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シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>バザールの噴水前できれいなメクレオ(女体化)を倒せ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ネフェレスト・バザール・噴水前。
 そこは屋台や出店がずらりと並ぶ活気あふれた区画だった。
 あちこちから上がる火の手。その向こうから歯をがちがち鳴らし、長く身をのたうち回らせながら巨大なムカデが迫ってくる。
「皆、がんばって!」
 黒髪黒目で十代後半の年回り。おっとりとして人がよさそうな童顔。口元にほくろ、肌は出てないがボディラインがあらわな服着た女が、声を張り上げている。
 その声に鼓舞されて、戦い慣れていなさそうな男達が嬉々としてムカデの前に木の棒をもって立ちはだかり、次の瞬間に肉塊になっていく。
 男も女も老いも若きも。
「頑張って、ここを守ろう!」
 と叫ぶ娘に迎合して、喜んで命を差し出す。
「お嬢ちゃんには助けてもらったからな」
「助け合わなきゃね」
 ムカデに傷の一つもつけられないだろう刃物を振り回しながら、砂嵐の民は喜び勇んで死のアギトの前に身を投げ出す。
「けがは治すから!」
 娘は献身的に薬をばらまく。
「皆、飲んで! 心も体も強くなれるよ!」
 地面に落ちた粉薬を砂と一緒になめとりながら、砂嵐の民は戦うのだ。
 すでにワールドイーターに食い荒らされてボロボロになった、戦略的にまったく意味のないゴミデータの片隅で。
「さあ、活路を見出そう! ほかの人たちにももっと薬を配らなきゃ!」
 娘は鼓舞する。
 試さなければ。まがい物として作られたなら、オリジナルにできないことをしなくては。でなければ、生まれた意味なんかない。オリジナルが絶対しないことをして、世界に成果を残さなければ。


「なんというか、不幸なめぐりあわせ――いや、ここまで重なるとそうなるべくより高次の干渉による必然――」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、うめいている。世界は常に流動的なのだ。物理的意味で。
「まあいい。色々大きな流れはあるけれど、それで余計な心を揺らされて戦闘効率が落ちるのは本末転倒だ。現実的経緯だけを述べよう」
 冷めた茶をぐいと一気にあおると、いつも通りべらべらとしゃべり出した。
「R.O.Oもバージョンを重ね、ログアウトできない連中も出てきた」
 情報屋は、へふうと息をついた。
「『大魔種に侵食されたお前はもうだめだ。せめて楽に死なせてやろう』とか言われて、唯々諾々と受け入れられる訳ないっつーの」
 何かいろいろこみあげてきたのか、上げ貸しをバリバリ食いながら、情報屋はさらに言い募る。
「通貨、本来排除してしかるべき大魔種に呼応して、バグまき散らすとか馬鹿なの? 壊れてんの? 最初からやり直してどーぞ」
 それは初期化っていうんだよー。と、あまり練達的技術に明るくない情報屋に脳内に直接語り掛けるイレギュラーズがちらほら。情報屋に受け取り機能が付いているかは別の話だ。
「『パラティーゾ』だの『真性怪異・神異』だの『シャドーレギオン』だの『大樹の嘆き』だの『ワールドイーター』だのが、R.O.Oはもとより混沌練達に引導渡しに来るぞ」
「そんで死体に『妹よ、せめて安らかに』とか花とか飾る気でいるんだぞ。概念的に――くそくらえ」
 情報屋は毒づいた。


