PandoraPartyProject

シナリオ詳細

inseguitore

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「やあ、特異運命座標(アリス)。私のお茶会よりも更に賑やかな来客ばかりだったが、疲れては居ないだろうか?
 申し訳ないが私からは『お願い事』なのだ。それが終わった後に良ければ茶会でもどうだろうか。今日は君の誕生日だろう?
 ……違う? 其れは失礼。だが、毎日がお誕生日会であろうし、毎日がパーティーなのさ。場を華やがせる主役は君なのだから!
 私の特異運命座標(アリス)、願い出たいのは簡単な言葉さ。『復興』――そう、この国を導いて欲しいと言うだけ。単純で、分かり易く、何よりも君たちにとってぴったりな平和の象徴をこの国にも齎して欲しいのさ!」
 何時も通りの饒舌さに輪を掛けて、ご機嫌そのもので言葉を重ねたのはDr.マッドハッター (p3n000088)であった。
 彼のサロンに準備されたティーセットは何時も通り。漂う紅茶の香りはストロベリーであろうか。
 優雅な茶会に招かれたかと思えば、その前に一仕事して欲しいという。

 彼の言葉を要約しよう。
 練達はR.O.Oでの騒動から始まり『怪竜』まで大賑わいであった。
 現実にまでも騒動が広がり、マザーの損傷もある中で突如として襲い来た竜種。
 命辛々撃退には至ったが、イレギュラーズの負傷、そして練達そのものの損耗も大きかった。
 此度の竜種による襲撃が『疲弊した国を狙った』とするならば、早期に望まれるのは国家の復興である。
 練達は高度な科学発展を経ているが、それ故にシステムの暴走には弱い側面もあった。
 今も、システムエラーにより暴走するロボットや特異的な地点である再現性東京での夜妖騒ぎが頻発している。
 ――竜による傷跡が深々と刻まれたこの国を、正しき姿に戻すために手を貸して欲しい。

「……と言うわけなのだよ」
 マッドハッターは要約した言葉をそれ以上の長尺で意味も分からぬ言葉を交えながら話し続けていた。
 彼らしいと言えば彼らしいが、それでも出来る限り情報を伝えようとしてくれたのはこの国を思ってのことだろう。
「実は『想像の塔』の管轄する研究室で、竜種の動向を追っていたシステムがあったのだけれどね、
 見事に先の戦いで損傷し暴走を繰り返しているのさ! 此の儘では――おっと、失礼」
 爆発音が響いた気がするが、気のせいだろうか。
「……ああ、此の儘では、私も優雅な茶会を君たちと楽しめない! そもそも、だ。解決するまではティーパーティーを開いてはいけないと口を酸っぱくして言われてしまったのさ。まるでレモンでも囓ったような顔をした操はそれはそれは愉快そのものでね。その顔を笑ったら叱られてしまったというわけさ」
 当たり前ではあるが、マイペースな男は早速サロンに程近い場所にある研究所へとイレギュラーズに向かって欲しいと告げたのであった。


「あ、ああ~~~来て頂けて……」
 マッドハッターの使いっ走り状態の黒焦げガール『ゲーム研究室主任』陽田 遥 (p3n000155)はイレギュラーズの姿を確認してから縋り付いた。
 彼女はR.O.Oを経てから確認されていたジャバーウォックを追うためのシステムを管理していたようだが、ジャバーウォックが襲来した結果、見事に計算システムが『バグ』ったそうだ。
 その結果、その動向を追うための『眼』であった各種ドローンが暴走し、生物と見るや全てをジャバーウォックと認識して襲ってくる始末なのだそうだ。
「此の儘だと、色々被害が広がりそうで。ひい……。
 他にも警備システムでバグが生じて暴れてるとか、マザーに被害が及んだときと同じような状態ですよ!
 もうね、これは後遺症みたいなものですよね。練達って、本当にマザーに頼りきりだったので、って、あ、喋ってる暇はな――」
 爆発音が聞こえる……。どうやら、研究者の誰かがドローンに見つかったのだろう。
 狙撃された際に、何らかの機械の裏に隠れて見事に爆発したと言ったところか。
「再現性東京でも、夜妖が暴れてるとか色々聞きました。もう、こういうのを虱潰しに処理してマザーの負担を下げるのが練達復興の近道ですよ、ホント……!
 統括システムにまで被害が及ばぬように暴走してるロボットを撃破しましょう!」
 えいえいおーと拳を突き上げた遥は「その後はマッドハッターさんがお茶会しようって行ってました」と呟いたのだった。
 彼女の言うとおり、練達ではそうしたロボットの暴走が多く見られる。再現性東京では民の不安も大きく、其れを拭い去らねばならぬ状態が続いているのだろう。
 先ずは目先のことから一つずつ――復興は一日では為せない。のんびりと積み重ねていかねばならないのだ。

