PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ててりと鶴が笑う

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 神光も、帝都を少し離れると昔ながらの閑静な風景を見る事ができる。
 この辺りは金持ちの別荘地として有名なのだと、ミラー横に下がった白い折り鶴のキーホルダーと一緒にタクシーの運転手は笑った。
 運転手の言葉通り、森の中に瀟洒な洋館がぽつり、ぽつりと建っている。
 白樺の並木道を奥へ、奥へ。タクシーは縫うように進んでいく。
 山裾へと近づく程に、遠目に見えていた建物の全景が露わになっていく。
「ほら、あそこですよ。例のサナトリウムは」
 タクシーの運転手が示した排他的な金属の門には『S高原療養所』と看板がかけられていた。

 ――ここの別棟に収容されている患者の身の周りで最近奇怪な出来事が起こる。
『そこにいる友人の娘が心配なのだ』とクエストの依頼人は語り、こう続けた。
『人間嫌いで有名な子だから、彼女に悟られず、異変を調査をしてほしい』と。

 サクラメントを利用せずタクシーを利用して訪問して欲しい、と言う条件も奇妙だったが、のんびりと神光の田舎を眺める機会に恵まれたのも確かだった。
 既に日は沈みかけ、周囲を不穏な緋に染めている。
 本館から近道を教えてもらい、裏庭の日本庭園を通り抜けている時だった。
 窓から紙吹雪のように、折り鶴が飛び出す光景を目にしたのは。


「お夕飯もらってきたよ。おや、千羽鶴だ。いや、百羽鶴?」
「……貴女が折ったものではないのですか」
 夕焼けの病室に白い着物姿の女学生が二人。
 布団から身体を起こした黒髪の少女の膝には、小さな折り鶴の群れが乗っている。
 夕食の膳を抱えた茶髪の少女は首を傾げた。
「私、こんなに綺麗には折れないよ」
「そうですか。なら、捨ててきてください」
「え? でも、誰かからの贈り物だよね」
「知りません。気がついたら窓の近くにあったんです」
「先生や看護師さんたちからかな?」
「気持ち悪い。千羽鶴なんて偽善者の自己満足。受け取る義理はありません」
「そう? 折り鶴って綺麗だし、かわいいし、貰えたら私は嬉しいかな」
 茶髪の少女がはにかむように笑うと、黒髪の少女は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「貴女らしい貧乏くさい発想ですね」
「えへへ」
「褒めていません……痛っ」
「千鶴ちゃん?」
 ててり、ててり。
 白い鶴に緋が落ちる。
 千鶴と呼ばれた少女の指先から溢れた血が紙を穢していく。
「大丈夫? 紙で切ったのかな。ばんそうこう貰ってくるね」
 茶髪の少女は束になった鶴の群れを取り上げたが、それは意思をもった生き物のようにするりと両手から零れ落ちる。
 驚いたように見下ろした両の手から滴る赤い糸が床の鶴と繋がっていた。小さな血だまりに向かって、ずるずると小さな鶴達が集っていく。
「逃げよう、千鶴ちゃん!! この鶴、何か変!!」
 血でぬめる手を取り合って二人は病室を飛び出す。
「逃げるって、どこに!?」
「さっき裏庭に誰かいた!! もしかしたら、助けてくれるかもしれない」
「これを操ってる元凶だったらどうするんですか!!」
「あ、そうだね。うーん、どうしよう!!」

NMコメント

こんにちは、駒米です。
このクエストはエネミー『呪(かし)り鶴』数体との戦闘から開始します。

●クエスト目的
 保護対象二名の救助、護衛
 またはエネミーの殲滅

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。

●フィールド
『S高原療養所 別棟』
 神咒曙光の帝都から少し離れた高原別荘地帯に存在するサナトリウムです。
 患者に金持ちが多いのか一見するとお洒落な療養ホテルですが、外からの侵入や患者の脱走を防ぐため周囲は檻で囲まれ関係者以外誰も出入り出来ません。
 舞台となる別棟は一階建ての木造建築で、建物の裏には日本庭園がありサクラメントが存在しています。
 
