PandoraPartyProject

シナリオ詳細

おじさんとドラネコ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●美味しいは幸せ……!
 森の娘が幼いころに教えられたのは、強く激しい感情ではなく、森の木々のように穏やかでいること。
 森の娘が外に出て思ったのは、種を越え主義主張や価値観の壁を越え、人が人らしさという点で共通していること。
 嬉しい、悲しい、寂しい、楽しい、怒り、憎しみ――美味しい……幸せ!


●『覇竜領域トライアル』
 覇竜領域デザストル。ラサへと繋がる『竜骨の道』を辿ることで亜竜種達の集落へと到達したイレギュラーズ達は、亜竜種達と接触し縁を紡ぐ事に成功し、亜竜種『フリアノン』の里長である珱・琉珂はイレギュラーズ達に提案した。
「これも何かの縁。あの『滅海竜』を封じて『怪竜』と戦う……それに私たちへと力を貸したいとアナタ達が言うのだもの! なら、覇竜領域トライアルをはじめましょ?」
 『覇竜領域トライアル』。
 覇竜領域で力と心を示し、そこに生きる民と絆を結び、信頼を勝ち取る冒険の始まり、始まり。


●紫睿おじさんはお菓子が食べたい
 初めて覇竜の集落にイレギュラーズが訪問した際、彼らは様々な味を持ち込んだ。新鮮な喜びは口伝てで広まりやすいもの。集落の民の中には、外の料理や文化をいたく気に入り、イレギュラーズを見付けしだいソワソワとした視線を向ける者もいる。
 眉間に深い皺を刻む仏頂面の亜竜種、紫睿(シールイ)もその中の一人。重厚な大斧を背負う彼は五十路にして初めてクッキーやチョコレート、マシュマロを知り、ひそかに――わりとバレバレ――熱視線を送っている。

「やはり、季節も季節ですし。お菓子がよろしいかと思いまして、持ってきたのです」
 もうすぐグラオ・クローネですもの、と呟いて。はじめてペイトを訪れたハーモニアの娘、マリエラ(p3n000235)がテーブルに並べるのは、甘いお菓子。ナイフを入れた断面に萌ゆる緑と豆茶の彩華やかなピスターシュショコラ。アーモンドプードルで焼いたバーチ・ディ・ダーマ。紅茶とあわせて頂けば美味しさに自然と頬が緩んで幸せな気持ちが胸を満たし、穏やかに心を蕩かしていくに違いない。
「そ、それでは」
 いざ文化交流。と互いに頷き交わして席に座そうとした時。
「集落のすぐ近くでチビ亜竜がドラネコのタマを追いかけまわしてます!」
 齎された報せが茶席の中断を告げたのだった。
 ドラネコとは、亜竜集落における猫的な生き物。猫にドラゴンの羽が生えたような姿で、可愛さに全振りした結果戦闘能力を失った、可愛さで世の中を渡る亜竜だ。

 集落の外に出ればなるほど、親ドラネコが子ドラネコの首根っこをくわえて駆けまわり、二足歩行で人の幼児ほどの大きさの亜竜が狩りを楽しむように群れでじわじわ追い詰めている。蜥蜴面でもわかるニヤニヤとした表情。親ドラネコの道塞ぎ、後ろに迫る別の個体がキィキィケタケタと手を叩いて。横から脅かすように別の個体が咆哮をあげて。親ドラネコが包囲の間隙からピャッと逃げれば、楽しそうに追いかける。
「むう、あれはいかん。奴ら、親子が逃げ惑うのを愉しんでおる。助けねば」
 ペイト周辺は蟻の巣のような地下空洞が広がっており、地中生物たちがわらわらと存在している。チビ亜竜というのは、地中生物の一種、敵性亜竜らしい。
「奴らは狂暴でちょろちょろとすばしっこい。何より、食料を見つけると集って食い荒らしたり、キラキラ光る宝玉を見付けて奪っていくので集落の敵なのだ」
 マリエラはあたふたとその後ろに続き、ちょっぴり心配そうな顔をした。
「私、戦ったことがまだないんです」
 言いながら拳を握りしめ、「でも、めいどぱんちで頑張ります」と神妙に。
「めいどぱんち」
「あの、故郷を出てから私は色々なおうちでメイドさんのお仕事をしたりしてきた経験がありまして。こう見えてイレギュラーズになる前、何度かメイドサンハミタ的な事件にも遭遇して参りました」
 お仕事をするうちにめいどぱんちとめいどきっくを覚えたのだ、とマリエラは語る。

