PandoraPartyProject

シナリオ詳細

断水に臨む

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 上等な絹の衣装に、綺麗な宝石を飾られて。
 貴婦人と言うよりは、祈りを捧げる祭司のような服装で、わたしはある湖の縁に立っていました。
 実際、それは間違っていないようにも思えます。
 だって、わたしが此処にいるのはあるお方の生け贄として。
 複数の街と村の水源である此の地に住まう魔物を暴れさせず、鎮め続けるための唯一つの手段。
「………………」
 言葉も発せぬ口が、『そのお方』を呼ぶように形作られました。
 そして、それに応えるように。
『ァ……ァァァァァアアア』
 湖から顔を出したのは、水で出来た巨大な多頭の蛇。
 その何れもが、醜悪な人間の顔で、わたしを見つめてはにやにやと笑います。
「……、……」
 頭を垂れ、両手を組んで。
 複数の頭が、わたしの身体を千々に裂き、平等に咀嚼するのであろうその時を間近に控え、けれど。
(……しにたくなんて、ないよ)
 生まれつき、喉がつぶれていたわたしは、聞こえないのをいいことに、口の形だけでそう呟きました。
 それでも、同時に仕方ないとも思えます。
 人と話せない。誰かと仲良くなれない。だから、一人ぼっちのわたしは、いなくてもかまわない。
 望まない不幸に呪われて、抵抗することも許されず。
 死にたくないわたしは、けれど同時に死ぬべきでしかない存在だったのです。
 やがて、人面蛇の頭が、走馬燈を見るわたしに大口を開けて、先ずその身体をはんぶんに千切ろうと……

「──そんなのは、卑怯だ!」

 ぶつん、と言う音が、わたしの頭上で聞こえました。
 次いで、降りかかるたくさんの水。それが、たった今まで私を食べようとしていた蛇の頭であったことに気付くのは、少しだけ時間が掛かりました。
 目を見開いた私の先には、見窄らしい格好をした、同い年くらいの男の子が。
「死にたくないなら逃げればいい! それが駄目なら、助けを求めればいいのに!
 思いだけ吐き出して何もしないなんて、お前は卑怯だ!」
 鎧も、盾も持たず。ただ、ぴかぴかの剣だけを持った男の子は、会ったばかりのわたしを責め立てて、直ぐに背中を見せました。
 わたしは驚いて、少しだけ腹を立てて──けれど。
 誰も気付かなかった、わたしの言葉に気付いてくれたことが、とても、うれしくて。
「お前なんかじゃ守れない。コイツは満足してくれない。
 さっさと逃げろ、弱虫! 僕がこいつを倒したって、みんなに言い回れ!」
 その言葉に、わたしはひどく迷いました。
 手足を震わせたあなたを犠牲にして逃げることも、わたしがやっぱり食べられてしまうことも、とても、とても選べなくて。
 だから、わたしは。
「……っ!!」
 ぱくぱくと口を開いて、わたしはそこから逃げ出しました。
 去り際、その背中に「誰が待っててやるもんか!」と応えてくれた。
 そんなあの人を、絶対に死なせたくないと、強く思いながら。


