シナリオ詳細
落ちてきそうなくらい、きらきら
オープニング
●亜竜種の子供達
亜竜種たちの住む集落。それには様々な形があるが、おおむね共通していることは、亜竜や魔物達からの襲撃から身を護れるようになっている、という所だろうか。様々な形があるが、一例をあげるとすれば、竜種の骨などを使用してその中に潜む。洞窟などの奥に潜み、そもそも外から隔絶した環境をとる、などだ。それはそうだろう。覇竜領域は、外のそれとは一線を画すような、強力な魔物や、亜竜が徘徊する場所だ。外のような常識が通用する場所は、かなり限られてくる。
そうなれば……例えば、この小集落、イルシロンも、広大な山岳をくりぬき、その洞窟の中で暮らしていた。外の景色は、僅かに開いた窓から少しばかりの陽光を差し込ませ、内部の明かりはほとんどが松明のそれで構成されている。
大人たちは、外に出て野草の採取や狩りなどを行ってはいたが、一部の者、特に子供たちは、この洞窟から出ることは無い。子供たちは、外を知らない。デザストルの外はもちろん、この集落の外も。伝えられた知識だけが、子供達に外の事を教えている。
「真華(マナカ)さん。子供達に星を見せてあげたいの」
と、その女性は言った。名前を、リーナ、といった。この集落に住む、亜竜種の女性で、子供たちの面倒を見る立場にいる。
ここは、イルシロンの、保育園や学校のような場所だ。子供たちを集めて、面倒を見たり、簡単な勉強を教えたりしている。
真華は、フリアノンに住み、子供たちの面倒を見ている女性だ。自身と同様の立場のリーナに助言を乞われ、こうしてやってきたのだが。
「そうね」
真華は言った。
「素敵ねぇ……でも、難しい、って思ってるんでしょう?」
「ええ」
リーナが頷く。
「この辺りは特に、亜竜も近づいてくるから……夜は、大人だって出歩けないわ。でも……」
リーナは言った。
「見せてあげたいの。空に浮かぶ、星々。それに、星座……物語を、星々の形に託した証。
そう言ったものはきっと、この洞窟に過ごすしかない子供たちにとっても……良い経験になると思うの」
リーナの言葉に、真華は頷く。リーナの言う通り……きっと星々のきらめきは、子供達に素敵な経験をもたらしてくれるはずだ。
でも……それは難しい。この地に生きる以上、外に潜む覇者(かいぶつ)たちに立ち向かう方法は、亜竜種たちには少ない。
「……そうね……ローレットの子達に、相談してみる」
真華が言うのへ、リーナが目を丸くした。
「最近、外から来たって言う、あの?」
「ええ。とってもいい子達ばかり。それに、亜竜種の子達も、今は参加しているって聞くわぁ」
「そう……そうね。もしかしたら、彼らなら……」
「リーナ先生、どうしたの?」
と、小さな少年が、部屋の外からこちらを覗き込んでいる。リーナは、入り口まで向かうと、その子の頭を撫でてやった。
「そうね。とっても素敵なものが、見られるかもしれないの――」
●星空を、君に
子供達に、星空を見せるお仕事――と、真華はあなた達、ローレットのイレギュラーズ達に語った。
「危険じゃないのか?」
と、尋ねたのは冬越 弾正(p3p007105)だ。
「そうねぇ。とても危険だと思うわぁ」
真華は些かのんびりと、しかし真面目に頷いた。
「なにせ、あのあたりは亜竜・ナイトシーカーが生息しているの。夜とは言え……ううん、むしろ夜こそが、彼らの狩りの本番なの」
「ナイトシーカーの夜目は脅威的だ」
真我(マナガ)が言った。真我は、真華の家族であり、フリアノンの戦士の一人である。
「わずかな光源であっても、はるか遠くから見逃さないだろう。イルシロンのあたりで夜に出歩くとなれば、自殺行為だ」
「それでも、星空を見せてあげたいのよぉ」
「子供たちのため、か」
弾正が言った。再現性東京、希望ヶ浜では教鞭を務める弾正だ。子供たちのため、といわれれば、やる気がわいてくるというもの。
「俺たちは、どうすればいい?」
弾正の言葉に、真華は頷いた。
「護衛と、先生役、ね。
子供たちは、イルシロン付近の草原で、星を見ることになるわぁ。
そこで、星を見ながら、子供たちの面倒を見てあげて欲しいの。
星のお話をしたり、星にまつわる物語や、外の事を話してあげたり。
