シナリオ詳細
仲介人ジギーとドレイクの巣
オープニング
●ドレイクの巣
高い岩山の上。下からは見えないようなくぼみの中に、その『巣』はあった。
四足の獣……いや、固い鱗とたてがみのような固い毛で覆われたそれは間違いなく亜竜だろう。それもドレイクと呼ばれる亜竜だ。
一匹のドレイクは獅子のように眠っていたが、ぴくりと何かに気付いて目を開ける。
空を鳥が飛んでいるのだ。小さな鳥だ。ちょうど、ファミリアーにでも使えそうな鳥だ。
ドレイクは素早く立ち上がり、咆哮を放つ。
ただの咆哮ではない。咆哮のかたちをした魔法詠唱だ。リング状の空気でできた塊が飛ばされ、鳥が一瞬で粉砕される。そう、粉砕だ。
それは実際のところファミリアーによる偵察だったのだろう。空から行くことを愚策と判断した『相手』は地を駆け岩山を登り切ると、巣めがけて突撃してくる。
が、それもまたドレイクの望むところだ。
牙をむき出しにして飛びかかると、凄まじいスピードで距離を詰め、相手の腕へ噛みつき、そして振り回し、地面へと叩きつける。腕が引きちぎれなかったのは相手が頑強なボディと鎧を纏っていたからだろうが……叩きつけた衝撃は意識を飛ばすに充分なものだった。
そこへ鋭い爪を突き立て、思い切り引き裂く。
吹き上がる鮮血が、叫び声に混ざった。
●ジギーとコーヒーバー『グリーンフェイス』
前人未踏、と言えば大袈裟だろうか。
ここ覇竜領域デザストルは大陸南方の山脈地帯を拠点とする竜種の領域である。
そして、住民でありヒト種である『亜竜種』――今回あなたのクライアントになる人々が暮らす土地でもあった。
「Hey You! オレのツラがそんなに珍しいかい? このトカゲフェイスがよ」
ぎょろっと黄色い目を動かした黒目の点をのぞいて皮膚に覆われた独特のそれは、例えるならカメレオンの目である。
彼の言うように頭はトカゲのそれであり、より正確に言うならカメレオンのそれであった。
緑と黒のカラーは、徐々に赤土と白砂の色へと変わっていく。
どうも、彼は気分で顔や身体の色を変えるらしい。
今のは……喜んだのだろうか?
「あんたらのトコにはウォーカーがわんさかいるんだろう? めずらしかねーよ、すぐに見慣れるさァ」
あっはっはと声を上げて笑う。やはり喜んでいたようだ。
彼の名はジギリスタン。ジギーという愛称で呼ばれる男だ。情報屋……というと語弊があるが、少なくともデザストルに関してはそこそこに詳しい男だ。未だ交流の浅いローレットとフリリアノン民の仲介をしているらしい。全ての仲介と言うほどではなく、知り合いの話をまとめる係といった程度のようだが。
「あんた、フリリアノンは初めてかい? そっちのギルドはこの辺の探索を依頼されたと思うんだが……」
彼は巨大な何かの骨でできているらしいカウンターテーブルに金属のカップを置くと、あなたへと目の前で仏頂面をしているグリーンリザードマン風のバーマスターに『こいつに同じ物を』といってあなたを顎で示した。
バーマスターがおなじカップを出してくる。酒でもつがれたのかと思ったが、中身はなんとコーヒーだった。
ジギーはあつあつのコーヒーへ美味しそうに口をつけると、『こういう話があるぜ』と切り出してきた。
●亜竜の巣を狩れ
フリリアノンへたびたびドレイクという種の亜竜が入り込み、住民に危害をくわえるという自体が起きていた。
郊外の畑を荒らされたり、外を歩いていた住民がくいつかれたりといった具合だ。
「ドレイクってのは四足の獣みたいなシルエットをした亜竜さ。アンタんとこでいう虎や豹みみたいに俊敏で、鋭い牙で食らいついてくる。爪も鋭くてな、脆弱なやつがやられたら腕ごともっていかれる程だぜ。ま、脆弱なやつはそもそも外には出ねえけどな」
ジギーはやれやれといって肩をすくめ、続きを話す。
「俺たちんとこの探索隊が、このドレイクの住処を見つけた。ここからそう遠くない高い岩場さ。こいつらはそこをねぐらにして、たまーに人里におりてメシを食い逃げしていこうってハラなのさ」
