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シナリオ詳細

魔女の毒薬

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・その毒は

 魔女。どこかの国では、彼女らは人を呪い不幸を振りまく存在らしい。それはこの国においても変わらない。魔術を使い、人の心を喰いつくし、その身体を蝕む。恋や愛をはじめとする感情を糧とし、誰かの人生を歪める。

「魔女がみんな、悪いわけじゃないのよ」

 ひとりの魔女が、使い魔の猫に語る。

「誰も、優しくしてもらえなかったの。魔女は悪いひとだって決めつけられちゃったから」

 誰かに善意を向けたはずなのに、悪だと決めつけられる。助けたはずなのに、責任をなすりつけられる。そうしたことが積み重なり、魔女たちは人を信用することができなくなってしまった。そして降り積った悪意を、人々へ向ける様になったのだ。

「魔術が誰かを幸せにするって、みんな忘れていたの」

 私もそうだった。そう呟く魔女の目に、寂しそうなものが映る。

 魔女であることを隠し、ただの人の中に紛れて過ごしていたことがある。その時は、ごく当たり前にいる村娘として扱ってくれた。みんな、優しかった。
 作り立てのお菓子をおいしいそうに食べてくれて、笑ってくれたこともある。今までそんなことなかったから、泣きそうになるくらい嬉しかった。

「これ、魔女の間では毒薬って呼ばれてるんだけど」

 魔女が取り出したのは、硝子の小瓶。色の無い液体が入ったそれが、月明りの下できらめく。

「本当は、気持ちを形にするものなの。だから私、おいしくなあれって、魔法をかけた」

 一番綺麗にできた、一番おいしいお菓子をあげたかった人がいた。でも自分の腕では作りたいものが作れなくて、こっそり魔術に頼ったのだ。そのせいで、自分が魔女であることがばれてしまったのだけれど。

「私から逃げたわ。ずっと騙していたことにしたの」

 そんな別れ方をしたから、笑顔を向けてくれたひとたちのことを思い出す。
 おいしくなあれ。そんな魔法をかけた時のことを、そのお菓子を食べた時の彼の顔を、思い出してしまう。

「いつも、私一人で、お菓子作ってた。だけど寂しいから、今年は誰か呼ぶことにするわ」

 お菓子を食べてもいいって人、呼んできてくれない?

 そんな魔女の一言に、猫はひとつ鳴く。そうして「誰か」を探すために、小さな足で歩き始めた。


・甘く、優しく

 お菓子を抱えた魔女。それが描かれた表紙を抱えているのは、境界案内人のカトレアだ。

「お菓子を食べてくれる人、いないかしら?」

 この物語に登場する魔女は、人と共に暮らす方法を知らない。だからこそ優しさに飢えていて、ほんのひと時与えられた、あの幸福が忘れられないのだという。

「魔女はきっと、おいしくなあれって魔法をかけてくれるわ。だから、怖がらないであげてほしいの」

 幸せだった時間の再現。笑顔にさせたかった誰かを思い出す、ささやかな時間。それを一人で過ごすのは、やはり寂しいのだろう。

「黒猫さんが言っていたわ。仲良くお喋りをしてくれる、おいしく食べてくれる誰かを呼んでるって」

 魔女をよろしくね。カトレアはそう呟き、そっと微笑んだ。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 魔女とお菓子を食べるお話です。

世界観:
 魔女がいる世界です。魔女はこの世界では災厄をもたらす存在とされていますが、本来魔女は人を陥れるために魔術を使いません。ですが人々に悪意を向けられ続け、誰かの幸福を願う魔術を使うことを忘れてしまいました。

目的:
 魔女とお菓子を食べることです。お菓子を食べながらおしゃべりしていただければと思います。おいしい紅茶や珈琲、甘い飲み物も、是非一緒に。

魔女について:
 一緒にお菓子を食べて欲しい魔女は、辛うじて人の優しさを思い出すことができたひとです。人間に紛れて過ごしていた間は、一番おいしいお菓子を食べさせてあげたい誰かもいたようです。
 人間と離れて生活するようになってからも、楽しかったときを思い出しては、その時に作ったお菓子を再び作っています。ただ、一人で食べることが寂しくなってしまい、魔女を嫌わない誰かを呼んで、一緒に食べたいと思っています。

毒薬について:
 気持ちを形にする魔術が込められた液体です。毒以外の使い方もできますが、毒としてしか使われてこなかったので「毒薬」以外の名称がありません。
 魔女はこの毒薬を混ぜたお菓子を作りますが、身体に害はありませんのでご安心ください。この魔女に悪意はありません。
 ひょっとすると、毒薬以外の呼び方をすると、魔女が喜ぶかもしれません。

できること:
・一緒にお菓子を食べる
・魔女と対話をする

食べられるお菓子:
 クッキー、カヌレ、マカロン、マドレーヌ、等々。

サンプルプレイング:

 ねえ魔女さん。どんなお菓子を作ってくれるの? え、あたしが選んでもいいの?
 じゃあ、パウンドケーキ、なんてどう? いいの? やった、ありがとう。
 魔女さんもパウンドケーキが好きなのね。あたしもよ。パウンドケーキに、ちょっと思い出があってね。魔女さんもそうなんでしょう?
 一緒に食べようね。思い出の味を、忘れないように。


