シナリオ詳細
<濃々淡々>降り注げ、桜雨
オープニング
●
嗚呼、嗚呼! 春が来た。春が来た!
恋焦がれて待ち侘びた、私達の此の季節が!
「そういえばもう卯月か……」
「そうよ、絢!」
「なのよ、絢!」
「っとと、わ、ちょっと、引っ張らないで!」
化け猫の青年、絢と、世界を見守る桜の大樹の精霊達が一堂に会する其処は人の往来で。街中であるというのに彼女ら気まぐれな精霊たちが現れるのは珍しい。ので。
「……どうしたんだい?」
絢は思わず首を傾げた。
何か問題でも合ったのだろうか。もしかして大樹の内側に病巣でも巣食っていたのだろうか? 大樹とて若くはない、緩やかに老いはあるはずだから。
「……何か失礼なことを考えたわね?」
「……何かひどいことを考えたのね!」
「ち、違うってば。何か困ったこととかあるのかなって、心配になっただけだよ」
思わず頬を掻いて誤魔化した絢。桜の精霊たちはじいっと見つめるも、きりがないと判断したのか肩を竦めて咳払いをひとつ。いやふたつ。
そうだ。大樹に住まう精霊とは言えやはり未熟でおこさま、人間の齢で表すならばまだ幼稚園児程度。やっぱりおこさまなのだ。
「ううん、わたしたち、すごいことを思いついたのよ!」
「そうよ、わたしたち、素敵なことを思いついたのよ!」
「へぇ、おれにも聞かせてくれるかい?」
猫の耳をふるりと春風に震わせた絢。飴色の瞳をくるりと煌めかせて、絢は協力を示すように頷いた。
●
「春祭りを開こうと思っているんだって」
濃々淡々より来たった境界案内人の絢は、にこりと笑って告げる。
桜が一年中咲き誇る世界において、春というのはやはり格別の意味を持つらしい。絢も乗り気のようで、わくわくとした表情で言葉を続ける。
「でね、春祭りに必要なアイデアを集めたいらしいんだけど……まぁそれはおいおい。まずは春が来たという知らせを告げるために、春らしいとびきりの……さ、」
「サプライズ」
「そう、サプライズ! サプライズがしたいんだって。でね、」
ガトゥとフィスの横文字組がそっと影から見守る。未だ横文字には慣れないのだけれど、言えるようにはなってきたのだと目を細めて。
「桜の雨を沢山振らせたいんだって。だから、協力してくれないかな」
大樹から桜の花弁などたくさん降っているのに、雨という規模にもなろうものならさらに遠くまで桜を沢山運ぶ必要があるのだろう。
頼めるかな、と、絢は首を傾げて呟いた。
「勿論、ただでとは言わないよ。道具の貸し出しはするってきいてるし、なんなら借りてきたんだ」
絢は袋に詰めていたらしい雲を取り出して(?)雲の上に飛び乗った。
「此の上から桜を降らせるんだ。どう、楽しそうじゃない?」
年甲斐もなくはしゃいだ絢の様子。これなら雨だって降らせられる気がした。
- <濃々淡々>降り注げ、桜雨完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年04月11日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
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「頬を切るような風が少し和らぎ、日差しも暖かくなってきた今日この頃。木々の固いつぼみが目を覚ますこの季節――キサは一番好きであります!」
視界を桜色で埋め尽くさんばかりに咲いた桜花。『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)は笑みを咲かせながら濃々淡々の街並みに目を細める。
「桜の雨を降らせたい……ね」
その一方後ろを歩く『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は相変わらず冷めた様子で、聳え立つ桜の樹を眺める。
「たしかに舞い散る桜というのは綺麗だし、風情もある。だが片づけはどうするんだ? そりゃ風に吹かれてどこかに飛んでいったり腐って土に還ったりとそのうちきれいさっぱり無くなるだろう。人の美醜の感覚はそれぞれだが、あれはお世辞にも良い景観とは言い難いだろう」
世界の後ろについて歩いていた桜の精霊が涙目だ。
あっぐすって言った。ちょっと。お兄さん。もしもーし?!!!