……それは建前ね。もちろん、優先すべきは子供たちの安全よ。その為に、先生役として、子供たちの近くに常にいて欲しいの。
これは、『いざという時は、子供たちの代わりにワイバーンの牙に切り裂かれて』と言っているようなものよ」
真華は、真剣にそう言った。いや、些か露悪的な言葉を選んだのだろう。からだをはって守れ、と言ってもいいはずだ。そうではないのは、結局、この地に置いて亜竜、ワイバーンがどれだけ恐ろしいものであるのかを、改めて伝えるためであるのかもしれない。
一般人が、この役割を果たすのであれば……真華の言う通り、子供たちの身代わりに死ぬしかないのだろう。
「……だが、安心してほしい。俺たちは、ローレットのイレギュラーズだ」
弾正は力強く頷いた。
「自分たちは必ず生還する。子供達も守る。
もう一度言おう。安心してほしい。
星空のスクリーンと、ついでに、俺たちが悪い亜竜を倒す冒険活劇も、ついでに演じてやる」
その言葉に、あなたもまた、力強く頷いた。
子供たちを護り、素敵な思い出を作ってやる。
「頼む。俺たち戦士団も、お前達のサポートに回ろう」
真我の言葉に、あなたは頷く。
「それじゃあ……やりましょうか、星を見る会」
真華が嬉しそうに笑った。
あなたたちの双肩にかかった期待は重かったが、しかし少しだけ楽しみな思いは、確かにあなたにもあった――。
- 落ちてきそうなくらい、きらきら完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月26日 22時16分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●星の下に、行こう
集落、イルシロン。夕日が落ち、夜の闇が窓から差し込む時間帯。内部は星と月の明かりの代わりにたいまつが照らされて、人工の明かりがぽつぽつと天井(そら)を照らす。
この日、集落入り口近くの広場には、多くの子供たちの姿があった。近くには親たちの姿があって、期待と不安に満ちた表情を、子供達に向けている。
星を見に行こう。そう言ったのは、集落で子供の世話をする、リーナという女性だ。集落から、星は見えづらい。見えないわけではないが、小さな窓から覗く空は、狭い。子供達に星空を見せてあげたいと願うのは、リーナはもちろん、子供たちの親もそうだ。
だが、外は危ない。覇竜領域という地において、安全が担保された場所は集落の中くらいしか存在しない。ましてや、くらい夜の外などとなれば。
――だが。今日この日ばかりは、その不可能を覆せるかもしれない存在が、集落には存在していた。
ローレット・イレギュラーズ。外らから来たもの、或いは亜竜種でありながら召喚され、新たな可能性を紡ぐもの。
彼らが居るのならば、きっと大丈夫だろう――とは、リーナや、フリアノンで何度かローレットの世話になった真華、真我も太鼓判を押す所である。
「真華さん、久しぶり! 遠足の時以来だね」
ぱたぱたと手をふる『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)に、真華は微笑んで手をふり返した。
「まぁ、まぁ、ルビーちゃん! 今回も手伝ってくれて嬉しいわぁ」
「ほう、ルビーか。あのモルヴァーンを退けた英傑だ。これは頼もしいな」
傍らにいた、真我も、うんうんと頷く。ルビーが苦笑する。
「モルヴァーンはさておき、今回も頑張るよ。
……ホントは友達もつれてきたかったんだけど、イレギュラーズじゃないから、まだ難しいかな」
あはは、とルビーは笑う。
「……そうねぇ、皆なら気軽に来れるみたいだけれど、この地はまだまだ、難しいわよね……」
少しだけ申し訳なさそうに真華が言うのへ、ルビーは笑った。
「でもでも、子供たちのためにお菓子とか準備するの手伝ってくれて。
それに、同じ時間を合わせて、スピネル……あ、友達の名前なんだけど、彼もいっしょに、空を見上げてくれるって。
場所は違っても、見ている星空は同じだから、せめて、って」
にっこりと笑うルビーに、真我は頷いた。
「うむ……どの場所にいても、見上げる星は同じ。いつでも人の縁とは繋がっているものだ」
