シナリオ詳細
神速勇猛コケコッコ。或いは、輝かしい夜に向けて…。
オープニング
●来るべき日に備えて
幻想、郊外のある森にそれは住んでいるという。
白や茶の体毛、黄色い嘴、雄には燃えるような紅蓮のトサカが生えている。
鳥でありながら、飛行能力を持たないそれは、代わりに異常なほどの脚力を手に入れた。
体長、30センチほどの小さな体にも関わらず、その蹴りは【必殺】【致命】の威力を誇る。
名を“コケコッコ”。
一部の地域にのみ生息が確認される魔物である。
コケコッコは稀少な魔物だ。
さらに高い脚力に加え、獰猛な性質と群れで行動する習性から捕獲の何度も非常に高い。
それでも、コケコッコを求めて命を落とす者は毎年後を絶たない。
なぜか?
コケコッコの肉は美味いのだ。
生でも食える。焼いても、揚げても、大層美味い。
肉は柔らかく、ジューシー、そして稀少ということもありコケコッコの肉が市場に出れば、かなりの高価で落札されることが常となっていた。
コケコッコの群れは、およそ20~30程。
20体に1匹の割合で生まれる突然変異のリーダーコケコッコは、体長1メートルほどと大きく、強い。
さらに、群れを率いるボス・コケコッコは2メートルほどと尋常ではないサイズと脚力を誇るのだ。
リーダー・コケコッコ、ボス・コケコッコの鳴き声は【ブレイク】【混乱】の影響を与えることも確認されている。
「さて、以上がコケコッコの生態です。ここまで話せば賢明な皆さんにはもうお分かりのことと思うのですが、今回はコケコッコの捕獲に行ってもらうです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は魔物の図鑑を片手に開いて、そんなことを言うのであった。
●コケコッコ
シャイネンナハト。
例年、冬の寒い時期に開催される祭りの名である。
輝かんばかりの夜に、大切な人と同じ時を過ごしたい者もいるだろう。
そんな特別な日には、特別な料理が良く似合う。
「ラサ在住の老商人、パンタローネさんはそのようなコンセプトのもと、コケコッコの数量限定販売に乗り出すつもりらしいのです」
そうして、発注された依頼によってイレギュラーズは危険な森へと足を運ぶこととなった。
それが、今回の顛末だ。
「非常に稀少な魔物であること。数量限定として、価格を吊り上げたいこと。そして、コケコッコの個体数を減らしたくないこと。以上の理由から今回の依頼にはいくつかの制限がかかるです」
1つ、コケコッコの捕獲数および討伐数は30~50匹までの間とする。
1つ、ボス・コケコッコとリーダー・コケコッコは捕獲、討伐しないこと。
1つ、群れの数を半数以下にしないこと。
「コケコッコの生息している森には、8前後の群れが確認されているです。また、森の中央付近には湖と草原地帯があるです」
湖と草原地帯にはコケコッコの群れが多く集まる。
だが、狙いやすいからといって初めから見晴らしの良い森の中央へ向かうことは、推奨しないとユリーカは言った。
「コケコッコは同じ群れの仲間が襲われていれば集団で襲い掛かって来る習性を持ちます。ですが、他の群れのコケコッコが襲われている場合は、群れ単位で逃走に移るです」
また、コケコッコたちは危険に敏感だ。
今回の場合でいうのなら、日暮れがリミットとなるだろうか。
日暮れ以降、コケコッコの群れは別の場所に移動するか、人前に姿を現すことが無くなるはずだ。
「それと、コケコッコは2重の意味で足が速いです。生け捕りにするか、しっかりとした知識に則って〆ないと、すぐに悪くなってしまうです」
生きているコケコッコがいると、それを救けに群れの仲間が寄って来る。
「それじゃあ、よろしく頼むです」
気をつけて行って来るです。
そう言ってユリーカは、仲間たちを送り出す。
- 神速勇猛コケコッコ。或いは、輝かしい夜に向けて…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月23日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●コケコッコ、走る
幻想郊外のある森の中。
『No.696』暁 無黒(p3p009772)の叫びが木霊す
「うおおおお! アイルビ~バ~ックっす!」
猫らしい俊敏さでもって、木から木へと飛び移るように無黒は駆けた。その胸には、1羽の鳥を抱きかかえている。
