PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Dear Friend~桜三月、手を繋ぎ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●桜三月、手を繋ぎ
 冱えやかな綿白に煌く雪氷を纏っていた樹木が純水の滴を梢から零せば、地表の初々しい花筵が潤いを受け止めて身震いをした。
 軽やかに翔ける風は雨催いの薄青空に羽搏くかご抜け鳥の嘴の下、たんぽぽに似た色の毛をやさしく撫でて、おひさまを目指すみたいにより高くのぼっていった。
 邸宅の庭は暖気に雪解けを迎え、春のきざしを魅せている。
 枝がシュシュ飾りみたいなふわふわした薄桃や白の花を揺らす庭木。シャワーのように枝垂れる雪柳。朝露を抱いた初々しい緑の中で天に向く釣鐘型の花はカラフルで、赤青黄色の柔らかな花々の彩はこれから訪れる楽しくて幸せな時間を予感させる。

『――幸せな花の香りをたっぷり含んだら、それだけで心がふわって浮き上がるみたい!』
 沫雪のようなあなたと手を繋いで微笑みながら、あなたの病が癒えればと祈った。


●ロウライト家からの依頼
 聖教国ネメシスでは、かつて「不正義に対する過剰な厳罰姿勢」が国家を揺るがす事件を引き起こした。『冥刻のエクリプス』事件だ。事件の衝撃は大きく、天義中枢部を含めた多くの人々にとって強い意識改革の動機となった。
「すなわち、あんまし正義正義と神経質になりすぎず厳しすぎず、やーらかくなりましょって決めたっちゅうことかな」
 野火止・蜜柑(p3n000236)が窓際で依頼書を読んでいた。この少年、当時の事件を知らない。そのため、文章を読み読み、自分なりに「こんなことなのかなー」と理解に努めているというわけだ。

「ところが一方、直接的な被害が軽微であった地方貴族を中心に、『事件の原因は中央政府が不正義を見過ごしたことにある! 必要なのは不正義への迎合ではなく更なる厳罰姿勢だ!』と言って、中央政府を打倒しようとする動きもあります、と」
 依頼書は彼らに『保守強硬派』と名称をつけた。リーダー的人物は異端審問官モーリス・ナイトメア。アドラステイアの少年傭兵部隊『オンネリネン』を戦力増強のため保守強硬派へと斡旋していることが判明している。
「要するにこの『保守強硬派』が今回の困ったチャンなんやな!」
 少年は完全に理解した顔でページをめくった。
「困ったチャンのナイトメア家と古くから対立する貴族に、ロウライト家があります。当主当主セツナ・ロウライト様は『保守強硬派の解体』を望んでいます。
 望みを果たす手段として何をしたかというと、『ロウライト家の傭兵団(暗殺部隊)』である『封魔忍軍』の長である弟様(フウガ・ロウライト)に『敵陣営の悪事を暴いてほしい』ってお願いをしたのだそうです」
 聖教国にも忍がいるんやなぁ、と独り言を零してから、蜜柑はつづきを読んだ。

「ただ、『封魔忍軍』って人手不足な部隊らしくて。結構つらいわ~ってことで、ローレットに『手伝って』って依頼が来たようです。なるほど! 俺は理解しましたよ……!」
 共有された依頼書には、今回の『潜入ミッション』について書かれている。

『オーダーは保守強硬派に組すると思しき貴族のリッチ家に潜入して保守強硬派の一員である証拠を持ち帰る事。悪行の証拠があればなお良い。
 封魔忍軍のくのいち「ユフナ」が同行し、全面的に協力する。
 オーダーさえ成功できるならば、手段は問わない事とする』

 蜜柑は懐から『煙玉』を取り出して依頼を受けるメンバーに渡した。
「俺からのプレゼントや。雰囲気出るやろ? 効果は、ちょっと煙が出て面白い!」
 あまり役に立たなそうなアイテムだった。