「というわけで、彼のためにも頑張ります!」
びしっ、と敬礼してみせておどけるルビー。一方、子供達と、集落を見やりながら、ふむふむ、と頷いて見せるのは、『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)だ。
「うんうん、皆楽しそう! そうだよねぇ、中々夜に外になんていけないからね」
「朱華たちの暮らすここは、『外』の常識は通じないものね」
『炎の剣』朱華(p3p010458)が、うんうんと頷く。覇竜領域は、何度も言うように、『外』に比べて危険が多い。必然、『外』のような常識は通用せず……例えば、集落の外で夜に星を見よう、等と気軽に言える場所ではない。
「でも、可能性は提示されたわ。朱華だって、新しい可能性をもたらす、そんな可能性を得られたもの。
……その可能性を、未来を。今度は朱華が子供達に魅せてあげるわっ!」
よしっ、と胸を張ってみせる朱華。「おー!」と、瑞希も頷いて見せる。
「ふふ、ボクも結構楽しみにしてるんだよね。星空、お菓子、お茶、お話!」
子供のようにはしゃいでみせる瑞希に、『竜の祭司』アルフィオーネ・エクリプス・ブランエトワル(p3p010486)は頷いて見せた。
「ちゃんと用意してるわよ。星を見る会なんだから、それに合わせて、星形にくりぬいたクッキー、それと金平糖。
まだ肌寒いから、お茶はジンジャーティーを用意しているわ。現地で温めて飲みましょ?」
「わーい、楽しみ!
金平糖、今一つ貰っちゃだめ?」
「だめよ、後のおたのしみ」
えー、と声をあげる瑞希に、アルフィオーネはぷい、と顔をそらして見せた。その様子がおかしくて、朱華もくすくすと笑っている。
「よし、ではそろそろ出発しようか」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)の言葉に、仲間達は頷く。エーレンは、引率でもあるリーナ、真華、そして護衛も担当する真我を始めとする戦士団に挨拶などをしつつ、
「どんな国でも、子供は宝だ。子供たちの世界を広げる試み、本当に素晴らしい。
だから、俺たちもその力になれるように、全力を尽くす」
そう力強く告げる。
「頼むぞ、エーレン。俺たちも力を尽くすが、どうしてもイレギュラーズに頼らざるを得ない」
真我がそういうのへ、エーレンが頷く。
「もちろんだ。逆に、いざという時は、俺たちが力を借りるはずだ。もちろん、そうならないように全力を尽くそう」
エーレンの言葉に、真我が頷く。それからエーレンは子供達に向き直り、視線を合わせた。それから子供達に、そして彼らの親に対して、
「今日、星を見に行くみんなを守るのは俺達だ。必ずみんなを無事に家まで送る。安心して、里のお姉さんの言うことをよく聞いて、星を楽しんでほしい」
そう、安心させるように言葉を紡ぐ。
『はい!』
と、子供たちは手をあげて、元気に答えてくれた。親たちの視線も、エーレンに注がれていることに気づいた。
大切な宝物を守る。それが今回の仕事だと、改めてエーレンは心に刻み込む。
「じゃあ、出発よ、皆」
リーナがそう言って、子供たちを一列にまとめ上げた。イレギュラーズ達は、そんな子供たちを守る様に、列に並ぶ。そのまま、入り口を護衛する戦士に見送られながら、一同は集落から一歩を踏み出した。
「さて、まずは護衛の第一陣と行くか」
『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)が、列の戦闘でそう言った。腕輪の力で、若干の暗視能力を得た義弘には、周囲の光景が確りと見えている。
「俺たちは暗視が使える……だが、俺たち以外、子供達なんかはそうじゃない。
必然、最小限とは言え、光源は必要になる」
「ナイトシーカーっつったか? 暗がりから闇討ちするのが能のくせに、随分と立派な名前じゃねぇか」
『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)が言う。
「だが、夜目が効くってのは、確かに利になるな。これくらいの明かりでも、見つけて飛んでくるってんじゃぁな」
「ああ。だからこそ、常に気は張り詰めてないといけない……」