ここまで言えばハナシはわかる。
そのドレイクたちの住処を襲撃し、群れを倒そうということだろう。
「探索隊のハナシによりゃあ、あんたらのチームでも倒しきれる程度の規模だ。けど……ちょーっと注意したほうがいいぜ。そこのボスは『ブラックファング』っつー二つ名もちでよ。普通のドレイクの倍くらいにデカくて倍以上に強ええ。
ボスが巣から離れてる間に襲撃して、ドレイクどもの救難信号をうけて戻ってきた所を迎え撃つってスタイルがいいだろうぜ。
ボスと群れを両方いっぺんに相手するなんて考えたくもねえからな」
そこまで言うと、ジギーはコーヒーを飲み干してから空のカップを置いて席を立った。
「こいつは奢りだ。仲間と相談しながら美味いもんでもくっていきな」
最後にコインをぽんとマスターへ投げると、ジギーは手を振って去って行った。
- 仲介人ジギーとドレイクの巣完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年02月03日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●仲介人ジギーとコーヒーバー
コーヒーとサンドイッチ、ついでにポテトフライをつまみながら一通りの相談を終えつつあった、ローレット・イレギュラーズ。
「害獣に畑を荒らされて困るという悩みはどこの国にもあるんだな。
天義の時もだったが、遠い異国のようでやはり私達と変わらない人々というわけだ……」
サンドイッチの最後のかけらを口に放り込んでもぐもぐとやりつつ、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は『それが亜竜というのがさすがだが』と心の中で付け加えた。
さすがと言うなら、今座って居る椅子やテーブルもそうだ。なにかの巨大な骨から削り出したであろう一品は艶やかで頑丈で、手触りもまたさらさらとしている。商売の一環で象牙の品を触ったことが多々あるが、それをもう少しきめ細やかにした印象であった。
ちらりと見ると、『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)がまだコーヒーをフーフーとやっている。猫舌だとは聞いたが、だいぶ強めの猫舌であるらしい。
意を決してそーっとカップを近づけ、そして鉄のカップゆえか少し口に含んだだけで『あちっ』という表情をした。両目をバッテンにするようなリアクションである。
それでも苦労して(あるいは格闘して)コーヒーをちびちびと消費しているアッシュの横で、一足先に食事を終えた『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)が口元を布でふきながら『それにしても』と話し始めた。
「頑張って作った畑ダメにされるのは困るし、歩いてて食べられるのはもっと困るのよ。
フリアノンの皆さん安心して暮らせるように頑張るわ!」
「おー、そうしてくれ」
仲間の誰ともつかない声に、はたと振り返るキルシェ。
すると店の入り口にジギー(ジギリスタン)が立っていた。
てっきりもう帰ったとばかり思っていたが、相談が終わる頃合いに戻ってくるつもりだったようだ。
「Hi ローレット。話し合いの様子はどうだい。やれそうかい?」
「やれそうっす! ……たぶん!」
片手を大きく上げて答えたのは『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)だった。
少し多めにもらったサンドイッチを口に詰め込み、詰め込みすぎて目を白黒させながらコーヒーに手を付ける。
飲み込みきれたらしくぷはあと息をついて、『沢山食べてしっかり働くっす!』とガッツポーズにかえた。
「……ハッ、まさかこのサンドイッチは前払い!?」
「そんなケチケチした前払いがあるかよ」
からからと笑うジギー。カメレオン的な目をぱちくりと瞬きさせた。あまりに黒目が小さいせいでわかりづらいが、これが彼の笑顔らしい。
