PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狂った旋律

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●某所
 息苦しさを感じて目が覚めた。
 深く、深く、潜って海底に手をついた後、急いで浮上し、波の上に顔を出したときみたいに大きく息を吸い込む。
 頭がぼんやりしている。意識がはっきりしない。
 ここはどこ?
 身体を起こそうとして眩暈がした。
 あきらめる。なんだか身体がすごく重い。全身に濡れた砂を被せられているみたいだ。
 何も聞こえない。
 ううん、波の音が聞こえる。水の中みたいにくぐもって聞こえるけど。
 気持ちが悪い。吐きそう。
 そうだ、リーファの弟は?
「リッ……ク、ど、こ……」
 いない。さっきまで一緒に調べていたのに。
 え、調べていた?
 何を?
 考えようとすると、目の奥が小さな銛で突かれたように痛んだ。
「い……」
 一瞬、目が破裂したかと思って怖くなったけど、大丈夫。だって、ぼんやりしているけど、誰かが上から覗きこんでいるのが分かるから。
「誰?」
 王冠のような飾り羽、大きな身体。そのうしろに大きなガラス瓶が3つ?
 どの瓶の中にも、細い尻尾をつけたピンク色の、丸いシワシワしたものが浮かんでいる。
 次第に目がはっきりしてきた。
 そうだ、この人は――。
 悲鳴を上げようとして、大きな手で口を塞がれた。
「しー。静かに。娘を怖がらせないでくれ。娘の耳はとても繊細なんだ。死んでからはとくに敏感になってね。調子の狂った音を聞くと気に障るのか、私の前から姿を消してしまう。……見えなくなるんだ」
 腕がちくりと傷んだ。何かが血管の中に流し込まれるような感覚。
 また目が霞みだした。
「でも、それも今日で終わる。……へスター、いい子だから今度は最後まで消えずにそこで待っていておくれ。いま脳みそを掻きだして、入れるようにしてあげるからね」
 耳の横に冷たいものが当たって、ジョキ、ジョキ、と髪が切られる音がした。

●海洋、リッツバーグより数十キロ。とある漁師街。とある網元の屋敷。
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)の呼び出しを受けたイレギュラーズたちは、リビングで網元の老夫妻と一緒に大きなテーブルを囲んでいた。
「まずはコレを見てくれ」
 クルールはテーブルの上に、一枚一枚を叩きつけるようにして、目をそむけたくなるような惨殺死体の詳細スケッチを3枚並べた。
 ペン画はご丁寧に水彩絵の具で着色されおり、遺体が身に着けている愛らしいドレスの花の柄まで生き生きと紙に写しとっている。
 赤や青、黄色の花柄が鮮やかであればあるほど、髪を剃られて青白くむくんだ顔に、額から上を割られて中身を失った頭がグロテスクだ。
 網元の妻は赤い目の端をハンカチで押さえて嗚咽を漏らすと、網本の肩に顔をうずめた。
 すすり泣きを無視して、クルールは淡々と説明を続ける。
「この地方一帯で、昨年の暮れごろから12歳~15歳ぐらいの少女が次々と何者かに攫われ、殺されて海に投げ捨てられるという事件が多発している。この絵の少女たちは、いずれも連続殺人鬼の犠牲者だ。
 お前たちの仕事はこのクソ野郎を見つけ出し、ぶちのめすこと。手加減は一切いらん」
 内心の情はどうであれ、イレギュラーズたちはクルールと、その背後の夫婦に目を向けて重々しく頷いた。
「では、これまでに俺が調べて解っていることを報告しよう。犯行はすべて満月の夜、干潮の時刻に行われていると思われる」
 犯行時刻はどうやって特定されたのか、という問いかけに、クルールは人差し指で丸眼鏡を押し上げてから答えた。
「この街の港に遺体が流れついてきたからさ。この辺りは満潮と干潮で潮の流れが変わる。引き潮で沖へ流された遺体が、満潮になって港へ押し戻されて来たんだ。海岸から流さないと、こういうことは起こらないらしい。ついでにいっておくと、潮の流れから計算して、大まかではあるが犯行場所は絞り込めている」
 殺された少女たちの絵を覆い隠すように、漁師街附近の地図がひろげられた。
「この辺りだ」
 クルールは海に突き出た岬を中心にペンを丸く走らせて、大きな円を書いた。
「岬の先端の灯台、いまは使われていない廃造船所、数十年前に座礁したまま放置されているフェリーがある。他には赤丸にかろうじてかかる場所に、寄宿制の音楽学校が立っている。が、いまは長期休校中だ。ここは海から少し離れている。調査から外していいだろう。
 丁度今夜は満月だ。新しい行方不明者が出たという情報はないが、犠牲者が出ないとも限らない――」
 それまで一言も発していなかった網元が、急に声を発した。
 怒りか、それとも悲しみか。
 潮焼け声が震えている。
「む、娘の、リーファたちの仇を討ってくれ。頼む! 歳を取ってからやっと、やっと授かった子だったんだ。できれば……こ、この手で殺してやりたい……ううっ」
「……というわけだ。あとは頼んだぜ、イレギュラーズ」

