PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夢を届けて

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・夢を詰めて

 娘がサンタクロースを信じていたのは、十歳までだった。

「ねえお母さん。サンタさんは、お母さんなんでしょ」

 娘とはいえ、いつまでも子どもではない。見せていた優しい夢の中から、いつかはでてきてしまう。それでも、彼女がサンタクロースを信じて「いい子」に過ごしているのを見るのも、クリスマスの夜にそっとプレゼントを枕元に置くのも、毎年の楽しみであったのだ。

「そう。サンタさんは、お母さんだよ」

 そう笑って見せてから、随分と時が流れた。

 娘が自分の娘にプレゼントを渡すような年になった。自分はもうお婆ちゃんになってしまって、孫にサンタさんが来るまでいい子にしているんだよ、なんて語り掛けている。

 サンタさんごっこをしないのには、もう慣れた。だけど、はしゃいでいる娘と孫を見ると、やはり切なくなる。

 今年は、誰かにプレゼントをあげたいものだねえ。そんな一言が、小さな夜に溶けていく。

 昔は娘と肩を並べて窓際に座って、「サンタさんはどこから来るんだろう」なんて笑っていたのだ。
 トナカイさんがそりを引いて、サンタさんがプレゼントを配りに来る。眠っている間にそれは置かれていて――。

 せめて、街の子どもたちに夢を届けられたらいいのに。趣味で作っている手芸作品をあげたら喜ばれるかもしれないが、街で配り歩くだけの体力はない。足腰だって弱ってきているのだ。さすがに自分一人でやるのは、厳しい。

 配るところだけでも、構わない。誰か、手伝ってくれないだろうか。プレゼントを作ることも一緒にやってくれたら嬉しいが、配達をしてもらえるだけでも、十分な光となる。

 さて。手伝ってくれる人を探そうかねえ。

 ゆっくり立ち上がると、ほんの少しだけ、窓の外の景色が近くなったように思えた。


・光、降り注ぐ

「クリスマス、どんなことを想像するかしら?」

 境界案内人カトレアはぽつぽつと例を挙げながら、指を一本一本立てていく。

「楽しかったクリスマスを思い出す人も、いると思うの」

 それがこのお話に出てくるお婆さんよ。そうカトレアは微笑んだ。

 彼女の娘がサンタクロースを信じていたのは、随分と昔の話だ。彼女はもうサンタクロースとしてではなく、ただの家族として、娘や孫にプレゼントを渡している。
 家族にプレゼントを渡す。それはとても楽しいことだけれど、やはり娘がサンタクロースが来るのを楽しみにいていた頃が、やはり懐かしいのだ。

「お婆さん、街の子どもたちにプレゼントを渡したいみたいなの。だけど、もう足腰が弱ってしまっているらしくて。プレゼントを配るのを、お願いしたいみたいなの」

 あと、プレゼント作りも手伝ってくれたら嬉しいとのことだ。配達をする人は、プレゼントを配り終わったら、お婆さんに子どもたちの様子を教えてあげてほしい。

「皆さんにとって、素敵なクリスマスになりますように」

 ふわりと笑みを浮かべて、カトレアはお辞儀をした。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 クリスマスのお話です。このラリーは一章構成になります。

世界観:
 クリスマスの風習が浸透している場所です。幼い子どもたちの多くは、毎年この時期はサンタクロースが来るのを楽しみにしています。しかし、大人になるにつれて、子どもたちは夢から醒めていきます。娘や息子が夢から醒めてしまった親にとって、それはとても寂しく、昔を懐かしみたくなるものなのでした。

目標:
 お婆さんのプレゼントを、街の子どもたちに配ることです。配達をしてくださる方には、街の地図をお貸しします。子どもたちの住む家を訪ねて、プレゼントを渡してあげてください。後々お婆さんに子どもたちの様子を教えてあげてほしいです。
 お婆さんは、プレゼント作りを手伝ってもらうのも嬉しいようです。配達と一緒にできるお仕事ではありませんが、子どもの笑顔を待つお婆さんの様子が見られます。編み物や縫物を作り、包むまでを手伝ってもらえたらと思います。