「吾輩にはよくわからぬ」
 紫睿は戸惑いつつ、あなたを見た。
「頼りにしているぞ」
 頼るならこっちだ、と思ったらしい。
 そんなやりとりを耳にしたマリエラは、「そうですね」と素直に頷いて同じようにあなたを見つめた。
「頼りにしています……!」
 終わったらお茶しましょう、そう言って。

GMコメント

 透明空気です。いつもお世話になっております。今回は覇竜でのほんわか可愛い冒険です。
 ドラネコおっかさんがチビ亜竜群に追いかけまわされてるので、助けてあげてください。

●依頼達成条件
・ドラネコの保護

●ロケーション
・『亜竜集落ペイト』を出てすぐの地下通路。
 集落近くのため、天井高く道幅広く、夜は人工の灯りも燈る比較的整備された通路です。集落の民が設置したと思われる樽や木箱なんかも道の脇に散見されます。
 時刻は昼。
※『亜竜集落ペイト』
 地竜とあだ名された亜竜種が築いたとされる洞穴の里。
 暗い洞穴に更に穴を掘り、地中深くに里を築いたこの場所は武闘派の亜竜種が多く住まいます。
 ペイト周辺には、フリアノンに繋がっている地下通路が存在しています。基本的にはペイト周辺は蟻の巣のような地下空洞が広がっており、地中生物たちがわらわらと存在しています。

●敵
・『チビ亜竜』の群れ
 亜竜モンスター。二足歩行で人の幼児ほどの大きさ。キィキィ鳴きます。1体1体の強さはそれほどでもないですが、群れると弱者をいたぶる狩りを楽しんだり、集落に押し寄せて食料を荒らしたりするようです。爪と牙が武器。好きな食べ物はお肉。キラキラ光るものを巣に持ち帰ってコレクションしたがる性質もあり。

●味方
・ドラネコ親子
 お母さんドラネコは「タマ」という名前があり、子ドラネコはまだ名前がありません。
 共に白い毛並み。お母さんが子供の首根っこをくわえて逃げ回っています。タマは集落にも何度かゴハンをもらったり遊びにきていて、人に慣れている様子。今回は子供が生まれたので見せに来ようとしたのですが、チビ亜竜に発見されてちょっかいをだされました。
※ドラネコ
 亜竜集落内をトコトコ歩いてる姿も散見されるかわいい亜竜。
 大人になってもサイズは猫程度。可愛さに全振りした結果戦闘能力を失った、可愛さで世の中を渡る亜竜。
 猫にドラゴンの羽が生えたような姿で、色や模様は千差万別。
 鳴き声は「ニャー」です。

・紫睿(シールイ)
 男性、外見年齢、実年齢ともに50歳。独身。筋骨隆々としたいかめしい大斧おじさんです。あまりアピールしませんが甘いお菓子がとても気になっています。今回はイレギュラーズと一緒にドラネコ保護のため尽力します。プレイングで指示出しすれば指示に従い行動します。指示がなければ「吾輩は描写外で何かしてる」って感じで引っ込んでることでしょう。

・マリエラ(p3n000235)
 新米イレギュラーズなNPCです。女性、外見年齢は20歳前後のハーモニア。イレギュラーズと一緒にドラネコ保護のため尽力します。プレイングで指示出しすれば指示に従い行動します。指示がなければ「私は描写外で(略)」って感じで引っ込んでることでしょう。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。安心!

