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シナリオ詳細

トゥレリアとジャコウ岩場

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●トゥレリアの赤
 弦が空気を震わせ、涼やかな気持ちを広げていく。
 独特のゆったりとしたリズムは人の心を引きつけ、澄んだ青空や遠い山々や、はるか昔の祖先のことを思わせる。
 仮に自分が亜竜種でなかったとしても。
「これが、『トゥレリア』?」
 暫く演奏を聴いていたЯ・E・D(p3p009532)は、隣の仲介人にそう尋ねた。
 仲介人――赤鱗をしたリザードマンタイプの亜竜種は頷き、演奏する先頭の女性をさして言う。
「そうさ、響竜の伝説を今に伝える、フリアノンに無くてはならない楽団。それがトゥレリアなのだよ」

 古い古い、おとぎ話のこと。
 亜竜集落フリアノンのために歌をうたった竜がいた。
 『響竜』の二つ名をもつ赤き竜トゥレリアは伝説となり、伝説は楽団という形で現代へと受け継がれた。
 楽団の名は響竜から冠して『トゥレリア』という。
「彼女が今代のトゥレリアの座長、シェリラだ」
 演奏を終えた頃。仲介人がテントの中で彼女を紹介してくれた。
 渇いた植物を編んで作った敷物の上に正座をし、シェリラとよばれた女性が楽器をこまかくいじっている。手入れ、だろうか。
 シェリラはちらりとだけЯ・E・Dたちの方を見たが、すぐに楽器の手入れへと意識を戻してしまう。
 『嫌われているのかな』と少しだけ思ったが、シェリラが自らの赤い爪でキンッと弦を鳴らしたことでその疑念は晴れた。
 なぜなら、彼女の鳴らす音がどこか、『お会いできて光栄です』とでも言っているようだったからだ。
 こんなことは珍しくないようで、仲介人が苦笑して肩をすくめる。
「座長殿はつとめてローレットとの交流をさけているのだ。彼女が心を開けば、響竜トゥレリアにそれだけ危険が及ぶかもしれない。楽団の存在意義にかかわる重大な責任なのだよ」
「こら、勝手にあたしを気難しい女にするんじゃあないよ」
 楽器の手入れが一通り済んだのだろうか。シェリラはこちらへと向き直り、独特な弦楽器をしまった箱を膝に置いた。
「悪いね。改めて自己紹介をさせて貰うよ。楽団トゥレリアの座長、シェリラだわね。
 楽器の手入れはなにより重要なのさ」
 少しかわった口調の女性だ。が、演奏をしていた時の凛とした雰囲気とはうってかわって、非常に接しやすいお姉さんといった雰囲気で笑っている。
「今回あんたたちに頼むも、この楽器がらみのことだわね」

●覇竜領域トライアル
 前人未踏の覇竜領域内で、ローレットは亜竜種たちの里を発見した。
 友誼を図るための手段として、この領域で生き残れるだけの力を示すことを求められたのだ。
 これは、そんな中で生まれた依頼のひとつである。

●ジャコウワイバーンの岩石地帯
 広い敷物の上に、ローレット・イレギュラーズとシェリラは円をつくるようにして座っている。
 シェリラはトンッと楽器の箱を指で叩いて見せた。
「この楽器には特別な弦が使われてるのさ。ジャコウ蔓っていう植物からつくられる弦でね、トゥレリアのような音楽を捧げるにはなくてはならない素材なのさ」
 見本にと取り出した植物はゼンマイめいていて、緑と黄色の中間くらいのグラデーションがかかった色をしていた。植物表面に独特の小さな葉がついていて、一度見れば見間違えることはないだろう。
「とはいっても、ジャコウ蔓が自生してる岩場地帯は限られてるのさ。それもジャコウワイバーンが生息する危険な岩場でね」
 ここまで説明すれば、ローレットに依頼したい内容もわかってくるというものだろう。
 シェリラはそうさと首をかしげ、ジャコウ蔓を掲げて見せた。
「できるだけ多く、このジャコウ蔓をとってきて欲しいのさ。依頼料はキッチリ。沢山とってこれたら、今度の演奏会には特等席を用意するだわね」

