シナリオ詳細
命の欠片を零す渓
オープニング
●命の欠片を零す渓
天義(聖教国ネメシス)の首都、フォン・ルーベルグより離れた海沿いに存在する独立都市『アドラステイア』。
壁に隔たれた各層は、上からは下への優越感、下からは上への憧れ……という物を人々の心に抱かせる。
そんなアドラステイアに共通するのは……本来は存在しないが、彼等だけに信じられている神たる存在『ファルマコン』。
ファルマコンを信じる者は、いつかは救われる……一方で、信じない者はここに済む資格無し、として周りの物から断罪されてしまうという歪な宗教観を生み出している。
ただ神を信じる傾向は、アドラステイアの中心になるに従って高くなる傾向にあるのもまた事実。
『……』
『おい、ラケシス、なにか言ってみろよ! かみからのさずけ物をなぜのこすんだ!!』
大人しそうな緑色の髪の少女に、周りの子供達が声を荒げる。
彼女の前には……周りの子供達からは『神からの授け物』と崇め奉られている赤い錠剤の『イコル』。
食事と共に配給されるその赤い錠剤は、アドラステイアに棲まう人々からすれば……精神を安定させると共に、幸福な気持ちにさせるという万能薬的な薬であり、アドラステイアに棲まう人々からすれば、残す事なんてあり得ないもの……と言う代物。
だが彼女……『ラケシス』は、その錠剤を食べずに残してしまう……それに気付いた周りの子供達が、それはおかしい……とティーチャーを呼んで騒ぎ立てていた。
最初は数人……だけど、子供達が騒いでいるのに気付いた他の子供達、ティーチャー達が段々と集まってきて、彼女の周りを取り囲む。
『おい、なにか言えよ! かみのさずかり物……食べろよ!!』
と告発した子供がその錠剤をラケシスの口元に運ぶが、ラケシスは口を閉ざしたまま。
『……ラケシス。食べなさい……神を信じてないのですか?』
と聖なるローブに身を包んだティーチャーが、諭すように語りかけるが……ラケシスは押し黙り、答えない。
『ねぇ……ティーチャー。これはおかしいよ! ラケシスはかみをきっと信じて無いんだ!! かみを信じてないのははんぎゃくしゃだよね!? はんぎゃくしゃにはだんざいを!』
『そーだそーだ!! はんぎゃくしゃにはだんざいをー!!』
最初の子供から、どんどんと断罪の声が広がっていく。
……それにティーチャーも。
『……仕方ありませんね。ここに魔女裁判を開催します』
魔女裁判の開催を宣言し、子供達の決を採るティーチャー。
当然、満場一致となり、魔女の烙印を押された彼女は両手を後ろ手に拘束されてしまう。
『さぁ……断罪された魔女が落ちる場所は決まっている。皆さん、参りましょう』
『うん、にげないようにみんなでみはるぞー!』
ラケシスが逃げない様、多くの子供達はティーチャーと共にアドラステイア外周の『疑雲の渓』へと向かうのであった。
●
天義(聖教国ネメシス)の首都、フォン・ルーベルグ。
「流石ね……こんな綺麗な街並み。なのに……その裏にはどす黒い宗教観が渦巻いているのよね……』
教会を中心とし、石造りの建物が建ち並ぶ街並みは理路整然としていて……思わず『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が言葉を零す。
だが……そんな街角の一角を歩いていた『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)らイレギュラーズ達に。
『……せん……すい……せん……』
微かに聞こえてきた、少女の声。
……その声に気付いて振り返ると、ツインテールの少女が立っていて。
『すいません……イレギュラーズの……方達、ですか?』
彼女の言葉に頷くと、彼女は息を一つ吐くと共に。
『……良かった……わたしは、ラヴィネイルです……また今日も、子供が渓へ落ちました。そして……また、明日も……』
子供が、落ちる……その言葉に目を見開くオウェード。
「……ああ、話を聞かせて貰えるかね?」
とオウェードの言葉にこくり、と頷くラヴィネイル。
『ん……みなさん、知ってると思います……アドラステイアはファルマコンを信じない子供を、魔女として、断罪しています……その魔女裁判で、無実の罪を受けた子供が連れて行かれるのは……アドラステイア外周から少し行った所にある……『疑雲の渓』、です』
