シナリオ詳細
娼館の夜と甘い罠
オープニング
●娼館の夜
雪のちらつく月の夜。
跳騨遊郭の畳座敷に膝をなげたティスル ティル(p3p006151)は、着物の裾をわずかにはだけて窓の手すりへよりかかった。
「さあ、いらっしゃい」
今宵ローレットへと課せられた依頼内容は――。
「私が、ちゃんと殺してあげる」
娼婦を装い、怪物たちをおびき出し倒すことである。
まずは、事へ至る経緯と背景をかたらねばなるまい。
●雀芽(すずめ)
羅刹十鬼衆ノ三『衆合地獄』華盆屋善衛門。
カムイグラに広くネットワークをはる商人という表の顔をもち、裏では肉腫を用いた改造クリーチャー『天女』を作り、醜い我欲を満たしている魔種である。
彼の作り出す天女は女性の肉体をパッチワークのようにつなぎ合わせたような、見るからに奇怪かつ醜悪なものばかりだった。腕の六本ある有翼の天女や、巨大な頭をもち人を丸呑みにする百足のような天女など……しかしそんな造形を、華盆屋善衛門は美しい芸術であるとして深く愛でているようですらあった。
その異常な性格と行動から、彼は今すぐ討滅すべき悪だと……ティスル ティル(p3p006151)は考えていた。少なくとも、つい最近までは。
「私は、ROOの中でも華盆屋と出会ったわ。あの世界では私達の協力者だったし、悪には染まらない善良な商人だった」
――大丈夫。必ずアッシが守ってあげる
――アッシのかわいい、雀ちゃん
ティスルはあの世界で聞いた、華盆屋の過去が気になっていた。
貧しい家に生まれ、姉妹の生活のために働いた彼の運命を嘲るかのように、姉妹は遊郭へと売られていたという。ネクスト世界の彼は絶望と暗黒に呑まれることなく、己の商才と演技力を駆使して姉妹を救い出したというが……。
「あの華盆屋は、現実世界の鏡映しだったのね」
名簿を閉じ、ティスルはそれを高天京の高官へと返した。
魔種によって虫食いのように蔓延った闇を払うべく現在の政治家達は奮闘している。
その中でも特に闇の深い娼館周りの摘発が昨今相継ぎ、ネクスト側で華盆屋が失脚させたという娼館もまた、現実世界にはあった。
そして売られた娘の中に華盆屋の妹……『華盆屋 雀芽(かぼんや すずめ)』の名があったのだった。『死亡』という赤文字と共に。
●甘い罠
先述したが、昨今相継いでいる闇娼館の摘発にはワケがある。
政治力の低下から、首都である高天京から遠く離れた地方は野放し状態になっていたのだが、各地の闇娼館が『天女』によって襲われ次々と壊滅していたという事実が此度の調査で判明していたのだ。
しかも奇妙なことに、天女による襲撃事件は『闇娼館だけ』に集中しており、まるで何かの憎しみを晴らすかのようにすら見えたのである。
新たな被害を抑えるには、標的となっている娼館を摘発し先に解体してしまうのが早て安全だ。政治家達はそうした方法で地方への介入をはかっていたわけだが……。
「華盆屋が反転した理由。もしかしたら、ここにあるのかもしれないわね」
けれど。
だからといって、許される段階は既に越えている。
村一つをまるごと奪われた少年。経済支配によって生贄を捧げ続けていた村。そして天女の素材として消費された数え切れないほどの女性達。
彼女たちに、報いなければならない。
「あなたを倒して、必ず止める。もうこれ以上、悲しむ人を増やすわけにはいかないのよ」
ティスルと仲間達がやってきたのは、摘発したことによって空っぽになった闇娼館『跳騨遊郭』。
美しく艶やかな建物に、艶やかな和服を纏ったティスルたちが入っていく。
天女たちを待つ、罠として。
- 娼館の夜と甘い罠完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年01月02日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●娼館の夜