と、そう言ったと同時に、義弘はすぐ近くを歩いている女の子と目があう。まだまだ幼い少女だ。わずかに暗がりに怯えているのか、少しばかり不安そうな顔をして、義弘を見上げていた。
「大丈夫だ。エーレン……さっき黒い兄ちゃんも言ってただろ。リーナのいう事を聞いてれば、怖い事は無い」
安心させるように笑う……ことはできなかったが、しかし力強く頷いてやった。
「ありがと、おじちゃん」
女の子はこくこくと頷いて、少しだけ笑ってみせた。
「子供の扱いがうまいじゃないか。やるねぇ。
向いてるんじゃないのか? こういうの」
獅門がにかっ、と笑ってみせるのへ義弘は口をへの字にして見せた。
「冗談だろう? ……しかし、おじちゃん、か。自覚はしてるつもりだったが、複雑なもんだ」
どこか複雑気な様子に、獅門は、がはは、と笑ってみせた。
「あのくらいの子供からしたら、俺もおじちゃんに見えるかもしれねぇな。
だがしかし、こんだけ厳しい土地でも、子供は可愛いもんじゃねぇか。
自由に星も見れないくらいだってのに……ま、だからこそ、今回はしっかり星空を楽しませてやりてぇもんだ」
「ああ。忘れられない体験にしてあげよう」
『Utraque unum』冬越 弾正(p3p007105)が頷く。
「もうすぐ会場の広場だ。
気を引き締めて……だが、子供達に緊張を悟られないようにな」
弾正の言葉に、仲間達は頷いた。
●星の下で、皆で
満天の星空。まさにそうとしか言いようのないくらいに、空には無数の星々が輝いている。
何とたとえればいいだろう? 宝石箱をひっくり返したような、か? いや、そんな言葉すら、子供たちにとっては意味のないものなのかもしれない。
初めて見た、星空。視界いっぱいに広がる、黒と光のワルツ。それは、これまでみたどんな美しいものよりも、ずっと、綺麗だっただろうか?
わぁ、と、子供たちが声をあげる。この広場は、とりわけ、視界が開けて、空が見やすい場所だ。
「……だが、同時に、ナイトシーカーからも発見されやすいわけだ」
弾正が小さく呟く。ルビーはそれを聞き届けて、こくり、と頷いた。ここからが、正念場だった。あらゆる意味で。
「お願いね、真我さん」
ルビーが言うのへ、真我は頷いた。そのまま同僚に目配せする。戦士団たちが、自然と周囲の警戒を始める。子供達に、緊張と警戒を悟らせてはいけない。
「それじゃあ、星を見る準備をしましょう!」
リーナがそういうのへ、子供たちが元気よく返事をする。広場の、短い草の広がるエリアに腰を下ろす。すると、アルフィオーネは、早速ジンジャーティーを淹れるために、お湯を沸かし始めた。石と燃料でちいさなかまどを作って、火をつける。大きく焚火を、とはいかないが、この位なら十分だろう。水筒からお湯を鍋に入れて、沸かすことしばし。子供たちが、星空と、焚火を、交互に見ているのへ、アルフィオーネはくすりと笑った。
「もうすぐできるから。まずは、お茶を飲んであったまってね?」
沸騰したお湯を、ポットに入れて蒸らす。ジンジャーティーがさわやかな香りを、夜の闇に浮かばせた。
「う~ん良い香り。やはりお茶は淹れたてに限るわね。
クッキーと金平糖も、たっくさん作ってきたから、遠慮しないでたべてちょうだい。
イレギュラーズの皆様もどうぞ……って、わたしもイレギュラーズだったわね」
苦笑するアルフィオーネ。そう、今はアルフィオーネも、可能性を紡ぐ者たちの一員に間違いないのだ。
「おねーちゃん、このクッキーおいしい!」
「このお茶もあったまるね」
きゃいきゃいとお菓子をほおばり、お茶を飲む子供達。それを見ながら、アルフィオーネは、くすりと笑う。
「ふふ、お菓子をたくさん食べたら、今度は星を見てちょうだいね?」
「星には、色々な言い伝えがあるのは知ってるか?」
獅門がそう尋ねるのへ、少年が頷く。
「うん。星座、って言うんだよね。あれは、大昔の水竜が星になった奴だ!」
空を指さして、少年が言う。
「ほう! 星になるたぁ、竜ってのはすげぇな。
だが、俺の生まれ、カムイグラの勇者も負けちゃあいねぇ。
星? いやいや、その強者は、月を墜とそうとしたのさ!」
「月を?」
「おう。弓を極めたモノノフが、己の弓で月を射ようと考えた!
