シナリオ詳細
魔女の毒薬
オープニング
・その毒は
魔女。どこかの国では、彼女らは人を呪い不幸を振りまく存在らしい。それはこの国においても変わらない。魔術を使い、人の心を喰いつくし、その身体を蝕む。恋や愛をはじめとする感情を糧とし、誰かの人生を歪める。
「魔女がみんな、悪いわけじゃないのよ」
ひとりの魔女が、使い魔の猫に語る。
「誰も、優しくしてもらえなかったの。魔女は悪いひとだって決めつけられちゃったから」
誰かに善意を向けたはずなのに、悪だと決めつけられる。助けたはずなのに、責任をなすりつけられる。そうしたことが積み重なり、魔女たちは人を信用することができなくなってしまった。そして降り積った悪意を、人々へ向ける様になったのだ。
「魔術が誰かを幸せにするって、みんな忘れていたの」
私もそうだった。そう呟く魔女の目に、寂しそうなものが映る。
魔女であることを隠し、ただの人の中に紛れて過ごしていたことがある。その時は、ごく当たり前にいる村娘として扱ってくれた。みんな、優しかった。
作り立てのお菓子をおいしいそうに食べてくれて、笑ってくれたこともある。今までそんなことなかったから、泣きそうになるくらい嬉しかった。
「これ、魔女の間では毒薬って呼ばれてるんだけど」
魔女が取り出したのは、硝子の小瓶。色の無い液体が入ったそれが、月明りの下できらめく。
「本当は、気持ちを形にするものなの。だから私、おいしくなあれって、魔法をかけた」
一番綺麗にできた、一番おいしいお菓子をあげたかった人がいた。でも自分の腕では作りたいものが作れなくて、こっそり魔術に頼ったのだ。そのせいで、自分が魔女であることがばれてしまったのだけれど。
「私から逃げたわ。ずっと騙していたことにしたの」
そんな別れ方をしたから、笑顔を向けてくれたひとたちのことを思い出す。
おいしくなあれ。そんな魔法をかけた時のことを、そのお菓子を食べた時の彼の顔を、思い出してしまう。
「いつも、私一人で、お菓子作ってた。だけど寂しいから、今年は誰か呼ぶことにするわ」
お菓子を食べてもいいって人、呼んできてくれない?
そんな魔女の一言に、猫はひとつ鳴く。そうして「誰か」を探すために、小さな足で歩き始めた。
・甘く、優しく
お菓子を抱えた魔女。それが描かれた表紙を抱えているのは、境界案内人のカトレアだ。
「お菓子を食べてくれる人、いないかしら?」
この物語に登場する魔女は、人と共に暮らす方法を知らない。だからこそ優しさに飢えていて、ほんのひと時与えられた、あの幸福が忘れられないのだという。
「魔女はきっと、おいしくなあれって魔法をかけてくれるわ。だから、怖がらないであげてほしいの」
幸せだった時間の再現。笑顔にさせたかった誰かを思い出す、ささやかな時間。それを一人で過ごすのは、やはり寂しいのだろう。
「黒猫さんが言っていたわ。仲良くお喋りをしてくれる、おいしく食べてくれる誰かを呼んでるって」
魔女をよろしくね。カトレアはそう呟き、そっと微笑んだ。
- 魔女の毒薬完了
- NM名花籠しずく
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年02月10日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
・懐かしさを
「魔女さんがお菓子を作ってくれるんですか?」
マドレーヌをお願いできますか。そう首を傾げたのは、『木漏れ日の魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)だ。
キッチンにはふんわりと甘い香りが漂っていて、懐かしいような、温かいような、それでいてどこか寂しいような気持ちになる。
「多分、魔女さんはマドレーヌの意味をご存じですよね」
キッチンに立つ魔女が、ほんの少し遠くを見やる。
「意味は、確か。仲良くなりたい、よね」
「はい。だからこそ私も、魔女さんのマドレーヌを頂きたいです」
魔女の視線が、すっとリディアに向けられる。その瞳に柔らかいものが戻って、やがて彼女はそっと微笑んだ。
「作っている間に、紅茶を召し上がれ。少し待っていてね」
促されるままに席に座ると、魔女の表情よりも、後ろ姿ばかりが目立つようになる。それを見ていると、ぽつりと言葉がこぼれ出た。
「マドレーヌは私のママ……、じゃなくって、母が時々作ってくれて。私も大好きだったんですよ」
言葉がひとつ落ちると、後から後からこぼれ出る。それこそ涙が頬を伝うようにあふれて、止まらなくなる。
「父も母も私が10歳のときに魔物に襲われて」
両親は、燃え盛る森の中で、リディアを逃すためにその場に留まった。特異運命座標になってから彼らの安否について調べてみたけれど、全く消息がつかめなかった。
最初のうちは、どこかで生きていると信じていた。しかし、いくら探しても、調べても、何の手がかりも得られないのだ。そうしているうちに、あの森の中で命を落としてしまったのではないかという、不安や恐れがこみ上げてくるようになったのだった。
