり病がお互いにできるだけ不干渉を貫いていた魔獣たちと人間たちのバランスを崩してしまった。人々がそれに気づいたときには、遅すぎた。
村人たちは魔獣の逆鱗に触れた。比較的温和な種族だということは、それだけ愛情深い種族だということを失念していたのか、それとも魔獣に本能はあっても感情はないと思っていたのか。
群れを滅ぼされた最後の一頭は村人へ牙をむいた。集落を襲い、人々を殺戮した。
許せなかったのだろう。人が憎かったのだろう。群れを守れなかった怒りもあったのかもしれない。
病から救われた代わりに、はやり病のために魔獣の角を求めた村人たちや、その近隣の村々は一頭だけ残った魔獣にその命を蹂躙されることになった。
●それでも、守るべきは人の命だから
「病がはやった時、特効薬にすがるのは仕方のないことだと思います。薬草や医者、民間療法……それから、今回のように動物の体の一部。その魔獣の角は巷でも主に医師の間で高値で取引される薬効あらたかなものだそうで、村人たちも生きるのに夢中だったのでしょう。生きることに、そして罹患した家族や恋人や友人を守るために。
今、魔獣は手当たり次第に人間を襲っています。戦闘能力はそれほど高くありませんが狂暴化しているため予期せぬ反撃があるかもしれません。ここまで来たら……殺さないと止まらないところまで来ていますね。魔獣にとっては理不尽なことかもしれませんが、関係のない人々を襲い続けることを見逃すわけにはいきません。
言葉の通じない種族なので説得は不可能、なだめることも無理でしょうし……何より、人にとっての脅威です」
魔獣を狩りつくした村人に思うことがある人もいるかもしれない。魔獣を憐れむ声もあるかもしれない。だけど、それでもローレットに所属するものは人の味方なのだ。助けを求める声を聴いたら、自己責任で任務を成し遂げなければいけない。気が向かないなら依頼を聞かなかったことにしてもいいだろう。けれど、悲しい事件、これから先涙しか生まない事件を止めることができるのは、この依頼の解決を乞われた人だけなのだ。
「戦う力を持つ皆さんにお願いします。魔獣と……村人の皆さんの心に、どうか安寧を」
- 憎しみの果てに完了
- GM名秋月雅哉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月10日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●殺意の向こう側に虹がかかりますように
今回イレギュラーズに依頼された仕事は人間たちが乱獲したせいで最後の一頭になった、比較的おとなしい魔獣が仲間やつがい、子供たちの敵を討つために人間たちを殺して回っているのでその駆逐を、という後味の悪いものだった。
「自分や仲間が殺される側ならもちろん嫌だけど、それは殺される側の責任なのだわ。怒る気持ちもわかるけど、嫌なら逃げるなり返り討ちにするなりしてやればよかったのよ。普通自分の種族以外全部敵なんだから攻撃されてから怒るのは生物として意識が低い!」
『暴食麗花』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)は最後の一頭になるまで乱獲され続けた魔獣にも非があると主張するがそのほかのイレギュラーズは村人にあきれているものも多かった。
いくら病の特効薬といっても他に効く薬があったのではないか、もっとやりようがあったのではないか、ある意味村人たちも自業自得だ、といったようなものだ。
「魔獣もわりぃっておめえは言うけどよ、おとなしい種族なんだろ。戦うことを知らない草食動物が肉食動物みたいになった人間と戦えっていうのも無理だろうよ。今回は最後の最後で牙をむいたようだけどな。まったくもってやりきれない話だ。この怒り、この悲しみをどこにぶつければいいんだ。反吐が出る思いだぜ。魔獣にとってこの復讐は正当なものだ。にも関わらず魔獣を殺さなければいけないなんてな。人は生きるため、そして時には娯楽として他生物を容赦なく殺す。しかし、他生物が復讐によって人を殺すならそいつを人の法に則り殺さざるを得ない。
なぜならここは人が支配する世界だからな。人と獣の間を行き来する獣種の俺にとってはやりきれない気持ちでいっぱいだ。怒りすらわいてくる」
