シナリオ詳細
友の代行者
オープニング
●
馬鹿げていると、少年は震える唇を動かした。
村の近くにある森で木の実を拾い集めていたある日、偶然行き倒れの魔術師を見つけたのが数日前のこと。
少年は純然な天義の民として、異端の民とはいえ奇跡的に自分が発見した事が神の導きだと信じて魔術師を助けた。
魔術師が鉄騎種だと知れた時は排他的な辺境村としては大きな面倒を避けたい、と荒れた。一時は再び森に捨てるべきだとすら騒がれた。
「でも……でも、あれは正解だった……まちがってない!」
幼くして木こりだった両親が流行病に倒れ、天涯孤独となっていた少年は自身の家に魔術師を迎え入れた。余りにも哀れだった、捨て置けなかったのだ。
使命感があった。天啓があった。夢にすら見た。
ただ、少年はそれが孤独から生まれた欲求だと気付かなかっただけである。
少年の介抱や世話によって、程なくして魔術師は回復した。少年は感謝され、魔術師は天義の民の潔白さを称えながら再び放浪の旅に出ようとした。
きっとそれで本来は終わりのはずだったのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……! なのにどうして、どうしてこんな……!」
魔術師は感謝した。そして、少年にその意思を示すべく自身が持ち歩いていた魔道具を渡してしまったのだ。
『其れは古代の遺物。だが臆する事はない、君が平和的に使うなら所詮は狩りを助ける道具。機械仕掛けの獣を友に持つだけの事である』
少年は嬉々として神からの褒美だと信じて受け取った。
魔導機械の獣達はよく働き、森で時折出会う害獣や魔物を仕留め、追い払ってくれた。必然的にそれは村を守る形になり、村の人々は首を傾げつつも喜んだ。
しかし同時にそれらは僅か数日の内に積み重なって【他の村が被害に遭う数が増した】のも必然だったのだ。
「見つけたぞ」
「ひ、……ぃっ!?」
周囲の村々から追及され、直ぐに少年の事が知れ、領主へ密告された事も知らない少年はその日も森へ棺の様な金属板を台車に乗せて向かい、そこで執行者たる聖騎士達に囲まれたのである。
正義と信仰に身を捧げた騎士達は悠然と少年の首を狙って来る。悪しき存在に現代には出回っていない魔導の品を持たされ、災いを撒くようになった少年に、慈悲を与える事など無い。
森を抜け、当てもなく逃げる少年に聖騎士が詰め寄る。
助けに来る人影は無い。だが、そこへ。
「GALLLL!!」
「なにッ」
金属の骨組みだけで動く狼が騎士を阻み、素早い動きで飛び掛かって鋭い爪が鎧を引き裂き火花を散らした。
気付けば少年の引き摺っていた金属板は薄い帯状に解けてその形状を変え、狼を更に四機生み出していた。
「何という獰猛な……それで人里でも襲うつもりか。チッ、油断した」
騎士は分が悪いと見て即座に後退、その場から逃走する。
少年は助かった。だがそれは一時的な物だと彼には分かっている。
「ああっ、なんでこんなことに……っ! 僕は、ただ寂しかっただけなのに……!」
その嘆きには誰も答えてくれなかった。
●追走依頼
「討伐依頼です」
『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は端的に告げた。
「依頼主は最近ローレットの活動を許可する様になった聖教国ネメシス、場所は鉄帝寄りの辺境領にある森林です。
対象は森林地帯に住む村で魔導機械を用いて、害獣や魔物を意図的に近隣の集落や村へ集中させ、これに『警告』に当たった騎士達を撃退。
客観的に見て我々の出番というのも頷けます……なんですか、その顔は。あ、ちょ、やだ私のスーツを引っ張らないで下さいって、ああ……!」
イレギュラーズがミリタリアのスーツからチラと出ていた書文を取り上げると、そこに書かれている内容に首を傾げた。
「ん? 本当だ」
「だからそう言ったではないですか! もう、私をなんだと思ってるのですか?