●某所
(「どうしよう……どうしよう……」)
 ピアがあいつらにつかまった。
 それに、学園長も。
 どうしてあそこにいたのかわからないけど。
 ふたりが死んじゃったらどうしよう……逃げたボクのせいになるのかな?
 こわいよう。
 パパ、ママ、助けて。
 早くここから逃げないと、ドアが沈んで開かなくなくなっちゃう。

 ガツンガツンと固い足音が近づいてきた。
 物陰で身を縮こまらせていると、戸口に影がひとつ現れた。
「小鳥ちゃ~ん、何処にいるのかな? もう逃げられないよ」

GMコメント

漁師街を震撼させている少女誘拐および連続殺人事件の犯人に、正義の鉄追を食らわせてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●依頼達成条件
・連続殺人鬼を見つけ出し、倒す。
※少女および少年、その他の者の生存は問いません。
※犯行を阻止しても、連続殺人鬼に逃げられてしまうと失敗です。

●時刻
夜。月は出ていません。
干潮です。
イレギュラーズたちが捜査地域に到着して30分後に潮が満ち始めます。

●捜査場所
連続殺人鬼は以下の場所で凶行に及んでいると推測されます。
【岬の灯台】
 いまも現役の灯台です。灯台守はいません。
 最近、中で勝手に寝泊まりしているよそ者たちがいて困っているそうです。
 ・チャーチグリムらしきクロヒョウ獣主剣士が2人。ロングソード装備。
  うち1人が操船技術を持っているようです。
 ・スペキュレイターらしき鉄騎種が2人。バトルハンマー装備。
【廃造船所】
 夏になると、肝試しに訪れる若者がいるようです。
 誰が入れたのか、真新しいクルーザーが海水ドッグに浮かんでいます。
【座礁したフェリー】
 斜めに傾いて半分海に沈んでいます。
 海岸から50メートルほど離れています。
 時々、浸かっていない船室の窓に明かりがついて見えるという噂があります。
【寄宿制の音楽学校】
 最初の少女誘拐殺人事件が起こる少し前から休校になっています。
 休校の本当の原因は、学園長の娘が海でおぼれ死んだからではないか、という噂あり。

※灯台と造船所とフェリーは、それぞれが正三角形の頂点に位置しています。三角形の一辺の距離は100メートルです。
※音楽学校は灯台から300メートル離れています。

●敵NPC
・連続殺人鬼??
 単独犯なのか、それとも複数犯なのか分かっていません。
 満月の夜、干潮になるとさらった少女を惨たらしく殺して、海に捨てているようです。
 少女たちはいずれも脳みそを抜きとられて、頭が開いたままの状態で捨てられています。
 皮膚に縫い合わされた形跡があります。
 なにか実験をしているのかも、とはクルールの弁です。
・連続殺人鬼の仲間??
 そもそもいるかどうかもわかっていません。
 いたとしても、主犯が倒されれば勝手に逃げて行くでしょう。

●NPC
・ピア(飛行種/14歳の少女)
 最初に殺された少女、リーファの親友。
 ※イレギュラーズは網元の屋敷を出る時に、娘がいないと相談に来た親と会っています。
・リック(飛行種/13歳の少年)
 最初に殺された少女、リーファの双子の弟。
 ※イレギュラーズが屋敷を出る時に姿が見えないということで、騒ぎになっています。
・学園長(飛行種/52歳の男性)
 音楽学校の学園長。10年前に妻を、半年前に娘を海難事故で失っている。
 音楽学校を開く前は、冒険者をやっていた。引退前のクラスは芸術家。

