シナリオ詳細
銀猫は緑風を纏い
オープニング
●
銀の髪を風が攫っていく。
伏せられたブルートパーズの大きな瞳がゆっくりと開かれた。
「何か、変だ……」
高い木々の上に居た『風足の』ジュノー・マカロフは異様な空気に姿勢を低くして地上を見下ろす。
耳を澄ませば鬱蒼と茂る木々の向こうから足音が聞こえて来た。
この軽やかな足音は猫科だろうか。その後ろからは地面を軋ませる巨体で突進してくる獣――猪か。
「スティングボアかよ」
ジュノーは一つ呟き、木の幹を伝い地を駆ける。続く地響き。
ペールグリーンの光を帯びた俊足は瞬く間に、追いかけられている猫の元へ馳せた。
手に猫を抱え、後ろを振り向けば間近に迫る猪の牙。
土煙が舞い、小石が爆ぜる。
いかに俊敏なハンターであろうと、三メートルを越える魔獣の突進を喰らえばひとたまりもない――
――筈だった。
「へへ。遅い遅い!」
猪の突進は巨木を穿ち、響く地鳴りに鳥たちが叫び声をあげた。
怒り狂い首を振る猪の顎は、やはり虚空を噛み。
ジュノーは左に避けたその慣性を、初速に変えて走り出す。
風を捉えることなど、毛頭出来はしないのだ。
さて。駆けるジュノーは首を傾げる。
彼自身の依頼はこれで達成した。怪我一つもない。この猫――幻獣ベリルリンクスは無事に保護された。
糞が薬の原材料になるという難儀な奴なのだが、余談はさておき。
そんな幻獣の生息地を断続的に調査し、生態の研究に役立てるというのが彼の今回のミッションだった。
故に全ては順風満帆の筈なのだが。
しかしである。
彼が誇る情報網と、あの猪のような魔獣にはひっかかる点がある。
仮にスティングボアだとして、この地域に生息している筈がないのだ。
「気になっちまうんだよな、こういうの」
遠目に。ちらりと離れゆく猪を見遣る。
やはり思った通り『尾の形』が違う。あれはスティングボアではない。
彼自身が見たこともない魔獣が、こんな場所に居る筈などないのだが。
目にしてしまったものは仕方がない。
「んー。ま、調べてみるか。あ、そうだ。ダチコーが居るローレットにも手伝ってもらおうじゃねぇの」
彼は風を纏い、銀の猫は森を駆け抜けた。
●
バルツァーレク領南部。豊かな海と山に挟まれた半島の根本。ルーシェンの森からさらに北へ。
森と共に生きる――レナライの村からの嘆願書。
其処には大きな猪と魔獣の群れが、貴重な幻獣の住む森を荒らし、その凶暴さ故に手の施しようがない旨が書かれていた。討伐依頼と前金の入った袋がゴトリと机の上に置かれる。
「と、言うわけで。力を貸してくれねぇか? 人手が足りなくてよ」
耳の形を象った茶色い飛行帽を揺らし、ジュノーはイレギュラーズに告げる。
ともかくジュノーからの依頼は、そういった単純明快なものだった。
「後はこんなトコだ」
次いでもたらされた情報は魔獣の数、そして観察した限りの能力についてであった。
ジュノーが出会った個体は大きいが、恐るべきことに群れで行動する。さらに習性からしてボスが居るに違いないと言う。
ボスはさらに強力な個体であることが予想されるという。。
ともあれ、これだけ詳細な情報であれば十分だろう。
「あの」
控えめに口を開いた『Vanity』ラビ(p3n000027)が、ジュノーの裾をひっぱる。
「あの時はありがとう、です」
「おうよ」
まさかダチコーの頼みで抱えて走った少女が、そのダチコーと同じギルドに居るとは思わなかったが。
数奇な縁もあるものだ。
さておき。ジュノーはブルートパーズの瞳を細めてイレギュラーズに向き直る。
「んじゃま、よろしく頼むぜ!」
清風の如く爽やかな笑顔を浮かべながら緑風の猫は歩き出した。
- 銀猫は緑風を纏い完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月07日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「よし! 掛かったのですわ!」
エバーグリーンの色彩が広がる森の中に『トラップ令嬢』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)の声が響き渡る。
プギィィアアア――!
