シナリオ詳細
首無し力車はどこへ行く
オープニング
●首無し力車の噂
もくもくと立ち上る汽車の煙。そこから降りてくる男女様々な人々。
橙色の西日が駅舎に差し込む夕暮れ時、亭主やら子供やらを迎えに来た家族たちによる暖かな談笑が聞こえてくる「夕暮町」で、最近とある噂が流れている。
「また出たらしいぞ」
「え、出たって何が」
「知らないのか。首無し力車だよ。お前さん何も知らないんだな」
首無し力車。
日が沈み人通りも少なくなったころに現れるといわれるそれは、遠目から見るとただの人力車に見えるようだ。
しかし、人力車にしては前に進む速度も遅く、フラフラと宛もなく彷徨っているのだ。
事故か事件かと、不思議に思い人力車に近づくと、首のない車夫がよろよろとそれを引いて歩き続けているのだ。
奇妙なのはそれだけではない。
悲鳴を上げようが、目の前の怪異に対し驚いて石を投げようが、こちらを一瞬振り向くだけで害はないのだ。
まるで、目の前の人間に興味がないといわんばかりに。
「……を……ねば」
聞こえるか聞こえないかの声が人力車から聞こえ、その場を去っていく。
その椅子の上には、小さな白いツボが一際丁重に乗せられているとのことだ
「そういえば」
噂を聞いて、話をしていた人物がこの町の不幸事を思い出す。
「財前家のほら、お嬢さん」
「あぁ、あれは可哀相だったねぇ」
「年頃でこれから嫁ごうって矢先だろう?」
「なんでも……」
そのような噂話に花を咲かせる人混みを眺める、身なりの良い中年男性が一人。表情は暗く、涙ぐんでいる。
「あの時、あの子を許してやっていれば……」
ポツリとつぶやいた彼のその手にあるのは小さな遺牌。
彼の中の公開は、ずっと燻り続けている。
●弔いを
「……なんでも、駆け落ちだったらしいわ」
ポルックスは紅茶を一口すすり、小さなため息を一つ吐いた。
駆け落ち、と言うとなんだかロマンチックで聞こえは良いものの、今回に関しては駆け落ちした恋人たちは事故でなくなってしまったという。
「さてさて、そんな悲しい話もある中で、今回は彼女の『遺骨』を探してほしいの。」
内容が内容なので、そこにいつもの柔らかな微笑みはない。淡々と彼女は話を続ける。
「その遺骨なんだけど、どうも今回の世界の夕暮町の中で、それらしきものを持ってうろうろしている人力車があるらしいの。まずはその人力車をあたってみるのが正解じゃないかしら。……とにもかくにも、早く見つけてあげて弔ってあげなきゃ、ね?」
駆け落ちはハッピーエンドとは限らない。それでも、落としどころのあるエンディングを。
パタン、と本を閉じたポルックスの顔は、どことなくそれを求めているようにも見えた。
- 首無し力車はどこへ行く完了
- NM名水野弥生
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年02月06日 22時40分
- 参加人数2/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 2 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(2人)
リプレイ
●後悔
日差しが温かい午前10時ごろ、イレギュラーズたちは財前家の仏間に通された。
当主であり父親である彼は、穏やかな笑みをたたえた女性の遺影を寂しそうに眺める。
「あぁ、失礼。……私の娘、幸恵です。今思えば親として、話を聴いてやるべきだった」
その目に映るのは後悔。駆け落ち、といえば聞いただけであればさぞかし浪漫あふれるイメージがつきものだが、結末は悲劇でしかないのだから。
「……駆け落ちの末の事故死……ねぇ?」
『呑まれない才能』ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)はさしてその結末について興味はなさげに、腕を組んでいる。
「……ヘルちゃんとしては愛の逃避行だとかそういうの全然理解も共感も出来ねーし、ぶっちゃけ、愚かな結末だなぁって感想しかねーけど」
「そう言うな。もちろん、件の街を騒がす力車の怪……それを捨て置くわけにはいかないのは当然だが」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は仏壇に手を合わせて軽く一礼し、そう言いながら再び当主とヘルミーネの方へ向き直る。
「どちらかと言えば、新天地での愛を誓いながら果たせなかった男女の遺した想いをどうにかしたい。ひとまず、今回俺はそう動かせてもらう。」
エーレンはそっとヘルミーネに耳打ちする。
現状危害を加えられたという話がないこと鑑みれば、本当にただ未練をもって彷徨っているのかもしれない。
もっとも、「死人に口なし」。真相は当人の秘め事なのかもしれないが。
「……まあ、未練がある幽霊ちゃんが居るなら死出の番人(ニヴルヘイム)として救わない訳にはいかないのだ! という訳で巫女として張り切ってお仕事するから、キリエちゃん今回もよろしくなのだ!」