「……政治は難しいですが、お仕事する事は立派な事だと俺は思います。
 正義とかはわかりませんが、現地で皆様がやりたいと思ったまま、お仕事してきたらよろしいかと。現地ではもしかしたら困ってる人もいるかもしれません。お仕事以上のことは、ついでに気が向いたら程度に――お心のままに。このギルドの方って良い人が多いですもん、ね」
 情報屋はそう言って頭を下げた。
「それでは、よろしくお願いします」
 世の中には、見ようとして初めて見ることができるものがたくさんある。それは例えば、宝箱の中身だったり、秘密の日記帳の中身だったり、令嬢のスカートの下だったり、いつも通らない道に咲いている花だったり。
 目的の情報を求めて調べる途中で、関係のない人間関係や家庭の事情が耳に入ることもよくある話。依頼を受けるあなたは、シンプルに依頼目的のみを求めても良いし、依頼もこなしつつ舞台を楽しみ、其処に生きる人々に思いを馳せたり手を差し伸べるような冒険をしてもよい。


●Latent
 ――姉が死んでしまった。姉がいなくなってしまった。
 少年レイテントは花を見る。
 繊細で清らかな薫りは、季節の移ろいを感じさせた。

 姉と、姉の友を想う。

 ――まだ姉が生きていた時。
 3人は、よく一緒に遊んでいた。人形遊びをしたり、カードゲームに興じたり。お医者さんごっこにも付き合った。ぬいぐるみを抱っこして「猫を拾ったんです」と言ったら、嘘だとわかっていただろうに本物を見たように驚いてくれた。姉はぬいぐるみを青白い手で優しく撫でて「可愛いわね」と言ってくれた。

 死の数日前、絵本を広げて、姉は言った。
『いつか、あなたたちと手を繋いでお外に行きたいわ』
 友人はその時、姉の手を取って約束をしたのだった。

 その光景は聖教画めいて神聖だった。
 部屋の窓から光が差し込んでいて、清潔な白基調の内装とベッドがおひさまの匂いに病のかおりを混ぜていた。花瓶に咲いていた花は綺麗で可憐だったけれど、その芳香はなんだか切なくて、不自由の象徴みたいだった。

『レイテント、ひとはみんないつか天に召されるのだわ』
 部屋を去る間際、姉が寂しそうに笑った。運命を受け入れているのだと僕にもわかる笑顔で、どうにかしてあげたいとお医者の先生が呟いていた。
 お医者の先生は、姉にとても優しかった。姉も、先生を慕っていた。
 剣があまり得意じゃないと弱音を吐いた時にも、他の大人たちのように「不甲斐ない」と怒る事はなかった。「剣以外に良い所がいっぱいあるからいいじゃない」と言ってくれた。
 名前の秘密も教えてくれた。
 レイテントはタレント。
 ほらね、才能があるのよって笑ってくれた声は、天啓のように胸に響いた。嬉しかった。

GMコメント

 透明空気です。今回は天義での調査依頼です。
 調査方法は自由です。例えば家庭教師や庭師や掃除屋、傭兵、メイド、旅の途中で立ち寄ったありのままの自分(?)など名乗って潜入し調べるのもOKですし、夜中にコッソリ忍び込んで調べるのもOKです。

●オーダー
・リッチ家に潜入し、保守強硬派の一員である証拠を持ち帰る事。
 悪行の証拠があればなお良い。

※補足情報
 ――アドラステイアと保守強硬派について
 本来、天義の信仰を否定して偽りの神を信仰するアドラステイアは、保守派とは決して相容れぬはずです。しかし、アドラステイアの運営母体『新世界』のメンバーであるバスチアン・フォン・ヴァレンシュタインがアドラステイアに肯定的ではないこと、オンネリネンの子供たちは恐怖により従わされているだけで必ずしもファルマコンを信じているわけではないこと、『新世界』の対旅人ネットワークが『廉貞のアリオト』なる旅人の罪人を探すモーリスの目的と合致したこと、双方ともに天義現政府とローレットを敵視していることなどの理由から、両者は当面の協力関係を結ぶに至っていたのでした。
「ギルドへの依頼は同時期に色々届いています。中には現地戦場で別の勢力がちょっかい出してくるものもあるみたいですね。今回はそのあたりは心配いらないと確認済なので、安心して調査してくださいね」
――情報屋より。