『この渓谷には……日に日に、叛逆者とされた子供達が……連れてこられます……昨日もありました……これが絶える事は……無いでしょう……』
『皆さんにには……この悲劇を止めてきて頂きたいのです……渓谷に連れてこられた無実の罪を着せられた子供を……助けてきて、欲しいんです……どうか……御願いします……』
深く頭を下げるラヴィネイルに、オウェードは。
「ああ、勿論じゃとも! 無実の罪を見過ごす訳には行かぬからの! 任せておけい!」
と、力強く胸を叩くのであった。
- 命の欠片を零す渓完了
- GM名緋月燕
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年03月24日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●命の声響く
天義首都、フォン・ルーベルグより離れた海沿いの独立都市『アドラステイア』。
各層に隔たてられた構造の街は、住まう人々に閉塞感を生み出している。
更には……相互監視の下で『ファルマコン』を信じない裏切り者を炙り出し、炙り出された者には死を、という慣習がこのアドラステイアには深く根付いる。
今回、『守護の導き手』オウェード=ランドマスター(p3p009184)に声を掛けてきたツインテールのラヴィネイルから齎されたのは、こんなアドラステイアで捌かれようとしている少女を救出してきて欲しい、という話。
「……子供が子供を断罪し、音穴はそれを見守り時に推し進める……アドラステイアは相変わらず、ですか」
「ああ。俺の元の世界の教団だって、ここまで酷くはなかったぞ? ……宗教の悪いところを煮詰めたような連中だな」
「そうだね。宗教と言うのは恐ろしいものだ。神の教えという大義名分で、子供たちすら簡単に残酷になってしまう。在り方というのを見つめ直す機会も、神の教えと説いてしまえば、歪んだ形で広がっていく……個人的な宗教観を語るのなら、こんなのが神の教えだなんて言う宗教にあやかりたくはないかな」
「ああ、俺もそう思うぜ……」
顔をしかめる『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)と、肩を竦める『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)。
二人連ねる言葉の通り、今回の依頼の軸たる所は、子供が子供を裏切り者と断罪している所にある。
そしてその断罪を否定しなかった少女は、罪の果てにアドラステイア外周にある『疑雲の渓』に連行され、その渓谷の下へ突き落とされようとしていた。
勿論、子供同士の断罪を聞き届け判断を下したのは、彼等を導き指導するティーチャーではある。
とは言え子供達も、言い方は悪いが仲間を売り捨てて己が利を得ようとしているのは間違い無い。
「本当、子供が子供を断罪して、大人はそれを見守り、時に推し進める……アドラステイアは相変わらず、ですか」
「ああ……子供が当たり前のように他者の命を手に掛けられる状況、腸煮えくり返るぜ。俺は以前、冤罪で不正義の罰を喰らった身だからな。子供達が他人を断罪するのならば、その命の重みに向かい見つめ直して欲しい……」
「そうね。今迄アドラステイアの話は散々聞いてたケド、ここまでイカれてるなんてね……宗教にはいいイメージはないけれど『よりよい生き方を目指す標』としては評価していた。けど、それを盾に無垢な人達に歪んだ価値観を植え付けて、好きにしようだなんておかしいよ!! かつての天喜の方が百倍マシさ!」
『斬城剣』橋場・ステラ(p3p008617)、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)、『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が、様々な思いを口にする。
が、それに一味変わった思いを紡ぐ歯『紅蓮の魔女』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)。
「まぁ……ガキんちょ達やどうでもいい大人の命には私、全然興味はないけれど、まぁ仕事は仕事ね」
