シナリオ詳細
田舎町の魔菓子ばあさん
オープニング
●魔菓子ばあさん、人生最大の危機
雲行きの怪しい空だ。
そんな日にこそ、魔物は呻く。
この世界に、魔物と呼ばれる存在は決して多くはない。
しかし、とある山脈地帯には魔物が多く存在していた。
世界的にも有名なその山脈は禁止区域<イクスクリュージョン>と呼ばれ、人々に畏れられていた。
「はぁっ!!」
この老婆、名をキヌという。
禁止区域<イクスクリュージョン>の麓にある小さな田舎町に六十年住み続けている彼女は今、人生最大の危機を迎えていた。
「こ、こ、腰が、腰がぁ……!」
彼女は、世界的にも超有名な「魔菓子職人」だ。
ちなみに魔菓子とは、魔物の一部を使用し作られた絶品菓子の事。
そんな職人の彼女は今。
──ぎっくり腰になってしまったのである。
「母ちゃん、大丈夫けぇ?」
そう声を掛けて、息子が腰によく聞く薬草を塗り付ける。
「倅よ、この状態で大丈夫だと思うんか?」
魔菓子ばあさんは、ぎろりと息子を睨みつける。
「ぎっくり腰じゃけぇ、すぐに治ると思うんがな」
「お前はなった事がないから暢気な事が言えるんじゃ。ぎっくり腰侮ることなかれ」
「せやけどなぁ」
「はぁ、どうしたモンかね。これから材料収集行くつもりやったんに」
「魔菓子のんか。無茶や、そんな腰では食べられてしまうで?」
「わぁーっとる。せやから、困っとるんじゃけぇ」
首を捻る二人。
そんな二人を窓から覗く影があった。
●求む、探索隊!
「屈強で有名な魔菓子ばあさん。さすがに歳には勝てなかったね」
境界案内人のカストルは、魔菓子ばあさんと息子の様子を眺めながらふぅ、と軽い溜息をひとつ吐いた。
「今回はこのおばあさんの代理で、魔菓子の材料の探索だよ」
カストルは改めて、魔菓子ばあさん及び彼女の住む世界の説明を始める。
まずこの世界にとって魔物は大変貴重で、それを材料に菓子を作る魔菓子職人も数える程。しかし、その絶品菓子の美味しさで国家より賛辞を与えられたこともあるそうだ。
魔菓子職人は作るだけでなく採集も自分で行わなくてはならないため、探索・戦闘スキルも必要とされること。
「ちなみに今回は戦闘をするような魔物のいるエリアではないそうだから、そこまで戦闘力は必要としていないみたい」
「今回、君たちにやってほしいのは<星草>と呼ばれる材料の回収。正直、今回は戦闘というよりは探索だね。だけど、それなりに珍しいものだそうだから骨が折れるかも……」
カストルはううん、と悩む姿を見せる。
「今回はなかなかに大変かも……だけど、君たちのそのスキルがあれば何とか出来そうな気がしてるから。まぁ、頑張ってみてよ」
君たちを信じなきゃね、とカストルは儚げに微笑んだ。
- 田舎町の魔菓子ばあさん完了
- NM名悠空(yuku)
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年12月10日 22時05分
- 参加人数2/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 2 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(2人)
リプレイ
●魔菓子ばあさんと菓子好きの二人
魔菓子ばあさんこと、キヌの元へやって来た世界とエクレア。
キヌの息子は二人を歓迎し、家に迎え入れた。
家の居間には、うつ伏せになっているキヌ。
彼女は二人を見るなり、痛みに苦しそうに耐えながらも歓迎の言葉を向けた。
「よう来たな。普通の茶菓子で悪いが、とりあえず用意させるけん」
倅、とキヌが声をかけると、息子ははいはい、と慣れたように行動を始める。
「まずは普通の茶菓子か。まぁ、菓子は嫌いじゃないから構わんが」
「魔菓子とやらを、我々も早速頂きたかったねぇ」
世界の言葉に続き、エクレアは残念そうに言った。
「すまんのう。ちょうど素材を切らしていた時にこの有様さね」
「ぎっくり腰とはご愁傷様だねぇ」
「稀代の魔菓子職人が聞いて呆れるだろう? さすがに時の流れには勝てんわ」
「で、代理として俺らが駆り出されたと」
「一流の魔菓子職人は、この世界に一握りしかおらん。魔物との戦闘・一級品の探知などの色んなスキルを要求されるけ、途中で脱落する者も少なくない」
そんな魔菓子職人のワシの代理じゃけ、アンタらも胸を張れるというワケじゃ。
キヌはそう言って、にぃっと笑う。
「そんな期待を掛けられてもねぇ……俺は直接的なスキルは持ち合わせていないんだが」
「そこは心配ないよ、世界くん。君にはとっておきの【テスタメント】があるじゃないか」
「お前に手を貸すのは、不服だがな」
「君も相変わらずだねぇ」
二人のやりとりを見て、キヌはほぅ、と感嘆を漏らす。
「アンタら、今回が初めましてというワケじゃなさそうけん」
