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シナリオ詳細

新築の家がワイバーンに持ち去られた件について

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●新築の家がワイバーンに持ち去られた件についてなんです
 ペイトに暮らすドラゴニアのガデンには夢があった。
 外の世界(つまりは覇竜の外の地域)から伝え聞いた『マイホーム』を持つという夢である。
 日夜坑道労働で金を稼ぎ、希少な木材を初めとする建築資材を集めイレギュラーズとなったドラゴニア仲間から買い取った設計図を元に地元の大工たちと相談し、そして安全なタイミングを見計らいながら少しずつ作り上げる。
 夢に向かって努力する時間は幸せだった。
 そして叶った瞬間の幸せもまた。
「これが……マイホーム……」
 ガデンの目の前にそびえ立ったのは2LDKの慎ましやかな家屋。しかし真新しい、自分だけの家屋。ガデンは用意していた石の表札を取り出した。ガデンと刻まれたそれを玄関戸口横へと接着すると、集まっていた大工を初めとする関係者たちが拍手を送った。
「みなさん、ありがとう。皆さんが教えてくれた技術が無ければこの家は建ちませんでした。長年の夢がついにかなったんです。今日はお祝いです、乾杯ー!」
「「乾杯ー!」」
 一斉に掲げられた酒瓶。
 マイホームの屋根に降り立つワイバーン。
 メシッという音と共に爪が食い込み、羽ばたく翼によって暴風が吹き荒れ――。
「えっ」
 マイホームは、ワイバーンの両足にがっちり掴まれたままはるか天空へと持ち去られていった。
「俺のマイホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 ガデンは自分が『頭痛が痛い』みたいなことを叫んでいたことにも気付かず、ただ涙を流した。

●もうこれ無理じゃない?
 ペイトから南にだいぶ行ったところに、そのワイバーンの素があった。
 厳密にはワロウワイバーンと呼ばれるその種は、木材などを中心とした素材で腕状の巣を作り自らの卵を孵化させる。生まれた雛は暫くその巣で成長し、やがて巣立って一人前のワロウワイバーンとなるのだ。
 ガデンのマイホームが見つかったのは、皆さんご想像の通りこの巣の中である。戸口の板材と共に彼の表札がチラッと見えていたのが決定的だったという。
「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」
 血の涙を流すガデン。黒く光沢のある石材でできたテーブルに陶器のカップをドンと叩きつけると、酒の回った目でこちらをみた。こちらっていうか、ローレット・イレギュラーズたちをである。
「マイホームは地上に建てるもの……その話を鵜呑みにしたのは悪かった。地下に作ればこうはならなかったのかもしれない。それは、それとして! できあがって完成祝いをしてる最中に持っていかなくたっていいじゃん!」
 もう一回ドンってやって、ガデンは泣いた。大体40歳くらいのオッサンが酒飲みながら泣いてる姿はクるものがあった。
 そんな彼がローレットを呼んだのだからやっぱ亜竜に復讐とかそういう依頼なのかな、と思っていると……なんかぺしゃんこになったガデンがうるんだ目で言った。
「いや、ワイバーンを倒したところで家は戻らないので……けど表札だけは、思い出があるので……取り戻してもらえませんかね」
 『表札だけは』と聞いて、ローレットたちは思い出す。
 はるか上空から超視力やファミリアーを駆使してなんとか見つけたという、ワロウワイバーンの巣にチラ見えしていた表札のことを。
 ワイバーンの善し悪しは別として、少なくとも今回罪はない(らしい)。
 なので、ワイバーンたちを掻い潜り、できるだけ二次被害を出すことなく、『表札』だけをゲットして帰ってくる。
 これが、今回の依頼内容なのである。

GMコメント

●オーダー
 ワロウワイバーンの巣へ忍び込み、表札をゲットしたらダッシュで逃げ帰ろう。

 ワロウワイバーンは自分の子供がピーピーいってる巣というだけあってかなり警戒しているはずです。
 そこに忍び込むのはだいぶ難しいですが、周囲のワイバーンなどと軽く戦闘しながら注意を引きつけ、誰か(できれば2~3人のチーム)が巣へ忍び込んで表札をゲット。そうしたら馬なりバイクなりに乗って即座に逃げるという作戦になります。
 それがワイバーン的には謎の石っころだったとしても巣から何かを持ち去ればデストロイ確定なので、周囲のワイバーンたちは血相変えて追っかけてくるはずです。
 戦闘をこなして追い払うことでこの追跡をふりきりましょう。