昼間はとんと静かな裏通りも、夜が来れば赤い提灯が屋根伝いに並んで灯る。
二階の手すりによりかかり、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は着物の襟元をつまんで上げた。
豊満な胸が押し上げられるのを、着物を着込んだ男は横目で見た。
「次は、指名をさせてもらおう」
へんに真面目くさっていう男に、モカは首をかしげてみせた。
「次はない。この一期(いちご)をかみしめるんだな?」
窓の外を、小さな雀が飛んでいく。
ここは闇娼館『跳騨遊郭』。
夜に咲く、徒花の園。
飛んだ雀は赤い格子の間を通り、座敷に座る『特異運命座標』レナート=アーテリス(p3p010281)の肩へと止まった。
チチチ、と鳴く雀に指を出し、偶然やってきた小鳥とたわむれるさまを装っている。
レナートは赤い髪によく似合う、艶やかな着物を纏い格子越しに外を見た。
(華盆屋善衛門さん、ですか……)
レナートが聞いた限りでは、どうやら複雑な過去や怨恨があるという。いや、多かれ少なかれ、今目の前を通り過ぎていく男達やこちらを品定めするように眺める者たちにさえ、そんな過去はあるのだろう。誰にだって、傷はある。
そしてだからこそ。
「これ以上、犠牲を増やすわけにはいきません」
今まで襲撃された闇娼館の従業員や遊女たちがどのような末路を辿ったかは、華盆屋という魔種の性質を考えればすぐにわかる。今回遊郭を襲ってまわっているという天女の『毛倡妓』という名前からも、察するところは多い。
(犠牲になった女性たちの無念や悲しみが少しでも癒されることを……)
祈るように心の中で呟くと、後ろの木戸がかたりと開いて『流れ込んだ悲しみと』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が入ってきた。
「レナートさんレナートさん、見てください! こんなに綺麗な和服を着せて貰ったのですよ!」
ちょっと袖の余る背丈の、しかし豊満なボディパーツ。レガシーゼロ特有のコアは胸元に赤く光り、胸をややはだけた服のせいでそれがよく見えた。
「みんな凄い見てくるのですよ。新鮮ですよ!?」
座敷の上でぴょんぴょんはねたり、すこし余った袖を振ってくるくる回ったりしながら、ブランシュは道行く男性にウィンクをして見せた。
誘いがハマったのか、それとも物珍しさか、男が近くへと寄ってくる。
「あんた石神(しゃくじ)かい、この辺じゃあ珍しいねえ」
石神というのは、秘宝種の黄泉津言葉である。カムイグラにおいて一部のヤオヨロズ(精霊種)が扱う言葉遣いで、それを真似る流行りもあるという。
いくらだい? と手でサインを出す男に、ブランシュはこほんと咳払いしてから練習した言葉を思い出した。
「お客さん、わっちを買いに来たのかえ?
新人の身ではありんすが、二束三文で買えるとは思わんことですえ。
この銀の髪、それ相応の金に変えるのなら……考えましょう」
相手がくすぐったそうに笑うのでなんだろうと不思議に思っていると、横から『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)がスッとキセルを伸ばした。
「旦那様、先に私を見てくれたじゃあありませんか。目移りしては、いやですよ」
長いまつげを伏せて言うと、縋るように男を見る。
男はハハハと照れ笑いをして、近くの男に正純を指名するように言った。
目をぱちくりするブランシュと、小首をかしげるレナート。
正純は小さく手を振って、後ろの木戸より出て行った。
(本音を言えば同じ女としてこんなものを潰して回りたくなる気持ちは分かります。
しかし既に摘発しているのであればそちらに任せる。余計な人死を出している時点でそのやり方は褒められたものではない)
廊下をすたすたと歩きながら、正純はふと遮那のことを考えた。連想して、ROOでの彼のことを考えてむせた。
