PandoraPartyProject

シナリオ詳細

天使になっちゃった

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 僕は、聖銃士になった。
 ティーチャー・ミモザは我が事のように其れを喜んで下さった。
 そうして、僕に鎧と聖獣を授けて下さった。
 鎧は僕を護ってくれる。聖獣は大人との戦いで僕を支えてくれる。
 こうして貰い受けた鎧と聖獣で、今度は僕が下層の子どもたちを導いていくんだ。
 ファルマコンの導きを正しく受けられるように、僕が指導しなくては。
 頑張ろう、と傍らの聖獣に――ステラに言うと、ステラは応えるように吼えた。
 ファルマコンの元へいったともだちの分まで、ステラを大切にしようと思う。きっと其れが、彼らのためになると思うから。



 頑張ろうね、とキサラギが言う。
 こんなことやめてよ、と僕は言おうとするが、咆哮にしかならない。
 そしてキサラギは、僕がそんな事を言っているとは露も知らずに僕を撫でる。違う、違うよ、君に同意した訳じゃない。
 僕だよ、気付いてよ。
 キシェフをパンに変えて、一緒に食べたじゃないか。
 一緒に魔女裁判だってやったじゃないか。
 ずっと一緒にいたじゃないか。
 どうして気付いてくれないんだよ。
 僕だよ。

 僕の意識が闇に沈んでいく。
 僕の知らないところで、僕は天使(かいぶつ)になっていく。



 誰か、誰か助けて。
 息が苦しくて、喉が裂けてしまいそうな気がする。
 息が吸えなくて、吐けなくて、苦しい。
 此処は、おかしい。
 子どもがいわれのない罪で死んでいく。
 みんなはヘブンズホール、神の国でみんな幸せに暮らしているっていうけどきっと嘘だ。
 みんな騙されてるんだ。あのティーチャーやマザー、ファザーに騙されてるんだ。
 隣にいた子を説得しようとしたけど、その子は僕を魔女だと言った。
 みんなの目が怖かった。キシェフのために、僕の命は使い捨てられるんだと判った。
 逃げなきゃ。……逃げなきゃ!
「どこへいく、裏切者!」
 いかづちのように、僕に向けられる声。
 ……僕はいつの間にか自分の爪先を見ていた。顔を上げれば、大きな獣を連れた男の子が、僕を見ていた。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 歪んだ子どもたちの話です。


●目標
 下層を偵察し、脱出を図る子どもを助け出せ


●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia


●立地
 アドラステイアの下層です。
 文字通りのスラム街です。寝る場所があれば上々。子どもたちはキシェフのために命を奪い合う……そんな場所です。
 子どもはアドラステイアの異常性に怯えて抜け出そうとしたところをで聖銃士と聖獣に捕まり、恐らく下層の何処かで見せしめのため処刑されると思われます。
 下層の騒がしい箇所を辿って下さい。そうすれば見付かる筈です。


●エネミー
 下層の子どもたちx???
 聖銃士“キサラギ”x1
 聖獣“ステラ”x1

 殺すか殺さないかはイレギュラーズに委ねられます。
 子どもたちはみなナイフなどの武器を持っています。其れ等は魔女裁判の際に使われるものです。
 彼らは下層に入ってきた大人を排除しようとするでしょう。
 聖銃士は一見槍だけで武装しているように見えますが、鎧を纏って騎士然としていると思っています。そして戦闘力が他の子どもよりずば抜けています。恐らく付けている腕輪が要因のように思われますが…?
 聖獣“ステラ”は獅子に翼が生えたような純白の獣です。高い機動力と毒を持つ爪牙で攻撃してきます。



 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • 天使になっちゃった完了
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年02月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者