キヌの言葉に、二人はお互いにお互いを指差しながら、
「生意気ロリ後輩」
「ツンデレ眼鏡先輩」
ほぼ同時にお互いの特徴と関係性を捉えた呼び方をした。
その互いの態度にキヌはうんうん、と頷きながら笑みを浮かべる。
「今回採ってきてもらう『星草』はチーム探索のが有利じゃけェ、その関係性のがえぇ」
「と、言うと?」
ようやく本題へ。世界とエクレアは今回の獲物である『星草』について訊ねていく。
「星草は、とある草食魔獣の体毛の一種じゃ」
キヌによると星草のヌシは希少種な上にかなり臆病な性格で、肉食魔獣や狩人<ハンター>に狙われることを危惧して滅多に人前に姿を現さないらしい。
大きな魔獣がほとんどいないと言われている湖畔で目撃される事が稀にあるそうで、普段はそこに落ちた星草を採取する形を取っているそうだ。
それも、なかなかに探索を行う必要はあるようだが。
「魔物から直接取ったことがあるのは、過去のワシくらいじゃないか」
「へぇ、ばあさんは星草のヌシを見たことがあるのか」
「言うても、最後に見たのは五年前の話じゃけェ。ワシも長いこと見とらん」
「むしろ、それほどの臆病者ということだねぇ」
ちなみに、その星草でどういった魔菓子が作れるんだい、とエクレア。
「星草は特に粉末状にすると香ばしい匂いがするんだ。基本は香り付けに使用するけェ」
「なるほど。では星草を無事に取ってきた暁には、最高に美味な魔菓子をお願いするよ」
世界くんも菓子類は好きだろうと話を振ると、気だるそうに世界は肯定した。
「もちろんじゃ。そのためにも、しっかりと星草採取、しっかり頼むけん」
「で、その星草のヌシの特徴は?」
世界が訊ねる。出来れば直接的な遭遇は避けたいところだが、万が一のこともある。
世界の問いに、キヌは大きく丸い円を描き、言う。
「大きな、黒ヤギさね」
『黒ヤギ?』
二人は首を傾げた。
草食魔獣という大層な言い方をするから、大きく屈強そうな想像をしていた。
正直、想像とは違ったので少し拍子抜けだ。
「草食といえど角は鋼のように硬く耐久性が高いから、出会ってしまったら要注意じゃ。奴も恐怖で前が見えなくなると、襲ってくることがあるけェ」
「その時は俺の【影踏み】を使えばいい。臆病者であれば、その程度でおとなしく退き下がるだろう」
「万が一、怪我でもしたら【ミリアドハーモニクス】で回復くらいはしてやる」
「おや、世界くんにしては随分と優しいじゃないか」
「貸しを作っておいた方が、お前へのストレスもマシになる気がするからな」
世界の挑発におやおや、と少しだけ驚くエクレア。
「だったら俺は、それ以上の貸しを作ればいんだね?」
「本当に生意気だな、お前」
「お褒めに預かり光栄さ」
「一切褒めてないがな」
それはさておき、とエクレアは逸れた話題を元に戻す。
「最善のパターンは、湖畔に星草が落ちていてそれを回収するだけ」
逆に最悪のパターンは……お察しの通りさ、とエクレアはほくそ笑む。
「それだけは何とか回避したいところだな」
「湖畔まで道のりには小さな魔物も少なくないけん、注意して行ってくれ」
キヌの注意に、二人は小さく頷いた。
●水面輝く湖畔
キヌに手渡された地図を記憶した世界とエクレアは、山中をどんどん進んでいく。
今のところ、小さな魔物にすら会っていない。
「なぁ、不気味に思わないか」
「おばあさんが言っていた注意に反して魔物が一切出てこない、とでも言いたいのかな?」
「あぁ、それにここに来てから空がずっと曇天で、気味が悪いったらないな」
「俺とて、それは不思議に感じていたよ。この周辺で何か起こっていそうだ」
だがその状況にわくわくしている、とばかりにエクレアは何故か上機嫌だ。
「面白いと思わないかい? 魔菓子という存在も、この山の不気味さも」
なかなかに楽しめそうな仕事で安心したよ、と嬉々として語る。
「ポジティブでいいな、お前は」
俺は全く安心なんて出来そうにないな、と世界は大きく溜息を吐いた。
「何事も捉え方だよ、世界くん」
「俺はお前と関わっている時点で色々と不安なのだがな」
そんな憎まれ口を叩きながら、世界は辺りを見回した。
空はずっと変わらず、濃い灰色の曇り空。
両側を自分の身長以上の木々に挟まれ、視野がかなり狭い。
そのせいもあってか、どんよりと暗くも感じる。
「こんな環境じゃ気も滅入るよな」
そんな事を独り言ちてみるが、それを聞いたエクレアは首を横に振る。
「影の女たる俺に、そのような質問をするかい?」
「いや、別に質問をしたワケではないのだが」
「まぁいいさ。俺にとっては好都合な環境だよ。どこもかしこも影になるワケだからね」
エクレアは随分と余裕のある様子だ。
何が起きているのか把握出来ているのか。それとも。
「さて、目的の湖畔はこの先だが。念のため、この辺りから探索を始めようじゃないか」