刺さったらわかる様に、矢の先端に火をつけて火矢を作ってな。夜空に向けて、すーっとうった!
だが、刺さらねぇ! 男はむきになって、何本も、何本も、何夜も何夜も、撃ち続けた――それでも月は墜とせねぇ。
けどな、そうしてモノノフが撃った火矢は、夜空に何本も突き刺さったんだ! 見えるか? あの星、あれはまだまだ燃えてる、男の撃った矢だってな!」
「矢なの?」
「すごい、ずっと燃えてるの?」
「おう! 星になった竜もすげぇが、人間だって負けちゃあいないんだぜ!」
がはは、と獅門は笑う。ルビーが続いた。
「練達、って言う所にも、星の話はあるんだ。
再現性東京って言う所には、おっきな12個の星座が伝えられてるの。
うお座とか、ふたご座とか、しし座、てんびん座……それぞれに物語があるんだ!」
「お魚さんが、お空にあがったのかな?」
「そう! うお座はね、優しい二匹の魚のお話。川に落ちた鳥の卵を助けてあげたり、女神さまをその背にのせて、悪い奴から逃がしてあげたりしたの!」
きゃいきゃいと騒ぐ子供達と、イレギュラーズ達。その様子を見つつ、義弘は周囲に意識を巡らせた。
「……ちっ、もう嗅ぎ付けてきやがったか」
静かに呟くと、軽く手をふる。北斗七星についての伝説を語っていてエーレンが、静かに頷いた。
「……というわけで、これをひしゃくのように見立てた人は、そんな伝説を語ったのさ。
さて、ちょっと一息入れよう。いいかい? 俺たちを信じて、ここから動かないでくれ――」
エーレンがそう言った刹那! ぼう、と鋭い風が巻き起こった! それが、自然の風ではなく、翼竜の羽ばたきであるのだと気づいたとき、空より急降下する、三つのの影が見えた! ナイトシーカーだ!
「大丈夫。みんなは必ず、わたしたちが守るからね。約束よ?」
アルフィオーネがウインク一つ、子供達に笑いかける。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前たちの夜食にはなってやれんぞ」
エーレンが声をあげ、刃を抜き放つ。同時、振るわれた刃と、ナイトシーカーの爪が交差する――きぃん、と鋭い音が鳴り響き、地に落下したのは、ナイトシーカーの爪、切り取られたそれだった。ぎぎゃ、とナイトシーカーが悲鳴をあげる。同時、飛び込んだのは、瑞希だ!
「不滅。とは言わないけど、簡単には倒れないから!」
朱い旗を振るい、もう前突と突撃する瑞希! 連携をとり、続く朱華もまた、夜闇に煌々と輝く炎の剣を掲げる!
「こっち!」
瑞希の旗が、夜闇の空気を切り裂いた! 振るわれたそれが紅い軌跡を描き、ナイトシーカーへと叩き込まれる! ぎゃ、と体をくねらせたナイトシーカーに、続いて朱華の炎の剣が叩き込まれた! ぼう、と傷口から内部を焼くように、炎の剣がナイトシーカーの身体を切り裂く! ぎぃ、と姫をあげて、ナイトシーカーが地に墜ちる!
「やった……!」
朱華が声をあげた。手ごたえを感じる。確かに倒した! もう、あの亜竜に怯える必要なんてない。対等か、それ以上に、戦うだけの力と可能性を得られたことが、たまらなく嬉しい。
「瑞希、敵を引き付けて! この子達からターゲットをそらさなきゃ!」
「おっけー! こっちだよ、ないとしーかー!」
瑞希が、旗を震わせて駆ける。それを狙うように、残る二匹のナイトシーカーが、低空を滑空――そこに立ちはだかったのが、義弘だ!