とジュリエットの言葉に、オウェードが。
「どうにかラケシス殿を救出したい所じゃ! 頼むが力を貸してくれ!」
と言うと、ジュリエットは。
「受けたからには雑な事はしないわよ私。一先ず人命優先なのは了解したわ。それに……魔女裁判に本物の魔女が現れるのは中々皮肉が効くのではなくて? そう考えると面白味は幾分マシね。さっさと終わらせましょ」
とジュリエットの言葉に『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)も。
「そうだね。断罪された人達が落とされる『疑雲の渓』か……一体ここに、何人の魂が眠って居るんだろうか。きっと辛かったよね……寂しかったよね……来るのが遅れてごめん。だけど、約束する。せめて……せめて今回は、こんな馬鹿な事を、絶対にやらせはしないから!」
ぐぐっと拳を握りしめて強く叫ぶ繧花、そんな仲間達の言葉にオウェードは。
「うむ。ミルヴィ殿の言っていた『影で苦しむ者』を全て救いたい所じゃ。勇者の称号はミルヴィ殿との誓いと約束じゃからな……宜しく頼む!」
仲間達に一際強い口調で言葉を重ね、そしてイレギュラーズ達はラケシスら断罪者が連れてこられる『疑雲の渓』へと急ぐのであった。
●安らぎを遺す渓
そして、疑雲の渓へと辿り着いたイレギュラーズ。
大きな地の裂け目が地面を走り、深い深い谷底は……見通すことが出来ない。
そんな渓谷の裂け目の一番中央の辺り……つまりは、一番地底深くまでその裂け目が広がっている所には、少しせり出したお立ち台の様なものが掛けられており……そして、そこには、虚ろな瞳で渓谷を見下ろしている少女……そう、ラケシスの姿。
『さぁ、ラケシス。今ならまだ間に合う。何故にイコルを拒否する? これは『ファルマコン』神からの授かり物……接種することは光栄な事であり、それを拒否するのは神を拒否するのと同義。それでも……お前はイコルを拒否するのか?』
宣教師の服装に身を包んだティーチャーが、ラケシスに向けて説諭を語る。
……しかしラケシスは、そんなティーチャーの言葉に……決して首を縦に振る事は無い。
いや、横にも振らず、ただただ無言を貫いている彼女。
そんな彼女の態度に、周りの子供達は。
『おい! ラケシス、何とか言えよー!! ティーチャーのおしえにそむくのかー!!』
『そうだそうだ!! 神を信じない、でもそういいたくないのかよー!! そんなのひきょうだぞー!!』
子供達が一人一人だったらば、こんなに口汚く罵ることはないかもしれない。
でも……二人、三人……いや、十数人という人数が集まると、子供達は幾らでも残虐になれてしまう。
……そんな仲間の子供達の言葉に対しても、ラケシスは無言を貫き通し……静かに、深い渓の下を見下ろしていた。
『……そうですか。いくら言っても、話したくない……という事ですね? ならば……こちらの取りうる手は一つのみ……この渓谷に落ち、断罪を全うするのみです』
瞑目し、ラケシスへから一歩、二歩……離れるティーチャー。
ラケシスに弔いの聖句を唱え……後ろ手に手錠を掛けなおし、退避態勢を取れない様にする。
……その瞬間、イレギュラーズ達は渓谷へと到着する。
『っ……! や、やらせるもんかぁぁぁっ!!』
辿り着くなり、繧花が先陣を切って吠え立てながら突撃する。
ジュリエットも繧花に続き、二人がターゲットに収めるは……魔女裁判をしている一団の最後方、逃げ道を塞ぐべく立ち塞がる聖獣たちへ攻撃を嗾ける。
不意を突かれた形になり、聖獣は体勢を崩す、そしてジュリエットは仲間達に向けて。
「足止めしてあげるから、助けに行ってやりなさい!!」
と仲間達に叫ぶ。
突然のイレギュラーズ達の襲撃に、子供達は。
『え?? な、何なのあいつら!?』
『しらねーよ!! ねえティーチャー、何あいつら!?』
とティーチャーに縋り、対しティーチャーは。
『っ……もしや、この裁判を邪魔しに来た、のか?』
まだ、少し理解出来ておらず、混乱気味。
そんな彼等の混乱を他所に、更にミルヴィ、ステラ、オウェード、エーレンの四人は聖獣をパスし、ティーチャーと子供達の懐へと潜り込む。
そして。
「ここはワシらに任せろ!」
「そう、ここが勝機! 皆、頼んだよ!!」
