シナリオ詳細
拝啓、僕を天使にした世界へ
オープニング
●
「ひとの命を奪うことが、天使の役目なのですか?」
「ええ。病気で苦しんでいるひとたちを救済したり、世界に絶望したひとを救う唯一の手段なのですよ」
「そうなんですね、神様!」
その世界には天使と悪魔が存在した。
世界のことわり。最期には天使がやってくるのだと。
その魂を苦しみから解放してくれるのだという。
彼、ヴァイスもそのひとりだった。天使たる己を誇りに思い、そして天使であるという職務を。その責務を全うせんと、日々命を奪っていた。
生きているということ。死ぬということ。その価値を理解することはなく。
ある日、彼は命を奪う予定の人間の一人から告げられた。
「この『悪魔』!!」
悪魔。
悪魔とは、人間の魂を一秒でも長く世界にとどめんと誘惑する天使とは対局にある存在。
だから、人間が何を言っているのかわからなかった。どうして悪魔と言われる必要があるのか。
「私はまだ生きていたいのに、どうして!! 帰って、帰ってよぉ!!!!」
泣き叫び取り乱す女。
でも命を奪わなくてはいけない。
「だって、僕が連れて行ってあげなきゃ、苦しいままなんだよ?」
「じゃああんたもここで死ね!」
「ど、どうして」
「あんたの理論じゃ生きていても苦しいだけってことでしょう? ならあんただって同じじゃないの!!」
「でも、でも君は病気でしょう? なら早く死んでやり直したほうが」
「友達も、家族も、仕事もあるの!! 天使だかなんだか知らないけど、あんたたちよりずっとずうっと幸せなのよ、っごほ、げほっ、げほっ!!」
咳込んだ女にヴァイスはたじろいだ。
友達。家族。仕事。彼女が大切にしているのだというモノ。辞書にはのっていたし、神様も語っていた。けれどそれがなんだか、よくわからない。
「……生きていたいの?」
「そうだって、はぁっ、言ってんでしょ!!」
……なら、僕はどうすればいいんだ。
●
「天使って、どんな存在だと思う?」
カストルは軽やかにのびをして呟いた。
曰く、その物語には天使が確かに存在するのだという。
「そうだね、たしかに優しいかもしれない。でもその優しさって、一方的な押し付けだったりしない?」
赤い瞳が輝いた。
「さて、今回の依頼は、そんな天使に社会見学をさせることだ」
天使は知りたいのだと泣いた。
天使は教えて欲しいと喚いた。
ならば知ろう。教えよう。君が満足するまで。ずっと、ずっと、何度でも。
「天使としゃべるなんて、めったに無いことだしね。さ、教えてあげてよ、イレギュラーズ」
- 拝啓、僕を天使にした世界へ完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年02月27日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●higher
「初めましてヴァイス。僕はランドウェラ=ロード=ロウス。好きに呼んでおくれ」
「うん。はじめまして、ランドウェラ」
人のいい笑みを浮かべた『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、ヴァイスを見、過去の己を思い出したようで。
「いやぁ君を見てると言われた事しかできない昔を思い出して腹が立つね!」
「過去の、ランドウェラ?」
「そう、過去の僕。まあ、自分が絶対君の場合は神様かな? 神様が絶対……ではあるんだろうが、その感情に気づくあたり君は優しそうだ……神を否定された怒りも少しはありそうだけど」
高層ビルへと向かう足すがら。天にも届きそうな階段を二人で手を取り合いながら登っていく。
真っ青な空の下。
ランドウェラはヴァイスを手招いて指差した。
「んーそうだなぁ、あっちで手を繋いで歩いてる親子。両親が病気だとしよう」
仲睦まじく歩いている親子。両手を父と母に繋がれている子は、幸せそうだ。
「君の理論だと両親は死ぬ。君が殺す。その時残されたひとはどうなるかな。子どもの場合、1秒でも多く得られたであろう親の愛情というものがなくなったわけだ」
ヴァイスは答えない。ランドウェラは続けた。
「逆に言えば救済さえしなければ最後の瞬間まで、その時が来るまで目一杯愛情を注げるし受け取れる。つまりだなぁ……救済以前にそのひとの幸せを考えるんだ」
「そのひとの、幸せ?」
「そう! これは僕の自論なんだけど、」
と、ランドウェラは人差し指をぴんとたて、先生のように語る。
「幸せである、幸せにさせるって命よりも重要なんだよきっと。それに、何かをなしたいと行動する人は美しい。苦しんでいるかは関係なくね」
「命よりも、重要?」
「うん。それにさ、天使だろうが神だろうがその頑張りを奪う権利はないだろう?奪うことが義務というなら僕は君を救済(ころ)してあげたくなってしまうね」
屈託なく笑ったランドウェラ。ヴァイスはその視線を親子から外せずに居た。
「所で天使の役目は救済だろう? どうして僕の所に来てくれなかったんだい?」
「え?」
だって、きみは。強く風が吹いた。
風にかき消された答え。
それもまた運命なのだとしたら。
「…………冗談だよ! さあ、次はどのひとにしよう。あ、そこの1人でいるひとについて思考してみないかい?」
●what