気を取り直し、膝を突いてふすまを開く。
(こんな所に来る客です、上手いことのせて色々と他の娼館の情報やらを抜き出しましょう……)
正純がそうするように、『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)もまた遊女に扮して客の相手をしていた。
娼館ともやや違う、この遊郭という場所の不思議なところは、お座敷に入ってからしばらく会話や遊びの時間があるという所である。
「斯様な疵物がお気に召しましたか? 嗚呼、お優しいのですね」
袖をすっとめくって見せると、アッシュはどこか儚く笑った。
赤い布で片目を覆ったせいか、そのアシンメトリーなさまが相手の心をくすぐるらしい。
そして、巷の女性とではとてもではできないような、特別な会話であればあるほど相手は喜ぶらしいと、アッシュはそう体感していた。
「傷付き、焼かれ、砕かれて。
そうして出来上がった、たった一つの疵物。
刻まれた傷のひとつひとつが、誰ぞとの思ひでならば。
今宵は、貴方が刻んでくれますか」
手をそっと差し出すアッシュ、だが相手から出された手を掴むより先に、ぴくりと動きを止めた。
(遊女、ですか。
娼婦とホステスを合わせたような職でしたね。もっともカムイグラでは着物を着て手玉に取るのがお仕事のようですが……。
どのような職であれ、仕事は仕事、それで食べていく人たちがいるのです。肉腫の天女に営業妨害される謂れはないですね)
最後の模様替えを済ませたエステル(p3p007981)は、物置小屋に前の調度品をしまいこんでからぱたぱたと手のほこりをはらった。
海洋王国から流れた舶来品を集めた、気分のかわった部屋を作るためである。
元々は潜入の違和感を薄めるための工夫だったが、娼館の主はこの趣向をえらく気に入って、一部屋分の調度品を自腹で買ってくれていた。結構な額な筈だが……。
(儲かっているのでしょうか。いえ、そうでもなければ……ですね)
障子戸に小さく穴をあけ、中を覗き込む。
「ようこそ、跳騨遊郭へ。お客様、素敵な夜をお過ごしくださいませ」
艶やかな服を着た『子鬼殺し』鬼城・桜華(p3p007211)が、『潮騒の冒険者』ティスル ティル(p3p006151)と二人がかりで客をとっていた。
こんな所へやってきて二人も指名するのだから、よほど羽振りがいいのだろう。特別にしつらえた舶来部屋にも気分をよくしているようだ。
「こりゃあ、良いところに来た。綺麗な子がいっぱいだ」
からからと、どこか不自然なリズムで笑う男。
「ここで酷い目にあっていやしないかい? 私はねえ、正規の宿を運営しているんだ。よかったらそこで働かないかい。きっと安全に食っていけるよ」
作り物のような笑顔を浮かべる男。
「こんな部屋にまで来て勧誘だなんて」
苦笑し、けれどくすくすと楽しげに笑ってみせるティスル。
そんな彼女の髪色は、もうずっとまえから黒く淀んだ色をしている。だからなのだろうか。
彼女を見る男の目に、ふしぎな光が宿った。
「ずっと、ずっと前に、君のような顔をした子がいたんだ。可愛そうにねえ、ひどく働かされて、死んでしまったと言うじゃあないか」
伸ばした手は、酷く冷たい。
「君のような目を、羽根を、ああ……髪はもっと、紫色で……」
男の顔が、鼻を中心にして五つに割れた。花咲くように開いたその内側には大量のトゲ。突如として長く伸びた頭髪が蜘蛛の脚のように地につき、ティスルへと絡みついた。
「ティスルちゃん、離れて!」
桜華は三味線箱に隠していた刀を取り出すと、素早く抜いた。
●おどろきてたえいりけるとなん
魔法のように素早く長く伸び、絡みつく毛髪。桜華はそれを切断し、自分へと伸びる毛髪から飛び退いた。
「我が子鬼殺しに斬れるものなし!」
ガタッ、と背がふすまにあたる。多角的に伸びてこちらを捕まえようとする毛髪を相手に、室内で逃げ回るのは限界がありそうだ。