できる事:
・プレゼントを配る
・子どもたちの様子をお婆さんに伝える
・プレゼント(編み物や縫物など)を作る
・プレゼントを包むのを手伝う
・お婆さんと対話する

サンプルプレイング①:
 お婆さんからもらったプレゼントを白い袋に詰めて。子どもたち、喜んでくれるといいなあ。そしたらお婆さんも嬉しくなるだろうし。
 地図を頼りに、子どもたちのところに行くよ。えっと、この角を曲がって、赤い屋根のお家、ここかな?
 こんにちは! プレゼントを届けにきました!

サンプルプレイング②:
 編み物、昔はやってたから。配達もいいけど、お婆さんとお話してみたかったから、私はプレゼント作りを手伝いますね。わあ、お婆さん、編み物お上手ですね……。すごいです。
 お婆さんの昔の話、聞きたいです。家族で過ごすクリスマスって、どんな感じなのですか?

 それでは、よろしくお願いします。

  • 夢を届けて完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年12月21日 21時05分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)
茨の棘

 クリスマス。それはきっと楽しいことも多いのだろう。しかし、自分の幼い頃を振り返ってみると、あまり楽しかった記憶はない。姉である彼女と一緒に過ごさなければ楽しいことなんて何もないのに、それが叶わなかったのだから。

 ただ、今はそんなことを思い出さなくていい。

 お婆さんのプレゼントを、袋に詰める。心を込めて作られたであろうそれらを眺めて、一つ息を吐く。袋の口をきゅっと縛った。

 街では、子どもたちの声が響いていた。楽しそうにはしゃぐ声が、耳に刺さる。きらきらとしたそれらをかき分けて、家を一軒一軒尋ねていく。

「お兄ちゃん、ありがとう」
「お婆さんにもよろしくね」

 みんな笑っていた。嬉しそうにプレゼントの包みを解いて、中身を広げてはしゃぎまわっている。
 眩しかった。無邪気で、ひどく純粋な彼らが眩しかった。

 自分も、こんな風に子どもの頃のクリスマスを過ごしたかった。そうは思えども、時が戻るわけでもなく、その時その時に感じたこと、知ったことが、変わるわけではない。変えようとしたところで、ただ水の中を藻掻くような気持ちになるだけだ。

 今が楽しいから、いい。そういうことにしておこう。

 プレゼントを配り終わって、お婆さんに子どもたちの様子も伝えて、全部用事が終わったら、彼女に今日のことを伝えてあげよう。きっと優しい笑顔で、楽しそうに聞いてくれるはずだ。

 袋を抱えなおし、アレンは子どもの声に耳を澄ませた。

成否

成功


第1章 第2節

襞々 もつ(p3p007352)
ザクロ

「クリスマスにはホイップクリームと相場が決まっていますね!」

 自分には全部ベーコンにしか見えないけど、それはそれ。クリスマスといえば、プレゼントを配って、子どもがそれを楽しく受け取る日。至福の時を過ごす日だ。

 もつがうきうきとした様子で、プレゼントを袋に詰めている。詰めているのはお婆さんのプレゼントと、それから数々の品。

「いい子にも悪い子にもプレゼントを渡しましょう」

 この玩具はきっとリドル。
 至福と呼ばれる鈴の音が聞こえるはずだ。

 そういえば、最近の子どもたちは素敵なステーキを食せないらしい。あの溢れ出す熱々の肉汁を味わえないのはやはりいただけない。
 だったら、生肉をプレゼントしたら喜ばれるだろう。網と木炭と一緒に送り届ければ不足もない。誰でもステーキを食せるはずだ。