●おまけのお楽しみ要素
・無事依頼を解決した後、希望があればティータイムをお楽しみいただけます。

・保護したドラネコ親子を可愛がったり、子ドラネコに名前をつけることができます。
 子ドラネコに名前をつける場合は相談で名前を決めて、プレイングに書いてください。(なお、ドラネコのお持ち帰りはできません)

 以上です。
 それでは、よろしくお願いいたします。

  • おじさんとドラネコ完了
  • GM名透明空気
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月19日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
エア(p3p010085)
白虹の少女
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢
雨涵(p3p010371)
女子力(物理)
蛍(p3p010479)

リプレイ

●始まりは優しいお菓子の香りから
 土の香りに混ざり、お菓子の匂いが漂っている。

 ドラネコか。一体どれだけ可愛いのか――『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は渋みのうちに甘やかさを仄めかせ、呟きを零した。
「……あぁ、早く会いたいものだ」
 歴戦の年月の険しさを思わせる鋭い眼差し。だがその心はにゃんこにソワソワ!

「タマちゃん子供生まれてたんだー! じゃなくって、チビ亜竜たちを止めなくちゃ!?」
 蛍(p3p010479)が喜びと驚きと焦りを忙しく浮かべて走り出せば『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)が天使みたいな羽をぱたぱたさせて後ろに続く。
「可愛いドラネコちゃんをいじめるなんて許せません! 早く助けましょう! 早く! 迅速に!」

 なんだか緊迫感こそ感じますが優しい気持ちになれる依頼ですね、と『暴走シャークライダー』エア(p3p010085)は春花めいて微笑んで、指先で風を紡ぐ。
 亜竜たちにとっては、遊びかも、しれませんし……狩りなのかも、しれませんが、と。『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は春苺めいた瞳に気遣わしげな気配をのぼらせた。その耳には『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の声が届いている。
「少し変わっているようですが……然し、此れは確かに猫さんです」
 可愛い猫さん。ああ、猫じゃらしを揺らしたい。後で――アッシュは片手を眼帯に添え凛とした片眼で敵を視る。
「弱いもの虐めとは、感心しませんよ」

「こらー! 弱いものいじめはめっ、だぞ!」
「ああ! ドラネコちゃんが追いかけられてます! アッシュさん!」
「はい!」
 蛍とメリッサが現場の状況を確認して叫びをあげた。蛍が杖をぶんぶか振って突っ込んでいく。守りましょう、と皆の声が合わさった。

 ――雨涵、ペイトに行くのかい。お兄ちゃん心配だな。変なおじちゃんに気を付けるんだよ。
 『特異運命座標』雨涵(p3p010371)は兄に言われた言葉を思い出しながら駆けていた。一緒に走っているのはペイトの変なおじちゃんだけど、それどころじゃないのお兄ちゃま。
「わたし、弱い者いじめきらい。どうしていじわるするの? わたし、知ってる。誰かを不幸にする『楽しい』はだめ」
 愛らしい唇をむううっと尖らせて、通せんぼ。
「せっかくのお茶会、アナタ達のせいで中断になった。わたしすごく怒ってる」
「私もー!」
 蛍が杖でお仕置きしている。雨涵は蛍を狙う敵を殴って肩を並べた。蛍さん、守る――呟けば華奢な蛍が溌剌と笑う――私も雨涵ちゃん守る!

「なるほど、これはお仕置きが必要だな」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は金平糖めいたビー玉を転がした。未知の煌めきに邂逅した亜竜が何体か興味を惹かれた様子で追いかけていく。巧い、と紫睿が感心している。
「美しい宝玉だ。亜竜にくれてやるのが勿体ないほどだな」
 食用もあると告げれば驚愕の気配が返される。紳士的に微笑み、イズマは新人に助言をした。
「マリエラさんは……ドラネコを襲うチビ亜竜にめいどの技をお見舞いしたらどうかな?」
「かしこまりました!」

 弱肉強食の世界ではあるだろうから本来なら私達が介入することではないのかもしれん、とゲオルグは大人の見解も持っているけれど。
「だが、逃げ回っているのを楽しんで追いかけているのは論外だ。しかも亜竜種の集落にも迷惑をかけている――即ち、正義は我らにあり」
「放っておくわけには、いきません、ね!」
 ネーヴェがゲオルグを見上げて首肯する。