「ヒーローごっこは興味があるかい? 可憐な少女から、急ぎの依頼がお達しだ」
 言葉こそ穏やかでも、いつものそれより早口で言う『黒猫の』ショウ(p3n000005)に対して、特異運命座標たちは出立の準備を並行しながら話を聞く。
「場所は王都メフ・メティートのほど近く。複数の村と町を繋ぐ巨大な湖だ。
 その場所では少し前からタチの悪い魔物が住み着いたらしくてね。コイツが湖を暴れ回る所為で、其処は水源として使い物に成らなくなっていたらしい。」
『傭兵』──ラサ傭兵商会連合でも無い此処は、『ローレット』が出来る以前に、その魔物を対処する人間を容易くは用意できなかった。
 困り果てた街の人間は、試しに魔物へ静まるように交渉し……意外にもそれは受け容れられた。月に一人の生け贄を対価として、だが。
「今回の依頼人もその一人だった、が──彼女は或る少年に助けられたとのことだ。
 つまり、依頼内容は少年の救出と、魔物の討伐。中々『らしい』依頼だろう?」
 言いながらも、ショウは苦笑を浮かべていた。
 彼曰く、身一つで来た少女は代金として、身につけていた宝石や絹のドレスさえもその場で脱ぎ捨てて依頼してきたらしい。流石に服までは止めたけどね、と付け加えて。
「緊急で十分な情報は手に入らなかったが、件の魔物はその身体を水で構成された、人面多頭の大蛇とのことだ。
 それ故に物理攻撃は効きづらく、対して蛇の方はその巨大さを活かして長距離、広範囲に強力な物理攻撃を撃てるらしい。相手にすると間違いなく手こずるタイプだな」
 魔術を主とした攻撃と、物理方面への防御。両者の兼ね合いが非常に重要になる依頼だ。最後に、とショウは言う。
「件の少年だが、彼の攻撃はどうも例の魔物に対して有効なものらしい。
 参加するメンバーによっては、その子の手も借りたいところだが……あの子は、それを受け容れてくれそうにはないみたいなんだ」


 いつも笑顔のお父さんが居た。
 釣られて笑うお母さんと、妹が居た。僕はそれが妙にくすぐったくて上手く笑えないけど、心の中はとっても幸せだった。
 それが、ある日突然、終わってしまった。
 お父さんから笑顔が消えた。「だまされた」とか「借金が」とか、ぶつぶつ呟いて下を見る日が増えた。
 お母さんの笑顔は泣き顔だけになって、妹はそんな二人を心配する顔ばかりになった。
 けれど、それすらもなくなって。
 知り合いの商人を手伝った帰り。家に戻った僕の前には、血まみれになったお母さんと妹が居た。
 少し遅れて、刃物を手にしたお父さんも。僕を殺そうと走ってきたお父さんから逃げて、逃げて、振り返れば。
 お父さんは、自分の首を切って、死んでいた。
 あとは、何も覚えていない。
 僕を殺そうとしたお父さんは、何度も「ごめん」と「ゆるしてくれ」を叫んでいた。
 こうして逃げ回って、全部無くして、一人ぼっちになるくらいなら、僕はあの時、お父さんに殺されるべきだったのかも知れない。
 今からでも、遅くないかな。そう思った僕の前を、沢山の大人が通った。
 少しだけ、そっちに目を向けると、大人達の輪の中には、きれいな女の子が居て。
 綺麗な着物と、宝石をつけた女の子は、周囲の大人達の言葉を聞きながら、しずしずと歩いていた。
「名誉な役目だ」「街の守り人になるのだ」「救われる」「感謝されるだろう」「君が」「貴方が」「沢山の」「大切な人の」「命を」「命を」「命を」「助けるんだ」

 ──でも、わたしはしにたくないよ。

 言葉は、聞こえなかった。
 その子が、口だけを動かしただけ。それに気付いたのは、偶然だったんだと思う。
 何も解らない僕は、けれど、これからあの子が「名誉な役目」に「殺される」と言うことだけを理解して。
 だったら、と。
 近くにいた露天商から、並んでる剣を盗んで走り出した。
 泥棒と叫ぶ声に、ごめんと心の中で謝って、僕はあの子の行く先に走り出す。
 死にたくない君と、死ななければいけない役目。
 それなら、死にたい僕が、君の代わりになればいい。
 ──何も無くなった僕が、最後に女の子を助けたんだよ。
 死んだ先、家族に迎えられた僕が、そう誇ることが出来るように。

GMコメント

 GMの田辺です。
 以下、シナリオ詳細。

●成功条件
・『魔物』の討伐
・『少年』の生存

●場所
『幻想』の首都、メフ・メティートを近郊に置く巨大な湖です。
 複数の村や町の水源となっており、下記『魔物』は其処に住み着き、暴れ回ることで水源としての機能を働かせないようにしていました。
 現在『魔物』と下記『少年』は湖の畔で交戦中。戦闘開始時、両者との距離は20mです。