オウェードとミルヴィの言葉に促されるよう、ベルナルドと雲雀の二人は、更にティーチャーと子供達を越えてラケシスの元へと向かおうとする。
そんなイレギュラーズ達の動きに、ティーチャーは。
『させ、るかっつ!!』
と片手を上げて、不意を討たれた聖獣に攻撃指示。
指示を受けた聖獣は、イレギュラーズ達を殺すべく咆哮を上げて翼をはためかせ、反撃を開始する。
勿論、そんな聖獣の動きにジュリエットと繧花二人は対峙し、行く先をブロックする。
『ウウォォォゥゥウ……!!』
怒りに咆哮を震わせる聖獣……そしてその方向に目を光らせる子供達。
対し……突然のイレギュラーズが襲撃してきた事にまだ多少混乱気味。
そんなティーチャー、子供達、聖獣に仲間達が対峙している間に、ベルナルド、雲雀の二人は気配を消した上で、その混乱に乗じてラケシスの下へと接近。
『……? っ……』
近づいて来たイレギュラーズ達に、ちょっと驚いた表情を浮かべるラケシス。
そんな彼女が落ちないよう、拘束された手をベルナルドが掴むと共に。
「ラケシス。キミに生きて欲しいと願う子の頼みで俺達は来た。遭わせてやるから、騒ぎが落ちつくまで俺の背に隠れてな?」
『え……?? ……わかり、ました……』
戸惑いを露わにする物の、こくり……と頷くラケシス。
そしてベルナルドの一歩前には雲雀が立つ事で、ラケシスへの壁を二重に張る。
……勿論、そんなラケシスの救出の動きに気付いたティーチャーは。
『やはりか……裁判を妨害されたばかりか、罪人を逃すなどあってはならぬ事!! 子供達よ! 奴らを妨害するのだ!!』
『え? うん、わかったティーチャー!!』
ティーチャーの言葉に従順に従う子供達。
とは言え子供達の戦闘能力は微々たる物……ラケシスが立つ張り出したお立ち台の所へと向かい、突き落とそうと物量で押し込んで来る。
勿論子供達がそのまま流れ込めば、数の暴力でラケシス諸共ベルナルドと雲雀も落とされる事になちかねない。
だが、そんな子供達に対しステラが。
「絶対に突き落とさせなんてさせない!!」
と、毅然とした態度と共に、集逝く子供達を不殺を込めた一閃で振り薙ぎ、気絶させていく。
更にはオウェードも。
「……少し、眠るがいい!」
と死なさずの気絶で留める攻撃で子供達を次々と気絶させていく。
そんな子供達の討滅ペースはかなり早く、みるみる内に動ける子供達は減少。
『っ……聖獣様! 彼等に天罰を与えて下さい!! そこの子よ、こちらへ来るのです!!』
更にティーチャーは子供を呼び寄せつつ、聖獣へ攻撃指示を与え……かなり忙しない状況。
……そしてそんなティーチャーの手には、見覚えのあるイコルの錠剤が複数握られていて。
「ごめんね……! けど、これは手加減出来ない!!」
ティーチャーの元に一気に肉薄したミルヴィが、その手元に強烈な一閃を討ち放ち、イコルを手放ささせる。
ただ、一度ならず二度、三度とイコルはティーチャーの懐から出て来る。
「こいつ……どれだけイコルを隠し持ってるんだ……! いいか子供達! これを食べると、あの聖獣の様になってしまうんだ! だから、食べてはならないんだ!」
とエーレンが大声で子供達に注意喚起するものの……子供達はその言葉よりも、イコルを貰えるなら……と、そちらに棚引く。
そして、子供達にイコルを飲ませようとするティーチャーに繧花が。
「もうこんな事はやめて! 無抵抗の仲間を殺めようだなんて、絶対におかしいよ!!」
と情に訴えかける。
……しかし、やはり子供も、ティーチャーも。
『お前達の様な裏切り者の声など聞くものか!』
『そーだそーだ!! イコルはぼくたちを幸せにしてくれるんだから!! イコルをほしがらないあんたたちは、やっぱりうらぎりものだー!!』
……完全にイコルに対し腐敗し切った彼等の言葉……そして。
「アレは、絶対に使わせちゃいけない物だ。どうしても無理やりアレを飲ませるって言うなら……悪いけど、ティーチャーには手加減出来ないかもしれない!!」
繧花は毅然とティーチャーを睨み付ける……そして。
「繧花、落ち着け。まずは聖獣を頼む! ベルナルド、雲雀、ラケシスは絶対に守ってくれよ!」
「うん! わかったよ!!」
エーレンに頷く繧花。
