シナリオ詳細
<spinning wheel>苛む茨、守る木々。
オープニング
●
「状況は聞いてるか?」
「大体は」
特異運命座標達が集まるや否や、口火を切った情報屋は頷きながらも、矢継ぎ早にことのあらましの説明を行う。
「先日の報告から、現在我々は妖精女王との取引の結果、深緑へ向かう経路の確保に成功した。
今回貴様たちに与えられる依頼は、その経路……『大迷宮ヘイムダリオン』を通り、その先に在る大樹ファルカウの麓、『アンテローゼ大霊堂』を前線拠点として確保することだ」
大凡は聞いている通りである。情報屋の言葉に首肯を返した特異運命座標達に、少女もまた事前に用意していた資料を展開していて詳細な解説に取り掛かった。
「此度、貴様たちにはアンテローゼ大霊堂側にて行動してもらう。
依頼目標は『茨』の生成の一端を担う対象……便宜上『茨群』の討伐だ」
「……そいつを倒せば、今後『茨』が出てこないと?」
「一端と言ったろうが。幾らか勢いが減る程度だが、今回の作戦に於いてはそれとて明確な有利を取る要素になる」
曰く、『茨群』は体長10mを超す巨躯である反面、決められた位置から移動することなく待機し続けているという。
その行動は極めて単純で、「自身の体力を一定値削ることで『茨』を生み出す能力」と「自身の体力を大幅に回復する能力」の二つだけだという。
「回復能力は状態異常で阻害が可能だが、元々の体力が図体同様規格外だ。削るには苦労するぞ。
何より『茨』を生み出す能力は防げん。最悪分体であるそいつらに無抵抗で攻撃を受けながらも、『茨群』に集中攻撃を行う必要が出てくる」
「……あくまで通じる状態異常は回復の阻害だけ、と」
ありがたくない情報である。肩を竦める冒険者たちを無視して、尚も情報屋の解説は続く。
「そしてその『茨』の方だが、此方は分かり易い。状態異常とノックバックを主軸とした高命中攻撃便りのステータスだ」
「……戦場、確か寒いんだよな」
「それもあるが、聞いたところによると大樹ファルカウは現在呪いを受けており、霊堂内部もその影響を受けているらしい。
無論、貴様らもその効果範囲に入る。長期戦に縺れ込んだ場合、ほぼ完全に身動きが取れなくなると考えた方が良い」
うわ、と顔をしかめる特異運命座標達だが、流石にこればかりは対処法が存在しない。
短期戦とはいかずとも、可能な限り素早く戦闘を終える必要がある。それを理解した特異運命座標達へと、最後に情報屋が声を掛ける。
「……ああ、それと戦場には一般人も居る。救助は任せたぞ」
「は?」
●
――さむい、ねむい、からだがおもい。
身体が凍ってしまいそうなほどの冷気を浴びながら、それでも私は鈍い足取りで出口を目指します。
「……っ、また」
だだっ広い大霊堂の中は、沢山の『こわいもの』に溢れていました。
例えばそれは邪妖精、例えばそれはモンスター、例えばそれは――私を襲った、茨のように。
……深緑に於いて、間伐の為に例外的な木こりの職を認められている私たち一家。その一人娘である私がここに逃げ込んだのはつい最近の事。
大樹ファルカウの外れも外れで、日課の間引きを行っていた私を襲った沢山の蠢く茨。理由もわからず深緑の外へ外へと逃げ続けた挙句、辿り着いたこの場所すらも『こわいもの』に満たされていて。
「……けど」
疲れて、痛くて、諦めたくて。それでも「逃げなきゃ」と叫び続けました。
逃げなきゃ、何も伝えられない。或いは、私たちを助けてくれる誰かへと。
重い足を引きずるように、良く知らない建物の中を歩く私は、しかし。
「……!!」
その果てに居た、巨大な茨の集合体を目の当たりにしたのです。
なお悪いことに、茨の群れの向こう側には、恐らく外へとつながる出口が見えました。
「……ああ、もう」
疲労で碌に動かない身体に喝を入れて、私は前へと踏み出します。
こちらに気づき、疾る茨。それに真正面から突っ込みながら、私は。