●エネミー
顕性怪異:夜妖『呪り鶴』×100
 呪いを籠めて折られた千羽鶴、その成れの果て。
 HPも低く攻撃力も高くないのですが、とにかく数が多いことが難点です。
 出血や呪殺系BSで攻撃してきます。

●保護対象
少女NPC二名

・千鶴
 命狙われがちで人間不信になったお嬢様NPCです。
 人の姿を見かけると反対方向に逃げようとします。
 病弱なため長時間歩く事ができません。

・千鶴の友人(BS流血)
 プレイヤーに友好的ですがBS状態のため長時間何もせずに放置すると死亡します。
 NPCが死亡した場合復活することはありません。


●サンプルプレイング
呪り鶴を見つけて範囲攻撃をぶちこむよ!
とにかく敵の数を減らすことを優先して動くね。
しかし、どうしてこんなにタイミング良く夜妖が現れたんだろう。怪しい動きをしていた人、いたかな?

  • ててりと鶴が笑う完了
  • NM名駒米
  • 種別クエストテイル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年01月21日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ラピスラズリ(p3x000416)
志屍 瑠璃のアバター
ハルツフィーネ(p3x001701)
闘神
歩く食パン(p3x001802)
ふわふわやわらか
CALL666(p3x010222)
CALL:Beast

リプレイ

●にげて、にげて
「ダメ!! その部屋、中に誰かいる!!」
 少女は立ち止まると、戸惑うことなく窓を開け放ち、外へと身を躍らせた。
 その姿を見送るように、廊下の影から細身のフルアーマーが現れる。
「……これで誘導は完了ですね。人嫌いとは本当の話でしたか」
 人間嫌いな千鶴の性格を利用し逃走ルートを確保した『志屍 瑠璃のアバター』ラピスラズリ(p3x000416)は廊下の奥を見据える。
「隠れていて正解でしたね」
 両手にクマを抱えた『闘神』ハルツフィーネ(p3x001701)がヒョコリと部屋の中から顔を覗かせた。
「追手は?」
「来ました。前方に四羽。距離十メートル」
「いきますよ、クマさん!!」
 ドールマスターの命ずるまま、強靭な五爪が空間を薙ぐ。夕陽に舞う紙吹雪。その中心に天使の羽を生やしたテディベアが浮かんでいた。
「これは千羽鶴、でしょうか?」
 ハルツフィーネは床に落ちた折り鶴を観察した。凶々しさの消えた今はただの切り刻まれた残骸にしか見えない、が。
 
 歌がきこえる。
 夕暮れ時に聞いた、泣きたくなるほど懐かしい、帰りの音楽。
 窓から脱出した千鶴たちはフワフワした何かの上に着地した。彼女たちを心配するようにキリンやペンギンが覗き込んでいる。
「え、動物園!?」
「はぁい、パンですよ~」
「パン!?」
 少女たちを背中でキャッチした『ふわふわやわらか』歩く食パン(p3x001802)がふりふりダンサブルに身体を揺らすと、少女たちの傷から痛みが引いていく。
「ワタクシたちが来たからにはもうだーいじょうぶ! 仲間のみなさんはと~ってもお強いから、心配はいらないのよう」
 歩く食パンの言葉を肯定するように屋根から弦を引き絞る音が響く。一閃。窓から這い寄る白い群れを貫いた。
「……コールしろ、助けを。それだけで俺は味方だ」
 静かな、しかし良く通る声が響く。
 嚆矢が篠突く雨のように降り注ぎ、呪り鶴を破壊していく。
「コールが無いのならば若干意気は下がるが……ともかく、現在お前たちが陥ってる状態を解消する、それが俺の役割だ」
 隠れながら単騎での戦闘を重ねてきたのであろう。サナトリウムの屋根から降り立った『希望の穿光』CALL666(p3x010222)の額には一筋の血が滲んでいた。少女たちを守るように矢をつがえ、敵に宣言する。
「――さあ、仕事の時間だ。この矢の嵐、避けられるか」
「貴方たちは?」
「信じなくて構いませんが味方です。助けに来ました」
 食パンの傍に着地したラピスラズリが放った何かを、少女たちは慌てて受け取った。
「治療スプレーです。不要とは思いますが念のため」
 漆黒のヘルメットが視線を送った先から呪り鶴が飛び出し――そのままペンギンが放ったビームに呑まれて消滅した。この間三秒。
「危ないですから、パンとキリンのうしろにいてね」
「あ、はい」
「なるほど、可愛さとは強さ」
 回復した友人が真剣な顔で頷いている。
「その通りです。そして、動物園ならクマさんも必要でしょう」
 巻き起こった暴風に髪が遊ぶ。千鶴は宙に浮く羽根の生えたテディベアを二度見した。荘厳な光を纏った神々しくも愛らしい天使のクマさんが、上空から苛烈なる攻撃を加え続けている。それを興奮したように見あげる千鶴は年相応の少女にしか見えない。
「どうやら脈ありの様子。頑張りましょう、クマさん。活躍している所を見せればファン獲得のチャンスです」