 そうして、もつは街に出る。たくさんのプレゼントを抱えて。


「ブラックなサンタさんだ」

 生肉を見るなり、心底驚いたような声をあげる子ども。

「誰がブラックなサンタですか、こんなにも柔らかなおにくを望まない人類はいません」

 その後、子どもたちの騒ぐ声が聞こえたという。


「お婆さん、お婆さん、子供達は燥いでいましたよ」

 きっと来年もサンタを欲するはずだろう。そう言うと、お婆さんは少し驚いたような顔をして、それから笑った。
「ユールもシャイネンも音は別ですがやるこたぁ同じですからね! は、は、は!」

成否

成功


第1章 第3節

クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ

「動物も編めたりしますか? あ、でも難しいのかなぁ」

 毛糸をひとつ手に取ると、柔らかな感触が手に馴染んだ。

 お婆さんの素敵な想いに、お手伝いしたくなったのだ。だから、プレゼント作りに関わろうと思った。編み物はそんなにしたことがないけれど、お婆さんが教えてくれるらしい。それなら、自分にでもできそうなものを頑張ってみたかった。

「これなんてどうかねえ」

 並べられたのは、うさぎやくまのあみぐるみ。思わず微笑みながら、そのひとつを指さした。


「お婆さんは、どんな風にクリスマスを過ごしたんですか」

 編み方に慣れてきた頃、お婆さんに尋ねてみた。
 お婆さんは目を細めて、娘が幼かった頃のことを口にしていく。昔のことのはずなのに、目の前にその光景が広がっているように思えた。

 あなたはどう過ごしたの。お婆さんの問いに、クロエは一度目を閉じる。瞼の裏に思い浮かぶのは温かい記憶だ。

「私は母とごちそうを作りながら、父の仕事が終わるのを待ってました」

 普段は忙しくても、特別な日は皆で食卓を囲める。だから嬉しかったのだ。明かりが柔らかく皆の顔を照らしていたのをよく覚えている。


 気が付けば、ほとんど編み終わっていた。可愛くできそうだ。きっと、子どもたちも喜んでくれるだろう。

 心配だったけれど、完成したものをお婆さんが褒めてくれた。どこか恥ずかしさもあって、顔が赤くなる。
 丁寧に包装すると、穏やかなものが胸に満ちた。

成否

成功


第1章 第4節

雨宮 しずく(p3p009945)
紅い糸

 クリスマス。恋人と一緒に過ごす日を想像しがちだが、そうだ、こんな風に、誰かのために何かをしたり、家族や友達との思い出を探したりしてもいいのだ。

 忘れていた。そう思いながら、しずくはお婆さんのプレゼントを詰めていた。手に取った袋は柔らかく、どうしてか温かい。
 作った人の心が、ここには詰まっているのだ。そう思ったら尚更丁寧に扱わないといけない気がした。

 このプレゼントを渡したら、きっと子どもたちは喜んでくれる。そう思ったら、なんだか子どもの声が聴きたくなってきた。
 子どもたちに囲まれれば、純粋にクリスマスを楽しもうとする誰かの声だけが聞こえるように思えた。きっと、自分のようにある人のことだけを考えて、それに囚われている子なんてそうそういないだろうから。


 プレゼントを届けた家では、子どもたちが大騒ぎで袋を開けていた。

「ぬいぐるみ、うれしい、かわいい」
「お婆さんにありがとうって、伝えて」

 子どもの声が、胸に染みる。ありがとう。うれしい。そんな言葉が、心の奥にまで響いていく。
 そうなのだ。これが、聞きたかったのだ。そう思って、小さく微笑んだ。


 子どもと一緒にいる間は、あの人のことを考えずに済んだ。それに、あの人以外のことも考えていいのだと思えた。

「お婆さん、ありがとうございます。子どもたちも喜んでいましたよ」

 少し気持ちがほぐれた気がする。空になった袋を返して、しずくは丁寧に頭を下げた。

成否

成功

PAGETOPPAGEBOTTOM