シナリオ詳細
海狂の巴
オープニング
●海狂の巴
果てることなき海が広がる、フェデリア島近海域。
過去に大きな戦が起きて、多くの人々が命を落とし、海の底に沈んでしまったのは、この地に住まう人々であれば、誰しもが知って居る事。
『おう、お前ら! んじゃー今日も、張り切ってサルベージしていくとすっぞ!!』
『『おー!』』
船の上で威声を張り上げるのは、この海域でせっせと海の底を攫い、金品財宝を召し上げるという仕業を日に日に繰り返している海賊団『ナタルの風』一味。
そんな仕事で大丈夫か、などと思われるかも知れないが、以外に先の大戦によって沈んだ船は多い。
そして金品財宝を積んだ船も、数撃ちゃ当たるという程度には存在する様で……引き揚げた船に財宝があるやないやで日に日に一喜一憂する彼ら。
今日も引き揚げた船を分解し、隅々まで調べて財宝を回収。
一日、二日、三日……数日掛けて様々な船を引き揚げて、回収した財宝は、船の船倉一杯になる位まで回収。
『へへ……これだけありゃぁ、また一週間くらいは楽して過ごせそうだな! よーっし、今日は皆、フェデリア島に帰って打ち上げだー!』
『『やったぜアニキぃ!! んじゃぁ、面舵一杯ー!!』』
ぐるんぐるんと操舵輪を回して、フェデリア島に向けて方向転換する彼ら。
少し回転させた所で……ガシッ、と何かが噛んでしまったかのように、動かせなくなる。
『ん……なんだ? 急に重くなって……ぐぬぬぬぬ……!!』
思いっきり力を込めて、操舵輪を回す船員。
だが、操舵輪は回る事無く、ポキッ、とレバーが折れてしまう。
『おいおい、何やってんだよ!! これじゃ帰れねーじゃねぇか!』
『まぁ、しゃーない。なら、櫂で方向を変えれば良い。ほら、行くぞ皆!』
部下達に指示を与え、櫂を水面に降ろし、掻く。
しかしその櫂が水中に触れると共に……櫂は何者かにぐぐっ、と引き摺り込まれる。
『うわぁっ!?』
落水する船員……その先には、水面に浮かびつつある、8本脚の……狂王種。
『……う、うわぁあああ!!』
絶叫する彼らに怯む事などなく、巨大なタコの狂王種は『ナタルの風』の船に絡みついていくのであった。
●
「……ん。ああ、もう集まってたか。良し、それじゃ説明を始めるぜ?」
と、『黒猫の』ショウ(p3n00005)は集まった君達にニヒルな笑みを浮かべながら、早速。
「今回皆には、ちと面倒臭いヤツを倒してきて欲しいんだわ。ま……海洋からすれば、切っても切り離せない相手なんだがな」
海洋と切っても切り離せないヤツ、と言えば幽霊船なのか、と思う事だろう。
だが、それにカイト・シャルラハが。
「もしかして……狂王種か?」
と言うと、ショウはコクリと頷き。
「ああ、ご名答だ。どうも狂王種が、フェデリア島から数日南西に航路をとった所に巣くってしまった様でな……まぁ海底に居る様で、単純に航海している分には影響を与えてこないんだ」
「しかし、皆も知っての通りフェデリア島の近海には、先の大戦やら、それよりも昔に沈んでしまった船が多く存在する。それらの船をサルベージして、金品財宝を手に入れようって言う不届き者達も居るって訳なんだわ」
「そう、今回もそんなサルベージ船の船員達が、狂王種を下手に刺激してしまい、やぶ蛇が如く怒ってヤツが出てきて締まったって訳だ……ほっとけって思って居るのも居るかもしれんが、一度刺激された狂王種は味を占めて次から次へと船を襲うなんて事も十分に有りうる話だからな……出た芽は早々に摘んでおこう、って訳さ」
「ああ、そうだな……それがいい」
頷くカイト、そしてショウは。
「という訳で面倒だなんて言わず、宜しく頼むぜ……奴らの回収した金品財宝を少し位くすねても、俺は知らん」
とそっぽを向くと共に、ひらひらと手を振り皆を送り出すのであった。
- 海狂の巴完了
