PandoraPartyProject

シナリオ詳細

昨日まで無かった島。或いは、あるかもしれない宝を探して…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある島の探索
 冬の嵐は長く続いた。
 ところは海洋。
 とある港より遠く離れた沖合が此度の物語の舞台となる。
 嵐の前まで、確かにそれは無かったはずと付近を縄張りとする漁師たちは口にした。
「まったく度肝を抜かれたよ。つい先日まであんなものは無かったはずなんだけどな……でも聞いたことがある。地殻変動とかって言うんだったか? ある日突然、無かったはずの島が現れたり、あったはず島が消えたりするんだってな」
 そう。
 漁師達の言う“それ”とは1つの島だった。

 島を発見した漁師達は、ほんの短い時間だけ上陸して様子を観察したそうだ。
 島に上陸したのは、若い見習漁師が2人と、同行していたダイバーが1人。
 少しの間、都合3名は島の外周に沿って歩き回った。
 結果として判明した事と言えば、実に些細なものばかりである。
 例えば、島を外周に沿って歩けばほんの15分ほどで1周できること。
 例えば、島の外周には砂浜が存在せず岩肌が剥き出しになっていること。
 例えば、島の北側と中央には海中に沈んだ箇所が存在していること。
「まぁ、つまりは何も無い島ってことなんだが……あいつらは北と中央の海中を調べようとしたらしい。だが、すぐに血相を変えて逃げ出してきた」
 曰く、探検と称して上陸していた3人はヤドカリの魔物に追われて逃げてきたそうだ。
 サイズとしては椰子の実ほどと、魔物にしては比較的小さい。
 とはいえ、武器などを持たぬ漁師ではその程度の魔物であっても脅威となるのだろう。
 加えて、数もそれなりに多いとのことだ。
 きっと島全体が、ヤドカリの巣だったのだろう。
「……と、ここまでならちょっと不思議な島って程度の話なんだが。実は面白い話があってな。件の魔物だが、一部の個体は貝の代わりに金属片を背負っていたそうだ」
 なんて。
 そういって、漁師の男は地面に何かを放り投げた。
 それはすっかり錆び付いた、何かの部品らしき金属片だった。

●無人島探索指令
「皆さん、冒険は好きっすか? はい、好きっすね。では、冒険のお時間っす」
 パンパン、と。
 2つ、手の平を打ち鳴らしイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は視線を自分に集める。
 幾つもの視線を注がれて、彼女は思わずたじろいだ。さほど気の強い方では無いのだ。世の中には、他人の視線に晒されることにプレッシャーを感じる者が幾らか居る。
 イフタフはまさにそれだった。
「えー……えーっと。はい。今回はですね。突如海洋に出現した無人島へ行っていただくんですが……どうやら無人島のどこかに“船らしきもの”があるみたいなんっすよ」
 船らしきもの、とイフタフは言った。
 漁師たちが回収してきた金属片を調べた結果、それが船の部品であると判明したのだ。
 しかし、ほんの一片程度ではどのような船か、いつの時代の船か、など分かるはずもない。
「なので、そういったことを調べるためにもっと手がかりが必要なんっすよ。ヤドカリが背負っている金属片でもいいっすし、どこかに本体が沈んでいるのならそれを調べて来るのでもいいっす。金属片パーツなら20~30、本体なら船名辺りを見て帰って来てもらえればそれでOKっす」
 幸い、島にはヤドカリの魔物が多数生息しているそうだ。
 手当たり次第に狩っていけば、必要個数もすぐに回収できるだろう。
 ヤドカリたちは【ショック】を与えてくるそうだが、油断さえしなければ脅威とはなり得ない。
「と、ここまでなら話は簡単なんっすけどね。何でも、島にはイレギュラーズ以外の誰かが既に上陸しているみたいっす」
 唇を尖らせたイフタフは、うむむ、とわざとらしく唸った。
 ヤドカリはともかく、島にいるという誰かは相応に脅威たり得るらしい。
「1人はスラリとした女性らしいっす。サングラスをかけていて、青と白の2色が混ざり合う特徴的な髪色をしているそうっすから、見ればきっとひと目で分かるんじゃ無いっすかね? おそらく彼女がリーダーで、一団の司令塔とのことっす」
 その女性を筆頭に、スーツ姿の男達が4名ほど。
 全員が、カタギの者とは思えない威圧的な雰囲気を纏っているという。
 おかげで、辺りを縄張りとしている漁師達も、島に近づけないらしい。
 荒海を相手にする漁師とは言え、本職の“あらくれ者”には叶わない。
 触らぬ神に祟り無し、というやつだ。
「女性を含めて全部で5人。遠目に見た漁師たちの話では、誰も彼もが泳ぎに長けているそうっす。まぁ、きっと海種っすよ。そんで目的は不明……ただ、何かを探しているみたいだったっらしいす。トレジャーハンターの真似事っすかね?」
 きっと探しているのは沈没船っすね。
 そういってイフタフは肩を竦めた。
 遥か昔に沈んだ船に、金銀財宝が山と積まれているなんて話は、数え上げればキリがない。
 そういった船を引き上げる……いわゆる、サルベージを生業とする者たちも居ると聞く。
 件の女やその仲間は、きっとその類なのだろう。
「それから、女性はおそらくクラゲの海種っす。【致死毒】【麻痺】【窒息】を付与する技を使うとか。一方で残る4人は、自分の体を武器とした格闘戦を得意としているらしいっす。あぁ、気を付けて。【飛】【ブレイク】なんかまともに受けちゃ、調査がちっとも進まないッす」
 と、一気に言葉を紡いだイフタフは、疲れたようにため息を一つ。
 色々と話したが、イレギュラーズの目的は単純明快だ。
 ヤドカリの妨害をくぐり抜け、トレジャーハンター(?)たちに根こそぎ持って行かれるより先に、島のどこかにある“船らしきもの”の正体を突き止めてくればいいのである。

