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シナリオ詳細

常夏の島、ヴァカンツァ。或いは、行方不明のジェーン・ドゥ…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

⚫海洋国家の旅行記者曰く
 太陽の光は弱く、雲は分厚く、風は冷たい。
 所によっては雪や氷に閉ざされて、生き物の気配が失われることさえあるだろう。
 鉄帝のある地方などは年間を通して雪深いため、多少の気温低下など気にもとめてはいないかもだが、多くの場合、種類を問わず生き物は寒さに弱いものである。
 さて、そんな風に寒さに晒された生き物の選択肢としていかがなものがあるだろう?
 寒さに適応し、進化する?
 なるほど、実に素晴らしい。
 活動頻度を下げ、暖かくなるまで家や巣に籠って過ごす?
 実に魅力的なやり方だ。
 或いは、渡り鳥か何かみたいに暖かな場所へ移動してみる?
 もしそうであるならば、ぜひ海洋へ向かって欲しい。
 海洋のどこか、限られた者だけが行き方を知る常夏の島“ヴァカンツァ”は、あらゆる娯楽に満ちている。
 ギャンブルに、ファイトクラブ、高価な酒と料理の山に、天然温泉。
 寒い季節に温暖な島で、贅沢の限りを味わい尽くすのも悪くないとは思わないかな?

 あぁ、1つだけ君たちに注意をしておこう。
 ヴァカンツァにおいて非許可の喧嘩はご法度だ。もしもその法を破った場合は、島の中央にある火山直下の収容所か強制労働施設に叩き込まれるらしい。
 なに、そう怖がることはない。
 何も問題を起こさず、品行方正に楽しいひと時を過ごしていれば、最高の思い出を作って帰れるんだから。
 
●ヴァカンツァ行きチケット
「皆さん、旅行は好きですか?」
 そう言って『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は「ヴァカンツァ行き」と書かれたチケットを取り出した。
 依頼内容についてのブリーフィング中の出来事だ。
 察しの良いものは、この時点で厄介ごとの臭いをかぎ取っただろう。
「とはいえ予算の関係で滞在できる時間は半日。昼前について、日が暮れる頃には帰路に着いてもらうです」
 遊び惚ける時間は少なく、そして依頼の達成までに使える時間も限られているということだ。
「おっと、任務の内容を言っていなかったですね。今回、皆さんにはヴァカンツァで消息を絶ったある女性の行方を捜してほしいのです」
 女性の名前は“ジェーン・ドゥ”。
 偽名だが、青と白の2色が混ざり合う特徴的な髪色が特徴だ。
 ジェーンは、海洋ギャングの幹部の1人だ。
 荒くれ者の多い組織内において、ジェーンの主な仕事は調査と交渉。
 相手の心を読むとさえいわれるジェーンの能力は非常に高く、所属している組織以外からも身柄を狙われているという。
 そんなジェーンだが、休暇のためにヴァカンツァへ渡り、そこで消息を絶った。
「ジェーンさんを見つけて連れ帰るか、消息を突き止めることが今回の依頼の内容です」
 とはいえ、ヴァカンツァに滞在している人の数は多い。
 そのため依頼人は、ジェーンの性格から彼女の行き先に幾つかの候補を絞っていた。
 そのうち1つが、カジノと呼ばれる島の北方にある施設だ。
「カジノを仕切っているのはマリブと呼ばれる女性なのです。基本的には表に出て来ることはありませんが、目立つ客の相手をするために時々遊技場に足を運ぶこともあるみたいですね」
 サングラスをかけた細身の女性で、頭が切れると評判らしい。
 また、彼女は島の重役であるためジェーンについても情報を握っている可能性はある。
 実際、何度かジェーンに勧誘をかけて断られているとのことだ。
「次が島の西側にあるファイトクラブです。行われているのは見世物としての格闘技と、賭け事ですね。言い忘れていましたが、ジェーンさんは金遣いが荒く、ギャンブルや血で血を洗う闘争を好むとのことですよ」
 組織においての役割こそ調査や交渉といったものだが、やはりギャングということか。
 それなりに問題のある性質をした女性であることは間違いなさそうだ。
「ファイトクラブの現チャンピオンに酒を奢っている姿が目撃されているです。あぁ、もしも皆さんが参加するなら現チャンピオンへのチャレンジャーという形になるですかね」
 観客の中から挑戦者を募り、現チャンピオンと戦わせる。
 その勝敗を予想することで、金が動くという仕組みだ。
 現チャンピオンであるパンダの獣種、P・P・D・ドロップも前チャンピオンを討ち倒してその座に君臨しているらしい。
「P・P・D・ドロップさんは近接格闘術の達人なのです。リングは直径15メートルほどの円形のものですから、ドロップさんにとっては戦いやすいものなのでしょうね。それと【弱点】や【必殺】【封印】のついた技にも要注意です」
 もしも、ジェーンが試合を観戦しているのなら、目立つ活躍をすればコンタクトを取って来るかもしれない。
 そのための障害となるのが、やはり現チャンピオンだろう。
「そして最後に、島の中央にある火山。麓には温泉施設が、そして火山内部には強制労働施設と犯罪者の収容施設があるです」
 あまり考えたくはないが、ジェーンが何かの問題を起こしていた場合、叩き込まれるのはここだろう。
 以上、3か所を限られた時間の中で探してジェーンの居場所を探る必要がある。
 それが、今回の依頼の内容だ。
「さぁ、ヴァカンスの時間です」
 なんて。
 やさグレたような笑みを浮かべて、ユリーカはそんなことを宣う。