- GM名緋月燕
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●欲望のまま
果てなき広大なる海の広がる海洋はフェデリア島近海。
過去に勃発した大戦の影は、最早平和な海に塗り潰されつつ有り、この海域に住まう人々も、平穏なる生活に慣れ始めていた。
……だが、そんな平穏に飽き足らず、自ら困難な事態に首を突っ込んでいこうという気性の荒い人々も又、この海域には多く住んでいる様で……。
「……また出たのか、狂王種……」
眉間に皺を寄せながら、深い溜息を吐いてしまう『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)。
彼の言う通り、平和になりつつあるこの海域で未だに根深く発生しているのは、巨大化したり、凶暴化したりしたモンスターである狂王種が船乗り達を喰らってしまうというもの。
何処に居るかも、何故に居るのかも判ってはいないが、彼等によって鎮められた船は数知れない所。
「狂王種か……いやはや、あの絶望の海の冒険が思い出されるねぇ……」
と不敵な笑みを浮かべた『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)。
それに頷くと共に『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)も。
「ああ。とりあえず、お馴染みの幽霊船とかではなくて安心した。が……これもこれだな。いい加減無闇にサルベージだの何だのをやるのは危ねぇって、注意書きの一つくらい出しておいた方がいいんじゃねぇかい?」
海洋にて活躍している縁からすれば、幽霊船騒ぎも、狂王種騒ぎも見知った事件。
勿論狂王種の事件において、不意に海底から出て来て襲われたなんて例もある。
だが、結構な頻度で金銀財宝を残したまま沈んだ船をサルベージしたら、そこに狂王種が一緒に取り憑いていた……なんて事例がかなり多い訳で。
「例え御触書を出したとしても、一攫千金を追い求める者達は後を立たないからな……約束なんて、あって無い様なもんさ」
「うん、その通りだ……とは言えフェデリア海域に住み込まれちゃ、たまったものじゃないよ」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)に更に深い溜息を吐く史之。
そんな仲間達の会話を聞きつつ、ゼフィラは。
「まぁ危険があろうとも、ロマンを追い求めるのは悪い事じゃぁないさ。勿論、降りかかる危険を自分で対処出来なきゃ、部の悪い賭けをしているようなものだろうけどね」
「ああ、狂王種が居る居ないにかかわらず、サルベージは危険と隣り合わせだからな……それに俺達でも対処に苦慮するような狂王種に勝てるレベルの戦力を用意しておけってのは流石に無茶だろうから、仕方ない所だけどな」
ゼフィラと『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の言葉に、小さな小さな『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)が。
「うーん……そうなんだね。海の上は危険が一杯! でもそんな危険を楽しんでいる人もいるんだ?」
そんなリリーの言葉に縁が。
「そう言う事さ。まぁ……別の考えをすれば、この狂王種が宝船の番人をやってくれてる、って言う考え方も出来る。それなら喜んで見逃したんだがねぇ……黒猫の旦那の言う通り、海賊だけを狙うとは限らねえってのが厄介なもんさ」
「そうそう……ま、色々と船をサルベージしてきているそうだから、ここは一つ彼等を助けて、彼等の冒険譚を是非とも聞きたい所だね!」
どこか楽しそうなゼフィラ。