「――というわけで、個別の案件に入るぞ。砂嵐大進軍作戦の方な」
 情報屋はお手元の資料をご覧ください。といった。
「終焉(ラスト・ラスト)から突如出現した闇の大軍勢によって、砂嵐の勢力をまたたく間のうちに蹂躙され、士気はドン底です。世界規模で」
 こういう時立てる奴は頭のねじが変な風に調整されていると相場が決まっている。
「だが、砂の王ディルクとその仲間たちは諦めてはいなかった」
 しぶといなさすが盗賊傭兵しぶとい。
「『彼等は終末の軍勢へ復讐の刃を突き立てんがために、ジーニアスゲームネクストでのしこりの残る伝承と和解を果たし、戦列へと加わった』――まあ、どさくさ紛れだから、この件が片付いたらまたもめ始めそうだな」
 目的ははっきりしている。
「 夢の都ネフェルストをその手に取り戻すため、そして世界を救うため。恐るべき彼等もまた世界を守る一員ということだ。少なくとも今だけは」
 ここまで説明した情報屋は顔をゆがめた。
「ネフェルストでは現在も住民の一部が武装蜂起して抵抗中――その首謀者というか、油を注いでいるNPCの名前は『アラギタ・メクレオ』――俺じゃない

 以前、情報屋と同じ名前で登録されている美少女薬師がただで薬をばらまいているのを調査したことがあるのだ。飲むとちょっとメクレオ(美少女)を好きになる(効果累積)薬。
 あれから数か月――累積した魅了効果は、民衆をメクレオのためなら命を賭してもいいくらいの熱狂状態に押し上げていた。
「ちなみに、ネフェルストの住民が戦ってる場所は戦略上全然重要な場所じゃない。焚火に薪をくべるように無駄にヒトが死ぬように仕向けている。『アラギタ・メクレオ』をバグNPCと認め、討伐してほしいのと、でっかいムカデ型のワールドイーターがわいてるのでそれを処理してほしい」
 さて。と、情報屋は大きく息をついた。
「『バグNPC』っつーのは、フルメタルバトルロアに出現した『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュ、不明者達の前に現れた『アリス』や『ピエロ』と言った存在に近しい。この世界が作り出されたゲームであることは明確に理解してるし、その上でなんらか己の目的を叶える為に暗躍している……ナカノヒトがいるとは思えなかったし、普通のNPCにしては動きがおかしいと思ったんだよ。あぁ、気に食わねえ。自分が作った「たいしたことない薬」でどれだけの地獄が作り出せるかを実行しやがった」
 まともな薬師なら生涯無縁の衝動。それに気が付く自分が嫌になると情報屋は顔をゆがめた。
「それから、存在がバグなので、正に数値がバグっている……つまり、俺のそっくりさんだが俺のようにザコとは限らない。さらに、肉壁に困らないだろうし、なんなら肉壁ごとこっちを攻撃してくるだろう」
 イレギュラーズは、ムカデ型ワールドイーターと砂嵐の民に守られたバグNPCを倒さなくてはならない。
 順番やタイミングも大事になるだろう。できるだけ被害を小さくするにはどうしたらいいか。それはイレギュラーズ次第だ。

GMコメント

<ダブルフォルト・エンバーミング>バザールの噴水前できれいなメクレオ(女体化)を倒せ!

 田奈です。
 きれいなメクレオ(女体化)を倒してください。
 拙作「キレイなメクレオ(女体化)の正体を探れ!」が初出です。読まなくても大丈夫ですが、メクレオがげんなりしている理由はより理解できるようになると思います。

場所:砂嵐・オアシスの都ネフェレストのとあるバザールの噴水前
 想像しえるあらゆる悪の見本市。
 今は、巨大なムカデがのたうち、ヒトの食べさしで山ができている。
 中央に大きな噴水があり、視界が遮られます。石でできているので破壊するには数ターンかかります。地下から吹き上がる水も止まりません。
 
敵:バグNPC・「アラギタ メクレオ」きれいなメクレオ(女体化)
 容姿はOPの通り。現実のメクレオに逢ったことがあるなら、一発で見分けがつきます。(OPにで会っているので、参加イレギュラーズは全員問題なくわかります)
 戦闘薬師ですが、バグ持ちなので、数値は現実のメクレオから類推できません。
 回復、味方への強化(狂化)バフ、敵へのデバフは予想されます。