その声と共に巨猪の野太い雄叫びが木霊した。
――――
――
イレギュラーズの足音を聞きつけて、ぞろぞろと現れた巨大な猪の群れ。
剥き出しの敵対心と怒りの矛先が侵入者に向けられる。
「私にお任せですわ!」
いち早く最前線に出たケイティは麻袋からまきびしを取り出し、敵の進路にばらまいた。
本来であれば高速で落とし穴を作り果せれば良かったのだが、如何せん猛烈に迫りくる敵の目の前である。ケイティは少し残念そうにまきびしを撒く。
通常、乱戦にまきびしは不適切である。なぜならば、苛烈な戦闘の中で、味方にも足元に配慮を敷いてしまうことになるためだ。
敵味方に与えるデメリットとメリットが相殺されてしまうことに、なりかねない。
――だが、この時は違った。
敵は猪であり、特性は文字通りの猪突猛進、そのうえ巨体である。足元に注意など払う筈がない。
ならば味方への影響を可能な限り取り除くことが出来る。
故に、それを狙った罠は功を奏した。
敵の雄叫びが戦場を駆け巡る。
「コインのおまじないはきいたみたいだな」
青と黄の瞳でにんまりと笑う『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)は頷きながら戦場を駆ける。まきびしの撒かれていない方向から猪の側面に回り込み、愛刀幻影のジャカランダを振り上げた。
その巨体の向こう側には漆黒の刀身。
ジョゼより一足早く先んじた『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)の姿が見える。
「魔獣の群れ、か」
この場所で何が起こっているのか。一瞬の思いを巡らせる少女。
別方向から突撃してくる敵の攻撃をするりと躱し、すれ違いざま胴体へと黒狼を走らせた。
「強敵みたいだけど、私達だって負けないよ!」
「幻獣の生体調査。その邪魔者の排除ですか……」
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)は銀の瞳を僅かに伏せて羽飾りのついた扇子を開く。
戦場に犇めき合う猪に視線を流し、この場に居るはずもない存在に可能性を見出し好奇心が踊った。
「さて……」
のたりと蛇の如くうごめく魔縄は朱鷺が扇子を上げたのと同時に地を這う。
美しい青紫が仄かに揺れた。
光は『魔法少女』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)の身体を一瞬だけ包み込む。
スローモーションの光の渦は少女の身体を薄布で隠し、次の瞬間には美麗なる衣装が顕現する。
「ゲンティウス……いくよ」
ふわりと浮かび上がった魔法武装に乗ってアリスは魔法陣を展開――青と紫の美しいグラデーションは幾何学模様の渦となり超巨猪ディバインアンガーへと降り注いだ。
バラバラと光の鎖が魔法陣から現れ敵に巻き付き、朱鷺の魔縄と共に敵を絡めて行く。
しかし、暴れるディバインアンガーの抵抗は光の鎖を引きちぎった。
「月を彩る華拍子、天爛乙女、津久見弥恵の神楽をご覧あれ♪」
戦場に美しい声が揺れる。『月影の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は星空のドレスを広げ猪共を挑発した。ゆらゆらと揺れるインデペンデンス・ネイビーのドレスに散りばめられたスパンコールは太陽の光を浴びてキラキラと瞬いている。
地響きを立てて弥恵へと向かう巨猪達。
仲間のポジションを的確に見定めていた弥恵は自らを目立たせ、敵の注意を引くことに成功する。
力を高め猛進してくる敵を舞うように躱し戦場を飛び回る。