 ジャコウワイバーンというのは、名の通りジャコウ岩場に生息する亜竜である。
 岩のように表皮が硬く、雑食性で主にジャコウ蔓や動物を食べて生きている。特にジャコウ蔓に対して鼻がきくため、採取に際しては一番の警戒対象となるだろう。
「ここからは私から説明させて貰おう」
 仲介人が手書きの地図とジャコウワイバーンの図を見せて語り始めた。
「ジャコウ蔓採取は数年に一度、実力のある者たちでチームを組んで行われる。
 大抵はメンバーの能力や工夫で乗り切るんだが、参考までに『うまく行かなかった工夫』『上手くいった工夫』をそれぞれ教えておこうか」
 仲介人が翳したジャコウ蔓。鼻を近づけただけでは匂いらしいにおいはない。どうやらジャコウワイバーンだけが嗅ぎ分ける特殊ななにかがあるらしい。
「まず上手くいかなかったのは、探索メンバーが香水をふりかけてジャコウ蔓のにおいを消そうとした作戦だ。どうごまかしたところでジャコウワイバーンは正しく嗅ぎつけてきた。
 逆に上手くいったのは、採取した現地のジャコウ蔓を乱暴に握りつぶして身体にぬったくることだ。これでジャコウワイバーンの注意をあえて引きつけることには成功してる。こいつをうまくつかうといい」
 次に示したのはジャコウワイバーンの図である。
 一般的(?)なワイバーンに比べ翼は小さく、表皮は岩のように分厚く、角がフォークのようにわかれている。尻尾にはモーニングスターのような突起がついていた。
「見たまま防御がかたく、飛行に不向きで、爪や角や鈍器のような尻尾での殴打攻撃が得意だ。
 現地にはそれなりの数がいるはずだから、片っ端から全部殲滅しようなんて考えないほうがいいだろう」
 目的はあくまでジャコウ蔓の採取。
 戦闘を避ける手段があるならそうしたほうがいいし、その間に誰かが注意を引きつけておくのもいいだろう。
「まあ、見つかるときは見つかるものだ。そして、ジャコウワイバーンに見つかったからといって生きて帰れないなら……このあたりで生きていくのは難しい。知っていると思うが、これはテストでもあるわけだ」
 最後にシェリラが短く鼻歌をうたって指を振った。
「うまくやってくれるのを祈ってるよ」
「うん。まかせて」
 Я・E・Dはこっくりと頷いて、そして敷物から立ち上がった。ちょっと、脚が痺れたが。

GMコメント

●オーダー
 楽団トゥレリアの座長シェリラから、あなたは依頼を受けました。
 内容はジャコウ岩場へと侵入し、自生している『ジャコウ蔓』をできるだけ沢山採取してくること。

 ちょっとしか採取できなくても軽傷程度で帰ってくれば一応成功扱いとなりますが、折角なのでどれだけ沢山とれるかを挑んでみましょう。
 といっても、欲張りすぎれば命が危ないですし『重傷を負うほど』であれば依頼は失敗扱いとなります。(ジャコウ蔓採取で重傷を負うならこのあたりでやっていけないかも……と判断されてしまうためです)
 自分の力量を、あるいは仲間達の力量をしっかりと見つめながら、できるかぎりを目指すのがよいでしょう。

●ジャコウワイバーン
 OPでも述べた通り、防御が固く飛行に不向きで爪や角や尻尾による殴打攻撃が主という結構地に足のついた亜竜です。
 一応飛べないこともないし、高高度での戦闘も無理じゃあないですが、ジャコウ岩場の地形特性上あんまり空高く飛んで活動しないほうがいいでしょう。
 一個体ずつの戦闘能力も結構高いので、遭遇したらしっかり戦えるように探索チームは分割したとしても2~4人くらいにしておくのが妥当です。

