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シナリオ詳細

静寂なる青のドリップ・コーヒー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●コーヒーの美味しい喫茶店
 香ばしい香りが、店内に漂っていた。
 カウンターの上にはコーヒーサイフォンが置いてあって、フラスコの中のお湯が沸騰している。
 『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012) が、カウンターに腰かけながら、それを見つめている。やがてマスターの初老の男性が、フラスコの上に、筒状のガラス器具を取り付けた。そこには香ばしい香りのコーヒー粉が入っていて、すぐにフラスコから吹きあがったお湯が、逆流するように、コーヒー粉に向けて上りだし、コーヒー粉を湿らせた。
 へぇ、とラーシアが感心したような声をあげる。コーヒー粉をマスターが混ぜると、すぐにお湯に鮮やかな色がついて、コーヒー色の液体が、ガラス器具の中に満杯になった。そのまま、フラスコを温めていた火を止めると、蒸気が止まって、お湯を上へ押し上げていたちあkらがなくなる。フィルターを通して、黒色の液体が、ゆっくりとフラスコを観たいしていく。より香ばしい、コーヒーの香りが、鼻孔をくすぐるように広がった。
「これがサイフォンを使ったドリップ・コーヒーですね。うちでは、主にこれを主力にしています。見ている方も楽しいでしょう?」
 マスターが微笑んでそういうのへ、ラーシアはこくり、と頷いた。
「そうですね。ふわっ、ってコーヒーが流れてくるのは、ドキドキします」
 にこりと笑う。やがて数度の作業を経て、人数分のコーヒーを、マスターは用意した。人数分とはこの場に集まった人間の事で、つまりラーシアと、あなた達、依頼を受諾してやってきたローレットのイレギュラーズ達だ。
「へぇ、美味いもんだな」
 と、イレギュラーズの一人が言う。あなたはコーヒーは飲めるだろうか? 砂糖は必要? ミルクも入れたい? 或いは、ブラックのまま飲めるかもしれないし、飲めないくらいに、苦手かもしれない。もしあなたがコーヒーを飲めるのだとしたら、今まで飲んだコーヒーの中でも上位の味がしただろうし、仮に飲めなかったとしても、なんとも香ばしいコーヒーの香りは、あなたの中のコーヒーの常識を変えるはずだ。
「ありがとうございます。当店自慢のモノでして。海洋でも指折りの豆を仕入れております。
 ……ですが、実はこの度、新しい豆を仕入れようと思いましてね」
 と、マスターは言った。
「ローレットの皆さまでしたら、フェデリアをご存じでしょう。先の、絶望の青を巡る戦いで、彼のリヴァイアサンとの戦場にもなった絶望の青……今は静寂の青ですが、その海域です。そんなフェデリアにあるテレナイズ島は、現在も開拓の最中との事ですが、そこで、新種のコーヒー豆が発見されたのです」
「なるほど、では今回は、その仕入れですか?」
 ラーシアが尋ねるのへ、マスターは頷いた。
「といっても、まだまだ商品になるかはわかりません。味も確かめたいですし、テレナイズには奇妙な怪物……狂王種(ブルータイラント)でしたか、そう言ったものがまだ残っているところも多い。
 テレナイズにも狂王種はおり、その怪物は……おそらく、皆様でしたら容易に討伐できるようなものでしょうが、果たして一般の傭兵にも相手ができるようなものか、傭兵を雇用し、その費用を払ってなお、商売として成立するか……等、まだまだ不透明です」
「なら、俺達の仕事は」
 イレギュラーズの一人が言う。
「まず、豆を手に入れる。ついでに、その際の障害、狂王種がどんなものかデータを手に入れる、って所か?」
「そうですね」
 と、マスターは言った。
「皆さんの情報を元手に、継続的にテレナイズに船団を送って、豆を仕入れるかを考えます。
 が、それはさておきに、コーヒーの試飲もお願いしたい所ですね。
 もし皆様に、コーヒーの淹れ方に一家言のある方がいらっしゃったら、是非アドバイスもいただきたい」
「えっと」
 イレギュラーズの一人、女性が言った。
「とにかく、やるべきことは、コーヒー豆の入手ね?
 それ以外はオプション、って事でいいかしら?」
「ええ。とにもかくにも、豆の入手が第一です」
 マスターが言うのへ、ラーシアが頷いた。
「では、皆さん。そういうお仕事ですよ」
 にこり、と笑うラーシア。
「私はご同行できませんが、カフェで皆さんの帰りをお待ちしています。
 素敵なコーヒー、楽しみにしてますね♪」
 そう言って笑うラーシアへ、あなた達は頷いた。
 かくして、一行は船に乗り、一路フェデリア海域、テレナイズ島へと向かったのである――。

