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シナリオ詳細

<ダブルフォルト・エンバーミング>歪なる心酔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 伝承(レジェンダリア)の穀倉地帯に、その農村はあったのだった。のどかで、善良な人々が牧歌的に過ごす、何の変哲もない麦畑ばかりの村。ただひとつ違うことがあるのだとすれば、その中央の広場にて、中性的な男の声が優しげに響くことばかり。
「全てを、神はお許しになることでしょう」
 穏やかで、上品で、決して微笑みを絶やさぬ佇まい。村の誰もが宣教師として現れたこの男の人柄を褒めそやし、口を開く彼に心酔したことだろう……彼が常に携える書物が、何であるかを知らぬままならば。

 その夜、旅の途中で村を訪れた行商人一家は、宣教師も逗留する領主の館に招かれていた。父と、母と、その娘。彼らは領主と跡継ぎであるその長男、それから宣教師も交えた晩餐に呼ばれ……それが家族3人で過ごした最後の夜に変わるのだ。
 何故ならその日はこの村に巣食う悪意が、最後の仕上げを行なう日であったから。

「エダ! 貴女だけでも逃げなさい!」
 妻が女とは思えぬ力で娘を突き飛ばしたことで、娘、イーディス=シモンズは館の窓から外へと放り出された。行商人といっても半ば冒険者紛いの旅を続けていたせいで、咄嗟に空中で身をひるがえし、受け身を取れたのは幸いだ。地面に強く打ちつけた手足が痛む……が、頭や胸を打たなかっただけマシだ。それと……あのまま寝室にいたことで、“炎の獣”に食われてしまうより。

「どうして逃がしてしまったのです。あれこそ、神への供物に相応しかったのに!」
 自身は母親を羽交い締め、領主の息子には剣で父親の手足を斬らせ、宣教師シーシアスは嘆いてみせた。彼が書物――禁忌目録《ジェヴォーダン》から喚んだ獣は、彼の嘆きを受けますます燃え上がる。それは嫉妬と憎悪を糧とする魔獣……哀れな行商人夫妻は贄として、彼に喰らわれる道を辿るのだ。

 この日、村はシーシアスの計画の最終段階として、全てが贄と化す宿命にあった。彼は、『終焉(ラスト・ラスト)』より解き放たれし、世界(ネクスト)を蹂躙する“終焉”の大軍勢に呼応せし存在。砂嵐(サンドストーム)よりバルツァーレクへと押し寄せる終焉の一端を、この辺鄙な村に招かんと目論む狂信者。
「ご覧くださいますか、オライオン様!」
 シーシアスは『元神父』オライオン(p3p009186)の名を呼んだ。彼こそがシーシアスにとって唯一の神であり、絶対の拠り所。その神が至高たることを証明するために、彼は村人全てをジェヴォーダンの獣らに喰らわせて、力を増した獣らで城塞都市ビルレストにて終焉を押し止めんとする騎士団を打ち破り、終焉とともにオライオンから安寧を奪わんと望む。

 しかし今、逃げ延びたイーディスの手によって、彼の悪徳は特異運命座標の知るところとなったのだ。
 シーシアスを討ち果たし、彼の目論見を終わらせる。それもまたR.O.O 4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』にて発生した、特異運命座標に課されたクエストのひとつであった。

GMコメント

 無辜なる混沌においても『元神父』オライオン(p3p009186)を信仰しているシーシアスが、R.O.Oにおいてはより恐るべき敵として立ちはだかりました。
 R.O.Oの世界ネクストにおいては、『謎めいた牧師』ナイジェル=シン(p3p003705)の関係者であるイーディス(エダ)=シモンズの両親もまた、彼の犠牲者として再定義されています。エダとともにシーシアスを討伐し、ビルレスト防衛に対する横槍を防ぐのが本シナリオの目的となります。

●敵
・“情欲と憎悪に魅入られた男”シーシアス
 魔導書、禁忌目録《ジェヴォーダン》から喚んだ炎の魔獣を無数に従える司祭です。シーシアス自身に特別な戦闘力はありませんが、常に多数の炎の魔獣を使役して身を守っています。また、甘言を囁くなどしてリヒャルトの離反を防いだりエダを自陣営に引きこもうとしたりします。

・ジェヴォーダン
 シーシアスの喚ぶ魔獣の中でも、最も強力な存在です。エダの両親を喰らったのをきっかけに終焉獣(ラグナヴァイス)としての力を得たようで、後述の『石花の呪い』を持っています。