「しかし……この夜妖はどこから現れた?」
 つがえた三本の矢で纏めて呪り鶴を射抜きながら、CALL666は周囲に視線を巡らせた。呪り鶴の数は確実に減り、増える様子も無い。
「誰がどんな理由で呪いを仕掛けたにせよ、その結果を見ているやつがいるはずだ」
 これが計画的な犯行ならば既に失敗であると判断されていてもおかしくない状況。
「同感です。しかし何処から見ているのでしょうか」
 CALL666の傷を癒しながらラピスラズリが尋ねる。
「背後の死角(チェック・シックス)。誰か、いる。逃げたとしても其の目なら追えるだろう。二人の護衛は歩く食パン、頼む」
 歩く食パン、そしてキリンとペンギンがそれぞれ前足を挙げた。
「はぁ~い、守るのはパンにお任せよぅ」
「クマ……さんは派手な攻撃で陽動を頼む。可能な限り観察者の気を欲しい。俺は呪り鶴を全て確実に仕留める」
「分かりました。クマさんの強さを存分に見せつけましょう」
「お願いします。あれが鶴を持ってきた犯人、であれば楽なのですが」

●つかまえて、つかまえて
「やはり貴方でしたか、運転手さん」
 ラピスラズリは戦闘の疲れなど微塵も感じさせない動きで、泰然と逃げた相手を見下ろしている。
「呪り鶴と同じような折り鶴を下げたタクシーなんて変だと思ったんですよ」
「動くな。次は当てる」
 眉間に狙いを定めるのはCALL666の必中の矢。
「クソッ」
 駐車場に転がるのは四人をS高原療養所まで連れてきたタクシーの運転手であった。
「裏庭の日本庭園にサクラメントを見つけました」
 坦々と語るラピスラズリの言葉に男は僅かに反応を示した。
「近くにサクラメントがあるのでしたら、なぜタクシーを使わなければならなかったのでしょう。それも、今など。ねえ、『依頼主』さん」
「変装した顔を覚えているとかアリなんです?」
「人の顔を覚えるのは得意でな。何故、彼女たちを狙った」
「彼女たち? 別に千鶴さんを傷つけようと思っていたワケじゃありません。あの鶴は元々彼女の護身用に折ったもので……まさか暴走するなんてな……あんなに折るんじゃなかった」
 ぼやくタクシーの運転手は千鶴の家に雇われている式神使いであるらしい。
 千鶴の秘密。それは近くの呪いや都市伝説を急激に成長させ夜妖へと変化させる千鶴の性質にあった。
「彼女を人里から隔離し実験を重ねているものの、成果は芳しくない。そんな折、彼女の周囲で弱い夜妖の反応があると報告があったんです。だから貴方たちを雇って僕自らが調査に来た。結果、僕が一番危ない奴になってしまったわけですが……ふふ、そんなことって、ある?」
「影に隠れて見ていたのも、逃げたのも」
「犯人だと誤解されると思ったからです。あの呪り鶴たちは確かに僕が折ったものだし。でも、貴方たちの力は本物だから、あれくらいの式神を相手にしながら千鶴さんを守るなんて楽勝ですよね。もう安心だと思ったから本家にバレる前にトンズラしようと思ったのに、これだよ。まぁ、いいや。僕を捕まえたらクリアですよ。お疲れ様でした」
 CALL666は静かに頭を振った。隣のラピスラズリもヘルメットの下に疲れた気配を纏わせている。
「自分の身を案じる人間がこのような者ばかりなら、彼女が人間嫌いになる理由も分かる気がするな」
「そうですね」