GMコメント

 夏あかねです。R.O.Oからジャバーウォックまでお疲れ様でした。
 練達を復興させるお手伝いをしましょう! その後お茶会もよければどうぞ。

●成功条件
 暴走ドローン10機の破壊

●想像の塔に存在する研究室
 マッドハッターがジャバーウォックの動向を追うために作成していた演算システムと各種偵察ドローンが存在する研究室です。
 フロアは2つ。それぞれが広く。ドローンが保管されている1室では今も室内から出ようとドローンが暴れ回っています。
 現在は何とか抑えていますが、時間経過でドアが破られるためイレギュラーズにヘルプの声が掛かりました。
 遥を始めとした研究者はもう片方の部屋に隠れます。皆さんが突入可能状態になればドアを開きますので、一気に10機を撃破して下さい。

●偵察用ドローン(暴走中) 10機
 小型の偵察用ドローンです。非常にすばしっこく、生物の反応を逃しません。
 また小さいため、攻撃も当たりづらいです。詰まり回避が結構高いです。
 高出力のビームを発射する他、バリアを展開することもあります。バリアは攻撃を二度叩き込むことで破壊可能です。
「ガガガ……」などと声のようなものを発していますが人語でのやりとりは出来なさそうです。暴走中です。

●終了後のお茶会
 マッドハッターが皆さんと茶会をしたいそうです。ケーキやお茶、軽食はお好きなだけどうぞ。
 彼と交流して頂くも良いですし、彼に何かお願い事をしてみても良いでしょう。
 とっても『マイペース』な人間なので、何処まで話が通じるかは不明です……。

●NPC『陽田・遥』
 想像の塔の研究員。黒歴史を胸いっぱいに抱えているガール。
 皆さんのサポートを行います。ちょっとした回復などの行えるポーションを作成して投げ入れてくれます。

●NPC『Dr.マッドハッター』
 今回の依頼主。終わった後にお茶会に誘ってくれています。練達では一応偉い人。
 ジャバーウォックに心を惹かれて彼を追っていました。現在もその動向を探っているようですが……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • inseguitore完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月23日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カナメ(p3p007960)
毒亜竜脅し
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
有栖川 卯月(p3p008551)
お茶会は毎日終わらない!
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
煌・彩嘉(p3p010396)
Neugier

