PandoraPartyProject

シナリオ詳細

嘘吐きの怪盗は蛙に酔わない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●タイトルにはあまり意味がない
「♪ああ、海獣騎兵様……」
 潮の香りが心地よい星月夜。高き塔の上から遠き海を見つめるカルーア姫。手には濁った液体を揺らすカクテルグラス、ヒールを脱ぎ捨て白い素足で。
 星の下、想うのは祖国の英雄、元々は姫の護衛騎士だった海獣騎兵。
 まだ幼かった姫が狩猟大会で刺繍入りリボンを渡した時、彼は嬉しそうに受け取ってくれた。軽く触れあった指先の感触を今でもありありと思いだせる――ああ、だというのに彼の笑顔は今は遠く、あの頃の思い出の剣はとうに折れて、代わりに長く壮麗な剣に変え、悪き魔竜を倒すため仲間たちと旅に出て。風の噂で聞くところ、旅の仲間と恋に落ちたという。

 ――♪
 観客がカルーア姫役の絶唱に聞き惚れている。

 此処は、静寂の青・アクエリア島。
 舞台で歌劇を上演しているのは、混沌各地を巡る歌劇団『スタァライト』の団員たち。
 ヒロインの名は、カルーア。
 毒酒が揺れるカクテルグラスを手に切々と失恋と惜別の歌を歌い上げる歌姫を舞台袖で見守る団長の目には親心から溢れる涙が光っていた。歌姫役は、団長の娘ナタリー。可愛い可愛い愛娘である。親の贔屓目に見てもナタリーの演じる歌姫カルーアはよく仕上がっており、観客の反応も良い。初演は成功であった。今夜は祝い酒をしこたま飲もう。丁度先日、劇団員2人が日頃の感謝を込めて雨蛙酒を贈ってくれたのだ。
「だ、団長。大変です」
 震える声で囁かれ、差し出された手紙を見て団長の顔がサアアッと蒼褪めた。

「次の公演、クライマックスの壇上にてカルーアを頂く。
      ――アシカール・ツパン」

「――怪盗ツパンの予告状です!!」

 翌日、団長はギルドローレットに依頼した。
 ローレットには、公演地に領地を持つモカ・ビアンキーニ(p3p007999)がいる。きっと力になってくれるに違いない。
「おお、可哀想な我が娘ナタリー。お前を怪盗に奪わせるものか」
 団長は歌姫を部屋に閉じ込め、ステージから遠ざけた。
「これは、領地で起きた問題だ。領内の催しを妨げようという予告状は領主様への挑戦状にも近しい。かのギルド・ローレットの力によってこの逆境を――逆手に取ってやるわ!」
「私はステージに立ちたいのに」
 悲しむナタリー。憤然とする劇団員の1人は可愛いひよこのケーキを食べながら拳を握り唇を戦慄かせた。
「怪盗め。せっかくナタリーの相手役の座を手に入れて、アドリブで熱烈なキスをしてやろうと思っていたのに」


●ショー・マスト、ゴーオン!
 再び怪盗が予告状を出した、という知らせが齎され、ギルドの一角にメンバーが集まっていた。
「怪盗は必ずまた動くと思ってたよ」
 寒櫻院・史之(p3p002233)が周囲に積まれた謎のダンボール箱の蓋をひらいて「これは何かな」と仲間を手招き。今度は捕まえてみせるぜ、と円らな瞳にやる気を漲らせるワモン・C・デルモンテ(p3p007195)がアザラシの両手で丸められたポスターを取り出して。
「というわけで、劇団の団長アールカ様から依頼が来たんです」
 情報屋の野火止・蜜柑(p3n000236)が受け取り、メンバーが並ぶポスターを広げて説明する。どんなポスターかというと、シナリオトップを飾っている挿絵みたいなポスターである。
「そのポスターは?」
「皆様の立ち絵を劇団側で合成したようです」
 ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234)は無表情のうちに哀愁を漂わせた。
「しかし――私にはまだ(たぶん)立ち絵がありませんが」
 モカがその背に手を添わせ、大丈夫だと笑顔を見せた。キリッとして凛とした感じのイケメン美女スマイルである。
「大丈夫だ。私にはハンナさんの姿が見えているぞ。絵が未完成でも皆の心の目にはハンナさんが立派に立っている姿が見えてるのさ」
 まあまあまあ、と床に正座して蜜柑はダンボール箱からパンフレットと台本とチケットを取り出し、皆に配った。
「出演者に名前がある」
「団長アールカ様は、イレギュラーズの皆様をステージ上に固めて怪盗を迎え撃つ心積りでいらっしゃいます」
 つまり今回の仕事は、劇に出演して怪盗をステージ上で捕まえてくれ、という依頼なのだ。
「台本が白いな」
「今回の公演は、イレギュラーズが出演するという触れ込みで人集めができています。ぶっちゃけ観客はイレギュラーズの劇が観れれば中身はどうでもよろしい。好きに演じて欲しいってお話で」