GMコメント

●ミッション
行方不明のジェーン・ドゥの捜索。


●ターゲット
・ジェーン・ドゥ
青と白の2色が混ざり合う特徴的な髪色。
海洋国家のとあるギャング組織の幹部。
調査や交渉といった裏方仕事を得意とする、観察眼に優れた女性。
人の心を見透かすよう、とさえ謳われており、彼女の身柄を求める者は少なくない。
その実、私生活では散財と血で血を洗う闘争の観戦を好むいかにもギャングらしいもの。
休暇としてヴァカンツァに訪れ、消息を絶った。


・マリブ
細身の女性。
丸いサングラスをかけている。
姦計を持って良しとする性質。
ヴァカンツァのカジノを取り仕切っているやり手。
基本的に表に出て来ることは無いが、目立つ客の相手をするために遊技場へ足を運ぶことはまれにある。


・P・P・D・ドロップ(獣種)
パンダ・パニッシュ・デス・ドロップ。
もちろん偽名。
一見すると2足歩行のパンダであるが、性別はどうやら女性のようだ。
ヴァカンツァの娯楽の1つ、ファイトクラブの現チャンピオン。
チャンピオンVSチャレンジャーのイベントは、ファイトクラブでもとくに人気の催しの一つだ。


PPD・ナックルパート:物近単に中ダメージ、連、封印、弱点
 的確に急所を打ち抜くパンチのラッシュ。

PPD・ドロップ:物至単に特大ダメージ、必殺
 相手の腰を両腕で抱え、後方へと反り投げる。
 或いは、頭から地面に叩きつける大技。


●フィールド
常夏の島、ヴァカンツァ。
今回、ジェーン・ドゥを探して赴く施設は以下の3か所。
昼前に付いて、日暮れのころに島を出るというスケジュールのため捜索には効率が求められる。
①島の北側、カジノ。マリブの仕切るカジノ。各種ギャンブルを楽しめるが、イカサマはご法度。
②島の西側、ファイトクラブ。直径15メートルの円形闘技場で選手同士が戦闘を行う。観客たちはその様子を見て騒ぐのだ。
③島の中央、火山内部。強制労働施設と犯罪者の収容所が用意されている。通常、観光客が訪れることのないエリア。
なお、船着き場は島の南側にある。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 常夏の島、ヴァカンツァ。或いは、行方不明のジェーン・ドゥ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
城火 綾花(p3p007140)
Joker
鏡(p3p008705)
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
キサナ・ドゥ(p3p009473)
野生の歌姫
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ

●常夏の島
 燦々と照り付ける太陽。
 延々と広がる青い海。
 遠くの景色が揺らいで見えた。
 空高くに鳥が舞う。
 ひらりはらりと散った羽根が、『野生の歌姫』キサナ・ドゥ(p3p009473)の足元に落ちた。
「ん……鳥か?」
 茶色い羽だ。艶はよく、雄々しささえも感じるそれをキサナは気まぐれに髪の間に差し込んだ。
「鳶じゃないか? 人の持っている食料を狙うこともあるというから」
 キサナが頭に飾った羽根に視線を向けて『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はそう言った。
 ここは常夏の島“ヴァカンツァ”。海洋のどこかにある、限られた者しか訪れることを許されない娯楽と遊興、そして贅沢の島である。
「それじゃあキサナさんと史之さんは先に闘技場へ行っててくれ。俺は“海洋で名のあるイレギュラーズがチャンピオンに挑戦するらしい”と適当に噂を撒いて来るから」
 そう言ってイズマは、人混みの中へと消えていく。
 