白い羽毛に赤いトサカ、黄色い嘴……名をコケコッコという魔物であった。コケコッコは鳥に似た姿をしているが空を飛ぶことはできず、また群れの仲間を非常に大切にしている。
「皆さんそっちは任せたっすよ!」
コケコッコを捕えた無黒の後ろを、都合20羽ほどが追走していた。
目の覚めるような嘶きと共に、コケコッコが地面を蹴って跳びあがる。
弾丸のような勢いで跳躍し、鋭い爪を備えた脚で『紅い怨念』イルマ・クリムヒルト・リヒテンベルガー(p3p010125)の腹部を蹴った。
ドス、と鈍い音がしてイルマはたまらず膝を突く。
内臓を貫いた衝撃は、それほどのものだったのだろう。
「おい、冗談じゃないぞ。こんな凶暴な鶏を捕まえる一般人がいるのか?」
口の端から零れた血を手の甲で拭い、イルマは思わずといった様子でそう問うた。そんな彼女の問いに答えを返したのは『閃電の勇者』ヨハン=レーム(p3p001117)だ。
「まぁ……誰でも捕獲できるような鳥ならローレットに依頼が届くわけもないよねぇ」
手にした魔本の頁をめくり、口の中で呪文を転がす。
リィン、と鐘の音が響き、降り注いだ淡い燐光がイルマの身体を包み込む。
「でも大変そうだよ! これは油断するとお肉にぼっこぼこにされちゃうかも」
イルマの治療を行う間、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は襲い掛かって来るコケコッコの相手をしていた。
コケコッコとて、自然の掟の元で生きている魔物の1種。
外敵を相手に身を守る術の1つや2つは当然に備えているようだ。
特に、飛行能力と引き換えに得たその蹴りの威力はかなりのものだ。実際、その直撃を受けたイルマは膝を突き、リュコスもまた腕や肩に幾つもの痣を作っていた。
コケコッコの捕獲難度は高い。
この瞬間、リュコスはそれを身をもって理解したのである。
一方その頃『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は、眼前に立つコケコッコを見据え、頬に冷や汗を伝わせる。
そこにいたのは体長1メートルを超える巨大なコケコッコ……群れの中でも一際強い個体であるリーダー・コケコッコだ。
「我こそはリディア・レオンハート――って言って、分かります……?」
剣を構え、名乗りを上げる。
騎士として当然の礼儀。彼女にとって、戦闘を開始するにあたってのルーチンとも言える。
油断のひとつも無い構えに、緊張感と戦意の滾る鋭い眼差し。
相対するリーダー・コケコッコは爪で数度、地面を掻いてその嘴を大きく開いた。
「コォォケコッコォォぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
森全体を震わすほどの大音声。
あまりの迫力に、リディアは身を竦ませた。
「っ!」
一瞬の隙を見逃さず、リーダー・コケコッコが駆ける。
リディアはリーダーの脚を目掛け、剣を一閃。咄嗟に跳んだリーダーは、爪の先で剣を弾くと転がるように後ろへ下がった。
「なんと力強い……猛禽の王とはきっとこのようなものなのでしょうね」
「いやアレ、猛禽っていうかニワ……あ、いや、そうっスね、ニワトリによく似た魔物っスね」
リディアの背後で『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は呟いた。
眼前に立つリーダー・コケコッコ。そして、リーダーの雄叫びに誘われ、次々とこちらへ駆け寄って来るコケコッコの群れ。
サイズの違いこそあれど、コケコッコの姿かたちは葵の良く知る家畜鳥類によく似ていた。
「脚力と肉で二重の意味で足がはやいってか」
チラ、と後ろを振り返り葵は言った。
リディアと葵が護衛を務める背後では、グリムゲルデ夫妻がコケコッコを〆ていた。
コケコッコの足は速い。
物理的な意味でも、食肉的な意味でもだ。
「コケコッコ……要はニワトリ……そうだよなぁ、丸焼きに需要が出るシーズンだよな」
「で、この子達放置しとくとすーぐダメになるって? しょうがないなあ! 私の腕を見せてあげよう」
『紅獣』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)が何事かを考え込む横で、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は手早くコケコッコの処理を進めている。
まずは捕えたコケコッコの足を縛り、木の枝に逆さにして吊るす。