●場所
・聖教国(天義)、北方にあるリッチ士爵家の邸宅。
 3階建てのカントリー・ハウス。
※同行忍者『ユフナ』が大まかに調査場所のあたりをつけています。(「」はユフナの所見です。参考にしてください)
 PCは、以下の場所を調査しても良いですし、以下に記載のない場所を調査しても良いです。
・画廊「家族の絵があるようだ」
・図書室「本がたくさんある。恋文が本の隙間にあったりしないか」
・厨房「料理は美味しい」
・3階にある絵画が飾られている廊下「この1枚には既視感が…画廊に全く同じ絵があったような?」
・1階にある亡き長女の部屋「本棚をずらすと地下に続く階段があるが、地下室には鍵がかかっている」
・馬小屋「ご子息の愛馬がいつでも乗れるように支度されている」
・鍛錬場「精が出るのは良いが、正体がバレて敵に回すことになれば数も多くて面倒だな」
・2階にある長男の部屋「日記があるが悪事には関係なさそうだな」
・3階にある当主の執務室(常に警備されている)「中に入れなかった。証拠がありそうなのだが」
・3階にある当主の寝室(常に警備されており、病床の当主は寝室のベッドにいる)「中に入れなかった。ここも証拠が見つかりそうなのだが」

●リッチ家の主要NPC
 リッチ家…とある国家的な功績により叙勲を受けた士爵の家柄です。
 『ユフナ』の調査によると全員人間です。

 ロウリイ(Rowry)…人間種。リッチ家特有の遺伝病で療養中で、滅多に人前に出ない現当主・男。年齢は36歳。剣の名手であったようです。妻を10年前に亡くしています。
 ライヴ(Live)…幻想種。ロウリイの主治医・女。旅人が持ち込んだ異世界の様々な医療知識・技術を熱心に学んでいて、奇抜な発想の論文を発表したこともあります。
 レイテント(Latent)…人間種。リッチ家唯一の男子・跡継ぎ。剣の鍛錬をさぼって何処かに行方を晦ます事が多いようです。物静かで何を考えているかよくわかりません。13歳。
 デラ(dera)…幻想種。リッチ家の長女・16歳でしたが、少し前にリッチ家特有の遺伝病で亡くなったばかりです。
 フィンデア(Finder)…元奴隷の獣種。ライヴの助手、デラの友人である少女。ユフナ曰く、彼女は魔法の気配を漂わせる首輪を填められており、服の下には厨房で盗んだ果物ナイフを隠しているとのこと。15歳。
「亡くなった奥様は人間種だったようです」
 ――情報屋より。

●同行NPC
・封魔忍軍のくのいち『ユフナ』
 20代半ばの見た目をしたくのいちお姉さんです。のほほんとした性格をしており、基本は描写外で無難な行動をしています。指示を出せば協力してくれますが、戦闘はあまり得意ではありません。メタな事を書くと「主役はPC」というわけで、お姉さんに割く描写文字数をPCや調査でわかった情報の描写に回そうと思っています。

●おまけ要素
・『煙玉』
 依頼を受けた皆さんに、今回のシナリオでのみ使えるアイテムとして『煙玉』が支給されています。
 このアイテムはプレイングで「使用する」と書くことで、好きなタイミングで使うことができます。
 効果は「少し煙が出るだけ」(情報屋談)。使用は必須ではありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、封魔忍軍のくのいち『ユフナ』は現地の状況を完全に掴めていません。(調査依頼ですし)

 以上です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • Dear Friend~桜三月、手を繋ぎ完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月22日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