●ジャコウ岩場と探索
 ごつごつとしていて高低差の激しい岩場です。
 ですので、ワイバーンから身を隠しながら移動するのに適しています。といっても見つかるときは見つかるのですが。

 ジャコウ蔓は岩と岩の間とかによく生えていて、植物に関する知識があるとより見つけやすいかもしれません。
 その他探索に優れた非戦スキルもある程度有効でしょう。
 ただファミリアー等を使って空から探そうとするとジャコウワイバーンが飛び上がってしまって(自分や仲間が間接的に見つかりかねないので)だいぶ危険です。身を低くしながら探索するスタイルがお勧めです。そしてこの辺りにはジャコウネズミという手のひらサイズの小動物がいるので、ファミリアー探索にはこいつが割とお勧めです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • トゥレリアとジャコウ岩場完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年02月06日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
葛籠 檻(p3p009493)
蛇蠱の傍
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー

リプレイ

●ジャコウ岩場にて
 渇いた土色の風景が、広く広く続いている。
 照りつける太陽の光がまるで砂塵をおこすようで、『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は思わず口元をおさえた。
「ラサの時も思ったが、この辺のカラカラした熱気はどうも海育ちのおっさんには慣れねぇなあ」
 その後ろをついてきた『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は、『そう?』といった様子で首をかしげる。
「おまえさんには慣れた暑さかい?」
「うーん……そう、かも?」
 リュコスは少し考えてみたが、どうもピンときてはいないらしい。あまりに違う気候の世界から来たのか、それとも聞こうについて考えたことがないからなのか。
 リュコスのきょとんとした表情からはわからない。
「まあ、新しい国に来たんだ。これまでにない体験はして当然だろう」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は流れそうになるたびに渇いていく汗にまいったのか、持参してきた水筒を開いて口をつける。
「それにしても……トゥレリアか。いい演奏だった。新しい国を見ていろんな事を感じてきたが、やっぱり音楽は格別だな」
 今回の仕事をうまくこなせば次の演奏会で最前列のチケットをくれるらしい。
 イズマのモチベーションはそれだけでも急上昇だ。
「ふむー!」
 『泥沼ハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)が付けひげをぴんとはじいて声を上げた。紳士の重々しい『ふむ』を言いたかったようだが、持ち前のテンションと声の大きさのせいでかわった生物の鳴き声みたいになっている。
「それにしても、植物の蔓を楽器にするのはいいですね! ハーモニア的にgoodですよ! 深緑にもですね、枯れ木にツタを張った楽器があってですねおおっと!」
 調子に乗って付けひげを弾きすぎたせいか口元からはずれ、軽くお手玉したあとぺたっとくっつけなおした。
 ふうと息をつくウテナ。
「とにかく! 植物といえばハーモニア! 任せて下さい! 活躍しますよ!」
 腕にちいさな力こぶをつくってぽんと叩いてみせるウテナ。
 動きが激しいなあとイズマは穏やかな目で見つめつつ、『心強いね』と優しく言った。
「要は、俺達に特等席を用意するだけの価値があると証明できりゃぁいいんだろ?
 だったらこっちは、飲み物もサービスでつけちまいたくなるくらいの働きを見せてやろうかね」
 十夜のまとめたような言葉に、頷く仲間達。リュコスは背負っていた革製のリュックサック(ジャコウ蔓の劣化を防ぐ作用のある素材でできている、らしい)をきゅっと背負い直した。