 ヴァカンツァの中心。
 活動を休止している火山の地下には、強制収容施設が設けられていた。
「カジノ、闘技場……その二つだけならいいけど強制収容施設ときたら、流石にきな臭さしか感じないね」
 火山を見上げて足を止めた『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は、次に視線を足元へと落とした。地面の下から響く僅かな振動に気が付いたのだ。
「行方がわからねぇってことは、そう簡単に出てこられねぇ場所にいるんじゃねぇかと踏んだんだが……さて、見つかるかねぇ」
 火山付近には鉄の門。その前に立つ番人らしき男を一瞥した『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、口元に呆れたような苦い笑みを浮かべる。
「カタギじゃねぇな、あれは」
 そう呟いた縁は指で近くの植木を指さした。雲雀が植木の影に身を隠したのを確認し、縁は飄々とした足取りで門番の方へと向かっていく。

 ルーレットの盤上を、白いボールが転がった。
 『……私も待っている』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は、無言のままにチップを数枚『赤』の枠に積み上げる。
「……見たところまだ若いようですが、何だってこんなところに?」
 エクスマリアのベットを見届け、ディーラーの男はそう問うた。
 一見して幼い少女にしか見えないエクスマリアだが、ディーラーは侮ることをしない。
 こういった場に幼子が訪れることは滅多にないが、その多くは“VIP”と呼ばれる国や組織の大物の親族か、若くして組織を継いだ者、或いは、見た目と実年齢が一致しない存在であると知っているからだ。
「こういった場でしか出来ない取引、結べない繋がり、情報……そう言ったものを、求めて、な」
 カラン、と乾いた音を鳴らしてボールが止まる。
 止まった枠は『赤』の7番。 
 エクスマリアの勝利である。
「例えば、どこかの組織に所属している、凄腕の交渉人とか、な」
 渡されたチップを1枚拾って、エクスマリアはそれをディーラーの前へと転がした。

 カジノフロアの片隅で、肩を並べて酒を煽る女が2人。
「目立つ客になるなら、やっぱり勝つしかないわよね」
「でしたら私は、大負けするまで1点張りし続けましょう」
 少しの間、フロアを観察していた2人……『Joker』城火 綾花(p3p007140)と『幻灯奇怪』鏡(p3p008705)の間には、幾らかのチップが積まれている。
 チップを半分ずつ手に取ると、グラスを置いて喧噪渦巻くカジノホールへ歩き始めた。

 直径15メートル。
 円形の闘技場には2人の男。
 響く怒号と喝采を浴びる『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は、倒れた男へ視線を向ける。
「海の男のためにあるような娯楽エリアだねえ。俺は美味しいパンを売ってる店があるような平和なところのほうが好きだよ」
 意識を失った男の耳に、史之の声は届いていない。
 興味を失ったように男から視線を逸らした史之は、闘技場の奥……選手控室の方へと目を向けた。
 暗がりの中、鋭い眼光が史之を射貫く。
 まるで野生の獣にでも睨まれたかのような威圧。なるほど、この視線の主こそが、闘技場の現チャンピオン、P・P・D・ドロップなのだろう。

●ヴァカンツァのひと時
 よぉ、と気安く声をあげた。
 縁は門番の男に近づくと、その肩に馴れ馴れしく腕を回すとポケットに数枚の硬貨を滑り込ませる。
「ちっといいかい? 人を探してるんだが……ひょっとして、ここで世話になってたりしねぇかと思ってな」
 訝し気な顔をしつつも、門番の男は縁の言葉に耳を傾ける。
 賄賂を受け取った以上、話しぐらいは訊いてやるべきと判断したのか、或いは縁のことをどこかで見聞きしていたのかもしれない。
 縁が門番の注意を引いている間に、雲雀は気配を殺したまま火山の内部……強制収容所へと踏み込んでいった。