『魔導機械は最大五体まで獣型兵器へと変形する事ができ、それらの性能は我々騎士を苦戦させるものである。至急討伐隊代行を求む』
彼等の言い分は要するに時間が惜しいのと特異運命座標の活躍への期待からの依頼です」
「でも、これは? 魔導機械を操ってるのが少年って、子供か」
「ええ。その通り、正義を執行する相手としては小規模。なのに時間ばかり取られるのは避けたいはず。
辺境伯がその気になれば直ぐに片付くでしょうが、相手は齢十五に満たぬ子供。首都の騎士団に知れるのも都合が悪いという事もあるでしょう」
イレギュラーズが警戒をするのも無理はない。
依頼主が詳細の真偽を明かさない以上、それは現場のイレギュラーズがその眼で確かめる他にないのだ。
- 友の代行者完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月13日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●友を捜す者達
揺れる森の中、微かに届く陽射しが景色を常に変える。
視界は決して良いとは言えないが、見ようでは人の手が入っていない環境が心地良いと思う者も居るかもしれない。
その森を複数の影が一定の間隔で並走しながら、常に物音を立てていた。これ以上無いほどに、嫌でも存在を意識してしまう様な勢いで。
――――ガンガンガン!
「おーい! 誰かいないか!」
自身の武具を打ち鳴らしながら駆けまわっているのは『ベイグラント』ガルズ(p3p000218)だ。
彼を含めた四人の役目はこうして対象を他の仲間の方へ誘導する事だった。
「少年、わたくし達は騎士団ではないわ! 貴方の全てを救うと、そんな不義理は約束は出来ないけれど……最善を尽くしたいの!」
『パラディススの魔女』エト・ケトラ(p3p000814)も同じく、彼女は草木を揺らしながら進み行く。
「神の御心に仇なす者であれば、そこに一切の容赦は必要ありません。しかし……問うてみる必要はありますね」
時折強めに声を挙げながら木々に簡単なマーキングを施している『特異運命座標』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)は、憂いの瞳で周囲を見回す。
事前に森の手前に点在する集落や村の人間達に接触した彼女は、森の内部の地図か何か情報を要求したのだが。その返答は芳しくなかった。
わざわざ森の奥へ行くなど、よほど慣れているか村から離れた地に住む偏屈だけに違いない……そう嗤っていた。
「天義の空気って、苦手なのよねぇ……正義だとか悪だとか」
「仕事は仕事だ。だがわざわざ殺すことはねぇ」
「そうね、まぁ……勿論それはそれとしてキチンとやるのだけれどね」
コーデリアから聞こえた声に眉を潜めながら、林の中を適当に払い進む。『夢幻泡影』鏡・胡蝶(p3p000010)とガルズは互いに木々越しに視線を巡らせ捜索を続けていた。
既に彼等がこうして捜索を始めて一時間以上。
未だそれらしい気配も痕跡も見当たらないが、依頼主たる騎士団の話によれば鳥類のような形態をとって飛行する事も可能なのだと言う。
ならば気は緩めない……何より、彼等にとって戦う相手は魔導機械だけであって、件の少年ではないのだから。
そこで、『シティー・メイド』アーデルトラウト・ローゼンクランツ(p3p004331)は抱きかかえていた『猫』を自身に向けて語り掛ける。
「わたくしです、こちらの状況はこの通り。徐々に範囲を狭めていますが……」
彼女の声と容姿が『猫』を通して別の場所へと伝わる――――
●
――――『猫』の見聞きした事は主である美咲・マクスウェル(p3p005192)へと伝わる。
「あっちは接触無し……そこの君に聞きたいんだけどいいかな。この辺りで鉄の鳥か獣、君の仲間を見たかな」
猫から伝わってきた報せに頷き、彼女は杖に横座りになったまま滑る様に浮遊して移動して。木に留まった小鳥に訊ねる。