 テレナイズ島は、フェデリアでも海洋よりにある場所だ。付近の海は比較的穏やかではあるが、まだまだ油断はできぬのが、この静寂の青という海域である。
 あなた達は、ゆっくりと森へと向かう。手渡された地図には、コーヒーノキが群生している場所が記されている。まずはここに向かえばいいのだろう……果たして迷うことなく、一行は到着出来た。
「渡された資料通りの葉っぱと実だ。これがコーヒーノキか」
 仲間がそういうのへ、あなたは頷いた。確かに、なんだか独特な香りがする……コーヒーからは想像できないくらいに、甘い匂いだ。沢山の赤い果実がなっていて、この中に、コーヒー豆になる種子があるのだろう。
 あなたが、コーヒーノキに手を伸ばす……だが、不意に、辺りにがさがさ、という音が響いた。巨大な、なにかが動いたような音。それは、がさがさと無数の音を立てて、あなた達を包囲するように迫る!
「魔物の類かしら……?」
 仲間がそう告げる。同時に、あなたもまた武器を構えた。はたして、茂みの中から現れたのは、無数の陸生カニ、小さいものはヤシガニと呼ばれるような狂王種だ! だが、ヤシガニのような外見といえど、その姿は、あなた達を優に超える、2mほどのサイズ。それが、目に見える限りは10はいるだろうか? その凶悪なほどに肥大化したカニの爪やハサミ、感情が見えぬ故に恐ろしい真っ黒な眼は、一般人が遭遇すれば、間違いなく命はないだろう……!
「おっと、こいつらの実力を図るのも仕事だったな」
 仲間が言う。
「倒すのは良いけれど、あんまり派手に暴れちゃだめよ? コーヒーノキが台無しになったら、意味がないんだから」
 別の仲間が言うのへ、あなたは頷いた。その通り。出来る限りコーヒーノキに被害を与えぬように立ち回らなければなるまい。
 あなたは意を決すると、ヤシガニ……『マッドネスシザー』へと立ち向かう! さぁ、この場を突破し、コーヒー豆を持ち帰れ!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 コーヒーを飲みませんか?
 まずはバトルからですが……。

●成功条件
 すべてのマッドネスシザーの撃破。

●特殊失敗条件
 攻撃の余波などにより、全体の8割以上のコーヒーノキが失われる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 フェデリア海域にある、テレナイズ島。そこで発見されたコーヒー豆を持ち帰ってきてほしい。
 とある喫茶店のオーナーに、依頼されたあなた達。以来が成功すれば、入れたてのコーヒーもごちそうしてもらえるはずだ。
 そんなわけでテレナイズ島に向かったあなた達は、無事にコーヒーノキを発見。ですが、周囲に潜んでいた狂王種、『マッドネスシザー』に包囲されてしまいます。
 マッドネスシザーは、あなた達の命はもちろん、コーヒーノキの豆を喰らうつもりのようです。そんなことをさせるわけにはいきません。
 あなた達は、マッドネスシザーを倒し、コーヒー豆を回収する必要があります。もちろん、戦闘の余波や、敵の攻撃で、コーヒーノキを破壊されてしまっては元も子もありません。うまく敵を誘導するなどして、コーヒーノキへのダメージを最小限に抑えてください。
 コーヒーノキは、ざっと20本強はあります。他にもあるでしょうが、被害は少ない方がいいでしょう。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は低木などがあり、少し視界が悪くなっています。