●GMコメント
どこに連続殺人鬼がいるにせよ、狭い場所での戦いになります。
罠が張られているかもしれませんので、ご注意ください。
【捜索】などのスキルがあれば、犯人を見つけやすくなります。
早めに見つけられれば、NPCの少女たちを助けることもできるでしょう。
別れて複数の場所を同時に調べる場合は【共鳴】のスキルがあると便利です。

よろしければご参加ください。お待ちしております。

  • 狂った旋律完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月20日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
若木
スノウ・ドロップ(p3p006277)
嗤うしかばね
ルチア・アフラニア(p3p006865)
決死行の立役者
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
リュビア・イネスペラ(p3p010143)
malstrøm

リプレイ


 『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)の心を、圧縮され、凝結しきったリーファの両親の重い沈黙がひしひしと打つ。
(「どっちも慣れねぇなぁ……水死体を目にすることにも、愛する人を失った者の悲しみに触れることにも。胸にずしんと重たい石を投げ込まれちまったみてぇだ」)
 縁の前ではピアの母親が床にうずくまり、岩を砕く荒波のような慟哭をあげている。
 『嗤うしかばね』スノウ・ドロップ(p3p006277)が、己の名を刻んだ墓石を振りおろして、暗く重い嘆き声を止めた。
「殺人鬼とかマジ許せねぇですよね。でも、泣くのはまだ早いですよ」
 ピアの母親がはっと顔をあげる。
 『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は、泣き崩れている母親の前にしゃがみ込んだ。
「ピアさんの姿を最後に確認したのは本日の夕方、間違いない? では、まだ殺されたと決まったわけではないでありますよ。リック少年も」
 親たちの顔にたちまち希望の色が浮かぶ。
 ぎりぎりの緊張が破れて、親たちの口から言葉がほとばしり出る。
「お願いします、お願いします! 子供たちを助けてください、お願いします!」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は同じ言葉を繰り返しはじめたピアの母親に近づくと、片膝をついて、そっと肩を抱いた。
「落ち着いて。さあ、こちらへ」
 顔に浮かべた優しい笑みで有無を封じ、ソファへ連れて行く。
「深呼吸をして。網元さんたちも、座ってください。特別にブレンドされたハーブティーを入れてきます」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)はうなだれる親たちからそっと目を外すと、心に芽生えた懸念をグレーの霧で包み隠した。
 ――助けられないかも知れない。
(「でもできることは全部やりたい。未来ある命を踏みにじるなんて許されないよ」)
 拳を握る史之の隣で、『malstrøm』リュビア・イネスペラ(p3p010143)は慎重に言葉を紡ぐ。
 必ず連れて帰るとは口が裂けてもいえない。
「殺人鬼はボクたちが必ず倒す。子供しか狙わない連続殺人鬼とか、存在が最悪に近いし……。それに、なんだか他人事のように思えないし」
 連続殺人鬼の手にかかっているのは、いずれも同年代の少女だ。自分が狙われてもおかしくない。
 リュビアの怖気が伝播でもしたか。『闇に融ける』チェレンチィ(p3p008318)がカワセミの美しい青翼をぷるりと震わせる。
 男装の麗人――いつも少年に間違えられているが、今回、リックまで殺人鬼の毒牙にかかるのであれば、ターゲットになるだろう。
(「ま、そうなったら返り討ちにしてあげますが」)
 『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が、自らを鼓舞するように気合いの入った声を発する。
「時間がない、出発するわよ!」
 期待という美しい包装紙につつんだ鉛のように重い願いを背負い、イレギュラーズたちは網元の屋敷を出た。