そう、仲間達が会話している横で、『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は船縁から穏やかな波を寄せる海を見つめる。
「ん……どうした? 船酔いか? いや、俺のこの自慢の船、紅鷹丸でそんな事はねーよな?」
どことなく上機嫌な『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)がジェイクに声を掛ける。
ジェイクは、そんなカイトにふっ、と笑いながら。
「大丈夫だ。ちょっと……海洋決戦の事を想いだして、な」
「ああ、そういう事か」
「あの時は廃滅病の件もあったからな……死に物狂いで挑んだものさ。主戦場となったこの辺りは、今でも覚えている。その記憶にちょっと浸ってた訳さ」
「そうか。今回の狂王種は、その戦火をやり過ごして、海底で静かに暮らしていた奴らなのかもな……」
「そうだ。今回、寝た子を起こすような真似をした海賊達の非は大きいし、同情の余地も無いが、狂王種を引き当てた事にはまぁ感謝している。なぜなら……狂王種退治は、俺自身のやり残しでもあるからな」
柔和な口調のジェイクだが、その言葉に掛けたる思いは並々ならぬもの。
それをカイトも感じとった様で。
「そうだな。タコの狂王種だと言うし、8本の触腕がそれぞれ蠢くというから、油断ならねぇ相手だ。気ぃ引き締めていかねえとな!」
サムズアップするカイト、そしてエイヴァンも。
「ああ。其れ其れの脚がどの程度の攻撃をしてくるかもわからん。ならば俺のやる事は、相手を怒りで惹きつけて、船員や味方に攻撃が及ばないようにするのが優先か」
「ああ、それで宜しく頼むぜ!」
既にフェデリア島から出港して3日が経過しており、事前の打合せはバッチリ。
と……不意に。
『……よーし。それじゃあ引き揚げるぞー!』
船の行く先にあった一隻の船が、海中にワイヤーを沈め始める。
「……もしかして……あの船か?」
とイズマが言うと……途端にその船は、大きくワイヤ側に傾く。
『う、うわわっ……!』
船が掛かったのは間違い無いが、想定以上の重さなのか……バランスは急激に悪化。
乗組員達が逆側になんとか昇ることで船体の水平を維持し、引き揚げようとウィンチを上げる。
ザバァァン、と中まで浸水した船から洪水の如く吐き出される海水。
……一通り海水が出きり、沈没船を己が船の甲板に乗せた……その瞬間。
『ウォォォン……!』
船の中からうぞぞぞ、と姿を表した、超巨大なタコ……いや、狂王種。
「出て来た。皆、とっとと片付けよう!」
「ああ、一気に近づけるぜ!」
史之に頷き、カイトが船の操舵輪を回転させ、サルベージ船へと急速展開するのであった。
●海底攫い
『うわ、こいつ、狂王種か!?』
『やばい、こいつが出てくるだなんて聞いてねえ!! おい、すぐ船を降ろせ!!』
突然現れた狂王種に混乱し、その場に座り込む乗組員達。
ウィンチの上下操作する者も、動かす者も……突然の襲撃に驚き、操作盤から手を離し、怪王種から距離を取ろうと逃げ惑う。
甲板の上は、もはや大混乱に陥っており、正常な判断が出来る者は一人も居ない状況。
「わぁ……これはタコ。すっごくタコだねっ。で……なんだか変になっちゃってるトレジャーハンターさんがいっぱい……」
リリーの言う通り、狂王種は、海底から水揚げされ、起こされたことに大層怒っている模様……その8本の触腕をぶんぶんと振り回し、引き揚げた船を木っ端微塵に破壊すると共に、サルベージ船に甲板にも穴を開いていく。
更に巨体の狂王種が暴れれば、船は左へ右へと立て続けに大きく傾き、乗組員達への落水の恐怖と共に、それ以上動けなくさせる。
「ったく、最初っから大暴れだな!」
とカイトは舌打ちしつつも、紅鷹丸を横付け。