「良い珈琲を、飲ませて貰った。仕事にも身が入るというもの、だ。
亜竜種達からの覚えを良くするためにも、励まねば、な」
ことん、とカップをテーブルに置く『……私も待っている』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。
こちらは流石と言うべきか、対応が落ち着いている。そしてふと、作りのいい金属カップに目をとめた。
「所で、このカップは?」
前人未踏の覇竜領域。よもやラサあたりと交易があるなどとは思えないが……。
「ああ、ペイトさ。あのあたりは坑道があるからな。鉱石資源もいいかんじなのさ。そんかわり野菜だの魚だのはとれねえから、ここ(フリアノン)から調達するわけだ」
「なるほど……」
覇竜の集落は集落で、交易が行われているということだろう。
そんな一方で、『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)はフリアノン二流れる独特な空気を吸い込んでいた。
「人に害する竜、その討伐隊……なんか、故郷の国を思い出しますね」
ドラゴンと交渉する伝説や、怪物にケーキを投げて門を通る伝説を思い出してリディアは目を瞑った。
ドレイクにも同じ事ができるだろうかと考えて、小さく首を振った。
ジギー(厳密には亜竜集落)から与えられたオーダーは、ひらたくいえば害獣駆除である。言って聞かせてわかるなら、駆除という選択をそもそもとらないだろう。
地域ネコみたいに耳を小さく切ったワイバーンを想像して、リディアは苦笑を浮かべた。
「ところで……」
『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は口元を布で丁寧に拭いてから、虚空に目を開けた。
「そのドレイクという生き物は、どう料理できますでしょうか」
「…………」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が『なんて?』という顔で振り返る。
さっきまで骨のテーブルに肘を突いて「コーヒーよりは酒がもらいてぇな」などと嘯いていた彼である。クラーケンもさばいて喰うような風景も見てきたので別段驚きはしないが……。
仲間達のたまにみせる、未知の生物への食欲は一体何なのだろう。と、深遠たる思いをした。
「筋肉量が多いでしょうから……煮込み、ですね」
アッシュがそんな事を言って、澄恋がなるほどと頷いた。未知の土地の未知の生物なので、類型を答えるくらいしかできやしないが、あながち間違ってないようでジギーが『あー』と上向いて唸った。
「俺ぁあんまり喰わねえが、ドレイクの角煮は好きな奴いるぜ」
「ドレイクの」
「角煮」
十夜とラダが抑揚のない声でいう。
すると今度はレッドがハイハイハーイといって両手を掲げた。
「卵があったら持ち帰りたいです!」
「賛成ー! 羽化させて育てましょう!」
それに続いたのはキルシェだった。
「名前付けてお世話するっす!」
「首輪も!」
「お洋服も!」
互いに刺激しあっているのかテンションが際限なくあがりかけたところで、ジギーが両手を翳して困惑の声をあげた。多分……表情も困惑しているはずだ。分かりづらいが。
「よせよせ。亜竜のガキなんか拾ってきたらとんでもねえことになるぞ。犬やネコじゃねえんだ」
口ぶりからは、過去に経験があるかのような様子がうかがえた。なんなら、彼自身似たことをした経験があるのだろうか。
「竜種は勿論だけどよ、亜竜だって本能でおれらを喰っちまう生き物だ。ちいせえうちは鎖をつけて利用できても、でかいやつを里においとくなんて集団自殺と一緒だぜ。品種ごと改良したタイニーワイバーンくらいじゃねえと」
「ははあ……」
キルシェはジャイアントモルモットのリチェルカーレを想像して頷いた。共生するには理解と相性というものが必要だ。そのどちらかが欠けても、生き物との共生関係は築けない。