 音楽学校らしき校舎のシルエットが見えたところで、史之は使役する白蛇をムサシに渡した。
「耳と目を特に共有しておくね」
 情報屋が目星をつけた殺人現場のトライアングルと、音楽学校はやや離れている。イレギュラーズにとっては一駆けの距離だが、連絡をとる手段はあったほうがいい。
 一人離れて闇に聞き耳を立てていたリュビアが、眉間に軽く皺をよせて振り返った。
「オル……ゴールの、音? 波の音が邪魔してよく聞き取れないけど、校舎の中から音が聞こえてくる」
 視線がリュビアに集まる。
 ルチアは疑問を口にした。
「事件が起こってからずっと休校してて、寄宿生も全員帰省してるって話じゃなかった?」
「もしかしたら、ここの学園長と事件に何か関係あるのでは……?」、とチェレンチィ。
「自分の人助けセンサーはまったく反応なしでありますよ。イズマさんは?」
 イズマが首を横に振る。
 みなが浮足立ち始めたところで、縁の声が舵を取った。
「ここはムサシとリュビアに任せよう。俺たちはそれぞれの場所に急ぐぜ」
「犯人を見つけたら、すぐ知らせるであります。罪もない人を襲い、あまつさえその尊い命を奪い取る輩……絶対に許さんであります……!」
 一分後。
 リュビアは白い板張りの校舎と、綺麗に手入れされた花壇、穏やかな流れをつくる噴水などを見て、感嘆のため息を漏らした。
 月のない夜でさえこんなに美しいのだ。明るければもっと素敵だろう。ここで学ぶ少年、少女の明るい笑い声が聞こえるような気さえする。私立と聞いているが、この学校の学園長は趣味がいい。
 ムサシと一緒に施錠されていない窓を探し、中に侵入した。
「自分の耳もオルゴールの音を捉えたであります。なんというか……調子はずれな曲でありますなぁ」
 暗視を持つムサシが先頭に立ち、ずんずん廊下を進んでいく。たどり着いたのは、立派なドアの前だった。学園長室だ。鍵はかかっていなかった。
 中に入り、ムサシがカンテラをつけた途端、リュビアはひっと短く息を吸い込んだ。ムサシも目を剥く。
 錆びて汚れたオルゴールが、マホガニーの立派なデスクの上に置かれていた。その向こう、革張りの椅子に額から上がすっぱりと切り取られた女の子が座っている。皮膚は青白くぶよぶよと膨れていた。海底で岩に擦られたか、顔だけでなくむき出しになっている腕もズタズタだ。
 デスクを回り込むと、片足がないことが分かった。指も二本、欠損している。
「ピア……さんじゃないでありますな。臭いがまったくしないでありますが……防腐処理がされている?」
「その子、学園長の娘だよ」
 リュビアはムサシに絵皿を手渡した。
 皿にはオウギバトの飛行種親子が並んで描かれていた。父親は壁に飾られた学園長の絵と同じ顔だ。娘の方は……王冠のような飾り羽はないが、浮腫みと傷を取ると同じ顔に見えるだろう。
「この絵皿はどこにあったでありますか?」
 ここ、とリュビアが指さした本棚には、古い表紙の楽譜集を押しのけて、黄泉がえりに関する本が並べられていた。


 闇に目が利くルチアが先に灯台内部に潜入する。
「誰もいない?」
 念のため、レインヘイルファランクスを空撃ちしてみたが反応はなかった。
 スノウは灯台内部の構造をコネを使って事前に得ていた。作りつけのランプの位置をルチアに教える。
「灯りをつけてもらえると助かるです。でも、灯台下暗し、というのはこのことですねぇ。上は目がつぶれるぐらい明るい光を――って、ぐちゃぐちゃじゃないですか!」
 一階は灯台守の執務室だったところだ。足の踏み場に困るぐらい、ゴミで溢れかえっている。二つあるソファには、どちらにも汚れて異臭を放つ毛布が丸めて置かれていた。
「……下から順番に見て行くと時間が無くなくなりそうね」
 探索の効率を考えて、二人は上から見て回ることにした。
 先細りの灯台は上に行くほど床面積が狭くなる。最上階は灯室だ。仕切りのないひとつ部屋になっていた。灯篭に上がるハシゴがあるだけで、他に何も置かれていない。
「次、行きましょう」
 その下は倉庫だったらしく、埃の積もった棚に、鉄帝や練達から交易で手に入れたらしき缶詰が少しだけ置かれていた。大部分はここを勝手に使っている不審者たちが食べたのだろう。
 二階に降りる。灯台守の私室のようで、ツインベットや風呂などの水回りがあった。不審者たちの荷物も。ベッドは二つとも乱れていた。
 手掛かりを求めて二人で荷物を漁る。
 スノウは数枚のピカピカに光る金貨と錆び取りオイル、日記帳を見つけた。
「ルチアさん、これ……」
 開いたページに綴られていたのは、胸の悪くなるようなものだった。
 ――このまま捨てるなんて勿体ねぇ。だから使わせてもらった。死体でも初物はいいもんだ。
「こいつ、許せない」
 日記の内容から、男たちが金で音楽学校の学園長に雇われたことが分かった。拉致手伝いに見張り、死体遺棄。死体に暴行しているのは日記帳の持ち主だけのようだが、見て見ぬふりをしている他の連中も同罪だ。
「こっちにも違うブランドですが、錆び取りオイルがあるです。鉄騎種?」
「獣種もいるようね。ベッドに黒毛がたくさん……連中はいま、殺人鬼と一緒にいる可能性が高いわね」
 それは造船所か、座礁したフェリーの中か。