「……私は、恨まれているのでしょうか?」
 地面には白い折り鶴の残骸が散らばっている。見下ろす千鶴は青い顔で呟いた。声をかけるのを躊躇う友人の代わりに、瞳に力強い意思を宿したハルツフィーネが何かを差し出した。
 その手には、ふわふわの茶色いテディベア。つぶらな黒い瞳が千鶴を見あげている。
「テディベアを進呈しましょう」
「えっ?」
「怖いときのお供です。だっこして寝るとよく眠れますよ!」
「……ありがとう、ございます。ふふっ。この子、可愛いですね」
「そうでしょう。可愛いんです」
 千鶴がテディベアを抱きしめると、満足そうにハルツフィーネは頷いた。
「お二人ともお疲れでしょう、どうぞ背中にお乗りになって。ふふふのふ」
「ありがとう。えっと、食パンさん?」
「ええ、歩く食パンですよ~」
「それって名前?」
「ワタクシのお名前ですねえ」
 歩く食パンとハルツフィーネ。二人に守られながら少女たちはサナトリウムの中を歩いていく。
「最初に療養所に着いた時にねぇ。看護師さんにお話を聞いたんですよう。『患者さんの周りで奇怪な出来事が起こる』っていうのは心配だものねえ。悪いものが住み着いたのかしら、それとも、だれかが呼んだのかしらって」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですし、危害を加える相手がいるとするなら病院関係者が怪しいですから」

『千鶴ちゃん? 可哀そうな子よね。あの子の周りでは夜妖とかいう恐ろしい化け物が生まれるんですって。だから、こんなところに送られたのよ』
『本館にあの子がいたら、他の人が被害にあってしまうかもしれないでしょう。だから、一人だけ別棟に隔離したのよ。親御さん? 見た事ないわねぇ。タクシーの運転手さんが時々来るだけよ』
『別棟の噂? おかしな話ですが、あそこには千鶴ちゃんの他にも、誰かいるような気がするんですよ。あの子のお膳やら洗濯物やらが、いつの間にか勝手に消えているんです。気味が悪いでしょう? まあ、別棟に行かずに済んで好都合ですよ』

『別棟かね? 昔から、あそこに入院した子が寂しがっていると、心配した山の童様がこっそり『友人』として山から下りてくるって噂があったねぇ』

「ここに住んでいたのは、悪い子じゃなくて良い子だったみたいですねえ」
 茶髪の友人は頬を掻いた。
「困ったな。もしかして、私の正体もバレてる系? 頼むから内緒にしておいてほしいな。正体がバレると山に帰らないといけないんだ。それだと千鶴ちゃんを近くで守れない」
「人間嫌いが友人として気を許している時点で、彼女も薄々と気がついていると思いますけどね」
「あ。あ~~、それもそっか」
 ハルツフィーネがあっさり言えば、一本取られたと友人は顔を押さえる。
「ところで、友人さんのお名前は何ていうのかしら」
「言ってなかった?」
 歩く食パンが聞くと、千鶴とその友人は顔を見合わせる。
「ことり。あんまり名前は呼ばないでね。呼ぶと『強く』なっちゃうから」
「名前だけだと、私たち、動物みたいですよね」
 千鶴はそう言って、楽しそうに笑った。

成否

成功

状態異常

なし

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