 なお、無事コーヒーノキを回収できたら、カフェで早速コーヒーをいただくことができます。極上の味がするはずです。
 もし、皆さんの中にコーヒーを入れるのが得意な方がるならば、それを披露するのもいいかもしれませんね。

●エネミーデータ
 マッドネスシザー ×13
  ヤシガニのような外見をした狂王種。サイズは2mほどの巨体で、その鋏の一撃は、一般人なら一撃のもとに殴り伏せるでしょう。
  硬い甲羅に覆われている他、前述したとおり挟みや爪の一撃は強烈で、パワーファイターとして立ち回ります。
  BSとして、『出血系列』や、『ブレイク』を持つ攻撃を行ってきます。
  単体でもそこそこの強さですが、数の多さが脅威です。まとめてなぎ払えるような戦法だと優位かもしれません。もちろん、コーヒーノキへの被害は抑えてください。

●NPC
 ラーシア・フェリル
 ご存じローレットの情報屋。
 戦闘には同行しませんが、カフェで皆さんの帰りを待っています。
 一緒にコーヒーを楽しんでくれると、喜ぶと思います。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加と、プレイングを、お待ちしております。

  • 静寂なる青のドリップ・コーヒー完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
寒櫻院・史之(p3p002233)
若木
ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)
甘夢インテンディトーレ
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
ルチア・アフラニア(p3p006865)
高貴な責務
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
夢みるフルール・ネージュ
アウレリア=ネモピレマ(p3p009214)
大海に浮かぶ月

リプレイ

●コーヒーノキをまもれ!
「チッ……狂王種だな……?」
 『“侠”の一念』亘理 義弘(p3p000398)が静かに言った。
「うん、間違いないね」
 『若木』秋宮・史之(p3p002233)が警戒するように言う。果たしてあちこちの草むらから、2mほどの巨大な、ヤシガニのような怪物が現れた。マッドネスシザーと呼ばれる狂王種だ!
 ヤシガニのような、とたとえたが、実際にはそんな可愛いものではないだろう。数本の脚は、ナイフや槍のように鋭く、一刺しで大木すら貫くに違いない。巨大なハサミは分厚く、硬い。握力も相当なもので、これに挟まれれば、岩すら砕かれるだろう。
 そのような恐るべき怪物を前に、イレギュラーズは――。
「ヤシガニ!!! ヤシガニか!!!!! ヤシガニって事はカニか!!!!」
 『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)、おお、と大声をあげた。流石のマッドネスシザーもちょっとビビった。ちなみに、ヤシガニは厳密にはカニではない。ヤドカリらしい。
「カニって事は!!! 食べられる!!!!!」
 ぎらり、とハッピーが目を輝かせる。マッドネスシザーもちょっとビビった。
「た、食べるのかい? あれを?」
 『大海に浮かぶ月』アウレリア=ネモピレマ(p3p009214)が、ぎょっとした様子を見せた。
「食べる!!!! カニパーティーだ!!!」
 やったー、と叫ぶハッピー。マッドネスシザーもちょっとビビった。
「いや、まぁ……食べられるのかねぇ、狂王種って……?」
 思わず小首をかしげるアウレリア。その視線が史之へと向くが、
「いや、俺にきかれても……確かに海洋には詳しいって自負させてもらうけど、それでも、な?
 ま、まぁ、最悪、料理しろってならできるけど……」
「ほんと!?!? カニ料理!!! カニカマ!!!」
「カニカマはカニじゃねぇだろ」
 義弘が呆れた様子で言う。こほん、と一つ咳払い。
「みた限りのヤシガニのバケモンだとすると……雑食性か。俺たちはもちろん、狙いは後ろのコーヒーの実か?」
「そうみたいね。ヤシガニは、木の実も食べるって言うし」
 『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)が言った。恐らく、コーヒーの実を常食しているのだろう。ルチアが足元を見れば、マッドネスシザーの者と思わしき足跡がいくつか見えた。真新しいものではなく、幾日か経っているものだ。
「どうやら、彼らのえさ場でもあるみたいね」
 ルチアが嘆息する。
「こんな甘くて素敵な香りがする実だものね♪ カニくんも引き寄せられるものだね☆」
 『お餅はお汁粉に』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)が言う。
「でも、ごめんね? ボクたちも、この実が必要なんだ♪ 正確には、中の豆なんだけど☆」
 とはいえ、相手は狂王種。仲良く分け合って終わり、というわけにはいかないだろう。
「静寂の青の探検が進めば、こんな風に名産品も生まれるの。
 その芽を摘み取るわけにはいかないわ」
 『銀雀』ティスル ティル(p3p006151)が、ゆっくりと構えをとる。液体金属の腕輪が、ゆるり、と揺らめいて太刀の形をとる。
「あの子達の目標は、私達はもちろん、後ろのコーヒーノキも、なのよね。
 守りながら戦う事になるけれど……」
「難しい戦いですが……やってみます」
 『夢みるフルール・ネージュ』クロエ・ブランシェット(p3p008486)は、きっ、と決意の瞳を見せて、マッドネスシザーたちに相対する。
「美味しいコーヒーのために、頑張りましょう」
「そう!!! あとカニパーティもね!!!」
 ハッピーが頷き、銃を構える。厳密には銃ではなくて、指向性を持ったマイクである。これがハッピーの武器だ。
「いっくぞー! カニパーティのため!! じゃない!! コーヒーのために!!」
 わぁーっ、とマイクからハッピーの声が響く! マッドネスシザーたちも、威嚇するようにハサミを掲げた!
 かくして、イレギュラーズ達とマッドネスシザー達。コーヒーノキを巡る戦いの幕が上がる――!!