「ファルカウ様、ファルカウ様。『再び』力をお貸しください……!」
懐から出だした数本の小枝を盾に変化させて、ひたすらに前へと進みました。
目の前の苦境。折れそうになる心。それら一つ一つを必死に耐える私は、その時、初めて目にしたのです。
8人の冒険者たち。
後に『イレギュラーズ』と呼ばれていることを知った、彼らの姿を。
- <spinning wheel>苛む茨、守る木々。完了
- GM名田辺正彦
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年04月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「茨の討伐、というよりは間引きみたいなものでしょうか」
巨大な聖堂内を駆ける、八つの姿が在った。
聖堂内の脅威を払うべく走る特異運命座標の内、ぽつりと呟いたのは『忠犬』すずな(p3p005307)。
極端に低下している気温ゆえ、薄く氷の張られた廊下を走る彼女らの足元からはぱきぱきと言う音が鳴り続けている。
昼なのにこの寒さとは! と辟易交じりの驚嘆を露わにする彼女に同意するよう頷く『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は、しかしその表情に宿る決意を弛ませぬまま。
――此度、彼らに託された依頼。聖堂内の敵の排除と共に、其処に迷い込んだ一人の一般人の救助を想えば、と。
「逃げ込んだ先が此処とは、運が悪いのか良いのか……」
「こうなるに至った来歴は関係ない。
彼女は真っ先に助けられるべきであり、我々がその為の力となるべきだ」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の言葉に対し、断固たる口調で答えた『フラッチェ』ヴュルガー(p3p010434)。
一瞬だけドラゴニアの青年を見た少女は、「そうですね」とだけ言葉を返した。省みる猶予はないという意味では、確かにヴュルガーの言葉は正鵠を射ていたから。
「……え……!?」
そうして、彼らは邂逅を果たす。
辿り着く目標地点、既に開かれていた巨大な扉の向こう側。
ホールの天井に至らんとする数多の茨の群れのさらに奥で、目を見開いた少女の姿が覗かれた。
「――――――確保を!」
言葉を、最初に叫んだのは誰だったのか。
真っ先に挙動したのは『砂漠の蛇』サルヴェナーズ・ザラスシュティ(p3p009720)。茨の群れが少女と特異運命座標、両者の姿を察知して茨の生成活動を行うよりも早く、彼女は、否。
「一人で、よく頑張ってくれたねぇ……」
特異運命座標達は、戦場を跳んで、飛ぶ。
助けに来たよぉ、と声一つ。仲間たちのほぼ全員がスキルや装備等での飛行能力を介して茨群を通り抜け、少女の周囲に陣取る中で、真っ先に言葉を掛けたのは『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)だった。
「……っ、あの。
ファルカウ様が、私たちの国が、襲われて……!!」
「うん、分かってる。
大丈夫。ここからはわたし達も手伝うよぉ、だから力を貸してくれるかなぁ?」
「……はい!」
ふと微笑んだシルキィの背後にて、通過した茨群が不気味な蠕動を繰り返す。
次いで、身を引きちぎるようにして分離した小さな茨たち。不快感を隠さない仲間たちの只中に於いて、『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)が吐き捨てるように言う。
「ただの茨ならまだしも、なかなか厄介なモンだな」
「全くだ。『これ』で散々悩まされた茨が少しでも減るといいが」
身にした長布をひらりとはためかせ、呟く『舞祈る』アルトゥライネル(p3p008166)。