 一言でまとめるとフリーダム。
 演じれば演じられる、皆でやればなんとかなる――ショーマスト、ゴーオン!

GMコメント

  おはようございます。透明空気です。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 今回は怪盗X歌劇、わいわいふわふわエンジョイ系シナリオです。
 参加者の皆さんは即興で劇を演じて遊んでください。優先枠はアフターアクションから。参加は義務ではないので、ご都合がよくて気が向いたら遊びにきてください。GMが喜びます。

●依頼達成条件
・歌劇を最後まで演じる。

●ロケーション
・領地『Giardino della Stella Bianca』
 静寂の青・アクエリア島に所在する、Stella Biancaが経営する総合レジャー施設(の予定地)。モカ・ビアンキーニ(p3p007999)さんの領地にある劇場です。

●登場NPC
・怪盗アシカール・ツパン
 ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)さんの関係者です。
 海洋出身の自称世界を股にかける海盗(かいとう)アシカ。
 どこにでもおもむき何でも盗むが、特に希少な酒をターゲットにすることが多いです。追いつめられるとパンツァーファウストをぶっ放して驚かしてから逃げるお約束もあり。盗みの手法は様々。変装が得意だそうです。
 今回はカルーアをステージ上で頂いちゃうぞと予告しています。きっと変装してステージに上がってから正体を現して「カルーアは頂いた!」ってやりたいんでしょうね。

・歌劇団団長アールカ
 男性。ナタリーの養父でもあります。血は繋がっていませんが、過保護なくらい愛情たっぷり。

・歌姫ナタリー
 カルーア役だった女性。本人は演じたがっていますが、父に説得されて出演を取りやめにしました。

・劇団員アルフィン、ユキチ
 親友同士の劇団員。団長に酒を贈りました。
 団員の仕事では騎兵役を争い、結局仲良く前半後半交代で演じることになった経緯あり。今回の件には2人ともがっかりしています。プライベートではナタリーを巡る三角関係の真っ最中。ちなみにOPで「キスしてやろうと思ってたのに」と呟いていたのはユキチです。

●劇について
◯元々ある役
・カルーア役
 ヒロイン役。演じるのは歌劇団一の歌姫ナタリーの予定でしたが代役を頼まれています。皆さんが演じても良いですし、ナタリーに演じさせてもいいです。イレギュラーズが指示を出せば、団長は断りません。

