シナリオ詳細
天義領馘首刑
オープニング
●禁じられた『牧場』
天義首都、聖都フォン・ルーベルグから東に向かった海沿いに、独立都市アドラステイアは存在する。
天義からの独立を表明し、『ファルマコン』なる神を奉じ、そして子供達に『断罪』という名の殺し合いを強要するこの地は、イレギュラーズ達にとっても様々な感情が渦巻く地となっていた。必然、この地の周囲の領地はアドラステイアの暴虐に日々警戒を払わねばならぬ日々を送っていることは語るまでもないだろう。
天義という国にとって彼らは明確な敵だ。そんな敵に、国家が一致団結して対抗するのは当然の話であった。……あったのだが。いつだって国や他者よりも刹那的に己の利益を重視するものは存在する。
「……これで、私は見逃してくれるのだな?」
アドラステイア近傍領・デュフォン。
領主であるカール・フォン・アスベルクは正面に座る女に問いかける。その隣に立つ聖銃士、否、『プリンシバル』と呼ばれる上位騎士階級の少年は微動だにせず、磨き上げられた鎧と禿頭を誇らしげに誇示しているようにすら見えた。マグノリアのような甘い香りを漂わせた女は、口の端を歪めて大仰に頷いてみせた。
「ええ、ええ。あなたは素晴らしい成果を収めました。私はあなたを今後思い出すこともないでしょうが、あなたは今後、この領地を『正しく』治めて頂ければいいのです。天義(このくに)は国力が落ちているとはいえ混沌の大国家の一つなのですから、『領主として利益をあげるのは当然のこと』。相手がたまたま『私達』だっただけではありませんか。何も気にすることはありません」
だからあなたは無事だった。言外にそう続けた女は、これ以上話すことなど無いと言いたげに席を立つ。比較的満足げな表情だったことは、以前自ら幻想の領主を呼び込んだときと大きく異なる。が、そんな事実を彼が知る機会も、必要もないのは間違いない事実であった。
「マザー、あの『牧場』に私が残らなくても構わなかったのですか?」
「構いませんよ。私達の目鼻先に食いつく者がいても、生半可な実力では到底生きて帰れませんよ。少なくとも、天義の諜報員風情では内部の異常に気付けるようにはできていません」
傍らを歩くプリンシバルの少年に、『マザー』は柔らかい笑みを向けた。彼はその後に続けようとした質問も、それに対する彼女の回答もある程度読んだ上で、沈黙を選択する。
少なくとも天義という国家があの領地の異常を察知することはあるまい。
よしんば知り得たとして、解決する手段は乏しかろう。
そして、領主は一手間違えば命を失う事をわかっている。そうでなくても『絶対悪』にほど近い所業はどこにバレても生きていけまい。唯一、アドラステイアに『牧場』を提供する限りに於いてその生命は担保されるだろう。
……牧場、牧場か。
先細りするだけの領地の残骸をそう呼ぶ愚は分かりきっているが、少なくともアドラステイアが存続する限りその地が崩壊することはあるまい。
尤も、最初からそのつもりで領主と結託したのだが――。
●領地、朱に染めて
「……以上がデュフォンに於ける現状だ。恐らく本国はこの情報をまだ握っていない。せいぜいが人工の流動性を含めて幾つかの情報が伏せられているな、程度にしか気付いてない筈だ」
「これは、何の冗談で」
「冗談では済まされない。気付いてるんだろう、三弦ちゃんもさ」
『探偵』サントノーレ・パンデピス(p3n000100)がローレットに現れた。その時点で警戒以上の感情を抱くべきであったと『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦 (p3n000097)は歯噛みした。彼は天義に於いて探偵として動いており、ここ暫くはアドラステイアへのアプローチを行う上でしばしばその力を借りていたのも事実である。彼の調査能力は、嘗ての天義に於ける大事件を知ればこそ語るまでもなく、そして彼がローレットを謀る理由は何一つない。
――天義領・デュフォンで、人間を飼い殺し世代を摘む『牧場経営』が行われている。子を産ませ取り上げてアドラステイアで洗脳教育を施す。多少育っている子供がいれば連れ去り同様に措置する。あまりに賢しい子供がいるならアドラステイアの子供達が指弾し、魔女狩りを行ってくれるだろう。
そして生殖年齢をも外れた多くの大人達は、生かしておく理由に乏しい。この地では本物の酪農も発展していたのだから――。
「結構です。それ以上の説明は不要です」