しかして、数体をいなした所で一瞬の隙を付き敵が弥恵の横腹に突進した。
「っ……!」
次々と叩きつけられる猪達の打撃に弥恵は息を吐き、眉根を寄せる。
痛みと共にじわりと汗が滲んだ。
(集中攻撃を受ければそれだけ回避する事も難しくなる……か)
至極冷静に弥恵は自分の置かれた状態を見据えている。
なぜならば――
「私は癒し手。皆さんの命を守るのが役割」
背から生える剥き出しの骨腕を広げ、己が手を広げ『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は笑みをこぼす。
四音が微笑みを讃えれば、ダークヴァイオレットの黒溜まりから赤い手がゆっくりと這い出て、弥恵の傷ついた体を優しく包み込んだ。
「ふふ……」
カーマインの抱擁は最後に頬を離れ弥恵の身体からゆっくりと痛みが引いていく。
仲間の存在は敵の攻撃を一身に受ける弥恵にとって心強いものなのだ。癒し手がたとえ、その瞳に狂気を宿していたとしても。
●
戦闘が始まると同時に『風足の』ジュノー・マカロフと『今日のダチコー』ロアンは木々の上に身を隠していた。なぜならイレギュラーズの戦闘は危険が伴うからだ。一瞬の隙が命取りとなる。
パンドラを持ち得ない普通の人間には少々荷が重すぎるのだ。
『同時にやるなら敵が私達へ群がってからだ。お互い仕事を邪魔するようじゃ、やり辛いだろ?』
そう『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)が念押ししていたというのもあるだろう。
木の上から戦場を見れば彼女が機を狙い古めかしい大口径ライフルを撒き散らしているのが見える。
「この大きさなら毛皮も牙も良い値になりそうだが、傷だらけになりそうだな」
「違いねぇ」
ラダの言葉に大きく頷いてみせるジュノー。仲間が戦っている間に調査をするのが彼の役目だ。
「オイラの活躍、しっかり見てろよ、ロアン、ジュノー!」
「ばっか! お前。調査してんだから見てる場合じゃねぇよ!」
「だよなー」
ダチコーとのいつものやり取り。お互いを信頼しているからこそ出来るコミュニケーションなのだろう。
その間にも戦場は乱戦を極めていくのをロアンはじっと見つめていた。
友が背を見守っていてくれるならば、張り切ってしまうのも人間の性であろう。
手に握る小剣に花を宿し、ジョゼは先程自身が傷を負わせた猪に対峙する。
「ダチコーにゃ何かと手を借りてっからなぁ。こっちから手を貸すのも大歓迎ってな!」
突進してくる敵の攻撃を飛び上がって躱し、花を象った剣を突き立てたジョゼ。
青黄の瞳は次に来るシャルレィスの剣先を視界の端に捉える。
「幻獣たちの森、これ以上は荒らさせない!!」
ジョゼの付けた傷跡を狙ってシャルレィスは剣を叩き込んだ。
「よし! みんな! こっちの猪を集中攻撃だよ!」
少女の言葉に仲間の視線がそちらへ向く。
「些少な攻撃ですが、果たして効くでしょうか?」
四音は赤い目を細めて微笑んだ。どんなに巨体であろうと、一般的な生物であるならば眉間は急所と成り得よう。彼女の背後には裂けた闇が見え、そこから禍々しい黒き者達がベチャリと這い出て地を走る。
「ふふ……猪のというのは、物語にも割と登場するものなんですよね」
叩き割られた眉間に苦痛の声を上げる巨猪は矛先を四音に向けた。
巨体は地響きを鳴らし、四音の華奢な身体を跳ね上げる。
「おや、まぁ……、いけない子ですね」
宙に舞う四音は三日月の唇で嗤っていた。
――――
――
ラダは巨大な銃を持ち上げ照準を合わせる。故郷の砂漠とは違う湿った土の匂い。