GMコメント

●ミッション
“船らしきもの”の正体を確定させる
※本体を発見するor金属パーツを20~30ほど持ち帰れば成功となる。

●ターゲット
・クラゲの海種らしき女性×1
青と白の2色が混ざり合う特徴的な髪色をした女性。
目撃者の話では、おそらくクラゲの海種とのこと。
また、スーツ姿の男たちに指示を出している姿も目撃されている。
※現時点では敵対している訳ではない。かといって、交渉の余地があるかどうかは不明。

クラゲスパイラル:神中範に中ダメージ、致死毒、麻痺、窒息、連
 彼女の髪はクラゲでいうところの触手に相当するらしい。

・スーツ姿の男たち×4
スーツ姿の男たち。
荒事に慣れているらしい雰囲気を纏う。
きっとカタギでは無さそうだ。
全員が海種であり、近接格闘を得意とすることが判明している。

格闘戦:物至単に大ダメージ、飛、ブレイク
 どうやらカニの海種のようだ。硬い外骨格を十分に活かす術を彼らは知っている。

・ヤドカリ×多数
椰子の実ほどのサイズのヤドカリの魔物。
一部の個体は金属片を背負っている。
ヤドカリを倒すと金属片を回収することが出来る。
また、その攻撃には【ショック】の状態異常が付与される。

●フィールド
外周を一回りするのにかかる時間は、徒歩で15分ほど。
つい先日まで海中に沈んでいたようだが、何らかの理由で海面に浮上している。
植物などは生えていないし、高い山なども存在しない。
島の北側と中央には、海中に沈んだままになっている箇所がある。
イフタフの予想では、島のどこかに“船らしきもの”があるそうだ。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 昨日まで無かった島。或いは、あるかもしれない宝を探して…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
辻岡 真(p3p004665)
旅慣れた
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
風花(p3p010364)
双名弓手

リプレイ

●昨日まで無かった島
 空は快晴。
 風は冷たい。
 植物の気配など存在しない、岩肌が剥き出しになった島。長く続いた嵐の後に、沖に突如として現れた名も無い島の調査が此度の任務である。
「海洋だと偶にあるよな。名もなき島が浮かんだり沈んだり」
『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、舵輪を回して船を操る。ゆっくりと島の外周を走る小型船『紅鷹丸』に乗っているのはカイト1人だ。
 仲間たちは、既に島に降りている。
「……探索してる途中で沈むとかは勘弁してくれよ?」
 剥き出しになった岩肌に、蔓延る苔を遠目に眺めカイトはひとつ溜め息を零した。
 つい先日まで海の底に沈んでいた島だ。
 また、いつ海に沈んでも何らおかしなことは無い。

