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シナリオ詳細

再現性東京202X:這い出る恐怖

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●犠牲と追悼
 かつてないほどの衝撃を感じながらも、人々は日常にすがり、偽りの安寧に身を任せていた。竜という世界の災厄から目を背け、『火山が爆発した』『集団幻覚だ』などと騒ぎ立てるワイドショーを見ては、自身をごまかし続けている。

 数々の危機が去った練達は、多大なる被害を受けている。竜によって壊滅的な被害を受けた地域も散見され、多くの建物の倒壊を招いていた。
 倒壊したいくつもの家屋が目立つ地域では、住民やボランティアの人々が廃材の撤去に励んでいた。
「何人も行方不明者が――生き埋めになったんじゃないかって話だな」
「うちの近所の――さんの従兄弟も、まだ連絡が取れないそうだ」
 見るも無残な町の光景を前にして、被害者のことに思いを巡らせる者も多かった。1人の青年は黙々と作業を続けながらも、その会話に耳を傾け、犠牲となった人たちを心の中で悼んでいた。
 作業を続けている内に、青年はあることに気がつく。
「声が……聞こえる……」
 確かに声の存在を感じ取った。青年の働きかけもあり、誰もがその声の存在を聞き取り認め、居場所を突き止めようと探し回る。
 倒壊した建物の下敷きになった人々が、助けられたニュースを何度か見てきた。その奇跡を信じて、その場に居合わせた住民たちは周辺を探した。だが、すぐに違和感に気づいた。声の出処は、明らかに足元の地面からである。
 声の違和感に気づいて間もなくして、青年はその足首をつかむ存在に脅かされる。地面の下から生えるように飛び出した手につかまれて驚愕し、青年はたまらず絶叫をあげた。その絶叫を聞いて周囲の人間は駆けつけたが、更に恐怖は活発化する。
 地面から這い出るようにして、次々と泥と血にまみれた異形の姿が現れる。
「助けて……助けて……」
 かすかに声を発するその存在は、人のような見た目をしていた。だが、明らかに人とは異なる。
「タス、ケテ……タdjt*#ケテ……」
 青年の足首をつかんだ異形――長髪の女性に見えるそれは、もうすでに上半身まで地上に這い出し、真っ黒な顔を青年の方に向けていた。顔が真っ黒に見える理由を理解し、青年は更に絶叫しながら抵抗し、女の手を振り解く。
 地肌が見えないほどに真っ黒に顔を覆っていたものの正体は、無数のハエだった。
 一様に不気味な姿をさらす老若男女の異形の一群に震えおののき、その場にいた全員が避難所へと逃げ帰った。

●恐れと邂逅
 ――夜妖の出現を示唆する事象が判明し、ローレットを通じて派遣されたイレギュラーズはその現場へと急行した。
 死が身近になった非日常に触れ、増長した人々の忌避感や恐れが夜妖となって顕在化したと考えられる今回の事象――。夜妖の明確な出現条件は不明である。最も高い可能性として、付近の人間が犠牲者の死を連想するなどが考えられる。
 夜妖の出現によって、倒壊したままの家屋の解体作業は滞っている。犠牲になった人々の怨霊が出るというウワサが広まり、付近に近づくことを誰もが恐れるようになったのだ。そんな人気のない場所に、イレギュラーズは1人の少女の姿を見つけた。
 年の頃は12歳ほどに見えるその少女は、何かを探し回るように辺りを見回していた。誰かが少女を問い質すと、少女は『マリ』と名乗り、父親を探している旨を明かした。
「……私を連れ戻すように頼まれたの?」
 マリは怪訝そうな表情で聞き返す。
 危険な場所であることを伝えられても、マリは聞く耳を持たなかった。
「バッカみたい!! オバケが出たなんて、本気で信じてるの? テレビでも言ってたよ、『集団幻覚』て奴でしょ?」
 そうまくし立てたマリは、イレギュラーズを無視して歩き出す。その後を追いかけるイレギュラーズに対し、マリは険しい表情を向けながら言った。
「ほっといてよ! 私はお父さんを見つけるまで帰らない!! お父さんだって……まだ生きてるかもしれないもん」