 こうして、救出劇が幕を開けた。

「ドラネコちゃん! 助けに来ましたよ! こっちに逃げて!」
「ドラネコさん。こちらにいらしてください」
 アッシュとメリッサが味方だと伝えると、母ネコは顔を輝かせて駆け寄ってきた。ネコたちを優しく抱き上げてアッシュが退き、メリッサが息ぴったりに背を守りながら接近してきた敵を火炎魔法で追い払う。
「少々手荒になります……」
 アッシュがメリッサにドラネコを預けて敵を睨む。小さな生命を大切に抱きしめ、天井近く浮き上がるメリッサの視界で光が生まれた。弾けて蛇のようにうねる雷光に幾つもの獣の悲鳴が生まれる。糸切傀儡で力量さを知らしめて。
「言葉を解せずとも、判るでしょう。貴方がたはもう、狩られる側なのだと」
 ネコに向けたのとは異なるアッシュの眼差しは、敵にとっては断頭台の刃に似て恐ろしい鋭さを見せていた。
 ――わたしたちは、素敵な一日を守る者です。
 エアが招く風は神秘の気配濃く、竜の本能に強く警鐘を鳴らす圧放つ。銀髪を風に揺らして幻想的な夢色の虹宝石めいた瞳が瞬かせる周囲で渦巻く風が無音で語る――此の娘には風竜の加護あり、疵付ける者決して許さじと。

 追い縋る敵の足がひとつ、またひとつ止まる。

 逃げていく数体と――まだ止まらない数体。蛍が勇気を胸に飛び出して、その道を塞ぐ。
「この先には行かせない! 行きたいなら、わ、私を倒してからだー!!」
 ちょっぴり震える語尾。向かってくる敵に果敢に杖を構えて――割り込むように前に立つのは、雨涵とネーヴェだった。
「わたしも、いる」
 雨涵が指を鳴らして煌めく魔力塊を掲げた。腕を伸ばし、まっすぐに天に向けた塊はその心を表すように光が咲く。祝福めいて天井から紙吹雪が舞い降り、虹色ライトが全身を照らし上げ。一斉に敵が向かってくる。大丈夫ですか、とマリエラが駆け寄る。新人3人のやりとりをネーヴェは優しく見守った。
「今ね、実はちょっとドキドキだった……っ初めてだもん」
「私も実は初めてでドキドキ……っ」
「わたしもまだ新米。皆、一緒」
 カウンターを苛烈に叩き込む。手応えは確か。近くでマリエラが懸命に女子力(物理)を奮っているから、雨涵も全力で女子力(物理)を発揮した。
「蛍さんの杖も女子力?」
「ええ?」
「わたし、一緒に戦ってくれるあなたのこと、みんなのこと、頼りにしてる」
 くす、と微笑んでネーヴェが「みんな、仲間です」と頷いて敵視を取る。
 ひょこり、ふわり、可憐な兎は、真っ白で綿雪のよう。麗しく背に揺れる髪と耳、細くたなびく紅リボンが誘うよう。触れて引いて、困らせたい。悪戯をして、あの愛らしい瞳でこちらを見て欲しい。チビ亜竜たちは段々とネーヴェの魅力に惹かれていく。

 兎は、こちら。
 おいしいお肉はこちら、ですよ――そう易々と、食べられませんけれど!
 綿毛が舞うが如く身軽にスカートを翻して可憐に舞う高嶺の兎、ダンスのお相手は、追いつけた方だけです、とスカートの裾を持ち上げ、追いすがる敵にぴりりと雷を浴びせていく。