小鳥は『大きなコワイ奴がこの先でうろうろしていた』と美咲に答えた。美咲は小鳥に軽く礼を告げ、少し離れた茂みで身を隠している仲間達へ合図を送る。
相手は近い。物音を立てて狭めているアーデルトラウト達が痕跡を発見できていないとなれば自然、反対側に居る自分達が見つけるだろう。
美咲の合図に視線による別のサインを送ってくる『咎狗の牙』リュグナート・ヴェクサシオン(p3p001218)がまさにそうだった。彼は木の根元に埋められていた動物の骨を見つけたのである。
それも、焼かれた跡があるのだ。これをこの数日間で森の深部に来て行う者が他にいるとは考えにくい。つまり魔導機械を引き連れた少年は、今朝まではリュグナートの見つけた場所で食事を摂っていたのだ。
「…………」
『自称カオスシード』シグルーン(p3p000945)は、何事かを考えながら歩を進めた。
次第に聞こえて来る仲間達の声と、物音。
恐らくあと数分もない内に戦闘は始まるだろう。シグルーンは静かに両の手に呪印の刻まれたグローブを填めた。
●友の為に戦う者
かくして、イレギュラーズの作戦は成功を納めた。
少年と魔導機械は向かう先から突然迫って来た追跡者から逃れようと、自分達が来た方向へ後退している最中に遂に身を隠していた美咲達と交戦になったのである。
上空を警戒していた鳥類型の魔導機械がその身を一瞬で四足の狼へと変形させ、少年を樹の根元へ押し込んだ。
唸り声を上げる機械仕掛けの獣達。
蠢く金属片は規則的に並び、牙の外観を作り上げた時には軋む咆哮と共に駆けだしていた。
向かう先は、武器を未だ納めたまま姿を晒したリュグナートだ。
「……ッ! 少年、貴方の運命はもう動き出してしまった、それをなかったことにはできません。
俺達は騎士団の依頼を受けてこそ来ましたが、最良を尽くせるよう、正しく善良な貴方を守れるよう、手伝いたいのです!」
リュグナートは正面から狼の牙を布に包まれたままの武器で受け止める。
見た目はどう見てもスカスカで、一撃にそれほど重さは無いものと予想していた彼は、牙が高速で回転して布を引き裂き、火花を散らすその光景に息を飲んだ。
好機とでも見たのか眼前の木から飛び込んで来るもう一機の狼。
傍目に、それでも彼は奥で姿を隠した少年へと声を挙げた。轟音や爆音とは違う、『気』を籠めたその喝によって二体の狼が地を滑って吹き飛ばされる。
美咲が彼の後方へ移動して来る。
「先ずはあの魔導機械を仕留めないとだね」
それまで腰掛けていた杖から飛び降りると同時に、それを振り抜くだけで魔力の塊が放物線を描いて放出される。
青白い球体はリュグナートに咬み付いた狼の頭上に投下される。俊敏な動きは急所への直撃を避けたが、狼は甲高い金属音と共に耳のような部位を構成していた金属板が弾き飛ばされてしまう。
その横を駆け抜ける影。
シグルーンは狼達に目もくれず、少年が隠れている筈の樹木へ直進する。
「AOOOHHHHNNN!!」
その瞬間、遠吠えが辺りに響き渡る。
風が森の木々を揺らした刹那。鷹の姿をした魔導機械の一機が太陽を背に、シグルーンを狙って鋭い爪を瞬かせ急降下して来る。
空気を切り裂く音に続く金属音が連続した。
一切振り向かず疾駆するシグルーンの背中を守ったのは胡蝶だ。爪を用いたスクリューダイブを初撃で弾き返した彼女は、直後に薙ぎ払われた翼による一閃を受け流して返す刃で地に落として見せた。
「……硬いのね」
一瞬の空白を見て魔導機械を仕留めたかに思えたが、その思考を嘲笑うかのように軽快な動きで鷹の姿をしていた金属鳥は瞬きの間に狼の形態へと翻す。
胡蝶は妖刀を数度振ってから再び飛び掛かった。
「シグルーンさんは例の子の居場所を知ってるみたいだから、邪魔をされては困るのよね」
しかし、その身を空中で捻る。
その瞬間に後方から飛来した美咲の魔術砲撃が完全に不意を打つ形で狼の脇腹に直撃。続く胡蝶の兜割りが壮絶な音と共に今度こそ狼を地に沈めたのだった。
二体の狼と打ち合いながら駆け込んで来たリュグナートが並んだ事で、胡蝶の沈めた狼は間もなく鉄屑と化す事となるだろう。