船同士がぶつかる事で、左へ右への大きな揺れをどうにか抑え込むが……長時間の維持は難しいだろう。
「行けっ!」
カイトの声に遭わせ、一斉にサルベージ船へと飛び乗っていくイレギュラーズ。
「イレギュラーズが来たぞ、狂王種は任せろ!」
とイズマが船員達に呼びかける。
その目前には巨躯のタコ……いや、狂王種が触腕をびたんびたんと甲板に叩きつけながら威嚇しており、それに怯え、慌て、逃げ惑うサルベージ船員達。
「ったく……おい、しっかりしろ! 俺達が助けに来てやったぞ!」
そう縁が声高らかに宣言。
海洋の名声一位である彼の顔は、流石に海洋に住まう者であれば見聞きしたことはある様で。
『えっ……十夜の兄貴かよっ!?』
『何だって!?』
腰が抜けていた海の漢達は、幾分正気を取り戻した様で、そんな彼等に。
「立てる奴は、あの船に行った行った。タコの餌になりてぇんなら話は別だがね」
と紅鷹丸を指さし指示。
船の帆に真っ赤な緋色の鷹が描かれていて。
『この船は、紅鷹丸……!?』
「そうだよ。ほら、早く乗り込みな……狂王種は俺達に任せて」
『はぁ……!?』
海洋に名を残す、名だたるイレギュラーズ達が助けに来たとあれば、流石に目を白黒させざるを得ない。
……ともあれ、彼等の指示に従い、腰を抜かしていた者はなんとか這いずりながらも、紅鷹丸へと乗り込んでいく。
しかしながら、突然の恐怖に混乱している一部の者達は、まだ悲鳴を上げるばかりでサルベージ船の甲板を走り回るばかり。
「ったく、しょうがないな!」
カイトは飛翔し、混乱している男の元へ。
その翼でぺしっと一撃……軽く気絶させると共に、そいつを抱きかかえて船へと連れて行く。
同じように、混乱の船員にイズマやリトルが。
「お宝も揚げられずに海の藻屑になる気か!? 冷静になれ、自分の身を守れ!」
「そうだよ! 小さいのにこんな事言われて恥ずかしくないのっ? ……ほら、シャキッとしていこっ! ここにいたら、いつ流れ弾来るか判らないし、それでもいいなら此処に居てもいいけど……さ?」
と言う風に声を掛けて正気を取り戻させつつ、船へと誘導。
勿論狂王種は、そんなイレギュラーズ達の救出活動を妨害しようと触腕を一つ、二つ伸ばしてくる。
しかしその触腕を、確りと叩き落とすのはエイヴァンと縁。
「あいつらには行かせないぜ? やるなら、俺達を倒してからだ!」
「その巨体ならば、すり抜けなんて出来ないだろう? 倒す他にないぜ?」
エイヴァンと縁の言葉に、狂王種の顔は更に赤く色付く……更なる怒りに震えているのであろう。
ともあれ、狂王種を二人が牽制してくれている間に、サルベージ船に居た船員達を全員紅鷹丸に移した所で。
「これで良いかな? カイト、頼むよ」
「ああ!」
ゼフィラに頷き、逆舵一杯……ぶつかり合うような形から、紅鷹丸は離れて行く。
少し離れた所まで行くと、カイトは避難した船員の中から一番落ちついてそうな奴に。
「操舵方法は判るな? 取りあえず、この紅鷹丸を鎮めないように、ここからちょっと離れてくれ!」
『え……は、はい……!』
頷き、操舵輪を手にするサルベージ船の船員。
「良し、それじゃ俺もいってくるぜ!」
翼をはためかせ、カイトはサルベージ船へと向かった。
その一方、船が離れていく最中のサルベージ船船上。
己の巣……だったであろう引き揚げ船は最早跡形も無く、その巨躯が完全に船の上に鎮座する。
「本当におっきいタコだねっ。タコ焼きとかにしたら何人前に……いや、そんな事を考えてる場合じゃなかったや。がんばろーっと! さぁ、はじめるよ!」
小さな体に気合いを入れるリトル、そしてゼフィラが。
「よーっし、それじゃあ皆、付いてくるんだ!」
その号令一下、彼と連鎖し動くイレギュラーズ。
狂王種よりも素早く、そして一番敵の間近で構えた縁が。