「ああ。周囲の霊への聞き込みは任せたぞ、ヘルミーネ」
がってんなのだ、とヘルミーネは力強く頷いた。
●生者が知ること
「今のヘルちゃんの気分は探偵の気分なのだ!」
時刻は正午過ぎ。
ヘルミーネは外に出ての聞き込みに意気込みを見せる。情報は勿論、もう一つ大事なものが。
「まずあの喫茶店っぽいところで話を聞いてみるのだ! ついでにメニューにもあるビフテキも食べるのだ!」
腹が減っては戦もできぬ。人が集まる場所でもあるため、昼食もかねてカフェーに立ち寄ることにした。
「首なしの人力車が走っているらしいって聞いたのだ! お姉さん何か知らない?」
「こら、今店員も仕事中だぞ」
混んでいないとはいえ人も増えている。エーレンはヘルミーネを諭すと、彼女はむぅっと頬を膨らませる。
注文を取るウエイトレスは一瞬驚いた顔をするが、彼女の知っていることを教えてくれた。
「首なしの車夫の話ですよね。ええ。……私は見たことはないんですが、どうも見かけられるようになったのはあの事故以来らしいです」
「あの事故って?」
「ほら……財前家の」
これ以上は事故とはいえあまりに不謹慎な話ですので、とウエイトレスの語尾が弱くなる。
「聞きにくいことなんだが、事故があったのはどこだろうか」
彼女の顔色を伺いながら、エーレンは慎重に話を聞く。
「レンガ橋横の階段です。2人とも足を踏み外して……そういえば、その首なしの車夫、夜に墓地へ向かっているみたいです。墓地といっても、財前家の方が使うような綺麗なところではないのですが」
「そうか……それともう一つ」
「はい、なんでしょう」
「駆け落ち相手の男の名前を、ご存じだろうか」
「えぇ。たしか正一さんという方だったそうで。なかなかの色男だったとか」
ウエイトレスは失礼しますと席を後にした。
しばらくして2人も昼食を済ませ、ウエイトレスの言うレンガ橋へと向かうのだった。
●死者の見たもの
時刻は午後5時。
レンガ橋の上から川面を見ると、夕暮れ時の太陽の光が静かにキラキラと光っている。
橋の周辺には、その横にある階段や川岸も含めて誰もいない。
「こういう時は、ヘルちゃんの出番なのだ!」
ヘルミーネは意気揚々と橋の横にある長い階段を降りていく。
「ほかの幽霊にも、話を聞いてみるのだ!」
すうっと一つ深呼吸して、ヘルミーネは橋の下の影をじっと見つめる。
少しの静寂ののち、ボロボロに痩せこけた浮浪者のような中年男性が、2人の前に現れる。
その身体は半透明に透けていて、心なしか顔も青白く見える。間違いなく死者だ。
「こんなところに何の用だ?」
「ちょっとおじちゃんに教えてほしいことがあるのだ。最近、このあたりで誰か転んだりとかしてなかった?」
男は少しめんどくさそうにため息を吐く。
「あー、そういや、男と女が大急ぎであそこの階段を駆け下りようとしてたなぁ。」
生き急ぐ必要なねぇのにな、と鼻で笑い、男は続きを語る。
「あそこの階段、降りるまで長かったろ? あそこの真ん中より上あたりで、男が足を踏み外した。手を繋いでたからそのまま地面に転がってな。まだ若いのに可哀相なこった。男のほうなんかもっと可哀相で、あとから追っかけてきた野郎どもがボロボロになった男の顔、踏んじまったんだ。」
「……ワザと?」
「嬢ちゃん、流石にそんなのワザとやってるとこなんか見たら、こんな風には話さねぇよ」
「暗かったから、間違って気づかずに踏んじゃったってこと?」
「そういうことだ。あー、あと、仲間内の話なんだが、そいつ、死んでも恋人と一緒につって、家からなんか持って行ったらしい」
まあ、物を持てるってことは、ソレだけ想いが強かったんだろうな。
そういうと男は闇の中に溶けて消えていった。
「ヘルちゃんは、そういうの分かんねぇけど……それだけ大切だったんだな。」
ヘルミーネは聞こえない声でつぶやく。エーレンを背にしているため、その顔はよく見えない。
くるり、と振り返ると彼女はエーレンに笑いかける。
「さぁ、あとは墓地に行くのだ! 店員のおねーさんも言ってたからな!」
●車夫の想い
すっかり暗くなった午後9時。
2人は墓地への道を進んでいた。今宵の満月の月明かりが道を照らしている。
その月明かりのおかげで、2人はあるものを見つけた。
「これは……車輪の跡だな」
「追っかけてみるのだ!」
道の先をしばらく辿ると、開けた場所に出てきた。その視線の先には、人力車とボロボロになった墓の数々。――ある墓の前で、愛おしそうな手つきで骨壺をなでる、首のない男の影が一つ。
「正一殿とお見受けする。俺はローレットのエーレン・キリエ。どうか話を聞かせてくれないか」
ゆらり、と男がこちらに向く。首から上はないため表情は分からない。しかし、その声色はどこか悲しげである。
「……自分は、彼女と、一緒にいたかっただけなんです。」
静かにエーレンは頷き、相手が言葉を紡ぐのを待つ。