「ヴァカンツァは知る人ぞ知る、限られた者たちだけの、娯楽の場。ギャング、マフィアと言った者たちは足を運んでいるはず、だ」
 喧噪に声を紛れ込ませて、エクスマリアはそう問うた。
 チップの束を『黒』の枠へと移動させながら、視線をディーラーへと向ける。
「そういった輩の全員が全員、行儀の良いわけではないだろ、う? そういう時は、どうしている?」
「そん時はマリブさん……ここの支配人が出張って来ますよ。イカサマなんてあの人の前じゃ通用しない。身ぐるみはがして、穏便に退場してもらっています」
 カラカラとルーレットが回る。
 白いボールを放り込んで、ディーラーの男は口元に笑みを浮かべて見せた。
 一瞬、男の手元が不自然に跳ねたのをエクスマリアは見逃さない。熟練のディーラーはルーレットの出目を自由に操作できると聞くが、どうやらその類のようだ。
「そう、か」
 ルーレットの結果を見ずにエクスマリアは席を立ち、近くのテーブルでポーカーに興じる綾花へと視線を向けた。

 カジノの裏手、スタッフルームを黒いスーツの男が進む。
 その手には革の財布。
 細めた視線を左右に巡らせ、にぃと口角をあげて笑った。
「コロっと騙されちゃってまぁ……そんな体たらくで黒服が務まるんですかねぇ」
 声の調子と合わぬ口調で男……否、黒服に変装した鏡は呟いた。
 悠々とした足取りで通路を進む鏡の前から、同僚らしき男がこちらへやって来た。
 おっと、と小さく呟いて鏡は表情をいかにも真面目なものへと戻す。
「お疲れ。マリブさんは?」
「うん? 夕方には戻られるはずだ。今日も今日とて収容所に行くと言っていた」
「そうか。あぁ、ありがとう」
 なんて。
 ごく自然に情報を引き出した鏡は、ふとその場で足を止めた。
 このまま進んでマリブを待つか、それともいったん、退却するか。
 黒服程度なら、斬り伏せて強引に調査することも不可能ではない。しかし、数で押されれば分からない。
 ましてや、不要にトラブルを起こして調査を妨げてしまえば本末転倒も良いところだ。
「無益な殺生は大好きですけど今回そういうお仕事じゃないですからねぇ。皆に叱られちゃうじゃないですかぁ」
 もうじき合流予定の時間に差し掛かる。
 バックヤードの間取りにおよその当たりをつけると、鏡は元来た道を引き返すことにした。

 ヴァカンツァ西側。
 闘技場には多数の客が詰め掛けていた。
「何でもとびっきりのチャレンジャーが現れたって話じゃないっすか? どうしてまだ予定表が出てないんっすか?」
 受付の女性に詰め寄っているのは、金の髪をした翼種の男だ。
 イズマの流した情報を得て、闘技場に足を運んで来たのだろう。一見すれば、軽薄な印象を与える若い遊び人といった風情の彼だが、ヴァカンツァに居るところを見ると、裏組織の関係者か、大商家の嫡男といったところか。
「噂はすっかり広まったようだな。ジェーンさんの調査能力なら、噂とその真偽くらい突き止めるだろうし、情報源が俺なのもバレそうだが……それならそれでいい」
 植木の影から様子を伺い、イズマは言った。
 そんな彼のもとに、キサナと史之が近づいて来る。
「試合は組めたか?」
「どうにかね。今日の夕方、日暮れ前の枠にねじ込んでもらったよ」
「それと情報も1つ。ジェーン・ドゥはでかい金が動く時にだけ足を運んで立って話だ。なんでもスカウトがどうのと言っていたらしいぜ?」
 2人の報告を聞いて、イズマは1つ頷いた。
 試合の時間まではまだ余裕がある。
 情報共有のため、3人は1度、合流地点へ戻ることにした。

 ヴァカンツァの港近く。
 船着き場の片隅に、イレギュラーズは集まった。
 数時間をヴァカンツァで過ごした8人は、それぞれが幾らかの情報を獲得している。字今後の行動をよりスマートなものとするべく、得た情報の共有は必須の作業と言えるだろう。
「収容所の警備が厚い。要人が訪れているそうだよ」
「あぁ、でしたらきっとマリブさんですねぇ。そちらに行っているとのことでしたから」
 雲雀と鏡の得た情報は、カジノの管理者・マリブについてのものである。
 とくに収容施設へ潜り込んだ雲雀は、人の配置から重要人物の収容場所におよその当たりを付けていた。
 潜入工作は、彼の得意とするところなのである。
 話を聞いた史之は顎に手を添えて、おや? と小首を傾げて見せた。
「1番怪しい収容所の調査が進められないね?」
「叩き込まれてるとすりゃ、カジノでイカサマを働いちまったか、ファイトクラブとやらでつい熱くなって近くの客と揉め事を起こしちまったか、ってとこか」
 そう言って縁は、腰に差した刀へと手を触れた。
 大金が動くとなれば、人は簡単に冷静さを失うものだ。実際、縁は過去にそういった輩をこれでもかというほどに目にしたことがある。
「だったら話は簡単、だ」
 淡々と、エクスマリアが言葉を紡ぐ。
 その視線は綾花へと向いているようだ。
 何かしら、マリブの注意を引く算段があるのだろう。
「収容所に居なかったとしても、カジノか闘技場の騒ぎを放っておくタイプじゃないだろう? やることが決まったんなら、早速動こうぜ。なんせ時間は限られてるからな」
 はりーはりー。
 急かすキサナの先導で、一行はそれぞれの目的地へと向かって行った。