リプレイ

剣を磨く大人の袖を子供が引く。
「もうすぐ春が来るね」
 ――とても無邪気な声だった。

●未明の陽光は神聖に
(うーん……どうも何だかおかしい気がするんだよね)
 ギフトでメイド衣装を纏った『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は仲間と共に門にいる。
「とある事情でお金が必要で、どうしても働く必要があるんです!」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)が瞳を潤ませ懸命に訴える。老執事が同情して門の内に入れてくれたので、Я・E・Dは『レット』、セララは名前を『ララ』と名乗り、メイドとなった。

 3階。
 『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)はナイトメア家での実績を活かして画家として滞在し、母が赤子を抱く絵を比較する。3階の絵画は新しい。画廊の母にあるピアスが3階の母にはない。3階の絵画は不自然な形に一部が塗り潰されていて、パズルのピースに似ていた。
 セララが執務室の掃除をしたがると、お母さんのような顔でメイド長が飴をくれた。
「ララ、執務室はベテランの担当ですよ」
 お手伝いしたいです、とセララが健気に頼めば、それでは私とドアノブを清める係をしましょうかと布巾を持たせて吹き方を教えてくれる。メイド長は優しかった。

 1階。
 使用人に扮した『餓狼』シオン・シズリー(p3p010236)は1階を掃除して「遺体が消えた」という噂や北部民が感じる情勢不安を知った。
 北部は鉄帝国の動向と無縁ではいられぬ。これまで聖教国は精強な騎士団故に鉄帝は侵略を考えていなかった。だが強国であった天義は今――。その耳に来客の声が聞こえる。

「ハローハロー? 僕はこの辺でしばらく活動するつもりの旅の医者なのだが、リッチ家の後ろ盾が欲しくてね」
 『烱勘爛火』ヨハン=レーム(p3p001117)だ。
「僕はこの通り鉄騎種なもので、戦争国家の出身なんてあまり良い目では見られないのさ。単刀直入に言おう、ライヴ先生とお話がしたい。雇ってくれとまでは言わないが、スパイ容疑でもかけられた時に一声頂ければだいぶ天義でも活動がしやすくなる」
 助手を伴ったライヴが現れたのは、ヨハンが「代わりといっては何だが、面会をさせて貰えるならこれを」とキシェフのコインを見せた瞬間であった。
「そちらは……」
「名前を出しても宜しいか?」
 老執事は眉を顰めて首を振った。だが。「いいじゃない」ライヴが言葉を挟んだ。ヨハンは温度差のある2者を見比べた。
「ともあれ、そこの男を治療した時に対価として頂いた貴重品だよ。納めれそうなモノはこれくらいしかないんだ」
 ライヴはヨハンに強い興味を抱いた様子で「レーム先生。私がライヴですわ」と名乗り、当主が病だと相談を持ち掛けた。
「さてさてライヴ先生。噂はかねがね……と言いたいのですが、何せ辺境の出身で。お恥ずかしながら先生の論文は手に取る機会に恵まれず。先生の医療分野に関する熱意は私が耳にする程です……が」

 ライヴは様々な医療器具を揃えていた。ヨハンが「これなら外科的手術も叶いますね」と呟けば、女の目は爛々とした。

 近くの宿で待機する『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)とマルク・シリング(p3p001309)は使い魔を介して邸宅で行動する仲間が齎す情報を整理し、別の仲間に共有している。

「保守派は、行き過ぎる程に清廉潔白で一片の曇りも自他に許さない人たちか」
 イズマがペンで情報を書き留め、煙玉を全員分3階で使い、ぼや騒ぎを起こす、と作戦の流れを書いていく。
「この場合の悪行とは倫理・人道的な内容に限らず、中央政府にとって不利益な行為という意味合いもあるだろうね」
 政争だろう? と赤い瞳を瞬かせれば、マルクが「サクラさんは大丈夫かな」と案じる呟き。イズマは今回は大丈夫なのだろうけどと小声で。
「ロウライト家側も絶対安心とは限らないのが難しいね」