●敵
『魔物』
 身体を水で構成された人面多頭の蛇です。その性質から、ライトヒット以下の物理攻撃はダメージが与えられなくなります。
 戦闘開始時、頭の数は七つ。戦闘中はその数に応じた行動回数を持ちます。
 体力は全ての頭が共有しておりますが、一つの頭に対して一定値以上のダメージを与えることで、その頭を破壊(=行動回数の減少)することが出来ます。
 攻撃方法は長距離に対する『頭突き』と、近距離に対する『喰い裂き』。後者はHP吸収効果を持っております。

●その他
『少年』
 幻想に住む一般家庭の少年です。年齢は10歳前後。
 一家の無理心中から逃げ出し、そのことを歪んだ形で後悔した結果、自身も後を追うことを望んでいます。
『魔物』を倒した後、或いは『魔物』に殺されることでその望みを果たそうと考えていますが、生け贄となった少女を純粋に助けたかっただけという可能性も否定できません。
 戦闘開始時に於ける『少年』のHPは1/5以下。あと一撃で戦闘不能~重傷状態に陥ります。
 また、『少年』は『魔物』に対して強力な特攻を有しており、尚かつ一般家庭の出ながら最低限の戦闘能力を有しております。



 それでは、参加をお待ちしております。

  • 断水に臨む完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月07日 21時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

祈祷 琴音(p3p001363)
特異運命座標
十六女 綾女(p3p003203)
毎夜の蝶
エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)
幸せの提案者
星影 瞬兵(p3p004802)
貫く想い
星影 霧玄(p3p004883)
二重旋律
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
ヤナギ(p3p006253)
撃鉄の
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者

リプレイ


「……天国なんて本気で信じてんのかね」
 誰ともなく、『撃鉄の』ヤナギ(p3p006253)が言葉を発する。
 眇めた瞳は年齢に見合わず、老齢の兵士のような達観を映している。手にした鉄槌を握りなおした彼は、呆れ交じりの表情を浮かべながら、けれど確りと前を見据えて。
「死んだら、笑いかける相手はいないし、張れる胸もない。誇れる自分ってのはなんなんだかね」
「……あんたは、一体」
 すでに、交戦は開始されていた。
 眼前には水で出来た巨躯を振るう多頭の蛇。その攻撃を一度、二度と受け続ける彼は、しかし僅かにでも弛むことなく。
「お前が助けた子に頼まれたよ。お前を救ってほしいって、生きて欲しいって思ってくれた子だ」
「っ!!」
 瞠目、後に反駁……するよりも早く。傷だらけのその身を、柔らかな燐光がそうと包んだ。
「あの子も、『言って』いたでしょう? 待っていてって。
 貴方が助けた子ね、私達に身包み渡して助けてって言うようないい子なのよ。貴方が身代わりに死ぬなんて事に耐えられないと思うわ」
 十六女 綾女(p3p003203)の言葉に口ごもる少年をおいて、残る魔物の首が再び少年を狙うも、
「水の蛇ねぇ……どうせなら酒の蛇がよかったわぁ」
 残念そうに息を吐いた『とにかく酒が飲みたい』祈祷 琴音(p3p001363)が、取り出した一升瓶をぐいと一気に煽っては飲み干す。
 人面蛇の視線が揺らぐ、延ばされた首の軌道は自然と琴音の側にそれる。
 向いた首は合計で三つ。そのいずれもをかわせず、その身で受けることを余儀なくされた琴音の体はあっという間に傷だらけになっていく。
「祈祷さん、耐えられる?」
「えぇ。兎も角、先ずはその子をお願いねぇ」
 返された言葉にうなずいた『貫く想い』星影 瞬兵(p3p004802)が、言われるままに綾女と同様、少年の回復へ移った。
(部外者が軽々しく口を出せる話ではないけど……やっぱり気分良くないね)
 他者の都合で傷つき、今まさに死を選ぼうとしている少年に、瞬兵の表情は暗いまま。
 尤も、だからこそ、この機会を――というのは、彼のみならず、皆が抱いている思いでも在ろうが。
 一通りの回復は済んだ。十全には至らずとも、軋んでいた体に、再び施された余力。
 それを――どう返せばいいのか解らない、少年に。
「……死にたくないし、死んでほしくない」
 聞こえたのは、『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)の、毅然とした言葉。
「依頼主さんの想いは伝わりました……私も、そう思いますから……!」
 霊刀【因業断】が音もなく震える。破甲を属性されたそれが、担い手の剣気と共に振り下ろされれば、其処には白銀の軌跡が魔物の体積を大きく削り取っていた。