「それがしばらくの間続くとなると…っておい、待て泣くな。俺が悪かった!! 桜の雨いいよな!! まじサイコー!!」
「ほんとに思ってる?」
「ほんとに考えてた?」
「……ほんとに決まってるだろう!! めっちゃテンション上がって来たわ~!! よぅし、皆を喜ばせる為にお兄さん頑張っちゃうぞ!!」(※墓穴)
きゃらきゃらとはしゃぎ喜びの声をあげる精霊を見て世界は心のなかで血反吐を吐く。やっちまったぜ。
そんな世界の様子にくすくすと笑う『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)。桜の精霊が飛び駆け寄るのを微笑ましく見守って。
「お久しゅう、おちびさんたちはよお眠れたかしら?」
「おはよう桜の精さんたち、冬の間よく眠れたかしら?」
「ええ、とっても!」
「ええ、ばっちり!」
蜻蛉の横から顔を出すのは『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)。彼女と蜻蛉は桜の精霊が眠る冬を見届けた二人だ。
「春の知らせを届けに、ご一緒させて頂くんをとても楽しみにしとります。今日は、よろしゅうね」
「ルシェも頑張るわ!」
「うん、一緒に」
「うん、宜しく」
桜の精霊たちははにかんだ。
さぁ、春を告げよう。
さぁ、春を降らそう。
幸いたる奇跡は其処に。桜雨は、その手の中に。
●
「籠に入っている桜を降らせたらよきでありますね。しかと承ったであります!」
希紗良はぴし、と額に手のひらを当てて元気に挨拶を。
(雲に乗るときは下に落ちはせぬかとやや恐々とでありましたが、いざ乗ってみるとふわふわしていて面白きものでありますね)
案外柔らかくてふわふわで、けれど安定感がある。
乗り物というよりもクッションのようだ。
くんくん、と匂いを嗅いでみれば、甘い匂いが鼻先を擽る。
「あまいにおい。ひとつくらいつまみ食いしても…。いや、駄目であります」
きっちりと依頼を済ませてしまわねば! その後甘味を食べに行くのもやぶさかではない。というかその予定に変更だ。せっかくのライブノベル、楽しめることは何でも楽しんでしまおう。
「さてと。キサは子どもたちが沢山集うであろう場所に行くでありますよ」
雲に乗ってぷらぷらと街を行く人々を見る。その中には寺子屋に向かう子供たちが居て。
「やや、見つけました。ささ。花を降らせましょうぞ。光の雨となり、皆の心を温かくする雨を」
受け取った籠にそっと手のひらをいれて、眼下に向けて、桜を降らせていく希紗良。
きらきらと輝く桜は正しく春の象徴だ。
下からは子供たちの興奮した歓声が聞こえてくる。きゃあきゃあとはしゃいで笑って。まるで恵みが降ってきたとでも言いたげだ。
「ほぅ…。見事な光景でありますな。まさしく桜の雨降り注ぐ。この景色、心にしかと焼き付けることに致しましょうぞ」
ありがとう、と下から叫ぶ声がする。心が温かい。
子供たちが笑う声に耳をひょこひょこ動かしながら、希紗良は桜を降り撒いて。
「……良かった」
春が来たよろこびを、どうか仲間と共に。
隣でうんしょと桜を降らせる桜の精霊に微笑んで、希紗良はまた春を届けに走ったのだった。
「よいしょ……と。乗り心地が良すぎて、思わず寝てしまいそうやわ」
蜻蛉は綺麗な着物が崩れないようにそっと雲にのる。
その隣には絢と桜の精霊も一緒だ。四人分の籠を乗せた雲はちょっぴり大きめ。それにしたってふかふかで柔らかいのだけれど。
「春を告げる、桜色の雨。今だけ、春の神さんになったような気持ちよ」
「はは、なんだか解るかも。こうやって空の上から見るなんて滅多にないからね」
「ほんに、そうね。幸せそうな顔がようけ見える」
とおくまではっきりと見渡せるようにと金の目を凝らす。猫の目はきらりと春のひかりにきらめいて。
「……よし、それじゃあおれ達も配ってみようか、桜」
「うん、そうしましょ」
両手で桜を掬って、空からひらりと落とす。
桜の花弁がはらはらと降っていく様はどこか儚くて、その果ても見届けたくなってしまって。
立ち上がって、遠くまで目を凝らした蜻蛉は――
「きゃっ!」
「っと……危ない。大丈夫?」
「心配だわ」
「怪我は?」
「……お、おおきに。気ぃつけます、ごめんなさい」
裾をくいと引いた桜の精、肩を掴んだ絢、前から飛んで支えた精霊二人目。全方向からのフォローに少しだけ笑ってしまって。
「……あ、見えるわ」
「おれには見えないや。だから蜻蛉だけが独占だね」
「ふふ、そやね」
桜色のないところへ、春の知らせを。
蜻蛉の優しさに染まった街の色は、優しい桜色だ。
「あたたかな気持ちが、皆に届きますように。願いを込めて」
手のひらから、ふぅ、と桜の花を吹いて。手のひらに残った甘い香りは、友人たる貴方の香りとそっくりだ。
華奢な指先が春めいていく。飴のように優しくて甘いその香りがあることは――今だけは、まだ、内緒だ。
「それじゃぁ桜の花の準備も出来たし行きましょう!」
ふんす、と胸を張ったキルシェ。その隣には絢も並び立つ。
「慎重にね?」
「こっちかしら?」
「違うわ、もう少し右よ」
「違うわよ、少しだけ左」
「え、こ、こう!?」