二人で室内を逃げ回りながら毛倡妓を素早く倒すか? それとも――。
「ティスルちゃん!」
鋭く叫ぶと、ティスルは頷いて桜華を小脇に抱えた。そしてアシカールパンツァーを片手で握り、発動レバーを引く。
こけおどしの音と光が炸裂し、同時にティスルは二回窓から手すりを破壊し野外へと飛び出した。
ぐぱっと大量に伸びた毛髪が窓から外へはいだし、蜘蛛がそうするように屋根の上へと移動する。
高高度を飛行するティスルを狙い目と判断したのか、毛倡妓は素早く毛髪を伸ばしティスルを捕まえようと踊らせた。
「伊達に翼を持ってないのよ!」
対するティスルは着物を脱ぎ捨て軽装となると、巧みな飛行術でもって触手と化した毛髪を回避していった。
一方でティスルから離れ毛倡妓へと飛びかかる桜華。
「広い場所でなら……!」
子鬼殺しに桜花の幻影を纏わせ、降下の勢いをのせてたたき切る。
ティスルはそれによって弱まった毛髪の動きを隙と見て、指輪を籠手に変形させ防御を固めながら、カーブを描いて急速飛行。毛倡妓側面へと迫った。
長い毛髪によって隠れていた頭部が露出し、例の花のようなおぞましい口を再び開く。ティスルを飲み込もうというのだろうが、同じ奇襲が二度通じるティスルではなかった。
「私が、ちゃんと殺してあげる。貴方も、貴方の生んだ怪物も……!」
メルクリウス・ブランドを太刀へ変形。雷の加速魔方陣を空中に連ねると、その中を一気に潜り段階的に高速化。フルパワーで撃ち込んだ突きが、毛倡妓の頭部を貫通した。
時を同じくして、エステル。
部屋から仲間が毛倡妓と一緒に飛び出していったその後で、滅茶苦茶になった部屋の中へと戻っていた。
自分はどうすべきか……と考えてから、すぐに答えが出た。壁際に置かれていた大きな箱を蹴りつければ、弾けるように開いた蓋から『ルーンクレイモア』が現れる。
素早く掴み、両手で握りこみ、頭の中で『せーの』と呟いてから全力で後方めがけて振り込んだ。
壁を破壊しながら現れた新たな毛倡妓の側頭部へと直撃、吹き飛ばす。
「ダイナミックでアグレッシブな乱入……天女のイメージが崩れ去りますね……」
壁面に叩きつけられた毛倡妓だが、すぐに毛髪を伸ばして立ち上がる。肉体部分は頭部が崩れているにも関わらず、繭のように包み込んだ毛髪によって無理矢理固定され、両手両足はぶらさがったままびくびくとけいれんしていた。
「肉腫で天女で名前が妖怪……なんとも継ぎ接ぎな……」
一人で相手にできるだろうか? そう考えた所で、後方より走る足音。敵――ではない。
「伏せろッ」
鋭く叫んだモカに応じて身を伏せるエステル。頭上から天井までの狭いスペースを飛び越え、天井に両手をついてキュッと回すように動作すると腰のひねりを合わせた飛び回し蹴りへとシフト。毛髪を伸ばしてきた毛倡妓を蹴り飛ばし、着地。
調度品としておかれていたホラ貝をサッカーボールのように蹴り上げて片手でキャッチすると、戦の始まりのように吹き鳴らした。仲間へエンカウントを知らせる合図だ。
「良いところに来て下さいました」
「いや、むしろ遅れた。娼館主のスカウトがしつこくてな」
モカはエステルを守るように前へ出ると、八つに分かれて迫る毛髪の触手めがけて空を薙ぐような蹴りを繰り出した。
衝撃が拡散し、毛髪の触手を広範囲にわたって吹き払う。
「相手の動きを鈍らせる。大胆にヘアアレンジしてやれ」
「ではお言葉に甘えて……」
エステルは剣に魔法の力を込めると、室内だというのに大上段に構える。モカはフッと笑うと、毛倡妓めがけ突進。
自分の動きを止めようと絡みつく頭髪をあえて受けると、腕でくるくると絡め取るように無理矢理接近。至近距離から繭めいたボディへ連続キックをたたき込んだ。
激しくゆすられ、頭髪の拘束力が弱まる。
その瞬間に、モカはその場からスッと横向きに身をそらした。
「――」
エステルが何かを小さく呟き、天井ごと粉砕しながら魔法の斬撃を解き放つ。