 ――おおおおぉぉぉ……!

 人面多頭の水蛇が吼える。自らの敵に、供物を掠め取った簒奪者に。
「さあ、こちらです!」
 その怒気を、嫌気を、利用するかのように声を上げたのは『特異運命座標』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)。
 直後、銃声。自他共に認める精密射撃は魔物の首一つを正確に穿ち、それに痛みを覚えたかのごとく暴れる蛇は攻撃を一層苛烈にする。
 それこそが、得意運命座標たちの狙いとも知らずに。
「……行こう、零夜」
「上等!」
 もう一人の自分と共に、『二重旋律』星影 霧玄(p3p004883)が高らかな声を上げ、虚空に出だした鍵盤を叩いて即興曲を作り上げる。
 魂震わせる。その言葉に過ちはなく、外傷とは違う形で身を引き裂かれた魔物へ、さらに。
「ふふ……動く水って魔法みたいで何だか懐かしいわぁ」
『頽廃世界より』エルメス・クロロティカ・エレフセリア(p3p004255)の異術が、『呑んだ』。
 けたたましく喋る、エルメスの杖に施された蛇の意匠。その口から吐き出された霧は殺傷そのものとなって、魔物の首を数多く巻き込んで傷を負わせていく。
「もっとも、形は歪だからもうちょっと可愛げが欲しかったわね」
「……あんた達は」
 理解できない。その意図を言葉にはっきりと乗せた少年が、苦しそうな声で問う。
「あんた達の、望みは、何なんだ」
 家族の死によって視界を曇らせた少年は、しかし、愚かではなかった。
「……確かに、私たちはある少女に頼まれてこの場に来ました」
「………………」
「ですが、今の私たちではあの魔物を打倒するのに十分な力があるとは言えません」
 少年の発言の意図を察した特異運命座標らのうち、コーデリアが慎重な態度で、しかしはっきりと少年に言った。
「助けに来た身でお願いするのも申し訳ないのですが、あの魔物退治をお手伝いいただけませんか?」