 その耳には紫睿の驚嘆が届いていた。特異運命座標の実力に驚いているようだ。

 他方では、ゲオルグがチビ亜竜たちの真ん中に弾丸めいて突っ込んでいる。キィキィ騒ぐチビ亜竜たちがゲオルグのスーツに爪を立て、足にしがみついて動きを止め地面に引き倒そうと群がるのを物ともせず、言い含めるように言の葉を降らせて。
「今日教えてやろう――この集落は近づいてはいけない場所なのだと」
 固めた右の拳が光を帯びる。肘を曲げて引き、膝を畳みながら矢を放つように地面に拳を叩きつければ、命中地点を中心に眩い不殺の光が咲いてチビ亜竜たちがピャアピャア悲鳴をあげて逃げたり倒されたりしている。

 ――まだまだ出来ることは少ないけれど、これが私の精一杯!
 蛍は懸命に逆再生の杖を奮って、気丈に息を整え言い放つ。
「チビ亜竜たち、これで懲りたらタマちゃんたちに危害を加えない事! ここで帰るならこれ以上はやめてあげてもいいよ!」
 イズマが乱撃で脅しを加えながら響音変転で亜竜の咆哮を真似る。
「ガオー!(こら! ドラネコをいじめるな!)」
 本物みたい、とマリエラが思わず拍手する中、退路を誘導するようにビー玉を転がして。
「ガオオ!(あっちへ行け! 大人しく帰らないと痛い目に遭うぞ! ビー玉はあげるから、これに懲りて二度と来るなよ?)」
 ビー玉くれるの? と敵が振り返る。見下ろすイズマの目は厳しかった。燃えるように苛烈でいて、奥は冷静。舐めてはいけないという圧がある。もしまた来るなら、次は狩るぞ、その咆哮がトドメとなり、敵は戦意を失ったようだった。

 ――地中に新鮮な風が吹いている。

 それは、超常の象徴めいていた。エアがふわりと囁く声は透き通るように美しく、優しさを感じさせた。
「――ほら。貴方たちもお家へ帰りなさい」
 残っていても良い事は何もない。逃げて良いなら、お家に帰ろう――残る敵も退散していき、軈て平穏が訪れた。


「怪我はありませんか? はぁ……これで一安心ですね」
 メリッサがふわりと地に降り、アッシュがよかった、と呟いた。
「今後も、ちょっかいを出さないと、良いのですが」
 ネーヴェが敵を見送り呟くと、コーパス・C・キャロルの鼻歌混じりにゲオルグも頷いて。おかげで助かった、と紫睿が深々と頭を下げた。
「ドラネコちゃん達も無事でよかったね♪」
 全員の無事を確認して、エアがドラネコを撫でる。母ネコが安心したように喉を鳴らして、子を紹介した。


●新しい生命に、祝福を
「あっ、マリエラさん。お茶会の準備わたしも手伝いますよ。ささっと準備して、マリエラさんも一緒にお茶しましょう♪」
「エア様が手伝ってくださるなら、安心ですね」
 エアとマリエラがお揃いのエプロンをつけて茶会の準備を始めている。
「一緒に紫睿さんに甘いお菓子を作ってあげましょう……!」
 エアが囁けば、マリエラは気付いてました? お好きそうですよね、とくすくす笑って頷いた。
「勿論……ってあれ? マリエラさん? その手に持ってるの、塩じゃないですか?」
「あっ。やだ、ほんとう。私ったら」
 おかげで事故が防げました、という声を聞いて全員が胸を撫でおろした。

「にゃー」
「ああ、そうか」
 しゃがみこみ、ドラネコを甘やかすゲオルグ。目の前で子ドラネコが稚く鳴いてコロンと転がり、指を差し出すとちいさな両腕でぽふりと掴んで鼻を寄せる。空いた指で魔法陣を描き手乗りサイズのふわふわな羊さんを召喚すれば、よき遊び友達となった。
「みゃー♪」
「ニャー」
 イズマが隣に座り、猫の鳴き真似をして。子どもを見せに来てくれて嬉しいな、と想いを伝えれば母ネコは柔らかく声を返して体の側面をすりすりと擦りつけた。
「にゃあ」
 助けてくれてありがとう、と。感謝が伝わって、イズマは貴公子然とした笑みで鳴く。
「ニャーア」
 ――いつでも助けるよ。