 今回の依頼は『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)にとっては悩ましい案件であり――悩んだ結果、サクラは正面から訪問した。
「先触れなき突然の訪問のお詫びします。ロウライト家の長女、サクラ・ロウライトです。ご当主が療養中とお聞きしお見舞いに参りました」
 ロウライト家はリッチ家とは特別な親交がない。ローレット所属で知られる令嬢が家名を名乗り、家の名を顕示して見舞いに来るとは何事であろうかと執事は思ったに違いない。本音は病床で初対面させろと言いたいが、貴族同士の体面もある。仲間も無茶はしない方針を挙げていた。
「お体を大事にされるべき時ですので、出迎えは結構です。ご負担を極力避け、かつ貴家に失礼なき形式でご挨拶させて頂ければと思います」
 名家に相応しき礼儀作法で告げられれば、下手に扱えぬ執事は頭を下げて懇願した。
「応接室にお通しします。何卒、お待ちくださいますよう」

 3階では、ヨハンが当主の病床に案内されていた。
「レーム先生ですわ」
 紹介に応える聲は当主は衰え痩せていて今にも息を引き取りそうなほど。だが、眼光は鋭い。
「レーム?」
 北の剣聖の姓ではないかと警戒する患者にヨハンは堂々と挨拶し、診察をした。
「力になれると無責任な発言は医者として控えますが」
 視線を感じながら青白い燐光を咲かせて毒を治癒すれば、女が喜んだ。
「まあ先生、治癒術も扱えますのね!」
 Я・E・Dが女が怪しいと勘を告げていたのを思い出し、ヨハンはここで情報の手札を伏せた。
「なるほど遺伝病のようですね」
 患者は驚いた顔で、楽になったようだと感謝した。今後の治療方針を説明すれば、患者は素直に頷いた。

 サクラ訪問の報せが齎されたのは、その時だった。ヨハンが止めるのを聞かず、ロウリイは無理を押して起き上がり、弱った身で可能な限り急ぎ、客人に失礼にならぬよう身なりを整えて応接室に向かった。
「お待たせして申し訳ありません」
 サクラが2杯目の紅茶に手を伸ばしかけた時、両脇をヨハンと老執事に支えられた当主が現れて健在を装う目で挨拶をした。途切れがちな声は必死で、家名矜持に命を懸ける熱がある。サクラは驚き、心からの見舞いを告げた。
「先触れもなく駆けて参りましたのは、心配だったからなのです。ああ、どうぞ座って楽になさってください!」
 赤くなったり青くなったりして恐縮すれば当主にも執事にも少女の真っすぐで優しき気性が伝わった。座っているだけなのに顔色がどんどん悪くなる当主の手を握り、サクラは「懸命に心からの言葉を叫んだ。その言葉だけは届けないといけないと強く思った。
「リッチ卿、何かあればロウライト家をお頼り下さい。決して無碍には致しません!」
 間近に視る当主の眼はサクラの言葉に大きく見開き、何かを訴えようとして気を失った。

 2階では、家事を巧みにこなし、メイド長の信頼を得たЯ・E・Dが聞き耳での安全確保、物質透過を活かし調査を進めていた。家系図と領地の歴史、日記、伝記。当主が集めていたという資料群。
「おっと」
 足音に気付き、透過を中断するЯ・E・D。レイテントと親しくなったセララがピクニックバスケットを手に階下に降りていく。1階で調査していたシオンも掃除をするフリをして2人が通過するのを待った。少年と仲間が外に出るのを見送った2人は階段で合流し、情報を交換する。
「遺伝病は、体力が低下した者が発症しやすいようだ。多くの者は、中高年で発症する。地下室の扉には罠は無く、物質透過は不可能だった」
 シオンが囁き、Я・E・Dは「当主は一族の記録を洗い、不義の痕跡が無いか探していたようだね」と考えを語る。