 歓声と怒号の渦巻く闘技場。
 観客席の真ん中で、キサナは周囲に目を光らせる。
「こーゆートコで一番怖いのは場外乱闘だな。まあオレはこの通り美少女だから誰も喧嘩を売ったりはしねーけど」
 もしもジェーンが闘技場に居たとして、万が一にも乱闘騒ぎが起きてしまえば彼女に接触することも困難となるだろう。
 そういった事態に備えることもキサナの役割の一端だ。いざとなれば、周囲の客を凍らせてでも大人しくさせる心算である。
「っと、出て来た出て来た」
 観客たちの歓声がより一層、大きなものとなる。
 見下ろす先には直径15メートルほどの闘技場。その上に立ち相対するはドロップと史之だ。万が一、史之が破れた際の控えとしてイズマもセコンドに付いている。

 ゴングが鳴った。
 ドロップと史之が、床を蹴飛ばしたのは同時。
 速度の面ではドロップの有利か。
 けれど、得物が剣である分、リーチにおいては史之に軍配が上がるだろう。
 顔の横に両手を構えたドロップが、史之の懐へ潜り込む。
 ずんぐりとした両腕から繰り出されるジャブが、史之の顎を打ち抜いた。
「っ!?」
 想像以上に速い。
 しかし、意識を奪われるほどではない。
 2発のジャブを受けたところで、史之は強引に剣を振るった。火炎の軌跡を描く一閃が、ドロップの頬から胸にかけてを深く裂く。
 飛び散る鮮血。ドロップの白い体毛に赤が滲む。
 追撃……否、1歩を踏み出すと同時に史之は体を沈ませた。
 髪がひと房、千切れてはらりと舞い落ちる。ドロップの放った掌底は、史之の頭部を狙ったものだ。
「む? やるな!」
「そいつはどうも。けど、容赦はしないよ。その毛皮を焦がすのは気がひけるけど、俺にとっても真剣勝負だから」
「うむ、その意気や良し!」
 史之は低い位置から、上方へ向けて刺突を放つ。
 ドロップは、握った拳を史之の頭部へ振り落とした。
 史之の剣がドロップの肩を貫いた。
 ドロップの殴打が、史之の脳を激しく揺らす。
 ゆらり、と踏鞴を踏んだ両者はしかし倒れず、踏みとどまった。
 激闘を目にした観客たちが、闘技場を震わすほどの喝采を送る。

 残るチップはたったの数枚。
 しかし綾花は余裕綽々といった様子で、ディーラーの手元へ視線を向ける。
 カードの束をシャッフルしている手付きに不自然さは無いが、それにしてはここ数戦の綾花の手札は悪すぎた。
「さっきの手はよかったじゃない? 今回もそうなるといいわね」
 ディーラーの男は応えない。
 無言のまま、素早く綾花、エクスマリア、そのほか3名の男たちへとカードを配った。
「ちょっと待って」
 そう綾花が呟いて。
 背後に控えた鏡が、1歩、卓に近づいた。
 刹那、卓の上を一陣の風が走る。
 シャラン、と金属の擦れる音。
 ディーラーの袖が2つに裂け、その内から数枚のカードが零れ落ちた。
「イカサマですかぁ? よかったぁ、今日は誰も斬れないかと悶々としてたんですよぉ」
 腰の刀に手を添えて、いかにも弑逆的な笑顔を浮かべた鏡が歌うような調子で告げる。
 手首を押さえ、ディーラーの男は数歩後ろへと下がった。
「イカサマをしようとしたディーラーと遊ぶ義理は無いわ」
 配られたカードに触れることもしないまま、綾花は席を立ちあがる。
 そうして、ディーラーへと詰め寄る綾花と鏡。
「お客様、いったい何の騒ぎかしら?」
 なんて。
 背後から響く凛とした声。
「……来た、か。万が一の時は、収容所送りとなる前に、逃げる、ぞ」
 サングラスをかけた女性が1人、人混みを割って歩み出す。その姿を見たエクスマリアが、呟くようにそう言った。