リプレイ


 エラーメッセージが表示されたモニターを一瞥し、『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は肩を竦める。
「ジャバーウォックの襲撃で練達が大変なことになったのは分かっていたけれど、まさかこんな所にまで影響が出ているとは思わなかったわ。
 これ以上被害が出るのも悪循環になるし、一つ一つ問題は解決していかなきゃよね」
 R.O.Oでの全てを侵略と例えたならば、その侵略を受けて深手を負った国に竜種が襲来したのは傷口を広げたと言う他にない。
「練達も大変ですよ。ROOが終わったと思ったらジャバウォックの襲来とか、それに連なって復興しようとしてるのにロボット暴走とか……。
 此処に関しては任せて欲しいですよ! 暴走したロボットとか止めるのはよくやる事ですよ」
 胸を張った『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)にとって、この国を窮地から救うために手を差し伸べた数々はまだ記憶に新しい。練達三塔と呼ばれた国家を構成する要の一つ、その主からの直接の『おねがい』だ。その後に待ち受ける茶会まで此処は確りと引き受けておきたい。
「……このドローン……ジャバーウォックを追うために作られたのに……襲来してバグるって……
 ……機械にバグは付き物だけど……流石にこのバグはちょっと……動作テストってちゃんとやってたのかな……? ……この機械が襲来時にバグってたら大変なことになってたよ……?」
 そう嘆息したのは『青混じる氷狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)。彼の言葉に「してたんですよぉ」と涙ながらに語った『ゲーム研究室主任』陽田 遥 (p3n000155)曰く――マザーの暴走とR.O.Oでの一件を経て、信号がロストしていた竜の襲来で『暴走していたドローン』の歯止めがきかなくなったと言う。
「……このままだと危険だし……早めに壊した方がいいだろうけど……。
 一応壊した後の部品は……後で何かに役立つかもしれないし……拾って研究者に渡しておいた方が良さそうかな……」
「そうだね。何かに役立つかも知れない。それに……まあ、竜種の監視を行うシステム……というのも個人的には詳しく聞きたいところではあるけどね。
 少々傲慢な考えかもしれないが、ジャバーウォックが現れた時、私がもう少し巧く戦えていたら被害も少なくなったんじゃないかと考えてもいるし、今回の仕事はその代償行為かも知れないね」
 イレギュラーズという立場を越えて、更に国家のために何か手を尽せるのではないかと考えた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)に遥は「喜ばしいお言葉」と丸い眼鏡の奥で涙を流し続けている。
「……いや、身内がこの街で暮らしているからと言って、少々気負いすぎか。ともあれ、仕事はしっかりこなしてみせるさ」
「身内……」
 それはグレイルとて同じだ。護りたい誰か。そうした存在が多く暮らしているこの国に手を差し伸べたいと考えることは屹度、悪いことでは無い。
「折角の機会を機械で不意にされてしまっては!」
 衝撃を受けたように叫んだのは『探求へ至る好奇』煌・彩嘉(p3p010396)。彼は現在時点で遥から説明を受けている室内に設置された各種システムを眺め見てはその人実を輝かせているのだ。
「……ああ、別にふざけちゃいないんです、本気なんですよアタシは。
 技術力の結晶練達、その偉い人であるDr.マッドハッターと話せる機会なんてそう無いでしょ?
 なァに、勿論仕事はしますとも。アタシはちゃーんとやることはやる竜ですから。どこぞのデカいのとは違ってねェ」
 ――そう、亜竜種と言えど、竜の因子をその身に持つのは確かだ。彩嘉が揶揄うように笑えば、マッドハッターの名前に瞳を輝かせた『お茶会は毎日終わらない!』有栖川 卯月(p3p008551)が綻ぶ笑みを見せた。彼女は彼――と、そして練達に協力すると声高に宣言した亜竜姫――の為ならば、例え火の中、水の中。何処へだって行ってみせるのだ。
「ホント、ゲームの中だったり竜が来たり色々大変だったよねー。2回もトラブルあったんだから、面倒事は当分来て欲しくないね!
 それに復興にも時間はかかるし、まだまだ落ち着けそうにないかも……よーし少しでも練達の力になれるようにがんばろー☆」
 えいえいおーと長い袖を振り上げた『二律背反』カナメ(p3p007960)にいつも以上に凜とした立ち姿を見せた『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は「頑張ります」と遥に宣言した。
 ――その内心はと言えば。
「ROOにドラゴンに散々だよほんと。羽衣教会も復興に大忙しだね。会長激務。
 これはもうさっさとドローン倒してお茶会と行きますか。依頼にかこつけて会長は休むぜ、へへ……!」――下心なのだった。