「すっごくかわいいですね! この子ってまだ名前が決まってないんですよね? どんな名前がいいでしょうか?」
 メリッサが床に寝そべるような姿勢になって会話に加わった。悪戯な笑みを浮かべ、イズマが母ネコを抱っこしてメリッサの背に乗せた。あはは、擽ったい――あったかいです、動いてます……、無邪気に笑いながらメリッサは背を動かさないように一生懸命。ゲオルグが優しい手つきで子ネコを加えた。
「ドラネコちゃんのお名前、何がいいかな?」
 雨涵がネコを撫でる指が羽根の付け根を掠めれば、メリッサが擽ったそうに笑った。その横でねこじゃらしを右へ、左へ揺らすアッシュ。追いかける視線が右へ、左へついてくる。夢中になって手がしゅっと出て、かかか、と鳴くネコ。笑う背からネコたちが降りて、釣られたように皆が笑った。
「もう。無理ですよ~!」
「ふふ。お名前……白いからシロ……ではダメですか――きゃっ」
 ねこじゃらし目掛けてダイナミックジャンプした子ネコ。アッシュが受け止めれば、手に抱かれたまま、子ネコが夢中でねこじゃらしを抱きしめている。白くてふわふわ……どちらも愛くるしくて、放したくなくなってしまいますね、と呟く瞳がきらきらしていた。
「わたくしにも、撫でさせて、くれるかしら?」
 ネーヴェが兎の耳をぴょこんと揺らして手を伸ばせば、ネコは目を細め、ほわほわした柔らかな頬ですりすりと親愛の情を示して鳴いた。
「ニャー?」
 名前か。ユキ、もしくはシロってのはどうかな、とイズマが首を傾けて。
「ユキちゃんにシロちゃんにマルちゃん……どれも可愛らしくて似合ってますね! どれを選ぶか悩みますが、私はユキちゃんに一票にしておきます」
 メリッサの視線の先でドラネコがミルクを飲んでいる。ドラネコちゃんたちってどんな餌を食べるんですか、と好奇心をのぼらせて紫睿を見上げれば、やれば何でも食らうのではないか、という返答が返ってきた。おじさんは大雑把で適当です、と少女は目を丸くする。
「食べさせたら駄目なものもあるのでは?」
「少女よ。吾輩に期待するな。吾輩の事は喋る斧ぐらいに思っておけ」
「お、おじさん……」
 メリッサはこの日、大人の中には頼りにならない人もいる、という残念な現実を知ったのだった。

「名前迷うな~。皆出してくれた案どれもとっても可愛いんだもん! うーん……決めた! ネーヴェちゃんの出してくれた『ユキ』ちゃんに1票だよっ!」
 ネコをもふもふしながら蛍が笑って、ユキ、と決まった名をネーヴェが呼ぶ。子ネコは理解した様子で元気に鳴いた。

「茶会の準備ができましたよ♪」
 エアはそんなやりとりを微笑まし気に眺めて呼びかけた。

 テーブルにはゲオルグが提供したお菓子も並ぶ。
「このクッキー、サクサクだね」
「このパイも手作りなのか」
 アップルパイは宝石みたいに艶めいて、ふるさとを想起させる素朴なあたたかみのある生地はふわり、さくり。奥ゆかしく円やかな甘さが口の中に広がって、上品に控えめに蕩けるさまはまるで上流貴族の淑女のよう。
「美味いな。ただ甘いのとは何か違う。吾輩はこれを毎日食べたい」
 絶賛する紫睿にゲオルグはプリンをひと欠片スプーンに掬い、これも捨てがたいぞと新しい味を教える。
「皆さんこちらもどうぞ。羽のない猫が沢山いる教会で買ってきたんだ」
 イズマがふわあまチョコレートを配る。キュートなハートのチョコの中、にゃんこチョコを見つけて紫睿が「これは食べられぬ」と恍惚の顔。
(お菓子も勿論だけど皆の事を知れるのが嬉しい!)
「ねえこれなぁに?」
「ネコチョコあった?」
 蛍が目をキラキラさせている。同じ集落の雨涵と2人、珍しいお菓子を比べあって。
「おいしーい!」
「わたし、お菓子好き。ぴ……ぴす? ぴす……ショコラおいしい!」
 皆と簡単な自己紹介を交わして、全員の名前を覚えた蛍はにっこにこ。
(これから皆と、いっぱい仲良くなれたらいいな!)