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


●シナリオ導入
 日中の青空の下、あなたたちは夜妖の目撃情報が出た地域に訪れた。
 人気がない場所に見えたが、瓦礫の間を歩き回る1人の少女がいた。マリという少女を説得するのは難しそうだ……。

●成功条件
 夜妖24体の討伐。

●戦闘場所について
 不気味な夜妖の存在を恐れ、誰も近寄らなくなった地区。
 十数件以上が倒壊し、変わり果てた住宅街の一区画。多くの瓦礫の山がそのままになっている。
 少女、マリ以外に人の姿は見当たらない。行方不明の父親を探しているらしい。何かが起きる予感しかない……。

●夜妖について
 ゾンビのような見た目。顔全体を無数のハエに覆われていて、顔を判別することはできない。
 時折「助けて」とつぶやくが、機械のように繰り返すばかりで会話は成立しない。
 1ターンごとに『回避』『反応』が強化され、凶暴性を増していく。
 近接攻撃(物至単【呪殺】【不吉】)以外にも、顔を覆うハエの群れを飛ばし、突き刺すような痛みを与える((神中扇【出血】【不吉】)ことで相手を翻弄する。


 個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。

  • 再現性東京202X:這い出る恐怖完了
  • GM名夏雨
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ブライアン・ブレイズ(p3p009563)
鬼火憑き
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛
ヴュルガー(p3p010434)
フラッチェ
嶺 繧花(p3p010437)
嶺上開花!