リプレイ


 翼持つシルエットが空を舞う。
 幾つかある侵入経路からアドラステイアの下層へ辿り着いたイレギュラーズたち。マルク・シリング(p3p001309)、『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)、そして『二律背反』カナメ(p3p007960)のファミリアーたちが、鴉に紛れて空から子どもたちの流れを見る。
「――この辺りは静かだな」
 偵察を待ちながら、『紅獣』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)は周囲を見回す。子どもたちの姿はない。彼らはみな、魔女裁判に向かっているのだろうか。
 子どもというのは往々にして言う事を聞かない。そして、突然とんでもない事をやらかすものだ。知ってはいた。知ってはいたが、……其れでも善悪の区別はつくんじゃないかと、ルナールは僅かな夢を抱いていたのだ。けれど、悪の中で育ってしまったら、子どもにとってそれが「普通」になる。命を奪って、同じ子どもを蹴落としてパンに変える。其れがこのアドラステイアでの普通だ。
「この辺りにも子どもはいたっぽいね。でも、移動した跡がある。恐らくは魔女裁判にいったのだろうね、速く助けにいかないとだ」
 『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)が大地の足跡をなぞる。土砂に刻まれた、小さな足跡。大きな足跡は少なくともこの辺りには一つもない。
「……これまで、縁はありませんでした、が……このような場所、なのですね」
 『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)が心痛ましげに呟く。無辜の命がまるでビスケットか何かのように失われていく。そんなのは見ていられない。大人も子どもも関係ない、そんな風に消えて良い命などありはしないのだ。
「こんな所で、お家もなくて、……あんまりだよ」
 カナメが呟く。其の表情は人形めいているけれど、悲しそうにも見える。カナメも孤児だ。生きるためになりふりかまっていられなかった事はある。けれど、誰かの命と引き換えにパンを得る事まではしなかった。――自分はまだ良い方だったのだと、此処に来ると思い知らされる。
「子ども同士で互いを売り合い、異常さに気が付いた子は始末する。――止めねばなりません」
 『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)が言う。そうして、状況を注意深く探っていると……西側だ、とマルクが呟いた。
「西側に子どもが集まっている。恐らくそっちだ」
「はい。群衆がいて、少しずつ移動しているようです。大きな獣がいます」
「成る程! じゃあ、早速ご挨拶しに伺わなきゃね」
 『雪風』ゼファー(p3p007625)は片手に持った槍をくるりと器用に回すと、一直線に走り出す。彼女には最初から、救うべき子どもしか見えていない。流れ星の如く駆け出す其の姿は、希望にも似ている。



「魔女だ!」
「魔女裁判だ!」
 子どもたちの熱狂は、ファミリアーを介さなくても、五感を研ぎ澄まさずとも、其の人込みを目にしただけで直ぐに判る。
 廃墟が立ち並ぶ下層の街、其の一角を埋めつくすように多数の子どもたちが腕を上げ、武器を振り上げて口々に声を荒げていた。
「魔女は谷へ!」
「魔女は谷の底へ!」
 彼らは口々に、けれど同じことを叫ぶ。わんわんと輪唱のように鳴り響いて、意味を成さない喧騒となる。
 だが意味は同じ。即ち、魔女となった少年を殺せと。……彼の命は何枚のキシェフになるのか? そんな事は考えたくもない。
 少年は怯えていた。子どもたちに両腕と両足を掴まれて、見世物のように運ばれる。このまま四肢を引きちぎられるのかと怯えた。それとも、あの恐ろしくも美しい獅子に頭を噛み砕かれて、痛みと共に絶えるのか? 聖銃士さまの槍で、突かれて殺されるのか?

 どれも嫌だった。
 どれも怖かった。

「嫌だ! 死にたくない!」
 少年の叫びは、断罪の声にかき消される。
 魔女は殺せ。
 魔女は谷へ。
 熱狂した子どもたちが口々に叫びながら、担いでいた少年を投げ落とした。
「……あ……」
 其処には、聖銃士がいた。
 槍を構え、傍に聖獣を従えて、ぎらぎらした瞳で少年を見下ろしている。
「君は魔女だ! 僕は聖銃士として、君を断罪しなければならない! 自分の罪はもう判っているな!」
「あ……あ……い、いや、だ」

「最初に逃げたのを見付けたのは私!」
 ぼろきれを纏った少女が叫ぶ。

「逃げるのを見て、出口を塞ぎに行ったのは僕だ!」
 ナイフを持った少年が叫ぶ。

「通りがかった聖銃士さまに知らせたのは僕!」
 木の棒を振り上げて、少年が主張する。

 キシェフを。イコルを。慈悲を。
 子どもたちは求める事ばかりに余念がなく、少年のこれからなんて気にしてはいられない。一人差し出せば数日生きられる。其れが、子どもたちの全てだった。