 戦闘は少なくとも、特異運命座標達の望む形に沿って行動できていると言えた。
 カバーリングにはヤナギ。回復には綾女と瞬兵。そして琴音が敵のルアーリングを兼ねつつも、残るメンバーが前後衛の区別はあれど攻撃を担当している。
 攻守に安定した特異運命座標達の戦闘は、予想しうる限りではベターな流れを構築できていると言える。
 問題は、
「く、あ──────!」
 その安定したメンバーによる比較的理想に沿った戦闘に於いても、特異運命座標らは相当に厳しい状況を強いられているという点だ。
 脇腹に水蛇の歯が食い込み、血を啜られれば、収奪された生命力に九鬼が呻く。
「ううん……厳しいわね」
「頭の数は減ってきても、肝心の本体がアレだと、ねぇ」
 傷んだ九鬼にライトヒールを唱える綾女に琴音が然りと頷く。
 語る彼女の身体は、挑発に徹しながらも大した負傷が無い。それがこの苦境を形作った理由を指し示してもいた。
 事前に情報屋が通達したように、この魔物は物理攻撃に対する態勢が極めて高い。
 それに対して、攻撃を担当するメンバーは基本的に術技に優れた者が多いが、当然物理方面に特化した九鬼やコーデリア等も存在する。そうした者は魔物が元来有している物理耐性をくぐり抜けるために、その攻撃に傾注することで安定した命中精度を築けている。
 だが、それは回避と防御の双方を捨てた上で成り立つ、『危うい』『安定』とも言える。
 加え、これは自然に過ぎて特異運命座標らも見落としていたかも知れないが、件の魔物は明確な知性を有している。少なくとも、近隣の街の人間と生け贄に関する交渉を可能とする程度には。
 行動回数という点では戦闘開始時、特異運命座標達と魔物は大差なくとも、一括化されたリソースと分散されたリソース、さらに個々が行える行動の幅という点で、魔物は自身が敵方よりも劣っていることを理解できていた。
 だからこそ、現在。
 琴音の怒濤飲酒をくぐり抜けた幾体かの魔物は、近接距離にいる当てやすい存在にドレインを含めた攻撃を行い、少しずつ相手の数を削ることに専念していた。
 こうなると、特異運命座標達はじわじわと削られていく一方だ。
 元より情報屋が強力と言っていた攻撃は伊達ではない。綾女と瞬兵の回復が常に施されても、その回復量の上から複数回の攻撃が降り注ぎ、前衛陣の体力を瞬く間に奪っていく。
 劣勢を目前にした均衡。それでも。
「……何でだ」
 少年は呟いた。傷を失くした身体で、眼前のヤナギを睨み付けながら。
「何で、僕を戦わせない!」
 言葉を受けたヤナギの傷は深く、だのに彼は少年の挙動を許さない。
 会話の最中にも、降り注ぐ多頭。衝撃に拉ぎ、その歯に身を切り裂かれながら、だのに、ヤナギは呆れを交えた声音で言う。『それ』じゃあ駄目だ、戦わせられない、と。
「誰かを守って死んだら満足かよ、バカか。
 死んだら──二度と守れないだろ」
 未だ、自身を捨てる覚悟で臨もうとしている間は、絶対に。
「結局あのバケモノが生きてりゃ、またあの子は生贄にされる。
 仮にあの子じゃなく、他の誰かだったとして……それがあの子の友達だったらどうだ?」
「それは……!」
 衝撃。
 轟音と共に地は抉れ、受けたヤナギの身体が、其処で傾いだ。
 可能性は燃焼する。倒れるはずの運命を、意志一つでねじ伏せる。
「……あの子は絶対に救われない。だからバケモノを何とかするんだ」
 俺は、あの子もお前も守ってやる。
 幾多の異形を屠った戦士は、混沌肯定によってその力量の殆どを失った。
 それでも、心は折れず。それ故に、彼は未だに立ち続けている。
「……貴方は大事な人に死んでほしい?」
 唐突な、鋭利な言葉が、其処で差し込まれた。
 撃ち込んだ異能は何度目だろうか。消耗の激しい範囲攻撃を主軸に放ち続けたエルメスは、その頬に微か汗を浮かべながら、しかしふわりと笑んで少年を見つめる。
「死ぬ人を見た事がある? ほとんどの人が泣いてたり、辛そうにしたり、後悔したりするの。
 だから、わたしは大事な人に死んでほしくないし……どうせいつか死ぬのなら、死ぬときは笑って死ねるのが一番だと思うわぁ」
