シナリオ詳細
黒翼の降る夜は
オープニング
●秋の慟哭
「かように大事な祭りにて、またも失敗とは……秋永 久秀(あきなが ひさひで)殿、至愚の中の至愚なり」
嗚呼、誰か俺の代わりに泣いてくれ。地獄の炎に投げ込まれた心に慈雨を与えてくれよ。出来ない奴はーー
外からの雨音を聞きながら、久秀は座敷で写経をしていた。ふと、縁側に気配を感じてそちらを見やる。
「……誰だ」
「果心(かしん)に御座います」
その名を耳にしたのは、最近の事だ。神咒曙光(ヒイズル)の果てとも揶揄される、山奥深くの隠れ里。外の者が来たとなれば、爪弾き者にすらもその噂は耳へと入る。
「奇術師風情が、貴様も俺を笑いに来たか」
「その逆に御座います。我が術にて見通せば、貴方様には才も地位も充分にある。何故、この里では評されぬのか」
「囀るな。去れ」
元より奇術などという怪しい術に興味はない。久秀は手元の筆を硯に浸し、黒く染め。
「ーー」
その耳に届いた言葉は、嗚呼ーー久秀が今、最も欲した慈雨だった。
●悪意、怨々と
「久秀様のお客人、ですか?」
屋敷の女中は怪訝な顔で特異運命座標を出迎えた。廊下を歩けばヒソヒソと、あちらこちらで声をひそめて話す声。
「貴様らが特異運命座標とやらか」
ヒイズルのクエスト一覧に突如現れた討伐依頼。それはオトギリの里という山奥の隠れ里だった。依頼主は里の領主、秋永 久秀という男だ。手にした扇子で雨上がりの空を指し、こう続けた。
「我が里は秘境も秘境。ゆえに閉鎖的であり、夜妖<ヨル>の対処が出来るほど強き者がおらぬ。
里の近くに出たという、八咫烏の対処を頼みたい」
三本脚の大鴉、その夜妖の名を八咫烏と呼び、里の者はみな怯えていた。鋭い嘴は肉を抉り、鉤爪で骨をも切り裂くーーそんな恐ろしい怪物が、里の近くに出たというのだ。
「彼奴を討った暁には、その証拠として宝珠を持って参れ。八咫烏の首にかかっているそうだからな。
よいか、壊してはならぬ。絶対に持ち帰るのだぞ」
- 黒翼の降る夜は完了
- NM名芳董
- 種別クエストテイル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年02月11日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
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参加者一覧(4人)
リプレイ
●
八咫烏とは本来"太陽の導き手"であるのだと『シュレティンガーの受理』樹里(p3x000692)は知っている。
それが夜妖として夜間に現れるとは只事ではない。おまけに不吉と言われてしまえば『そのもの』ではないとはいえ、導き手たる彼女としては複雑だ。
「ふくざつついでに……そんなものの首にかかった珠をほしがるというのもなにやらふおんです」
危険なフラグを"受理"する気配をじゅりセンサーが感知する。受信の煽りを受けてフラつく樹里を支えながら、『双ツ星』コル(p3x007025)はぽつりと零した。
「嫌な匂いがしますです」
この時期の平原は、厳しい冬を耐えた植物が芽吹きの時を迎え、草の青い匂いや花の甘い香りが春の訪れを教えてくれる――幸せをぎゅっと詰め込んだ様ないいにおいがする筈なのに。におい分析をするまでもなく、血生臭さと敵意にまみれて息苦しい。
「そういえば、イズルさんは前日に村の様子を調べたのですよね?」
頷く『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)の表情は、布越しの目元を推測するまでもなく浮かない顔だ。オトギリの里はプレイヤーを警戒しており、『イケ面(めん)無罪』(誰この名称考えたの。うん、私だったね)が無ければ情報を引き出すのは難しかっただろう。
『数年前、郷に疫病が流行りまして。秋永一族の有力者が、久秀様を残して全員亡くなられたのです』
郷の者達は「久秀の呪いだ」と噂するようになり、民の混乱を鎮めるため、彼は今”音の因子としての力"を封じられているのだという。頭首でありながら郷の者に監視され続ける日々は、なんと息苦しいものだろうか。
「夜妖はヒトの心より生じる影……なにがしかの縁がここにあるかもしれない」
「クカカッ、お火(ひ)とよしだな、お前は!」
『炎獄の聲』レンゴク(p3x009744)の気が昂るほど、光背の炎が激しさを増していく。
初の夜妖(からす)退治とくれば滾らずにいられない。その身体は、肉体どころか血や骨をも灼き尽くさん勢いに闘争(いくさ)を求めていた。
「塵すら残さず火(か)っ喰らうぜェ!! ……ア?」
じーっ。樹里の半眼の視線が刺さり、レンゴクの眉間に皺が寄る。
「珠は灰にするまえにしらべましょーね」
「んな事いったってこのテンションで"火(か)ゲン"出来る訳――」
「しらべるまえに灰にしたら、雨雲を受理します」
「わーーったよ! 奪(や)りゃあいいんだろ、ヤりゃあよォ!」
ゴァッ! と神なる力を込めた紅蓮の炎が降る。八つ当たりなどではなく、今しがた現れたばかりの悪霊を燃やすため放ったものだった。
――う゛ぅぅゥ……
呻きと共に重い空気を周囲一帯へ広げていく悪路霊。一体やられたのを契機にわらわらと何処からともなく現れだす。
「出てきましたね、コルが今度こそおねんねさせてあげます」
両足を開き、指先まで意識を集中して研ぎ澄ます。狼の構えから突き出されるブラッドカタールに空中で霧散する悪霊。やられた仲間の仇を取ろうと仲間の悪霊がコルとレンゴクへ群がっていく。手数重視で戦うコルは、そのひとつを更に穿ちつつ、反撃の瘴気に眉を寄せた。
「ッ、息苦しいのです……」
「上等じゃねぇか。これが呪いってヤツか!」
現実世界と変わらぬ痛みが身体を蝕む。その傷を和らげる温もりもまた、限りなく本物で。
「大丈夫かい?」
イズルのアクティブスキル4が癒しの力を広範囲に撒く。
「怪我したそばから回復はできるけど……」
「たぜいにぶぜい、というやつですね」
樹里のじゅりアイズが夜を見通し怨霊の数を感知する。その総数たるや、数えるのが億劫になる程に。4人を包囲する様にじりじり迫る怨霊へ、レンゴクが一歩前に出た。
燃やし尽くせ。焦がし尽くせ。
すべての敵を滅却(や)き尽くせ!!!
「俺にはこれしかねぇ。だからこそ確実(ぜってー)倒す自信があるんだぜ!」
怨霊に呪いで締め付けられながらレンゴクは笑う。
「冷やしてくれ、醒ましてくれ。俺のこの昂りをよォ! テメェ等にはその義務(セキニン)があんだろーが!!」
ドォ! と大気が揺れた。放たれた渾身の『紅蓮のフレイムバースト』が火柱を上げて空を焦がす。包囲網に穴が開き、勢いづく特異運命座標を押し返そうと"ソレ"は大空から飛来した。辺り一帯を翼の影で闇色の染めながら、三本足が鋭くこちらに向けられる。
「八咫烏、かなり大きいね」
イズルが身構えた瞬間、ふいに隣から声がした。
アオォオーーン!!
遠吠えと共に殺意が膨れ上がる。現れたるは黒き狼。駆け出したかと思えば"彼女"は既に獲物へ牙を立てていた。噛みつき引き裂き、悪霊の数を苛烈な攻撃でねじ伏せる。姿は禍々しいが、その狼は間違いなくコルである。
「月閃」
樹里がぽつりと呟く。神咒曙光が混乱に陥った時はまだ非力で、使うのは躊躇われた。けれど今なら――
「プレイヤー(祈る者)ではなくデウス・エクス・受理(受理神)となるのか……はたまた不受理の申し子としてけーざいをどんぞこにたたきおとすのか」
『まわれ、回れ、廻れ、周れ』
――聖句・外伝より一節
受理を得ても不受理を得ても世界は廻る。否――廻らせなければ先はない。回転率、試行回数。その一歩あればこそ受理が実るというのなら、月閃もまた同じ。
「これでッ……!」
イズルが光晶翼アルフュールで空を舞い、八咫烏を上空から強打する。『夜告鳥の護る揺り籠』で強化された一撃は敵の動きを封殺し、落下しはじめたところへ二つの影が躍り出た。
グルルルル!!!
黒狼が唸り、八咫烏の右翼を食い千切る。
「業炎(アカ)に沈みなァ!」
レンゴクの炎が左翼を燃やし、灰塵が空へ散る。
「ざれごとですが」
落下した八咫烏を待ち受けていたのは樹里だった。両手を伸ばし、天使のように微笑んでみせる。
「私がどんな『受理』をしたか、目にやきつけてくださいね。……『月閃』」
黒翼の降る夜を、眩いばかりの光が照らし、樹里の姿は――
●
「ほう。これが『八咫烏の宝珠』か」
手渡された首飾りの大玉の珠を天に翳して久秀はまじまじと眺めた。真珠を拳大に大きくした様な宝石は、無垢な白さを持っている。
数時間前のどろどろとした怨念渦巻く呪いの珠とは見違えるほどだ。
「……やはり、あまり良いものでは無いようだね」
『アカシア樹の記録』で読み込んだ情報をイズルは眺める。テキスト通りの効果なら、これは持ち主に不幸をもたらす呪いの品だ。
久秀がそれを知って"持ち帰れ"と命令したかは定かではないが、渡せば何か新たな事件が起こるかもしれない。
「思い入れがあって、ちょっと過保護なのは自覚している。サブクエストとしては納品して構わない物なのだろう……けれど」
「珠のあつかいについてはイズルさまにいちにんです。わるいものなら、ぱりーんとわっちゃいましょう」
悩む素振りを見せるイズルへ、樹里はぐっと親指を立てて頷いた。
月閃が解けたコルも、とててと珠へ近づきにおいセンサーで珠を調べる。
「くんくん……ふわっ! この臭いは、こわいこわいなのです」
あまりの邪気に、びびびと尻尾を逆立てた後にウゥゥと唸る。彼女もまた、不吉な品なら渡すべきではないと考えていた。
「ありがとう。私も知る『彼』も……思い詰めて、見通せぬ闇の中へ踏み入ってしまう傾向のある人だから。ここはひとつ、戦闘中に壊れてしまったという事で」
そうと決まれば砕いてしまおう。イズルが身構えたその時、珠を持つ手から怨念の想いを感じて動きを止める。
『『兄さんは疫病なんて広めてない! 守らなきゃ。郷の皆から、兄さんを僕が守るんだ!!』』
「何だよ、ブッ壊すんじゃなかったのか?」
一連の様子を見ていたレンゴクが、イズルへと声をかける。
「この珠に憑いた怨霊を私は知っている。彼は秋永長瀬……久秀さんの弟だ」
長頼は『秋永一族の有力者』だった。郷に蔓延した疫病で亡くなった後、自分のせいで兄の力を封じられた事に、強い哀しみを覚えたのだろう。
「そんなら決まりだなァ!」
「レンゴクさん、何がなのです?」
コルの問いに答える代わりに、メラメラとレンゴクの身体が燃えだした。熱い指先で珠に触れ、快活に一言。
「燃やして解決! 完璧だな」
「いや、返事になっていないのですよ!?」
はわわと慌てるコルの目の前で、炎はそのまま珠を覆い――取り憑く怨念だけを綺麗に燃やして天へと昇らせた。レンゴクのクラスは火神。燃ゆる焔は暁を照らす光となって、不浄の者を燃やすのだ。
「後の事は俺らに任せて成仏(ねむ)っちまいなァ! お前の兄には特異運命座標がついてんだからよ!」
『『本当に? 君達ぐらい強い人が味方なら、兄さんも心強いと思うけど』』
――信じるからね。兄さんを任せたよ。
長頼の怨念が消えた後、残された珠をぎゅっとイズルは強く握りしめた。
「分かってる。それぐらいは託されてあげるよ」
「本当にあの凶悪になった八咫烏の宝珠なのか? 綺麗ではあるが、普通の――」
「久秀さん、キミが嫌でなければだけれど」
「うん?」
「次は友人として訪問してもいいかな?」
イズルからの思いがけない提案に久秀は目を見開く。それから返答に困った様子で、あたふたと視線を彷徨わせた。
「な、唐突に何を言い出すかと思えば……」
「かわりに久秀さんが気に入りそうな歌を仕入れてきてるよ。これは大陸の一部で流行った演歌という歌で――」
イズルが久秀に演歌の布教をはじめると同時、すっくと樹里が立ち上がる。
「レンゴクさん、コルさん、私達もふきょーをいたしましょう」
此処はよそ者を是としない場所。だから陰の気が溜まり、此度のような事件が起きてしまったのだ。
――故に。
「いっそ、わが受理教のふきょーで陽のきをひろめていくのです。れっつごー」
「ええぇ、私もそれ手伝うですかー!?」
「で、その教義は何か燃やせんのかァ?」
成否
成功
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! NMの芳董です。
里の首領から皆さんへ、何やら頼み事のようです。
●クエスト
メイン)夜妖の群れの全滅
サブ)『八咫烏の宝珠』の納品
●フィールド
オトギリの里近辺の平原です。特異運命座標が現れれば、八咫烏達はすぐ襲い掛かって来るでしょう。
遮蔽物は特になく、足場のペナルティもありません。夜であるため、視界はやや悪いようです。
サクラメントは里の広場にあるため、リスポーンしてから数ターンかかりますが、戦線復帰は可能な様子。
●エネミー
<夜妖>八咫烏
三本足の大鴉の怪異。【不吉】を運ぶと里の者に恐れられています。身の丈2メートルほどあり、飛行持ち。【乱れ】を範囲で振り撒く他、嘴や爪での【出血】攻撃をしてきます。攻撃力、体力が高く、なかなか手強い存在です。
首に『八咫烏の宝珠』がついた首飾りを付けています。
<夜妖>悪路霊×30
怨霊が集まり実体化したと噂される怪異。不気味な呻きと共に襲いかかってきます。【呪い】を付与してくる事があり、群がって来るため注意が必要です。
●魔哭天焦『月閃』
当シナリオは『月閃』という能力を、一人につき一度だけ使用することが出来ます。
プレイングで月閃を宣言した際には、暫くの間、戦闘能力がハネ上がります。
夜妖を纏うため、禍々しいオーラに包まれます。
またこの時『反転イラスト』などの姿になることも出来ます。
(※ヒイズルでの侵食問題は解決されたため、侵食度等への悪影響はありません)
●登場人物
『オトギリの里 頭首』秋永 久秀(あきなが ひさひで)
神咒曙光の山奥にある隠れ里の頭首。里の民からはあまり信頼されていない様です。
冬越 弾正(p3p007105)と同じ容姿をしたNPCの様ですが……。
●情報制度
この依頼の情報制度はBです。
依頼人の言葉に嘘はありませんが、不明な点もあります。
説明は以上です。それでは、よい旅を!
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