・海獣騎兵役
 ヒロインが恋する海獣の騎兵です。演じるのは歌劇団の劇団員アルフィン、ユキチの予定です。

・カルーア・ミルク
 カルーアが劇中で毒入りのカクテルを飲むシーンがあります。

◯あそびかた
 この劇は3シーン構成で、真ん中のワンシーンだけが確定しており、その前後の展開を相談とプレイングで決める即興劇です。
【①皆で考えた展開】→②確定シーン【カルーア姫が想い人の噂に心を痛め、夜の塔で毒酒を手に歌う】→【③前のシーンからオチまでの展開】
 プレイングには「どんな役をするか、どんな台詞を言うか」などなど自由に書いてみてください。
・役の例
 ナレーター、通行人A、木の役、猫、真のヒロイン役、真のヒーロー役、悪役、天使、異世界からやってきたなろう系主人公、などなど…なんでもいいです。
・展開、演技や台詞の例
 「と思わせておいてここからは俺が主役だ」「大変! こんなところに大量のカルーアが!」「この中に怪盗がいる!」「あの噂は嘘さ」「いや真実だよ」「突然だが世界が滅亡する!」「俺がカルーアだ!!」などなど…なんでもいいです。
 何とかなると思います。相談して書いてもいいですし、相談なしで各自フリーダムして混沌とした結果を楽しみにして頂いてもOKです。好きに遊んでください。それが一番大事。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以上です。
  キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。

  • 嘘吐きの怪盗は蛙に酔わない完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月15日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
メル=オ=メロウ(p3p008181)
Merrow
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234)
天空の魔王
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜

リプレイ

●歌劇『嘘吐きの怪盗は蛙に酔わない』
 どうも皆さまこんばんは。私の姿はあなたの心の中にあるハンナ・フォン・ルーデルです。
 さて、またあの怪盗と対峙することとなるとは……奇妙な縁もあったものです。
 どんな感じで盗み出すのかは今回は何となく予想がつきますねわかりやすいです。
 今回は私はナレーターとして参加しましょう。立ち位置も決まっていますから動きやすいでしょう。
 『天空の魔王』ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234)が語り終え、舞台の幕がゆるゆると上がっていく。


『さぁて、アドリブ任せのインプロビゼーション、とくとご覧あれ、だ』
――銀河詩人、かく語りき。


(歌姫を盗み出そうとするとは、大胆な怪盗もいたものだ。美しい娘さんだから気持ちも分からなくはないが……一方的というのが気に食わん)
 ディザストルから出てきたのが最近の『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は艶やかな長い髪を夜の帳めいて靡かせ、人の姿に変じた緋夜の魔竜役に扮している。亜竜種の姿を未だ見慣れない海洋の民は目を輝かせ、美しく格好良い悪役に魅了された。

(ツパンめー! 演劇を台無しにはさせねーぞー! 今度こそオイラが捕まえてみせるぜ!)
 海獣騎兵『鮪導弾』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)が堂々たる名乗りを挙げている。
「オイラは海獣騎兵! 海の勇者!」
「さや、さや」
「オイラは泣かない、何があっても。もしもオイラが鳴くならば、それは別れの時だろう」
「そよ、そよ」
 『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が使い魔のカナリヤが齎すナタリーの周辺情報に目を光らせながら木になっていた。
「お任せください。不審な動きがあればわたしがすぐにお知らせします」
 仲間に小声で囁く。さやさや言ってるのは風を表わしてい、あっ転んだ。
「木が転んだ!」
 ざわっとする会場。何事もなかったかのように立ち上がるアッシュ木、めげない!
「此れも計算のうちです。今のでかなりの動揺し、此方を警戒した筈ですから」
 仲間に小声で告げるアッシュ木、頬がピンク色になっている。ハンナが助け起こし「倒木はよくあることです。燃えるより安全です」と解説していた。

 会場を浸して聴衆の情緒をその旋律で揺らし導くのは、風来坊のギターの音。
(変則的なショーの怪盗添えたぁ、中々に面白い。カルーアと言えば酒の名前だが、珍しい酒を頂く、ってのはそれに引っかけたのかね。まさかラッパ飲みするわけは無かろうし)
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が制作した曲は広大で原始的な大荒野と浪漫抱く銀河とちっぽけな人間どもが彼らなりに命を燃やす汗塗れの群像劇の風を感じさせ、二度は聞けぬかもしれぬその旋律を人々は皆、心に焼き付けるように聞き入った。