「取りあえず触腕をぶった切るか。俺は喰わねぇが、切り落としたヤツは後でタコ焼きの具にでもするかい?」
苦笑を浮かべながら、叩き落とすモーションに入った触腕へ接近し、鋭い鋭利の一閃を放つ。
ざっくり深く、触腕の根元側に傷痕を遺すと、更に続くはジェイク。
「同時に8回行動なんてヤバイからな、まずはその手数を少なくするぞ!」
と凶弾を放ち、傷痕残る腕に更なる追撃。
更に続くはイズマの黒顎と、リトルの呪いを纏う魔法の弾丸。
全て、同じ傷痕を狙い済ましての集中砲火を喰らわしていく。
結果、タコ脚は根元から段々と裂け目が入り始める。
その太い触腕の半分程度まで裂け目が到達した所で。
「行くよ! この一撃で、完全に分断してやる!」
史之の放った邪三光が、その傷痕をかっ裂き……一腕を完全に切り離す。
『グゥォォおぅぅ……!』
腕を失い、苦悶の咆哮を上げる狂王種。
残る7本の腕を甲板に叩きつけ、穴を開きつつ、イレギュラーズ達に渾身の一撃を叩きつける。
その攻撃を特に庇い受けたのはエイヴァン。
「くっ……負けてたまるかっ!!」
己が気を解放し、受けた傷を出来うる限り癒す。
だが、それでは足りぬ程に敵の攻撃は激しい……そこでゼフィラが。
「みんな、大丈夫かい?」
と、甲板中心に立ち、仲間全てを範囲に収めた魔性の声で傷を癒す。
そして次の刻。
「次は……あの脚を仕留めるよ!」
母体近くまで潜り込んでいた史之が叫び、ターゲットとなる触腕を指定すると、再びゼフィラから始まる連鎖にて、流れる様な動きで触腕を切り刻む。
タコは連続攻撃は出来るものの、防御手段はほぼ無い。
更にその巨体故に回避行動を取るのも難しく、狙い済ました攻撃で一腕ずつ、確実に切り落とされて行ってしまう。
切り落とされれば攻撃の手数は減る……だが、出来うるのはその触腕でイレギュラーズ達を全力で叩き潰し、薙ぎ払う事のみ。
「どうした? そんな単調な攻撃じゃ、俺達を倒すなんて不可能だぜ?」
とエイヴァンがタコに挑発。
怒りを買う事で、敵が逃げない様に工夫する。
そんな動きを繰り返すタコの脚を確実に切り落としていき、5本目を切り落とした所で。
「待たせたな!!」
船員達を避難させたカイトも合流。
かなり押され気味の状況に、更にもう一人来た……それに狂王種は。
『グゥゥオオオオ……!!』
顔を一層紅潮させると……その口元を尖らし、真っ黒なタコ隅を辺り構わず噴射する。
不意の動き、更に敵の懐まで潜り込んでいた史之や縁は躱す事が出来ずに視界が奪われる……そしてそのままタコは、残った脚で甲板を強く叩きつけ、その反動で船縁を乗り越えようとする。
「させるか!」
しかし、それを見越していたエイヴァンは、釣り上げ用のワイヤーをぐるんと海側から船側へと回転させる。
ワイヤーが狂王種の身に打ち付けられ、飛び跳ね逃げようとしたその身を弾き返し、その身は再び甲板に落下。
……どうもその当たり所が良かったのか、タコは触腕を力無く震わせる。
「気絶……しちゃったのかな? でもまあ今がチャンスだよね! みんな、どんどん仕掛けて行くよっ!」
勢い付くリトルの言葉。
動けずにいる狂王種を狙い撃ちにし、全ての触腕を切り離し……そして、その母体へ。
「悪いな。海の警備に一役買ってくれたのは感謝するが……ここで死んでくれや」
と縁の雷鳴たる一閃がその身を貫き、狂王種はそのまま動かぬ骸に化すのであった。
●風を読む者
「ふぅ……どうやら終わった様だな」
息を吐くエイヴァン。
「ああ……ワイヤーを使って弾き返すだなんてな、流石だな!」
「はは、使えるものは使っておかないとな?」
カイトに笑うエイヴァン……そして目をキランと光らせながら。
「大量大量……って訳で、今夜はタコパだな!」
「ああ! でっかいタコ焼きが出来るぜ! それじゃあいつらを呼び戻してくるから、片付け頼んだぜ!」