 味方はいない。
 僕は、……此処で死ぬんだ。

 少年が諦めかけた、其の時だった。
 一陣の風が少年の背中を押すように強く吹く。

「――ハローハロー?」

 思わず其の場にいた誰もが目を閉じた突風の後、見れば誰も知らない大人がいた。
 少年の背を支え、聖銃士キサラギに槍を突き付けて、不敵に笑ってみせる。

「注目なさいな! 本物の魔女が来てやったわよ! ワルい子を連れ去ってしまう、本当にワルーい魔女がね!」

 魔女は挨拶代わりに、聖銃士に霹靂を見舞う。
 すかさず飛び出した聖獣が其の雷撃じみた一撃からキサラギを庇う。悲し気な瞳をした獣だ、と、一瞬のやりとりの間にゼファーは心の隅で思った。
 だが手加減はしてやれない。哀れな天使(かいぶつ)は此処で眠らせなければならない。
「……貴方がたが、真っ先に狙うべきは! 侵入者たる、わたくし達です!」
 同じく霹靂のように参じたネーヴェが、子どもたちに向かって声をあげる。
 あちこちで閃光が爆ぜ、子どもたちの悲鳴が上がる。侵入者だ! と誰かが言った。もうそんな事を知らせなくても、聖銃士の目の前に、風のように彼女らは現れているのに。
「大人が僕たちの邪魔を!」
「あら、駄目? 子どもがワルい事をしたらお仕置きをするのが大人の役目よ。特に……この子はとびっきりのワルだから、貴方の手には負えないと思うけど?」
 とびっきりのワル。
 そう言いながらも、保護した少年の頭を撫でるゼファーの手は優しい。
「ゼファー様、その子はわたくしが」
「ええ、頼んだわ」
「はい! さあ、こちらへ!」
 ネーヴェが少年の手を引いた。仲間が少しずつ開く退路を、彼を庇いながら進んでいく。
「逃げるのか! 汚い大人め!」
「あら、三十六計逃げるに如かずって言葉をご存じない? 不満なら追いかけて来なさいな、そうじゃないと箒で飛び立ってしまうわよ?」
 まあ、もう遅いけどね。
 そう言ったゼファーの隣に、カナメが立つ。彼女は小柄故に子どもたちに阻まれず、魔女裁判に高揚する波に乗って彼女の隣まで来れたのだ。
「ふっふーん! 裁判ショーは残念だけどもうオシマイ! 其れとも……代わりにカナを処刑してみる? ま、見てるだけの臆病者たちには出来っこないと思うけど!」
 子どもたち相手に啖呵を切ってみせたカナメは、ゼファーに目配せをする。撤退、判っている。ゼファーは頷き、聖銃士たちが追いかけて来るという確信を抱きながら後退を始めた。



 子どもたちは大人が介入したことを知ると、魔女裁判の終わりを悟ったのか、逃げ出すものと立ち向かうものの二つに分かれ始めた。
 雪崩のような人の流れに逆らいながら、マルクは武器を手に向かって来る子どもたちを閃光で吹き飛ばす。兎に角人が多い。下層の殆どの人間が此処に集まっているのではと思う程だ。
「――武器なんて。そんなものを持つべきではない。本当なら」
 正純が眩き星の如き一撃を子どもたちに叩き込む。大丈夫です、殺しはしません。少し寒いかもしれないし、少し暗いかもしれないけれど、貴方たちの未来までは潰しはしない。
「本当なら、そんなものを同じ子どもたちに向けるべきではないのです」
「……あ! 正純さん、来た、来たよ!」
 隣で同じく子どもたちを殺さぬよう立ち回っていた帳が声をあげる。背の高いゼファーは子どもたちの中ではすぐわかる。彼女の傍にはネーヴェとカナメがいるはずだ。正純と帳はすぐさま、彼女らの援護に入る。ゼファーたちの退路を塞ぐように立ち向かって行く子どもたち、不本意ながらも其の背を撃ち、昏倒させる。
「……ネーヴェさんが少年を保護していますね。じゃあ、出口付近まで撤退です」
 アッシュはマルクと頷き合って、自分たちの進路を閃光で開いていく。
 逃げる子どもたちを追う事はしない。彼らに手を差し伸べ掬うには、イレギュラーズの手は少なすぎるし、小さすぎる。多くを得れば一つも得られぬ。侵入者たちは其れを良く知っていた。だから、せめて此処から逃げたいという少年の願いだけは果たそうと、後ろから掴みかかって来る子どもたちを振り払い、殺さぬように慎重に吹き飛ばす。
 どれだけ傷付いたか、構っている余裕はなかった。マルクの肩にはいつの間にかナイフが刺さっていたし、ルナールは子どもを庇うネーヴェを庇って子どもたちに殴られ、斬られていた。余程飢えているのか、追いすがるものは何処までも追いすがって来る。其れ等を振り払うのは、心身ともに痛みを伴う事だった。
 アッシュも傷だらけだった。けれど膝を折る訳にはいかない。少年は外を願った。“だから”外へ連れ出すのだ。こんな蟲毒じみた場所で、彼の命は終わらせない。