魔女はリディアの話を、遮ることなく聞いてくれた。時折相槌を打って、穏やかに聞いてくれた。
「楽しい話じゃなくて、ごめんなさいね」
からからに乾いた喉を、紅茶で潤す。重たく苦いもので溢れた胸を押さえて、そっと魔女を見上げると、いつの間にか彼女はマドレーヌを手に立っていた。
「いいのよ。お菓子で思い出すものは、人それぞれでしょう」
気にすることないわ。そう言いながら彼女は、静かにお菓子を差し出してきた。ふんわりとした香りがリディアの鼻をくすぐったとき、思わず小さな声が漏れ出ていた。
「リディアさん。おいしい?」
頷いた。
一口かじるごとに広がる味。それは昔母が作ってくれたものに似ていて、懐かしい。次から次へと思い出が頭に浮かんできて、じわりと涙が滲んだ。
「魔女さんは、思い出の味をも再現する『おいしくなぁれ』の魔法を使えるのね」
私もお菓子作りの練習をして、母や魔女さんのように、マドレーヌをおいしく作れるようになるわ。
涙を拭いながら、震えそうになる声で呟く。
「だからその時は、魔女さんにも私のマドレーヌを食べてもらいたいな」
魔女に向かって精一杯微笑むと、彼女はゆっくりと頷いた。
「ありがとう。楽しみにしているわ」
噛み締めるように呟かれた言葉に、リディアは再び笑い返した。
・優しい日に
魔女にとって失礼なのか分からないが、少し、似ていると思ったのだ。自分の持つ毒も、ひとに好かれるものではないのだから。だけど今日は、過去の辛さを思い出すよりも、優しい日にしたい。そう『千紫万考』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は魔女に向かってお辞儀をした。
「お招きありがとうございます。ジョシュアと言います」
「来てくれて、ありがとう」
名前を尋ねると、彼女はほんの照れくさそうに、「リコリス」と呼ばれていたことを教えてくれた。
「何か食べたいものはあるかしら」
「いえ。貴女の好きなものでお任せします」
苦みの強いものは得意ではないが、それ以外なら何でもいいと伝えると、彼女はクッキーはどうかと言ってくれた。
「できるタイミングに合わせて、紅茶をお入れしますね。カップはどちらにありますか」
僕にも思い出があるので入れさせてください。そう言うと、魔女はほうと息を吐いた。やっぱり通じたのだと思うと、自然と言葉が唇から零れた。
「僕が入れた紅茶を、好きだと褒めてくれた人がいたんですよ」
ほんの少し微笑めば、リコリスはゆっくりと目を伏せた。懐かしそうな表情を浮かべる彼女に、ジョシュアはどこか自分の姿を重ねていた。
リコリスが生地の中に、「毒薬」を数滴混ぜる。おいしくなあれ。そんな言葉が聞こえてくるようだった。
どうしてその液体が毒薬と呼ばれているのかが、不思議だ。気持ちを込めることは毒なのだろうか。そうなることもあるのかもしれないが、少なくとも、ここに込められた気持ちは毒ではないはずだ。
ああ、ならば。別の名前で呼ぶのが良いだろう。
「変化する……、雫」
「ジョシュ君?」
首を傾げるリコリスに、ジョシュアは慌てて首をふる。そうしてしばらく考えて、ひとつの言葉を紡ぎ出した。
「その、イリゼの雫、と呼ぶのが良いかと思いまして」
驚いたような彼女の表情に、徐々に明るいものが混ざり始める。
「素敵ね。ええ、素敵だわ。ありがとう」
彼女の朗らかな声が、耳に心地よい。
今おいしく作るから、待っていて。そんな言葉に、胸のうちがほわりと温かくなった。
皿に載せられたクッキーを、大事に味わって食べる。口の中でほろほろと崩れていくそれは、優しくて、それでいて切ない味がした。
こうしてお茶をすると、懐かしい気持ちになる。あるひとに優しくしてもらった、大切な日々を思い出す。
「リコリス様の優しい思い出がすり切れてしまう前に、来られてよかったです」
エリュサのようにはできなくても、少しでも温かさを分けられたらいい。そう思ってこのひとに会いに来たのだ。あの日々の中で教えられた温もりは、今もこの心を守っている。だからこの気持ちを分けて、伝えたかったのだ。
「とても、美味しいです」
懐かしい気持ちも、穏やかな気持ちも唇にのせて、そう一言呟く。
ジャムを紅茶に加えていたリコリスが、はっとしてこちらを見る。ふわりと笑みを見せた彼女につられて、ジョシュアもそっと微笑んだ。
・あなたの愛
「わーはっはっはっ! ヘルちゃん、お茶会なんて洒落たもの、参加するのは久々すぎてヤベーのだ! 普段は酒主体だけどここは魔女ちゃんのおすすめを頂くのだ!」
甘い香りの漂う部屋に、『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)の声が広がっていく。
「そして! ヘルちゃんは甘い物にも目がねーのだ! 極上の甘い物を頂戴! なのだ!!」
ケーキとか!