毛倡妓は左右真っ二つに斬り割かれ、そしてその場に崩れ落ちた。
ほぼ同時におこった戦闘。そして合図の音。
「これは……ティスルさんとモカさんの合図なのですよ!」
ブランシュは立ち上がり、助けに行こうと木戸へ手をかけ……ようとして、今一度格子の外を振り返った。
こちらを見つめる女性がいる。長い前髪で顔の隠れた、細身の女性だ。
艶やかな服装をしていて、遊郭の外というより中にいそうな風情があった。
前髪のスキマからちらりと見えた目が――血走っている。
「ブランシュさん!」
レナートが叫び、ブランシュの袖を強く引っ張った。
格子を突き破り、黒い槍が木戸へと突き刺さる。毛髪で編み上げ硬化させた槍だ。考えるまでもなく、先ほどの女が放ったものだった。
レナートが袖を引っ張って倒してくれなければ今頃ブランシュは木戸へとピン留めされていたことだろう。
「向こうから来てくれるとは……こちらもおっぱじめるですよっ」
艶やかな和服の袖を振り、ブランシュは木箱に隠していたグレートメイスを引っ張り出した。
「先手必勝ですよ!」
フルスイングと同時に脚部のジェットカスタムパーツからエネルギーを噴射。ミサイルのごとく飛び格子を粉砕すると、素早く飛び退いた毛倡妓の真横をカーブし上空へと浮かび上がった。
そんなブランシュを追いかけて毛倡妓の頭髪が何十メートルにも延長され追尾する。
「しつこいのですよ!?」
グレートメイスを大砲のように構え、先端からライフル弾を発射。
が、同時にブランシュの足首は頭髪によって絡め取られ、向かい側の建物へと無理矢理叩きつけられた。
ジェット噴射で抵抗しようとするも、地面や周囲の壁に自身をアンカー固定した毛倡妓を引っこ抜くには至らない。
激しい遠心力をかけ、ブランシュは瓦屋根を滅茶苦茶に破壊したのち墜落してしまった。
脚部のジェットパーツが破損。がつんと地面へと激突――する寸前。スライディングしてきたレナートがギリギリのところでキャッチした。
「ブランシュさん……さっきのは先手じゃないです」
「ツッコミ所そっちですよ!?」
レナートは地元で習った治癒の魔法を思い出しながら呪文を詠唱すると、手のひらをブランシュの足首へと当てた。
「回復量はわずかですが……これで飛べますか?」
不思議なもので、治癒魔法でブランシュのジェットカスタムパーツが修復されていく。
再び噴射を可能にしたブランシュは『助かったのですよ!』と言いつつ、しかし地面にしっかりと脚をついてグレートメイスを構えた。
「またつかまったら、たまらないのですよ。援護をたのむですよ!」
ジェット噴射をかけつつも、地面からほとんど離れない高度をまっすぐに飛んでいく。
毛倡妓は伸ばした毛髪でブランシュを拘束しにかかるも、レナートが唱えた解放の呪文がカウンターとなって拘束を振り払う。
がつんとぶつかったメイスの先端から、ブランシュは零距離でライフル弾を連続してたたき込んだ。
着物と褌を掴んで、慌てた様子で駆け出していく男がいる。
正純はやれやれといった様子で着物の襟を直すと、鋼の右手で弓をひっつかんだ。
木目廊下の通路へとでて、弓を構えるまで0.5秒。
(どんな理由や怒りがあろうと、人をこんな姿に変えてしまうことが許されるわけが無い)
どんな理由や怒りがあろうと、人をこんな姿に変えてしまうことが許されるわけが無いは鋼の手で矢を弓につがえると、通路を凄まじい速度で走り毛髪で掴みかかる毛倡妓めがけて放った。
直撃――だが、伸びた毛髪は正純の腕や脚、首へと巻き付き凄まじい力で締め付ける。
思わず弓を取り落とし宙へと持ち上げられた正純。なんとか振り払って左手で首にかかった毛髪をはずそうとひっかくが、深く沈んだ毛髪をゆるめるどころか爪をかけることすらかなわなかった。暗殺者がゆった毛髪でひとを絞め殺すという話を、おぼろげに思い出す。
視界が霞み意識がぼんやりとし始めた……ところで。