――――剣戟と閃光、銃撃と咆哮が交差する。
木々を縫い、時には枝を伝い駆け、魔導機械の狼はガルズを狙い三度目の跳躍からの奇襲を仕掛ける。
思惑通りの動きにガルズは刹那に笑う。反転からの勢いで狼の爪をソードブレイカーで絡め取り、引き寄せ、受け流されて無防備となった胴体を盾で打ち抜いた。
衝撃に金属板で構成された機体が軋みを上げた瞬間、狼は悲鳴の様な唸り声と共にその場から飛び退く。
獣ならぬ部分もあれば、獣らしい一面もあるその姿にガルズは舌打ちをした。
「全身がバネみたいな奴だ……天義の騎士を不意打ちとはいえ一撃で重傷を負わせたってのも納得できる。見かけ以上に頑丈でじゃねえか」
一度首を鳴らしたガルズはバケツヘルムの中で静かに息を吐き、狼とぶつかり合う。
その隣では炸裂音が重なる。
明らかに特定の方向へ行かせないとばかりに、立ちはだかる『猫型――豹だろうか――の魔導機械』が柔軟な機体を活かした三次元機動によってコーデリア達を翻弄していたのだ。
だが豹の機体も決して無傷のままというわけではない。
「心せよ! 神に仇なす兵器よ! 命脈は既に断たれている!」
二丁の銃を構え、豹の動きに慣れてきたコーデリアが木々の狭間を飛び抜ける。その射線上に交差する様に回り込んで来たアーデルトラウトも逆手に剣を持っていたかと思えば瞬時に拳銃へと持ち替えた。
二人の銃口がクロスした刹那。彼女達の得物は火を噴き豹を撃ち貫いて弾き飛ばす。
「GYAAAU!?」
無数の火花に包まれた豹の咆哮は途中で途切れる。
間髪入れずにアーデルトラウトの銃撃が木々を使った跳弾も含めて叩いて来る最中、更にコーデリアからの激しい精密射撃が襲うのだ。
いずれにせよその損傷は無視できないレベルであるが故に、獣と違い独自の思考性を有する魔導機械は明確な隙を生んだ。
「こちらアーデルトラウト、R4にて停止しかけている対象あり……今です、エト様」
弾薬の装填に木陰へ身を隠したアーデルトラウトが傍らに連れていた猫へ一言告げ、後方にいるエトへ薬莢を弾いて手で合図した。
直後。
「……!!?」
青白い光の矢が幾つもの木を貫き、豹の機体に着弾。それと同時にエトの放った魔力弾が立て続けに衝突した事で衝撃波を撒き散らして爆散したのだった。
●汝、欲するがままに
まだ年若き少年は完全に心が折れていた。圧倒的だった。
生まれて初めて目にする超常の戦い。獣や魔物、聖騎士と遭遇した時でも、これだけ長い時間恐ろしい破壊の音が続いた事は無かった。
少年は震えながら木の下にあった根の隙間を通り抜け、近くに人の気配が無い事を確認してから飛び出した。
何度もあの機械仕掛けの『仲間達』が叫んでいるのが聴こえたが、立ち止まるなんて考える事すら恐ろしかった。
なんてことをしてしまったんだろう。何故逃げているのだろう。
訳も分からずまた逃げ出そうとした、その時。
「見つけた」
「~~!? ひっい、ぃ……!」
そこに佇んでいたのは、シグルーンだった。
さっき一人突っ込んで来た彼女を知っていた少年は、直後に自分が首を刎ねられる事を想像して声にならない悲鳴が喉の奥から掠れ出た。
途中で他の狼にやられたのか。腕から血を滴らせている彼女に少年は酷い罪悪感と恐怖を覚える。
「ねえ君。あの魔導機械はどうしたの? どう見ても君が作れるような代物じゃないよね」
そんな事を知ってか知らずか、シグルーンは笑みを浮かべてはいなかったものの。しかし確かに優しい雰囲気を少年は微かに感じた。
「あっ、あれは……! 旅の、その……」
「大丈夫だよ」
シグルーンが一歩近づく。
「シグ達は天義の人じゃないんだ、ローレットって所で依頼を受けて来たの」
「天義の民じゃない……?」
少年が漸く手足の震えを抑えて首を傾げた。小さく肩を竦めながらシグルーンも少年の真似をするように小首を傾げて見せる。
ちょうどその時だった。
彼等の後方……それまで戦闘をしていた場所から凄まじい轟音が鳴り響いたのは。
●
戻って来た頃、イレギュラーズの面々が既に集まっていた。
「……」
シグルーンは静かに少年を傍で見つめ、彼女は少年の言葉の先を待っていた。
もしも少年が死を望むのなら、その時は……
――――と、彼女の横から不意に手が伸ばされた。
「わっ……?」
少年の華奢な腕が引かれ、そのまま訳も分からず抱き寄せられてしまう。
イレギュラーズ、エト・ケトラ。彼女はその慈愛を以て少年を包み込んでいた。
「とても怖い思いをしたわね、辛かったわね」
続く言葉が、慰めが、少年を凍り付かせた。或いは凍てついた指先が割れ行く様を見ている様だった。
エトの肩越しに目が合った美咲の表情が、彼自身の中で燻り始めていた感情と合致したのと同時に、こうして『許されたい』とすら思っている自分に気付いてしまったのだ。
本当に自分が望んでいるのは何だったのか。
『間違っていない事を証明するために』
『正しい事をしただけ』
『善良な貴方を……
……少年の胸の内を過ぎるのは、茫然とする少年に投げかけられるイレギュラーズの言葉。
自問自答が彼の中で繰り返される。
「……お姉さん」
「うん?」
「お願いします……僕を騎士団の元へ連れて行ってください」
少年は静かにエトから離れて、頭を下げた。
未だ体は震えていた、だがその声音に籠った物は分かる者には分かるだろう。
彼は選択をしたのである。
欲するがままに……今度は、後悔の無いように。
●友の代行者
森を出たイレギュラーズを取り囲むように、依頼主である辺境騎士団は待機していた。イレギュラーズはそれぞれが目配せして、先ず件の魔導機械の残骸を騎士団の前に見せた。
数人の精強な立居振る舞いの騎士が並び出ると、その残骸の幾つかを手に取って検める。
『破壊されていては殆ど鉄屑と分からないな』などと彼等は口々に何事か相談し合っている。
暫くして彼等は検分を終えると、直ぐに縄で縛られた少年の姿へと視線が向かった。
「ハハハァ! 噂通りの手際。実に見事だったローレットの者達よ、汝らにも神の加護がある事を祈ろう。これにて依頼は果たされたとしよう」
少し息の荒い騎士はそう告げると、従士に報酬を持って来させようとする。
ぴょこ、っと。その最中に胡蝶は残骸を未だにまじまじと観察していた別の騎士に近付いた。
「ねぇ、正義の騎士様。私たちの話に、耳を貸してくださいませ」
「……なんだね」
兜の中を覗き込んで来る胡蝶にその騎士は応じる。次いで、騎士の言葉を『是』と捉えたガルズ達が前に出た。
「こいつと戦ってからガキの話を聞いたんだが……ガキから件の魔術師の話を聞いたほうがいい、そいつが諸悪かもしれねぇぞ」
「己の行いに恥じるべき事がないのであれば、正直に申してください」
コーデリアの声に押され、踏みつけられていた少年が掠れた声で告白を始めた。
木こりだった両親が早くに亡くなり、彼は寂しかった。
彼はそれでも神に信仰を捧げ、日々を善良なる天義の民として暮らしていた。
過ぎ行く時間に比例して村人からの扱いは希薄なそれになっていた、その中で彼は秩序であり善と在ろうとした。
だがそれでも目の前に出され、見つけた小さな希望に縋ってしまった。
かの行き倒れだった魔術師を助けた時、後ろめたい思いも見返りも求めていなかった。
おとぎ話のように、幼い日に母親が呼んだ英雄譚のように、初めて出来た機械仕掛けの『友』に彼は心の底から歓喜した。
全ては何が悪いか、ではない。
確かに、明確、明白に……罪が在ったのは自分だったのだから。
少年は贖罪の為に首を差し出すと、最後に告げた。
彼の為に様々な準備や策を講じていたイレギュラーズがその場で動揺の色を見せた。少年は彼等を欺き、自ら首を差し出したのだ。
「……件の魔術師が諸悪なのは我々も承知している事柄だ、この少年は善良なる天義の、神の愛する子等だった、
それを誑かした者が居る事は明白である……だが過失は罪に値する。そして侵された魂もまた浄化されねばなるまい。
そして現に、ここにその少年は魂の救済を求めた。齢十になって間もない子供だと言うのに、なんと高潔な事か……我々はその思いに報いねばならないだろう」