竜。厳密には混沌世界の『竜種』とよばれるものは絵本の中にしかいない生き物であった。初遭遇がリヴァイアサンという実物をともなった形だったり、ウォーカーにドラゴンタイプがそこそこいるせいでなんとなく理解がうすれがちだが、ローレット・イレギュラーズにとって竜や亜竜というものは完全に未知の存在だったのだ。ジギーはそんな彼らが取り返しのつかないことをしないように注意(あるいは誘導)する係でもあるのだと、このときわかった。
「しかし、ドレイクねえ……海洋出身としてはどうしても別の顔が浮かんじまうねぇ」
ついつい呟いた十夜に、ジギーが不思議そうに首をかしげる。
「あんたの海にゃあドレイクがいるのかい? 物騒だなあ」
「そんなんじゃあねえよ」
ジギーにとってはむしろこっちが未知の世界なのかと、十夜は苦笑した。
●ドレイクの山
「ここを登らなきゃならんとは。やれやれ、海育ちの老体にはキツイねぇ」
「……」
ある意味心にもないぼやきをいう十夜と、それを理解してか何もかえさないエクスマリア。獣道なのか土が向きだしになった斜面は長く続いている。その先には、空だ。
むき出しの岩が多いフリアノンの中で、ドレイクの住む山はやや緑の多い印象だった。
といっても木々はなく、うすい緑色のちょっとかわった植物が点々と生えている程度なのだが。
「ドレイクは雑食、なのかもしれません」
山道の斜面を黙々と登っていた一同の中で、アッシュがぽつりとこうもらした。
「住処の立地や生態が、熊に似ています」
アッシュが料理をするといったとき『煮込め』と言った理由が、そこで分かった。
そしてどのくらい食べようと考えて、レッドはあることに思い至る。
「ところで巣にドレイクどれくらい居るのか誰か聞いてないっすか?」
周りに意見を求めるが、ラダも澄恋も、リチェルカーレに荷物をもたせてちょっとラクをしてるキルシェもNOのリアクションをする。
皆大体同じ考えだったようで、リディアが代表して答えた。
「そういえば伺っていませんが……いるだけ倒すしか、ないですよね!」
「たしかにっす」
ドレイク退治は一般家庭の蜂の巣駆除代行みたいに『できないからやってもらう』というたぐいの仕事ではない。里の亜竜種たちもある程度になればできることをローレットにやらせて、『できるかどうか確かめる』という主旨でよこしている依頼だ。
数を確認できるくらい観測が済んでいるならそのまま駆除してしまうという所だろう。
せいぜい『想定した実力より多すぎない』くらいの確認がとれている程度だろうし、ジギーの口ぶりにもそんなフシがあった。
「ドレイク達よ! 貴方達に個人的な恨みはありませんが、我々の新たな友人達の為、この場から去って頂きます!」
やがて、ドレイクの巣が見えてくる。いや、見えるというより『感じる』といったほうが正しいか。
キルシェがちらりと観察した草のへり具合から、巣が近いことを感じたのだ。
サッと手をかざしたキルシェに応じて、ラダは身をかがめる。リディアの精神的後押しにちょっとやる気を出しつつ、ライフルのスコープを覗き込む。
ドレイクの巣は重ねた岩に囲まれた野ざらしの場所だった。射線が若干通りづらいが、ちらちらと見えてはいる。獣道を隠そうともしないのは、大抵の動物は迎撃できるという自信の表れか。
ラダは短く息を吸い込むと、スコープごしに狙いを定め――発砲した。
空中でばらけ、拡散するシェル式ライフル弾。
突然の襲撃にドレイクたちはバッと身体をおこし、そしてすぐにこちらの存在を嗅ぎつけた。
「来ます!」
鋭く唱えたのは澄恋だった。
こちらへ走ってくるドレイクたちへ、あえて自分から走って近づく。
「動物は本能的に弱い個体を狙うもの。つまりか弱さをアピール――!」
澄恋は喉に手を当てると、ガヨ゛ワ゛イ゛オ゛ドメ゛ェとデスボイスで叫んだ。
あまりの声に反応したドレイクが牙をむき出しにして吠え、そして爪を振りかざしてくる。
多分意図したことと違う気がするが、上手くいっているのでヨシ!