「幸恵さんは、優しくて、ころころと笑う素敵な人でした。客と車夫の関係ですから、烏滸がましいと思うこともあった……でも、自分たちは本当に愛し合っていました」
涙ぐんだ声は、次第に嗚咽へ。落ち着くのを待ち、エーレンは本題を切り出す。
「それ、幸恵殿の遺骨か」
「はい……」
「正一殿は、それをどうしたいんだ?」
「せめて、墓は同じところに入りたかった……ですが、今になって、親父さんに申し訳なくなって」
「そうか……その遺骨なんだが実はその財前家でも、探しているところなのだ」
「でも、そうしたら、自分たちはもう……!」
震える正一を、誰も責めることはできなかった。
――それでも。
「彼女の遺骨を返してあげて欲しいのだ……もう二人を引き離すような事をしないと依頼人も望んでるのだ……改めて一緒になる為にもどうかお願いなのだ」
「もう一度、一緒に……幸恵さんといられるなら……!」
「――相分かった。なるべくそちらの希望に添えるよう、お父上に話をしてみる」
「ありがとうございます……!」
声色が落ち着いたのを見計らい、また明日と2人は墓を後にした。
●最期に
その後の財前家交渉との遺骨についての話は、思いのほか円滑に進んだ。
分骨、という案をエーレンが出したときに一瞬渋られたものの、もしもの時は身を挺して守るということ、ヘルミーネの巫女としての力で2人を成仏に導くことを条件に一行は黄昏時に墓地へと向かうこととなる。
約束通り、車夫――正一はそこにいた。
「約定の通りだ。俺が口伝えするより、直接話したほうがいいだろう。……さあ」
エーレンはヘルミーネとともに見守りながら、2人に話を促す。
「まずは親父さん、本当に申し訳ございませんでした。自分の勝手で、娘さんを死なせて、遺骨まで持って行って……」
「いや、もう良い。もう良いんだ。」
当主は彼にやさしく語り掛ける。
「娘も、自分の意志の結果がこれだった、というだけだ。もう、誰も責められんよ。ただ……」
そういうと当主はしっかりと正一に向き直る。
「分骨、という形にしてはもらえんだろうか。私にとっても、あの子は一人娘だ。一緒にいたいのは親としてもある」
「では……自分は、一緒にいても、いいんですね」
正一の顔は見えずとも、その声は穏やかだった。
「んじゃ、分骨ってことだな! あと最後に、当主さんに合わせたい人がいるのだ!」
ヘルミーネは視線を後ろに移す。
――視線の先には遺影の女性がいた。
「娘さんも、お父さんに言いたいことがあるみたいなのだ。」
女性は正一のもとに駆け寄り、彼もそれを抱きとめる。そして、仲睦まじく手を繋いで父親に語り掛けた。
「お父様、もうご自分を責めるのはやめてくださいな。幸恵は、お父様の子に生まれて、幸せでした。最後にお話しできて嬉しかった。ありがとうございました。」
2人は温かい光に包まれて消えていく。父の目にも、涙はない。
分骨後、2人は改めて正一の墓に手を合わせた。
「願わくば、来世には手を取り合って共に生きられるように」
エーレンの言葉にヘルミーネは頷く。
恋人たちの来世を願い、彼女も一緒に手を合わせた。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こんにちは、水野です。
今回は、一度やってみたかった大正ロマンの世界観のライブノベルを書いてみようと思いました。
珍しくシリアスなお話ですが、ホラー要素はそこまでありません。是非奮ってご参加ください。
●世界観
イメージとしては、大正時代日本の街中を想像してもらえれば分かり易いかと思います。
和装洋装入り混じる大正浪漫という言葉が似合う風景です。
いわゆるカフェー(喫茶店)や風格を感じさせる赤レンガの倉庫なんかもあります。
男女の恋愛関係についても「分相応」の相手と結婚することが良しとされ、お見合いが推奨されるような世界です。
●目的
盗まれた遺骨の捜索
依頼人の娘と、その思い人への弔い
●主な登場人物
①首無し力車
誰かをどこかに運ぼうとしているようですが、人力車には誰も乗っていません。
たまたま見かけた人が驚くだけで、危害を及ぼすことはありませんし、イレギュラーズたちにも害を成す気は全くありません。
また、首無し力車の車夫は、話すことが出来ます。
②財前家の当主(今回の依頼人)
人力車をよく利用する程度にはお金持ちです。
娘さんがいたようですが、駆け落ちの末亡くなってしまったようです。
さて、その娘さんの骨壺が、どうも見当たらないようです。
お骨に関しては、娘さんへの申し訳なさもあり、駆け落ち相手の墓に分骨することも考えています。
③その他目撃者
首無し力車の目撃者です。
この辺りは必要に応じて聞き込みなどに応じてくれます。
それでは、頑張ってください。皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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