 まとめますとこうなります。

・前半パート
 →陽動チーム:親を含め周囲のワイバーンをできるだけ引きつける
 →忍び込みチーム:雛や他ワイバーンに気付かれないように表札をゲット
・後半パート
 追っかけてくるワイバーンを追い払いながら馬やバイクなどの騎乗アイテムで逃げる

●騎乗アイテムのレンタル
 後半パートには、『騎乗戦闘が可能と明記されたアイテム』のみ使用できます。
 他PCから借りる場合は必ず自分で装備するようにしてください。
 また一応ペイトから陸を走るタイプの騎乗動物をレンタルすることもできますが、自前のアイテムがあったほうが性能はあがるでしょう。

●ワロウワイバーン
 大体の人が想像するようなプテラノドンタイプの亜竜です。
 両足は猛禽類の足のようにツメががっちりしていて、両腕は翼になっています。
 余談ですが色は青っぽいです。
 地上をうろちょろしてると餌だと思ってもっていっちゃうことがあったり、巣作りによさそうな素材をみつけると持って行っちゃうことがある以外はさして危険な亜竜ではありませんが、今回は巣に忍び込んでいるので100パー危険です。他人の(しかも幼児がいる)家に知らないひとが勝手に入っていったらキレられるのは当然かもしれない。

 そしてこれは重要ではない点ですが、ワイバーン側に被害をあんまり出さないでおくとポイントが高いです。なんのポイントかはわかりませんが。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 新築の家がワイバーンに持ち去られた件について完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
冬越 弾正(p3p007105)
終音
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
一条 夢心地(p3p008344)
殿
暁明(p3p010408)
我、深川飯を所望する
玖・瑞希(p3p010409)
深き森の冒険者
優雨(p3p010426)
アウルム(p3p010517)
ルーキー・ワイバーンライダー

リプレイ


 風の吹き抜ける乾いた大地に、砂塵に混じってタンブルウィードが転がっていく。
 すこしジャリッとした大地を踏みしめ、『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)は飛んできた騎乗用ワイバーンの鞍から降りた。
 ワイバーンをそっと撫でると、喉をクルルと鳴らしたような声を出した。
 覇竜領域には多種多様な亜竜がいる。このように人になれるよう品種改良と訓練が施されたワイバーンもあれば、二階建ての家屋を持ち去って巣にするワイバーンだっている。
 振り向くと、そんなワロウワイバーンの群生地帯がめにはいった。
 こちらに気付いていないわけではないのだろうが、積極的に近づかないならとこちらを放置している状態にみえる。
「マイホームに憧れる気持ち、わかるかも。外の世界にはいろんなおうちがあったから」
 たとえば幻想王都の街並を思い出し、うっとりと目を瞑る瑞希。
 優雨(p3p010426)は同じような風景を脳裏に描いていた。
 青空の下に並ぶ無数の家屋。雨風を意識してか工夫して作られた屋根の構造は龍の鱗のように繊細で、家そのものが芸術品のようにすら見えた。
 ガデンはそれに憧れて、同じものを作り出そうとしたのかもしれない。
(お家が完成して、すぐに持って行かれちゃったのは……その、悲しい。
 んー……表札だけでも、何とか、取り戻してあげたい、ね)
 レブンにのって追いついてきた『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)が、手のひらを額に翳すようにして巣を眺める。
「ファミリアーで近づけるのはこの辺りが限界みたい。表札はたしか……あの巣だったよね?」
 指さした巣のひとつ。他のものと大差ないように見えるが、おそらく超視力によって見つめればちらりと表札やドア周辺の材木が見つかるのだろう。
 どの巣にあるか分かれば、あとはこっそり近づけばいいだけだ。
「それにしても、持ち家がワイバーンに持ち去られるとは、まあ……いくら覇竜とは云え、トラブルがちょいとワイルド過ぎやしないかしらねぇ?」
 やれやれといった様子で首をこきりとならす『雪風』ゼファー(p3p007625)。
 達観した態度はいつも通りなのだが、いつもの凛とした存在感がいまは希薄だ。気配遮断の効果をアクティブにしているのだろう。
「まあ……彼にとっては形見みたいなもんでしょうし。そう思えば不自然な依頼でもないわよ。
 遺体は持ち帰れずとも身に着けて居たものだけは取り返してくれ。なんて依頼も度々ありますしね」
「そういうもの、かもしれませんね」
 『特異運命座標』アウルム(p3p010517)にとって『表札だけでも』という感覚はちょっと分かりづらいが、遺族の遺品ということならよくわかる。起きてしまったことに納得するために、ひとは時としてよすがを求めることがある。
 アウルムはそこまで騎乗してきたワイバーンに再び飛び乗ると、羽ばたく翼によって空へ舞い上がった。
 ワロウワイバーンたちが僅かに警戒を強めたのがわかる。
 先に空へ上がっていた『殿』一条 夢心地(p3p008344)はワイバーンの上で腕組みをしていた。
「うむ、うむ。表札さえあればそこが家になるというもの。
 天守に金のしゃちほこが鎮座しておれば、そこが城になるのと同じ理屈じゃな。
 なーーーーはっはっは! 麿に任せておけい。見事取り戻してみせようぞ」
 腕組みしたままぐいーんって身体をのけぞらせる夢心地。
 アウルムは大丈夫かなこのひとって目で見ていたが、(彼女から見て)古参の面々が平然としているので多分大丈夫なのだろう。
 と、そんな中へ『Utraque unum』冬越 弾正(p3p007105)の操作する馬車が到着した。
 今回は騎乗戦闘を要するということで陸上騎乗戦闘用のワイバーンを貸して貰って馬車に接続している。
 幌のないオープンなタイプのものだ。
「俺はガデン殿の器のでかさに感心したぞ。己の過ちを素直に認める度量の深さ、表札以外はくれてやろうという心意気! 素晴らしい男気だ!」
 弾正は鞄から取り出したマイクを握ると、そのプラグとサクッと近くのアンプに繋いだ。
 一緒に接続していたポータブルレコーダーのスイッチを入れると、はげしいドラムイントロからギターの音色。更に三味線のような和楽器が加わったミュージックが流れ出す。
「さあショータイムだ! 聞いてくれ――冬越 弾正で、『燦々煌々』!」