 無人の島にはヤドカリだらけ。
 島の中央には、まるで泉のような穴が空いている。当然、満ちているのは海水だ。
 その傍には、スーツ姿の男たちと1人の女性の姿がある。
「あれか……カタギには見えない、な。接触してみよう」
「こそこそやるよりは、堂々と、ご挨拶したほうが、いいでしょう」
 岩の影に身を隠し『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)と『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は言葉を交わす。
 島のどこかにあるという『船らしきもの』を探すにあたり、先に来ているスーツ姿の彼らと接触しないわけにはいかない。

 一方その頃、『ティブロン海賊団“大海原の探知者”』ルチア・アフラニア(p3p006865)、風花(p3p010364)そして『旅慣れた』辻岡 真(p3p004665)の3人は、島の北側へと向かっていた。
 沖に見えるカイトの船を一瞥し、ルチアはポツリと言葉を零す。
「へえ、海洋じゃ島が現れたり消えたりするものなのね」
「お宝とかあるのかな? まぁ、お宝を見つけてどうするかには興味ないけれど、沈没船と船内に眠るお宝があるなら、それがどういうのか見てみたい」
 逸る気持ちを押さえられないという様子で、真は辺りを見回している。
 時折、岩肌の上を拳サイズのヤドカリが這っているのが見えた。
「……船らしきものに財宝があったとしても、その回収は依頼の範疇ではないわよね」
「そうだけどさ。だってわくわくするじゃん!」
 ヤドカリの中には、貝殻でなく金属部品を背負っている個体がいた。
 フジツボなどが付着しているところを見るに、近くに沈没船でもあるのかもしれない。それを探すために来ているのだが、現在のところそれらしい影は見当たらない。
「……この周辺の海域では沈没しやすいということでは?」
 そう呟いた風花の前では、ヤドカリが威嚇のポーズをとっていた。

 スーツ姿の男が2人、女を庇って前に出た。
 青と白の髪色をした細身の女性は、守られることがさも当然と言った様子で近寄って来る一団を見やる。
 サングラスに隠されて、彼女の表情は窺えない。
 警戒か、興味か……どちらにしても、イレギュラーズに戦意が無いことを理解しているのだろう。軽く手を振り、護衛の男を下がらせる。
「あれー。もしかしてジェーンドゥ? はじめましてかな」
 気安い調子で『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が声をかけた。無警戒を装っているが、その脚運びに油断は無い。
「何をしに来たの? 俺たちはこの島へ依頼できたのだけれど、君たちも誰かにお願いされてここにいるの?」
 史之と女に面識は無い。
 しかし、その外見の特徴は以前の依頼で関わった救助対象によく似ていた。
「貴方、秋宮……いえ、寒櫻院・史之ね。それと、そっちは十夜・縁さん。有名人よね」
 はじめまして。
 口元に笑みを浮かべて女は言った。
「皆さんも島の調査? 奇遇ね。私も趣味で友人たちと島の探検に来たの」
 スーツ姿の男たちは、明らかに“友人”では無いだろう。どちらかと言えば、部下のようにしか見えない。
「ヴァカンツァでの件で借りがあるだろう。こっちの邪魔をしねぇなら俺達も“そっち”の目的は探らねぇ」
 名を呼ばれた『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が口を開いた。
 女はくっくと肩を揺らして、背後を指し示す。
「あぁ、言い忘れていたけれど。私はジェーン・ドゥさんとやらではないのよ? そうね……クラゲ子さんとでも呼んでくださいな」
 それから、と。
 女……改め、クラゲ子は自分の仲間とイレギュラーズを見比べて、ほんの一瞬顔を顰めたような気がした。
「調査ならお好きにどうぞ。邪魔をしないのならいくらでも。同じく、島を探検に来た同士ですものね。でも、成果は早いもの勝ちということで」
 クラゲ子の合図でスーツ姿の男たちは作業に戻る。
 どうやら地質や、周辺の安全を確認しているようだ。
 地面に広げられたシートの上には、ヤドカリから回収したらしい金属片も置かれている。
 それらを横目に見ながら、エクスマリアとノリアが島の中央……海水の泉へ近づいて行く。その後を追って史之、十夜……海洋では名の知れた2人の接近に、スーツの男たちは警戒心を顕わにした。
 場慣れしている。
 一瞬、男たちと視線を交差させた2人は、しかし黙って歩を進めた。
「1つ……借りは、既に報酬という形で返したでしょう」
 なんて。
 囁くように、クラゲ子は言った。