「そいつは結構。じゃあ、依頼内容も心得てると思って構わないのかな?」
「天義本国が『まっとうな領地』だと誤認しているデュフォン領の制圧、カール・フォン・アスベルクの身柄確保ないしは殺害。領民は恐らくまともに生き続ける可能性が見込めない為に全て処理しなければならず、必然、領内にいると推察される聖獣も全討伐が必須、ですか」
天義本国がこれを知れば、とんでもない背信行為ととられるだろう。
正義か悪かでいえば明確な悪で、恐らくカールの背信は表に出ることはないだろう。
アドラステイアが得るはずだったリソースを大きく削ることには成功するだろうが、イレギュラーズが背負う十字架はその比ではない。
……ゆえに、これは酷く重苦しい話となるだろう。
多分誰も――快楽殺人者を除いては――幸せになることはない。
- 天義領馘首刑完了
- GM名ふみの
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月02日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
城塞都市は、その門扉の堅牢さを以て防衛機能を担保される。そういう意味では、デュフォン領の無防備さは城塞都市としての体をなしていないのが露骨に伝わってくる。
この様な環境にある城塞都市には二通りの状況が考えられる。都市機能を喪失しているか、潜入されることを前提で防備を組んでいるか。悲しいかな、この領地では『両方』が正当なのである。
「腐っちまった果実の刈り取りか。まったく、アドラステイアの奴らは心をどこかに置き忘れて来たらしい」
「なんとも、まあ。呆れ果てる事態、だ。ここまですることも、ここまでされるとわかって、差し出すのも、な」
『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)はあまりに馬鹿げた依頼内容に頭を抑え、苛立ちを隠そうとした。怒りも嘆きも感じ取れない『金色の首領』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の声音はいっそ清々しくもあり、善悪や好悪を表に出さぬ態度は手慣れたものを感じさせすらする。内側で渦巻く感情など、力がなくば無意味だと言わんばかりに。
「牧場ね。めちゃくちゃ合理的でいいじゃん。余程、人やら材料やらが足りて無いのかな」
「ギャハハハ! 久々のシャバでしかも外の世界の依頼と聞いて参加したけどさ…外の世界の連中って俺様達以上に考えてる事トチ狂ってわけ? どうでもいいけど!」
『硝子の檻を砕いて』ネリウム・オレアンダー(p3p009336)はアドラステイアの築いた『牧場』の有様に一定の理解を示すかのような姿勢を見せた。見せただけで、何一つ理解できないのが実際のところだ。何故なら『効率が悪い』。善悪を脇において、ただただ無駄が多すぎると。寧ろ、この狂気の沙汰に一番喜んでいるのは覇竜から訪れた大罪人たる姜・饕餮(p3p010502)であることがその歪みの程を体現しているといえようか。
「んー……ふぅ、領地まるごと殲滅なんて久しぶりね。大掛かりな作戦になるわよー」
「楽しそうで何よりだよ。俺には理解できねえけどな」
『キリングガール』玖珂・深白(p3p009715)が軽く伸びをし、今から始まる『仕事』にやりがいじみたものを覚えている姿は、『フレジェ』襲・九郎(p3p010307)にはいまひとつ理解できないものだった。依頼があれば一般人を殺すような環境だったか、否か。それに割り切った感情を持ち合わせているか否か。それが両者の違いなのだろう。殺すことが快楽に直結した饕餮や善悪よりことの苦楽を基準とするネリウムは、同じ脛に傷持つ者であっても有様が根底から違うのだと理解させる。
「人を人と思わない。彼らには尊厳なんてものはなくて、ただ死んでいないだけの家畜同然……ええ、そうね。私とっても今怒っているわ」
「人間牧場……挙げ句の果ては肥やし、です、か」
『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)の、胃の腑の奥から怒りを吐き出すかのような姿。『竜眼潰し』橋場・ステラ(p3p008617)に見られる絶句。これらが九郎やヤツェクにとっての『普通の反応』なのだろう。異常な状況に置かれ続け摩耗した人間性の拠り所は、悪徳を是とする依頼にあって感性を見失わぬ純粋な者達にこそあるのだと改めて理解させる。無論、悪徳を悪徳のままに楽しむ饕餮の生き方に否と唱える者は居まい。彼女よりも極まった悪徳など、ローレットでは珍しくないのだから。