敵:ワールドイーター・巨大ムカデ×1
 長さ10メートル、直径2メートル。カオスシードは丸呑みできるサイズです。噛み砕きますが。
 たくさんある肢は人間の四肢がでたらめについています。
 攻撃は体を振り回すことによる範囲攻撃。四肢による個別攻撃。噛みつきなどが想定されます。

砂嵐の民
 NPCもPCもまじっています。「アラギタ メクレオ」の薬の効果により、彼女を妄信しています。正気に戻すには強い解毒作用が必要です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O_4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

●重要な備考
 <ダブルフォルト・エンバーミング>ではログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
 但し『ログアウト不能』なPCは、R.O.O4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
 又、シナリオの結果、或いは中途においてもデスカウントの急激な上昇等何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
 又、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
 予めご理解の上、ご参加下さいますようお願いいたします。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>バザールの噴水前できれいなメクレオ(女体化)を倒せ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月07日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャドウウォーカー(p3x000366)
不可視の狩人
リュート(p3x000684)
竜は誓約を違えず
樹里(p3x000692)
ようじょ整備士
シラス(p3x004421)
竜空
ああああ(p3x006541)
hxjileksma;idjl
シューヴェルト(p3x008387)
シューヴェルト・シェヴァリエのアバター
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
ヒロ(p3x010030)
子供の矜持

リプレイ


 イレギュラーズが最寄りのサクラメントから現場に急行すると、バザールは見る影なく蹂躙され尽くしていた。
 砂漠の中の美しいオアシスを象徴する噴水は泥水を噴き上げている。
「うっわ、何あれ……気持ち悪いってレベルじゃないでしょ」
「気持ち悪すぎるだろ! 1体だけだがインパクトは飛び抜けているな」
『不可視の狩人』シャドウウォーカー(p3x000366)と、釜揚げシラス色の西洋竜『竜空』シラス(p3x004421)――少女とドラゴンの心が一つになった瞬間。ドラマが始まりそうなシチュエーションなのだが、エネミー気持ちわるっでは何も始まらない。
 人間の四肢がでたらめに生えた巨大ムカデがバザールの真ん中で暴れているのだ。
 二階の窓まで体を伸ばしてまだ余りがあり、標準型アバターサイズなら丸呑みできるだろう。
 世界を生物無生物の別なく、メタ的に言えばデータの区別なく食べるワールドイーター。世界観を破壊する意図までたっぷり。
「あんなヤバイのがあちこちに湧いて出て来てるって考えると、中々キツイね」
 情報が安定していない。実はもう一匹いました。など、冗談ではない。直視したくない惨状。
 そんな中。
「皆、くじけないで!」
 逃げ出そうとする者たちをこの場にとどめようと鼓舞する声がした。
「私たちの場所を私たちが守らないで誰が守るの? みんなのことは私が支えるから――」
 黒髪のあどけない顔をした娘。口元にはやや目立つほくろがある。見たことがある顔だ。
「メクレオ(女体化)……女(め)クレオさん?」
『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)は理知的なPCだが、時々ナカノヒトが透ける。例えば、すごく驚いたときとかに。
 娘は、「元凶」を指さした。
「あのムカデに立ち向かうのよ!」
 群衆はNPCもPCもごちゃ混ぜになって叫び声をあげる。
 彼らは、いつの間にか薬の効果を蓄積させているのだ。
 薬師だという彼女の薬で体が楽になる体験とほんの少しだけ娘に好感を覚えるかすかな効果。それは消えずに蓄積していく。
 いつも同じ場所で笑顔を振りまく、序盤のお助けNPC。誰もがそう思っていた。
 蓄積している好意はいつしか魅了に変化している。
 彼女の言うことを聞かずにはいられない。明らかにあのムカデに立ち向かえる技量がない者たちが次々突っ込んでいって餌食になる。
「皆、負けないで。お薬はたくさん用意してあるわ!」
 あなた達を無駄死にさせるのにちょうどいい高揚感と攻撃力バフと防御力デバフの効果がある素敵なお薬を。