「……みんな、無事?」
 ひたすらに庇って。
 斃れそうになったら、小さな奇跡に祈って。
 ひたすらに不殺を貫いて。
 そうしてやっと、一行は侵入口の傍へと辿り着いた。其の頃には追いすがる者は聖銃士キサラギと聖獣ステラ、其の“二人”のみとなっていた。
 だが、キサラギの瞳に不安はない。
「さあ、追い詰めたぞ侵入者たち」
 其れどころか、勝利を確信した表情すら浮かべている。何が彼に其処までの自信を持たせているのだろう?
「大人しく其の魔女を返せば、このまま見逃してやってもいい。返さないなら、僕とステラの総力をもって、侵入者は処理される事になる」
「……念の為聞きますが、今の状況を判っていますか」
 静かに正純が問う。勿論だ、とキサラギは頷いた。
「僕とステラが揃えば、お前達なんて何人が束になっても勝てない。其れにお前たちは其の魔女を守りながら戦わなければいけない。僕たちに敗北はない」
「……本気、なのか」
 ルナールが呟いた。とても現実的な台詞とは思えなかった。けれどキサラギは、其れこそが事実だと疑っていない。槍を静かに構えて、もう話す事はないとばかりに。

「……良いぞ、ステラ」

 キサラギの呟きと共に、ステラが躍り出た。自然の獣ではない証――毒々しい紫色をした鋭い爪が、咄嗟に前に出たカナメの腕を深く切り裂く。
「あっ、いい……! 毒と痛みが良い感じに混じってびりびりくるぅ……! もっとカナを引き裂いて見せて! 爪と牙が飾りじゃないって、教えてよ!」
「うーん、性癖だなぁ……」
 思わずつぶやきながら、ルナールが入れ替わりにステラに攻撃する。青白い槍が輝くような軌跡を画いて、純白に赫色を刻む。
 そうして後ろからも。正純が構えて、――撃つ。
 光を束ねたような魔砲が、ステラの翼を撃ち抜いた。閃光が硬い羽の関節を砕き、肉を裂く。紅い鮮血が飛び散り、獣が苦し気に咆哮する。
「ステラ!」
「何処を見てるの? 余所見は駄目って教わらなかった?」
 ゼファーがキサラギに接敵する。――偽術、蒼嵐散華。師の贋作とはいえ、精錬した其の技に迷いはない。槍の一撃をキサラギは己の槍で受け、後ろに飛ぶ事で威力を殺した。

 ……成る程?
 確かに、他の子どもたちとは戦闘技能で一線を画している。

 着地は一瞬。キサラギは子どもながらの身軽さで跳躍すると、槍を脇に引き構え、一気に身体をひねって穂先を振り下ろす。だが、槍の扱いならゼファーの方が上。穂先を払って狙いを外し、其の隙を突いて後ろからアッシュが銀色の流星を落とした。身体をしたたかに打たれ、苦し気にキサラギが呻く。
「……僕の鎧が、……こんな事で砕けるもんか……!」
「……鎧?」
 見たところ、キサラギは身軽な格好をしている。鎧らしきものと言えば、――腕にあるごてごてとした腕輪くらいのものだが。