(私の会社のリゾート施設で初開催する演劇公演の邪魔をするとは……営業妨害だ、許せん!)
 【Pantera Nera】モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はモカルーア姫として艶やかなドレス姿を魅せていた。
「わん」
 モカルーア姫の愛犬役『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が犬耳を付けて鳴く。あれなるは女王陛下の覚えめでたき「自身の周りを犬のようにはしゃいで回る」彼ではないかと観客席の貴族はその晴れ姿を陛下に後日報告しようと微笑むのであった。
(こんなところ奥さんに見せられないね。でもまあお仕事だから、お仕事だから!)
 可愛い奥さんを想いながら史之わんこは元気に舞台を駆けまわる。
「わんわん! わんわんわんわん!」
 四つん這いでモカルーア姫の美脚にじゃれつく姿はまるで特殊なプレイを楽しむようにも見えてしまう。もちろん演技だよ演技、と見上げる史之わんこ。モカルーアは花唇を綻ばせ裾をはらって上品に座るり、史之わんこを膝に呼ぶ――大人の余裕! いいこいいこと頭を撫でる手つきは優しく、眼差しは面白がっている! モカさんは余裕たっぷり。奥さんに後で依頼映像見られたらしばき倒されそうだと思いつつ、役得に偽尻尾を揺らす史之わんこであった。

 ――歌を歌うのはスキ♪
 儚い雪のようなもう一人の歌姫は、町娘『Merrow』メル=オ=メロウ(p3p008181)。劇は観客として観たことはあるけれど、演者としては初めて、と自由なるステージに眦を緩めてアッシュ木とこっそりやりとり。「最後はハッピーエンドにするんだ♪」「いいですね」と。
 お姫様って好き、でもってキライ。迷った役は無自覚な悪役、ただしポンコツ。ハート型のシャボン玉をふわふわさせて透き通る声でいたいけに愛らしく。
「視線を集める美しいあの姫君が羨ましい。嗚呼、あたしも幸せになりたい……♪」
 だから、少しいたずらしてもいいよね?
 ふふ、王子様と結ばれるなら試練を与えなきゃ♪
 嗚呼、囀る小鳥が広める噂は姫の一途な想いを穢し瑕付けて。
 それでも愛し合うのか気になるし……♪
 ――微笑む聲はいと無邪気。

「ああ、我が姫のなんと哀れなことか」
 嘆くは老執事ヤツェク。
「今日も手紙の返事を待つ姿のなんと健気で痛々しいことか」
 震える手で万年筆を執り、蛙酒の瓶を隣に置いて、けれど飲む事はなく。
 したためるは、一通の文――。

「恋文が来た! ヤツェク、恋文が届いたわ!」
「おぉ、姫殿下。まっこと、ようございました」
「嬉しい! 幸せだわ。早速お返事を書きましょう」

 始めた嘘は止まらない。ヤツェクは姫の恋文ができるたび、想い人になりすませて返事を書き続けた。
 ――おお愚かな優しき老執事、懊悩する胸には紛れもない甘美な悦びぞある!
 彼の胸には姫への愛がある。それは親子の如き情ではなく、男が女に抱く情愛(らぶきゅん)であった。
「老いたこの身は愛に相応しくない。ならば、せめて苦い救いを捧げ続けるしかないのです、姫よ!」

 ナレーター・ハンナはこの後の予定を聞かされていないがそれっぽい事を言わねばならない胃痛ポジである。がんばれ。

「こうして、月日が流れました……?」
 ――無難!

(ツパンが動くならこのタイミングが怪しいな)
 この時、名探偵ワモンの考察が光った。酒類の取り扱いを警戒するスタッフルームのワモンの目は、劇団員ユキチが雨蛙酒とカルーアミルクを密やかに抱える姿が捉えた。
「ハッ! 待て、そいつがツパンだ!!」
「バレたか! しかし、また後ほど会おう!」
 ツパンが酒を置いて逃げていく……!
「どこへ行くツパン! そっちは舞台だぞー!?」
「ふふん、劇を台無しにはできまい!?」
 其の目指す方角は、舞台であった。
「ワモン。あのユキチという男はアドリブでカルーアに不埒な事をしようと企んでいたのだ。私の予告状がカルーアを守ったのだよ」
「おま、そんな取ってつけたようなチョットいい人アピールを今!?」