「よう。悪いな、今回の会の参加者は、子供だけだ」
真正面から迎え撃つ! ぐ、と力強くこぶしを握り、振るいあげて、ナイトシーカーの顔面にたたきつける、シンプルな拳の一打! がおうん、とすさまじい音を立てて叩き込まれた拳が、壁に正面衝突したかのような衝撃をナイトシーカーに与えた! 強烈な激痛を、ぐわんぐわんと震える脳が、ナイトシーカーの動きを刹那、止める。
「見てろよ、ガキども! こいつは破竜刀……竜を貫く一撃だ!」
獅門が刃を振り落とした。一撃のもとに、隙を晒したナイトシーカーの首が切断される。ぎゅわ、と断末魔の悲鳴をあげて、ナイトシーカーが地面に落下、滑りて止まる。
「残り一匹! 油断するなよ!」
獅門の言葉に、
「りょう、かいっ!」
ルビーが叫んだ。手にした武器、カルミーナを鎌へと変形させて、竜翼の被膜を切り取る様に振るう! ひゅうん、と静かな風切り音とともに、翼を切られたナイトシーカーが地面に着地した。ぎゅうわ、と高い声をあげて、そのまま大地を踏みしめながら、翼を広げて威嚇!
「ティータイムを邪魔するなんて、許すまじ悪行ね。死んであの世で懺悔しなさい!」
その威嚇に屈することなく、アルフィオーネはスピアを構えて突撃! 鱗に覆われた体へ、刺突を試みる! がきぃ、と音が響き、鱗を破砕しながら、その肉に食い込むスピア! ナイトシーカーは悲鳴をあげつつ、アルフィオーネを振り払った。
弾正が構えた。鞭剣を振り上げ、飛び出す! 刹那、何か温かな光が、自分を包んでいるような、そんな感覚を覚えた。
『兄さんがとびっきり格好つけて戦える様に。さぁ、僕が奇跡(ひかり)を集めるよ』
そんな声が、聞こえた気がした。
『ほら見て。僕の兄さんはこんなに凄いんだから!』
嬉しそうな、そんな声が、聞こえた気がした。
ああ、子供達に語ろう。この世で命を全うしたものは、星になるのだ、という優しい伝説を。
俺にもいるんだ。今もきっと、見守ってくれているだろう、大切な人が。
星になって、暖かく光を照らして、きっときっと、今も見守ってくれているのだ。
君たちにもいるのだろう。大切な人。今はもういないけれど、そのまなざしを覚えている人。
大丈夫。夜の中だって、空はこんなにも、優しく明るい光に満ちている。
いつか道に迷ったら、きっと星々が、君たちを導いていくれるんだと。
「……なぁ、そうだろう? 長頼」
静かに呟きながら、刃を振るう。蛇のようにうねりながら、刃はナイトシーカーをからめとり――そして、切り裂いた。
●いつかまた、星空の下で
「――ふふん。あの位朱華達にはどうってことないわっ!
だから今日は思う存分星空を堪能しなさい。けど、朱華達から離れすぎないこと。いいわね?」
朱華が笑いながら、子供達にそう告げる。もちろん、イレギュラーズ達も、無傷でナイトシーカーたちを迎撃できたわけではない。わずかに痛む体を隠しながら、子供達に最高の思い出を残せるように。朱華は笑った。
「おねーちゃん、すごい!」
「私達と同じなのに、強いんだ……!」
きらきらと輝く子供たちの尊敬の目は、外の人間であるイレギュラーズ達にはもちろん、同じ亜竜種である朱華や瑞希、アルフィオーネにも強く向けられている。
「僕も、皆みたいになれる?」
「もちろん! ボクも昔は病気がちだったんだけど、今はこんなに元気なんだからね!」
にこにこと、瑞希は笑って返して見せた。
「ささ、今度は別のお菓子があるよ。私の友達の、スピネルが作ってくれたんだ!」
ルビーが、カゴから小さなタルトを取り出して、子供たちに配り始めた。
「ココアも新しく作り直すわね! ココア、飲んだことある? 外だとよく飲まれてるのよ」
朱華がそう言って、ポットを取り出す。これを焚火であたため直すのだ。
「無いー」
「美味しいの?」
「うん! 外にはね、他にもいろいろな事があるの。
朱華も、少し前までは、あなた達と同じ。何もわからなかった。
でも、今は違うわ! それに、外の事、あなた達にも知って欲しいって思うの。
だから、今日はまだまだ、星を見ながら語りましょ!」
「わーい!」
「色々お話聞かせて! 瑞希おねーちゃんは何を教えてくれるの?」
「え? そうだね、じゃあ、ボクの集落のおとぎ話! 夜空に住む、光の竜のお話をするね!」
子供たちに怯えた様子はなく、再び元気よく振る舞い始める。
「どうやら、うまく迎撃できたようだな」
義弘が、安堵の息をついた。
「なかなか難しい仕事だったが、何とかなりそうだ」