●コーヒー・ウォーズ
「よーっし、いっくぞー!!」
 ハッピーが叫んだ。銃型のマイクに口を近づけて、叫ぶ!
「私はヤシの木! 私はヤシの木!!!!! 主食だろうがかかってこいやー!!!!!(???)」
 ぐわん、と魔力を乗せた声が響く! いや、魔力なのか、その大音声のせいなのか。マッドネスシザー達が、かしゃかしゃと足音を立てて、ハッピーへと迫った!
「ちなみに、ヤシガニは雑食性だからヤシが主食じゃないよ!! これまめ知識ね!! コーヒー豆を巡る戦いなだけにっ!!!」
 ハッピーに迫る巨大なハサミ。それを振り下ろせば、もはや巨大なハンマーを打ち付けられたのと同義だ! ハンマーがハッピーを殴りつける! ぶわ、とその身体が風に舞うように四散し、次の瞬間には再び元の姿を取り戻している。
 避けたわけではない。耐えたのだ。
「こちとらハッピーな幽霊だぞ! 私を殺せると思うな!!!! でも必殺だけは勘弁な?」
 ふわ、と揺れながら、マッドネスシザーのはさみに接触したマイクから、ハッピーの大声が迸る! もはやソニックブームの域に達したその振動は、ハサミを高らかに吹き上げた!
「ハッピーちゃん、引き寄せ、お願い!
 こっちが足止めするさね!」
 アウレリアが叫ぶ。高く掲げた手の先に、強烈な蒼の魔力の奔流が巻き起こる! それは、やがて水を呼び出し、強い水流を巻き起こした。水流が、まるで鞭のように、幾重にも分かれてアウレリアの手のうちから伸び、それが先端に行くにつれて、イバラへと変貌していった。
「【其は凍て付きたる水流の鎖荊】(アイヴィー・スプラッシュ)……一筋縄じゃ行かないよ!」
 アウレリアがその手を振るうと、水流のイバラは次々と、ハッピーが集めた敵へと迫る! ハサミを縛り付けるように、或いはそのトゲで関節を傷つけるように這うイバラが、ハッピーの集めたマッドネスシザー達を縛り上げ、氷結のうちへと飲み込んだ。
「流石アウレリアちゃん! ハッピーな感じ!
 でもごめん、何杯か取りこぼした!!」
「分かったよ! ごめん、みんな! 抜けてったのだけお願い!!」
 アウレリアの言葉に、
「了解よ」
 ルチアが頷き、その手を握りしめた。その手に宿る聖なる力。或いは、その声帯に宿る魔法のような力。いずれにしても、力ある癒しの力が、ルチアの身体から発せられる。
「警戒するべきは……その鋭い脚の攻撃による、出血ね。まかせて。すぐに止血してみせる」
「コーヒーノキにも、保護結界を張っておきます」
 クロエがその手を掲げると、優し気な光がコーヒーノキを包み込んだ。意図的な攻撃は防げないが、少なくとも攻撃の余波でどうにかなることはないだろう。多少は安心できる。
「ハッピーさんの声を抜けてきた敵……あの子ですね」
 かしゃかしゃ、と何体かのマッドネスシザーが、コーヒーノキ、そしてそれを背にするこちらに向けて迫りくる。クロエはゆっくりとその手を突き出した。相手を刺すように、人差し指を突き出すと、その指先に仄かな魔法陣が描かれた。