研ぎ澄まされた狩人の瞳は正確に敵の特性を把握している。
動物の習性を捉え、正確無比に戦力を削ぐ事に成功していた。
「数が多いのも困ったものだな」
動き回る仲間に当たらぬよう多くの敵を捉えるのは熟練のハンターでも難しいだろう。
機を狙い澄まして指を掛ける引き金は、敵に痛打を与え命を刈り取って行く。
戦場を見据えるラダの視線は前線の朱鷺へと向けられていた。
手負いの仲間を回復する為に前に出たのだろう。
短い祈りを朱鷺が捧げれば、周りに浮かんだ呪符が仄かに薄紅色に揺らぎ、仲間の傷を癒やしていく。
「これでもくらいなさい!」
ケイティは前線に走り込みヴェノムクラウドを撒き散らす。
毒ガスは風に乗り、数体の巨猪の鼻腔に入り込み体内を侵食した。
内蔵がえぐり出される様な猛毒にのたうち回る敵は錯乱したようにケイティへと向かう。
「作戦通りよ!」
追いかけてくる敵の習性を利用してケイティは走り出した。
いつの間にか仕掛けてあったスパイダーネットに敵の足が絡め取られる。
其の場で倒れ込む敵目掛けて、シャルスレイが滑り込んだ。
軽やかなる剣舞。踊るように走る剣身に赤き光が宿る。
「これで――!」
シャルスレイの怒涛の斬撃は敵の皮を削ぎ、肉を削っていった。
吹き上がるエンバー・ラストの赤を浴びながら、シャルスレイは顔を拭う。
命を奪うという事はいくらたっても慣れないのだと少女の心は少しばかり痛むけれど。それでも、譲れない事があるから。剣に付いた血を振り払い青い瞳を上げた。
「次だよ!」
ディバインアンガーの封印に成功したアリスはクレッセント・ゴールドの瞳をホワイトアンガーの一体へと向けた。
「彼らが森の皆と共存するなら良いけれど、悪戯に森を荒らすだけ……何て、流石に見過ごせないもんね」
低空飛行を維持したまま狙いすました敵影へ魔力弾を放つ。
無数に飛び出した魔力の塊は血煙を上げるほど猪の体皮を打った。
●
乱戦。
激しい戦いをイレギュラーズは強いられていた。
敵の猛進によって分散される攻撃に個体数を思うように減らせなかったのだ。
一番重傷を負っているのは、その身を旗とし、敵の注意を惹きつけていた弥恵だろう。
「はぁ、はぁ……」
敵の攻撃を一身に受けた白い肌はブラッディ・レッドに彩られ、呼吸も荒い。
それでも、彼女が居たお陰で仲間への攻撃は幾分軽減されていた。
否、彼女が居なければ作戦は、より窮地へと加速していただろう。
「私は、まだ踊れます――!」
ふわりと漂う夜の香り、凛と透き通る鈴の音。
ひらりと舞う星空の衣装。弥恵の瞳は月影を帯びて秀麗。
「舞えよ舞え。月影の神楽、此処へ舞い踊る――」
突進してきた敵を鈴が鳴るかの如くひらりと避けて、横から迫る牙を弾けば空へと舞い上がる。
まるで、月に舞うようにドレスを揺らし華やかに咲き誇る。
―――
――
超巨猪ディバインアンガーは次々と倒されていく仲間に憤怒の形相でイレギュラーズに突進を繰り返していた。朱鷺は猛烈な勢いの突進に巻き込まれ、既に地に伏していたのだ。
しかして、イレギュラーズの奮闘は功を奏し、残るはディバインアンガーを残す所となった。
「ロアン!」
「はいよー」
朱鷺が戦闘に巻き込まれない様、ジョゼの合図でロアンが戦場を駆け背負い戻ってくる。
「ふう、危ないー」
一瞬戦場に出ただけでこの緊張感。こんな中でダチコーは戦っているのかと思うと少し感心してしまう。
「大丈夫! 皆は私が守るよ!」
倒れた仲間に追撃をされぬよう、シャルレィスはディバインアンガーとの間に立ちはだかった。
刻鬼哭を打ち込む魔力はもう残っていない。しかし、この手には巴の魂から継いだ剣技がある。
「行くよ!」