・リヒャルト=サン=シール
 シーシアスを盲信し、彼の騎士となって協力する、領主の長男です。シーシアスの行為が悪事であることは理解しつつも、彼の「神が堕落してしまい来たるべき破滅を克服できなくなる事態を防ぐためには必要なことだ」という言葉を鵜呑みにしています。改心させることができれば味方にもなりえます。

・炎の魔獣×16
 シーシアスおよびリヒャルトの護衛を担う、小型の魔獣です。強力ではありませんが、倒してもシーシアスが召喚を行なうことにより最大16体まで補充されます。

●味方
・イーディス(エダ)=シモンズ
 両親の仇を取るために同行しますが、バグに侵されているのか、何故かシーシアスとリヒャルトが仇であるという認識ができなくなっているようです。シーシアスに「神の堕落を招く特異運命座標たちこそが真の両親の仇だ」と囁かれれば従ってしまいかねません。

●石花の呪い
 ジェヴォーダンの攻撃がクリーンヒットした際、20%程度の確率で付与される特殊ステータス状態です。
 感染してから3ターン後に体が石に転じ、最後に一輪の華を咲かせてから崩れてしまいます(死亡し、デスカウントが付与されます)。
 石花の呪いは、発症までの間に誰かが1ターンかけて治療のための『試薬』を投与することで解除が可能です。

●重要な備考①『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行なわれます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O 4.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

●重要な備考②
 <ダブルフォルト・エンバーミング>では、ログアウト不可能なPCは『デスカウント数』に応じて戦闘力の強化補正を受けます。
 ただし『ログアウト不能』なPCは、R.O.O 4.0『ダブルフォルト・エンバーミング』が敗北に終わった場合、重篤な結果を受ける可能性があります。
 また、シナリオの結果、あるいは中途においても、デスカウントの急激な上昇など何らかの理由により『ログアウト不能』に陥る場合がございます。
 また、<ダブルフォルト・エンバーミング>でMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
 MVPを獲得したキャラクターはR.O.O 3.0においてログアウト不可能になったキャラクター1名を指定して開放する事が可能です。
 指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でもかまいません(なお、自分でもかまいません)。
 あらかめご理解の上、ご参加くださいますようお願いいたします。

  • <ダブルフォルト・エンバーミング>歪なる心酔完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ホワイトローズ(p3x000921)
白薔薇
シン(p3x003705)
贖罪者
夢見・マリ家(p3x006685)
虎帝
ダリウス(p3x007978)
尾を喰らう蛇
壱狐(p3x008364)
妖刀付喪
黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用
神父(p3x009186)
復讐の
天川(p3x010201)
國定 天川のアバター

リプレイ

●罪と罰
 恐らくは、彼もまた退屈を持て余していたに違いない。『その名は“罪”』シン(p3x003705)は思い巡らせる。
 領主として永遠にこの田舎村に閉じ込められる定めを持つ跡取り息子。それが村人たちも先祖たちも裏切ることだと頭では解っておりながら、誰かに「先祖たちの考えよりも大切なことがある」と後押しされるのを望んだのだろう。
(ならばまだ、救えるのだろうな)
 シンの知るリヒャルト=サン=シールも、そうであったから。

 この電脳の世界においてまで、己の穢れた欲にて他者を愚弄するのか。フードで顔を隠したままで、『復讐』神父(p3x009186)は心に憎悪を燃やす。
 最初こそ怖がられていたようではあったが次第に愛を育むようになった妻の、変わり果てた姿。それがシーシアスの仕業であると知った時、どれほど全身の血が沸き立つ思いを感じたろうか。
(貴様も、混沌にいるであろう本物の貴様も、必ずこの手で討ち果たしてやろう)
 それが、神父の生きる意味だから。