「やれやれ」
十夜は肩をすくめ、集まり始めたドレイクたちへ距離を詰めた。
ドレイクの強さの底はわからないが、密集されればいかに頑強な仲間でも危険だろう。
かちりと抜いた刀に蒼い力を湧き上がらせ、十夜は密集しかけたドレイクたちへと斬りかかる。
あまりに『弱そう』に見せかけた斬撃のせいか、ドレイクたちの一部が十夜へ注意を向ける。
これだけ散らせば充分だろう。
「自然を生き抜くドレイクには悪いっすけど狩りの仕事っすから!」
レッドは十夜へ動いた個体を狙って赤い魔法を解き放った。
賢さ、というべきなのだろうか。かなり広範囲に打ち込んだ魔法を、十夜は器用に回避する。
仲間へ引きつけての範囲攻撃はわりと巻き込みがちになるので不安が多いが、十夜は慣れている様子である。
これなら安心、とエクスマリアを見ると……エクスマリアは既に黄金の力をかき集めて爆弾のような球体を作り上げていた。
翳した両手から解き放たれる黄金の塊。十夜はそれを二度見した。
「おっと、こいつはまずい」
赤と金の混じり合った激しい爆発がドレイクたちを(その中心にいた十夜ごと)包み込んでいく。
が、十夜も直撃をうけたわけではない。というより、無傷だ。
リディアが爆発の直前に割り込み、彼を庇ったためである。
「今回は多少荒っぽくても効率を優先しましょう!」
「賛成です」
アッシュは弓に魔法の矢をかけ、わざと澄恋めがけて発射した。
四方八方から飛びかかるドレイクたちの顎を掴んでギリギリで止めていた澄恋――の直前で矢は拡散。ドレイクたちのみに突き刺さる。
「キルシェさん、仕上げを」
「任せて!」
傷付いている仲間の回復は、まだ後回しでいいだろう。
それよりもとキルシェはブレスレットに願いをこめた。
たちのぼる亡霊たちがドレイクのみに群がり、そして魂を食いちぎっていく。
澄恋は『つまみ食いですか!?』と奇妙なことを言ったのは気になったが、どうやらうまくハマったようでドレイクたちが次々に崩れ落ちていく。それは十夜に引きつけたドレイクたちも同じらしく、見れば十夜がやれやれといった様子で服についた砂をはらっている。
「まずは、たいした怪我もなく済みましたね。ブラックファングはまだ来ていないようですが……」
リディアがそこまで言うと、アッシュがほっとした様子で振り返った。
「そろそろ、来ます。どうやら間に合った……いいえ」
相手の立場からすれば、とくわえてアッシュは眼帯をしていない方の目を細める。
「間に合わなかったようですね」
●ブラックファング
猛烈な速度で突っ込んでくる巨大なドレイク。本当にこれが親子なのかと思うほど差がおおきく、通常個体の倍以上はあるかと思われた。
澄恋は目をきらりと光らせ、喉に手を当て『あーあー』と発声を整えたあと組み合う前のプロレスラーのように身構えた。
「お任せ下さい。先ほどのように引きつけてェェェエ!?」
タックル。
名のだろうか?