明確に敵対の姿勢を取る特異運命座標達に対して、自我を、意思を持たない茨群が何をするということは無い。
しかし、彼らは予想する。若し彼の茨たちが感情を抱くことがあったのなら――今想うそれは、恐れそのものであろうと。
「さて、俺達もこれで背水の陣と言うわけだ」
「やれ、これは思った以上に骨が折れそうですね……!」
アルトゥライネルの言葉にすずなが応え、得物を構えて疾駆する冒険者たち。
人と茨が、交錯を始めた。
●
ばぐんっ、という音と共に、膨れ上がった茨群。
先ほど『子』を生み出した際、削った身体が再生していく。少女――『伐材呼び』のカタラと呼ばれる彼女を真っ先に保護するために費やした一手分のロスを、特異運命座標達は先ず致し方なしと受け入れた。
「見るだに気が重くなる体躯ではありますが……」
同時に。
それ以上の回復を許しはしないと、すずなが剣を薙ぐ。
「その分狙いやすいのであれば、贅沢も言えませんか!」
銀光。『匠の分水剣覇』が冷気を裂く。
破邪の如き光に相反した殺人剣。飛刃六短は正確に茨群に癒されぬ傷を叩きつけ、それに応えるかのように敵は大きく身を震わせる。
『――――――!!』
そして、そのような『親』を襲う輩を引きはがさんとする茨たちに対して動くのはサルヴェナーズ。
「……狙う相手を間違えていますよ」
自らの眼帯を僅かにずらし、覗く魔眼に呪詛を込め呟く彼女へと、茨たちも殺到する。
伸びる茨の鞭。身を叩かれる彼女の身体が弾き飛ばされ、同時に毒が襲う。が、未だ浅い。
「わ、わ……!?」
しかし、距離は取らされた。
少なくとも即座に射程に収められる距離から離脱させられたサルヴェナーズに代わり、残る茨たちがカタラを目指して動く、が――
「どうか、暫しお待ちを」
無論、それを許すほど、特異運命座標達も浅はかではない。
『Mistarille.』に指先の血を零す。己の血を以て贖うべき罪、その具現の如く展開された無限の銀光が、広大な戦場に於いてアッシュが敵と認識した者のみを的確に切り裂いていく。
千々に舞う茨の欠片。糸切傀儡と名付けられた異術を独自のスタイルで発露させたのはアッシュと、もう一人。
「ファルカウへの呪い。茨咎の呪い。
それにわたし達がやられちゃう前に……倒し切らないと!」
アッシュが双手から放つ朱と碧の糸。それらは格子状となり、茨群を配下ごと断ち切る。
事前に情報屋から伝え聞いていた通り、生み出された茨たち個々の体力はそれほどでもない。範囲攻撃ですら精々三発程度を耐えきる程度で倒されていく。
が、対して茨群の側も情報通り、初動から特異運命座標達が撃ち込む攻勢に対して未だ小動もしていない。
「ったく、あたしらもそう長居はできねえってのに……!!」
忌々しげに零すシオンの言葉は、きっとその場にいた特異運命座標達全員の総意であったことだろう。
『利刃』、そして『アステラ』。展開した直死の魔性は自らの身すら拉がせながら敵を叩くも、しかし傍目にはどれほどのダメージが与えられたのか判断しがたい彼女の焦りは徐々に高まっていく。
これが何の制限も無い戦闘であるならば、それでも少しずつ削っていくことを念頭に続行できただろう。しかし先にもシルキィが言った『茨咎の呪い』が時間経過と共に特異運命座標らを侵食してきている現在、過度に時間をかけた戦いは即ち敗北を意味している。
「否が応でも気合が入るな……!!」
しかし、それでもダメージは確かに蓄積している。
致命の状態異常が払拭されたと確認した瞬間に毒蛇の術式を撃ち込んだアルトゥライネル然り、複数の仲間たちが茨群への回復を妨害する手段を講じている為である。結果として現在に至るまで、敵は最初の一回を除いて自身の回復を行えていない。
と、なれば。あとは単純な短期戦での削り合い。
「……え、と。ヴュルガーさん」
「ああ、助かる」
シオンの指示により、行使の優先度順から自己の異能をヴュルガーへと施すカタラに、対する彼も短く礼を言う。
――自らの役目に忠実だった少女。だのにその在り様を疎んじられた少女。
そうした彼女に対して、ヴュルガーが抱く想いは至極単純だ。己を否定しない彼女を救う。自らはその一助となる。
「大丈夫だ。君はもう一人じゃない」
自身の機械服から展開したドローンをカタラの傍につけ、ヴュルガーは小さく、しかし確かに言う。
「皆と一緒に居ろ。私が、私たちがついている……!」
構えた魔力砲が、轟音と共に敵陣に穴を開ける。
茨の群れは、その時確かに大きく揺らいだ。
●
特異運命座標達の戦闘は概ね順当に展開されている。
複数の仲間が状況に応じて回復阻害の状態異常を付与しつつ、アッシュとシルキィが茨の分体への攻撃、サルヴェナーズが攻撃のドローイング、他の仲間たちは茨群そのものへと攻手を集中させて一気に削り取る算段。メンバー内に純粋な回復役が居ないこともあって、この戦法が彼らにとってベターであることは否定しようも無い。
が、どうしようもない陥穽と言うものは必ず生まれてしまう。それがどれほど小さかろうと。
「っ、全く、これで何度目でしょうか……!」
苛立ち紛れに言葉を漏らしたのはサルヴェナーズ。吹き飛ばされた自身の体勢を整え終え、再度復帰しようとする彼女を、敵方の後方からさらに多くの茨が伸びることで難しくさせている。
敵の攻撃誘導を行っているサルヴェナーズ。非戦スキルやギフト等を介してまで自身に攻撃を集中させようとする彼女は、それが『過剰』であると理解するのに時間を要さなかった。
茨の分体たちがどのような手段で特異運命座標らを知覚しているのかはともかく、彼女の行動は確かに功を奏していたが……それは言い換えれば、怒りの状態異常以外による攻撃すら引き付けてしまう結果をもたらしたということでもある。
分体の攻撃は、一定精度で命中した対象を弾き飛ばす特性を持っている。元々が高命中かつ遠距離対象を取るそれに、サルヴェナーズが回避しうる手段はそう多くなく、結果として彼女は頻繁に戦場から離脱を余儀なくされる場面が多々あった。
そして、そうした被害に遭うのは彼女だけではない。
「――――――、未だ!」
持ち前の身の軽さを活かして、精撃を寸でのところで回避したアッシュが、返す刀と再度の範囲攻撃で以て茨たちを叩く。
天より降り注ぐ気糸に、押しつぶされたがごとく潰えていく茨たち。尤もそれを介したアッシュの身体は、時間と共に動きを鈍くしていく我が身に焦燥を隠せぬまま。
弾き飛ばされる。状態異常で身を固めさせられる。極めつけは討伐対象の潤沢過ぎる生命力。
戦場全体に於ける時間制限が無ければ弄する相手でも無かろう敵に対して、しかし隻眼の少女は諦観を抱かず。
「……アッシュ、さん」
背後よりの声。振り返る彼女の視界には、頽れ、瞳を閉じかけたカタラの姿が。
臍を噛んだのはアッシュだけではあるまい。茨咎の呪いは彼女にも至っていたのだ。それは少女の命を絶つことこそ無かろうが――恐らく今後の行動は難しいだろうと考えるには十分。
「ごめん、なさい、わたし」
「……いいえ、貴方は為すべきを為しました」
自身の『退場』を詫びるカタラに対して、アッシュは頭を振ってそれを否定する。
事実、彼女の支援に因って強化されたすずなを筆頭に、特異運命座標達が与えたダメージは十分と言える。本来であれば長きにわたる戦いを必要とする敵は、数分に至る程度の時点で間違いなく限界に近付いているのだ。
「……皆さんに、伝えられましたから。
いざとなったら、私を、置いて……」
「いいえ。以下に危険な相手とて。今この時、誰も諦めてはいないのです」
――その言葉と共に、爆ぜる戦場。
茨群を中心に、数多の茨たちへと燃え盛る炎を生み出したアルトゥライネルは、小さく笑みながらカタラを見た。
「ひとつ燃やしてみるか。本来なら御法度の火もこう凍えるなら致し方ない、だろう?」
……深緑と言う国家に於いてはあまり良い印象を抱かれるものでは無かろう術技を、何のためらいも無く行使する彼の表情は自然そのもの。
故郷に倦まれた少女と、故郷を捨てた少年の視線は交錯する。彼我に灯る感情が悪しからぬことを確認したのち、彼は視線を敵へと戻した。
「一発限定だけど。ここが使いどき、だよねぇ……!!」
同様に、シルキィも。
全員の避難を勧告したのち、降らせたのは天紡星。飛来した一糸が茨群に触れたと同時、残る茨の分体をほぼ全て巻き込んで星一つ分の着弾を形作る。
特異運命座標達は十分に理解していた。「命中すれば良い」ような敵に対してカバーリングやドローイングが然したる意味を持たないのであれば、その個体を討伐対象ごと複数対象攻撃で散らしてしまえばいいと。
当然シルキィが独り言ちた通り、そうした攻撃手段に於ける気力の消費は激しいものの、もとより長期戦が出来ない戦場ならばそれを気にする道理すらない。
「カタラ」
一時的にとはいえ分体が無くなった戦場。未だにしぶとく生き残る茨群に黒顎魔王を放つシオンが、最後に一度だけ問う。
――即ち、「あと一度だけ動けるか」と。
『――――――!!』
少女が応えるよりも早く、最早幾度目かもわからぬ分体の生成。
即座に襲い来るそれらを、しかしやらせまいと復帰したサルヴェナーズが再び誘導し、
「……禁忌を生業とした彼女とて」
隙を生んだ、茨群へとヴュルガーが飯綱を叩き出す。
「それを救わない道理が、何処に在る……!!」
数十発の攻撃を、避けること叶わず受け続けた茨群の巨躯は、最早中ほどで折れかかっている。
「………………!!」
その『折れ目』へと、疾駆する少女が一人。
すずなが。最後の最後、偶然にも呪いを抜け出したカタラに因って木々の恵みを施された彼女が、手にする刀を双手に握って地を滑るように接敵する。
「……八重の桜、とは行きませんか」
刹那。想起した密かな想い人の剣舞に、すずなは苦笑交じりにそう呟いた。
薙ぐは一手。放たれた剣閃は合計で四度。
茨群を通り抜けた彼女の背後にて、荒々しき花弁の如き断面を見せながら、茨群はその活動を停止していた。
●
特異運命座標達の負傷は然程多くはない。
が、今なお降り注ぐ呪いが問題であった。これ以上戦場に留まることは危ういと判断した彼らは、その時点での一時撤退を決定する。
「カタラちゃん、大丈夫? もうちょっとだけ我慢してねぇ」
「はい、……いえ。皆さん」
癒術を施すシルキィの言葉に、涙ぐむカタラは、その後「ありがとうございます」と言葉を告げる。
戦闘時と同様、自身のドローンにカタラの移動補助を命令したヴュルガーは、それに対して何を言うでもなくただ彼女の頭を撫でた。
「……行こうぜ。冬の寒さ自体は鉄帝で慣れちゃいるが、こいつは単純に寒いってだけじゃない。だろ?」
「ええ。念のために聞いておきますが、カタラさん。茨や聖堂内の『こわいもの』について、何かわかったことは有りますか?」
「……ごめんなさい。私、逃げるのに必死で……」
元より期待しすぎないよう言われていたカタラからの情報に対して、一つ頷いたサルヴェナーズはそれ以上を聞かずに優しく誘導を始める。
「大聖堂内には他にもこれがあるとしたら、大掃除が必要だな……」
「それは他の方々に、或いは次の機会の私たちに期待しましょう。
今できること、命ぜられたことはやり遂げました。後は皆を信じるだけです」
疲れ交じりに吐いたアルトゥライネルの言葉に、静かな笑顔で返すすずな。
その言葉に不安を覚えたわけではなかろうが、カタラは去り際、自らが来た方角――今となっては戻ることも出来ない故郷、深緑の都の側へと視線を送る。
「……持てる限りを尽くす。わたしに、わたし達に出来るのは、今もこれからも、ただ其れだけ」
それを察知したアッシュが、静かに彼女へと語り掛ける。
未だ、不安を拭えていないカタラとは違い、ただ真っすぐに前を見る彼女は、そしてこうも言ったのだ。
――だからどうか、恐れないで、と。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加、有難うございました。
GMコメント
GMの田辺です。
以下、シナリオ詳細。
●成功条件
・『伐材呼び』カタラの戦闘不能、または重傷状態の回避
・『茨群』の撃破
●場所
アンテローゼ大聖堂内部。複数存在するホールの一つですが、それでも下記『茨群』が入っている程度には巨大です。時間帯は昼。
戦場は極めて寒く、その影響で床などに薄く氷なども張っています。然るべき装備か非戦スキルが無い場合、急な挙動を行った時などにバランスを崩す可能性が在ります。
戦場は『参加者――『茨群』――『伐材呼び』カタラ』の順で、部屋の扉から扉まで一直線の状況。
戦闘開始時、彼我の距離は
『茨群』まで20m
『伐材呼び』カタラまで60m
の状況です。
●敵
『茨群』
戦場である大聖堂内にて、下記『茨』の生成の一部を担当している茨の群れです。体長10m。
自我と言うより自由意志は無く、与えられた行動のみを行うシステム。非常に高い体力を持ち、【致命】を除くほぼすべての状態異常を無効化します。
能力は「自身のHPを一定値削ることで『茨』を生み出す能力」「自身のHPを大幅に回復する能力」の二つ。前者の能力によってどの程度の数の『茨』が生成されるかは不明です。
『茨』
上記『茨群』によって生み出された正体不明の茨です。数は戦闘開始時点で0体。
複数の状態異常を与え、[飛]属性を伴う高命中な遠距離単体攻撃を主な攻撃手段とします。それらを除いた基本的なステータス能力はおしなべて低めです。
●その他
『伐材呼び』カタラ
深緑に於いては禁忌である木々の伐採を、間引きの目的で例外的に許されていた木こりの少女です。年齢15歳の人間種。
国からの許可を得ていることを理解していながらも深緑の住民から爪弾きにされていた彼女は、職務である間伐の為に大樹ファルカウの外れに出ていたとき『茨』による急襲を受け、其処から逃げ延びる形で、現在ではアンテローゼ大聖堂内に移動していました。
そうした理由から、彼女は現在の深緑の状況を把握しておりません。少なくとも彼女を通しての情報収集は意味を為さないだろうと推測できます。
戦闘面に於いてですが、彼女自身の能力はあくまで只の少女としての域を出ません。ただし木々への敬意を以て斧を振るう彼女には『伐した木材から一定の助力を得られる』能力を有しております。
具体的には
「遠距離単体対象に対し、一定値までのダメージと一定回数までの状態異常を無効化してくれる木の鎧を付与する能力」
「近距離単体対象に対し、次の攻撃に於けるダメージの増加とAP消費量の低下を付与する木々の恵みを施す能力」
「樹木の人形を少数体生み出し、複数対象を一時的に足止めする能力」
の三つ。これらの能力は何れも彼女自身が現在有している間伐材を消費することで行使されます。
参加者の皆さんが協力を仰げば、彼女はその指示に従うでしょう。
●『茨咎の呪い』
大樹ファルカウを中心に広がっている何らかの呪いです。
イレギュラーズ軍勢はこの呪いの影響によりターン経過により解除不可の【麻痺系列】BS相応のバッドステータスが付与されます。
(【麻痺系列】BS『相応』のバッドステータスです。麻痺系列『そのもの』ではないですので、麻痺耐性などでは防げません。)
25ターンが経過した時点で急速に呪いが進行し【100%の確率でそのターンの能動行動が行えなくなる。(受動防御は可能)】となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、ご参加をお待ちしております。
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