 魔法陣から姿を出すのは、勇敢な狼の妖精だ。ブラックドッグ、その名のままに、黒の狼が、唸り声をあげながらその牙を突き立てる。がぎり、と、マッドネスシザーがその鋏を掲げた。その鋭い爪が、硬質の殻に食い込む。
「……かなり、硬いみたいです……!」
 妖精からフィードバックされた手ごたえを感じながら、クロエが呻いた。なるほど、見た目通り、敵の甲殻はかなりの硬さのようだ。それは、堅牢な盾であると同時に、強烈な矛でもある。まさに攻防一体。恐るべき相手ではあるが……。
「それならそれで、やりようはあるよ☆」
 ミルキィがふわり、とその手をかざす。指先から放たれるは、黒の魔力。それは海に潜む怨霊を呼び出し、怨声をあげながらマッドネスシザーへと襲い掛かる! その怨霊がまるで溶け込むようにマッドネスシザーに覆いかぶさるや、その内から爆発するような呪殺の力が沸き起こり、マッドネスシザーの内部を強かに打ち据えていく!
「甲羅が堅いなら、それを無視しちゃえばいいの♪」
「合理的だ」
 義弘が、ふっ、と笑いつつ、シンプルにマッドネスシザーへと蹴りを入れた。それは、脚の関節部分を狙った一撃だ。他と比較してもろい関節部分、いわば弱点のような場所を、義弘は的確にぶち抜いた。もろい関節が逆に曲がって、マッドネスシザーが痛みを感じたようにその身体を震わせる。
「こうやって、もろい場所からへし折ってやればいい」
 反撃に振るわれた脚を、義弘は身をひねって回避した。鋭い槍のようなそれが地面に突き刺さる。その隙をついて、義弘は横から関節を破壊するようにケリを入れた。ぼぎ、という音がして、関節がへし折れる。マッドネスシザーがきしゃあ、と悲鳴をあげた。
「根の国の主よ、荒ぶる尊よ、贄をば流し奉るとかしこみかしこみまもうす――。
 鬼さんおいでよ、捕まえられる?」
 一方、挑発するようにマッドネスシザー達を相対する史之。挑発の声に、マッドネスシザー達がうごうごと寄ってたかる。きしゃあ、と声をあげて振るわれるハサミを、史之はアルマデウスの刀で以って受け流した。受け止めるのではない。流すのだ。強烈なハンマーのような打撃を、最小限の力で流す。柔と豪。相反する二つの剣戟の応酬は、この様にして達成される。
「硬くて強烈。でも根本はどうかな?」
 ハンマーを再度振り上げる前に、史之は鋭く刃を抜き放った。竜撃の一手、竜鱗を切り裂く、その斬撃はマッドネスシザーのハサミ、その根元を切り飛ばした。巨大なハンマーが、地面に落下する。間髪入れず、史之はマッドネスシザーの身体、その隙間に刃を突き立てた。重要な臓器を一撃で粉砕して、マッドネスシザーが悲鳴をあげる守鉈く倒れさる。
 刃を引き抜きつつ、史之は周囲の状況を一瞥で確認した。見れば、いくつかのコーヒーノキが、その鋏の犠牲になっていたのが分かる。抑えきれていない……いや、些か攻撃の手が足りないか?
「亘理さん、このままの勢いだと……」
「ああ、まずいかもしれないな」
 義弘が頷いた。
「敵の勢いも少しばかり激しい。