 ドローンと呼ばれた存在その者に興味があると好奇心に胸を揺らした彩嘉は『排除スル』となんとも単調な行動理由でイレギュラーズに狙い定めるドローンとの疎通は余りに役立たぬものかと首を捻った。
 もしもーし、と声を掛けてみて得られたのはその情報なのだ。ある意味機械の暴走というのが斯うした事を指すのだと身を以て実感できた気さえする。
「機械の暴走とは実に興味深いもんです、ええ!」
 展開されたドローンのバリアが剥がれるのを待ちながら集中力を高める彩嘉の傍らで、飛び出すように叩き込まれたのは出鱈目な軌道を描いた無数の弾丸。ブランシュと接続された滑腔砲。その華奢なボディの内側から唸りを上げた炉心は出力を上げ続ける。
「この弾丸の嵐、避けられるですか?」
 ブランシュの弾丸より機器回避的に逃れんとするドローンに気付いたグレイルは握るカンテラを揺らがせた。青白い炎が作り出したのは複数術式により作り出した神狼。
「『獣式アセナ』……」
 名を一度呼べば、それは牙をむき出すように飛び込んで行く。ばちん、と音を立てて剥がれたバリア。その隙を逃さぬ様にルチアの氷槍は横一線に前方を制圧する。
 激しく火花を上げる回路を物ともせずに反撃にでんと動いたドローンの前でにんまりと唇を吊り上げたカナメは赤黒い刀をするりと抜いた。一閃、続き引き抜くは真白。
「ほらほら、絶好の的になりにきたよ! いっぱい撃ち抜いて蜂の巣にして欲しいなぁ♪ ……あ、最近人を煽ってないなぁー」
 殴られれば殴られる程に心は躍る。うっとりと微笑んだカナメを狙うドローンの集中砲火は彼女の身を焼いた。
「うぇへへ……集中砲火受けて、ホントに蜂の巣なっちゃいそう♥ どうせならもっと、もっと火力強いのちょうだい♥」
 痛みに眉を顰める事も無く、寧ろ喜ばしいと言いたげに微笑む彼女を支えるのはゼフィラ。ゼフィロスフロースによる加速魔法がカナメを包む。
 ゼフィラが回復すればカナメは長く『痛みを楽しめる』。そんなwin-winの関係を披露する二人の前で手を振った茄子子はにまりと微笑んだ。
「はいはーい、ジャバーウォックですよーこっちおいでー」
 ジャバーウォックはどんな戦い方を見せただろうか。赦免の言霊で現実を改変し、空へと放つ茄子子は囁いた。
「――翼を与えるね。飛んでいっていいよ、下になら」
 捧げる翼はドローンを叩きつける。後方より戦場を眺めていた卯月は「茄子子さん、上です」と指さした。
「はいストップ。翼を持たないものは飛んではいけません」
 それも今の気分的な問題だ。茄子子が地へと叩きつけるドローン。続くように魔光を放ちながら卯月は一つも逃すまいと目を凝らす。
「逃がさないのですよ!」
 ブランシュは超速度で一撃を叩き込み、一度その身を捻る。飛び込んだのは黒き狼。グレイルの獣式の牙は鋭くも研ぎ澄まされる。
 バリアを展開したドローンが一瞬で失せたのは複数を狙うブランシュとルチアの攻撃の功績だ。そのバリアが剥がれ、暴走の儘にジャバーウォックだと認識した対象を狙うドローンを丁寧に叩き落とし続ける。
「うっへへ……あと幾つかな? ひとつ、ふたつ……」
 そろそろダメージ量も減ってきた。折角の至福の時間もそろそろ仕舞いだろうか。一つ足りないなんてことが無いようにと気を配るカナメに「結構痛くない?」と茄子子は揶揄うように笑った。
「会長、人違い……あ、『種族』違いで殴られるのは許せないな」
「本当ですよ。ジャバーウォックだなんて!」
 可愛いアイドルに言う言葉かと唇を尖らせる卯月に「あの竜は中々酷い顔をしてましたしねェ」と彩嘉は笑う。
「……けど、耐久性は合格だね……」
 ジャバーウォックを追尾するシステムさえなんとかなれば、実用に耐えられそうだと呟いたグレイル。ゼフィラは「練達の技術は流石だ」と小さく頷いたのだった。
 そうして会話を重ねながらも、残るドローンの数は少ない。前方を薙ぎ払ったルチアに続き、ブランシュは鋭く一撃を放つ。
「もう」と拗ねたように唇を尖らせる卯月は『彼』が待つ茶会に思いを馳せ――「さあ、そろそろ仕舞いにしようか」
 そう囁いたゼフィラの声を聞いていた。相手は機械だ。痛覚は存在せず、回路が破壊されるまで動き続ける。
 最早満身創痍とも取れる姿になりながら一機、飛び上がったそれを認識してカナメは「しつこいと嫌われるよ?」と笑みを零す。