●島の調査
 島の北側。
 船を止めたカイトは、ゆっくりと空へ飛びあがる。
 高度をあげれば、島全体が見渡せた。
「あんまりヤドカリは狩りたくねぇな。やはりでっかい本体を探さないとな」
 島の全体に、無数のヤドカリが這いまわっているのが見える。
 そのうち一部が、金属片を背負っているのだ。中には、樽や木箱を宿にしている個体もいた。1体1体は大した大きさでは無いが、いかんせん数が多すぎる。
 一斉に襲い掛かられたら、あっという間に体力を削られるだろう。
「で、あっちの連中は……漁師仲間……っていうにはピシッとしすぎだな? どのシマのもんだ?」
 クラゲ子を中心に、統率の取れた動きをしている。
 徹底した上下関係があるのだろう。クラゲ子は後ろで手を組んだまま、男たちの作業を監督しているようだ。
「まぁ、交渉は上手くいったようだし、敵対はしないで済みそうか? あぁでも、『海洋国に仇なす』なら“鳥種勇者”として止める必要があるよな?」
 愛槍の出番があるかどうか、現時点では判断が付かない。
 利害関係が一致すれば、他人同士でも手を組める。同じように、利害がぶつかるのなら簡単に人は争い始める。
 何度も繰り返された事実だ。
 今更、人の善性ばかりに期待するほど幼くもない。
「北側はともなく、島の中央……あれは結構深いな。海底が見通せない」
 そして、どうにもヤドカリたちのほとんどは、そこから這い出ているようだ。

 海の底に沈んでいく。
 海面はきらきらと輝いて見えた。
 暗い暗い、水の中から見上げる空に、波紋がひとつ広がった。
 水中に飛び込んできたのはクラゲ子だ。
 サングラスを付けたまま、クラゲ子はこちらを見下ろしている。ノリアの行動を監視しているのか。
「……わたしたちの監視も、撃退も、面倒なのですから。だったら、わたしたちの手を、借りるほうが、得策でしょう」
 ノリアの声は、クラゲ子の耳に届いただろうか。
 クラゲ子は肩を竦めて笑う。
 ゆらゆらと。
 彼女は水の中を漂うみたいにして、ノリアの傍に近づいて来る。
「数の利ってあるじゃない?」
「あぁ……そういうこと、ですの」
 クラゲ子たちは、多くの金属片を回収していたはずだ。
 おそらく、島のどこかに船らしきものが沈んでいることを理解しているのだ。
 しかし、未だにそれを見つけられないでいる。
「船を、みつけたら、必要なところだけ、持ってゆけばいいですの」
 “成果は早いもの勝ち”とクラゲ子は言った。
 横取りしてでも、相手側より先に成果を得ればいいのだ。
「なにを、拾っていったのか、わたしたちは知らない……それが、かしこい、やりかたですの」
 
 海底に足を着けた史之は、耳を澄ませて目を閉じる。
「12時から2体、9時から3体」
 音の反響を読んでいるのか。
 史之は正しく、ヤドカリの位置を把握する。
 史之の指示に従って、十夜は刀を振り抜いた。刃に伝う硬い衝撃。弾かれたヤドカリが、弧を描いて水中に漂う。
 がら空きになった腹部へ向けて、十夜は刺突を放った。
 絶命したヤドカリの背から、金属部品が零れ落ちる。
「……これは、スクリューかな?」
 拾い上げた金属部品に手を触れて、史之はそう呟いた。
 それから彼は視線を上へ。
 ゆっくりと降りて来るのは、スーツを纏った大男。歳の頃は50を超えているだろうか。クラゲ子の部下だろう彼は、十夜へと視線を向けている。
「噂は兼ねがね……なるほど、大した腕だ」
「言っておくが、“元”だ。今はこの通り、利用価値のねぇただのおっさんさね」
「……そうか。では俺たちは敵対しないで済むということでいいか?」
「あぁ、ギャング同士のいざこざには発展しねぇ」
「話が見えないな。あんたは何をしに来たのさ?」
 スーツの男と十夜の会話に史之が割り込む。
 男の目的は、十夜と史之の監視だろうか。
「いや、事と次第によっては手を組めると思ってな。ここから先へ進もうとすると、ヤドカリたちが襲って来るんだ」
 スーツの男たちだけでは、これ以上先を調査出来ない。
 ならば、十夜と史之を加えて力づくで突破しようというわけだ。
 手を組める、と彼は言ったが……実際のところは、2人を利用しに来たのである。