「バグNPCなんてのもいたんだ、話には聞いてたけど見たことなかったよ」
 シャドウウォーカーは不審に思われない程度に視線を注ぐ。
 そもそも、「アラギタ メクレオ」という、一ウォーカーの元の世界でも珍名が検索に引っかからなければ本人だって気が付かなかったに違いない。
「女体化……って言うのは、人の事言えないからノーコメントで……」
 シャドウウォーカーの中の人がイケメンなのは、ログインしてる皆には内緒だよ!
『hxjileksma;idjl』ああああ(p3x006541)は、「……あーはいはい」とうめいたが、自分のこと名前呼び女子ではないのでそのあたりはよろしくしてほしい。
「これアレっしょ……? 姫プレイってやつ………勘違い系が陽キャ気取りで周りに迷惑かけまくるアレ……」
 実際遭遇したことはないけど、友達の友達経由でやけにリアルな話が聞けちゃうアレだ。
「そもそもメクレオッちコピーしたって陽キャになれるわけないのにねぇ……」
 明るく元気にふるまっていても、にじみ出る陰キャの気配。それが、醸し出されているうさん臭さの一因。わかるよ。
「おもえば、メクレオさま(バグ)はこのせかいにおりたちいちばんにおはなしをした仲です」
『シュレディンガーのようじょ』樹里(p3x000692)はしょんぼりしている。メクレオさま(バグ)は、樹里が朝から晩まで付きまといのようなアプロローチをしても笑顔で対応してくれた。
「ただのメクレオさま(本物)だいすき狂信者の方とおうえんしていたのに……ざんねんです」
 涙が出ちゃう。
「陽キャ自体死すべき存在なのに、陽キャに似せる者も死す、陽キャを象る者も死すだよぉ……てことで……」
 ああああ一個人の逆ギレである。
『シューヴェルト・シェヴァリエのアバター』シューヴェルト(p3x008387)には、ああああと樹里が何を言っているのかふんわりとしかわからずにいた。
 R.O.Oで起こっている事件にいてもたってもいられず、弟子に教えてもらいながらなんとかログインしたのだ。すぐにでも戦えるようにアバターや言動はリアルと同じであり、装備品については弟子のおさがりを使用している。いいお弟子さんをお持ちのご様子。師匠冥利に尽きるとはこのことである。そのまま仲良くしていてほしい。良好な師弟関係からしか摂取できない栄養がある。
 そんな不慣れな彼でも、いや、不慣れだからこそ公平な視点からわかることがある。
「これはこれで厄介な敵たちだな」
 世界を食らうあからさまな脅威。そして、それを利用して世界を崩壊を助長させるバグNPC。しかも、世界に溶け込み、場に溶け込み、この短期間で未了を解除するのは容易なことではなく、それに固執すればPCとNPCの別なく、ワールドイーターの餌食となるだろう。
「だが、それでも倒して見せるさ。貴族騎士として、な」
 シューヴェルトのつぶやきに、ああああは、にまあと唇を吊り上げる。
「まあ……まずは邪魔なムカデボコだねぇ……」
 善の仮面をかぶり続けるのならば、そのままかぶり続けさせよう。
 なに、ほんの少し――ムカデを倒す間。バグだろうが旗印になっているならば全うしてもらおうじゃないか。
 奥歯をかみしめて見ていた『囲 飛呂のアバター』ヒロ(p3x010030)が歩き出す。
 口元には笑みを受かべて、ほんの少しの好意を持って。
「前は薬あんがとな、恩返しに助太刀するよ」
 以前、メクレオからの依頼で、この女の薬を調べているし、ヒロ自体も服用している。
「どうも。BOTぎわくのあったわたしです」
 樹里さん、どや顔。NPCにメタ発言しても認識されません。
「なにやらへんなエネミーと交戦中のもよう。これもなにかに縁。すけだちいたしますよ?」
(むこーも『仮にもここをまもるため』と、民をせんどーしていますのでことわりづらいでしょう)
 イレギュラーズの目論見通り、「戦闘職の援軍が来た。彼女のおかげだ」と民衆も沸き立つ。ここで断る道理はない。
「仲間も一緒に戦ってくれるって」
 ヒロがいかにも無害な感じでほほ笑んだ。
「この場は――一時的にだが――僕らと共に戦おうか」
 シューヴェルトは紳士的に微笑んだ。何一つ嘘は言っていない。
「――どうぞよろしくおねがいします」
 樹里はぺこりと頭を下げた。
(お薬よりも、おいしい食べ物で元気出すべきッスよ! ご飯は元気の素!)
――と考えている『竜は誓約を違えず』リュート(p3x000684)は、本心がにじみ出ないように、さっさとワールドイーターの方に踵を返した。
 バグNPCのメクレオをどうにかするのは、ワールドイーターを倒してからだ。
(薬師のおねーちゃん、気持ちがマイナス過ぎてかっこ悪いっす! キレイじゃないっす!!)
 イレギュラーズ達は、ムカデに向かっていく。
 バグNPC「アラギタメクレオ」は人のよさそうな笑顔を浮かべて、よろしくお願いします。と、言った。
「回復は任せてくださいね!」
 背中を追いかけてくる声に、ちらりと背後を振り返った樹里には分かった。薬漬けの信奉者にもイレギュラーズにも見えない角度で、バグNPCの頬に愉悦が浮かんでいるのを。口八丁で排除できなかった以上これから樹里たちもムカデに殺させるつもりでいるのだ。ヒロや樹里が誘蛾灯によってきた蛾のように思えているのだろう。
 さにあらず。
 イレギュラーズは現実にいる『本物』の想いを託された代理執行人。
 飛んで火にいるバグは、イヅル言うところの「女クレオ」の方なのだ。