君の、世界くんの【テスタメント】の力も借りてね。と、エクレアは口角を上げる。
「まぁ、これも仕事だからな」
世界は最初が肝心だと【テスタメント】を使用し、エクレアの探索能力を劇的に向上させる。
「──おや、これは」
早速、エクレアは何か手がかりとなるものを発見したようだ。
「何が見つかった?」
「見たまえよ、ここ」
エクレアが指を差した箇所には、大きな足跡が。
「おばあさんが言っていただろう? 湖畔周辺に他の大きな魔獣はいない、と」
「ということは、この足跡が?」
「おそらく、ね」
肝心の星草は落ちていないようだけど、これを辿れば。
エクレアは【テスタメント】が短時間の効能だと理解していたので、素早く走り出す。
「あ、おい! いきなり走るなって!」
世界もエクレアの後をすぐに追う。
彼女を追って、広い湖畔に辿り着く世界。
そこは先ほどの視野の狭さと薄暗さが嘘だったかのように広く、光が眩しく降り注いでいた。
「山は天気が変わりやすい、とは言ったものだが。これは驚いた」
「世界くん、あの桟橋が見えるかい?」
「桟橋?」
「そこに、大きな影があるだろう。──星草のヌシだ」
「なっ⁉」
滅多に姿を現さないのではなかったのか。
初回にして、あっさりとお目見えしてしまった。
果たして運が良いのか、悪いのか。
「戦闘力があまりない我々が近づくのは危険だ。だが彼は、長時間桟橋に留まっているようだ」
彼が去るのを待ち、その後に桟橋に行けば。
「星草が落ちている可能性はあるってことか」
「そういうことさ」
ヌシがいつ去ってくれるのかは分からないが。
戦闘するよりは幾分マシだ。ここはおとなしく、ヌシとの耐久勝負といこうか。
「ある意味、戦闘だな」
「彼と我々の、根比べだけどねぇ」
世界とエクレアはこの後、48時間を耐え抜く。
疲弊した身体を引きずって桟橋を見に行くと、そこに星草が落ちていた。
「はぁ……これでなかったら、ヌシに殴りかかるところだった」
「世界くん、冗談でもそれはやめておいた方がいい。君の身体に鋼の角が貫かれてしまうよ」
エクレアに咎められ、頭を搔く世界。
二人は小さな魔物を上手く退かせつつ、山を下りていった。
●報酬の絶品魔菓子
「よう無事に帰ってきたなぁ!」
町に戻った二人を待っていたのはピンピンしたキヌであった。
「ばあさん、腰はもういいのか?」
「二日もあれば、もう平気じゃ!」
ふんふん、と両腕を力強く振るうキヌ。
「で、星草は見つかったんけ?」
「ほら、この通りさ」
テーブルの上に採取してきた星草を広げるエクレア。
その量におぉ、とキヌとその息子は驚きの声を上げる。
「初めてなのにこの量とは、とんだ優秀モンじゃけェ!」
キヌは嬉しそうに星草を眺める。
これが欲しかった、と満面の笑みを浮かべる。
「これで魔菓子とやらは作れるのか?」
「十分作れるわ! 今回は特別メニューを作るけん!」
楽しみにまっておれ、とキヌは厨房に入る準備を始める。
「では噂の魔菓子をいただくとしよう。あ、珈琲を忘れないでおくれよ。砂糖とミルクたっぷりでね」
「特別メニューとは楽しみだな。駄賃として釣り合うかどうか拝見させて頂こう」
世界とエクレアは無類の菓子好きだ。
この後、一流魔菓子職人・キヌの絶品魔菓子(特別メニュー)を存分に堪能することになる。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
●世界説明
「魔物」という存在が貴重な世界。
禁止区域<イクスクリュージョン>と呼ばれる場所がある。
今回の回収対象はとある魔物が落とした体毛の一種らしい。
●目標
アイテム<星草>を回収
●他に出来る事(必要であれば)
その他アイテム(水・鉱物など)の回収
小さな魔物を追い払う
●NPC
魔菓子ばあさん
ぎっくり腰のため動けない、今回の依頼者。
魔菓子を作らせると世界でも右に出る者はいない。
●サンプルプレイング①
わたしは、サーチのうりょくにたけている。
ちからはまったくないけれど、
めずらしいものがあればおしらせできる。
まものがいても、かいひできるようおしらせできる。
だから、まかせてほしい。
マガシだっけ……おいしそう。たべたい。じゅるり。
●サンプルプレイング②
戦闘なら俺様にお任せってなぁ!!
……って、え、今回は探索メイン?
戦闘がほとんどないって、うっわマジかよ!?
まぁ、ほとんどだろ?
100%ないって言われてないだけマシ。
小さな魔物を追い払うくらい、簡単にやってやるよ。
●最後にNMよりごあいさつ
こんにちは、悠空(yuku)です。
平和に紛れる闇が好物です。
今回はぎっくり腰になった魔菓子ばあさんに代わって探索です。
また次回以降に、魔物と戦闘編も作りますのでどうぞお楽しみに。
あなたの自慢のスキルで探索を成功させてあげてくださいね。
Tweet