『死は等しく訪れる』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は天使たるヴァイスに問うた。
「"針の上で天使は何人踊れるか"という神学的命題をご存知かね?」
「ううん、知らない」
「そうかい、そうかい。答えは『天使に肉体的な姿形は存在しないため、無限である』だ」
「……」
でも僕存在してるんだけどな、なんて不思議そうにルブラットを見つめたヴァイス。ルブラットは肩を竦めた。
「私には貴方のような少年を天使と呼ぶことは不可能だが、貴方の考えには親近感を覚えるよ、異教の召使い君」
「い、異教って、そんな、宗教じゃないし……僕ちゃんと天使なんだけど」
「まぁ其れは人それぞれということさ。命の尊さは誰かが語ってくれるだろう、私とは少し趣向を変えてみようじゃないか」
「趣向?」
頷いた。その仮面の下の顔は見えないから、ヴァイスは自分だけが見透かされているようで震えた。
「しかしこんな雑踏じゃ立ち話も集中出来んな。喫茶店にでも行って、美味しいケーキを食べようか」
カランカランとベルの音。
小気味よいメロディライン。
アンティークの喫茶店にて、異質な二人組。
「…如何に足掻こうと死は遍く訪れる。なのに何故人々は死を厭うのだろう?
私も不思議に思うよ。本当に」
「でしょう? 僕だって、そうだ」
苺をブスリ、と刺したルブラット。そのままフォークをヴァイスに向ける。
「貴方は公開処刑の現場を見た経験はあるかな?」
「ううん」
「だろう、やはり無いだろうな。愉快だよ。死にゆく者と、歓喜する観客達の姿はね!」
「……か、歓喜?」
「そうだ、歓喜だ。無論彼らの喜びは下劣な感情に由来するものが殆どで、それは非難の対象になり得る
だが、死が悲痛でないならば、世界とは処刑場の如く在るべきではないか?」
「……ッ」
震えた。怖かった。恐ろしかった。だが、然し。
「…貴方は私の言い草を醜悪だと思うかね? 思うのならば、その理由は貴方の問いへの答えとなる。思わないのならば――ともかく、一度見てみることだ」
ヴァイスは、答えない。
「真っ当に人間が死を忌み嫌う理由も説明してみようか。たとえば、貴方が今食べているケーキを、私が突然台無しにしたら、不愉快な気分になるだろう?」
「……」
肯定。
「それと同じだ。だが、結局は私よりも、貴方の主人に尋ねるのが最善だと思うよ」
「それは、どうして?」
「神のみが我々の君主だ。貴方の君主でもある。そうだろう?」
ヴァイスは、また答えない。
じくりと溢れた苺の汁が、ヴァイスの白を汚した。
「…ただ、たとえ最終的にどんな結論に至ったとしても、貴方は独りでない。
それだけは、最初に話を聞いた時から言いたかったのだ」
「……うん」
ヴァイスはケーキを食べなかった。
それは、命をまた知ったから。
●order
「ふむ、社会見学か……そうだな。貴様、学校という物は知っているか? 別に知らなくても構わんが」
ヴァイスを呼んだ『謎と闇』レーツェル=フィンスターニス(p3p010268)は、ヴァイスが知らないと首を横に振ると手招いて学校へと連れて行った。
人が沢山だ、と呟くヴァイスに、レーツェルは頷いて。
「ここと似たような場所にワタシの……知り合いになるか? そういった間柄の者が通っていてな。毎日、行きたくない行きたくないと顔を顰めていた」
「どうして?」
「さぁ、知らんさ。だがな――それがいつしか悪化した。行きたくない、が死にたい、殺してほしいと変化していった」
「それで、どうなったの?」
見学の許可をとってある学校内を散策する。授業中なのだろう、先生の声だけが聞こえるクラスもあれば、英語が聞こえてきたり、ボールの跳ねる音が聞こえたり、様々だ。
「……ワタシも流石に困ったな。極端に弱いものを縊り殺してもなんら楽しくなどない。愚痴を聞くほうがずっと良いさ」
窓の中から覗き見る。寝ている生徒。ノートをとる生徒。様々だ。
「……貴様。それからどうなったと思う?」
「……なおった?」
「いいや、死んだ。詳しく言えば殺された、だな」
瞬いた。いのちは、思ったよりも容易く奪われてしまうらしい。
「……たちの悪い女がワタシを追っていてな。いわゆるストーカーというやつだ。いつも通りワタシを探していたそいつに最大限苦しめられたらしい」
天使は知らない。
色恋も。他人の怨嗟も。だから、聞く他になかった。否、聞きたいと思った。
「死人に口無し、といったか? この場合逆に犯人は雄弁だった。血だまりを踏みつけて、頬を赤く染めて、奴はワタシへ事細かに起きた事を語り始めた。正直言えば不愉快だったな……そして、つまらなかった。暇潰しの相手を奪われて」
頷いた。
そうやって、自分も命を奪っていったのだろうか。
何も聞き痩せずに。
「殺しは良くない、なんてワタシは言うつもりは無いが。死にたいと言っていたあいつも、最期には命乞いをしたらしい。だったら、そう言わずに生きる人間はどれ程死にたくないのか……貴様の思う救済を望まないのか」
「そう、だね」
奪うだけの僕は。
そろそろ、奪われてしまってもいい頃だ。
●fight
「人の世界の見学! ボクも、外の世界は全然、知らなかったから。ヴァイスさんと一緒だね」
「うん、おんなじだ」
ヴァイスにはつらつと微笑んだ『深き森の冒険者』玖・瑞希(p3p010409)は、手をとって進む。
「命を奪う仕事について、色々と考えながら回ってみようか!