しかし、それでも今はこの魔獣を止めないと大人も子供も、多くの村人が死ぬことになる。魔獣と村人に安らぎを与えるためにこの魔獣は討たねばなるまい、と考えた 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)はこの依頼に参加した。
そんな彼には夢がある。人間と他生物が、いつの日か共存できるように、今回のような事件が二度と起きないように。それは尊く、しかし叶えるのが難しい夢だった。
『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)もそれには共感した様子。
「仲間を、そして家族を殺され怒り狂った獣。そんなことをされればどんな温厚な生き物だろうと怒り狂う。復讐をするには十分すぎる理由だ。村人たちにも病を治すため仕方なかったとはいえ、な。どんな言い分があろうと先に仕掛けたのは村人たちだ。非があるのはどちらかと言われれば、これも村人たちだろう。
……もっとも、私たちにはどちらが悪いかなど関係のないことだが」
自分たちは人の味方で、魔獣を討伐せよという依頼を受けた。それがすべてだから、とエイヴは割り切っている。
「どのような事情があろうと任務ならば遂行するのみ。故に魔獣よ、せめて安らかに眠れ」
「……なんて、悲しい。村の人にも生きるための理由があった以上、すべてを責められないのが、なんとも……聞く限り疫病さえなければ自然の摂理で済ませられる範囲だったみたいですし、仕方のない部分はあります。でも明らかにやりすぎです。他の治療法を探り、併用するとか手段はあったでしょうに……そうしれば乱獲までいかずに済んだのでは、と結果論ですが思ってしまいます。
……あぁ、駄目ですね。どうしても魔獣よりの目線で考えてしまいます。人が狩りすぎて絶滅という事例が、私の世界では数多くありましたので……」
世界を渡る者であり、この世界へも漂流者としてやってきた 『剣狼』すずな(p3p005307)は元居た世界と、今回の討伐対象である魔獣に思いをはせる。
「止むをえない事情があったのは理解するが。村人たちの命を救うための狩猟が結果的に殺戮を呼び込んでしまっては意味がない。……いや、意味がないってのよりひどいか。双方とも、徹底的に失うだけで終わるんだからな」
そんなのは自然の営みではない、破壊活動だと言いたげにイーディス=フィニー(p3p005419)は眉を寄せる。
彼女は中立的な立ち位置のようだった。村人の心境からも魔獣の立場からも平等に距離を置いている。
「…魔獣の復讐か……嗚呼、この依頼もやるせないな……復讐者の俺としては魔獣の味方に立つのが本来あるべき姿だろう。……だが、魔獣は復讐の為に女子供まで殺害した…今回の討伐依頼はある意味そんな彼らに捧げる「復讐」なのだ……少なくとも俺はそう認識した。
……故に殺す。魔獣よ、貴様の復讐心には同情しよう。本当はお前の立場に立ってやりたかった気持ちも偽りはないし、今回の仲間の何人かも同じ気持ちだ。……だが……だがそれでも……俺達は貴様を殺す……貴様に殺された者達の復讐を果たす為にな。……復讐が復讐を呼ぶ……本当にこの世は理不尽なクソッタレな世界だ……」
復讐の鬼を名乗り、悪鬼と呼ばれながらも平時は心優しく穏やかな性格である分 『復讐鬼』レイス・ヒューリーハート(p3p006294)の心の中にはやりきれない思いがあったことだろう。
「人の治療も大切だけど……乱獲するのは間違ってると思う」
『生態系を壊しかねんからな』
「うん、それもそうだけど……魔獣が可哀想に思えてくるよ」
『……珍しいな。ティアがそう言うのは』
「平等な生命なんて何処にも無い。それは分かってるつもりだけど、今回は人の因果応報な気がする」
『だが依頼は依頼だぞ?それは分かってるのか?』
「……うん、依頼は依頼だよ。だから、申し訳ないけど狩らせてもらうね」
『それなら良い』
『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)と彼女を操る神様はそう自身を納得させた。神様がティアの心の整理を手伝い、ティアも改めて魔獣討伐の気持ちを固めたといった方がいいかもしれない。
「お話はここまでのようですね。外見的特徴が一致する魔獣、私たちに向かって突っ込んできますよ。皆さん、迎撃を。前衛はお任せします」