 舞台上では常駐のアッシュ木が無視できない存在感を放っている。厳つい眼帯を付けている隻眼の娘がさやさやしたり転んだりしているのだ、段々「あの娘ずっとステージにいて大変だなあ」みたいな生暖かい眼のファンも出来ていた。
(妙に視線が……居心地がわるいです)
 展開は盛り上がっているが、木は佇むだけ。若干寂しそうにチラチラちらちらと皆を視る姿がなんとも哀愁漂い、もっと良い役演らせてあげろよと呟くおじさんが出てくるほど。


 さて、老執事が切々と歌っている。

 ♪あれほどの愛が届いてすらいない
 ♪疑いもせず 恋文をしたため続けて
 ♪愛しく痛ましいその姿 なんと哀れな事だろう!
 ♪嗚呼、あの裏切り男のなんと憎らしい事だろう!

 塔の上でモカルーアが歌を続かせる。卓越した技巧でのびやかに響かせる迦陵頻伽の歌声は会場中を震わせ、うっとりと酔わせた。手には濁った液体を揺らすカクテルグラス、ヒールを脱ぎ捨てた素足。スポットライトに照らされる髪は夜海に似て深みのある艶を魅せ、麦畑のような肌は恵みの象徴めいていた。
「くううん……」
 史之わんこは足元へぴったりとくっついて悲壮な顔をしている。手を舐めようとして思い留まり――アウトな気がしたと史之はのちに語る――頬ずりをして。

 絶望のモカルーアが毒酒を煽る寸前で老執事ヤツェクが疾風の如く抜くは熱情に燃え上がるライト・フォースソード! 悲しき毒杯を割る音は軽快で耳に心地よい。夜を切り裂く剣閃は鮮やかで、朗々と叫ぶ声は勇ましく。
「ヤツェク!?」
「おれこそがかつて世界を股にかけた怪盗――」
 驚くモカルーアを颯爽と姫抱きして、間近に微笑む笑顔は抑えきれぬ愛情に溢れていた。眼差しのなんて熱いことでしょう、と呟くモカルーアが頬を染め。
「――シャドウ・トド!」

 ロマンチックな月光に包まれる2人。そこへ魔竜レーカが現れた。
「噂の魔竜はここに在る」
 魔竜がなぜ、と驚く姫。執事改め怪盗シャドウ・トド・ヤツェクが姫を守るために魔竜と対峙する。
「その心が奈辺にあるかは、今に解るだろう」
 恐怖の象徴めいて血色の竜翼を広げ、飛翔し夜空に君臨する魔竜レーカの声は淡々としていて、彼女が圧倒的な力を持つ強大な存在なのだと感じさせた。しかし、愛しき姫を守らんと奮われるフォースソードは命を燃やす漢の花火めいて一層苛烈に、情熱的にその光を夜に輝かせる。
 観客の目を奪う佳麗な剣戟。大剣とフォースソードがまるで本物の死合いの如く打ち合って、ヤツェクが疲労に息を荒げて膝を突き、魔竜が高く飛翔して笑む。
「姫。本当は気付いているのだろう?」
 ――君と恋文を交わしていた相手が、誰なのか。

「漸くのお出ましか。存外、勿体ぶるのだな? アシカール・ツパン?」
 ツパンとワモンが舞台に走って登場したのはこの時だった。

 ツパンはステージ上に現れるとどやっとした顔で胸を逸らした。ワモン、この劇を台無しにできないだろう――という眼である。
「おお、我が姫よ。私は今まさに約束を果たしにきた。さあ、キミを頂こう!」
 現れた海獣騎兵がモカルーアを抱きしめようと近付いたたその瞬間。来たなツパン、とモカルーアが瞳をきらりと輝かせ、目にも止まらぬ速さで海獣騎兵を背負い投げした!
「いいえ――いいえ!」
 姫の手は、ヤツェクに差し伸べられた。大切そうに後ろから抱き着いて、姫は叫んだ。