その瞳には歴戦の戦士が宿る。されど、シャルレィスは未だ幼い少女の眼差しをきらめかせていた。
コバルドブルーの髪が風に揺れる。
意思の強い眼差しはディバインアンガーを見据え、黒狼の深紅の文様が揺らめいた。
土を蹴り、砂埃が舞う。軽快な太刀筋で剣を振れば敵の巨体に刻み込まれる無数の切り傷。
「まだまだ!!!」
シャルレィスの剣戟は終わらない。剣を走らせ傷を重ねていく。
其処には青く輝く少女の強い意思が煌めいていた。
戦場を飛び回るジョゼは花の名を刻んだ剣で剣戟を舞った。
「ダチコーが見てる前で恥ずかしいトコ見せらんねえよな!」
仲間が傷を重ねた場所に更に剣を突き立てる。
分厚い革は多少の攻撃を諸共しない。しかして、それが積み重なればいつかは瓦解するというもの。
「よっし! 次だ!!!」
「ビギャアアアアアアアアアア!!!」
「っと、危なねぇ……あ、やべ、そっちは!」
ジョゼは視線を上げる。突然暴れだしたディバインアンガーの進路にはジュノーが潜んでいる木。それにアリスの姿があった。この距離からならばアリスは避けることが可能であろう。
しかし、今、此処を動くということはジュノーにも危険が及ぶという事。
悲しむ人が増えるということ。
「そんなの、させない!」
彼女の強い意志に呼応する様にゲンティウスに青紫の光が宿る。
魔法陣は即時に展開され、一つ二つと広がっていく。
「――――ゲンティウス。封印の儀、行くよっ!!!」
咲き誇る竜胆を象った魔法陣は無数の光鎖を生み出しディバインアンガーの身体を締め上げた。
怒りを顕に暴れる敵の皮膚に食い込み絡まっていく光の鎖。
「グルルルル」
絡まった鎖に思うように身動きが取れない不満からか、怒りに喉を鳴らす超巨猪。
それでも、身体を打ち付ける事ぐらいは出来るのだとアリスを睨みつけた。
「そおれ! こっちこっち」
星空のドレスを揺らめかせ、猪を誘うのは満身創痍の弥恵だ。
キラキラと目障りな光が目に入り、否応にもそちらに気が向いてしまうのだろう。
敵はアリスから視線を反らし、弥恵へと向き直る。
迫りくる敵の突撃をギリギリまで引き寄せてその身体で受け止めた弥恵。
「後は……任せます」
傷だらけの身体で最後の蹴りを叩き込んだ弥恵はゆっくりと意識を手放した。
「うふふふ。美しい――良い物語です」
カーマインの瞳は愉悦を孕んで細められる。
「でも、今回の物語はハッピーエンドが良いと思っているんです」
その手に広がる禍々しい色彩は広がり侵食し。這い出た黒き者たちがドロドロと溶け合って。
「だから、存分に楽しみましょう?」
――――解き放たれる。
ケイティはこの時を待っていた。
僅かに再構築した魔力はあと一発の余力を残している。
「ねえ、知ってました? 私、罠はとっても得意なんですのよ!」
クリストローゼの赤を讃えた瞳に強い輝きが満ちる。
突然、ディバインアンガーの動きが止まった。身動きを取ろうとその巨体を動かす度にキリキリと糸が張る音がする。
いつの間にか仕掛けられていたワイヤーに赤い血が滴って、そこに存在を見得る。
「行きますわよ!」
一呼吸に引き上げたワイヤーに巻かれ中空を舞う巨体。
「そういえば、猪は鼻や喉が弱いんだったか?」
対戦車ライフルを構え赤茶の瞳をディバインアンガーに向けるラダ。
彼女の耳に揺れる柘榴石に太陽の光が反射した。
大経口の長いバレルから撃ち出される精密の弾丸。
衝撃でラダの身体が後ろへ僅かに押される。動物を的確に仕留める天賦の才は遺憾なく発揮され。
音速を超え、空気を切り裂き。
ディバインアンガーの鼻先に飛来した弾丸。
衝撃は頭蓋骨を砕きアガットの赤をまき散らせながら、巨体に終焉を齎したのだ。