 回復が追いつかず、倒れかけたヤナギを狙う魔物に、エルメスは尽きかけた気力を振り絞り、死傷の霧で覆い包む。
 残る頭の数は三つ。琴音もここで敵の挑発から攻撃へとシフトしたが、先にも言ったとおりドレインを主とした攻撃を行い続けた魔物の体力は未だ少なくない。
 気力を温存せず、使えるところで一気に注ぎ込むのは琴音らしいと言えるが、それが吉と出るか凶と出るかは危ういところだった。
「君の気持ち、なんとなくだけどわからなくも無いよ」
 俺も、『一人』を知っている。そう呟いた霧玄が、続けざまの魔法で魔物の頭を撃ち抜く。
 耐久限界を迎えた頭がまた一つ弾けた。残る二つは、未だ傷らしい傷も見えないが。
「俺達はある子の依頼でここに来た。それは詰まり、君を助けたいと強く願う人がいるってことだよ。
 だから……まだ君を待つ人がいるから、その為に俺は君を連れて帰るよ」
「……一人で生き残って一緒に逝きたいと思うのは、いい親で大事な家族だったなら当然だと思う。
 それでも、依頼なのは勿論だけど、俺はそれ以上に俺の我儘でもって君を護るよ」
 言葉を継いだ瞬兵も、少年を見つめて呟いた。
 きっと、死んでしまった君の家族も、今君が生きていることを、生き続けることを望んでいるはずだから、と。
 その言葉は、恐らく今まで魔物に放たれた攻撃よりも、少年の心を深く抉って。
「君が死にたいとしても……自分の代わりに誰かが死んで笑ってられる人なんていないと思うから」
『当てやすい敵』として少年を庇うヤナギ同様、攻撃を受けた比率が多い九鬼も、その身体は満身創痍の一言に尽きる。
 傷ついた鎧、裂けた衣服。何よりも朱に染まったその身体こそが。
「守ると決めたなら生きて! あの子の心を死なせないためにも……!」
 それでも、愚直に。
 一刀両断が残る首のうち一つを大きく切り裂いた。返す刀とばかりに薙いだ首の一撃が、遂に九鬼の意識を刈り取る。
 倒れる影。しかし、その意志を引き継ぐように。
「……望みを果たすかどうかは、その力を振るった先を見てから考えても遅くないのではないでしょうか?」
 撃ち抜いたコーデリアの銃弾が、九鬼によって削られた魔物の首を更に抉る。
 咆哮。或いは死に往く己の絶叫か。魔物の叫びは耳を塞ぎたいほどに禍々しく、しかし少年がそれをしなかったのは。
「貴方の過去に何があったのか、私にはわかりません。
 ただ、今貴方の手には誰かを救えるだけの力があるのは事実です」
「それにね。男だったら女を泣かせちゃダメ。
 戦うのは止めないけど……生きて帰りなさい」
 綾女も同様に。各個撃破を主とした敵によって傷ついた仲間の、幾許かの助けにでもならんと、何度でも癒術を唱える姿に、しかし恐れは僅かにでも無くて。
「……今回だけだ」
 首を振った少年が、忌々しげに口にする。
「あんた達の正しさなんて解らない。助けたアイツの気持ちなんて知るもんか。
 今だけ、今回だけ、生き残ってやる。僕が行くべき、正しい道を見極めるまで!」
「『……それで良いさ』」
 答えたのは霧玄、ではない。その中にいるもう一人、零夜。
「『どうせいつかは死ぬんだ。なら、本気で生きてやりきって死ぬのも悪くないよ。
 まだちゃんと思ってくれる、大切な人を持ってるんだから』」
 ちらと見た瞬兵は、その言葉に笑顔で頷いて。
「……行ってこい」
 最後に、ヤナギが口にする。
 頽れる身体。それに何かを言おうとした少年は、言葉を堪え、ただ目の前の敵の元へと疾駆した。
「とっとと──────」
 跳んだ少年。手にしたその剣が、より一層目映い輝きを放てば。
「──倒れろ!」
 残る二本の首を、切り裂く。
 理屈は解らず、しかし致命打を与えられた魔物が、そうして漸く逃げることを選択したときには。
「……此処で逃げられて、また何処かの水源で暴れられても困るのよねぇ」
 もう、遅い。
 残った気力は丁度『一発分』。狙ったような偶然に、琴音が笑って、手にしたジョッキを豪快に振り下ろす。
「水源が使えないと、酒も作れなくなるもの。
 良い飲酒ライフのためにも──ここでやられて頂戴ねぇ?」
 弾ける、最後の頭。
 それと共に、長大な身体を構成していた水が霧散すれば、後には静寂だけがその場を満たした。