ヘルミーネの明るい声に、魔女は表情をほころばせた。
やがて机に置かれたのは、艶やかな果物がたっぷりと使われたタルトだった。口に運ぶと、さっくりとした生地の食感と、甘酸っぱい果物の香りが口の中で跳ねる。差し出された果実水も、そのすっきりとした味わいを引き立てていた。
ぷはー。一息に飲み干して、魔女に笑いかける。
「美味ーのだ! こんなもてなしされちゃうと、ヘルちゃん上機嫌になっちゃうのだ!」
ヘルミーネの一言に、周りは頷く。それくらい美味しく、心にまで染み渡るようなお菓子なのだった。
アルコールの入っているお菓子をお願いすれば、魔女は快く頷いてくれた。ラムレーズンクッキーの希望も笑ってこたえてくれて、お酒も飲んでいいと言ってくれた。
グラスに注がれるヴォードリエ・ワイン。それと魔女が手に持つ「毒薬」の瓶の色を交互に見比べていると、ふいに疑問が頭をもたげてきた。
「こんなにお菓子は美味しいのに、どうして毒薬なのだ?」
「毒以外に、使われなかったからよ」
魔女は語る。本来気持ちを形にするものだから、どんな使い方もできるのだと。毒薬へと変わってしまったのは、人間を愛する気持ちを忘れてしまったが故なのだと。
彼女の言葉は淡々としているようで、どこか懐かしむような、悲しむような響きがあった。それを聞いていると、暗く重たいものが肺の中に溜まりこんでいくような気がした。
この世界の魔女には親近感が湧いてしまう。
所詮人なんてそんなものだ。自分たちの価値観しか認めず、異物に対しては冷酷非道な対応を厭わない。それは、この世界でも当たり前に行われていたのだろう。
「なら、魔女ちゃんの気持ちが、それだけ美しいって事なのだ」
自分の気持ちに気がつかれないように、にっこりと微笑んでみせる。
「じゃなきゃ、こんなに美味しくはないと思うのだ」
極上の悪意で返す魔女たちもどうかと思うが、それでも人は醜い。本当に、反吐が出るくらいに。
「いっそ『魔女の美味しい薬』とか呼んだら、そういう用途でしか使わなくなるんじゃねーの? 分からんけど」
人も魔女も、どこかで歪んでいる。だけど、そうとしか捉えられない自分自身も、やはり。
「何にしても魔女ちゃんはいい人なのだ! ヘルちゃん、気に入ったのだ! また何かあれば頼るといいのだ!」
ああ、でも。だからこそ、人への愛を忘れなかったこの魔女を、尊敬しようと思うのだ。
心の奥底に、眩い光を閉じ込める。決して表には出さないけれど、どこかに残しておきたかった。
「ありがとう」
お菓子、もっと食べてね。そんな言葉と共に差し出されたお菓子を、一つひとつ頬張る。この魔女だから、これほどうつくしい味に仕上げることができるのだろう。そう思った。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは。椿叶です。
魔女とお菓子を食べるお話です。
世界観:
魔女がいる世界です。魔女はこの世界では災厄をもたらす存在とされていますが、本来魔女は人を陥れるために魔術を使いません。ですが人々に悪意を向けられ続け、誰かの幸福を願う魔術を使うことを忘れてしまいました。
目的:
魔女とお菓子を食べることです。お菓子を食べながらおしゃべりしていただければと思います。おいしい紅茶や珈琲、甘い飲み物も、是非一緒に。
魔女について:
一緒にお菓子を食べて欲しい魔女は、辛うじて人の優しさを思い出すことができたひとです。人間に紛れて過ごしていた間は、一番おいしいお菓子を食べさせてあげたい誰かもいたようです。
人間と離れて生活するようになってからも、楽しかったときを思い出しては、その時に作ったお菓子を再び作っています。ただ、一人で食べることが寂しくなってしまい、魔女を嫌わない誰かを呼んで、一緒に食べたいと思っています。
毒薬について:
気持ちを形にする魔術が込められた液体です。毒以外の使い方もできますが、毒としてしか使われてこなかったので「毒薬」以外の名称がありません。
魔女はこの毒薬を混ぜたお菓子を作りますが、身体に害はありませんのでご安心ください。この魔女に悪意はありません。
ひょっとすると、毒薬以外の呼び方をすると、魔女が喜ぶかもしれません。
できること:
・一緒にお菓子を食べる
・魔女と対話をする
食べられるお菓子:
クッキー、カヌレ、マカロン、マドレーヌ、等々。
サンプルプレイング:
ねえ魔女さん。どんなお菓子を作ってくれるの? え、あたしが選んでもいいの?
じゃあ、パウンドケーキ、なんてどう? いいの? やった、ありがとう。
魔女さんもパウンドケーキが好きなのね。あたしもよ。パウンドケーキに、ちょっと思い出があってね。魔女さんもそうなんでしょう?
一緒に食べようね。思い出の味を、忘れないように。
食べたいお菓子をプレイングに書いていただけたら、魔女が作って食べさせてくれます。上記のもの以外でも、魔女にお任せでも構いません。
よろしくお願いします。
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