 マルクが治癒の術を飛ばす。誰もが傷付いている。ならば戦う者にこそ、癒しは必要だろう。己も傷付いた身体で、マルクは癒しを紡ぐ。隙があれば聖獣を狙おうかとも思ったが、流石に其処までは手が回らない。
 最優先は文字通り護りの“要”となっているカナメだ。彼女が聖獣を引き付けてくれているおかげで、聖獣の武器である機動力は実質殺されていると言っても良い。
「さあ、もうお休みの時間だよ」
 帳が静かに言う。片羽を失った獣を一瞬黒い影のようなものが包み込み、優しく、しかし残酷にあらゆる厄災で染め上げた。
「ドロッドロに染めてあげるから、もう止まって良いよ」
 其れは帳なりの優しさだ。ステラもきっと、聖獣という悲しく狭い檻に囚われている。ならば、自由にしてやりたい。

「……お姉ちゃん」
 目まぐるしく動く情勢の中で声も出せなかった少年が、ネーヴェを見上げる。
「なんですか」
 ネーヴェは出来るだけ優しく、少年に答えた。
 過酷な戦場を見せないように、少しだけ体の向きを変えた。聖銃士とはいえ子どもは子ども。キサラギは生かさねばならない。けれども聖獣は殺す。其れはステラ自身のためでもある。だが、子どもに見せて良いものではないだろう。
「どうして、僕たち仲良く出来ないのかな。……みんなそうだった。一緒にパンを分け合ったお友達を、“パンを奪った”って“こくはつ”する子がいた。此処は、おかしいよ。子どもたちだけの国って、みんなこうなの?」
「……いいえ。いいえ。そうでは、ありません」
 ステラの悲鳴が響く。彼がそちらを向かないように、ネーヴェは視線を少年に合わせる。
「本当は、きっとみんな、優しい子、です。この場所が、おかしいだけ。……だから、少しずつ説得していきましょう。努力は必ず、実を結ぶものです。だから、今はとにかく、此処から出ましょう」
「そうだね。まずは此処から出て、君の安全を確保しなければ始まらない」
 ある程度皆の体力を保てたと一息ついたマルクが、少年を振り返る。
「――僕の領地に用意がある。良かったら来ると良い。其れとも、元の場所へ帰りたいかい?」
 ……少年は少しの間考え込むと、ううん、と頭を振った。
「此処は嫌な場所だけど、……前に住んでたところも、良い所じゃ、ないから」

「――悪いけど、今日は歯痒い思いをして頂戴!」
 ゼファーの槍が唸る。まるで百花繚乱、そして散るように、一つと言わず無数の狙い定めて槍が穿つ。命は取らぬと言いながら命を辛うじて繋ぎ留める程度の連撃がキサラギを打ちのめして……彼が大事そうに付けていた腕輪と彼自身が吹き飛び、大地に伏せた。
 ステラは其れを振り返る余裕はなかった。正純によって羽根は落とされ、カナメは斃れず、ルナールとアッシュの連携、そして帳による無数の不調。そして主であるキサラギが吹き飛ばされ、起き上がる気力がなくなったのを知ると、……イレギュラーズ達に背を向ける。
「……!」
「いや、待て」
 追撃しようとするアッシュを、ルナールが止める。
 ステラは……静かにキサラギの顔を見下ろした。ぱた、ぱた。落ちるのは己の血だ。
 獣の腕で拭おうとするけれど、其れは塗り広げる事にしかならなくて。獅子に理性や人性というものが残っていたのかは判らない。けれども獣は、悲しそうに嬉しそうに、気を失っているキサラギにすり寄ると……静かに其の場に座り、やがて臥せり、……そうして、動かなくなった。
 誰も、何も言わなかった。聖獣というものがどうして出来るのか、知っているから。ゼファーが静かに歩み寄ると、獅子のたてがみを撫でる。
「……あなたにだって、子どもとして笑う権利はあったのにね」



 斯くして、イレギュラーズと魔女だった少年はアドラステイアを後にする。
 キサラギが付けていた腕輪からは、強力な高揚と幻覚を齎す成分が検出された。其れが何を意味するか。子どもたちはどうしてオンネリネンになり、どうして聖銃士になるのか。其の先は何処なのか。未だ、アドラステイアは輝ける闇に包まれている。

成否

成功

MVP

ゼファー(p3p007625)
祝福の風

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
無事に魔女とされた少年は救出され、マルクさんの領地で保護される事になります。
ステラは撃破され、キサラギは腕輪を失いました。
……鎧を失ったキサラギは、どうなるのでしょうか?
ご参加ありがとうございました!

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