「さあ、どうぞ」
 イズマが優雅な所作で紅茶を注げば、華やかな香りが茶席を包んだ。
「マリエラ様は、ミルクティー、お好きでしたか……」
「ネーヴェ様もでしたか~♪」
 ネーヴェとマリエラがカップを傾けたのも同時なら、頬を歓びに緩ませたのは同時。ミルクティーのカップを傾ければ、まろやかさに誘われた安らぎの花が胸に萌ゆる心地、ほうと息を吐いて目を合わせれば、同じ想いが伝わった――美味しくて、幸せ!

「紫睿様も、お好きな飲み方があったら、教えてください、ね」
 覇竜独特の飲み方など、あるのかしら? とネーヴェが小鳥めいて首をかしげてシュガーポットを差し出せば、茶には詳しくない、と応えながら受け取ろうとした紫睿が一瞬触れた指先に目を見開いて動揺してポットを落としかけて慌てている。
「っ、失礼した」
 武闘派の多い集落育ちの紫睿は、いかにも儚げで可憐な女子に不慣れらしい、とゲオルグが察し顔で羊を招き、「ジークと言う」と紹介すれば皆その愛らしさに気を惹かれ――「おじちゃん女の子に弱い?」「そうかもしれませんね」雨涵とアッシュの囁きは防げなかった。
「えぇと……温かな紅茶にスライスした柑橘を浮かべて少し風味を変えたお茶を愉しむのも善きかと。林檎なんかも合いますが……今日はオレンジしか持ち合わせがありませんゆえ」
 アッシュが優しく教えると紫睿は神妙な面持ちで今度試してみようと言葉を返し、ぎこちなく羊を撫でたのだった。

「またお茶会しようね。その時は、おじちゃんも一緒」
 雨涵が手を振れば、まるで親戚のおじさんみたいな顔で紫睿も手を振った。
「気を付けて帰ってくれ、雨涵……ちゃん」
 自信なさげな語尾の紫睿は、雨涵が頷くのを見て「嫌がられなかった」と安堵するようだった。

 集まった皆は、初めましてのメンバーも多かった。短い時間だったけれど一緒にドラネコを守って、撫でて遊んでお菓子を食べて。お茶を飲んで――お疲れ様、また会おうねと笑顔を交わして、手を振って。もう、全く知らない仲じゃない。

 ――ここのところ気を張る依頼ばかりだったので、良い息抜きになりました。
 仲間と過ごす時間は、あたたかい。この場に限った事ではなく――エアは依頼に気を張り詰める自分を思いやる友の顔や声を幾つも思い浮かべ、そっと両瞼を降ろした。
 幾つもの絆が、気力となり支えとなる――わたしも、大切な皆を励ましたり支えたりできる自分でいたいものです。
「紫睿さん、マリエラさん。それに、皆さん――今日は、ありがとうございました♪ また会いましょう!」
 感謝を告げるエアは瞳を開けてこの日いちばんの笑顔を咲かせて、この依頼を締めくくったのだった。

成否

成功

MVP

エア(p3p010085)
白虹の少女

状態異常

なし

あとがき

おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆さん。子ネコさんの名前は「ユキ」になりました。
こころあたたまるプレイングの数々、誠にありがとうございました。
MVPは3分の1の確率で発生しそうな塩と砂糖間違い事故を止めてお菓子の味を守ってくれたあなたに。マリエラは皆さんにとても感謝しています。紫睿おじさんは皆さんに触発されて鍛錬に精を出したり料理を覚えようとし始めました。ドラネコ親子はこの事件をきっかけに集落に定住するようです。
依頼がみなさんにとって素敵な思い出となれば、幸いでございます――ご参加ありがとうございました。

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