 切り替えるぞ。最悪は、自分達の命を優先すべきだ」
「分かってる……けど、出来る限りは……!」
 史之が、悔しげにうめいた。確かに、敵の攻撃は激しい。また、全体的に数が多く、何とか二人のデコイに敵の意識を集中させることはできても、それでも誘因から抜ける個体は現れて、後衛の仲間へ、そして背後に控えるコーヒーノキに攻撃が飛んでしまう。
 戦局は、厳しい消耗戦の様相を呈していた。仲間達の消耗は激しく、しかし懸命に敵の攻撃を押しとどめる。一体、また一体と敵を倒すたびに、此方も深く、また深く傷ついていく。
 イレギュラーズ達の努力を嘲るように、マッドネスシザーのハサミが、コーヒーノキをへし折った。甘い香りが地にたたきつけられて、無残な姿をさらしてしまう。
「もう!! こっちだってば!!」
 ハッピーが叫ぶ。ヤシガニは引き戻されるが、標的にされてしまったコーヒーノキはすでに再起不能になっていた。
「内側から攻撃するよ!」
 アウレリアがその手を振るった。同時、響き渡る絶望の青の歌が、呪殺の力をもってマッドネスシザーを内部から崩壊へと導く。内の肉を腐らせたマッドネスシザーが、抜け殻になったかのようにぐしゃり、と倒れ込んだ。
「残り、3体……!」
 アウレリアが叫ぶ。頷いたのはティスルだ。腕輪へと形状を変えた人造魔剣、それが飾られた手を掲げるや、さながら花吹雪のように舞い散る炎が、マッドネスシザーの身体をあぶる。
「硬くても、炎による熱ならば……!」
 ティスルの声に応じるように、炎はさらに勢いを増してマッドネスシザーを包み込んだ。場違いに香ばしい香りが漂い、マッドネスシザーが丸焼きとなって倒れ込む。
「こっちだよ、カニさん、ってね!」
 史之が、相対したマッドネスシザーに斬撃をくわえる。飛び出た目を切り裂かれたマッドネスシザーが混乱するように暴れ、その隙をついた第二の斬撃が、マッドネスシザーの甲殻を切り裂いた。
「オラァッ!」
 義弘の拳が、マッドネスシザーの腹に突き刺さる。生命を破壊する『気』を送り込む一撃だ。そこに分厚い装甲などあった所で意味はない。内部に送られた気がマッドネスシザーの生命を奪う。どさ、とマッドネスシザーが倒れ込み、動かなくなったのを見て、義弘は、ふん、と鼻を鳴らした。
「ちっ……やはり、想定以上に手間取ったな……」
 にらみつけるように、コーヒーノキを見た。
「……ダメです、ほとんどやられてしまって……」
 悲し気に、クロエが応えた。コーヒーノキはその大半が破壊されていた。これでは、本格的な収穫は難しいだろう。
「うーん、頑張ったんだけどね……」
 流石のミルキィも、少々元気がないようだ。
「……せめて試飲の分くらいでも、コーヒー豆を持って帰ろう」
 ルチアが言うのへ、クロエは頷いた。
「そうですね……せめてどんな味なのか、マスターさんに確認してもらう位は……」
 その言葉に、仲間達は頷いた。残り少ないコーヒーの実、そこから少しだけ収穫して、皆はテレナイズ島から離脱したのであった。