 想像できるだろうか。ワイバーンに引かれた馬車の上で、縁に片足をかけながらマイクで熱唱する弾正の姿が。
 と言うわけでお聞き下さい――


 『燦々煌々(ライブバージョン)』
 歌:冬越 弾正

 がなりたてるよな歌は 夜空
 掻き消えることなく

 闇夜の中
 黒と赤は
 光となり 結ばれていく

 冷たい風
 切り裂くよな
 叫ぶ声を その身に受け続け

 大切だと思ったそれを
 果たしていくと決めたのならば
 今歩むべき世界を決めて
 永遠を知れ 哀れな魂(たま)よ

 紅蓮なる歌よ 刃
 研がれるよう 心(しん)に声に
 蜘蛛糸を垂らすような
 慈悲など与えるはずもない

 風に音 響くような
 平蜘蛛よ 爆ぜて叫べ
 その熱を帯びた血潮
 赤黒く脈を打つのなら

 がなりたてるよな歌は 夜空
 掻き消えることなく


「す、スゴイ……びっくりするほどオンステージデスね? これが戦闘する依頼だってことをうっかり忘れマス」
 デコイや攪乱に使えないと分かった途端ドリームシアターを映像演出に切り替えた暁明。
 桃饅頭をぱくつきながら弾正の後ろではげしいネオンサインを炸裂させた。
 こんなのが現れて注目しない奴はいない。しかも自宅前に。
 ワロウワイバーンたちは一斉に振り返り、このなんともいえないけどとにかく目立つ集団に目を向けた。
 暁明はキラリと目をひからせ、夢心地を振り返る。
「今デス!」
「ハッ!」
 夢心地は両腕を翼のように広げるとワイバーンからジャンプし、弾正の歌うステージ(馬車)へとスーパトモサマ着地した。
「陽動といってもいたずらに殺生はせぬ。となればやるべきことは一つ――!」
 夢心地はチョップの形にした腕を水平に顎の所に持っていくと、弾正の歌うキレッキレでスタイリッシュな歌をバックにものすごく謎の踊りを始めた。どう謎なのかはもう言葉で説明できないんだけど一言で言うなら変なおじさんだった。ほんとうになにを象徴してるのかまったくわからない形容不明な動きだし実在の人物団体番組とは一切関係ない踊りだだったけど。
 高速でへんなダンスを踊り続ける夢心地。
 流石にそろそろ放置もできなくなったのか、ワロウワイバーンたちは彼らへと襲いかかり始めた。
 ドラゴンロアの力を使い空へと飛び上がるレイン。
 剣に手をかけると、ワロウワイバーンによる爪の攻撃をギリギリのところで弾くようにかわした。
 衝撃が走るがそれを回転によって逃がし、きりもみ回転をかけてワイバーンの側面へと回り込むと剣の鞘で思い切り殴りつけた。
 衝撃によって耐性が崩れ、高度を落とすワロウワイバーン。
 が、相手にすべきワロウワイバーンは一体限りではない。周囲から次々と集まってきたワロウワイバーンの爪をひとつふたつと回避するうち、偶然にも引っかかった爪によってレインの肩口が斬り割かれた。吹き上がる血。回転しながら転落するレイン。それを空中でキャッチしたのはアウルムとそのワイバーンだった。
 ワイバーン同士の空中戦なら望むところだと言わんばかりに、アウルムは騎乗していたワイバーンの腹を靴でトンッと軽く叩いてシグナルを送る。
 大きくターンをかけたワイバーンが咆哮をあげ、アウルムはこちらに意識を向けたワロウワイバーンたちへと剣……いやアシカールパンツァーを構えた。
 トリガーをひき、発射された砲弾がはげしい花火を爆発させる。殺傷能力こそないが、ワロウワイバーンたちの意識を釘付けにするには充分だ。
「そっちばっかりに気を取られてると――!」
 瑞希が破片七晶石を振りかざした。魔力を込めたせいか、キラキラと赤色の輝きを放つ石。
 ワロウワイバーンたちの一部は瑞希へと振り返り、羽ばたきと共に突撃を開始した。
 リトルワイバーンに騎乗していた瑞希はヒュッと短く息を吸うと、ワイバーンにしがみつきながらワロウワイバーンたちへと突進。
 身を小さくしたおかげで瑞希の頭のすぐ真上を鋭い爪が通過していく。そして離れすぎないようにとワイバーンに制動をかけさせ、瑞希は後ろを振り向きつつ衝撃の魔法を解き放った。
 引きつけは充分に成功している。あとは――。