『LV10:ピシャーチャ』スリー・トライザード(p3p000987)が開戦を告げ、イレギュラーズは各々が一番得意なポジションへと位置どった。
魔獣は激しい憎しみを宿した目でイレギュラーズたちをにらみつけ、うなり声をあげてとびかかる。
ロザリエルが前衛から反撃を受けることを覚悟で我流で編み出した武術で戦いを挑むとそれに合わせるようにスリーが魔獣に炎の一撃をお見舞いする。魔獣でも獣は火を恐れるのかもしれないが魔獣にある激しい怒りに火を注いだ結果となり、火だるまのまま魔獣は前衛にいる敵から屠ろうと鋭い牙と太い前肢で薙ぎ払おうとする。
ジェイクが取り回しを犠牲にしているが衝撃的な威力を誇る片手銃で前衛組を後衛から支援した。
「怒り狂うのはもっともだ。理不尽なのは俺たちだ。だが……おめえはもう眠らなくちゃならない。眠って、仲間や家族のところに行くといい」
きっとここにいるよりいい夢が見られるだろう、と願いを込めて銃弾を撃ち込む間にエイヴも対物ライフルで銃弾をたたき込む。こちらは正確な狙いで射撃攻撃を行うことを第一とした射撃でジェイクの撃ち筋とはいささか趣が異なっていた。
すずなは前衛に立って他の前衛メンバーと協力して魔獣をブロック、順に注意を引き付けながら取り囲んで応戦している。
イーディスは前肢の付け根を狙って攻撃している。獣は四足歩行。加えて総じて人間より俊敏な生き物だ。魔獣とのもなれば獣の速度を上回る。実際前衛が総出でブロックしていても素早さに物を言わせた魔獣が隙をついて反撃に出ることは何度もあった。
今のところは包囲戦は成功しているが後衛から射撃を充てるのにも動きの速さは落とすに限る。
そんなわけで機動力と攻撃力を両方削れる前足を狙っているのだった。
息をつかせぬ近接戦で絶えず前肢を狙い続け、ついに魔獣の前肢が一本折れる。それでも尽きぬ闘志を宿した目にイレギュラーズの何人かはそっと敬意を払った。
魔獣は群れのリーダーだったという。魔獣たちの王と言い換えてもいい。今、魔獣は孤高の王だ。統べる他の魔獣はいない。満身創痍だ。それでも誇り高き王だった。最後まで仲間や家族のために、自身の誇りのために戦う王だった。誰も従えていないがそれでも群れを統率するものだった。
「本当に……まったくもってやりきれない話だ。おめえが引き連れている群れは、さぞかし立派で誇り高い群れだったことだろう。こんな形で出会ったことが残念だぜ」
ジェイクがもう一方の前肢に強力な威力を持つ弾丸を撃ち込みながらつぶやく。
前衛は撮り逃さないように、そして好き勝手暴れさせないように包囲網を固め、後衛はそのブロックの隙間をうまくついて自身の獲物や魔術で攻撃するという連携プレーだ。
何度か爪が持つ毒に侵された仲間をイーディスが天にささげた祈りによって起こした奇跡によって毒を中和させ、レイスは魔獣の弱点である角の根元を狙って動物を狩るものとして特段の威力を発揮する精密な射撃を行う。
ティアは飛行によって陽動を行ったり死角から攻撃したりと八人は的確に魔獣を追い詰めていく。
どこかより響く不吉な囁きは魔獣にはどんな内容に聞こえたか、イレギュラーズに判断するすべはないがスリーの放った凶兆を招く一撃に一瞬魔獣の動きが停滞した。家族や仲間の怨嗟の声が聞こえたのかもしれない。お前が至らない王だから自分たちは死んだのだ。なにより大切だった存在からそんな死後の世界からの恨み言を聞いたのかもしれない。
それでももともと魔獣憎しで討伐に参加したメンバーは皆無といっていい、一刻も早く終わらせてやりたいそんな共通の思いがあるのだろう。
爪による斬撃や前肢による殴打などの反撃はあったがそれも徐々に弱弱しくなり、魔獣はやがてどう、と地に倒れた。
流れる赤黒い血が徐々に勢いをなくし、口の間からだらりと伸びた舌が呼吸を止めたことを伝える。
憎しみに燃えていた瞳は虚ろに宙を写し、遠吠えが聞こえることももうなくなる。
魔獣の討伐は終わったのだ。
「角はできれば練達あたりで調べては、もらえないでしょうか。そのうち機会があれば、でも。もし他で特効を補う方法など、見つかれば『特効薬だから』という、免罪符。以降は取り上げて、しまいたく」