 太陽が中天に差し掛かる頃。
 少年は馬小屋の出口付近に馬を繋ぎ、荷を纏めている。水や貨幣入り小袋、携行食、地図。
「レイテント君、旅に出るの?」
 セララは少年に友人として接している。親しく振る舞っても良いと当人に許可して貰ったからだ。
「いいや」
 少年は首を振り、セララの手を引いて庭の花を見ながらサンドイッチを食べて、画廊にいこうと言った。馬小屋を出た2人が寛いでいると、ベルナルドが「ここにいたのか」と声をかけて花見に混ざった。素描を始める彼を見て、少年は父のようだと呟いた。セララが馬を見た話をすれば、ベルナルドが手を動かしながら相槌を打つ。この大きな人は怖くないのだと少年が理解し、少しずつ打ち解けて、姉と友人の話をしてくれた。ベルナルドがその光景を想像速写すれば少年は魔法のようだと喜んだ。

 1階では、滞留しているサクラへと、ライヴが当主の状態を伝えている。
「一命を取り留めましたわ」
 よかった、と安堵してサクラはふと問いかけた。
「ライヴさんはデラ様を大層かわいがっておられたとか。それこそまるで愛娘のように……」
 ライヴはええ、と頷いた。フィンデアがケーキを運び、卓上に置く。一瞬の解析――

「可愛がっておりますの」

 午後、ベルナルドとセララは少年と絵画を読んだ。少年は教えてくれた。民の為ピアスを売った高潔にして潔癖なる先祖の話を。
「私心、欠片もなく平和が綻ぶ事もない、と申します」
 聞き耳を立てていたЯ・E・Dは「例の絵画は私心によりピースが欠けたのを示唆しているのだろうか」と考えた。
「父も、高潔な騎士です」
 それに比べて、と少年は自分の不出来を語る。ベルナルドの大きな手はそんな悩める少年の頭を優しく撫でた。温かかった。
「レイテントには良い所がいっぱいあるからいいじゃないか」

 情報が増えていく。
 Я・E・Dは情報の海を泳ぐように敷地内を調べ上げ、『長女は養女である』という記録を見付けた。レイテントが生まれる前、当主が邪教徒を討った時、その赤子を殺す事も放置する事もできず家に連れ帰ったのだ。
「うーん?」
 Я・E・Dは首を傾げた。
 デラは、リッチ家特有の遺伝病で亡くなっているのに?
「ああ。だから、調べていた?」

 夕暮れ時の3階。
 ロウリイは意識を取り戻してからは弱った体に鞭打ち何かを書いていた。ヨハンはそんな姿を見つけては「予断を許さないというのに」とベッドに戻るよう説得するのだった。休めと言っているのに、隙有れば回復した体力を削っている。命を燃やして何かを書いている。彼がヨハンを見る瞳には、信頼があった。
 ――命が零れていく。思い通りにならない呼吸音にヨハンは福音を贈った。また毒が盛られている。

 ふとヨハンは思った。
 ――娘は、本当に病で亡くなったのだろうか?

 2階を歩いていたフィンデアにシオンとЯ・E・Dが声を掛けたのは、少し後である。
「はじめまして、少しお伺いしたいことがあるのですが」
 シオンが思考を読み取り、ひたりと目を見つめた。
「隠し持ってるモンは使わないほうがいいぜ。近い内に、憎い相手はどうにかなる。デラも見つかるだろうさ」
 Я・E・Dはふわりと微笑んで悪戯をするみたいにフィンデアの首元に顔を寄せ、上品に首輪を噛み千切った。
「ナイフはやっぱり穏やかでは無いからね」
 ああ、と声を零してフィンデアが感謝の目を向けた。そして、自分がリッチ家へ一方的に送りつけられた贈り物だと語った。医者は当主に隠れて血を調べて期待外れと呟いた後、けれど有用だ、と助手にした。濁は飲まんと反発して送り返そうとした当主は病んだ。
「デラに適合する村娘が丁度見つかった。外科技術と回復魔法の使い手が飛び込んで来て、ライヴは実験ができると喜んでいるわ」
 止めるつもりでナイフを忍ばせていたと語るフィンデアは、シオンに地下室の鍵を渡した。鍵は3つあり、1つはライヴが持っているという。シオンは鍵を仲間に託し、デラの部屋の窓の鍵を開けた。