突如毛髪の力が緩み正純は床へとおとされた。
見れば、毛倡妓の腹から銀色の剣が突き出ている。
否。背中から刺されたのだ。
「怨嗟が執着を生んだか、執着が怨嗟を生んだか」
か細くはかない声は、アッシュのものだ。
「何れにせよ。こんなこと、早く終わらせるべき、ですね」
アッシュが剣を引き抜くと、毛倡妓はその場に倒れ、そしてずぐずぐに溶けて崩れていった。
残ったのは大量の毛髪と、着物と、赤黒い半液体だけだった。
アッシュは剣を振ってついた液体を払うと、鞘へと収める。
「情報は、聞き出せましたか?」
「……そうですね、多少は」
正純は胸の谷間からスッと丸めた紙片を取り出して見せた。アッシュは瞬きを二度してから、『それはそれは』と呟いた。
●暗闇にさよなら
従業員や客たちは守られ、そして闇娼館も摘発された。
かつての腐敗した八扇ではないのだ。罪は罪として正しく裁かれることだろう。
随分派手に壊したこともあって、取り壊しの決まった建物へと振り返る桜華。
ティスルが首をかしげると、桜華は彼女にだけ聞こえるように言った。
「華盆屋 雀芽の霊魂に、少しだけアクセスできたのだわ」
「……」
「『兄さんを止めてあげて』って、それだけ」
桜華は言うべきことだけを告げ、そして建物から去って行く。
ティスルは自分の髪色が元に戻っていくのを見ながら目を細めた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――依頼完了
――闇娼館は摘発されました。残る娼館の情報も八扇へ提供され、摘発は順調に進んでいるようです。
多くの事件を解決したことで、天女の動きが大きく鈍っています。
近いうちに、天女は『素材不足』に陥ることでしょう。
GMコメント
●オーダー
遊女へと変装して敵をおびき出し、怪物と戦って倒しましょう。
依頼主はカムイグラのさる高官です。闇遊郭を次々と襲撃している『天女』たちを倒し、その計画を止めるのです。
●変装
遊女に変装し、遊郭で働くふりをしましょう。
といっても実業務は全くしないので、艶やかな服装をして花魁ごっこをお楽しみいただけます。
女性は最低一名いればOKですし、いけるなと思ったら女装もOKです。男性が店員に変装してもいいでしょう。(遊郭はなにげに男手がそこそこ要る施設のようです)
華盆屋がどのようにこちらを観察しているかは分かりません。
特殊な能力をもたせた天女に偵察させているのかもしれませんし、人を雇って偵察しているのかもしれません。まったく分からないので(全ての可能性に対策してプレイングを書くとパンクするので)今回は警戒や偵察関係のプレイングはカットして構いません。
どうしてもディープな遊女変装プレイをお楽しみ頂きたい場合は、参加者の間で事前に相談しておくとスムーズにハマるでしょう。(その時はその時で女スパイの如き変装パートが個別に追加される気がします。お子様が見ても大丈夫な程度に)
●エネミーデータ
・天女『毛倡妓(けじょうろう)』
肉腫によって作られた改造人間たちです。
今回のタイプは、はじめは普通の人間に偽装していますが、本性を現すと怪物へと変化します。
頭髪を自在に伸ばし相手を縛り付けたり強い力で引き裂いたりといった戦い方をするようです。
複数出現し、一部は客を装って遊郭内へ侵入するでしょう。他は普通に外からダイナミックに突入してくると思われます。
戦闘は主に遊郭の屋内で行われます。場合によっては外に出ることもあるかもしれません。
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●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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