 ――対象を認識しました。

「してないでしょうに」
 彩嘉はドローンへ向かって飛び付いた。ジャバーウォックと間違えている状況では『認識』とは言わないと、彩嘉はその拳に力を込めた。
「時間は有限だ、早め早めにね!」


「マッドハッター様、お久しぶりですね」
「やあ、特異運命座標(アリス)。疲れた顔をしているね」
 ひらひらと手を振ったマッドハッターに茄子子は愛想笑いを返す。普段と違う戦法であったことで彼女は僅かな疲弊を感じていたのだろう。
 席に着いた茄子子を見送ってから緊張したように背筋をぴんっと伸ばしたブランシュは彼が練達三塔の『塔主』の一人、マッドハッターなのだと息を呑んだ。
 遥に壊れたドローンの部品を手渡してからやってきたグレイルは「こんにちは」と席に着く。鼻先を擽った紅茶の香りは心地よい。
「やあ、マッドハッター」
「ご機嫌よう、特異運命座標(アリス)。君との茶会は二度目だったかい?」
 黄金色の昼下がりに、ゼフィラはのんびりと茶会を楽しんだことを思い出し頷いた。流石は彼のサロンで提供される紅茶や茶菓子だ。美味であることには変わりなく、席に着いた彼女に「自由に取ってくれ給え」と彼は微笑む。
「あら、こういう機会も久しぶりなの。有り難う。有り難くお誘いに乗らせて貰うわね」
 貴族の嗜みはテーブルマナーに不安はない。ルチアはマッドハッターの傍で給仕を行う研究者がケーキを提供してくれたことに気づき礼を言った。
 マッドハッター――『帽子屋』。それは物語に出てくる存在であっただろう。彼が興味を持っているというジャバーウォックもその一種。
 その因果関係をぼんやりと想像していたルチアの傍でカナメは「美味しそう!」と瞳を煌めかせた。
「まさか練達の偉い人と一緒にお茶できるなんて思ってもなかったよ。えへへ、貴重な体験できちゃった♪」
「おや、特異運命座標(アリス)が望むのであれば何時だってティーパーティーは開かれているさ」
 ヒッと息を呑んだのは卯月。彼の三月うさぎは『ファンサ』過多で息も止まってしまいそうなのだ。
「マッドハッターっち、とびきり痛い体験が出来る施設とか、何かないかな!」
「欲しいなら作らせると良いさ。そうだろう、遥」
 話題が飛んできた遥の苦しげな表情を眺めてから茄子子は背筋をぴんと伸ばした。
「想像の塔での研究、私にも手伝わせて頂けないでしょうか? イレギュラーズとしてではなく、一職員として貴方の塔で働いてみたいのです」
「――――!」
 まさかの抜け駆けに卯月が息を呑む。茄子子は三塔が何をしているところであるかは余り把握していない。練達の野望たる『元世界の回帰』に関してもそれ程詳しくはない。今後の役に立つのならば見ておきたいというのが本音だ。
 そしてゆくゆくは『三塔』ではなく――そう考えた茄子子にマッドハッターは「嬉しい言葉だが」と口を開く。
「私から直接研究員に、と誘えば特異運命座標(アリス)達全員を誘って終いかねないのだよ。だから、私は時折君たちに斯うして茶会と仕事の誘いを掛けるとしよう。君はその誘いに乗って私達と距離を縮めるのさ。其れが一番だとは思わな「思います!」
 卯月が手をびしりとあげた。彼女は先にマッドハッターに茶葉を差し入れておいた。グレイルが楽しむ茶葉の香りも、美味しいとゼフィラとルチアが褒めた茶葉も全ては卯月のプレゼントである。
「あっ、いえ……その。お茶は如何ですか?
 ここ最近の動乱でお気に入りのお茶屋さんとかも何件か被害を受けてしまってるんですが、先日伺ったら何とか営業できるようになったみたいですよ。
 ……出されたものが食べれず、紅茶しか飲めないというのは少し申し訳ないですね。ご無礼をお許しくださいませ」
「ああ、美味しいさ」
「……最近は……フレーバーティーがマイブームなんだよね……この紅茶って…どこで手に入れた物なんだろう……?」
 グレイルの問いかけにマッドハッターは「『三月うさぎてゃん』が教えてくれるさ」と彼女からの差し入れである事をアピールした。
「そ、それから! いつだって終わらないお茶会を始めましょう。
 貴方が開くなら死んでていても悪夢の中でもかけつけます! なんたって私は貴方の三月うさぎなんですから!」
 勿論、彼が誘うならば自身だって駆け付けると堂々と宣言する卯月にマッドハッターは満足そうに――いや、彼は何時だって笑っているのだけれど――笑ったのだった。
「その仮面、カッコイイですよ! ブランシュも同じ様なの付けたいですよ! どっかで売ってるですよ?」
「私の予備で良ければ君に渡そうか。遥、特異運命座標(アリス)が私からのプレゼントを求めているようさ!」
 微笑んだマッドハッターの使いっ走り遥は「はあい」とげんなり顔で頷いた。
「有り難うですよ! このお茶菓子、美味しいし持って帰るですよ。きっとギルドの皆が喜ぶですよ。いいですか? 遥さんも大変そうでしたですよ。今の練達はこんな感じばっかりですよ?」
「まあ、それでも、この国は強かなんで……あ、お菓子、気に入ったらいつでも声かけて下さい。お店紹介するんで」
 へらっと笑った遥にブランシュは「ありがとうですよ!」と微笑んだのだった。