●コーヒーの味は
「……そうだったんですね……」
 帰還したイレギュラーズ達。その手当てをしながら、ラーシアは心配そうに言った。
「でも、皆さんが無事でよかったです」
「そうですね。コーヒーも重要ですが、何より皆さんが無事であったことが一番の幸いでしょう」
 喫茶店のオーナーがそういうのへ、義弘は申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまねぇな。期待を裏切ることになっちまった……」
「いいえ、逆を言えば、皆さんが苦戦するほどの危険が、あの島にはあったという事です。
 それが分かったというだけでも。私にはよい収穫ですよ」
 確かに、依頼の大元には、このコーヒー豆を商売のベースにのせることができるか、という点の確認もある。
 イレギュラーズが苦戦するほど危険な場所となれば、商売にするのは難しいという判断もできるのだ。
「それに、皆さん、コーヒー豆をしっかりと収穫してくださいました。
 少ないですが、これも報酬として、是非味わって行ってください」
 オーナーが、サイフォンでコーヒーを入れてくれる。隣には、水出しコーヒー用の器具もあって、これはミルキィが淹れるために用意したものだ。
「水出しのもおいしいと思うよ☆ できれば店の名物にしてほしかったけど……」
 どうやら今回は、試飲だけに終わりそうだ。
「ふふ、ミルキィさんのコーヒーも、オーナーのコーヒーも楽しみですね」
 ラーシアが微笑んだ。
「クロエさんは、コーヒーはよく飲まれるんですか?」
 ラーシアが、クロエに尋ねる。
「あ、はい……父が好きでしたから、その影響で。
 でも、普段はミルクをたっぷり入れていますけれど。
 お菓子と合わせるのも良いですよね。苦みの強いコーヒーには、甘いものを。
 酸味の強いコーヒーには、さっぱりとしたお菓子がいいです」
「あ、わかります! ふふ、私はケーキと一緒が良いです!」
 ラーシアがうっとりして微笑むのに、クロエも楽しくなって少しだけ吹き出した。
「さて、ミルキィさんの水出しコーヒーには、もう少し時間がかかります。まずは、私のホットコーヒーをお飲みください」
 オーナーが差し出したコップには、深い黒の液体が注がれていた。香ばしさと、僅かな甘みを感じさせる、独特な香り。
「随分とフルーティなにおいがするんだねぇ?」
 アウレリアが言う。
「それがこの豆の特色のようですね。ささ、どうぞ。
 お先に一口戴いておりますが、苦労に見合った味ですよ」
「じゃあ、さっそく」
 ルチアがそう言って、口に含む。
「……へぇ、これは」
 目を丸くして、そう声をあげた。
「美味しい……!」
 ティスルが驚きの声をあげた。
「苦みが抑えられてるのね。優しい味……私、苦いのは苦手だったのだけれど、これなら飲めるわ……!」
「え、ほんと? じゃあのみます!!」
 ハッピーがぐい、とコーヒーを口に含んだ……すぐに、べぇ、と舌をだしてしまう。
「無理!!! 砂糖とミルク沢山入れて!!!!!」
「あはは、アタシもやっぱりだめだねぇ。砂糖とミルクを頂戴?」
 アウレリアが苦笑する。まぁ、苦みの耐性は人それぞれだ。砂糖とミルクで調節して飲んでみれば、確かにコーヒーの持つフルーティな香りが、2人にもよくわかる。
「確かにおいしいねぇ」
「うん!! 苦労したかいがあるね!!」
 ハッピーも笑った。
「できれば、流通にのせてあげたかったけれど……」
 ティスルが申し訳なさそうに言うのへ、オーナーは笑った。
「何度も言いますが、皆さんが無事だったのが一番ですよ。
 それに、コーヒーノキもこれだけではありません。
 いつかまた、面白い豆を見つけたら……」
「その時は、俺達にまた依頼してほしいな。今度こそ、商品にして見せるよ」
 史之が言うのへ、オーナーは頷いた。
「その時は、是非」
 穏やかな時間が過ぎていく。
 依頼は失敗という結果に終わってしまったが、得られた報酬は、決して悪いものではなかった。

成否

失敗

MVP

ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 残念ながら依頼は失敗となりましたが、それでも穏やかな時間を過ごすことはできたのです。

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