●背徳を前に
 燃え盛る炎がは天をも焦がし、領主の館を取り囲んでいた。主命を受けてその炎の中に顕現すると、獣――ジェヴォーダンの口許は愉しげに歪む。よくも、父さんと、母さんを――唇を噛んだイーディス=シモンズの頬を、不意に爆ぜた炎が眩しく照らす。目を閉じ、再び目を開ける。父さんと母さんを……何だったっけ? 二人の死とあの化け物の間に、何の関係があったんだっけ?
「あまり気を逸らされませんよう」
 横から『書類作業缶詰用』黒子(p3x008597)がアシストしたことにより、エダははっと我に返った。目と鼻の先に、せせら嗤う炎の獣。今まさに彼は眼前に立ち尽くす自分を喰らおうと――するのをあからさまに避け、代わりに今まさに彼の神秘を解析している最中の『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)に炎の牙を剥き出しにする。
「なるほど、恐れているのですね」
 自身の力の源を、目の前の付喪神に暴かれることが。その『力の源』とやらが生来のものであるのかバグによるものなのかすらまだ壱狐には解析しきれてはおらぬし、しきれるとも限らない……だがそれが彼の綻びに繋がり得ると判った以上、そこを突かぬという理由などはない。
「我が救世主。どうか、その安寧の中よりお目覚めください……」
 シーシアスの祈り。続いて、冒涜なる言葉。魔導書より現れた小炎獣たちが躍りかかるが、彼らの先頭集団を、黒い影の鞭が薙ぎ払う。
「オイオイオイ、糞みてぇな説法垂れてんなぁおい」
 『バンデッド』ダリウス(p3x007978)を覆う靄から現れた、堕落の黒蛇の尾であった。出鼻を挫かれた小炎獣は憤り、喰らい、喰らい、喰らわんとする。ああ、存分にそうしてみるといい。ダリウスを取り巻く黒靄に幻惑されて、彼――恐らくは『彼』でいいのだろう――の姿を見失わなければ、の話だが。
 喰らいついた牙に何の感触も残らぬことに目を白黒させた炎の魔獣らを、白銀の剣が次々と引き裂いた。彼らの脇腹に一直線の傷を刻み込んだのは、不快げにその人形のような顔を歪めた『白薔薇』ホワイトローズ(p3x000921)。唸る魔獣。振り返り、もう一度剣を構えるホワイトローズ。何やら口を開きかけ、しかしそこで一瞬口の動きを止めて、それから改めて発したのは邪悪に対する憤り。
「……そうです! 確かに、人の考えとは人それぞれのもので、信仰は自由……かもしれませんが、それを人に押し付けたり、人に迷惑をかけては……いけないのです」
 まだ“ホワイトローズらしい”言葉遣いで咄嗟に喋れるほど彼女はこのアバターに慣れてはなかったが、それでも、ホワイトローズなら必ずそう意志を込めたに違いない。……だから。
「ジェヴォーダンの抑えは拙者に任せて、ホワイトローズ殿、皆様はシーシアス殿とリヒャルト殿のことをどうか!」
 『虎帝』夢見・マリ家(p3x006685)は彼女にそう呼びかけた。自らの自分勝手な願望のために取り返しのつかないことをしでかした男に引導を渡すことは、それを為すべき者たちに任せるのがいいのだ。マリ家には別に為すべきことがある――すなわち、炎獣の親玉の討伐だ。
 ジェヴォーダンは舌なめずりすると、激しい炎を辺りに吐き出した。灼けつく火焔は壱狐やマリ家のみならず、エダや黒子、『國定 天川のアバター』天川(p3x010201)までをも巻き込む旋風となり。
「けほっ、こいつはキツいねぇ!」
 鼻と口を覆った天川の袖の隙間から、愉しげな口許がちらりと覗いた。厄介そうだがこいつは任せろ。ぶっ殺してからそっちに加勢に行くからよ。二刀の小太刀に興が乗るには、もうしばらく時間は必要そうだ――あ? 誰がおっさん特有の立ち上がりの遅さだって? だが体が温まるよりずっと早く、心は退けば多くの者が犠牲になるだろう極限の状況を前に滾りきっている。
(『試薬』の準備だけはしておきましょうかね)
 そんな天川のちぐはぐな心と足捌きを見て取って、そっと手の中に小瓶を握り締めた黒子。エダをかばって晒した全身は煤で真っ黒になっているけれど、どんな時でも――むしろ有事こそ――パフォーマンスを出し続けるのが役人根性逞しい黒子の在り方だ。

●燃える憎悪
 雷速のマリ家の突きがジェヴォーダンの肉体に風穴を空け、獣は苦しげな呼吸とともに、その穴から炎の筋を漏らす。
 小炎獣たちはもう、ジェヴォーダンの近くにやって来てはくれなくなった。近付けばマリ家の主武装たるツインタイガーバルカンに同じように風穴を作られて、自分たちが吐き出す炎に自身を焼かれるだけだと学習したためだ。
「もっとも、それならそれで好都合ではあります!」
 何故ならそのほうがマリ家にとって、ジェヴォーダンに集中しやすい。……いや、彼女のみならず。
「ええ。私としても邪魔が入らないほうが解析しやすいですからね」
 壱狐の太刀――付喪神の本体の刃に浮かぶ術式も、他の炎獣ではなくジェヴォーダンのみに特化されたもの。
 斬りつける。あたかも吸い込まれるように弱点を切り裂くが、それはただの炎獣にも有効な普通の弱点だ。
 故に、もう一度斬りつける。やはり普通の弱点だ。それでも刃の術式は、ジェヴォーダンの真の弱点を探して次々に情報を集積させている。
 ……もっとも。壱狐の刀身に集積するものが、炎獣の解析情報だけでなかったのも事実ではあった。あたかも鉄を打つ時のような体熱が、徐々に刃を蝕んでゆく。
 だが刀の鋭さは、今も奪われきってはいない。刀身が致命的な損傷を受けてしまうより早く、漂う霧が鉄から熱を奪うのだ。辺りに大きく広がる霧は、火照りを冷まし、火傷を癒やす。炎獣がその目論見を文字通り焼け石に水とせせら嗤うのだとしても、『ほんの僅か』を重ねる価値は黒子にしか解るまい。
(一度につき数十の税金ですら、束ねれば兆の予算に化けるものですよ)

 黒子が最も気にかけていたエダも、少なくとも今はまだジェヴォーダンを敵だと認識してくれていたようだった。当然だ、その熱で肌を灼かんとしてくる炎の獣と、それを癒やす霧を放ってくれる黒子たち、どちらに味方すべきかは一目瞭然だ。
 もっとも、シーシアスが彼女へと虚言を弄するのを許したならば、それも確かなことではなくなるのであろう……ところが少なくとも今のシーシアスには、エダごときを相手している暇はない。呪文を、次々に唱えねばその身が危ういが故に!
「何故、このようなことがあって良いのでしょうか……ああ、我が神、我が救世主! あなたにこの絶望を届けるこの責務くらいは、私は無事に果たさねばならないというのに!」
 祈りとともに補充された小炎獣たちは、すぐに召喚主を守るかのように立ち塞がった。あの、不快な言い分を喚き散らしてばかりの宣教師へと、もう少しで刃が届くところだったのに……ホワイトローズの眉間に小皺が寄せられる。
 それでも、小炎獣を倒せばそれだけシーシアスに迫りうる。彼が祈りを捧げ続けているさまは、さしくその証左であった。
「増やせるなら増やしてみればいい……です。そのための呪文に手を取られるのなら、妄言を囁く暇もなくなるでしょうから」
 事実、リヒャルトが斬りかかってくる太刀筋の甘さは、単に彼が剣を取る経験に乏しいからというわけではないようにシンには感じられていた。
「君が非情になりきれる人間ならば、こうも迷いはしなかっただろうにね」
 彼の剣を自らの剣で受けつつ囁やけば、大きくぶれるリヒャルトの体勢。宣教師の甘美な囁きが失われ、実際に自分のしたことが原因で誰かに敵意を向けられて、彼は、初めて自分のしてきたことの結果に怖気付いたのだろう。罪深き牧師は言葉を重ねる。
「君の行ないで利を得ているのは誰だ? そして、君の心はそれに納得できているのかね?」

「信じるのです……あなたの行為がどれだけ世界を救うものであるのかを!」
 ようやく隙を見つけたシーシアスがリヒャルトに説くが、シンは逆に彼がそのために犠牲にしてきた命の数を突きつけてやった。剣が、ますます大きくぶれる。再びシーシアスが何か口を開きかけるが……その機先を制して言葉を発するダリウス。
「神の供物だなんざで己は捧げず、話したばっかの相手生贄にした時点でカミサマからしたら迷惑以外でもねぇってな! それで喜ぶのはよっぽどの白痴かクソ邪神くらいだぜ! ケッケッケ!」
 ああ、その言葉は許してはおけない。
「何故あなたは我が神を愚弄するのですか!!」
 怒りに駆られてのこのこと前に出てきたシーシアスの胸ぐらを……その時、乱暴に掴む者。
「貴様は、貴様の神の怒りを買うことこそが、その神に喜ばれることに繋がると言うのだな?」
 神父だった。召喚主に纏わりついていた炎獣がその腕を焼けども、彼はその手を離さない。炎は腕から肩へと伝い、肩から顔を覆わんとする。すると焼け落ちたフードの下から、神父のアバターの──オライオンの素顔が現れる!
 すると。
「我が神よ!!」
 シーシアスは感極まったかの如く両手を胸の前で組んだ。
「その憤り、その憎しみ! ……ですが、あなたの宿す力は、この程度で留まるものではございますまい。どうか、我が妹の死に際してお見せになった、その魂の復讐心を。いいえ、それ以上の絶望感をこの私めへとお向けください!」
 そう彼が、実妹――馴れ初めこそ政略結婚さながらなれど確かにオライオンが愛を育むに至ったエアリアについて言及したのと同時、神父は、オライオンは手の中の悪辣なる男を力の限り大地へと叩きつけてやる!
「貴様など……祈る価値もない!」

 召喚主の危機を察知した小炎獣たちが、次々にオライオンへと殺到していった。問題はない……どう動くか解りきっている敵などは、まさしくダリウスの蛇影の格好の餌食だ。
「こっちは数が多いってのがしんどい理由だったって言うのにな。そうやって集まってくれるってなら好都合な限りだぜ。ちょうど、何かの間違いでそいつらまでナントカの呪いとやらを使ってくるようなら手数が面倒だと思ってたとこだ!」
 これでは、ジェヴォーダンとて好き放題敵を喰らわんとしてばかりではいられなくなった。あっという間に踵を返し、シーシアスとの合流を急ぐ炎の魔獣。いいのか? 敵を前にして背なんて向けて。激しい炎に当てられたお蔭で、天川もそろそろ体が温まってきた頃だというのに!
 置き土産とばかりに蹴上げられた炎を『月影』にて受けて、弾く勢いを逆の手の『陽光』に乗せる。國定流小太刀術二刀の型が奥伝の壱『背水廻刃(はいすいかいじん)』は、深々と炎獣の脇腹に刺さる。
 そして、今度は弾かれた『月影』を、体を開いた反動で引き寄せる……そして刺す。その時には『陽光』は炎獣の内臓を裂いて、激しい炎を噴出させている……。

●復讐の意義
 悶絶する魔獣の絶叫と、オライオンの憎悪を受けたシーシアスの感涙のハーモニー。その中で、マリ家の両腕の多銃身砲が再び唸りを上げた。
「ツインタイガーバルカン、リミッター解除! 合流すれば劣勢を覆せると思ったのかもしれませんが……纏まってくれるのであればむしろ好都合というもの! 参ります、ツインハイパータイガーバルカン……限界を超えて猛虎と化しましょう!」
 次々に吹き飛ぶ小炎獣ら。辛うじて生き残った者も銃創から漏れ出る自らの炎に焼かれ、消し炭と化すのも時間の問題であろう。
「我が救世主!」
 シーシアスはオライオンの足元に縋る。
「私はまだ、あなたから大切なものを奪い足りない。ああ、今はその方々が主の大切な者たちなのですね?
 であれば、その者たちも殺してみせましょう。あるいは甘言にて誑かせてみせましょう。あなたは、永劫に安寧より救われねばならないのです!」
 そして、リヒャルトには大義に身を委ねる意義を。エダにはかの御方と仲間たちを殺めてこそ復讐が成ることを。狂信者の口から零れ出るものは、書き記すこともできぬほど背徳に満ちた抗いがたき言葉。
 だが、そんなもの実に馬鹿馬鹿しいじゃないか。強靭の戯言を鼻で笑ってみせた天川。
「俺もな……妻と子を守れなかった。そして復讐に憑りつかれ、仇をぶっ殺すまで続けた。そんな経験者の俺が教えてやれるのは、復讐自体を勧めやしないってこった!」
 そして同時に『最高にスカッとした』。だから復讐を止めたりもしないが、どうせ誰が仇かも判らないのなら、そこに意味なんて求めずに、自分がそうしたいと思う形で果たそうじゃないか。

 満足げな表情のままジェヴォーダンに喰われてゆく天川の姿を、エダはじっと見送っていた。
 どちらが真の両親の仇かはすっかり判らなくなってしまったが、どちらが虐げる側でどちらが抗う側であるのかは最初から解っていたはずだ。
「その通り。口先が仕事道具な詐欺師相手に同じ土俵に上ることなんてありませんし、私たちは私たちの仕事をこなせばいいのです」
 ほら、ようやく壱狐も探り当てていた。炎の魔獣の心臓に巣食う、おぞましき“終焉”――バグ同然の力の源を。その力はシーシアスの持つ魔導書のとあるページと紐付けられており、そこには文字化けじみた異様な発音不能の呪文が記されている。
「だとすれば、それを読めないようにしてやればいいはず……でしょうね」
 白剣を握るホワイトローズの全身に、その身をその身たらしめる秘術――闇の文様が浮かび上がった。力を剣に纏わせ横一文字に薙げば、シーシアスの両目に闇の飛沫が飛んでゆく。
 これまで何度も唱えた呪文を、シーシアスは暗唱してみせた。応じて現れた小炎獣たちは……けれども召喚主が力を減じたためだろう、どこか体が捻じくれて、不格好なものたちばかりだ。
 さて、私もそろそろ攻撃に移るべき時ですか。いつしか残り乏しくなってきた試薬をまだ手の中に握ったままで、発していた霧の性質を変じさせた黒子。霧は密かに彼中心からジェヴォーダンと幾らかの畸形炎獣を取り囲む範囲に変わり……一転、闇色の無数の渦の群れへと見た目さえ変える。
「あなたが本当に父さん母さんの仇かは判らないけれど……この世に存在してはいけないことだけは間違いないわ!」
 決して強力な味方とは言えぬはずのエダが炎獣に一矢報いたのを確認すると、黒子は密かに頷いた。いわばこの瞬間まで彼女を殺させぬため、彼は我が身を挺し続けたようなものだ。
 意志が、バグを克服する。その瞬間エダは確かに思い出す……この獣と使役者シーシアスこそが、自身の両親の仇であったのだ、と!
 もっともその力はまだ弱く、一人で為すにはまだ遠い。
 故に、再びマリ家の電磁刺突。かの魔導書に繋がる心臓を、数え切れない串刺しで抉り取ってゆく。炎の源が砕け散る。魔獣の存在の源が虚に帰る。命の核を失った魔獣はその後は脆く、あっという間に形を失って――……。

●贖罪と……
「――もう、何も言われずとも解っているとも」
 リヒャルトは剣を手放して、ただシンの前にひざまずいていた。
「卑劣な男に騙されていた、などと弁解するのは容易い。しかし僕が、疑いながらも欲望のために良心を見て見ぬ振りし、償いきれぬ罪を犯したことに変わりはない」
 では、何をすればいい?
 縋るリヒャルトにシンは首を振り、一言、償えとは言わぬよ、と。

 結局のところ贖罪も復讐も、本人の自己満足に過ぎない――シンもまた天川と同じ境地に至った男のひとりであった。
「私の知る人物は、せめてもの罪滅ぼしとして自身を騙した男を殺害し、その足で故郷を去ることにしたよ。
 だが、君がどうするかは君の自由だ。過去にどう向き合うかなど、己が納得できぬまま他者に強制されるようなものではないからね」

 ダリウスの蛇影は黒渦に蝕まれた小炎獣たちを鞭打って、その最後の灯火を揉み消していた。
「さて、流石にそろそろお代わりも品切れってとこか? 俺程度が撫でた程度で息の根が止まる魔獣しか出せなくなっちまったようじゃ、そのクソ信仰もそこまでってこった――」

 シーシアスの端正だった顔が原型を留めなくなってもなお、オライオンはあらん限り彼を殴り続けていた。
「答えろシーシアス! この疑似世界で貴様は何人その手にかけてきた!?」
 相手が言葉を発せる状態かどうか――それどころか彼が“本物”かどうかすらもう関係がない。ただ、幾度夢に見たかも忘れたあの光景だけが、脳裏にこびりついたまま離れない。
 信仰を捨て、主を捨て、世界すら捨てた先。そこに仇敵がいたのはむしろ救いですらあった。
 その復讐は何も生まぬし、自己満足に過ぎぬと知ることすら永劫の過去に通り過ぎた道。
「それでも俺はァ!! 貴様を殺すことのみ赦されているのだッッ!!
 シーシアス!! 共に地獄へ堕ちるぞシーシアス!!!!」

成否

成功

MVP

黒子(p3x008597)
書類作業缶詰用

状態異常

黒子(p3x008597)[死亡]
書類作業缶詰用
天川(p3x010201)[死亡]
國定 天川のアバター

あとがき

 かくして復讐は何ら果たされず、寄る辺なき贖罪の旅がまたひとつ始まるばかり。
 それでも皆様が終焉のひとかけらを打ち砕いたことは、世界の天秤を少しだけ傾けるのでしょう……。

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