「私の愛する人は、ここにいる!」
 知っていたわ、気付いていたわ! そう歌う聲は巧みに震えていて、涙を誘われずにいられない。

「わおーん!」
 史之わんこも一緒にら覇竜穿撃という名の頭突きをかましている!
「お前は……トドでないことに絶望して去ったアシカールじゃないか! 親子対決もいいものだな!」
 愛の力で立ち上がったヤツェクが颯爽と光刃を躍らせ、決め台詞を放った。
「失敗しやすくなったアンタは、もはや陸に上がったアシカだ!」

 モカルーアがドレスの裾を花のように翻し、美脚を露わに円を描くように廻し蹴りを放つ。ふわりと舞うドレスの裾がオーロラのように観客の目を惹いた。華麗な一撃と同時にワモンが青いジャンプスーツにマスク姿に早着替えすれば、観客がどよめいた。メルが孤独な夜海の波間で絶唱する人魚姫のようにディスペアー・ブルーを歌い、ツパンと観客を魅了している。

 ♪深い、昏い、この海に……

「ふっ……オイラが海獣騎兵といったがあれは嘘だぜ!」
 マスク・ド・ワモンが背中に背負ったガトリング銃の銃口をツパンに向け、決め台詞を高らかに響かせた。
「オイラの正体、それは!」
 どぉん! MADACO弾が景気よく撃たれて、香ばしいたこ焼きの匂いが食欲を刺激した。
「正義のヒーローとっかり仮面だ!」
「ギャアアアア!!」
 史之わんこが遠吠えで吹き飛ばす。ハンナもこんな時のために用意した卓球ラケット中村モデルで閃光手榴弾を撃ち、2人分の吹き飛ばし技が合体して史之の狙い通りギャグ時空っぽい演出でツパンはお空の星になった。流れ星を演出するのは何気に全力なハンナの魔砲。

 ♪ああ、戻れないあの時間……
「このままじゃ終われない……モカルーア姫ばっかり……あたしの事も盗んでみせてよ、怪盗さん!」
「おお麗しのシャボンのキミ! ならば必ず盗もう、キミと蜂蜜酒を。この海に誓うとも!」
「また何かしてくれそうだよな、あいつ」
「アフターアクションで続編が出る!(かもしれない))」
「堕ちた海獣騎兵ツパンめー! 正義のヒーローがとっつかまえてやるぞ! 神妙にお縄につきやがれー!」
 とっかり仮面ワモンが吹き飛ぶツパンを追いかけて退場していく。

「御観覧の皆々様方、どうぞお手を拝借」
 アッシュ木が喋るとファンが喜んだ。ただの木じゃなかったんだアッシュちゃん、よかった、と。
「拍手の力で、彼の者に戒めをお与えください」
 アッシュが呼びかけると、それはもう全力の拍手が湧いた。大人気であった。

「愛しの姫を望む者は一人ではなかろう」
 魔竜が嗾けると、史之わんこが付け耳としっぽをぷちっと取って立ち上がった。遅れて煙幕がドロン。煙幕ちょっと遅かったなと思いながら騎士の姿に早変わり! 最前列の観客が驚いている。ただの犬じゃなかったのか、と。
「じつは私は呪いをかけられた騎士でした。こうして姫を救うことができ、功徳を積むことで呪いから逃れることができました。お礼を申し上げます」
 凛として高潔な名乗り。モカルーアの手を取り、洗練された所作で手の甲にキスをする姿はまさに騎士。さきほどの犬姿とのギャップが大きくておおいにウケた。

 あれれ、と首を傾げるのは町娘メル。姫って執事さんが好きだったの、と嫋やかな白い腕を伸ばす相手は、騎士史之様。
「なぁんだ……ならもう噂は必要ないか……♪」
 可憐な歌声は神聖なようで邪悪な香り、けれど嗚呼――なんて愛らしくて魅力があるのだろう。まるで楽園の甘い誘惑果実めいたその町娘の怪演に誰もがメルという女優の才を感じていたけれど、ほんとうはメルは演技を知らず、殆ど素。
「あたしは騎士様貰ってもいいんだよね……♪」