 夕暮れに染まる部屋で、セララは、少年がうたた寝し始めた事に気付いた。
「レイテント君、ベッドでおやすみしたら?」
 返事はなかった。セララはどきどきした。今がチャンスかもしれない。
(……ごめんね)
 そろそろと手を伸ばすのは、机の日記帳。音を立てないように、いつでも元通り置けるように。細心の注意を払ってページをめくる。
『彼女は過去、手を汚して来たと言う。ならば捕まれば、断罪されると思う』

「ララ?」
 少年の声がした。起きていた――どきりとして日記を落とすと、少年は咎める事なく日記を拾って微笑んだ。

「人が集まると仲良くもなれるけど、いがみ合う人達もでてくる。大人は断罪しながら正義を叫んで子供にそれを教えるから、ここはアドラステイアと地続きだと思うんだ」
 カーテンを閉めて二人だけの話をする。それは仲良しの距離感だった。
「ロウライトは『不正義を断罪するためとはいえ暗殺の類は為すべきではない』という主張だから、父の主義により近いんだ。でも、暗殺部隊を表向き傭兵団と呼ぶ一面もあるんだって。だからやっぱり、大人だよ」

「大人は嫌いだ。立派な事を言って人を踏み躙るから」

 宿に潜むマルクとイズマのもとに、鍵を持つ仲間の使い魔を連れたサクラが合流した。
「当主は避難に耐えられないかもしれない?」
 イズマはヨハンからの警告を読み上げた――「無茶はお勧めしない」。マルクが頷く。
「当主の部屋は3階にある。当初の計画を実行すれば病身への悪影響は避けられないね」

 それは望まない、とサクラが言った。

「私は、助けになりたい」
 少女の瞳は、真っすぐだった。マルクとイズマは顔を見合わせて、同時に頷いた。

 シオンは仲間の決断を知ると夜勤の使用人に魔眼を使い、自室から出ないように催眠をかけた。ベルナルドは手を動かし続けた。彼は知っていた。世の中には、描かなければ存在し得ぬものがあって、それを思った者が形にしなければそれは永遠に存在機会がないのだ。それは義務感に近い衝動であり、それと巧く付き合えぬ芸術家は発狂に至りがちである。


●月明に陰は人らしく
 月が高くのぼる頃。

 夜闇に紛れて、暗視を備えたマルクとイズマは仲間の情報を頼りに庭を進んだ。警備が近づいてくる。まだ騒ぎは避けたい、とマルクは幻影で壁を創り出した。こんな所に壁があったかな、と首を傾げる警備。秒を数え集中を保つ額に汗が浮く――イズマが瞬発力を発揮して飛び出し、蹴撃で警備を昏倒させた。長女の部屋の窓から潜入し、地下室の鍵を開け、扉を手前にひらきながらマルクは使い魔でベルナルドと連絡を取り合って昏倒させた者への対応を頼んだ。

「この部屋は……」
 イズマが言葉を途切れさせた。
 地下室には2台の寝台があり、片方にデラの遺体が、もう片方に拘束された村娘が寝ていた。壁際には手術道具や実験器具が並び、毒瓶もある。大量の魔術書、医学書。麻酔薬。輸血袋。鋼鉄の骨断刃。宗教画。床に紙が散乱している。『ゾンビかキメラか』『麻酔をし、血を補いながら健康な娘の頭蓋骨を割り、デラの脳に入れ替えて』『イモータルレギオン』『回復魔法で傷を……』『拒絶反応』マルクは村娘の拘束を解いた。
 遠くで馬が嘶く声が聞こえる。続いて、騒ぎが起きた。「馬が逃げた」と言う叫びが聞こえた。同時に使い魔が仲間からの警告を報せる。イズマは近づく足音に気付き、扉の右に寄った。マルクも視線を交わして扉の左に控える。