「危ない!」
 史之は、背後からチェレンチィを狙うクロヒョウの獣種剣士に、クルーザーの甲板から空になった目薬瓶を投げつけた。
 邪魔をされた剣士の強い舌打ちの音が、廃造船所の高い天井にこだまする。
 直後、聴覚を共有する白蛇の耳を通じてムサシの声が聞こえてきた。
<いまからリュビアさんとそっちに向かうであります>
「こっちは俺とチェレンチィさんの二人で大丈夫!」
 だからフェリーへ、と言いかけて史之は唇を噛む。
 使役する白蛇を通じて、音楽学校で見つかったこと、解ったことはすでにコンビを組んだチェレンチィにも伝えてある。だが、ヘビはしゃべれない。逆にここで起こっていることをムサシとリュビアに伝える手段がないのだ。
 チェレンチィは口角をあげた。僅かに開いた薄紅色の唇の間から、並びのいい歯がのぞく。
「でしたら、さっさと片づけて、外で合流しましょう」
「やれるもんならやってみな!」
「ふっ。ではお言葉通りに」
 剣士がロングソードを振るう。
 鋭い斬撃だったが、チェレンチィはこの攻撃を読んでいた。右手に踏み込んで、剣士の切っ先をかわしざま、両刃のコンバットナイフを横に払う。音速のナイフ捌きだ。
 脇腹を切られた剣士は体を崩し、動作を鈍らせた。超反射神経の持ち主でなければ、脇の肉がごっそりえぐれていたはずである。
「……くそ」
 場数を踏んでいるのだろう。攻撃の型が崩されたうえに受けた傷が浅くないことを悟ると、剣士は敗北を認め、逃走を図った。
「絶対に逃がさない!」
 史之はクルーザーの上から飛び降りると、剣士の逃げ道を塞いだ。
「イザベラ女王陛下の名において、寒櫻院・史之が美しき海を汚す者を倒す。覚悟せよ!」
 剣士が鬼の形相で死の黒き牙を放つ。
 まともに攻撃を食らったにも関わらず、史之は姿勢を低くして剣士に突っ込んでいく。ソード・オブ・アルマデウスは、鎌首をもたげた蛇が飛びかかるような伸びと変化を見せて、剣士の喉を貫いた。
 チェレンチィが冷ややかな目で動かなくなった剣士を見下す。
「……念のためにクルーザーの底に穴をあけておきましょう。これでもう遠くへは逃げられません」