 食べたいお菓子をプレイングに書いていただけたら、魔女が作って食べさせてくれます。上記のもの以外でも、魔女にお任せでも構いません。
 よろしくお願いします。

  • 魔女の毒薬完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年02月10日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

リプレイ

・懐かしさを

「魔女さんがお菓子を作ってくれるんですか?」

 マドレーヌをお願いできますか。そう首を傾げたのは、『木漏れ日の魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)だ。
 キッチンにはふんわりと甘い香りが漂っていて、懐かしいような、温かいような、それでいてどこか寂しいような気持ちになる。

「多分、魔女さんはマドレーヌの意味をご存じですよね」

 キッチンに立つ魔女が、ほんの少し遠くを見やる。

「意味は、確か。仲良くなりたい、よね」
「はい。だからこそ私も、魔女さんのマドレーヌを頂きたいです」

 魔女の視線が、すっとリディアに向けられる。その瞳に柔らかいものが戻って、やがて彼女はそっと微笑んだ。

「作っている間に、紅茶を召し上がれ。少し待っていてね」

 促されるままに席に座ると、魔女の表情よりも、後ろ姿ばかりが目立つようになる。それを見ていると、ぽつりと言葉がこぼれ出た。

「マドレーヌは私のママ……、じゃなくって、母が時々作ってくれて。私も大好きだったんですよ」

 言葉がひとつ落ちると、後から後からこぼれ出る。それこそ涙が頬を伝うようにあふれて、止まらなくなる。

「父も母も私が10歳のときに魔物に襲われて」

 両親は、燃え盛る森の中で、リディアを逃すためにその場に留まった。特異運命座標になってから彼らの安否について調べてみたけれど、全く消息がつかめなかった。

 最初のうちは、どこかで生きていると信じていた。しかし、いくら探しても、調べても、何の手がかりも得られないのだ。そうしているうちに、あの森の中で命を落としてしまったのではないかという、不安や恐れがこみ上げてくるようになったのだった。

 魔女はリディアの話を、遮ることなく聞いてくれた。時折相槌を打って、穏やかに聞いてくれた。

「楽しい話じゃなくて、ごめんなさいね」

 からからに乾いた喉を、紅茶で潤す。重たく苦いもので溢れた胸を押さえて、そっと魔女を見上げると、いつの間にか彼女はマドレーヌを手に立っていた。

「いいのよ。お菓子で思い出すものは、人それぞれでしょう」

 気にすることないわ。そう言いながら彼女は、静かにお菓子を差し出してきた。ふんわりとした香りがリディアの鼻をくすぐったとき、思わず小さな声が漏れ出ていた。

「リディアさん。おいしい?」

 頷いた。
 一口かじるごとに広がる味。それは昔母が作ってくれたものに似ていて、懐かしい。次から次へと思い出が頭に浮かんできて、じわりと涙が滲んだ。

「魔女さんは、思い出の味をも再現する『おいしくなぁれ』の魔法を使えるのね」

 私もお菓子作りの練習をして、母や魔女さんのように、マドレーヌをおいしく作れるようになるわ。

 涙を拭いながら、震えそうになる声で呟く。

「だからその時は、魔女さんにも私のマドレーヌを食べてもらいたいな」

 魔女に向かって精一杯微笑むと、彼女はゆっくりと頷いた。

「ありがとう。楽しみにしているわ」

 噛み締めるように呟かれた言葉に、リディアは再び笑い返した。


・優しい日に

 魔女にとって失礼なのか分からないが、少し、似ていると思ったのだ。自分の持つ毒も、ひとに好かれるものではないのだから。だけど今日は、過去の辛さを思い出すよりも、優しい日にしたい。そう『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は魔女に向かってお辞儀をした。

「お招きありがとうございます。ジョシュアと言います」
「来てくれて、ありがとう」

 名前を尋ねると、彼女はほんの照れくさそうに、「リコリス」と呼ばれていたことを教えてくれた。

「何か食べたいものはあるかしら」
「いえ。貴女の好きなものでお任せします」

 苦みの強いものは得意ではないが、それ以外なら何でもいいと伝えると、彼女はクッキーはどうかと言ってくれた。

「できるタイミングに合わせて、紅茶をお入れしますね。カップはどちらにありますか」

 僕にも思い出があるので入れさせてください。そう言うと、魔女はほうと息を吐いた。やっぱり通じたのだと思うと、自然と言葉が唇から零れた。

「僕が入れた紅茶を、好きだと褒めてくれた人がいたんですよ」

 ほんの少し微笑めば、リコリスはゆっくりと目を伏せた。懐かしそうな表情を浮かべる彼女に、ジョシュアはどこか自分の姿を重ねていた。


 リコリスが生地の中に、「毒薬」を数滴混ぜる。おいしくなあれ。そんな言葉が聞こえてくるようだった。

 どうしてその液体が毒薬と呼ばれているのかが、不思議だ。気持ちを込めることは毒なのだろうか。そうなることもあるのかもしれないが、少なくとも、ここに込められた気持ちは毒ではないはずだ。