弱っているのか、放置していてもいずれは息絶えるだろう。けれど、どうせ殺めることになるというのなら、苦しむ時間は短くしてやりたいというのが彼女の心算であった。
「やれ生贄だなんだで、こういう作業は慣れてるしね」
コケコッコの喉に刃物を当てると、躊躇うことなくそれを引いた。
喉が裂け、首が落ちる。
重力に引かれ、血が滴った。
ある程度、血が抜けてしまった後は肉を冷やすことが肝心だ。さもなければ、時間の経過に応じてバクテリアや細菌が増殖し、肉に臭みが残ってしまう。
ルーキスは空へ手を掲げ、雨雲を喚んだ。
ざぁ、と。
霧のような雨が降り注ぐ。
「なぁ、ルーキス。これ一匹持って帰ったら怒られると思うか?」
ぶら下げられたコケコッコをじぃと眺めたルナールは、そんなことを問うたのだった。
●コケコッコ、猛る
生け捕りにされたコケコッコたちが悲痛な叫びをあげていた。
鼓膜を突き抜け、脳を揺さぶる雄叫びを聞き、リーダー・コケコッコをはじめ、群れの仲間たちが一斉に唱和する。
『待っていろ! すぐに助けてやるからな!』
まるでそんな風に言っているみたいだ。
そうして向かって来るコケコッコの群れから、妻を守るべくルナールは銃を手に取った。
「これが希少と言われてもピンと来ないのは元の世界のせいかな」
牽制を目的としてまずは1発。
弾丸は宙を疾駆し、先行していたリーダーの足元を穿った。
たたらを踏んでリーダーは止まる。
しかし、リーダーの身体を壁として数羽のコケコッコが左右へ分かれて加速した。
地面を抉り、砂煙をあげながら迫るコケコッコの群れにリディアや葵の対応は追いつかない。
「あーごめんルナール! 手離せないから私のカバー宜しく!」
生きたコケコッコを縛り上げ、ルーキスが叫んだ。
「あぁ、任せてくれ」
当然、とばかりにルナールは前へ。
突進の勢いが乗ったコケコッコの蹴りを、交差した腕で受け止めた。
イルマの蹴りがコケコッコの胴を撃ち抜いた。
骨の軋む手応えを感じ、コケコッコは動きを止める。イルマはその首を掴むと思い切って後方へと放り投げた。
仲間の敵討ちだろうか。
襲い掛かって来た1羽の蹴りをしゃがんで回避。
ひらり、と金の髪が靡いた。
しゃがんだ姿勢のままイルマは、顎を狙って拳を放つ。
「ったく、イレギュラーズでさえこんなに手こずる猛獣に一般人が挑もうというのか、生きた心地がせん」
コケコッコの身体が宙へ浮いた瞬間を狙い、さらにブローをもう一撃。
続けざまに2羽のコケコッコを戦闘不能に追いやったイルマだが、直後背後からの奇襲を受け、体勢を崩した。
舌打ちを零したイルマだが、不安定な姿勢のままに身体を捩ると、コケコッコへ向け蹴刀を打ち込むのだった。
リュコスの喉へ、コケコッコの足が突き刺さる。
血を吐き、苦悶の表情を浮かべたリュコスはしかし、空気に溶けるようにして消えた。
「ぐぬぬ……油断のならないお肉だ」
それはリュコスの作り出した幻影だ。
幻影を蹴ったコケコッコは困惑している。その隙を突いて、リュコスは跳んだ。
えいや、とばかりに放った爪撃がコケコッコの後頭部へと命中。
意識を失い倒れたコケコッコの足へ、素早く縄を結びつけると全速力で後方へと駆けていく。
「……急いでルーキスに捌いてもらおう」
目を覚ませば、コケコッコは鳴くだろう。
すると、群れの仲間たちが一斉に駆けつけてくるのだ。
通常のコケコッコはともかく、リーダーの相手は骨が折れる。
「……わぁ」
駆けるリュコスの眼前に、バサリと大きな音を鳴らして落ちた影。
それは2メートルを超えるサイズのコケコッコだ。
「ぼくが狙うのはお肉にする方!」
ボス・コケコッコの相手などしている暇はない。リュコスは姿勢を低くして、ボスの真横を駆け抜ける。
しかし、ボスは冷静にリュコス目掛けて太く長い脚を振り上げたではないか。
タイミング、角度、ともに完璧。
まともに喰らえば、骨や内臓がイカれるだろう。それほどの速度と力の籠った蹴りだった。
ボス・コケコッコの蹴撃を葵は同じく蹴りでもって受け止めた。
「ちと厄介だが」
ミシ、と骨の軋む音。
拮抗できる時間は少ない。急ぎ、リュコスはその場を離れて捕えたコケコッコをルーキスの元へと運んでいく。
後を追おうとしたボスは、しかし葵に阻まれた。
「美味いメシの為だ、気合入るぞ」
ボスの脚へとローキックを叩き込み移動を牽制。
コケコッコたちの蹴りは確かに強烈であるが、葵とて負けたものではない。
伊達や酔狂でエースストライカーを名乗っているわけではないのだ。