「俺は瞬兵だよ。これからよろしくね」
 全てが終わった後、傷ついた仲間の治療を終えて帰途につく前。
 瞬兵は手を伸ばして、少年に握手を求めた。
「……ああ」
 困惑した少年だが、結局は根負けしてその手を握る。
 それを見て隠れて笑う霧玄を、少年はぎろりと睨み付けたが、霧玄の反応も仕方のないことだろう。
「死に対するお話。どんな結末になるかと思ったけど。
 ふふ。素敵なおしまいを迎えられて、本当に良かったわ」
「……おい、僕は別に、あんたたちに絆された訳じゃ」
「あらぁ、まだ死んでやろうなんて思ってるの?」
 エルメスに反駁した少年だが、その反論に言葉を差し挟んだのは琴音だった。
「あんたが死んだら、あの少女は自分のせいであんたが死んだと後悔したまま生きるんでしょうねぇ」
「……ぐ」
「そんな今後数十年続く苦しみを与えるくせに、自分は死んで楽になるつもりとは、とんでもない極悪人ねぇ?」
「ぐ、ぐ……!!」
 うめき、頭を抱える少年に、琴音がしてやったりの表情を浮かべ、コーデリアは苦笑する、やりすぎたら可哀想ですよ、と。
「……辛かった時の事ばかり考えて生きるのは別に悪いと思わないけどな」
 傷ついた身体を引きずるヤナギが、視線を向けた少年の頬を叩いた。
 癒えきらない深い傷もあって、その威力は軽く手を当てた程度にも等しい。それでもヤナギは真剣に、少年の目を見つめる。
「俺もよく親父に引っぱたかれた。間違ってたから。正しいことを教えるためにな」
 お前はどうだった? そう問うたヤナギに、少年は困惑の表情を浮かべることしかできない。
 十を超えたばかりの少年に、それは酷な問いなのかも知れない。けれど、それは大切な物を喪った少年が今、教えられなければならないことでもあるのだ。
「いつかお前は、お前のままで変われるといいな」
 そう言って、ふらりと去っていくヤナギは、最後に。
「ああ、それと──お前を助けた事、あの子に報告しに行くけど、ついてくるか?」
「………………」
 答えは解りきっている。それをわざわざ口にしたことに少年が恨めしげな視線を送り、素知らぬ顔のヤナギは「ま、好きにすりゃいいさ」と言って、先導する形で少年の先を歩いた。
「そうね。戦い慣れているみたいだし、貴方さえ良ければローレットで働いてみない? 私からも口添えしておくから」
 時間があれば、その後彼を『慰め』ようとも考えた綾女ではあるが、依頼を申し込んだ少女の表情を思い返せば、そんな時間は出来そうにないと苦笑する。
 それはそれで良いのだろう。自身が生きる理由をこの子供に与えなくても良いというのなら、それはこの少年にとって幸福なことだと。
「……君の帰りを待っている子が居ます」
 そうして、ヤナギ同様傷を負った九鬼が、少年の手を引いた。
「言いたいこと。考えてること。沢山有ると思いますけど、それでも。
 まずは、無事に帰ってあの子を安心させてあげてください……それは君にしか、出来ない事です……!」
 向けられた満面の笑みに対して、諦めたように天を仰いだ少年は、最後にぽつりと呟いた。
「……随分と、難しくなっちゃったよな」
 自らの、誤った願いに対する、確かな本心を。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

鴉羽・九鬼(p3p006158)[重傷]
Life is fragile
ヤナギ(p3p006253)[重傷]
撃鉄の

あとがき

ご参加、ありがとうございました。

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