「待たせたな。助けに来たぜ!」
 大地に邪悪なムカデ、空に白い竜。
 世界を食らうものによってつけられた傷を、シラスが癒す。
 こぼれる光輝が、バザールを救うために立ち上がった民衆の傷を癒す助けとなるのだ。たとえ、世界を壊すものの先導だったにせよ、この場所をかけがえなく思ったことはPCだろうとNPCだろうと変わりはない。
 その技の浸透具合をシラスはつぶさに観察していた。
(アクティブスキル2に含まれているBS回復が解毒として成り立つのか――そこが大事だ)
 薬に含まれていた防御力低下は回復できたが、蓄積されたバグNPCへの好感度上昇は動かない。
(想像できる一番嫌な展開はバグNPCメクレオが砂漠の民に自分を庇わせて肉の盾に使うこと)
 実際、バグNPCは後衛職の割に果敢に前に出ている体で人垣の中に埋もれる位置を常にキープしている。そういうところは元ネタ準拠だ。
 これは厳しい戦いになりそうだと思った時、シラスのそばにイヅルが飛んできた。
「人が多いと身動きとり難いからね」
 まずは広範囲にとアクティブスキル4を展開した。
 シラスとは別種の世界設定に由来する癒しに、地面に投げ出されていた人達が動き出す。
 イヅルの人助けセンサーに複数の反応。なんで自分がムカデと戦ってるんだ? と途方に暮れ、誰か助けてと思い始めているのだ。正常な思考が返ってきた証拠。
 イヅルはシラスを振り仰いだ。様子を観察していたシラスもうなずく。二人でなら助けられる。彼らの命も心の自由も尊厳も。