リプレイ

「誰が居るとも解らない場所に、丸腰の女の子1人で行く事を危険と呼ばずして何と呼ぶのかしら?」
 『月花銀閃』久住・舞花(p3p005056)はマリを引き止めようと、真摯な口調で言い聞かせる。
「……帰れと言うつもりはない。落ち着いて、私達の話を聞いてくれ」
 『死は等しく訪れる』ルブラット・メルクライン(p3p009557)も、少女1人だけで探すことは合理的ではないことを主張し、マリに付き添い協力することを提案した。
 マリを説き伏せようとするルブラットや舞花に同調して、「おねーさんたち、役に立つわよ!」と『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)はにこやかにアピールした。
 『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)もマリの説得に熱心に加わる。
「私たちもここに用があって来たの。決してあなたの邪魔はしないから、御一緒してもいいかしら?」
 練達の人間からしてみれば独特の妙な風体をしたイレギュラーズに対し、マリは渋い表情を向けていた。しかし、マリはイレギュラーズの言葉を受け入れたようで、同行することを承諾した。
 それぞれに説得されるマリの様子を眺めていた『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は、嘆息してつぶやいた。
「危険に対する感覚に目を背けているようでは、お父上が対面するのは御嬢さんの亡骸になってしまうでしょうに――」
 瑠璃の言葉を聞いていた『新たな可能性』ヴュルガー(p3p010434)は、マリの気持ちを代弁するように言った。
「どうせ、ダメだと言っても聞くはずはない。私も同じ立場なら、まったく聞く耳を持たないだろう」
 ヴュルガーはマリに同情する素振りを見せて続けた。
「年端もいかぬ子供だ。親という軒の下から離れ、不安で仕方ないからこそだろう」
 ヴュルガーはマリのそばへ歩み寄ると、「会う前に傷ついてはお父さんも悲しむだろう。ガイアドニスのおねえさんの言う事をよく聞いておくんだ」と言い聞かせ、マリのそばにつくガイアドニスに護衛を託した。
 『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)はマリの対応を他の者に任せ、周囲の様子に注意を向けていた。
 ――納得ってのは重要だろ。どうしようもねえクソみてえな現実と折り合いをつける為にはな。
 マリを一瞥するブライアンは、マリの事情をどことなく察していた。表には出さないものの、マリの護衛に対しては積極的な構えだった。
 ――生者と死者を曖昧にしてちゃいけねえよ。せめて供養してやらなきゃ、誰も納得できねえよなァ。
 マリは、父親が生きているかも知れないという哀しい未練に縋りついている――というのがブライアンの見解であった。
「私たちも手伝うからね! お父さんを見つけて帰ろう――」
 そう言って快活に声をかける『嶺上開花!』嶺 繧花(p3p010437)だったが、マリは一瞬険しい表情を強めた。
 マリの反応に気を配りつつも、繧花はしばらく行動を共にしたところで、父親のことをマリに尋ねた。
「あの、マリちゃん……お父さんは、どれくらいの間行方不明になってるの?」
 マリは繧花に背を向けたまま、何やら口ごもる様子を見せた。
「……お父さんは――」
 繧花の問いかけに答えようとしたマリだったが、あることに気づき、顔色を変える。
「助けて……助けて……」
 イレギュラーズ一同にも確かにその声は聞こえ、マリは確信を覚えて必死に呼びかけた。
「お父さん! お父さん、どこなの?!」
 かすかに聞こえる助けを求める声は、成人男性のもので間違いなかった。しかし、マリが父親と夜妖の声を聞き分けているかどうかは不明確である。
「マリちゃん! 落ち着いてね!」
 ガイアドニスはマリのことをなだめながら引き止める。
「おねーさんたちが、危険がないかどうかちゃんと確かめるわ!」
 声の存在を認めた瞬間から、イレギュラーズは一斉に周囲の様子を隈なく探っていた。
 特に鋭敏な聴覚を働かせる瑠璃や繧花、ルブラットは、いつでも夜妖からマリを引き剥がせるように感覚を研ぎ澄ます。
 やがて1人の声は複数のものへと変化し、明らかに姿の見えない存在が一同を囲んでいる状況が窺えた。瑠璃はその中でも声の位置を正確に把握し、マリの手を握るガイアドニスに注意を促す。
 ガイアドニスはマリに迫る危険に対し、適切に対処した。290センチの身の丈を誇るガイアドニスは、即座にマリを抱え上げ、マリの足首をつかもうとしていた者を踏みつける。
「そうはさせないのです!」