「それにしても無闇矢鱈に人間を増やすなんて、万年資源不足のうちの世界じゃ考えられない狂気的(ステキ)な発想だわ。いえ、人間自体が資源なのかしら?」
「人が欲しくたって、僕は金と時間と土地があったってこんな面倒なの作らないけど」
深白は己の世界を思い出し、資源と時間を湯水の如く投入する領地の有様に首を傾げた。尤も、人を資源としてカウントしたとしても効率が悪すぎる。ネリウムが彼等を資源として見た場合、実験動物のそれと変わらぬ視点なのだろうことは疑う余地もない。それが封じられた依頼でなければ、と惜しむ姿は狂気のそれだ。
「狂人共の考えなんか知ったこっちゃねえな。まずは領主様にご挨拶、それからこの地の連中を仲良くあの世送りだ。腐った果実は大地に還してやらねえとな」
ヤツェクは感情を殺した声で一同に告げる。同意を求めては居ない。許しを請うつもりもない。今できるのは、最短距離で全てを終わらせるという義務感だけだ。
●
「馬鹿な、馬鹿な話があるか、わ、私が何故裁かれる必要がある、何人も知らぬままこの地は平穏を貫くのではなかったか、マザー……!」
カール・フォン・アスベルクは悲鳴の様な呻きと共に壁にかかった電灯を見た。それはこのデュフォンに配置された子供達と聖獣の命に連動したものだという。それが消えることは、即ち彼等を殺す異物の出現を意味すると。
「それともこれも計算のうちか!? 漏れることを前提として誘い込むための呼び水にされたのか、私も、あの餓鬼共も! 実験台のつもりか!」
「自分の命惜しさに領地を売り払った、に、しては。なかなか察しが悪い、な?」
「あくまで抵抗するなら容赦はしませんが?」
苛立ち混じりに投げつけたグラスは、いつの間にか視界の端に現れていたエクスマリアの髪がなめらかな動きで叩き落とし、その背後に立つステラが即時攻撃を行える構えで立っていた。彼に戦闘能力などない。ただ捕縛すれば終いだ、と言わんばかりに。然るにそれは真実である。
「あんまり抵抗してくれるなよ。面倒ごとは……」
「舐めるなよ、狗ども」
九郎が極地戦闘用狙撃銃を向けた先、カールの表情は絶望と怒りが綯い交ぜになったものだった。こういう顔は嫌というほど見た九郎だろうが、その中でもとびきりだ。理不尽への怒りを滲ませた男はしかし、押し込むように口元に手をやり、見る間に顔の、そして全身の血管が膨張していくではないか。
「僕達は人体実験ができないのに、あちらはやりたい放題か。ずるいじゃないか」
「抵抗するなら殺した方がいいよな? 殺していいよな!?」
ネリウムの心底から残念がる声を背景に、饕餮は大斧『睚眦』を持ち上げ嬉々として仲間に問いかける。やむを得ず殺害の体裁が採れれば、これ以上喜ばしい話はないからだ。
「一対多の状況で、肉体強化を受けた素人風情に後れを取るとは思えません。最大限、生存で」
目の前の領主のあまりの往生際の悪さに、ステラも殺したほうがいっそ楽であろうとは思った。が、彼は法の下で裁かれるべきだ。どれほど残忍な最後であろうとも。
「生き残りたいために良心を売ったのか? 自分の体の未来も切り売りする契約だったのか? 残念だったなあ」
祈るならファルマコンに祈るんだな、と。ヤツェクは躊躇なく足へと銃弾を叩き込む。骨も強化されたか、振り上げたそれは銃弾をあらぬ方向へと弾き、渾身の力を込めた芸のない拳の打ち下ろしは、腕ごと断とうと振り上げられた睚眦の側面を打つかたちですれ違い、床に大穴をあけた。
「私が死なせぬよう止めを刺すわね。だから、遠慮なくこの男に叩き込んでいいわよ」
「よっしゃあ!!」
ヴィリスはいよいよもって、目の前のそれに手加減が通用せぬことを思い知った。饕餮は彼女のゴーサインに欣喜雀躍として飛びかかると、叩き込まれる拳をすり抜けて睚眦を振り上げ、打ち合わせる。
「無駄に苦しまないように、してやる」
「そうね、こんなところで長々叩かている場合じゃないものね」
「屋敷のなかで増援を呼ばれちゃ面倒だからな」