「さて――今はシステムの暴走で監視が行えないにしても、これまでの情報からジャバーウォックの動向が予想できないものだろうか?」
 マッドハッターに向き直ったゼフィラはこれからのジャバーウォックについて知っておきたかった。
 ジャバーウォックに惹かれたというマッドハッター。グレイルとて、彼が何に惹かれたのはかは気になる。
「……ジャバーウォック。アナタからアレはどう見えるんです。ヒトの興味はアタシの興味、是非聞かせて頂きたい。
 お話次第では、今後そのテの話になった時に何時でも馳せ参じましょう! 探求者たるもの、足を止めるなど言語道断! 未知は誰をも虜に……っ熱。……すいませんね、アタシ猫舌なんです。亜竜ですけど」
「君は愉快な亜竜種(ドラゴニア)だね」
 マッドハッターは瞳を輝かせた彩嘉を一瞥してから、気になると言いたげなブランシュとルチアを一瞥してから「そうだね」と紡ぐ。
「まず、これまでの『彼』は只の一度、あの姿をこの上空に見せたのさ。
 彼の影を飛行機だと例えた者も居た。彼の姿を不幸の象徴だと恐れた者も居た。この世界への旅人という者は想像力が豊かだからだ。故に、私は酷く興味を持ったのさ! あの巨大で、強大な竜は我々がこの世界を解き明かす上で無視できない存在だった。理不尽で意味不明。そして物語に現れるかのような奇怪な姿! 私は彼の零したジャバーウォックの名を、言葉を、求め、恋い焦がれた。私はこの世界を愛しているとも。勿論、特異運命座標(アリス)の事も」
 饒舌なマッドハッターは、留まるところを知らぬ儘、重ね続ける。彼は、彩嘉を一瞥してからにこりと笑う。
「亜竜種とて『観測』されていようとも、其れが特異運命座標(せかいにえらばれる)とは誰も想像していなかった」
 ブランシュを見遣ってからマッドハッターは「それから」と口を開く。
「秘宝種もそうさ。精霊種だってそうだ。この世界は旅人と呼ばれた我らでは想像できないような未知に溢れている! そう、それは物語を読んでいるかのようだ。主人公(かのじょ)が迷い混んだ薔薇の園のような、癇癪を起こした女王の叱りつける声から逃れた先に何があるかを考える未知。私は其れに酷く焦がれたのさ」
 そうして言葉を朗々と紡いでから彼は言った。現時点でジャバーウォックはこれまでの観測された情報とは大きく違った行動を起こしている、と。だからこそ、その行動を推測することは難しい。
 だが、唯一分って居ることがある。それは――『竜が向かった先が深緑であろう』事だけ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。大きな被害を受けた練達ですが、これから復興し、皆さんの力になってくれるはずです。
 マッドハッターは相も変わらず飄々としてますが皆さんがお話しして下さってとても嬉しそうでした。

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