 マリは何が起きたのかしばらく理解できず、ガイアドニスに抱えられて目を見張る。
 地面から突き出された手の甲を踏み潰す勢いを見せたガイアドニスは、マリを抱えたままその場から飛び退いた。
 明らかに死人の肌の色をした手は、更に地面の下の体を引き上げる。
「た、すうhぐjtひh、けぇて」
 報告の通り、無数のハエに覆われた顔――ゾンビのような姿の夜妖が現れる。1体目が地上に這い出たのをきっかけに、次々と地面や瓦礫の下から這い出て来る老若男女のゾンビの姿があった。
 イレギュラーズは、いつでも夜妖の対処に臨めるよう一斉に身構える。
 ヴィリスはネズミの使い魔――ファミリアーを駆使することで戦場全体の把握に努めていた。瓦礫の山によって死角になるような場所からも、夜妖が這い出し始めているのが認められる。使い魔と視界を共有するヴィリスは言った。
「気をつけて。このままだと囲まれそうよ」
 瓦礫の間を抜けていくヴィリスの使い魔は、周囲に現れた夜妖の群れの動きを把握するために奔走する。
 ガイアドニスはマリを抱き締めるようにその視界を覆い隠そうとした。だが、四方からふらふらと現れる夜妖の不気味な姿を、マリはわずかに垣間見る。
 イレギュラーズを囲むように現れた夜妖の陣形を崩そうと、ブライアンは迅速に攻撃を仕掛ける。
「ったくよォ! 気色悪い姿だぜ!」
 その刃に燃え上がる緑色の炎を宿し、ブライアンは大太刀を振り抜くことで炎を走らせる。まるで導火線をたどるように、激しく燃え上がる炎は、1体の夜妖――夜妖Aの下にまっすぐに到達した。
 炎に責め苛まれる夜妖Aがもがき苦しむ中、ヴィリスやルブラットも即座にブライアンに続く。
 ヴィリスは両足の義足――剣と一体化した特殊な義足を武器に、軽快なステップを踏む。踊るように繰り出されるヴィリスの蹴撃は、瞬く間に夜妖Aの一部を切り落とす。
 魔力を結晶化させ、魔石を瞬時に生成したルブラットは、夜妖A目がけて弾丸のように魔石を放った。夜妖Aは大きく体を仰け反らせ、そのまま地面に倒れ込んだ。
「貴方達を救いにきました。――さあ、来なさい」
 舞花は夜妖を自らの間合いに引き込むように行動する。
 マリに最も接近している夜妖を一掃しようとするヴュルガーや繧花の援護を受けながら、舞花は目の前に捉えた夜妖3体に向けて剣技を繰り出す。
 舞うように身を翻し、次々と裂傷を刻む舞花に夜妖たちは圧倒され、成す術なく後ずさる。
 接近戦を仕掛ける者らの背後を取ろうとする夜妖に対し、繧花は自らの周囲に発現するオーラを集束させる。その力は光の波動となって放たれ、容赦なく夜妖を吹き飛ばす。大口径の砲身を構えたヴュルガーも夜妖を撃ち抜き、夜妖を駆逐する役目を大いに果たす。戦車砲並みの一撃は、その原型をとどめないほどの威力を見せた。
 ゾンビのごとくふらついた足取りでイレギュラーズへと迫る夜妖の周囲には、常に複数のハエがブンブンと飛び回っていた。遠目から見ると、顔を覆う無数のハエは、黒い塊が絶えずうごめいているように見えた。そのハエの動きに変化が現れ、夜妖の下から飛び立つハエの群れは、一斉にイレギュラーズを狙って攻めかかる。
 どれだけ払い除けても、視界にまとわりつく黒い姿、耳に張りつくいくつもの不快な羽音は消え失せない。それだけ多くの群れを飛ばしているはずだが、不思議と夜妖の顔を覆う黒山は変わらないように見えた。
 主に前線で攻撃を引きつける舞花とブライアンは、夜妖のハエの群れに襲われる。肌の上を這うハエは、刺すような痛みを加えることで2人の戦意を削りにかかる。それを阻もうとする瑠璃は、自身の能力を発揮する。瑠璃の周囲には、虹色に輝く雲がもくもくとあふれ出した。
 瑠璃が操る雲はハエを覆うように周囲を漂う。雲によって力を奪われたハエは、次々と地面に落下していく。同時に雲に覆われる夜妖Bも、戦う気力を失くしたように膝をついた。
 広範囲に広がって現れた夜妖たちは、イレギュラーズを取り囲もうとじりじりと接近していた。
 異様な数のハエの羽音はマリの耳にも届き、「助けて」という複数の不気味な声もマリの不安や恐怖を煽った。
 腕の中ので震えているマリの様子を感じ取ったガイアドニスは、マリの顔を覗き込む。不意に「違う」とつぶやいたマリは、パニックを起こしたように金切り声をあげた。
「違う……お父さんじゃない! お父さんじゃない!!」
 屈んだ状態のガイアドニスは、マリの背中をさすりながら言い聞かせる。
「大丈夫よ、マリちゃん! おねーさんたちが、怖いものには一切触れさせないから!」
 ガイアドニスが言うように、イレギュラーズの各々はマリを脅かす恐れがある夜妖の存在に注意を払っていた。
 攻撃の範囲外からものろのろと姿を見せ、徐々に接近を開始する夜妖だったが、その数に限りがあることはすぐに把握できた。