エクスマリア、深白、九郎らはその猛烈な撃ち合いのなかにあって一切の躊躇を見せなかった。饕餮は乱雑そうな武器の扱いのなかで的確に隙をつくり、援護射撃を行えるよう立ち回っていたのだから。神秘と物理とが矢継ぎ早に叩き込まれ、カールは膨張した筋肉が血管ごと破裂し、赤く染まった視界ごと前のめりに一歩踏み出す。頃合いと見たヴィリスの神気閃光がかろうじてカールを捉えたことで殺さずに済んだが、それでも生きているのがやっとという風情。
「仮にテレパシーか何かが使えてもこの場じゃ無理のはずだ。意識も当分戻らないだろうしな」
「それじゃあ、証拠物件を探しましょう。今は軽く、それから外の『処理』ですね」
九郎は自らを指し、精神感応は妨害できている、と暗に告げる。ステラは領主の部屋をぐるりと見回し、あからさまな執務卓とそれに積み上がった書類を一瞥した。
「精査してる余裕もねえ。ここは全部掻っ攫ったほうが楽だと思うぜ」
「案外、外にも証拠が転がってるかもしれないよ? 早いとこ処理に行ったほうが良いかもしれないね」
ヤツェクの乱暴ながらも正鵠を射た意見に、ネリウムもそわそわとした様子で同意を示す。彼の場合、証拠保全というよりこれからの『お楽しみ』に期待している様子が見受けられるが。
「でしたら私に腹案があります。子供達も、万が一にも家畜市民をも逃さずに最大限破壊工作を達成する形で」
ステラは使い魔達の情報を整理しつつ、そう告げた。現在は南門近辺、ここから南、西、北門を無視し東門を順繰りに破壊し開閉を阻止。以て逃げ道を潰すのだと。
「ところで、アドラステイアの子供と聖獣は別に好きにしていいんだよなぁ?」
「そうそう。家畜は甚振るな、って言われてるけどさ。領主とか聖獣とか子供については特に何も言われてないんだよね」
饕餮とネリウムが言い放った言葉の意味を、イレギュラーズは察せぬほど愚図ではない。家畜および領主は過度に甚振るな。損壊するな。
言葉の裏を読め。
その先にあるのは、君達に向けられた自由への条件付けだ。
●
「同士討ちで、静かにして、もらおう、か」
「逃がすつもりはねえからな。丁寧に『収穫』といこう」
ステラの先導のもと、横合いから殴りつける格好でエクスマリアの呪歌が響く。思わず動きを止めた聖獣と子供達は続くヤツェクの銃弾でさらに無様にダンスを踊る。ネリウムはそこに陰陽結界を以てより痛めつけんと打撃を与え、九郎の銃弾が動きを封じていく。そこまでは、当たり前のような蹂躙だ。反撃とばかりに子供達や聖獣の攻めが襲いかかるが、さりとて趨勢を覆すには至らない。
だからこそ、饕餮は己の思うままに振る舞い、子供達を丁寧に甚振っていく。殺さぬ程度に痛めつけられ、止めを待つ何人かを『奪われる』前に蹴り飛ばした後、彼女は子供達に獰猛な笑みを向ける。
「ファルコマンだっけ? 信じた神に見捨てられてどんな気分? ギャハハハ!」
彼女のその後の行いは、『筆舌に尽くし難し』と表現する以外の手段を持たない。子供達の尊厳を最大限破壊し、命を弄び、魂を蹂躙する。動かなくなった遺体に向けて舌なめずりしながら歩み寄る姿は、彼女が重罪者であった経歴を鑑みても異常という以外の論を俟たない。
「その子達の尊厳を食いつぶすのは後からでもできるわよ。今は他の子達を先に殺しましょう。それから家畜達を解放してあげないと」
ヴィリスは、蹂躙半ばの饕餮に声をかけた。彼女の視界の先にはあまりの騒ぎを聞きつけひとつ、ふたつと子供達が集まりつつある。これ以上、道半ばで徒に騒ぎたてて不利になるのは避けたい。人々をこの世から解放するためにも。
●
「諸君、我々は神の使いである。跪き、瞳を閉じ、祈りたまえ。さすれば永遠の幸福を得られるであろう。
諸君は幸福か? 幸福でなくば幸福を求めよ。幸福であるならばさらなる幸福を求めよ」
深白は家畜となりはてた市民達に厳かに語りかける。神の名を騙る彼女の言葉を、彼等は果たしてどれほど理解していようか。そも、家畜は神を戴かない。空虚な冠をかぶった狂える者の影をその姿に見た人々は、恐怖のあまりに涙した。それは信仰の残滓ではなく、死の恐怖と快楽に頭を垂れた人であった肉塊の末路に等しい。
「あなたたちはこのまま何も知らずに逝くといいわ。外を知らなければ己の不幸もわからないもの」
ヴィリスはそんな人々の首を次々と刎ね飛ばし、一分の恐怖も与えず殺して回る。
悔いがないといえば嘘になるし、感情が揺らがぬといえばそれも嘘だ。だが、それと出来るできないは別の話。九郎もそれを理解しているがゆえに、頭部に銃弾を籠めて回る。
こんなとき、人の、変身せぬときの姿で蹂躙出来ることの幸運を噛み締めざるを得ない。
「すまない、な。弔ってやる時間も、ない。願わくば、安らかに」