そして……聖獣を先行して倒し切る頃には、子供達はほぼ8割方が気絶し……ティーチャーも疲弊が見て取れる状態。
そんな状況を……ベルナルドと雲雀の後ろからじっと見ていたラケシス。
『……っ……』
ぐっ、と拳を握りしめるラケシス。
何か、覚悟を決めたかのような……そんな彼女の行動に、雲雀はこくりと頷き。
「……神の教えを建前に、何が正しいか否かの判別を放棄した代償を、貴方たちは払わなきゃいけない。ただそれだけの話だ……少なくとも俺は、ミライある子供たちを教えに背くという理由だけで殺す、神の言葉なんて正しいとは思えないね」
「そうだな。人は誰だって罪を犯さずにはいられない。罪人の癖に、お前達は他人の善悪を正しく判断して裁けるってのか?」
雲雀とベルナルドの言葉に、ステラとオウェードからも。
「そうですね。……申し訳ありませんが、ここで退く訳にも、そして見逃す訳にも行きません。私達が罪を裁く訳ではありませんが……ここで、眠って貰います!」
「うむ……さぁ、覚悟せい。未来ある子供達を食い物にするお前達は、絶対に……許さぬぞ!」
『グヌヌ……う、煩い……!! 死ね、殺せっ!!』
子供達を駒とばかりに戦闘指示するティーチャー。
……そんなティーチャーの言葉に子供達は戸惑い……しかしティーチャーの教えに背く訳にも行かず……イレギュラーズ達に対峙。
「……お前達が被害者なのは分かる。だから……もういい、眠れ」
エーレンの騒がしき一閃が子供達を気絶させ、そしてステラの漆黒の顎がティーチャーを喰らう。
そして……全ての罪ある者共が、地に臥すのであった。
●救われる声に
「……ふぅ……どうやら終わった様ね」
息を吐き、周りを見渡し戦闘体勢をとくジュリエット。
そして……護りきったラケシスを抱えて、疑雲の渓の崖沿いから取りあえず離れ、安全を確保した所で……ラケシスの腕を拘束する手錠を破壊する雲雀。
「これで……よし、っと。もう大丈夫だよ?」
と雲雀が笑い掛けると、ラケシスは。
「……ありがとう……です……」
ぺこり、と頭を下げるラケシス。
そんな彼女の言葉にオウェードはほっとお胸をなで下ろして。
「良かった……ベルナルド殿、雲雀殿、救出ありがとうじゃよ……」
「ううん。気にしないでいいさ……ラケシスも怪我はない?」
「……はい……ほんとう……ありがとう……ございました……でも……どうして……助けて……くれたの……でしょうか?」
ラケシスが小首を傾げる。
……そんな彼女の純朴な言葉に、はは、と笑いながらジュリエットは。
」まぁ……こういう魔女裁判なんて、私刑の言い理由にされがちなものさ。私も元居た世界じゃ前科百犯やり尽くしたから何ともだけど……でも、私刑に掛けられるなんて真っ平ごめんだったわ」
悪びれる風もないジュリエットの言葉……更に彼女に視線を合わせながら。
「貴方がどんな考えがあって抵抗したのか知らないけど、自分の意思を見せたなら、最後まで黙ってないで動いて欲しいわね。そっちの方が面白いでしょ、人生」
そんなジュリエットの言葉にラケシスは。
「……愉しい……ですか……?」
「そうよ。だって貴方……友達に殺されそうになったのよ? 返り討ちにしたい、なんて思わないの?」
「……誰かを殺すぐらいなら……自ら命を絶った方がまだマシ……です……」
そんなラケシスの言葉に、オウェードは……目を閉じる。
(「……ラケシス殿は優しすぎる。ワシは、ワシ自身が……醜いと感じるくらいに……」)
彼女の自己犠牲の言葉に……心打たれるオウェード。
そして、オウェードは。
「ラケシス……と言ったな? ……お前さん……行く身よりもないじゃろう。ワシが……お前さんの身許を引き受けたいと思うのじゃが……」
とオウェードの言葉に、ラケシスはきょとんと小首を傾げる。
一方で、周りの仲間達は。
「そう……ですね。このまま一人で生きるのは大変だろうし、オウェードさんの領で引き取ってくれるなら、その方が安心ですね」
「ああ……勿論、ラケシスがどう思うかだが……どうだい?」
ステラとエーレンの言葉……ラケシスは皆の顔を見渡した後。
「……その……はい……」
と……小さくこくり頷くのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
疑雲の渓からの救出依頼に参加頂き、有り難うございました!