 ああ、ならば。別の名前で呼ぶのが良いだろう。

「変化する……、雫」
「ジョシュ君?」

 首を傾げるリコリスに、ジョシュアは慌てて首をふる。そうしてしばらく考えて、ひとつの言葉を紡ぎ出した。

「その、イリゼの雫、と呼ぶのが良いかと思いまして」

 驚いたような彼女の表情に、徐々に明るいものが混ざり始める。

「素敵ね。ええ、素敵だわ。ありがとう」

 彼女の朗らかな声が、耳に心地よい。
 今おいしく作るから、待っていて。そんな言葉に、胸のうちがほわりと温かくなった。


 皿に載せられたクッキーを、大事に味わって食べる。口の中でほろほろと崩れていくそれは、優しくて、それでいて切ない味がした。
 こうしてお茶をすると、懐かしい気持ちになる。あるひとに優しくしてもらった、大切な日々を思い出す。

「リコリス様の優しい思い出がすり切れてしまう前に、来られてよかったです」

 エリュサのようにはできなくても、少しでも温かさを分けられたらいい。そう思ってこのひとに会いに来たのだ。あの日々の中で教えられた温もりは、今もこの心を守っている。だからこの気持ちを分けて、伝えたかったのだ。

「とても、美味しいです」

 懐かしい気持ちも、穏やかな気持ちも唇にのせて、そう一言呟く。

 ジャムを紅茶に加えていたリコリスが、はっとしてこちらを見る。ふわりと笑みを見せた彼女につられて、ジョシュアもそっと微笑んだ。


・あなたの愛

「わーはっはっはっ! ヘルちゃん、お茶会なんて洒落たもの、参加するのは久々すぎてヤベーのだ! 普段は酒主体だけどここは魔女ちゃんのおすすめを頂くのだ!」

 甘い香りの漂う部屋に、『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)の声が広がっていく。

「そして! ヘルちゃんは甘い物にも目がねーのだ! 極上の甘い物を頂戴! なのだ!!」

 ケーキとか!

 ヘルミーネの明るい声に、魔女は表情をほころばせた。

 やがて机に置かれたのは、艶やかな果物がたっぷりと使われたタルトだった。口に運ぶと、さっくりとした生地の食感と、甘酸っぱい果物の香りが口の中で跳ねる。差し出された果実水も、そのすっきりとした味わいを引き立てていた。
 ぷはー。一息に飲み干して、魔女に笑いかける。

「美味ーのだ! こんなもてなしされちゃうと、ヘルちゃん上機嫌になっちゃうのだ!」

 ヘルミーネの一言に、周りは頷く。それくらい美味しく、心にまで染み渡るようなお菓子なのだった。

 アルコールの入っているお菓子をお願いすれば、魔女は快く頷いてくれた。ラムレーズンクッキーの希望も笑ってこたえてくれて、お酒も飲んでいいと言ってくれた。

 グラスに注がれるヴォードリエ・ワイン。それと魔女が手に持つ「毒薬」の瓶の色を交互に見比べていると、ふいに疑問が頭をもたげてきた。

「こんなにお菓子は美味しいのに、どうして毒薬なのだ?」
「毒以外に、使われなかったからよ」

 魔女は語る。本来気持ちを形にするものだから、どんな使い方もできるのだと。毒薬へと変わってしまったのは、人間を愛する気持ちを忘れてしまったが故なのだと。

 彼女の言葉は淡々としているようで、どこか懐かしむような、悲しむような響きがあった。それを聞いていると、暗く重たいものが肺の中に溜まりこんでいくような気がした。

 この世界の魔女には親近感が湧いてしまう。
 所詮人なんてそんなものだ。自分たちの価値観しか認めず、異物に対しては冷酷非道な対応を厭わない。それは、この世界でも当たり前に行われていたのだろう。

「なら、魔女ちゃんの気持ちが、それだけ美しいって事なのだ」

 自分の気持ちに気がつかれないように、にっこりと微笑んでみせる。

「じゃなきゃ、こんなに美味しくはないと思うのだ」

 極上の悪意で返す魔女たちもどうかと思うが、それでも人は醜い。本当に、反吐が出るくらいに。

「いっそ『魔女の美味しい薬』とか呼んだら、そういう用途でしか使わなくなるんじゃねーの? 分からんけど」

 人も魔女も、どこかで歪んでいる。だけど、そうとしか捉えられない自分自身も、やはり。

「何にしても魔女ちゃんはいい人なのだ! ヘルちゃん、気に入ったのだ! また何かあれば頼るといいのだ!」

 ああ、でも。だからこそ、人への愛を忘れなかったこの魔女を、尊敬しようと思うのだ。

 心の奥底に、眩い光を閉じ込める。決して表には出さないけれど、どこかに残しておきたかった。

「ありがとう」

 お菓子、もっと食べてね。そんな言葉と共に差し出されたお菓子を、一つひとつ頬張る。この魔女だから、これほどうつくしい味に仕上げることができるのだろう。そう思った。

成否

成功

状態異常

なし

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