●
「で、何か分かりそうか。猪の腹の中を見たいなら開くなりやるが」
「魔獣の異常発生ってヤツか、そういうのって調査して分かるもんなのか?」
ラダとジョゼの問いにジュノーは頷く。
「この巨猪ホワイトアンガー、超巨猪ディバインアンガーは、ここからもっと北のラジランドを生息地としてるんだ」
「ラジランドって、あの『巨岩の壁』がある所か?」
交易と傭兵家業、また彼女自身も知見を広めたいと家を出たラダは幻想国内の地理にも詳しいのだろう。 バルツァーレク領の北東部『巨岩の壁』と呼ばれる大きな一枚岩を内包する山をラジランドと呼んだ。
その一枚岩の高低差は大きく、ほぼ垂直に落ちる。到底、猪が降りてこられるものではない。
「でも、それを降りてくるぐらい逼迫した何かがあったということですわね?」
円匙杖スプンナを地に突き立てて柄に手を置くケイティ。
「餌を求めてきたか。元いた場所を追われたか。何れにせよ、元々はこの数より多かったはずだ」
道半ばで死んでいった仲間の屍を超えてここまでたどり着いたのだろう。
しかし、憐憫に因われる事はありはしない。
そういう定めであったのだ。
「まぁいいや、事が無事済んだならまたいつもの店で一杯やろーぜ!」
「おうよ!」
ジョゼとジュノーの拳が重なる。
「―――――」
はたりとラダの耳が微かな音を捉える。
北の方角から聞こえるほんの僅かな地鳴りにも似た音。
柘榴石の瞳を上げると、遠くラジランドの山々が見えた。
「もしかして、何かから逃げてきたのか?」
呟きはアルパイン・ブルーの空に揺れて――
それら全てを報告するため、一同はローレットへと帰還する。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
皆さんのお陰で調査は無事終了しました。
ご参加ありがとうございました。もみじでした。
GMコメント
もみじです。今回は関係者の方に登場していただきました。
猫かわいい。
●目的
魔獣の討伐、ジュノーの調査を魔獣に邪魔させない
●ロケーション
レナライの村近郊の森
魔獣達がうろついている場所のすぐ近くに開けた場所があります。
広さは戦うのに十分です。昼間なので明るさは問題ありません。
●情報確度
Aです。つまり想定外の事態(オープニングとこの補足情報に記されていない事)は絶対に起きません。
●敵
森で幻獣ベリルリンクスの生息地に現れた魔獣達。
開けた場所に到着すると、全員ぞろぞろと出てきます。
○超巨猪ディバインアンガー
群れのボスです。5メートル程で、他の個体より強いです。タフで攻撃力が高いです。
・猪突猛進(物至列/ダメージ特大/BS【崩れ、飛】):猛烈な勢いで突進してきます。
・フレイルテイル(物近範/ダメージ大):長い尾が暴れます。
・アンガーファング(物至単/ダメージ中/BS【失血】)
・常時全力攻撃(P)
○巨猪ホワイトアンガー×15体
3メートル程の巨猪
数匹で一人に群がる性質があります。
・猛進(物至列/ダメージ大/BS【崩れ、飛】):猛烈な勢いで突進してきます。
・尾撃(物近単/ダメージ):長い尾が暴れます。
・牙(物至単/ダメージ/BS【出血】)
・常時全力攻撃(P)
●関係者
『風足の』ジュノー・マカロフ
モンスター知識が豊富な若手ハンター。
自分の耳の形に合わせた茶色い飛行帽がお気に入り。
俊足で戦場を駆け抜ける。
ジュノーは同行しますが戦闘には参加せず、調査を行いたいようです。
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