 シャドウウォーカーがどこに行ったかなんて誰も気にしてはいないし、気にされているようではいけない。電子機器やスキルもとらえられない、静止してやっと陽炎程度に視認できるほど姿も気配も消失させて迫るサイキック――インビジブルが肝なのだ。
 気配を消失させ、崩れかけた元噴水という名の水柱に隠れながらムカデの側面に移動する。
(わんさか生えた手足が気持ち悪いなー……)
 隙を見て切断も試してみよう。そう心に決めてダガーの高圧電流をがっちり上げる。近接武器なのに残弾数が表示されている。格闘ゲー武器攻撃は持ち替えが利かないのでスキル扱いだからバグじゃなーい。アイデンティティロストしちゃうでしょ、そうでしょ。
「あ~そぼ~っっ!!」
 リュートの声が倒壊したバザールに響き渡った。
 この世で最も他者を消耗させるのは元気な子供である。間違いない。無尽の体力と無限の好奇心。飽きるということを知らない執拗さ。力加減など一切なく全力で突っ込んでくるのだ。一切の保身なく。
 データに(幼体)と書かれていなかった時点で、ムカデの勝ち目はだいぶ薄くなっていた。
 鈍い音が不気味な節足動物の外骨格をへしゃげさせる。
「あのときはむりょくだったわたしも、今はすこしだけつよくなったんですよ?」
 決して樹里から、受理の声を奪えない。彼方に受理の幸いを。此方に不受理の災いを。遍く受理の御業に祝福を。
「聖句より一説、【我が生涯に意味は不要】」
 湧き上がってくる言葉を至極テキトーにすくい上げる。それは正しく託宣ではないか?
 ムカデが、その言葉によって呪縛され、狂気にさいなまれる結果がすべてだ。
 
 ヒロは、空中を駆け上がる。
 ムカデの眼前。突き出すV&F H137『karma』から放たれる弾丸は蛇神の毒だ。傷口を爆ぜらせる電撃とともに浸透する毒にのたうち、ムカデは逃げを打つのもおろそかになる。
「は……? 何噛もうとしてんの……?」
 消え入りそうな語尾で、ああああが毒づいた。その周辺にはエンバク殴りでむしり取ったムカデの手足が山となっている。見たもののSAN値は下がるが仕方ない。
「カウンターで牙へし折るけど……?」
 片手にダイヤモンド性の盾。片手に百合的イチャコラスチルがエンドレスリピートウィィンドウ。武器としては「板状の鈍器(片手)」扱い。世界を地獄に変える代物で世界を食らう者が殴り殺される。地獄を生むものを屠るもまた地獄の産物である。
「砂嵐の民よ! まずはあの世界の敵と戦うんだ! さあ、武器をとれ!」
 シューベルトが弓を射ながら力強く民衆を鼓舞する。これを着ていれば言うこと聞いてくれる可能性が上がると弟子に着せられたファー付きのマントが異国情緒たっぷりで砂嵐の民のやる気をアップさせる。そんな遠いところから俺たちを助けに。とりあえず物理的キューピッドの矢を持たせたお弟子は名乗り出なさい。
 目をやれば、シラスとイヅルが民衆を自分たちの方に誘導するように身振りをしている。
「戦上手の私の仲間が君たちの行く手を照らしている。あの竜に向かって進め―!!」
 少しづつ、バグNPCから民衆を遠ざけていく。彼らは戦いたくてうずうずしているのだ。薬師がそう言ったから。シューベルトが戦場へと言ったとたん、止める間もなく走っていく。
 行け、戦場へ。その女のそばにいるより、ムカデの脇をすり抜けて走る方がよっぽどましだ。
 リュートが一声高く鳴いた。
 声の範囲にいたものの傷が癒える。小さな竜から神々しい光がほとばしり、人々の目から知らず涙がしたたり落ちた。
 小さな竜は意識していなかったが、リュートへの信仰心がゆがめられた好感度ステータスへのロックを緩めたのだ。
 いつしか、民衆はムカデに体当たりを続ける小さな竜を応援し始めていた。民衆は戦闘に加わるがそれはやみくもな自殺行為ではなくなった。イヅルとシラスが死に物狂いで回復スキルを展開し、リュートが時折高く鳴いた。