 ヤドカリは20を超えるだろうか。
 眼前を埋め尽くすそれは“巨大な何か”の内より湧き出ているようだ。
 呼んだ魚の目を通し、エクスマリアはそれを見ている。
「これは……蹴散らすしか無い、な」
 ヤドカリの巣と化した“何か”の全貌は見えない。
 調べようにも、ヤドカリたちが次々と襲い来るせいでそれもままならないでいる。史之や十夜、そして2人のスーツ姿の男たちがヤドカリの相手をしているが、殲滅にはもう暫くの時間が必要となるだろう。
「っ……食われた、か」
 目を押さえ、エクスマリアはそう言った。
 目の代わりに使っていた魚がヤドカリに捕まり、喰われたのだ。
「おい! 海面が波打ってる! 来るぞ!」
 エクスマリアの頭上から、カイトの叫ぶ声がする。
 海中に潜った仲間たちが巣に接近したからだろう。触発されたヤドカリたちは、外敵を排除するべく海上にまで進行を開始したらしい。
「ならば、ヤドカリ退治、だな」
 目を見開いて、海面を見やる。
 青の瞳が、幻燈のように揺らめいて……水面へと這い出して来たヤドカリたちを、不可視の波濤が飲み込んだ。

 島の北側。
 沖にはカイトの船が停泊している辺り。
 海面が揺れるのを見て、真は腰を低く落とした。
 両腕に付けた手甲を掲げ、攻防一体の構えを取る。
「時間稼ぎは俺がやる。皆は状況を見て、逃走するなり、攻撃するなりしてくれ」
 ここは未知の島である。
 何が起こるか分からない。
 警戒は緩めていないし、油断もしていない。
 それと同時に、わくわくとした期待もある。
 だが、しかし……。
「島の中央へ、戻って、くださいですの」
「ヤドカリの大群が出たわ。人手が足りない」
 現れたのはノリアとクラゲ子の2人だ。
 虚を突かれたのか、真は顔をきょとんとさせる。
「探してるお船のようなもの、見つかったのかな?」
「それらしき、ものの影は、ありましたの。ヤドカリが、邪魔ですの」
 真の問いに答えを返したのはノリアだ。
「水中と地上、どちらに行けばいいの?」
 人手が必要なのはどちらか。
 ノリアとクラゲ子は、水中を通って島の北側に来たのだろう。つまり、中央の泉と外海は繋がっているということだ。
「水中で動ける人は付いてきた。残りは地上へ」
 クラゲ子の指示を聞いたルチアは、迷うことなく海へと跳び込む。

 カイトの槍が、ヤドカリの身体を空高くへと打ち上げた。
 そこへ駆け寄る影が1つ。
 地面を震わすほどの踏み込み。
 火炎を纏った真の拳が、ヤドカリの殻を撃ち砕く。
 地上に這い出たヤドカリたちが、視線を真へと向けた。真は後退しながらも、近づいて来たヤドカリ目掛けて拳を打ち込む。
「適当に戦って逃げながら相手を引き付けておく! 隙を突くなり、海中へ手伝いに行くなりしてくれ!」
 冒険に原生生物との戦闘は付き物だ。
 おまけにヤドカリを倒せば、金属片というアイテムまでドロップするのだ。真は喜色を隠せぬままに、スーツの男やエクスマリア、風花と協力して敵を倒していく。
「……数が多すぎませんか?」
 魔力の砲でヤドカリ数体を焼き焦がし、風花は焦った顔をする。
 ダメージをものともせずに、進撃を続けるヤドカリたちが風花の脚に群がった。皮膚を齧り、鋏を突き立て、少しずつ……しかし、確実に風花の体力を削っているのだ。
 そう長い時間を、持ち堪えることは出来ないかもしれない。
 その事実が風花の気を焦らせる。

 するり、と身体を捻らせて。
 ノリアはヤドカリの鋏を回避する。
「こちらには遠慮なく」
 攻撃を避けられたヤドカリの腹へ、ルチアが手を押し当てた。
 その手に宿る魔力の奔流。
 1点に集中されたそれを、刹那の間に解き放つ。
 衝撃。
 ヤドカリの体が内から弾けた。
「それにしても、どんな遺物が眠っているのか」
「興味ありますの?」
「興味がないわけではないけれど……個人の興味のために、第三勢力と敵対するつもりもないわ」
 ノリアと2人でルチアは次のヤドカリへ。
 そんな2人のすぐ傍に、クラゲ子の髪が揺らめいていた。
 