物静かな騎士の言葉を聞いた、先程まで息を荒くしていた男は抜いた剣を構えた。その刃が立てられるのは少年の首筋である。
「…………!!」
シグルーンが飛び出しそうになった瞬間。
騎士の握っていた剣は瞬く間に少年の縄を切り裂いた。
「え……?」
コーデリアが身構えてしまった瞬間の光景に、思わず疑問の声が漏れてしまう。
騎士は、少年の首を刎ねなかったのだ。
「――――素晴らしい。
我々騎士団の中から稀に心を魔に侵された者が出る時、彼等は必然と言っていい程に己の命を儚む。
だが君は違った。どうか許してくれ、私は未来を担うべき神の使徒へ一度は刃を向けてしまった。
少年よ……君の名を聞こう。これからは君はもう孤独ではない。この私、バーゼフ辺境伯が君の友として代行を務めさせて貰いたい!」
感激に涙を流しながら兜を脱ぎ捨てた静かな声の騎士は、己が正体を高らかに告げた。
少年は何が起きているのか訳も分からずに男を見上げている。
「ローレットの者よ、このような素敵な巡り合わせを用意してくれた事に私は感謝しよう。
彼の事は心配めさるな。この私が彼を傍に置いて家族同然のように扱おう!」
周りの騎士達から拍手喝采が飛び交う中、辺境伯は少年を従士に連れて行かせてからその場を後にして行った。
●
シグルーンは帰りの馬車の中で夕陽を見上げながら微かに笑った。
(——シグは、シグは、ひとりぼっちの辛さを知ってる。……だからこそ、少年を助ける道は死だと思っていた)
窓に映る自分を、指先でなぞって。
「もう、寂しくないね」
●
とある砦の礼拝堂で、息の荒い騎士は「宜しかったのですか」と問う。
彼の主は笑って答えた。
こうやって優秀な使徒を自分好みに拾い、育てる事も出来るのだ……と。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
依頼は成功となります。
GMコメント
ちくわブレードと申します。
今回は天義の辺境地でのお仕事になります。
以下情報。
●依頼成功条件
少年を殺害、或いは捕縛後依頼主の辺境騎士団へ引き渡す
魔導機械の破壊、或いは無力化後(不殺)引き渡す
●ロケーション
鉄帝に近い辺境領にある森林地帯。
開拓されていない土地でもある為、土地勘のある少年や近隣の村人以外には長時間の探索が困難とされており、これらが主な要因となってローレットへ依頼しています。
樹海とまでは行きませんが、視界は悪いです。光源が有っても木々や背の高い林が視界範囲を狭めているイメージです。
足場は特筆する悪さでは無いので機動に問題はありません。
討伐対象の少年は逃げ回っていますが、未だ他国へ逃げる覚悟は出来ていない様子。村人達の生活を脅かす彼を直ちに撃破して下さい。
●敵エネミー
『少年』
名前や両親に関しての情報は不明です。見た目は齢十五、辺境村から離れた小屋で暮らしていたらしく森の中を土地勘と『音』で判別するスキルのような技能を持っていると予想されます。
現在の彼は魔導機械と共に逃走を続けており、見つけるには捜索人数を分けた方が良いかも知れません。
戦力としては特筆する能力は確認されていません。
『魔導機械』
とある魔術師が少年へ贈った古代遺物。ですがその正確な情報は分かっておりません。
騎士団が件の魔術師を捕えようとしましたが、どうやら先日森へ逃げられたようです。
魔導機械には狩りに適した【鳥類モード】の他、戦闘に適した【四足獣モード】が存在するらしく、不意打ちに遭った騎士は重傷を負っています。
どういった原理で少年に付き従っているのかは不明です。
状況に応じて対処、彼等を撃破して再び神に愛されし森に平穏を取り戻してください。
サマーフェスティバル、水着コンテストお疲れ様でした。
これからも皆様のご活躍を期待すると共に、ご参加をお待ちしております。
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