まずは、ヴァイスさんの疑問。友達や家族について、お買い物しながら考えよう!」
やってきたのは巨大なショッピングモール。
「買い物に来る人も、そういう人がいっぱいだと思うから、ボクと君も、友達になれたら、もっと分かるかな?」
「……うん」
買い物なんて初めてだと呟いたヴァイス。
必要なものは何もなかった。そんな生活は、きっと今日で終わりだ。
「ねぇヴァイス。ボクね、ヴァイスと一緒に。買い物にきている色々な人の笑顔を見てると、生きるのって、楽しいよね。って思うんだ」
「うん。僕も」
「だから、最期のお別れは、とても大事になるんだと、一緒に考えてて、思ったんだ」
「……うん」
今まで、受動的に奪ってきた命。その意味が変わるのだろう。
ヴァイスの表情は、暗い。命の重さを知ったから。
「あと、こっち。この世界にもあるか分からないけど、命を奪うお仕事なら、きっと。その後のことも知っておいたほうが良いと思うんだ」
「何があるの?」
手を引かれてヴァイスは硬直した。
墓だ。
死んだ後のことは分からないけど、生きてる間に、その人がたくさん作った、繋がり。思い出。いっぱいの大切なもの。
それを思い出せる場所が、お墓だ。
売られている、いつか眠る場所。ヴァイスははじめて、それを知った。
「死にたくないと思っちゃうのは、魂はもう一度巡っても、もう一度。同じ人に出会えるかわからないかし……死んじゃったら、悲しむ人がたくさん、いるから、それが、怖いのかもしれないね」
「……うん」
「ねぇ。ヴァイスさんは、ボクが最期の時は、どうすると思う? 死にたくないと思うのかな。救われると思うのかな」
「……僕にも、わからないや」
「あはは、そっか。ボクは、最期は笑って終われるといいな、って思ったよ。難しいかもしれないけどね」
「……」
ヴァイスは笑わなかった。
ただ、ひとつ思ったのだ。
自分の行いは、正解ではなかった、と。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
天使ってほんとに翼があってわっかがあるんでしょうか。
染です。
九月頃からあたためていたライブノベルです。
お楽しみ頂ければ幸いです。
●内容
天使の社会見学に付き合う
天使の少年、ヴァイスを人間社会に案内しましょう。
ひとの営みや暮らし、生活に興味を持っているようですよ。
●世界観
現代日本に近い世界です。
死生観に天使や悪魔が関連していること以外は目立った変化はありません。
●天使と悪魔について
それぞれに神様という指導者が居て、それぞれに使命があります。
天使ならば人間の救済と謳われた死を齎し、悪魔ならば魂の堕落を狙った長寿を齎します。
天使も悪魔も見た目はみなさんが想像するままです。
●できること
お店に行ってみたりするのもいいですし、お買い物をしても大丈夫です。
どこかの保育園や幼稚園、学校にいってみてもいいですし、病院などで命のありかたを教えるのもいいでしょう。
●ヴァイス
神様が大好きな天使の少年。
ひとの命を奪うことを生業とし、それについてなんの違和感も抱いていませんでした。
しかしとある女と出会い、その考え方はぐるりと一変してしまいました。
年齢的にはだいたい16歳。成長期です。
皆さんに人間について教えてもらいたがっています。
●サンプルプレイング
よし、それじゃあ私は食べ物について教えてあげよう。
ほら、これ。食べてみて。おいしいでしょう?
これも人間が作ってるし、食べなきゃ人間は死んじゃうんだ。
以上となります。ご参加をお待ちしております。
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