 間違いなくここだ。ここに殺人鬼と子供たちがいる。
 イズマには確信があった。冷たい波に膝を洗われながら、トライアングルの中心に立って辺りを精査したとき、確かに心に響いたのだ。助けを求める少年の声が。
「で、どこらへんだい?」
 傾いたインフォメーションカウンターに手をついて、縁は壁にかかっている船内図に顔をぐっと寄せた。このフェリーは七層あるようだ。階段の位置を確かめようとしたが、暗視ではよく見えない。
 灯台と廃造船所、そして座礁したフェリーにそれぞれ散った後、縁とイズマは五層デッキの乗船口から船内に入っていた。
 イズマがカンテラを壁に近づける。
「いまネズミを走らせているが……船尾、かなり下層にいると思う。潮が満ちて船内に海水が入り込むと厄介だな」
「ところで、男の子だけなんだな、下でヒーローの登場を待っているのは?」
 イズマは重々しく頷いた。
 男の子は十中八九、網元の息子のリックだろう。人助けセンサーには、このリックの心の叫びしか反応しなかった。
 ほぼ同じころに行方が分からなくなっている少女の反応はない。
「そんな顔しなさんな。まだ殺されたと決まったわけじゃないぜ。麻酔で眠らされているだけかもしれねぇだろ。にしても、時間がねぇ」
 縁は船内図の四層船首側にある医務室を指で叩いた。
「浜で事前に仕入れた情報じゃ、医務室の窓に明かりが見えたって話だ。頭を割るにはそれなりの設備がいるだろう。ここじゃなければレストランの厨房でサイコ野郎は悪事を行っている。他の連中を待っている時間すら惜しい。二手に分かれよう」
「じゃあ、みんなにはメッセージを残しておこう」
 イズマはカウンターの内側に回り込み、引き出しからペンを取り出した。船内図の後方に少年と書き込み、前方に少女と疑問符をつけて書き込む。
「場所を特定したらすぐにネズミを向かわせるが、それまでに来るかもしれないからな」
「無理はするなよ」
「そっちこそ」
 拳を軽く打ちつけあうと、二人は別れた。


「見つけた」
 男は厳つい肩を跳ねあがらせると、バトルハンマーを構えてイズマを振り返った。
 カンテラに照らされる顔の半分が鉄で覆われている。片目は義眼、レンズがはめ込まれているようだ。
 イズマは顔をしかめた。
 鉄騎種の男は下に何もはいていなかった。
「この変態め」
 獣のような雄叫びがあがった。ずっしりとした鉄に半身を包んだ男は、狭い倉庫の中でも縦横無尽にウォーハンマーを振り回し、棚を次々と粉砕、なぎ倒していく。飛び散った破片が当たってうざい。
 響き渡る不協和音に、助けを求める声が掻き消された。恐らく少年は、酷く怯えて心が麻痺してしまったのだろう。水が入り込み始めているので、よけいに恐ろしく感じているはずだ。
(「無事だといいが」)
 イズマは倒れた棚の隙間から、直接肉体を刻む音を飛ばして変態の体力を確実に削っていった。
 出口は一か所。逃げ出すとしてもこっちに来るしかない。進退窮まって攻撃してきたところを――。
 悲鳴が上がった。変態に首根っこを掴まれて少年が引きずりだされている。
「おい! このガキの頭を潰されたくなけりゃ、そこをどきやがれ!」
 変態は少年の体を盾にしていた。渋々出口から退き、入れ替えるようにして倉庫の中へ。
 少年を連れたまま、変態の姿が消えた。
 後を追いかけようとして、すぐに足を止める。ゴッ、という音がして、目の前を変態が飛んでいった。バシャンと水音がたつ。
 続いて墓石を振りかざしたスノウが出口を横切って行く。ゴッ、ゴッ、ゴッ。
 少年を背負ったルチアが出口に顔を見せた。天使の祝福を受けたらしく、穏やかな顔をしている。対してルチアの顔は憤怒の色に染まっていた。
「ルークは無事よ。あなたは上に行って。あいつは私がコキュートスに落とす!」