 カチャ、カチャ。
「鍵が開いている?」
 女が不思議そうに呟くのが聞こえた。

 キィ、ィ。
 扉が開かれる。姿を現した女へと、2人は同時に一撃を放った。イズマは蹴戦を、マルクは神気閃光を。女――ライヴは聲もなく一撃で意識を奪われ、その場に倒れたのだった。

 事件を報せると、治癒術と適切な処置を経て若干回復の兆しを見せていた当主は書き上げた書状をサクラに手渡した。それは、自身の手で綴った告白状であった。
 
 ナイトメア家から「冬の北方民を案ずる」という挨拶状から始まり人道食料支援を受けた事、手紙のやり取りが続き、中央批判の気が強まっていった事。ロウリイも曇りなき正義こそ“善良な”天義貴族の義務と煽られれば「当家は善良たるを誇りとし、貴き義務を理解する」と返してしまった事。しかし、少年傭兵部隊を戦力増強のため保守強硬派へと斡旋すると知らされて反発した事。
「ライヴは裁く。同時に当家も罪を告白し、断罪される覚悟である」
 当主はそう明言した。

 夜と朝のあわいの空が色を徐々に変えていく――レイテントはメイド達や画家や医師を思った。永遠に変わり映えのない繰り返しを紡ぐように思っていた日常とは、ある日突然終わるのだと少年はここ数日で悟っていた。そう思うと、時間が急に貴重で大切なものに思えて不思議だった。

 少年の手には、画家が残した絵画があった。短期間で出来る限りの技巧を尽くしたと思われるベルナルドの絵は、姉と少年と友人が3人で手を繋ぎ、花畑で戯れる素朴であたたかな一枚だった。

 フィンデアは遠くに逃れただろうかと少年は彼女の自由なる未来を想った。扉が軋む音を立てる。使用人がドアを開けて少年を見ていた。

「シオン」
 名を覚えた少年が呼ぶ。彼女は亡骸を探してくれていたのだと少年は思っていた。だから、安心させようと言った。
「姉上がみつかったよ」
 シオンは頷いた。表情に乏しい使用人は星の瞬きみたいな静謐な存在感で、少年は安心した。

「おやすみ」
 レイテントは「明朝も彼女達はいるだろう」と信じる声でベッドに入り、未知の明日に備えるため目を閉じた。枕元に、優しい絵を伴って。

成否

成功

MVP

シオン・シズリー(p3p010236)
餓狼

状態異常

なし

あとがき

 おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さま。
 調査依頼、お疲れ様でした。沢山の情報が入手できました。

 アナグラムはプレイングに書いてくださった方もいらっしゃいましたが、「Worry Evil Talent Dear Friend」となっておりました。メタヒントですね。

 ラストの流れについては、皆様のプレイングから現地NPCに寄り添う傾向や事故を防ぎたいというお気持ちを感じましたのと、ボヤ&避難プレイの意図が夜間潜入支援である点、夜間潜入支援プレイングと潜入支援プレイングが具体的でとても優れており、ボヤ&避難プレイなしでの成功が見込める事からのアレンジとなりました。

 MVPは、プレイングが全員ハイレベルであったのは言うまでもないのですが、「多種のスキルを活用した調査や罠警戒プレイ」「丁寧で目的のわかりやすいスキル&コミュニケーションプレイにより微妙な立場のNPCとの敵対を防いだ点」「仲間と協力する攻略姿勢」が特に魅力的に感じさせてくださったあなたに。

 今回のような依頼では、相談による連携プレイング群の作用がバラバラのプレイング群と比べて格段に強いのは間違いありません。
 参加してくださった全員にお礼申し上げます。充実したプレイングを魅せてくださり、ありがとうございました。

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