再び翼をはためかせ、船へと戻るカイト。
十数分後、再び船を横付けして、サルベージ船の船員達は船に戻る……。
とは言え船の状況は、かなり酷い状況……タコ隅は甲板の至る所に染みこみ、更には穴だらけ。
幸い船倉まで被害は行っていないので沈む事は無さそうだが……修理にはかなりの時間がかかりそうだ。
『……はぁ……仕方ないッスねぇ……』
命あっての物種……でも肩を落とす彼等に。
「ま、元気を出してよ。この海洋で一番腕の良い所を紹介してあげるからさ。お金は……今迄サルベージしたのが結構あるんでしょ?」
笑う史之に、ぎくっ、と言う表情を浮かべる船員達。
「うんうん。やっぱり……ね。ま、差し引きチャラになる位だと思うから元気出しなよ。まっとうに商売すれば、きっとちゃんと稼げると思うしさ」
「そうだな! ちゃんと国の許可を取ってサルベージすればいいと思うぜ! きっと海底には、珍しい者とかまだまだ眠っているだろうしな!」
史之とカイトがそう元気付ける。
そしてイズマが。
「ほら……折角だしこれでも食べて行けば? あんなに活きの良いタコだったから、きっと美味いと思うんだ」
ほっかほかのタコ焼き……勿論その具は狂王種の触腕。
『……わ、判った……』
逡巡するも、船が壊れてしまった事には変わりないし……カイトの言う通り、国の許可を得てやるなら、そういう仕事もあるだろう。
そしてイレギュラーズ達は、狂王種のタコ焼きを食べつつ、船員達の身の上話を聞きながら、フェデリア島へと航路を取るのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
海洋依頼に参加頂き、ありがとうございました!
途中からタコパいいなぁ……と思いながら書いてました。
ただ狂王種の触腕だと、身が締まってて固そうですね……。
GMコメント
皆様、こんにちわ。緋月 燕(あけつき・つばめ)と申します。
久方ぶりでしょうか……海に出て行きましょう……!
●成功条件
狂王種を倒し、『ナタルの風』の乗組員達を救出する事です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●周りの状況
フェデリア島から数日離れた海の上です。
時間は夕方頃……丁度夕陽が地平線に沈む辺りでしょうか。
『ナタルの風』の乗組員達は十人程度で、海底に沈んだ船を日に日にサルベージして銭を稼ぐという、海のトレジャーハンター的な活動をしています。
一応海賊にあった時用の自衛する程度の力はあるものの、狂王種に襲われたらひとたまりもないのは間違いありませんので、彼らをしっかりと護る事が重要になります。
ちなみに狂王種と遭うだなんて想定していなかったので、彼らの半分は恐怖に腰を抜かして動けないでいる状態……一方で半分は発狂している状態になります。
ちなみに彼らの船は、サルベージ船という性格上十人乗りとは言いますが、ちょっと大きめの甲板となっています。
皆さんが戦う分には、地の影響は無いでしょう。
●討伐目標
狂王種『カラミパス』
巨大(体長4~5m)なタコの狂王種です。
武器は持っていませんが、8本の触腕がそれぞれ独自に蠢く為、1刻に8回の連続行動が出来る厄介な相手となります。
ちなみに攻撃手段はというと、薙ぎ払ったり、叩きつけたり……と、格闘術+剣術を組み合わせたような攻撃手段を取ります。
又怒りが頂点に達すると、タコスミを辺り一面に吐き出して視界を奪って逃げようとしますので、逃がさない様にご注意下さい。
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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