●島に眠るもの
 戦闘の気配に気が昂ったのか。
 押し寄せるヤドカリの群れに飲み込まれ、風花が地面に押し倒される。次々と襲い来るヤドカリに体を裂かれ、濡れた地面に血が広がった。
「真! 出番だ! ヤドカリを引き剥がせ!」
「あぁ、任せてくれ!」
 倒れたのは風花だけではない。
 地上に残っていたスーツの男2人も既に戦闘不能に陥っている。
 腕に火炎を灯した真が、ヤドカリの群れに殴りかかった。腕を裂かれながらも、次々にヤドカリを打ち払い……その隙を突いて、カイトは空から急降下。
 意識を失った風花を、腕に抱えて離脱した。
「波に呑まれ、恍惚のままに倒れるがいい」
 刹那、不可視の波濤がヤドカリを飲み込んだ。
 仲間を巻き込む心配が無ければ、何ら躊躇なく攻勢に出られる。
 ヤドカリの注意が真に向いている隙を突き、エクスマリアは淡々と敵の数を減らした。

 海水が揺れた。
 渦のごとき衝撃が、ヤドカリたちを吹き飛ばす。
 姿勢が崩れたヤドカリ目掛け、十夜が刀を一閃させた。
 並び戦う史之と十夜の表情には、濃い疲労の色が浮かんでいるようだ。一体、どれだけの数のヤドカリと戦い続けていたのか。
 全身に負った裂傷からは、絶えず血が流れ出している。
 傷の度合いで言えば十夜の方が酷いか。時折、自身に回復術を行使している史之に比べて、攻勢に比重を寄せているのだ。
「まだやれる?」
「問題ねぇよ。それに、見えて来たぞ」
 なんて。
 十夜の指さした先には、苔と泥に覆われた巨大な船の影がある。

 ヤドカリたちの数が減るなり、クラゲ子は一気に加速した。
 その後を追って、ノリスとルチアも船内へと飛び込んでいく。
 光の届かぬ暗い船内において、頼りになるのは己の直感や僅かな気配ばかりであった。
「?……なに、これ」
 きらり、と視界の隅で何かが光る。
 ルチアがそれを拾い上げた直後……衝撃が彼女の腹部を貫く。
 しゅるり、と。
 それは、割れた壁面より伸びてきた触手であった。
「っ!?」
 水中では姿勢の制御も難しい。
 吐き出した空気が、泡となって漂った。
 襲うのなら今が好機だろう。しかし、追撃は無い。
 何かの気配が遠ざかっていく。
 おそらくそれは、クラゲ子だろう。後を追いかけるルチアとノリスを置き去りにして、クラゲ子は船外へと脱出を果たしたようだ。
 海面へ向け、浮上を続けるシルエット。
 長く伸びた青と白の髪には、幾つかの金属片や木箱が抱え込まれていた。

 ヤドカリの群れが、巣に戻ってくるまでの間、ノリアとルチアは船内の調査を行った。
 結果として判明したのは、幾つかの事実。
 船はおよそ一世紀ほど前のもの。
 金属の部品が大量に使用されていることから、鋼鉄製の軍艦か、砕氷船の類であろう。
 また、船内の荷物は大半が朽ちて元の形を失っていた。
「持ち去られた木箱には、コインがたくさん、詰まっていましたの。クラゲ子さんは、それを隠したかったようですが、わたしには、隠された中身が、見えるのです」
「……お宝の類を独占しようというわけね」
 取得したコインを横取りされたことに少々の憤りを感じるが、なにはともあれ船の正体が判明したことで任務は無事に達成された。
 ここに来て争う必要もないと、ルチアは思考を切り替える。
 そうして2人が、海上へ戻った頃には既にクラゲ子たちは姿を消していた。カイト曰く、倒れた仲間を回収し早々に帰還したらしい。
 取得物に対する追及を避ける目的であろう。
「もしかしたら、人数を集めて再度の調査を行うつもりかもしれねぇな」
 なんて。
 遠ざかっていくクラゲ子たちの船を眺めてカイトは言った。
 できることなら、これ以上ヤドカリたちの生活を脅かすことはしたくないと、そんなことを考えながら。

成否

成功

MVP

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
島にある“船らしきもの”の正体および位置を特定できました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM