シナリオ詳細
装甲馬車と黒光火薬。或いは、アイスバーンの疾走…。
オープニング
●雪上の盗賊
奪われたのはたった1枚の紙だった。
鉄帝。
北東、ヴィーザル地方を訪れた1つの部隊が盗賊たちに襲われた。
彼らが運んでいたのは、とある爆弾の設計図だ。
ある優秀な工兵が設計し、大型の魔物でさえ1発で粉々にする威力を誇るその爆弾は、実に有用で、そして危険すぎる代物だ。
かつて1度だけ使用されたそれは、平原の地形を大きく変えた。
爆弾の危険性を知った鉄帝の開発者たちは設計図を封印することに決めたのだ。
けれど、しかし……。
それが奪われた。
雪原の果てにある兵器研究施設へ向かう途中のことだ。
部隊は壊滅し、生き残りは1人だけ。
瀕死の重傷を負った彼は、設計図を奪っていた者たちのことを『鋼鉄の旅団』であると言った。
合計5台の装甲馬車。
通常のそれに比べると装甲が分厚く、車体は低い。
馬はいないが、自走する機能が備え付けられているそれが『鋼鉄の旅団』の名前の由来で、そして最も頼りになる武器だ。
それぞれの馬車の前には、防寒着を纏った男たちが2人ずつ。
がっしりとした体躯からよく鍛えられていることがよくわかる。
「ブースターの補充は済んだか? 武器のメンテナンスは? 設計図の解読は終わったぞ!」
声を張り上げ、そう告げたのは身の丈3メートルに迫ろうかという大男だ。
鋼の義手を強く握り絞め、男は装甲馬車の壁面を叩く。
金属同士がぶつかる硬質な音。
「近日中に再び出るぞ。設計図を解読した結果、今の我々には足りないものがあることが分かった」
そう言って男……キースが取り出したのはつい先日、強奪して来たばかりの設計図である。
「研究施設に保管されている鉱石……“黒光火薬”が不可欠だ。まずは研究施設を襲ってそれを奪う」
まずは現物を手に入れる。
自分たちでそれを入手する手段を確立するのはその後でも構わない。
キースたち『鋼鉄の旅団』は研究者でも、兵器開発者でもないのだ。
欲しいものがあれば、奪えばいい。
「我々は奪えば奪うほどに強靭な組織となる。我々の装備も、この装甲馬車もそうだ」
キースが付けている鋼の義手も、男たちが手にしたボウガンも、装甲馬車の屋根についているガトリングも。
それから、装甲馬車を1時的に急加速させる“ブースター”と呼ばれる装置も、全てが他人から奪ったものだ。
つまるところ、キースたち『鋼鉄の旅団』は盗賊だ。
●黒光火薬争奪戦
用意された4台の馬車。
それを牽く毛足の長い馬。
巨体で、脚の太い馬たちは雪の積もった地面でさえも容易に駆け抜けるだろう。
「よくしつけられているからな。素人が手綱を握っても、それなりにしっかり走るだろうさ。もちろん、自前の乗り物があるのならそれを使っても構わないがな」
そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は馬の顔に手を触れる。
ふるる、と荒い鼻息を吐いて馬は1歩後ろに下がった。どうやら顔に触れられるのはあまり好みではないらしい。
「今回の依頼だが、内容は黒光火薬の運搬任務だ。兵器研究施設に保管されている黒光火薬を回収し、雪原を抜けた先にある海岸まで運んでくれ」
海岸ではローレットが雇った運び屋が控えているそうだ。
その者に黒光火薬の詰まった箱を手渡せば、無事に任務は完了となる。
「黒光火薬は金属製の箱に詰められて保管されている。誘爆などの心配はないが、それなりに重たいようだな。あぁ、それと箱の数は全部で3つだ」
兵器研究施設で3つの箱を受け取って、『鋼鉄の旅団』を振り切りながら海岸を目指す。
任務の内容としては、至極単純なものだろう。
問題となるのはやはり『鋼鉄の旅団』の武力となるか。
「連中の装備だが【感電】の付与されたボウガンと矢と、【ブレイク】【無常】【崩落】の付与されたガトリングの弾が主となる。また、格闘戦も相応にこなせるようだ」
遠距離からの攻撃手段が豊富であることに加え、装甲馬車の存在もある。
“ブースター”と呼ばれる装置により、1時的な加速を可能としているのだ。
当然『鋼鉄の旅団』は、自分たちの強みをしっかりと理解している。
以前、設計図の奪取を図った際にも装甲馬車による騎乗戦を選択したことからもそれは明白である。
「一応、兵器研究施設から海岸への地図は用意しているが……何しろ目印になるもののない雪原だからな。迷わないよう注意してくれ」
それから、と。
ショウは地図の一ヶ所……兵器研究施設の場所を指さして言う。
「兵器研究施設だが、詰めているのは研究者ばかりだ。つまり自衛能力が低い。君たちの到着より先に『鋼鉄の旅団』が襲撃をかける可能性もあるということだ」
そうなった場合は、黒光火薬を『鋼鉄の旅団』から奪い返す必要が生じる。
どちらにせよ、交戦は避けられない。
追いかけながら戦うか、逃げながら戦うか。
違うのはたったそれだけだ。
- 装甲馬車と黒光火薬。或いは、アイスバーンの疾走…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月26日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●stage1・兵器研究所
爆音。
大地が揺れて、空気が震えた。
ところは鉄帝。
ヴィーザル地方。
雪原の果て、人里から遠く離れた場所に、灰色の建物がポツンとあった。雪の積もった飾り気のない、質素な外観。窓や扉の類も少なく、壁は見るからに分厚い。
居住性能が極限まで排された建物……兵器研究所の周囲には、未だ火薬の香りが漂う。
見れば、雪に覆われた地面のそこかしこにクレーターや焦げ跡が残っているではないか。おそらくそれらは、何らかの兵器の実験によって作られたものだろう。
研究所の壁面からは、濛々とした黒煙が燻る。
煙と炎から逃げ惑うように、白衣や作業着を着た研究者たちが次々と雪原へ飛び出して来た。彼らは一様に焦った表情を浮かべ、全身に幾らかの火傷や擦り傷を負っている。
そんな彼らをあざ笑うように、ドゥルルとエンジンの唸る音。
黒煙と業火を突き破り、都合5台の鉄の塊……自走式装甲馬車が飛び出した。
「余計なものに目をくれるな! 一切合切奪う機会はまた今度だ! “黒光火薬”だけを持ち去れ、落とすなよ!」
中央を走る装甲馬車の荷台から、周囲に向けて大声を張るのは身の丈3メートルに迫ろうかという大男だ。名をキースという、盗賊『鋼鉄の旅団』の頭目である。
キースは小脇に抱えた金属箱を見下ろし、にぃと口角に笑みを浮かべた。
金属箱の中身は“黒光火薬”という最新式の火薬である。
兵器研究所にて造られたそれを強奪するのが、彼らの目的であった。
「設計図も材料も揃った! アジトに帰還次第、量産に移るぞ!」
キースの宣誓に、仲間たちが喝采を上げる。
景気づけとばかりに装甲馬車のアクセルを踏み込み、排気ガスを濛々と吐き出させる者もいる始末だ。
けれど、しかし……。
「あん? なん……っ!?」
装甲馬車に乗っていた賊の1人が空を見上げて目を剥いた。
頭上にかかる濃い影に疑問を覚えて顔を上へと向けた彼は、そこでこちらを見下ろす4頭のワイバーンに気が付いたのである。
「うわあ、なかなか大変な依頼に来ちゃったかも……頑張ろうね、リョク」
ワイバーンの背には小柄な人影。
雪にも負けぬ白い髪をした彼女の名は『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)。ワイバーンのリョクに騎乗し、逃走を図る『鋼鉄旅団』を追いかける。
「ボムを担いで雪上装甲車レース! これで仕事じゃなきゃ思いっきり楽しめそうなイベントなんだけれどね!」
「轍を辿って追いかける手間は省けましたね。では、何としても奪い返しましょう」
2頭のワイバーンが身体を傾け、左右へ分かれた。
それを駆るのは『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)と『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)。ひと塊になって逃げる装甲馬車を包囲する心算だろう。
「盗賊達がそんな危険な爆弾を製造してしまったら、大変な事になりそうだ。確実に阻止するぞ!」
「挟まれるな! 左右のワイバーンを撃ち落とせ! 隊列を横へ広げろ!」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)とキースが叫んだのは同時。
荷台にかぶせていた布を取っ払い、顕わになるのは黒鉄色の砲塔だ。
「ファイア!」
キースが叫び、賊たちが行動を開始した。
ガトリングの掃射を受けて、イグナートおよびオリーブがワイバーンの高度をあげる。
「キース! 右手からなんか来やがった!」
「何かじゃ分かるか! もっとよく見ろ!」
「……いや、ありゃ人じゃねぇか!?」
最後尾を走る装甲馬車の荷台から、賊の1人が驚愕の声を叫ぶ。
右手より雪を撒き散らしながら駆けて来るのは、白い髪の巨躯の男だ。
「またしょうもねえコソドロが湧きやがったかよ!」
獣のように歯を剥いて『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が吠え猛る。
「ここヴィーザルも、もうすっかりおれさまの庭……つまり縄張りだ!」
片手に盾、片手に斧を構えて駆けるグドルフを見て、賊の男は悲鳴をあげた。
グドルフの背後に馬車が1台。
巨躯の馬が牽く馬車に乗るのは3人の女性だ。
「待ちたまえ! 絶対に逃がさないよ!」
「……ああ、渡すつもりはないさ」
馬車の荷台で『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)が起立する。空へと片腕を掲げて見せれば、遥か上空の黒雲がバリと紫電を迸らせた。
一方『龍魔術師』カーリン・ラーザー(p3p010424)はと言えば、前へと突き出した片方の腕に、ごうと燃える業火を灯した。
「車間を空けろ! 蛇行だ! 射線をずらせ!」
2人の狙いは装甲馬車の破壊だろう。
そうアタリをつけたキースが仲間たちへ指示を出す。
5台の装甲馬車は車間を空けると、キースの指示に従って車体を右へ、左へと振る。降り注ぐ雷電と、焔の魔弾の間をすり抜けながら一目散に逃走を図るのだ。
「あおーん! 狩人の腕の見せ所だね!」
装甲馬車の速度が落ちた。
荷台に伏せた『( ‘ᾥ’ )の化身』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)は、ライフルのストックを肩に押し当て片目を閉じる。
高速で走る馬車の車軸へ弾丸を当てるのは難しい。
しかし、速度が落ちたのならば話は別だ。
トリガーに指をかけ。
すぅ、と空気を吸い込んで……リコリスは指にほんの僅かな力を込めた。
●stage2・雪原
撃鉄が落ちる。
火花が散った。
弾丸が撃ち抜いたのは、装甲馬車の荷台にたった男の肩だ。
短い悲鳴と、飛び散る血飛沫。
一瞬、ガトリングの掃射が止まる。
その隙を突いて、高度を下げたワイバーンが1頭。
騎乗するのはイグナートだ。
「狙えるのであればブースター、ムリそうなら車輪を狙ってぶっ壊して行くね!」
地面すれすれを飛ぶワイバーン。
その背を蹴ってイグナートが跳んだ。
狙うは隊列の中央付近を走っている装甲馬車だ。
「何かする気だ! 銀髪の男へ狙いをかえろ!」
キースの指示に従って、ガトリングの1つが狙いをイグナートへと変える。降り注ぐ弾丸を浴び、ワイバーンが姿勢を崩した。
積もった雪を土砂のように巻き上げながら、ワイバーンは墜落。
白い雪原に血の痕跡を残しながら、イグナートの身体が転がっていく。
トドメを刺すべく弾幕がイグナートを追った。
「おっと、そこまでだ。ビキビキとキちまってるぜ。こりゃボコボコにしてやらねェと気が済まねえのさ!」
間に割り込む巨躯の影。
盾を構えたグドルフが、イグナートを庇い弾幕を浴びた。腕を、脚を、脇腹を、次々と弾丸が撃ち抜いていく。
自身に治癒を施しながら、グドルフは決して後退しない。地面を這うように駆けるイグナートと一緒に、馬車の進路上へと移動した。
「轢け!」
「了解だ!」
キースの指示に従って、賊は大きくハンドルを切った。
グドルフとイグナートを馬車の正面に捉えた賊は、手元のスイッチを操作する。
ごう、と装甲馬車の後部が火炎を噴いた。
取り付けられたブースターが起動し、装甲馬車は急加速。地面に焦げ跡を残しながら疾駆する装甲馬車は、そのまま2人を轢き潰すつもりなのだろう。
回避も防御も間に合わない。
だから、イグナートは腕を引いて腰を落とした。
「雪上でゼシュテルの鉄騎種にケンカを売ったことをコウカイさせてあげるよ!」
渾身の力を込めた殴打を放つ。
その一撃は、確かに音を置き去りにした。
破城鎚でも叩き込まれたような衝撃が、装甲馬車を貫いた。へしゃげたフロント、砕けた車輪。傾いた車体が大きく揺れて、グドルフが荷台に飛び乗った。
「このおれさまを出しぬいたつもりかよ? ナメたマネしやがって」
「っ……!」
荷台の賊は腰から下げたボウガンへ手を伸ばす。
だが、間に合わない。
「……は?」
否、間に合わないのではない。
撃てないのだ。
抜いたはずのボウガンは、いつの間にかグドルフの手元にあったのだから。
「まあいいさ、奪う事こそ山賊の本懐だぜ。火薬どころか、何もかも奪い尽くしてやるぜえ!」
武器を失い困惑している男の視界に、きらりと鈍い光が見えた。
振り下ろされたグドルフの斧が、賊の肩口に食い込んで……肉を断ち、骨を砕き、意識さえもを奪い去る。
制御を失い進路を逸れる装甲馬車の荷台から、金属の箱が投げ捨てられた。
「黒光火薬だ! 回収して!」
「馬車を停めろ! 箱を回収する!」
雪上を転がる箱を指さし、リリーが叫ぶ。
それと同時に2台の馬車が停止した。
荷台から飛び降りたキースが金属箱へと駆けていく。
キースを援護するべく、2台の馬車からガトリングの掃射。
「連携を滅茶苦茶にしておくよBSをどんどんぶつけてくる!」
「火薬は俺が。必ず取り返すから安心してくれ」
リリーの乗ったワイバーンは2台の馬車へ。
イズマの乗ったワイバーンは金属箱へと別れて向かった。
「こんな変なのの相手、したことあるっ?」
リリーの放った呪いの魔弾が砲手の1人を撃ち抜いた。
着弾した肩から、砲手の全身へ黒い瘴気が広がっていく。
2門のガトリングのうち片方が止まった。
次いでリリーは、もう1人の砲手へ手を翳し……。
「ふざけんな!」
腹部に矢を受け、ワイバーンから落下する。
しかし、リリーは地面に落ちるその直前、次の魔弾を撃ち出した。まっすぐにそれは、もう1人の砲手に命中。
ガトリングの掃射が完全に止んで……地面に落ちたリリー目掛けて、さらに2本の矢が飛んだ。
金属箱に手をかけたのは全くの同時。
イズマが細剣を抜くのと、キースがボウガンを構えるのも同時。
「その手を離せ」
「そちらこそ。設計図も返してもらうぞ」
告げると同時に、響く金属の触れる音。
火花が散った。
イズマの剣と、ボウガンの矢がぶつかったのだ。
1歩、イズマは前へと踏み出した。
1歩、キースは後ろへ下がる。
イズマの剣がキースの脇を貫いて。
キースの放った鉄の矢が、イズマの腹に突き刺さる。
「1時間もチェイスなんてやってられない。ここで観念しろ」
血を吐きながら、イズマは剣を振り抜いた。
キースが2の矢を番える前に、手首から肘にかけてを深く斬り裂く。
血飛沫が舞って、キースはたまらず踏鞴を踏んで転がった。倒れながらも咄嗟に放った鋭い蹴りがイズマの顎を強かに打つ。
「ぐっ!?」
イズマは金属箱を掴むと、剣を仕舞って片手を空へ。
伸ばしたイズマの手を、低く飛翔するワイバーンが掴む。
「待て!」
ボウガンを構えたキースが怒鳴った。
放たれた矢が、イズマの腰に突き刺さる。
装甲馬車の1台が、速度を落としてスピンする。
後部のブースター噴射口に、カーリンの放った焔弾が命中したのだ。
小規模な爆発に次いで、馬車の車体が何度か跳ねた。
「敵の車両に飛び込んだりする者はいるか? 援護するぞ!」
エンジン部にダメージを与えた次は、荷台に設置されたガトリング砲だ。
揺れる馬車にしがみついたカーリンは、狙いを定め焔弾を撃つ。降りしきる雪を溶かして飛んだ焔弾が、ガトリング砲の根元に命中。
それを操る砲手ごと、雪原に弾き落すことに成功した。
「あぉーん!」
攻撃手段を失い、速度も落ちた装甲馬車へ飛び移ったのはリコリスだった。
操縦席の窓ガラスをライフルの底で叩き割ると、リコリスは屋根に手をかけ車内へ侵入。ボウガンを取り出す賊の顔面に、ドロップキックを叩き込んだ。
もみ合いになるリコリスと賊。その度に車体が右へ左へとぶれる。
どちらかと言えば、体格に劣るリコリスの劣勢だろうか。
賊の拳が顔面を殴打。
窓から上半身を押し出されたリコリスは、鼻血を垂らしたままどうにか車体にしがみついている状態だ。
「ちくしょう! 振り落としてやる!」
賊の手が、ハンドル横のスイッチへ延びた。
それがブースターのスイッチか。リコリスは素早くライフルを片手で構えると、スイッチの上部へ向けて弾丸を撃ち込んだ。
轟音とともに装甲馬車が横転する。
雪上に転がるリコリスと賊、それから金属の箱が1つ。
もみ合いながら雪上を転がる2人を横目に、もう1台の馬車が急に停車した。賊の1人が2台から飛び降り、転がっていた箱を回収。
そうして再び、装甲馬車が走りだす。
けれど、しかし……。
「悪いね! 足止めさせてもらう!」
装甲馬車の初速は遅い。
全体が金属で出来ているのだから当然だ。
叫んだのは雪上を駆ける青い稲妻……否、蒼雷を纏ったマリアであった。
彼女はまるで指揮するように腕を振り上げ……一拍の後に振り下ろす。
轟音。
落雷が大地を焦がし、震わせる。
荷台の賊が、迫るマリアへガトリング砲を掃射した。
いかにマリアが速かろうと、秒間70を超える弾丸は回避できない。
だが、それは停止した荷台に立っている相手も同じことだった。
ごう、と空気を唸らせて業火の弾が宙を奔る。
賊の顔面に命中し、火球が爆ぜた。
「仕方ないよな? こちらに弱点を見せてるのだからなぁ? さぁ、マリア君!」
「ナイス! 一瞬でも足止め出来ればOKだよ!」
顔を濡らす血を拭い、マリアは走った。
雪上を跳ねる獣のように、まっすぐ、速く。
視線の先には、荷台で煙を吐いている賊の姿。跳躍し、装甲馬車に飛び乗ったマリアは駆ける勢いを乗せた蹴りを、側頭部へと叩き込む。
マリアを屋根に乗せたまま、装甲馬車が加速した。
停止状態からブースターを起動したのだ。加速する馬車から振り下ろされたマリアの身体が雪の上を転がっていく。
「黒光火薬は渡さねぇぞ!」
賊がアクセルを踏み込んだ。
その直後だ……装甲馬車の眼前に黒い影が落ちたのは。
「あ?」
装甲馬車が停車している間を縫って、先回りしていたワイバーンだ。
その背には1人の偉丈夫が乗る。
まるで御伽噺に出て来る竜騎士のようではないか。
「くそがっ!」
高度を落とし、ワイバーンが加速した。
このままでは正面衝突は避けられない。強度では装甲馬車が上回るだろうが、ワイバーンなど轢いてしまえば減速は避けられないだろう。
ブースターを使うか?
否、連続使用はエンジンに負担をかけ過ぎる。
「だったら、こうだ!」
ハンドルを切って、車体をドリフト。
積もった雪を撒き散らし、衝突寸前でワイバーンを回避する。
黒い翼が装甲馬車の側面を掠った。
衝撃に車体が激しく揺れるが、正面衝突は回避した。
後は逃げるだけ……賊は安堵の吐息を零す。
「……甘い!」
雪のベールを突き破り、現れたのはオリーブだ。
衝突の寸前、ワイバーンの背から飛び降りていたのだろう。
油断していた。
回避も、防御も、迎撃も間に合わない。
悲鳴を上げる暇もない。
「ぐ……この!」
「盗まれた物は返してもらいます!」
オリーブは長剣を一閃させる。
窓ガラスが砕け、破片が散った。
鈍い輝きが眼前に迫る。
最後に……頭蓋に刃が食い込む音を耳にした。
●stage3・進路は港へ
【パンドラ】を消費し、リリーは途切れかける意識を覚醒させた。
ぼやけた視界に映るのは、こちらへ迫る2人の賊だ。その手にはボウガンが握られている。どうやらリリーにトドメを刺しに来たらしい。
「馬車のタイヤ、狙えるかな。……ちょっと厳しいかな……?」
賊が馬車を離れた今が好機だろう。
賊の迎撃を諦めたリリーは、馬車の車軸へ魔弾を撃った。
1発、2発……数度の着弾でやっと車軸がへし折れる。
打撲に裂傷、火傷に銃創。
幾つもの傷を負いながら、男たちは雪原を駆けた。
1人は斧を。
1人は拳を。
今まさに、仲間へ向けてボウガンを撃ち込もうとする賊2人をグドルフとイグナートがなぎ倒す。
細剣を躱せば斧が迫る。
斧を止めれば拳が腹に。
拳を矢で撃ち抜けば、代わりとばかりに細剣で肩を刺し貫かれた。
劣勢を悟ったキースだが、逃走しようにも足が無い。
「くそ……何か、何か無いか!?」
腹に矢を受けイズマが意識を失った。【パンドラ】を消費し立ち上がるまでの刹那の隙にキースは素早く視線を左右へ。
しかし、身を隠す場所さえ存在しない白い平野でキースの取れる選択肢は少ない。
と、その時だ。
聞き慣れたエンジンの音が、キースの耳朶を震わせた。
それは先に行ったはずの装甲馬車だ。
「……ちょうどいい!」
仲間が戻って来たのだろう。
キースは鉄の箱を抱えて逃げ出した。
「おぉ! こっちだ! 俺を……っ!?」
馬車の前に飛び出して。
そこで初めてキースは気づく。
装甲馬車を操っているのが、見慣れる小娘であることに。
その隣には黒髪の男が座っている。
荷台に乗っている女2人が、慌てたように何かを叫んだ。
「――に――いるよ! 速度――落――っ!」
「え!? なに? 聞こえない? 速度をなに? あげればいいの!?」
ハンドルを握るリコリスは、あろうことかブースターを起動させた。
装甲馬車を奪われた。
キースがそう悟った時には手遅れだ。
「うぅ、ああああああああああ!!」
地面に倒れたキースの顔をグドルフは遠慮も無しに覗き込む。
「さんざん奪ってきたんだ。そりゃあ奪われる事も覚悟しなくちゃいけねえよなあ!?」
呵々と笑うグドルフへ、嫌みの1つも返してやりたいところだが……生憎とそんな余裕はなさそうだ。
ぱくぱくと数度口を開閉させたキースは、それっきり意識を失った。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
無事に黒光火薬は回収され、港へ輸送されました。
また、鋼鉄旅団の生き残りたちは捕縛され、付近の治安が少し良くなりました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
“黒光火薬”を海岸まで運び届けること
●ターゲット
・キース×1
3メートル近い巨躯の男。
両腕が鋼の義手になっている。
『鋼鉄の旅団』のリーダーであり、指揮能力に優れている。
・『鋼鉄の旅団』×10
5台の装甲馬車と、キースを含め11人の男たちで構成された盗賊団。
彼らの駆る装甲馬車は車体が低く、また速度に優れる。
1時的に加速するための“ブースター”と呼ばれる装置を取り付けていることが特徴だが、ブースターには使用回数制限があるようだ。
また、武器として以下のものを装備している。
改造ボウガン:物中貫に中ダメージ、感電
手持ちの改造ボウガン。
ガトリング:物遠範に大ダメージ、ブレイク、無常、崩落
装甲馬車の屋根に設置されたガトリング。
●フィールド
鉄帝。
雪原の果てにある兵器研究施設。
兵器研究施設に保管されている“黒光火薬”の詰まった金属箱×3を回収し、海岸まで運び届けることが任務となる。
雪原に目印となるようなものは無い。地図はあるので、現在地さえ見失わなければ迷うことも無いだろう。
雪原から海岸までは、馬車で1時間程度。
海岸に控えている運び屋に黒光火薬を届けることで任務は完了となる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet