PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>その竜、竜に非ず暴食なりて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 R.O.O-patch 4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』。
 バージョンアップは邪悪の解放と共に始まった。
 砂嵐に突如現れた終焉を呼ぶ大軍勢。其の中にはこれまでに見た敵(かたち)や、幾度となく見た顔(なかま)も含まれていた。
 闇は瞬く間に砂漠を侵略し、伝承へと迫る。この時ばかりはいがみあってはいられない。伝承貴族は団結し、それぞれの騎士団を集結させた。
 場所は伝承西部バルツァーレク領から砂嵐を結ぶ街道に聳える都市、「ビルレスト」。其処に最終防衛線を敷き、伝承、及び周辺各国は強靭な防衛ラインを築き上げた――

「敵は?」
「既に動き始めています。砂嵐では電撃戦が始まっているとの報告が」

 双眼鏡で敵の動きを注視していた現場指揮官が、憂いの溜息を吐く。
 敵の勢力は膨大だ。まるで夜の闇そのものが滲みだして来たかのようだ。我々は夕暮れの橙よろしく、駆逐されてしまうのだろうか。そして其の後には、くらいくらい藍色が残るだけとなるのだろうか。
 ――そんなのはまっぴらごめんだ。
 其の為に築いた防衛線だ。其の為に集めた兵士たちだ。
「だが――」
 彼らの目の前に広がるのは、広い広い浅瀬だった。水のない砂の土地ではなく、潮を含んだ命のない浅瀬。周囲を飛び回るのは、砂をまき散らしながら飛び回る小さな竜と、まるで刺繍のように細い足で宙を這い廻る得体の知れない化け物。
 そして其の中央に、そいつはいる。土地をまるで引っぺがすように喰らい、呑み込んだ――竜のような威容。

 勝てるのだろうか?
 かなうのだろうか?
 我々人間では、あれに手も足も出ないのではあるまいか?

 そう、思った時だった。

「諦めるにはまだ早いのではありませんか」

 りん、とした声が響き、にわかに驚いたような声が上がる。
 双眼鏡を持った男――守備司令官は振り返り、そして驚いた。
 だってそんな、彼女は、数年前に姿を消したと――
「私がいるのです。どんな状況とて変えてみせます。……我ら正義の名のもとに。アネモネ=バードケージ、及び正義騎士……到着いたしました」



 喰っても喰っても足りない。
 どんな多彩なデータを喰っても。
 どんな重いデータを喰っても。
 己の内から生まれた衝動が小さな竜の形を取るだけで、ちいとも腹は満たされない。
 ヴァリフィルドは、飢えていた。
 突如として己の内に現れた渇望は、あっという間に大きな欲望となって、ヴァリフィルドを突き動かしていた。

 おまけに最近は、食い争う相手が現れたときたものだ。
 そいつが食った後には何も残らない。ただぽっかりと穴があくだけで、食べ残し一つ見当たらない。
 苦しい。喰いすぎて苦しいのではない、腹と背がぺたりとくっつきそうで苦しい。
 喰らいたい。喰らってしまいたい。
 俺がいるのは何処だ? 此処は何処だ、判らない――喰わせてくれ。樹でも土でも砂でも良い。ああ、……あそこに見える街なら、もっと良い。



 男は筆を持っていた。
 今日は良い感じだ、大ラフからラフへ、そして大まかに絵の外観を決め、色を乗せるところまできた。今日はあの五月蠅い弟子がいないからだろうか? 不思議と筆が動く気がする。
「……?」
 ベルナルドはふと、足元を見た。揺らいだ気がしたからだ。……気のせいかも知れない。外の様子を耳で伺っても、何も変わった様子はない。
 ならば良いか、とベルナルドは再び筆を混ぜる。そういえば、アネモネは何処へ旅行に行ったのだろう。こういう時くらいは自分の事は自分で、と口酸っぱく言っていたが、何処へ行くかは教えてくれなかった。
 鈍い自分の耳にも、色々な噂は入って来る。彼女は無事だろうか。
 何かあったら、そう、……寝覚めが悪いから。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 おや? R.O.O.に動きがあったようですね。
 これは大変な事ですよ。

●目標
 パラディーゾ「ヴァリフィルド」を撃破せよ

●立地
 場所は砂嵐と伝承の中間あたりにある城塞都市「ビルレスト」です。
 砂ばかりの場所だったのですが、パラディーゾは周囲の地域データを丸呑みにして塩水の浅瀬へと変えてしまいました。
 水質は至って普通の塩水で、戦闘に支障はありません。

●エネミー
 パラディーゾ「ヴァリフィルド」x1体
 小型の竜x20体
 ワールドイーターx???体

 土星天のパラディーゾと、彼が喰らったデータから生み出した小型の竜、そしてワールドイーターが相手です。
 パラディーゾは其の屈強な手足による近攻撃の他に、周囲のデータを喰らい、不要なデータを吐き出す攻撃を有しています。範囲は扇です。
 竜は獣のように強靭な四肢を持ち、砂のような余剰データを撒き散らしながら飛行します。人間の子ども大ですが、小さいからといって油断は出来ません。其の鋭い爪はいとも容易く身体を引き裂くでしょう。ただ、ブレスの類は吐かないようです。
 ワールドイーターはパラディーゾと共闘関係ではないようですが、イレギュラーズを敵として見ているのは同じです。空を舞うムカデのような形状をしています。
 主に「距離」を喰うという厄介な性質を有しており、敵味方のレンジを狂わせるトリッキーな戦い方をしてきます。例えば遠の距離であるのに噛み付きが通る、なんて事もあると考えて下さい。


●小隊指揮について
・このシナリオには小隊指揮ルールが適用されます。正義から来た援軍を指揮することが出来ます。
 PCは全員小隊長扱いとなり、十名前後の配下を率いて敵部隊と戦うことができます。
・兵のスキルや装備といった構成内容はおおまかになら決めることができます。
 防御重視、回復重視、機動力重視、遠距離砲撃重視、特定系統の非戦スキル重視……といった感じです。細かいオーダーは避けましょう(プレイング圧迫リスク回避のため)
・使用スキルや戦闘パターンの指定は不要です。(プレイング圧迫リスク回避のため)
・部下の戦意を向上させるプレイングをかけることで、小隊の戦力が上昇します。
 先陣をきって勇敢に戦って見せたり、笑顔で元気づけたり、料理を振る舞ってみたり、歌って踊ったり、格好いい演説を聴かせたり、効率的な戦術を指示したりとやり方は様々です。キャラにあった隊長プレイをお楽しみください。
・兵のデザインや雰囲気には拘ってOKです。
 自分と同じような服装で統一したり、自分の領地にいる戦力を追加で選抜したり、楽しいチームを作りましょう。
 特に指定が無かった場合、以下のデフォルト設定が適用されます。
  ・正義騎士で、騎士鎧を纏っています
  ・武器は剣です。主にパラディーゾの生み出した竜と戦います

・アネモネは後方から奇跡による癒しの援護を行います。(変更不可)


●『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 パラディーゾが吐いたり小型竜が撒き散らすゴミデータがどのような影響を及ぼすのかは、戦ってみないと判りません。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>その竜、竜に非ず暴食なりて完了
  • GM名奇古譚
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年12月06日 22時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヴァリフィルド(p3x000072)
悪食竜
スティア(p3x001034)
天真爛漫
ハウメア(p3x001981)
恋焔
レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花
スキャット・セプテット(p3x002941)
切れぬ絆と拭えぬ声音
シラス(p3x004421)
竜空
ディリ(p3x006761)
ノー・マーシー
シュネー(p3x007199)
雪の花
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
天狐(p3x009798)
うどんの神

リプレイ


 潮の水溜りがあちこちに散らばっている。
 其れ等は全て、バグとして模倣されたヴァリフィルドが喰らったデータの跡だ。
 或いは空白が、世界のあちこちにある。
 其れ等は全て、ムカデのようなワールドイーターが貪欲に喰らったデータの跡だ。

 ――小竜を従えているという事は、相応のものを喰らったという訳か。
 ――何を思う、我よ。どうせ空腹に耐えておるのだろう?

 動かない“パラディーゾ”を見て、『悪食竜』ヴァリフィルド(p3x000072)は己が率いる事になった小隊に視線をやった。
「全員準備完了であります!」
「戦意高揚、何が敵であろうとも、我ら正義の名のもとに命尽きるまで戦う所存です!」
 皆が蒼いマントを羽織り、彼の小隊であると目印を付けている。
 其の瞳には戦う意思が燃えている。あの異形達を目にしても尚、彼らの心は折れない。其れは特異運命座標たちの実力を知るからでもあり、聖女と共に剣を取った彼らの矜持ゆえでもあった。
「うむ。恐れる必要はない。あれに食われそうになったとしても、我が先にうぬらを喰らってやるので安心するがよい」
「喰ら……!?」
「……冗談であるぞ? 兎に角、危険だと思えば遠慮なく我を盾にしてよい」
 言うとヴァリフィルドは吠えた。其の咆哮は悪食竜の加護。まだ小隊がバラバラに行動せぬうちに、彼らに水の上を走る加護を!

 ――そして、戦の幕を切って落とした者もいる。
「皆! 私が敵を受け止めるから、其の間に敵を叩いて!」
 『天真爛漫』スティア(p3x001034)の和装の裾が揺れる。最前線に立った彼女の元にまずはとワールドイーターが飛来する。
 スティアは小隊をバランスよく構成した。其の内の遠距離攻撃を得意とする者たちが、弓と杖を構えて狙いを定める。
 合図はない。矢と雷がワールドイーターへと強かに打ち付けられて、宙を這うむかでを大地へ叩き落とす。
 しゃりん、と花弁を舞わせながら其れを違わず貫くスティアは、とどめを差したと判っているワールドイーターには視線もくれず前を見ていた。
 敵だと認識したワールドイーターが、スティアたちの小隊へと距離を詰める。

「こんなのが街に到達したらたまったモノじゃないですよ……! 絶対に阻止します、てぇッ!」
「!」

 スティアの後方から、援護の手が上がる。魔法を含んだ矢がひゅんひゅんと飛び、ワールドイーターを叩き落としていく。
 『恋焔』ハウメア(p3x001981)だった。遠距離に特化した小隊を指揮して、周囲を飛び回るワールドイーターを優先的に叩き落としているようだった。
「怪我を負ったものはいませんか!? いれば後方へ運んでください、治療を行います! 治療を受けた者から順次前線へ復帰して下さい!」
 言いながらも、ハウメアが操るは奈落の紫焔。矢の形をした其れはまるで奈落に降り注ぐ涙雨のようにワールドイーターと小竜に容赦なく突き刺さり、大地へと縫い留め、蛇のように致死毒を注ぎ込む! 其れは絶え間ない痛みと傷となって、ワールドイーター達をのたうち回らせた。
 ワールドイーターが二人と二小隊へと殺到する。ふと、数体のワールドイーターが首を僅かに後ろに下げるような仕草をしたかと思うと――

 ばくり。

 まるで魔法か何かのように、スティアの眼前に現れた。
「ッ!!」
 油断をしていた訳ではないが、咄嗟にスティアは狙われた頭を引く。前髪を数本、がぶりと持っていかれたが――其の程度で済んだのは彼女の反射神経のお陰だろう。
「スティアさん!」
「大丈夫ッ! このッ……!」
 刀の柄でしたたかにワールドイーターを殴りつけ、大地に落として頭らしき箇所を落とす。ぴくりとも動かなくなったワールドイーターだが、あちこちで悲鳴が上がり始めていた。

「うわああ!? なんだ!?」
「急に現れて……! くそっ! 後方へ下がります!」
「落ち着け! ワールドイーターを狙え! 狙え!」

 これが、距離を食うという事か。
 ハウメアもまた距離を食って接敵したワールドイーターに応戦しながら、敵の手ごわさに唇を噛む。
 其の時だった。

「全員散開だ! 仲間を護れ!」

 天空から声がする。風が逆巻き、巨大な影が戦場を覆う。
 ああ、見ると良い。地には蒼き竜、そして天空には――白き竜。『竜空』シラス(p3x004421)である。其の雄姿を見た戦士たちの安心感たるや、いかほどのものだっただろう。同時にスティアとハウメアの前に、盾を持った戦士たちが駆けこむ。
「お怪我はありませんか!」
「うん、大丈夫!」
「自分たちがあの化け物を受け止めます! 其の隙に攻撃を!」

「俺は死なねえ! 世界だって、お前達だって守ってやる! だから、力を貸してくれ!」

 大きくシラスが吼えた。そして吠えた分だけ空気を吸い込むと、雷の息を吐き出す。ワールドイーターを狙った吐息はびりびりと彼らを痺れさせ、そして怒りに猛らせた。

「シラス殿に続け! 誰も傷付けさせるな!」
「この盾の誇りにかけて……!!」

「そしてわしも参上じゃよ。さて、皆美味しいうどんに変えてやるとしようかのう」
 『うどんの神』天狐(p3x009798)も小隊に盾となるよう命じた。
 最前線に天狐は立ち、己に幸福よ来たれと加護を願う。一人ではこの物量には勝てぬだろう。けれど、己は一人ではない。仲間がいる、援軍もいる。後方からは聖女が見ている。――ならばこの戦い、負けられない。負けるはずがないのじゃ!
 天狐はリヤカー屋台をぶんと振り回して、大半がバグってしまう悲しき連打を見舞う! ぽとりと落ちたワールドイーターが、ぽん! と音を立てて一杯のうどんに変わった。
「食い足りぬというのなら、腹を満たすまで付き合ってやるだけじゃよ!」
「……。其のおうどん、食べられるの?」
 スティアが問う。
「うむ、食えるぞ。食ってみるかえ?」
「うーん、やめとく」



「はいはい、これで全員ですよっと。スキャットちゃん」
「ああ、ありがとうリンドウ」
 ――この女に礼を言う日が来るとは。
 『切れぬ絆と拭えぬ声音』スキャット・セプテット(p3x002941)は心中で苦笑する。現実では私達は脱走者と収容所長なんだぜ、と教えたらリンドウはどんな顔をするのだろうか。
 アネモネの養父、パオロに要請して集めたアネモネ派のスカイウェザー。彼らの顔を一人一人覚えるように見渡した。其れはスキャットに無意識に染みついた“現実側の友人”の癖でもあった。
「聖女は今、正義の為鳥籠へ戻った!」
 あいつ、あれだけ伝承で大人しくしておけって釘を刺しておいたのに。
「ならば我々も聖女の想いに報いるべきだ。決死で生き抜き目的を果たせ!」
 まあいい。こういう噛み合わないところが――私たちらしい。

「聖女は全てを見ておられる。これは聖戦である!」

 おお、と意気高く声が上がった。流石はアネモネの求心力というべきか――伝承へ駆け落ちした彼女を支持する者がどれだけ残っているかと思ったが、其ればかりは杞憂だったようだ。
「で、スキャットちゃん。おねーさん達の役目は何かな? 戦闘特化って訳じゃなさそうだけど」
 リンドウが赤毛を揺らして問う。そう、スキャットが集めるように指示したのは戦闘に向いていない――非戦闘行動に特化した者が半分。戦闘に特化した者が半分だ。この半分の意味は何か、と問われれば、眠たげなスキャットの瞳がリンドウを見る。
「あいつらが纏っているもの、判るか?」
「あいつら?」
 スキャットが指差した先、リンドウが視線を移すと小竜の群れがいる。彼らの体の周りを舞うのは――
「なんか、ゴミみたいな」
「そうだ。あれの解析をしてもらう。近付く敵は攻撃出来る奴が迎え撃つ。此れも立派な戦いだ、対処さえ判れば何の問題もないからな」
「成る程ね……おっけー、任されましたよっと」
 アネモネ様が見ているもんね、手抜きはしませんよ?
 そう言ってリンドウはウィンクした。


 『ノー・マーシー』ディリ(p3x006761)と『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)は空を見上げた。舞う小竜、猛る白竜。這う化け物。
 そうして大地に視線を落とせば、今だ動かぬ蒼い竜がいる。
「まさに終末といった空模様だね」
「ああ。――こんなに空は青いのに」
「空が青いからだよ。終わりはこのくらい清々しくなきゃ。――でも、終わらせない。パラディーゾの思い通りにはさせない」
「ああ。……。ああ。そうだな。砂漠に塩水は悪くないと思ったが、他の事が万事悪すぎる」
 そうしてディリは構え、剣を砂の大地に突き立てる。地を這う稲妻が小竜を捉え、其の視線をこちらに向けた。
「全隊構え! 全ての異形をこの空から撃ち落としてしまえッ!」
 スイッチが吠える。彼が編成した遠距離砲撃手達が、応と答えて様々な武器を構え、撃ち放つ。

 ――射撃は今回の鍵になる。
 ――空を飛ぶすべての者を撃ち落とす権利が、我々にはある。

 そうスイッチが鼓舞したからか、戦士の意気は高い。
「撃ち落とせ! 一匹残らず!」
「おうよ、俺はもう二匹当てたが!?」
「ぬかせ、俺は五匹に当てて一匹落とした!」

「皆、装填して! ――弾幕展開、てぇッ!」

 スイッチの指揮に従って、砲撃隊が弾幕を展開する。此方を見つめるディリへ、此方を攻撃してくる小隊へと接近しようとした小竜が、弾の雨を喰らって成す術なく落ちた。
 弾幕をかいくぐってきた小竜は、ディリの雷に撃たれて怒りに駆られ攻撃の目標を変える。しかしそうして攻撃の手が進めば進むほど、ディリに向かう竜が増えていく。スイッチが其れに危機感を感じ、口を開いたところで――

「助太刀致します!」

 周囲を巻き込む嵐のような一撃が、竜たちを一掃する。
 『雪の花』シュネー(p3x007199)だった。

 ――なんという数でしょう。これだけの数の敵が、世界を食らっている。
 ――けれど、此処で立ち竦んでいる訳にはいきません。
 ――わたくしが怯めば小隊の皆も怯む。けれどわたくしが攻勢に出れば小隊もまた然り……!

 黒い雪のようなゴミデータを撒き散らしながら飛ぶ竜を、ディリが引き付け、スイッチと其の小隊、シュネーと其の小隊が撃ち落としていく。
 だが竜は其の頑健さを“親”から引き継いだのか、一撃では倒れなかった。ゴミデータを周囲に撒き散らし、真正面からディリへと――シュネーやスイッチへとぶつかっていく。
「ッ……! どけッ!」
 ディリが剣を一閃する。竜の体が裂け、中から黒い雪めいたゴミデータが噴出する。
「……! あれは、周りに浮いているだけじゃなかったのか……!」
 スイッチがゴミデータを解析する。スキャットに任せきりではいられない。其のデータは……寄せ集めだった。

 肉。
 肉。
 何のものか判らない肉。
 足。
 手。
 筋。
 臓物。
 土。
 水。
 大気。
 0101。
 01――

「……これは」
「ッ、触るな!」
 スキャットの声が戦場に響く。

「触れば足を遅くする、体を重くする、これは――データの“質量”だッ!」

 ヴァリフィルドは――パラディーゾは、満腹になる事はない。其れは、質量を竜として生み出してしまうから。本来パラディーゾの腹を満たすはずだったデータの「モノとしての重さ」が、小さな竜と彼らの纏う残留物となって外へと生み出されてしまうから。
 喰っても喰っても満たされない。周りに眷属が増えるばかりで、パラディーゾは永劫に満腹というものを知る事はない。
「……哀れというのも憚られるな」
 ゴミデータを小隊と観察し、其の正体を見破ったスキャットは、パラディーゾと彼を足止めする小隊を見た。



「悪いけど、ボクらが一番貧乏くじかも知れないね」
 『朝霧に舞う花』レインリリィ(p3x002101)は小隊へ、開戦前に淡々と告げた。自分たちの役割は、パラディーゾの抑えであると。
「危険だけど、最悪の場合はボクが引き付ける。キミたちは自分の命を守る事を優先して欲しい」

 果たしてレインリリィは言葉の通りに飛び出して、真っ先にパラディーゾの行動を抑え込んだ。パラディーゾの退屈そうな視線が、自分よりはるかに小さなレインリリィへと注がれる。
「隊長! 援護します!」
「うん、お願い」
 黙ってレインリリィにばかり護らせるわけにはいかないと、正義の兵士が盾を持って次々パラディーゾを抑え込む。
「――……有象無象がぞろぞろと……喰われに来たか」
「キミって喋れるんだ? ずっとだんまりだから、人語を解さないと思っていたよ」
 退屈そうな一言に、皮肉たっぷりに返してやる。ふん、とパラディーゾは溜息を吐く。
「貴様らと言葉を交わす価値があると思えなかったからな。だが……これだけいれば、食いでがありそうだ」
 ぐぐ、とパラディーゾが身を起こす。片手を上げて、振り下ろす。
 ただ、其れだけだった。

 ただ其れだけの動作で、レインリリィと共にパラディーゾを抑え込んでいた兵士たちの盾が砕かれ、身が割かれ、血が噴きだした。

「――!」

 悲鳴すらなかった。兵士たちは一瞬のうちに意識を刈り取られ、倒れ伏す。だくだくと溢れ出す血液が、果てのない砂の中に染み込んでいく。
 レインリリィも無傷ではすまなかった。腕を割かれ、肉を割かれ、けれど其れでも、レインリリィは退かない。
「……ほう?」
「ボクがこれくらいで退くと思ってるなら、随分と軽く見られたものだね。ボクらはキミを斃しに来たんだ。食われに来たんじゃないし、負けに来た訳でもない」
 レインリリィの小隊の半分、回復に重きを置く者たちがレインリリィに治癒を施す。更に盾を持った者たちがパラディーゾを抑え込む。食われぬようにと倒れ伏した兵士を後方に運ぶ者がいる。彼らは命じられたからそうした訳ではない。仲間を思うから、レインリリィに鼓舞されたから、そうするのだ。

「そう、我らはうぬを斃しに来た」

 同じ姿の竜が相対する。其の背に乗った――まさしく“竜騎兵”と呼ぶべき騎士たちが、弓をパラディーゾへと引く。
 弓を弾いた鱗は、しかし傷付く。パラディーゾ“ヴァリフィルド”は、特異運命座標“ヴァリフィルド”と向き合った。
「喰うだけ喰って、腹にたまるモノは竜として生み出す……なかなかどうして、うぬも哀れな存在だな」
「我が哀れだと? ならばうぬも哀れであろう。悪食竜などと名乗っておきながら、害のない食いでのないデータしか喰らえぬ“心優しき”竜よ」
「――ただ己の欲に任せて喰らうのであれば、其れは此処にいるワールドイーターや、此処にはおらぬ終焉獣と何も変わらぬ。うぬのような出来損ないに、喰わせてやるものなど何もない」
 対照的な二体であったが、思う事は一つ。

 ――こやつだけは、我が喰らわねばなるまい。



 散華、月天。
 スティアの二刀が煌めき、ワールドイーターを両断する。
 彼女に続く騎士たちが、其の槍と剣でワールドイーターを貫く。
「お怪我は!」
「ないよ、ありがとう! だいぶ数を減ってきたかな……」
 まるで天を覆うかのような数だった黒い“世界喰らい”達は、スティアや天狐、シラス、そしてハウメアたちの活躍により加速度的に其の数を減らしつつあった。
 距離を食うワールドイーターの戦い方にも慣れてきた。つまり彼らが噛み付こうとしたなら其れは「届く」のだ。ゆえに回避するなり、防御するなりすれば良い。至近は寧ろ、スティアの領分だった。
「長丁場だな、無理はするなよ」
「してないよ。シラスさんこそ無理してるんじゃない?」
「してない。……こいつら、数だけで単体はそんなに強くなかったからな。気になるのは――」
「気になるのは?」

「ハウメア! 少し手伝ってくれ!」

 スキャットの声があがる。ハウメアは、はい、と返事をして慌ててスキャットの方へ向かった。(あちこちにほかほかのうどんが落ちているのは、天狐の所業にほかならぬ)
「――あっちかな」
「もう合流しても良い頃合いじゃろう。ワールドイーターは残っておるが、竜と一緒に討って問題ないはずじゃ」
「うん、私たちも行こう! ワールドイーターは最早脅威に非ず! 竜を討ちたい者は私たちに続け!」
 スティアの鼓舞の声に答える声の多きこと。
 其の大気を震わせる音声に自らも奮い立ちながら、彼らは小竜を討つ者たちの援護を急ぐ。
 時間はあるようで、ない。パラディーゾを抑え込んでいる彼らが瓦解する前に、周囲を護る堀を埋めなければ――


「く……っう……!」
 スイッチは自らにまとわりつくゴミデータに足を止められていた。
 足が重い。来ると判っている小竜の攻撃を、避けられない。肩に、胸元に、小竜たちが噛み付く。
「スイッチ様! 皆様、スイッチ様を後方に……!」
「いい……! これなら、死んだ方が早い……!」
 同じくゴミデータに苦戦しながら、シュネーが指示を飛ばす。けれどもスイッチは其れを跳ね除け、纏わりつく小竜を切って捨てた。文字通り死ぬまで戦う、其れがスイッチの決意だった。
 スキャットの言う通り、ゴミデータはパラディーゾが喰らった“質量”だった。其れが絡み付けばどうなるか。まるで足に重りを付けたかのように、重くなる。
「鬱陶しい……! スキャットはまだか!」
 同じくゴミデータを纏いながら、数度死を経験したディリは周囲の竜を何度目か切り飛ばしながら、対策を練っている仲間がやって遂げるのを待つしかないのに歯噛みする。
「今、ハウメア様と対策を……!」
 言いかけたシュネーに小竜が迫る。避けなければ。……足が重い。避けられない。あと数撃受けたら死ぬ。
 大丈夫、死んだときの保険は掛けてある。副隊長を任命して、小隊は任せられるようにしてある。でも――わたくしは、あの人のようになりたいのに。

 身を削っても守り通して。
 優しく陽だまりのようなあの方のように。
 なりたい、のに。
 なれないのですか? わたくしは――

「何故か判定がバグっておる! せつないのう!」

 シュネーの走馬灯をブッ飛ばしたのは、ワールドイーターに追われながらも援軍に来た天狐の乱撃だった。文字通り、竜ごとブッ飛ばした。シュネーはぱちぱち、と瞳を瞬かせる。
 多くの足音が聞こえる。ああ、其れは福音。援軍という心強い味方。

「ワールドイーターは粗方掃除したよ! ついてきてるのもいるけど」
「一緒に斃してしまえばおんなじじゃろう!」
「傷付いてる人が多いな。待ってて、今治すから」

 白い竜が天を舞う。ふわりと舞い落ちる白い鳥の羽根のような光が、癒しを味方に届ける。其れは白竜の優しさが結晶したもの。シュネーたちの傷が癒えていく。
「シラス様……皆様も」
「データの方はスキャットとハウメアがなんとかしてるよ。一旦休んで、俺達に任せて」
 そう言ったシラスに、けれどシュネーはいいえ、と頭を振った。
「レインリリィ様とヴァリフィルド様がパラディーゾと戦っていらっしゃいます。此処を手早く殲滅して、そちらに向かいませんと」
「俺が一足先に行ってくる」
 ディリだった。自らもゴミデータで体が重い。けれどもシュネーやスイッチよりは消耗していないからと。
「二人と二小隊ではあいつは手ごわいだろう。其れに……一つ、考えがある。其れを試してみたい」
「考え、ですか」
「ああ。……構わないか?」
「勿論。私も二人だけじゃ心許ないと思っていたからね、考えがあるなら行ってくれると助かるよ」」
 天狐と共に合流したスティアが頷く。なら、とシュネーもディリに向き直り。
「ディリ様、お願い致します」
「ああ。行って来る」
 そうして、パラディーゾの方へ駆け出すディリ。其の足は重くとも、一歩一歩、堅実に。

「さて、じゃあ竜のお掃除といくかのう。わんこそばならぬ、わんこうどんおかわりじゃ」
 天狐はぽんと手を打ち、敵に向き直る。
 ゴミデータを纏った竜は容赦なく、五人の方へと向かって来ていた。
「セプテット様とハウメア様がじきにデータを何とかして下さる筈です。其れまで……!」
「そうだね、休んでいる訳にはいかない。さっきも言ったけど、多分こういう纏わりついたものに関しては死んだ方が早いし」
「……もう! 簡単に死ぬなんて言わないでくださいまし」
 ぷりぷりと怒るシュネーに、仕方ないじゃないかと肩を竦めるスイッチ。
「キミだって、自分の死んだときの事くらいは考えてただろ?」
「そ、そうですけど! 簡単に死ぬつもりはありませんし!」
「はいはい、口喧嘩は終わってからやってね!」
 竜を切り払いながら、笑み混じりに言うスティア。天秤はこちらに傾き始めているが、油断は禁物。まだ勝利を確信するには早い。まあ、どちらかというとスティアも「死んだ方が早い」派ではあるのだが。
 シラスが雷の吐息で己へ敵意を集中させる。
「なるべくなら攻撃は避けろよ! じゃないと危ないからな!」
 同じく敵の注意を引き付ける己の部隊に指示を出しつつ、シラスは竜の噛み付きをくるりと避けてみせた。



 竜が咆哮する。
 其れはどちらのものであったのか、意識が朦朧とするレインリリィには判らなかった。其れでも、護らなければという一念だけが、己を突き動かす。このパラディーゾに好き勝手させる訳にはいかない。此処で斃さなければ。
 ヴァリフィルドたちにディリが合流してなお、パラディーゾが優勢であった。同じサイズの竜が取っ組み合い、離れて睨み合う。ディリが斬り込み、ガンブレードのシェルを炸裂させて切り裂けば、パラディーゾから堪えきれなかった呻き声が漏れる。
 パラディーゾが爪を振りかざす。ディリは其れを避けようとしたが、足が重い。ゴミデータが、……畜生。死んでやり直すしかないのか。余裕はあるか? ヴァリフィルドも、レインリリィも限界のこの状況で?

 ――あるさ。
 ――だって今から、“私”が君たちの枷を外してみせるからな。

 其れは聖女の姿を借りた少女の神託だった。
 ディリ達に其の声が届いた瞬間、ばりばりばり、と塩水の水面に電流が走る。
「ぬぁ……ッ!!」
 パラディーゾは其の眩しさに後退し、ディリは己の足枷となっていたデータが消失した事に気付き、後ろ――ではなく、前へ跳んで距離を詰める。

 ――余裕がないなら作りましょう。
 ――其の為に“私”は正義へ帰った。其の為に、正義から此処へ来たのです!

 これは今度こそ、聖女の福音だった。晴れ渡った空に、癒しの雨が降り注ぐ。雨の形をした癒しは味方に降り注ぎ、其の消耗した心身を癒す。アネモネの加護。再臨した聖女の奇跡が戦場全体へと到る。
「人間ごときが、煩わしい事を……!」
 ばりっ、ばりっ。
 パラディーゾが砂を食う。砂地というデータを喰らい、其処を潮水溜りに変えて、ばりばりと咀嚼する。そうして不要になったデータを吐きだそうとした、刹那。
「させるか……ッ!」
 乾坤一擲、ディリが飛び込んだ。剣を逆手に持ち、柄尻で、其の頑強そうに見える顎を下から一撃ぶん殴る!
「む゛ッ……!?」
 ごくん、と音。よもや吐きだそうとしたデータをこのような形で阻止されるとはパラディーゾも思っていなかったのだろう。ディリはしてやったり、とすぐさま後退した。
「お前の其のゴミデータは、もう沢山だ……!」
「よもや飲み込ませるとは。だが……好機!」
 ヴァリフィルドが息吹く。パラディーゾを容赦なく攻め立てる。後に続け、と正義の騎士たちが弓を構えて、パラディーゾへと矢の雨を降らせた。
 土星天を冠するパラディーゾは、其の物理攻撃を成す術なく受ける。呑み込んだゴミデータが吸収しきれず暴れ、其の苦しみのままに、ブロックするレインリリィへと凶爪を振るう。アネモネの癒しがあればこそ、レインリリィは勢い任せの其の乱撃を受けきった。
「……聖女さまの加護がなかったら危なかったね」

「もう大丈夫だよ!」

 桜の花弁が舞う。きらりきらり、合間を縫うように剣閃が煌めき、パラディーゾに傷と怒りの感情を植え付ける。
「レインリリィさん、お疲れ様!」
 スティアだった。彼女が此処にいるという事は――レインリリィは周囲を見渡す。
「アネモネはナイスタイミングだったな」
「ええ。しかし彼女に頼りっぱなしという訳にはいきません。正念場です、心して行きましょう」
 スキャットとハウメア。
「竜は掃討致しました! あとはこのパラディーゾだけです!」
「支援は足りてる? さっきの癒しだけじゃ足りないなら、任せて」
 シュネーとスイッチ。
「取っ組み合いなら……負けないと思うけど」
 シラス。
「出前一丁じゃオラァ!」
 そして天狐。一同がパラディーゾの前にて揃う。
「……あれだけの数を、喰らったというのか」
 パラディーゾが呻くように言う。
 其れに応えたのは形代となったヴァリフィルドだった。
「同じ我なら判るであろう? 此処にいるのは、其れを為し得る者たちなのだと。そしてうぬを打ち倒すに値する者たちであると」

「……我はパラディーゾ。天国篇土星天、ヴァリフィルド……! 余剰の竜とそこらの世界喰らいと一緒にしてもらっては困る……!」



 天国篇(パラディーゾ)という肩書は、確かに伊達ではなかった。
 ヴァリフィルドとシラスという二体の竜を相手取り、更にディリ、シュネーを相手にし。天狐とスキャットの攻撃をかわし。更にハウメアに腹や眼を矢で貫かれながら、尚も立つ。
「……まだ立つか、偽りの我よ」
「ああ、まだ立つとも。うぬらを喰い尽くすまで、我は斃れる訳にはいかぬ……!」
「何がキミを其処まで突き動かすのかな。別に誰かに忠誠を誓ってる訳じゃないんでしょう?」
 レインリリィとスティアが分散して彼の攻撃を受け止める。ブレスはダメージこそあるものの、スイッチとスキャットの援護によってほぼ完全に回復する。
 彼ら十人だけではない。彼らが率いる正義の騎士たちとアネモネ。これだけを相手に一人で立ち回れるパラディーゾがおかしいのだ。
「忠誠など誓うものはおらぬ。我は我の欲望のままに喰らうのみ……喰らっても喰らっても、満腹にならぬ……なれば、貴様らを食らえばきっと」
「……」
 静かにレインリリィが頭を振る。きっと自分たちを喰っても、彼は満足しないだろう。情けをかけてやるとするなら、其の事実を知る前に屠ってやる事だ。
「黙って喰われる気なんてないよ。……スティア・エイル・ヴァークライト! 再び推して参る!」
「私達は、此処で貴方を討つと決めたんです。食べられる訳にはいきません、何も食べさせる訳にはいきません!」
 ハウメアの雷矢がパラディーゾをしたたかに打つ。其れはダメージというには小さいようだが、傷付きに傷付いたパラディーゾをふらつかせるには充分だった。
 其処にスティアが一陣、斬り込む。納刀から、呼吸より早く刃を抜き放つ居合の一撃。氷の花弁がひらりと散って、そして、うどんの香りにとろりと溶ける。
「冥途の土産に食っていくのじゃ!」
 其れは天狐なりの優しさだったのか。屋台を振り回す乱撃は、大きな的(パラディーゾ)によく当たる。豪快な一撃がパラディーゾの体勢を崩す。

 ――オォオオオオンッ……

 大気をも揺るがす咆哮が二つ。ヴァリフィルドがパラディーゾの肩口に勢いよく食らい付き、其の肉を牙で刺し、顎の力で引き千切る。血液の代わりに、ゴミのようなデータがばらばらとパラディーゾから溢れて落ちた。
「描き続けることが出来れば、いつかは作品は完成する」
 纏わりつこうとするゴミデータを、スキャットが塩水に電気を走らせる事で打ち消す。ぱちぱちと火花が弾ける様は、まるで命の終わりを見ているかのようだった。
「――戦いだって同じだ! 諦めずに立ち上がり続ければきっと……!」
「俺たちは諦めない! だからお前は、此処で終わるんだ!」
 シラスが両手のかぎ爪で、前かがみになりかけたパラディーゾを捕まえる。
「ぬうっ……! 離せ……!!」
「離せと言われて離す奴がいる? やだね!」

「シュネー」
「はい」
「行くぞ」
「はい!」
 ディリのガンブレードが唸りをあげてパラディーゾの露になった腹を切り裂く。其の傷口をシュネーの一撃が押し広げ、手ひどく痛めつけた。
「この防衛線の先には、多くの人たちの生活と命がある」
 最後の攻防を見届けながら、スイッチが呟く。
「例え仮想世界であろうとも、だ。彼らは間違いなく生きている。……其の営みを崩させはしないよ」
 そうして、ヴァリフィルドの爪が――己の体だ、良く知っている――パラディーゾの心臓部を貫いた。
「……我、は」
「もうよい。還るが良い」
 何処へかは知らぬ。或いはお前には還る場所も、還る魂もないのかもしれぬ。
 けれども。
「うぬの空腹の苦しみごと、我が全て喰らってやろう」



「うどんはどうじゃ?」
 戦を終え、天狐が皆にまずした事は兵糧――うどんの差し入れであった。ワールドイーターや竜が変化したものではなく、さっきまでブン回していた屋台で作ったものだ。
「頂こうか」
「わたくしも頂きます」
「あいよ! なのじゃ!」
「あ、じゃあ俺も」
「すまぬがドラゴンサイズの椀はないのじゃ」
「そんな……」
 ディリとシュネーが頷いて、シラスはじゃあ人間サイズで、と天狐にお願いする。
 パラディーゾの全てを腹に収めたヴァリフィルドは感慨深げな顔でそのやりとりを見ていた。近くに座っていたレインリリィが首を傾げる。
「何か不思議?」
「いや。……悪食竜たる我の姿を模した敵に、其の敵を喰らった我を、誰も咎めぬとはと思ってな」
「……。まあ、いいんじゃない? あれは敵で、君は其の姿とか特性とかをコピーされただけなんでしょ? だったら別に、とやかく言ったりしないよ。ボクも」
 まあ、一撃一撃は痛かったけどね。
 皮肉っぽく、彼の望んだとおりに一言を投げつければ、ヴァリフィルドは困ったような顔をした。
「――ほら、そんな顔をするから、誰も何も言わないんだよ」
 スイッチが言う。
「そんな顔?」
「そう、そんな顔。……別に嫌味じゃないからね。褒めてるんだよ」
「あれ? そういえばスキャットちゃんは?」
 スティアが兵の労いから戻ってきてきょろきょろと周囲を見回す。
 皆のやりとりを見詰めていたハウメアが答えた。
「所用があるって言ってました。あの方向は確か、アネモネさんや正義の方が……」


「アネモネ様、ただいま戻りましたよっと」
「ありがとうリンドウ。……スキャットちゃんの様子はどうでしたか?」
「ええ、十全ですよ。怪我をするような立ち回りもなく、見事なもんでした。おねーさんの出番はありませんでしたねえ」
「そう。……良かった」
「これからアネモネ様はどうされるんです? 伝承にまた帰るなら、しょうがないんで私が何とかしますけど」
「……今はまだ、其の時ではありません。……其れに、謝罪の言葉を貰ってませんし」
「え?」
「いえ、何でもありません。ただ、戦いはまだ続いています。どのような形であれ落ち着くまでは、正義を離れる事は誰も許してはくれないでしょう。何より、私が」
「……そうですか。ま、アネモネ様がいてくれるだけで士気は上がるんで、私は全然オッケーですけど!」

「……」
 木の陰で其の言葉を聞きながら、スキャットは溜息を吐いた。
 R.O.O.(此処)のベルナルドとどうなったか、彼が何と言ったのかは知らないが、兎に角円満に落ち着いてくれれば其れでいい。せめてR.O.O.のアネモネが、笑顔でいてくれるなら――
「……戻るか」
 盗み聞きだなんて、野暮な事をした。スキャットは踵を返し、これからどうするかを考える。ベルナルドが迎えに……は、絶対来ないか。



 渇望の竜は絶えた。
 其の竜を喰らって、悪食竜は何を思うのか。
 砂地を侵食していた塩水が、すう、と砂の中に解け入った。ぼろぼろになっていた世界が修復されていく。其れはバグが消え去った証。少なくともこの地域一帯に満ちていた“喰らうもの”は、残さずいなくなったようだった。

成否

成功

MVP

レインリリィ(p3x002101)
朝霧に舞う花

状態異常

レインリリィ(p3x002101)[死亡×3]
朝霧に舞う花
シラス(p3x004421)[死亡×2]
竜空
ディリ(p3x006761)[死亡]
ノー・マーシー
シュネー(p3x007199)[死亡×2]
雪の花
スイッチ(p3x008566)[死亡×2]
機翼疾駆
天狐(p3x009798)[死亡]
うどんの神

あとがき

お疲れ様でした。
もぐもぐぱくん、というお話でした。
ミッション成功です。ご参加ありがとうございました。
MVPは天国篇を真っ先に押し留めに行った貴方へ。

PAGETOPPAGEBOTTOM