 鈍い動きで隙をさらけ出し、半数の夜妖がイレギュラーズの攻撃をまともに喰らう。しかし、夜妖の動きは時間と共に俊敏さに磨きがかかっていく。時にはフェイントを混じえてイレギュラーズを翻弄するほどに、夜妖の動きは様変わりしていく。
 凶暴性を増し、対処するイレギュラーズに食い下がる夜妖だったが、ブライアンは夜妖を上回る速さで斬りかかる。舞花も確実に夜妖の動きを捉え、より強力な一撃で対象を仕留めていく。
 ルブラットは舞花たちの背後に回り込もうとする別の夜妖に対し、砂嵐を巻き起こして妨害する。熱砂の精霊を操るルブラットは砂嵐を自在に引き起こし、立ち続けることが困難になるほどの風圧で夜妖の動きを抑え込んだ。
 次第に弱まる嵐のタイミングを見計らったヴィリスは、砂塵を切り裂く剣靴で夜妖を斬り伏せる。俊敏な動きで連続で回し蹴りを放つヴィリスは夜妖を寄せ付けず、頭を切り離すほどの鋭い切れ味を見せた。
 3分の1まで数を減らされながらも、その俊敏さや凶暴性を増す夜妖はしぶとくイレギュラーズを狙う。
 援護に回るヴュルガーと繧花は、夜妖を撃ち漏らさないようその動きを見極める。
 不可思議な雲の力を操る瑠璃に攻撃を集中させる夜妖2体だったが、1体の頭はヴュルガーからの一撃を浴びた瞬間に吹き飛ばされた。更にもう1体の夜妖に対処しようと、繧花は自らの魔力を練り上げるように構えた。
 夜妖は繧花から放たれた光の波動をまともに食らい、衝撃と共に巻き起こる白煙に包まれた。夜妖の姿は濃い白煙の向こうに霞むほどだったが、繧花は手応えを感じていた。ヴュルガーは敵の動きを察知する鋭敏な感覚を働かせることで、繧花に即座に警戒を促した。
「いや……まだだ!!」
 ヴュルガーの一言で緊張が走った瞬間、白煙を抜けた夜妖は繧花の目の前に踏み込んできた。
 繧花は防御態勢を取りながら覚悟を決めたが、繧花に組み付こうとした夜妖との間に、その長い腕を割り入れる者がいた。
 ガイアドニスは片方の腕で繧花を抱き寄せるようにしてかばい、夜妖の注意を自身に向けさせた。
 ガイアドニスの腕の中で繧花がマリと顔を見合わせる間にも、ガイアドニスの背中に縋りついた夜妖は、めちゃくちゃに相手を掻きむしる。
 端から見れば不気味な光景なのだが、「か弱いわ!」の一言で片付けるガイアドニスは動じない。そして、振り返ることなくガイアドニスに蹴り上げられた夜妖は、激しく突き飛ばされた。
 地面に背中を強打した直後にも夜妖は起き上がろうとしたが、すでに短刀を構えていたルブラットによってとどめを刺された。
「ありがとうございます……! この御恩は、いつか必ずお返ししますから!」
 そう言って感謝を示す繧花に対し、「まあ、健気だわ!」とガイアドニスは感激したような反応を返す。
「おねーさんのことは気にしないで! つい、守ってあげたくなっちゃうの」
 引き続き、ガイアドニスはマリを夜妖から守り抜くつもりでいた。
「さっさと楽になっちまえよ! 成仏しな!」
 声をあげるブライアンは威勢よく大太刀を振り回し、連続で夜妖へと斬りかかる。同様に対象を斬り伏せる舞花やヴィリス、相手の力を奪うように作用する雲――瑠璃の能力もも手伝い、残る夜妖の数は4体のみとなった。
 夜妖の中でも最後に残された4体は、出現後の経過と共に凶暴性と俊敏さを飛躍させていた。獣のようにうなり声発し、周囲を鬱陶しく飛び回るハエと共に、夜妖はイレギュラーズを組み敷こうとがむしゃらに攻めかかる。
 統率も何もない荒々しい攻勢ながら、夜妖は鬼気迫る抗戦を展開し、徹底的にイレギュラーズを攻め抜こうと動く。
 後衛を担う者の援護射撃を切り抜けた1体の夜妖は、舞花に向かって突っ込み、泥にまみれた腕を突き出してきた。剣を突き放つ構えを見せた舞花に対し、夜妖はその刃を両手で躊躇なくつかんで押さえつける。
 夜妖はまるで舞花を威嚇するようにうなり続け、周囲を飛ぶハエの動きも活発になる。目の前の夜妖の不気味さに、舞花は目を細めたように見えたが――。
「全て解き放って差し上げます」
 舞花はこん身の力を込めて夜妖の手の中の刃を捻り、その直後に夜妖の指は斬り落とされる。舞花は流れるような太刀筋で夜妖を捉え、その体を瞬く間に両断してみせた。
「ハッハー! こいつで最後か?」
 ブライアンは刺し貫いた夜妖を荒々しく突き飛ばし、最後の1体に激突させた。その弾みで態勢を崩す夜妖の隙を狙い、ヴィリスは真っ先に飛びかかった。刃そのもの鋭いヒールが夜妖の喉元を貫通し、ヴィリスは一気に夜妖の体を地面に突き倒す。ヴィリスが蹴り上げた夜妖の頭部は瓦礫の上を弾み、夜妖の胴体だけが残された。
 死を恐れる人々の思念が生み出した夜妖は終わりを迎え、イレギュラーズは地面にしみ出すように崩壊する体を目の当たりにした。