●行方知れずのジェーン・ドゥ
 肉を打つ、鈍い音が鳴り響く。
「……痛いんだよな、あれ」
 なんて。
 顔をしかめて呟くイズマの眼前で、顔を真っ赤に濡らした史之が闘技場から脚を滑らせ外に出た。戦闘不能には遠いが、ルールの上では史之の負け。勝敗を分けたのは体重差だろうか。
「っ……しくじった」
「まぁ、ルールだからね。さて、それじゃあ次は俺とお手合わせ願おうか」
「おぉ、やはり以前、どこかで合った鋼の腕を持つ男だな」
「久しぶりだな、海洋に来てたんだ?」
 なんて。
 さも当然といった様子でイズマは舞台へと上がる。

 縁を囲む数人の男。
 剣呑な視線をそよ風みたく受け流しつつ、縁は視線を鉄の門へと差し向けた。
「責任者はまだ来ねぇのか? 捕まってるらしいジェーン・ドゥって女、どうにか解放して貰えねぇかな」
 そう言って縁は刀の柄に指を這わせ、鯉口を切った。
 周囲を囲む門番たちがどよめきを上げる。
 三下だな、と内心で溜め息を零しつつ、抜刀はせぬまま睨みだけを周囲に向けた。
 周囲を囲む男たちは、縁に近寄ることもできずに遠巻きに囲んでいるだけだ。
「さっさと仕事を済ませてよ、温泉に浸かりながら高価な酒とやらを味わいたいてぇな」

 収容施設。
 最奥の部屋、太い鉄柵の嵌った牢にはソファーに腰かけ不機嫌そうな顔をしている女が1人。青と白の特徴的な髪色に、切れ長の瞳、薄い唇を尖らせてワインを傾けるその様は、囚人のそれとは程遠い。
「……随分と待遇のいい囚人もいたものだね。一応聞くけど、貴女がジェーンで間違いはないかな?」
「……誰?」
 部屋の隅へと視線を向けて、ジェーンは問うた。
 影から滲むようにして、白い髪の男が姿を現す。
「贅沢もさせてくれるか。喉から手が出るほど、貴女を欲しがっているみたいだし」
「その口ぶりじゃ、マリブの奴の手先ってわけでもなさそうね。えっと……あぁ、なるほど。帰りが遅いってんで、ボスが寄越した逃がし屋ね?」
 そう言ってジェーンは、雲雀へ向けて手を指し伸ばす。
「見張りは殺った? 鍵はもちろん奪ってるんでしょ?」
 ジェーンの視線は雲雀の袖に向いている。
見れば、ほんの僅かではあるが、袖には返り血が付着していた。
「マリブが慌てて帰って行ったのもあんたらの工作? だったら上出来よ。今のうちにオサラバしましょ」
「……随分と理解が速いね。頭が切れるってのは本当らしい」
「ついでに喧嘩とギャンブルが好きなのも本当。聞いてるんでしょ? ヴァカンツァを舞台に派手な逃走劇をするって言うなら付き合ってもいいけど? それともこそこそ逃げる算段?」
「……せっかくの常夏島だし。少しぐらいは街並みを見て回ってから帰ろうかと思っていてね。なんで、こそこそ逃げる方でお願いするよ」
 牢の鍵を開けながら、苦笑を受かべて雲雀は言った。
 牢から脱出したジェーンは「つまらないわ」と呟いた。
 その脇には、ワインのボトルが2本も抱えられている。

 西の空に日が沈む。
 どこか遠くで鳶が鳴く。
 ジェーン・ドゥは雲雀やキサナと一緒に既に島を脱出したか。
「こうなる気は、していたん、だ!」
 外の通りが騒がしい。
 エクスマリアと綾花、鏡はマリブの私兵と追いかけっこを続けているのか。
 そう言えば、イズマと史之も未だ闘技場に留め置かれたままだという。
「……まぁ、もう少しのんびりしてからでもいいやな」
 なんて。
 温い酒をくいっと傾け、温泉に身を浸した縁はそんなことを呟いた。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

寒櫻院・史之(p3p002233)[重傷]
冬結

あとがき

お疲れ様です。
拘束されていたジェーン・ドゥは無事に逃走に成功。
カジノで起きた騒動と、闘技場の喧噪により誰にも気づかれないまま島を脱出しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば別の依頼でお会いしましょう。

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