「……ええ。火葬というには雑だけれど許してちょうだい」
爆発した瓦礫の中、エクスマリアは小さく頭を伏せ弔いの意思を示す。
その炎を背景に、ヴィリスは静かに舞い、鎮魂の念を深く示す。これくらいしかできないのなら、せめてこれだけはやらせてくれと、言わんばかりだ。
「いやーほんと、アドラステイアの連中は許せないね。とんでもない奴らだ。『デュフォン領の人々を皆殺しにするなんて』!」
「ム゛っ、ムグ……!?」
城門の外に放り出されたカールを見下ろしながら、ネリウムはわざとらしい笑いを上げた。欺瞞まみれのそれはしかし、一同が集めた証拠の前には覆せぬほどに的確に悪徳の在り処を示しているではないか。
彼はこれから裁かれるであろう。嘘も、天義の要する騎士の前ではとてもつけまい。惨たらしい末路が先にくるのか、後にくるのか。ただそれだけの選択権だったのだ。
「……というわけだが話は聞いてたか、『腐れ縁』殿」
「やれやれ。君の仲間の趣味の悪いスナッフなら見ていたけども、私に何をさせるつもりなんだい?」
「しらばっくれるなよ。『これ』から例の家畜達の毒を探ってもらおうっていうんだよ」
ややあって、イレギュラーズ達が其々の帰路を目指した頃。ヤツェクは酒場の隅で、胸元のコイン状の物体を叩く。不機嫌そうな声とともに形成されたホログラムは、南洋風の若者のそれだ。
彼の名はE-A。平たく言えば人工知能だ。ヤツェクが彼に何をさせようとしているのか、そしてそれは、どの程度の成果を得るのか。
それは、今この場で語られるものではないだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
限度とかそういうレベルを超えて抜け穴探しに興味津々で怖いです。なんあれ……。
GMコメント
馘首(かくしゅ):[名](スル)《首を切る意から》雇い主が使用人を辞めさせること。解雇。免職。
まあ領主としてはもうスパッとクビ切って終わりだから間違っちゃ居ないね! 英語だと「You are fired」ですけど領地燃えるもん間違っちゃいねーな!
●成功条件
・デュフォン領の完全制圧(すべての聖獣や子供達の討滅、家畜市民の鏖殺。可能な限り破壊行動を伴うこと)
・カール・フォン・アスベルクの捕縛または殺害
(注:禁止事項 家畜市民殺害時の過当な損傷、殺害を延伸する行為全般)
●デュフォン領
天義東部沿岸、アドラステイア周辺にある小さな領地……というか小さな城塞都市に近い。
外見的にはなんら異常はないように見受けられ、フォン・ルーベルグからすれば平和そのものと思われている。変化があったとすれば、ここ数ヶ月の領地からの収益が大幅増加していることくらい。
その内実は、薬物によって正常な感覚を奪われた人々が子供達に管理される形で延々と子供を生み、その子達をアドラステイアに送り込まされている。
なお、人々は前後不覚となっているため『交配』させられていることも、子供を奪われ続けることも疑問に思っていない。
これ以外にも『教育』が困難な成熟具合で且つ出産等が困難な者達は酪農に関する労働を課せられ、それすらも不可能な老人などの末路は文字通り「肥やし」である。
すべての人々は不可逆的な薬物汚染状態にあるので救おうとするだけ無駄であることを留意せねばならない。
街には数体の聖獣、そして多くの子供達が配されている。
突入は領主邸宅から一番離れた北門からの突入となる。
●聖獣と子供達
聖獣2+子供5名程度の編成で複数箇所を巡回している。
聖獣はかなり頑丈で、複数の姿かたちをしているが総じて爪や牙に強烈な出血性毒素を持っている。
四足歩行の獣に大蛇の尻尾があるもの、低空飛行が可能で偵察を行う大型鳥類型のものなど様々(なので特性も様々)。
子供達は主に近接武器などを手にしており、稀に神秘技術に長けた者も混じっている。
当然だが、子供達の近接武器にはなんらかの身体的不調を伴う攻撃の媒体が混じっている。
かなりの数がいるため、先に領主のもとへ向かうのもよい。
●カール・フォン・アスベルク
領主。自分だけが生き残るために領地を売った男。
多分捕縛した後普通に所業がバレたら断罪されると思う。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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