巨大ドレイク、通称『ブラックファング』はその額で押して放り投げるような動きで澄恋を天高く放り、巣を囲む岩を飛び越え斜面へとおどらせた。勿論平面でない小さな山の頂上である。突如激しい落下の始まる澄恋を支えたのはキルシェである。
白い翼状の魔法の光を背負って飛んだキルシェは澄恋をキャッチしてからすぐさま降下。斜面を駆け下りるリチェルカーレの背に澄恋と一緒にぼふっと落ちた。
振り返れば、当然ブラックファング。巣をひとっとびで越えたブラックファングが『ゴオウ』とう咆哮をあげた。
風を斬るような衝撃がはしり、それはリチェルカーレをかすった。
それだけで派手に横転し、地面に(というか斜面に)キルシェたちが投げ出される。
すぐさま回復魔法を唱えるキルシェだが、そんな彼女へ口を大きく開いたブラックファングがとびかかった。
回復の間に合う距離ではない。ああ、ブラックファングの牙って、犬歯だけが黒いんだ……などと今更なことを思うキルシェだが、彼女に予想されたような痛みは走らない。代わりに、横からの風圧で髪が靡いた。
「おりゃーーーーっす!」
きりもみ回転しながら頭から突っ込んでいったレッド(なぜそんな動きが可能なのかわからない)によって横殴りの衝撃をうけたブラックファングが転倒。斜面をかるく転がった後、すぐさま体勢を立て直して再びゴオウと咆哮をあげた。
衝撃が先ほどのようにレッドを吹き飛ばすかと思われたが、そうはならない。
ザザッと滑りながら割り込んできたリディアの剣が、風の衝撃を真っ二つに斬り割いたのだ。
「現れましたね、ブラックファング――留守を襲った無礼をお詫び致しますが、このまま貴方の首も頂きます!」
直後、その後方左右へわかれるようにアッシュとエクスマリアが飛びだした。
射線をリディアによって遮り隠れていたのだろう。
そして溜めに溜めたエネルギーを、それぞれ魔法の光として解き放つ。
かるくカーブを描いて叩きつけられたエネルギーが巨大な球状のフィールドを作り、内側のドレイクをしびれさせる。
ラダはそんなドレイクの額に、ぴったりとライフルの狙いをつけた。
「十夜」
「あいよ」
十夜はどこかふざけたような返事をして、ブラックファングに距離を詰めた。
「ブラックファング(黒い牙)か。
中々いかした二つ名だ。だったら敬意を表して――」
抜いた刀に黒い力を乗せると、瞠目したブラックファングへと斬り付ける。と同時に発砲が成され、ブラックファングの額から激しく血がふきあがった。
●食
後日談というほどのことでは、ないが。
倒したブラックファングは肉体をバラして爪や一部の骨、そして皮だけを持ち帰った。
その場でばらすと肉がだめになるという教えからである。
とはいえ全部埋めるのも忍びないと一匹だけ持ち帰ったドレイクは、里でしっかり角煮にされたらしい。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●オーダー
亜竜ドレイクの巣を狩るという依頼が舞い込みました。
あなたはコーヒーバー『グリーンフェイス』に集まり、その相談を始めています。
無口なマスターは美味しいコーヒーとサンドイッチ、そしてポテトフライをジギーの奢りだと目で示しながら出してくれています。
●フィールド
ドレイクの巣は高い岩山の上にあり、飛行によって高高度から接近しようものならドレイクによる魔法で撃ち落とされてしまうでしょう。
なので側面から回り込むような道を上っていく必要があります。
ドレイク側はそれを撃ち落とすよな斜角をとりづらいので、戦闘は必然的に巣の前かあるいは中となるでしょう。
巣はくぼんだ皿状になっており天井はありません。
探索隊の長期にわたる観察によってボスのブラックファングが巣を離れる時間が分かっているので、その隙をついて群れを襲撃することになるでしょう。
●パート
主に作戦は群れの『襲撃パート』とブラックファングへの『迎撃パート』に分かれます。
襲撃パートはブラックファングが戻ってくるまでの短い間で、できるだけ短期決戦をねらわなければ危ないでしょう。
ドレイクは魔法の声で離れたブラックファングに救難信号を送ることができるためです。
襲撃のしかたは迎撃のしかたは自由に決めていただいて構いません。ある程度は型にはまるとはおもいますが、多少かわったことをしても面白くなるでしょう。
●エネミー
ドレイクは四足獣のような亜竜です。固い鱗とたてがみをもち、イメージ的には獅子に似ています。
魔法の咆哮で遠距離攻撃が可能ではありますが、これは空から攻撃してくる動物を迎撃することに特化したものであり、主体は近距離戦闘となるでしょう。
ブラックファングは群れの長であり極端にレベルの違う強者です。
戦闘方法こそ一緒ですが、機動力やらEXAやらが格段に違うので、強力な一個体を連携して倒す作戦を立てていく必要があるでしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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