狩りだから獲物に敬意を払って角以外の毛皮や肉も採取するという意見とそれに反対する意見が事前に出ていたが、毛皮は傷だらけで使い道がなく、肉は毒を持つ爪焼き場を持つことから食用にするのは危険という意見がかって獣は角以外は採取されずに埋葬され、供養された。
「次の世界では幸せがありますように」
供養を終えて黙祷しながらティアがつぶやいた。どうか虹の国で仲間や家族と再会して、一緒に生まれ変わってきてほしい。そんな願いを込めて。
●村人たちへの忠告
(こうした乱獲で種が根絶されてゆけば、それだけまだ見ぬ研究対象も減ってしまう。そんな悲しいことが許されていいのか)
そんな内心を吐露はせず、スリーはただ必要だからといってすべて狩りつくすのはやりすぎている、と忠告する。
「殺す側としても狩りつくして問題になるのは自縄自縛だってわかってでしょう? 私は別の生き物なんて隙に殺せばいいと思うけどあとで必要になってももういないんじゃどうしようもないし。貴方たちは弱いんだからこうやって反撃にもあうし。好きにやればいいけど、報復の危険も含めて自分や仲間が困らないように行動しようってことよ。今回のは貴方たちの自業自得、これだわね」
ロザリエルをはじめとしてイレギュラーたちに人間が支配する側だったから救ってもらえたが獣が支配する世界だったら討伐されていたのはお前たちだ、もっとやり方があったはずだ、と村人たちはきつめに灸をすえられて反省したようだった。人間が支配する世界でよかったよな? というジェイクの言葉に今更ながら自分たちのしでかしたことの大きさに気づいたのか村人たちは震えあがる。そして魔獣たちに詫び、定期的にイレギュラーズが供養したリーダーの魔獣の墓を弔うと自主的に申し出た。
「どの生き物もきているし、やみくもな殺生は報復されることもあるんですよ」
「身から出た錆です。次も落とすのが間に合うとは限りません。もう錆びないように今後はしっかりと他種との関係を手入れなさってください」
共存から外れた先にろくな未来はないと語るスリーの言葉に恥じ入るようにうつむく村人たちに、イーディスとすずなは絶滅動物の説明をする。そうやって人が滅ぼした種が多数存在する、と。
イーディスはそれにあわせて今後は困ったことがあればまず真っ先にローレットを頼ることを約束させた。
素人に狩りのバランスを教え込むのは難しい。わからないなら手遅れになる前にまず相談しろ、そういう意味での助言だった。
村人たちは深く反省し、そしてイレギュラーズに感謝して今回の騒動は幕を閉じたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
思ったより心情中心になったかもしれません。
皆様、心のこもったプレイングありがとうございます。
たしかに最後の一匹になるまで抵抗らしい抵抗をしなかった魔獣にも非はあり、最後の一頭が滅んだあとで後悔する人間にもまた非はあり。
絶対的な正義というのはどこにもないのだろうな、という思いを痛感するプレイングの数々でした。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
目的・成功条件
魔獣一頭の討伐(可能であれば村人たちに必要以上の乱獲はしないように、あるいはこれに懲りたら獣との共存をうまくやっていくようになど忠告をするといいかもしれません
失敗条件
魔獣の討伐の失敗
魔獣
体長三メートルほどの獣。額に一本の真珠色の角を持ち、角には薬効がありますが角を奪われると魔獣の命は尽きます。
鋭い爪と牙を持ち、それらには毒の効果があります。
戦闘能力は八人がかりでかかればそれほど難しい相手ではありませんがとにかく狂暴な状態になっています。人を見ると同時に闘争心があおられるようです。
銀と黒の縞柄の毛並みは美しく、角を奪った後毛皮目当てに密猟などもされていたことのある種族です。
本来は温和で戦いを好まず、人里より少し離れた山に群れで済む生き物。
村人・近隣の村人
はやり病で倒れた人をいやすために魔獣の角を狩り、栄養のある食事をとらせるために魔獣の毛皮をはぎました。
結果的に一つの群れがリーダーを残して殲滅されました。
はやり病から逃れた村の人間も山の幸を求めて踏み入った際に魔獣に襲われ死者が多数出ています。
戦闘5:心情5くらいの内訳になる予定です
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