「こーら、ふたりともからかうんじゃない」
「雲さん、慣れると楽しいけど、慣れるまではドキドキがいっぱいなのよ……!」
他の三人の行く方向もしっかり確認したキルシェは、進行方向に指を指した。
「じゃぁルシェはこっちの方! たっくさん桜の雨を降らせましょうね!」
「うん、頑張ろう」
一生懸命に桜の花をせかせかと降らせるキルシェ。しかしそれでは単純作業で退屈だ。
そしてぱっと、キルシェは表情を輝かせた。これは何かを思いついた時の顔だ。
「そうだわ!」
「ん?」
「どうしたの?」
「どうかした?」
「折角だから桜色の雨も一緒に降らせるのはどうかしら?」
「桜色の雨……? 濡れちゃわないかい?」
「大丈夫、濡れない雨だし、当たると元気になるのよ! ほら!」
えい、と絢に向かって雨を降らせる。春の日向のようにあたたかくて、心まで温まる。
「わぁ……いいね。実はおれ、指先を怪我してたんだけど、治ってる」
「でしょう! いい考えじゃない?」
「うん。良い春を迎えられそうだよ」
桜の精たちも頷いて。
キルシェはえいっ、と桜の雨を降らせながら、桜色の慈雨を降り注ぐ。きらきら、しゃららと降り注ぐ桜色。春はすぐ其処だ。
「それにしても……桜の花なのに甘い匂いがするからお腹すいちゃうわ! 後でみんなで食べようと思ったけど、先に内緒で食べちゃおうか」
「ん? それは?」
キルシェがごそごそとカバンから取り出したのは、桜の形をした美味しそうなクッキーだ。
「はい、どうぞ!」
「ありがとう。その鞄はもしかして……」
「この鞄? ルシェが初めてこの世界に来た時に、絢お兄さんに連れて行って貰ったお店で買ったの。いっぱい入って凄く便利なのよ!」
「ふふ、そうか。それは良かった」
「妖精さんのおうちでもあるけど、妖精さんまだ寝てるの」
「きっといつか起きるさ。その日が楽しみだね」
「うん!」
ハツラツと笑ったキルシェ。未だ眠り続ける付喪神とも、春を見られる日が来るだろうか?
「あまりに花びらの密度が濃いと逆に魅力が薄まる。一度にドサッと落とすんじゃなくて普段よりは多めって程度に降らせる事が出来ればベストだな……いや普段の量なんて知らんけど」
そんなプロがいたら教えて欲しいと眼鏡を押し上げた世界は、ぱっぱと桜を降らせていく。
「そのためにある程度高度を高くして、撒く量を調整していこう」
「えいえいおー」
「えいえいおー」
「……ほら、もっとやる気だして」
「でも世界は出してないわ?」
「そうね、世界も出すべきよ」
「俺も一生懸命撒いてるから安心してほしいな」
「それにしては籠が……」
「減ってない気もするけど?」
「……二籠目だからな。たぶん」
口だけは達者な桜の精霊たちと会話しながら、それでもちゃんと手を動かして。
あまりにも早いノルマ達成に、世界は暇を持て余してしまう。
(あー……暖かくて眠い……)
ここで世界、ひらめく。
「もう後は俺が見ておくから、二人は帰っていいぞ」
「そう?」
「じゃあ」
ぱたぱたと飛んで帰った精霊たちを横目に、大きな雲のベットで世界はのびのびと身体を動かして。
「よし、一人雲の上で昼寝と洒落込もう」
真っ青な空はだいぶ眩しいがうつ伏せになればそうでもない。あと横向き。
(桜が散るところなんて今日で一生分見たんだ。しばらくは太陽と雲以外何一つない空で瞼を閉じるのも悪くないだろう)
瞼を閉じて、ゆっくりと昼寝を謳歌しようとしたその時。
(……?)
先程聞いたような羽の音が世界の耳に届く。
(……ちょっと待った。なんか精霊たちが戻って来たぞ?)
昼寝をしようなんて考えていたことがバレてしまっては一大事だ。慌てて身体を起こす。
「お待たせ、盛ってきた」
「お待たせ、持ってきた」
其処には山積みの桜の籠。
「ヤメロ、もう桜は良いんだってば!!」
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
四月です。新年度です。
染です。どうぞよろしくお願い致します。
春のシナリオです。桜の雨を降らせましょう。
●依頼内容
桜の雨を降らせる。
はらはらと桜が降るのではなく、雨のような桜の奇跡を求めています。
皆さんの力を貸してあげましょう。
●具体的にどうやるの?
桜の精霊たちが力を貸してくれます。
特別に桜の木の上に登って、そこから雲を飛ばしてくれます。
雲は車のように進行したい方向へと進めることが出来ますよ。
歩いていっても問題ないそうですし、乗り物を用意しても大丈夫です。
また、桜は籠いっぱいにあるそうですので、桜を街いっぱいに降らせることができれば依頼は完了です。
桜は甘い匂いがして、落ちるときらきらと虹色に光ります。
お供に桜の精霊を連れて行っても構いません。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。
呼ばれればついていきます。
●サンプルプレイング(絢)
よし、おれは雲にのってみようかな。ふかふかで気持ちよかったんだよね……と、いけない。
じゃあ桜を降らせてみよう。せーの……それ!
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