「私達がこっそりと表札を手に入れるだけ、ね」
 気配と足音を殺しながら慎重にすすむゼファー。
 彼女の足元を、リリーもまた同じよううにしながら進んでいく。
 見上げてみると、ゼファーよりもはるかに大きな『雛鳥』がピーピーといいながら空に頭をむけている。
 その意味するところが、『餌が近くにあるよ』だということを察してゼファーは顔を左右非対称にしかめた。
「あったよ!」
 小声を張るというちょっと器用なしゃべり方をしたリリーの声に振り返ると、リリーは巣の中にあった表札を持ち上げていた。
 その瞬間。周囲の雛たちが突然声を止め、ぎょろりと目をむいてリリーをにらみ付けた。
 巣をほんの僅かにでも破壊するという行為に敵意が生まれたのか、はたまたもっと別の理由か。
 レインやアウルムたちに引きつけられていたワロウワイバーンの一体がこちらに気づき、大急ぎで舞い戻ってくる。
「リリー、パス!」
 手を伸ばしたゼファーにリリーは頷き、えいっと勢いをつけて表札を投げる。
 回転して飛んだ表札をゼファーはぱしりとキャッチすると、風をきるような前傾姿勢で走り出す。
 さっきまでゼファーがいた場所がザムッと破裂したような音をたてた。固い砂地がワロウワイバーンの爪で勢いよくえぐりとられた音だ。
 リリーとゼファーがそれぞれ指笛をふくと、近くに控えていたレブンと量産型ハイペリオン様が飛び出してくる。
 ザッとターンをかけた二匹の背にほぼ同時に飛び乗ると、今度はゼファーが『持ってて!』と言って表札をリリーへ投げた。
 慌ててキャッチし、器用にもリュックサックみたいに身体に結びつけるリリー。
 レブンがものすごい勢いで走り出す一方で、それを取り返そうと狙いを定め低空飛行状態にはいったワロウワイバーンとの間にゼファーが割り込んだ。
 量産型ハイペリオン様にくくりつけていた槍をとり、爪の一撃を思い切りはじく。
「ほら、ハイペリオン様頑張って! じゃなきゃ連中のオヤツにされちゃうわよ!」
「ペリー!」
「無理なんてない! やれば出来るやれば出来る! 私のトコに来たからには体育会系教育待ったなしよ!」
「ペリー!!」
 目を(><)にして全力疾走する量産型ハイペリオン様。
 リリーはそれを援護するためにDFCA47Wolfstal改を構えると、ワロウワイバーンに軽く一発銃弾を撃ち込んだ。
 直撃をうけ、スピードダウンするワロウワイバーン。墜落したのか地面をスライドする音が背後で響くが振り返っている暇はない。
 なぜなら左右にさらなるワロウワイバーンたちが集合していたからだ。
「こっちだ、急げ!」
 馬車をターンさせ走り出す弾正。
 ショータイムは終わりとばかりに映像演出をとめた暁明は馬車からジャンプし陸鮫へライドオン。
「エスケイプゴーゴー! フライアウェイナウ!」
 陸鮫は勢いよく尾びれを扇ぐと風を突き抜けて空を泳ぎ出す。
 すぐ後ろでガチンというワロウワイバーンの牙が噛み合わさる音がしたが、暁明は軽く振り向きながらビッと指を突きつけた。
「ちょっと痛いけど我慢デスよ!」
 呼気から変じたパンダが出現したかと思うと、バッと背後のワロウワイバーンへと飛びかかって顔面にしがみついた。
 突然のことに混乱したのか大幅減速するワロウワイバーン。
 レインもまた陸鮫に跨がると、翼を羽ばたかせるかのようにして加速。