(「とりあえず、医務室から確認しようかねぇ」)
 縁は聞き込みで得た情報を頼りに、フェリーの四層へ降りていった。船が傾いているうえに、座礁事故時の瓦礫、冒険ごっこに訪れた子供たちが残していったゴミで歩きにくい。殺人鬼に聞かれないよう足音を忍ばせるのに苦労する。
「お? 見つけたのかい。そうか、やっぱりそこだったか」
 イズマが放ったネズミが瓦礫の上でヒゲを震わせている。縁についてこい、と言った感じで瓦礫の向こうへ降りていった。
 壁に背をつけてじりじりと、開かれた医務室のドアから顔をだす。
「おっと!」
 縁の鼻先をかすめ、振り下されたバトルハンマーが床に打ちつけられた。重い音が響き、近くの瓦礫が崩れる。
 ぬっと出てきた男の横面に、抜き放った青刀の柄を叩き込む。
 鼻が折れる音が響いて、血が顎ひげを伝った。
 『猪』で振り上げられたバトルハンマーを腕ごと切り落とし、脇をぬけざま『鹿』で胴を薙ぎ、『蝶』で青刀を振り上げて頭を首から切り落とした。
 驚愕するクロヒョウの剣士の肩越しに、メスを握った飛行種の男がいた。身体をずらして医務室の中を見まわす。
 水平に取り付け直された治療台の上に、頭を剃られた女の子か横たわっていた。下には大量の黒髪が落ちている。
(「なんてことしやがる……」)
 女の子はピアだろう。ゆっくり胸が上下しているところをみると、まだ生きているようだ。
 殺人鬼たちと睨みあっているうちに、イズマがやってきた。ムサシとリュビア、それにチェレンチィと史之も一緒だ。
「リックは保護した。変態野郎はスノウとルチアが始末している」
「そりゃあ、よかった。ピアちゃんもまだ生きているぜ」
 音楽学校と廃造船場でのことを知ると、縁はすっと目を細めた。
「子供の悲鳴やら泣き声やら……“狂った旋律”に塗れちまって、永遠に娘に会えねぇだろうよ。……哀れだねぇ、お前さん」
「君に私の何が解るというんだね!!」
「解りたかぁねえな、外道のことなんざ」
 唸り声を発して、殺人鬼と化した学園長がメスを手に突進してきた。同時にイレギュラーズの殺意の強さに怖気づいた剣士が別のドアから逃走を試みる。
「獣種は自分たちに任せるであります!」
「ボクが黒の大顎でかみ砕いてやる」
 ムサシとリュビアが剣士を追う。
「念のため、チェレンチィと史之も行ってくれ。船内は広い。ここは俺とイズマがいりゃ大丈夫だ。逃がすなよ」
「了解」
 縁は学園長のメスを交わしながら、ピアの傍へ。学園長との間に体を置く。
 イズマも反対側から回り込んで、ピアを拘束している縄をといた。
 学園長は縁たちから一歩下がると、すっとタクトの様にメスを高く掲げた。
「そこをどきなさい。できればアミカの新しい体に傷をつけたくない」
「余計な心配だな。アンタはこの娘はおろか、俺たちに傷一つつけることはできない」
「生意気な口を……躾なくてはなりませんね」
 途切れずに奏でられる華麗なるメスの旋律。緊迫した空気。翻る王冠の頭飾り。
 後ろを庇って、縁が防戦一方に追い込まれる。
「俺たちを甘くみるなよ!」
 イズマは治療台から離れると、学園長の胴にタックルし、身を挺して死の舞踏を止めた。
「狂っている……音が、あの子が死んでからずっと……」
「……ふざけるな。調子の狂った音だと? 狂っているのはお前の耳だ。その心だ。こんなこと……娘が喜んでいると思っているのか!」
「うるさい、うるさい! 黙れ、黙れ、黙れ!」
 ざくざくと音をたててイズマの背にナイフが突き刺さる。
「哀れだねぇ。このまんまじゃ、アンタの娘も、殺された娘たちも浮かばれねぇ。きっちり引導渡してやるぜ。地獄に落ちな」
 三代目となる青刀『ワダツミ』が一閃の光を発した。イズマを刺していたメスが二つに両断され、刃先が空をきって床に落ちる。
 電光石火。寸秒もおかずに縁は青刀を返すと、学園長の胸を薙いだ。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

怖気づいて医務室から逃げだした獣種の男も、五層のデッキで追いかけてきたイレギュラーズに挟み撃ちにされて倒されています。
麻酔の解けたピアとリックに温かいホットミルクを与え、両親の元に連れ帰りました。
ビアは髪の毛を全部剃られてしまいましたが、他に外傷はなく命に別状はありません。
事後談ですが、音楽学校は網元が買い取り、経営が継続されることになりました。春には授業が再開されるでしょう。
ピアも髪の毛が耳にかかるぐらいまで伸びたら、また音楽学校に通うそうです。
リックは窮地を救ってくれたヒーロー、「イレギュラーズの曲を作るんだ」と張りきっているとか。

ご参加ありがとうございました。

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