「終わりだよぉ……」
 ああああが振りかぶるウィンドウの中で少女が睦まじく頬を寄せ合っている。
 ムカデのHPゲージは真っ赤。風前の灯火。
 ヒロと樹里は、戦線を他のものに託してバグNPC「アラギタメクレオ」に声をかけるのを忘れなかった。
「ムカデを倒したら、俺たちは他地域への応援に行かなきゃならない。後は頼む!」
 ヒロの言葉に、なんとなくひきつった顔をしていた「アラギタメクレオ」は、ぱっと顔を明るくした。
「もちろんです!」
 民衆全部を連れて砂漠の真ん中でわずかな食料をめぐって殺し合いするように仕向ければいいのだ。バグNPCはそんなことを思いついていた。イレギュラーズが去った後、どうとでもできる。ムカデはあくまで手段でしかなかったのだから。倒されてしまうならそこまでだ。後は、穏当に帰ってもらうだけ――。
「あ、皆さん、これ、飲んで下さい。力が付きますので――」
 カバンの中に手を差し入れて、強力に作り直した薬包みを握れるだけ握る。
 こいつらは何かの役に立つかもしれない。
 差し出す手。優し気な笑顔を浮かべる顔の下。細いのどに。
「――終わり」
 ナイフがあてがわれた。
 大混戦の中、以前からの面識もなければ、姿も気配もない程に希薄。
 シャドウウォーカーに気が付いていた砂嵐の者はいなかった。
「え?」
 自分を囲うようにして立っていた民衆はいつの間にかいなかった。
 ヒロが、偽メクレオに声をかける前に民衆の中の顔が利きそうな者に声をかけていたのだ。

『メクレオさんは有能だから俺たちに付き合ってもらいたいんだけど、大丈夫だよな? このバザールは危険だ、皆、場所を移した方がいい。化け物の残党に見つからないように姿を隠して。英雄として旅立つメクレオさんに心配かけないように」

 そういうことなら頑張る。と、最後に残っていた者たちも「こっちだ」と誘導するシューベルトに連れられて「安全な場所」に避難したのだ。移動中も回復陣が抜け目なくスキルを行使している。

「いつの間に――どなたか、私に力を委譲して――」
 偽メクレオは、調子に乗って、自分のスキルをばらまきすぎていた。他のキャラを充電池扱いして、自分単体で乗り切るための管理をいつの間にか一切しなくなっていたからだ。
「メクレオさんに迷惑かけてるとか、ましてやその生まれからじゃない」
 ヒロは、ギリ。と、奥歯をかみしめた。
「動機やこの世界が何であれ、お前は多くの人を踏みにじってる。だから俺はお前を偽物と呼んで、認めないんだ」

 バグNPC「アラギタメクレオ」は失敗した。
『胡散臭くなくて、愛想もよくて、他者による評価を上げることを第一義として、公正かつ公平な対価交換や薬物の危険性を考慮するなど最低限の倫理も度外視した薬師』をフィールドに放したらどう行動するか。
 シミュレーションの結果は「世界の敵になる」が答えだった。

「これ以上訳分かんない薬をばらまかれても困るんだよね!」
 シャドウウォーカーは、残弾(エレキ)ゲージが空になるまで撃ち尽くした。
 がれきの上に薬包みがいくつも落ちる。
『語り手はここに孤り、貴女の為の戯言を綴りましょう』
 樹里は、言葉を無作為にすくう。
『もとより。けさねばならぬバグだったというのなら、きっとあなたのソレは、わたしたちの良心を痛めぬための、理由付け、慈悲だったのだと、わたしはおもいます』
 答えはない。
 助けられるものはみな逃がせた。
 あとに残るのは、バザールの残骸とムカデの死骸、そして、胡散臭い薬師のコピーバグの残骸だけだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。バザールの民衆の以上データは補修され、ワールドイーターとバグNPCは除去されました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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