 二匹のワロウワイバーンによる猛攻をジグザグに飛行することで次々に回避した。
 ――その直後前方へ回り込んで牙をむくワロウワイバーン。レインは陸鮫にしっかりとしがみつくと、飛行能力をフル活用してバレルロール機動を描きワロウワイバーンの牙を逃れ、すりぬけるよに後方へとスルーする。
 アウルムはリトルワイバーンに乗ったまま全速力でダッシュ。
 こちらに合流を目指すリリーとゼファーのもとへ向かうと、周囲のワイバーンへと睨みをきかせた。
 ヘイトを稼いだところでリリーたちが弾正へ合流。放り投げられた表札を弾正が掴むと、馬車とレンタル亜竜に備え付けていた加速装置のスイッチを思い切り押し込んだ。
「地平の果てまでカッ飛ばす!! 守りは任せたぞ!」
「まかせて!」
 瑞希はリトルワイバーンにのってすぐそばを並走すると、迫るワイバーンを衝撃の魔法で牽制した。
「今回は、ボク達が悪いからね。これ以上はやらないよ。おとなしく帰って……はくれないだろうけど!」
 衝撃魔法が連射され、ワロウワイバーンがそれによって吹き飛ばされ地面をバウンドする。
 夢心地はここぞとばかりに自らのワイバーンへと飛び乗ると、妖刀東村山を抜き放つ。
「ゆくぞチョースケ(仮)! スピードをあげるのじゃ!」
 加速をかけたリトルワイバーン。その真後ろについて徐々に距離をつめてくるワロウワイバーン。
 それが真横まで迫ったところで、夢心地はギラリと目を光らせ刀を相手の爪へと叩きつける。
 ギンッ――という鋼の音と共に両者が弾かれ、空中を一回転。
 先に体勢を立て直したのは夢心地のほうだった。
「次行ってみよう」
 低い声で呟く夢心地。
 最後のワロウワイバーンが諦めたように制動をかけ、地面へとおりたちこちらを観察している。
「…………」
 レインとアウルムは無言で振り返り、そして安堵のため息をついた。


 安全圏までやってきた所で、弾正はあらためて手の中の表札を見下ろした。
 ガデンと刻まれた石は、よく磨かれており傷もない。
 このまま新しい家に飾ることだってできるだろう。
「ガデンさん、次はどこにおうちを建てるのかな」
 瑞希が興味深げに聞いてきたので、弾正は『さあな』といって苦笑した。
「だが……今度はワイバーンに持ち去られない場所に立ててやりたいな。俺は依頼報告をしたあとで建設を手伝うつもりだが……一緒にどうだ?」
 『やるやるー!』と諸手を挙げる瑞希。
 レインとアウルムは顔を見合わせて、やや好意的な雰囲気だ。
 夢心地はうむうむと頷き、そしてゼファーたちに目をやる。
「皆、怪我はしておらぬか?」
「私は全然。リリーは?」
 振り返ってみると、リリーが身体のあちこちをぱしぱしとはらっていた。埃でもついたのだろうか。
「大丈夫そう。レブンも……うん、平気!」
 シャチ型の謎生物レブンが口を開き、愛嬌のある声をあげる。
「これにて一件落着デスカ」
 暁明は振り返り、そういえばまだ食べてなかったもう一個の桃饅頭をかじった。
「ワイバーンの皆さん、アデュー!」

成否

成功

MVP

冬越 弾正(p3p007105)
終音

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 ガデン氏はこのあと地下に家を建て始めたそうです

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