「そうだな。これ以上の襲撃は無いだろうけど、一応警戒は続けよう」
エーレンの言葉に、義弘は頷く。
「しかし……ふっ。良いもんだな。こういうのも」
義弘が少しだけ楽しげに笑うのへ、獅門が笑った。
「おっ、やっぱり保父さん、ってやつか?」
「止めてくれ」
義弘が口をへの字に曲げた。
「ナイトシーカーの死体、後でまとめておきましょ。肉は保存食になるし、爪や皮も道具にできる。
……子供に見せるのは、今回はやめておきましょう」
アルフィオーネがそういうのへ、弾正が肩をすくめた。
「そうだな。それを教えるのは少し早いかもな」
「あなた、まるで先生みたい。わたしの集落にも、そういう人いたわ。
……色々、子供たちに話したい、って顔してる。して来たら?」
アルフィオーネが笑うのへ、弾正は、少しだけ目を丸くして、頷いた。
「そうだな。たくさん話そう。
これからを生きる子供たちのために、俺たちが伝えられることを――」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんの活躍により、星を見る会は無事に完遂。
子供たちは、また一つ、世界の美しい姿を知ることができたのです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
此方は、真華が縁のあった、冬越 弾正を通じて、ローレットに依頼したものとなります。
●成功条件
星を見る会を成功させる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
巨大な洞窟に作られた集落、イルシロン。そこで住む子供たちは、外から出ることはなく、当然、星空を見ることもありません。
子供たちの世話をしている、イルシロンのリーナは、真華に「子供達に星空を見せたい」と相談。
そして『星を見る会』を成功させるために、あなた達、イレギュラーズに応援を要請しました。
皆さんの役割は、子供たちの面倒を見る事と、亜竜ナイトシーカーの迎撃です。
子供たちの面倒は、星を見る会、という性質上、星にまつわるこの世界や、皆さんのしる世界の物語、或いはおやつや飲み物を用意して、すこし遅いお茶会などを開くなどしてもいいでしょう。とにかく、子供達から離れないようにしてください。ナイトシーカーの襲撃は、確実に発生します。いざという時は、身を挺して子供たちを守る必要性があるのです。
作戦決行タイミングは、お察しの通り夜。月明かりと星明りは充分ですし、松明の光源も用意されています。が、それとは別に、独自に暗闇への対策を用意すれば、状況は皆さんに有利に働くでしょう。
●エネミーデータ
ナイトシーカー ×1~???
夜間飛行能力を持つ、夜目のきく亜竜です。最低一体+ランダムで2~4体程度の群れで現れます。
夜目が効く以外は、シンプルなワイバーンです。出血を伴う爪の攻撃や、簡易な炎魔術であるブレスにご注意を。
群れで現れた場合は、それなりに頭がいいので、しっかりと連携もしてきます。
状況によっては子供たちを攻撃してきますので、守ってあげてください。
●味方NPC
子供達 ×10
イルシロン集落の子供たちです。今日の星を見る会をとても楽しみにしています。
当然ながら、戦闘能力はありません。どのように守るかはイレギュラーズの手腕にかかっています。
リーナ× 1
イルシロンの子供たちの面倒を見る女性です。皆さんと一緒に、子供たちの面倒を見ます。
戦闘能力はありません。子供たちより体力はありますが、非戦闘員ですので、守ってあげる対象になります。
真華 ×1
フリアノンの子供たちの面倒を見る女性です。今回、同行し、皆さんと一緒に、子供たちの面倒を見ます。
戦闘能力は……少しあります。母は怒らせると怖いのです。が、当然ワイバーンを撃退できるほどではありません。
簡単に身を護る程度に任せた方がいいでしょう。
真我 ×1
フリアノンの戦士の一人です。今回、護衛として、同僚の戦士3人を連れて、辺りを見張ってくれています。
戦闘能力はありますが、皆さんほどではありません。子供たちを護るくらいのことはできますが、ワイバーンを倒すのは皆さんイレギュラーズが担当した方がいいです。
皆さんがワイバーンに敗れそうな場合は、身を挺して子供たちを護り、集落まで連れて帰ってくれます。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
Tweet