子供達の集団加害心理を利用するティーチャーは許せませんね……。
そして、ラケシスさんの今後も、どうぞ宜しくお願い致します!
GMコメント
皆様、こんにちわ。緋月 燕(あけつき・つばめ)と申します。
今回、アドラステイアのシナリオですが……オウェードさんの関係者依頼となっております。
●成功条件
アドラステイア下層に突如現れ、暴れる『聖獣』を退治する事です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●周りの状況
今回の舞台となるのはアドラステイア外周の少し外れた所にある、『疑雲の渓』になります。
大地を大きく裂いたかの様に開いた断崖絶壁……そこには今迄も、アドラステイアで魔女裁判に掛けられ、最後まで抵抗した物を突き落とされてきています。
当然その様な大きな裂け目なので、落とされれば助かる事はないでしょう。
そんな渓谷に、下層で魔女裁判を受けた『ラケシス』さんと、子供達、ティーチャーがやって来ますので、彼女が渓谷に落とされる前に敵陣を全て倒さなければなりません。
皆様が到着出来るのが、丁度断罪の一団が渓谷の手前で、彼女に最後の審尋をしている所なので、事前準備できる時間的余裕もありません。
又、子供、ティーチャー、更に逃がさない様に聖獣が勢揃いの状況ですし、彼等はラケシスさんを断罪する事が目的ですから、彼女を突き落とすことが最優先になります。
ちなみに、ラケシスさんは後ろ手に拘束されています。
どうも抵抗する意思はなさそうなので、背中から押されれば抵抗出来ずに落ちてしまうでしょう。
●討伐目標
ティーチャーらに使役された、断罪を見届ける為の『聖獣』
ティーチャーらに使役された聖獣で、今回の聖獣はティーチャーらによって躾けられている様です。
とは言え元々は荒々しい心を内に秘めた獣……ティーチャーの指示に解き放たれれば、思う存分に暴れ回るでしょう。
姿形はライオンの如き獅子の白い獣で、翼を生やしており飛行可能です。
また、その口から前方範囲に炎を吹き付ける事が可能です。
断罪せし『子供』達
ラケシスさんを断罪した子供達です。
下層に住む孤児達で、攻撃能力は微々たるものです。
だが人数が多く、ラケシスを突き落とそうとしたり、邪魔されないように壁になったり……とお邪魔な行動を数の暴力で仕掛けてくるので、彼等の対処が出来ないとラケシスさんが落とされる時はかなり早期に訪れる事でしょう。
断罪を指導する『ティーチャー』達
子供達の親代わりとして導くシスター、神父様達です。
子供達の断罪を受け入れ、ラケシスさんの断罪を見届ける為に同行しています。
彼等は仲間達の回復、聖獣を嗾ける、更に子供達を利用しながら剣で攻撃してくる、の三つの行動が可能です。
また、自分達が危機に陥ると、近くの子供にイコルを一気に分け与えて、聖獣を増やす……という事もする可能性がありますので、そうさせない様に対処も必要でしょう。
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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