 夜妖は一掃されたが、腰が抜けたようにその場にへたり込み、呆然としているマリをイレギュラーズは見守っていた。
 しばらくして、ルブラットはマリに声をかける。
「マリ君、どうする? ……捜索を続けるならば付き合おう」
「本当は――」
 マリは虚ろな眼差しで、本心を吐露し始める。
「本当は、そう思いたくなかっただけなの……もう助からないだろうって、諦めるしかないって言われても――」
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、マリは必死に自身を納得させようと、言葉を絞り出しているようだった。
「納得できなくて……生きてるかもしれないって……っ、お父さんは……っ!」
 受け入れるしかない父親の死に向き合ったマリは、感情を抑え切れずに号泣していた。
 優しく背中をさするガイアドニスに励まされながら、マリはイレギュラーズに詫びる。
「ごめんなさい……心配してくれたのに。私のせいで危ない目に合わせて……」
 そう言ってうなだれるマリの様子を見つめるヴィリスは、「大切な人とお別れするのって、どういう気持ちなのかしらね」と1人思いふける。
 ――マリの後悔がない終わり方にするには、どうしたらいいかしら……?
 ヴィリスが考えを巡らせる一方で、繧花はマリの気持ちを汲み取りたい一心で言った。
「捜そう、マリちゃん!」
 マリの気が済むまで捜索を続けたいと望む繧花は、顔を上げたマリの目をまっすぐに見つめると、
「お父さんを見つけて帰ろう、皆で一緒に――!」
 そして、繧花は同意を求めるように他のイレギュラーズひとりひとりに視線を送る。
 瑠璃はそばにいた舞花と顔を見合わせたが、
「日が暮れるまでには帰りましょう、いいですね?」
安全を最優先させるという条件をマリに示した。
 マリがこれ以上何かに巻き込まれることを防ごうとする舞花も、それとなく警告した。
「誰かを何かを探しに来る人は、あなただけとは限りませんからね……」
 ――或いは物を盗みに来る人、がいてもおかしくはありませんし。
「ありがとうございます!」
 わずかに険しい表情を見せていた繧花だったが、感謝を示すその表情は和らいでいた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。

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