 初めのチームが四人だったことからもおわかり頂けるように、今回は四人ずつのチーム分けでコトにあたっていた。
 ジャコウ岩場にさしかかった所でまず左右にわかれ、大雑把にわけた二つのエリアを探索するという手はずである。
 まあ、年イチでやっているだけあって、探して見つからないということはないだろう。
 そのうえで試される要素は色々あるのだろうが……。
「うう~」
 『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)がよたよたとした歩き方をしていた。
「どうしました?」
 心配そうに見てくる『群鱗』只野・黒子(p3p008597)に、手を上げてぷるぷるするフラン。
「敷物の上であの……せいざ? っていうのをしてたら、あし、脚が……」
 痺れたのかと呟いて頷く黒子。
「両手をぴんとのばしながら、頭上で五本の指の指紋がぴったりつくようにあわせ、三回ジャンプすると治りますよ」
「え~そんなことで……あっなおった! すごーい!」
 フランは日常生活で絶対しないようなポーズでぴょんぴょんはねてみせる。
 大きな竜の姿をした『とりかご』葛籠 檻(p3p009493)が、感心したように黒子を見た。
「あのようなやり方は聞いたことがなかったぞ」
「それはそうでしょう。嘘ですから」
「…………」
 無言で視線を送る檻。そして『元気100倍!』とか言ってるフランを見て、『プラシーボ効果……』と呟いた。
 檻の姿は竜(というか龍)そのものだが、案外というべきか亜竜集落ではさして驚かれてはいなかった。
 彼らなりにウォーカーの存在を理解し、そして異界の竜とこの世界の竜種の根本的違い(そしてなにより危険度)についても理解していたらしい。逆に言えば、理解できなければいけないほど、この土地における竜というものの存在は大きいのだろう。
「佳い、佳い。疵を負わぬよう慎重に、丁寧に、振る舞おうぞ」
 どうやら記憶を遡らせて、トゥレリアとの話を思い出していたらしい。
 檻は何度か頷き、そして先へ進もうとフランたちに声をかけた。
 特殊な革製のリュックサックを背負い直し、『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)が周りをみまわす。
 遠くから聞いたこともないような声がしたためだ。
 Я・E・Dの知識にはない声だが、大きくて狂暴な野生モンスターに似たような声をあげるものがいたのを思い出す。自分達の縄張りに人間が入った時、漠然とそれを察知して警戒を始める声だ。檻もそのことに気付いたのか、自分達への敵意を感じ離れるように合図してくる。
 頷くことで同意を示すЯ・E・D。
「そうだね。敵に会わない方が、今回はいいよね」
 とはいえここは的の縄張り。多くのジャコウ蔓を見つけようとするならば、多少の戦闘はやむを得ないだろう。
 ジャコウワイバーンがこちらをどのように認識しているかはわからないが、自宅に入ってきて欲しくない動物(あるいは虫)が侵入してしまったときのピリピリした気持ちを想像すれば、むべなるかなである。
 出て行ってくれればそれでいいが、殺して放り出したほうが圧倒的に早いと彼らもおもうだろうから。


「ど、どうも」
 身をかがめ、呼びかけるフラン。
 対するは手のひらに載る程度の灰色の齧歯類。ジャコウネズミである。
 たまたま二匹のジャコウネズミに遭遇したフランはファミリアーを行使するべく、片方のジャコウネズミへと五感を接続した。相方(?)に何かが乗り移ったのを察したジャコウネズミがビクッとするが、フランのそっと置いたクルミを持たせることで何かを察してくれたようだ。
「あのね、ジャコウ蔓っていう……この、こう、こういうあの、ながい? 植物? が欲しいんだけど、わかるかな?」
 ネズミが立ち上がって両手でめっちゃジェスチャーするさまをご想像頂きたい。
 ジャコウネズミ的には『蔓ってなに?』の段階から分かっていないらしく、特徴を苦労して伝えたところ……よっしゃついてこいと(ネズミの言葉で)言って走り出した。
 細い岩と岩の間を抜けて進んでいくと、ジャコウワイバーンでは入れないくらい小さなスペースを発見した。
 接続した目では暗くてよく見えないが、うっすらと確かにジャコウ蔓の姿が見える。
「ありがとー! 危険かもしれないからもどろもどろ!」
 同じくジェスチャー多めのネズミ(inフラン)が走り出すと、場所をなんとなく把握した黒子が適当なマップを書き始める。
 黒子がネズミの追跡に使っていたのは広域俯瞰という能力だ。上空から見下ろすような視点をとれるという能力で、飛行能力が一般的なこの世界でも重宝されている。
 というのも、小鳥を飛ばせないようなこの状況でも安全に俯瞰視点を確保できるという点が強いのだ。
 実際俯瞰してみると、遠くをジャコウワイバーンがうろうろしている様子が分かるし、先ほどネズミに案内してもらったスペースのすぐそばでもあった。
 ふむ、と考え込む黒子。
「岩の厚みからして、物質透過能力があれば蔓を取り外せるでしょう。あとはネズミの力で引き出すことができるはずですが……」
 黒子がちらりとЯ・E・Dを見る。
 Я・E・Dは一秒ほど視線の意味を考えてから、ムンッと親指を立てて返した。

 さて、そうなると大変なのはジャコウワイバーンである。
 物質透過は便利な一方、透過前後が無防備になるという欠点をもつ。ものを知らない新米冒険者が透過によって不意打ちを試みて逆に追い詰められるなんていうのはよく聞く話だ。
 そんなЯ・E・Dを守るように展開してくれたのが檻だった。
「小生の体躯が多少なりとも役に立とう」
 狙うは一撃離脱。というか陽動作戦だ。
 ジャコウワイバーンを攻撃して大きく離れ、そのすきにЯ・E・Dとフランで蔓をひっぱりだして回収、撤退という流れである。
 陽動に檻と黒子がついたのは、檻のエネミーサーチとハイセンスを用いれば挟み撃ちを回避したり最悪追跡をまくことも可能だろうからだ。黒子は防御に不安のある檻のタンク役である。
「小生に任せるが良いぞ、皆々!」
 ドッとあえて岩を飛び越えるようにして現れた檻は、ジャコウワイバーンめがけて『プラチナムインベルタ』の弾幕を浴びせた。倒すためではない。注意を引くための乱射だ。
 そして一発撃った途端にくるりと反転し、明後日の方向へと走り出す。
 黒子はその機動力に追いつきながらも、ジャコウワーバーンの凄まじい突進と角の攻撃をフルガードの姿勢で受け止めた。
 がしりと角をつかみ、脚をつっぱり、飛び退くような力の入れ方で衝撃を逃がす。
 完全にかわせたとは言いがたいが、自主的な治癒でリカバリー可能な範囲と言えるだろう。
 その間にЯ・E・Dは岩を透過し狭いスペースへ入り込むと、大量に岩肌にくっついていたジャコウ蔓を剥がして地面にまとめる。それを、フランのファミリアーネズミと協力してくれたネズミでもって引っ張り出すのだ。
「こういうのも、立派で重要なお仕事だからね……」
 口の中で小さくころがすようにつぶやき、そして離脱。
 出てみると、クルミの食べ方が分からず困っているネズミがいた。
「大丈夫、こうやるんだよ!」
 フランはこぶしを作ると、ゴッとクルミをたたき割った。
 『森ゴリラ』、とネズミは動物の言葉で言った。


 足を止め、岩陰に背を付けて汗を拭う十夜。持参した水筒を開き口をつけ、喉がしばらく上下した。
「……思ったんだが、ワイバーン連中がこぞって食っちまうから、ジャコウ蔓が岩の間なんていう見つかりにくい所にしか残ってねぇんじゃねぇのかね」
 暫く歩き回ってみたが、ジャコウ蔓はその辺の岩場には生えていなかった。ぱっと見てわかる場所にないというのは、確かに十夜の言うとおりなのだろう。
 リュコスもそれには賛成のようで、こくこくと頷いている。
「あのしょくぶつの、におい? あんまりしないよ」
 匂いと聞いて、イズマが首をかしげる。
「ジャコウ蔓の匂いが分かったのか?」
「うん。ちょっとだけ」
 リュコスのように嗅覚に優れた者にはジャコウ蔓のにおいがわかるのだろう。香水でごまかせなかったのは、かぶせたところで匂いの成分が消えるわけではないからだ。優れたものはこうした匂いを嗅ぎ取るという。
「ならやはり、岩の隙間を重点的に探すべきなんだが……」
 今度はイズマはううむと悩む表情をした。
「闇雲に岩陰をジャコウネズミで進み続けるのは効率がよくない。小さい身体では広範囲を探りづらいからな」
「で、あるならば!」
 最後のばを『う゛ぁ』て発音してウテナが両手をバッと上げた。
 本当は天高くぴんと伸ばしたかったのだろうが、岩陰に隠れる都合上顔の高さまで。
「自然を愛し自然に生きるハーモニアパゥワーの出番! 早速インタビューしてみましょう!」
 小声で声を張るというなんか器用なしゃべり方をしつつ、ウテナはぺったりと頬を地面につけた。
 渇いた砂と岩だらけの土地である。草花はあまりないが、全くないというわけではない。
 岩陰にちょこんとはえた小さなサボテンに、小声で『こんにちはー』とささやきかけていた。ちなみに『自然会話』は言語で疎通するわけではないので言葉を出す必要は全くない。なので、ノリである。
 暫くうんうんなるほどーと呟いたあと、頬に砂をつけたままウテナがぴょこんと頭をあげた。
「大体分かりましたよ!」
「本当にか!?」
 チョット信じてなかったのか、イズマが二度見した。
 通常、植物ってやつは植物なりのオートメーションAIしか詰んでいないので『ジャコウ蔓はどこにありますか』という言葉を伝えたとして『ジャコウ』も『蔓』も、あるいは『どこ』すらも理解できないパターンだってある。ウテナがそこまで把握できたのは、サボテンがもつ水分の度合いや生きているであろう長さと見える限りの分布。そういったものを素早く意思から読み取りつつ自分の植物の知識と照らし合わせたがゆえである。
 ウテナは適当な岩陰を見つけると、そのスキマにちょいちょいと手招きをした。
 その動作でピンときたイズマがファミリアーの力を行使してみると、岩陰からぴょこんとジャコウネズミが二匹ほど姿を見せた。
「……わかったぞ。雑食のジャコウワイバーンにとってジャコウネズミは格好のタンパク源だ。だからこそジャコウネズミは『ジャコウワイバーンの入れない場所』を住処とする。そしてそういった場所には水分や養分が溜まりやすく……ジャコウ蔓が自生し残りやすい!」
 分かってみればなんて簡単なパズルだ、とイズマは手を叩く。そしてジャコウネズミを使役状態にすると、その前歯で囓るようにして岩の隙間にあるジャコウ蔓の引き剥がしを開始した。
 しかし、そう長い時間続けていられる作業ではない。
 十夜がすっくと立ち上がった。
「さて、おいでなすったようだぜ。折角とった蔓、飛ばされちまわねぇようにしっかり握っておいてくれや」
「うん」
 それに付き合うように、リュコスもまた立ち上がる。気配を殺して移動するのもいいが、今は時間を稼ぐタイミングだ。
「あのわいばーん、かたいのはせなか?」
 『見た感じだと外側は硬いけどお腹の方はやわらかめかな?』というようなことをリュコスが言うと、十夜は目を細めた。
 確かに、上手に戦えばジャコウワイバーンを倒していくことも可能だろう。
 しかしそれだけの時間をかければ別のジャコウワイバーンを呼び寄せてしまいかねない。
 やるべきは、適度に戦い適度に逃げる……だ。
 十夜はあえて派手に飛び出すと、青刀『ワダツミ』でジャコウワイバーンの背へ斬り付ける。
 リュコスも同じように『黒顎魔王』の破壊をたたき込むと、二人して一目散に逃げ出した。
 『今のうちに』という合図を出しながら。


 かくして、八人は多少の危険にさらされつつもなんとか目的の量のジャコウ蔓を獲得しジャコウ岩場をあとにした。
 その様子にシェリラはいたく喜び、次の演奏会には特等席を用意することを約束してくれた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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