 ♪ああ、絶望の青
 ♪冷たくて無慈悲なあなた
 ♪あたしにも 幸せをちょうだい……

 だが、町娘の手が騎士に差し伸べられた時。夜空からふわりと降り立った魔竜レーカが愉快げに羽を羽ばたかせ、メルを奪った。
「美しい町娘。私は見ていた。君の行いを――さあ、行こう。君にふさわしいのは、私であろう?」
 姫抱きにして嫣然と笑む魔竜レーカ。
「なにより――あの騎士史之は妻帯者なのだから」
 ああ、そんな事実を言ったらメルの情欲がさらに燃える。奪いたくなってしまう。
「そんな君が、い、いと、ぃとしくてたまらない」
 魔竜レーカ、ここで噛みまみた――演じるのには不慣れだ! けれど、それもご愛敬――魔竜が愛に溺れて言葉に詰まったように見えたから!
「私が、君を幸せにしてみせよう」
 魔竜レーカの台詞にメルが儚く可憐に歌を返す。まるで、猛獣に囚われた小鳥のよう。夜に抱かれた朝露のよう。嗚呼、なんていとけなく愛らしい――


「??????」
 ナレーター・ハンナは一連の流れを見て頭の上にハテナを沢山浮かべていた。がんばれ。
「えー……、それでは、エンディングに入ります」
 まるでマダミスGMめいたテンションのハンナがエンディングを紡いだ。ナレーターも台本がないが、メンバーも台本がない。エンディングは全員がハンナの語りに合わせて演技をした。

「モカルーアと嘘吐きの怪盗ヤツェクは愛を誓い合い、結ばれました」
 2人が並んで両手をあげた。

「とっかり仮面の活躍は、今後も続きます」
 ハンナがツパンとワモンが去った方角に視線を向ける。今頃追いかけっこをしているだろうか。

「騎士史之は、奥さんのもとに帰りました」
 史之は現実の奥さんを想い、両目を一瞬閉じて大切な指輪にキスをした。

「魔竜レーカと町娘メルは、世界征服のために動き出します」
 レーカがメルと一緒に舞台に降りて、2人揃って優雅に一礼をする。

「アッシュ木は、人間たちの騒動に関係なく、今日も明日もさやさやしています」
「さや、さや」
 アッシュが枝を揺らすとファンが笑顔でチップを投げた。

「――これにて、閉幕です!」
 盛大な拍手と歓声。舞台は、成功だ!


●ハッピー・エンド!
 ツパンが捕縛され、一件落着した後。モカの提案で、歌劇団は本来のキャストで公演を最初からやり直しする事となった。ナタリーは大喜びでモカに抱き着いて、何度も何度も感謝の言葉を繰り返したのだった。

「ツパン騒動で大変だったけど、演劇ってのもおもしれーもんだな! 次の公演でも出ていいなら出させてもらうぜ!」
 ワモンはユキチの不埒な企みを団長に言いつけてから、アルフィンとナタリーがスポットライトの中で情熱的な演技をする一幕を見守った。隣の席には、疲労を滲ませたハンナがいる。
「なんだか疲れました」
 ヤツェクが肩を揺らし、おつかれさんと笑う。
「しかし、ツパンめ。毎回こうやって逃げて、けしからん!」
 ワモンが憤慨している。メルは少し思案げに首を傾けた。
「捕った後日脱獄、という未来もありますね……?♪」

 割れんばかりの拍手に彩られて舞台が幕を下ろすと、モカが最高の笑顔で皆に告げた。
「さあ、次は公演&怪盗撃退お疲れ様打ち上げパーティーだ!」


 ――お楽しみは、まだまだこれから!

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

状態異常

なし

あとがき

 歌劇お疲れ様でした、イレギュラーズの皆さん。
 このたびは依頼へのご参加、ありがとうございました。物語が素敵な思い出となれば幸いでございます。
 MVPは嘘吐きの怪盗さんに。「あっ、嘘吐きの怪盗だ」、と目を瞠り「巧い!」と唸ってしまいました。
 皆さんと同じ時を共有し、季節の移ろいを感じながら個性豊かなPCの活躍を執筆できるご縁を光栄に感じています。

 次は何して遊びましょうか?
 ――楽しいご縁が続けば、とても嬉しいです。

 透明空気より

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