ボス・コケコッコも蹴りを交わしてそのことを理解したのだろう。ならば、とばかりに空気を吸い込み、耳を劈く雄叫びを上げる。
「コケコッコォォォオォオオオオオオオ!」
響き渡る大音声が葵の身体を撃ち抜いた。
強化を剥がし、意識を混濁させるほどの大音声は、けれど淡い光のベールに阻まれる。
「ここで足並みが崩れたらグダグダになるだろうからね」
戦場の端に立ったヨハンによる支援。
これ以上ないというタイミングで行使されたのは偶然ではない。
「目先の治癒よりここぞの治癒、これが勝利の方程式!」
葵とボス・コケコッコが蹴り合いを始めたのを確認し、ヨハンは視線を素早く左右へ走らせた。
「痛い痛い痛い!? この子達活きが良すぎます!? み、皆さん、できるだけ急いでくださいー!」
「……前衛諸君、頑張ってくれたまえ」
悲鳴を上げるリディアへ向けて、回復術を行使する。
擦過、打撲、骨の罅。
コケコッコの群れに襲われて、リディアはすっかりズタボロだった。
それでも彼女は剣を構えて立ち上がる。
「全ては美味しい鶏肉の為! やってやる、やってやりますとも!!」
迫るリーダー・コケコッコへと視線を向けてリディアは吠えた。
目的数のコケコッコは、既に捕獲したようで、ルーキスとルナールは撤退を開始している。
2人が逃げ切るまで、時間を稼ぐ……存外にそれが手間なのだが、幸いにしてリディアはコケコッコを引き付けるスキルを身に付けていた。
名乗りをあげて、威嚇のポーズを決めて見せれば、コケコッコたちは一斉に彼女へ襲いかかった。
泥と血と汗に塗れた哀れな姿。
無黒は悲鳴を上げながら、コケコッコの群れを仲間たちの元へと牽引していく。
「ぅぅぅうううおおおお助けっすよおおおおお!」
いつの間にか、無黒を追う群れは2つになっていた。40羽を超えるコケコッコに追い立てられて、心身ともに限界が近い。
「こっこどぅるるぅぅう!」
怒りの籠った雄叫びと共に、コケコッコが無黒へ向けて跳びかかる。無黒は素早くその場に身を伏せ、コケコッコの蹴撃を回避。
がら空きになったボディへ蹴りを叩き込むと、群れから1羽を弾き出す。
弾かれたコケコッコは地面を数度、バウンドし……。
「軽い訓練代わり……のつもりだったんだがな」
待ち構えていたイルマによって、意識を刈り取られるのであった。
●コケコッコ、羽ばたく
2つの群れから、それぞれ10数匹のコケコッコを狩った。
リーダーとボスを仕留めないこと。
コケコッコの群れを半数以下に減らさないこと。
以上の条件を遵守するために、それなりの代償を支払った。例えば、特に多くのコケコッコを相手にした結果、イルマやリディアは大きな傷を負っている。
また、その間、群れを引き付け続けていた無黒の消耗も大きい。
「……俺、とうぶんはチキン食べれそうにないっす」
パタン、と地面に倒れ込み、無黒は弱々しく告げる。
作戦通り、アイルビーバックを果たした無黒だが、彼はとっくに限界だった。
26羽。
現在捕獲したコケコッコの数だ。
「……うわぁ」
後衛へと回収された無黒は思わずといった様子で、そんな声を零す。
「いやーちょっとショッキングかも、慣れてない子は見ないようにネ」
そこにいたのは、木にぶら下げられた首の無いコケコッコたち。ぼたぼたと零れた血で、地面が赤く濡れている。
奇妙なほどに手際よく、コケコッコの処理を続けるルーキスへ、無黒は「マジか」とでもいいたげな視線を向けた。
「トラウマにならないといいねー」
にこりと笑うルーキスの、白い髪は斑に紅く濡れていた。
イルマの拳と葵の蹴りが、リーダー・コケコッコの胸元を撃った。
よろめくリーダー・コケコッコだが、直後、盛大な雄たけびを上げた。
鼓膜を破るほどの大音声を真正面から浴び、イルマは思わず耳を塞いだ。耳を押さえた指の間からは、一筋の血が滴っている。
「こっけぇぇぇ! こっこっこっこ!!」
がら空きになったイルマの胴に、リーダーの蹴りが突き刺さる。
血を吐き、イルマは白目を剥いた。カウンター気味に放った拳は、リーダーの嘴を殴打する。
「こけっ!?」
「これだけ骨を折ったんだ……終わったら、いい肉を食べたいものだな」
そう呟いて、イルマは意識を手放した。
しかし、イルマは最後に見事、リーダー・コケコッコに大きな隙を作ることに成功している。
顔を上にあげたリーダーの顎へ向け、葵は蹴りを撃ち込んだ。
「重っ……ニワトリっぽいってもやっぱ魔物っスね」
頭を下に向けた上段蹴り。
サッカーで言うところのオーバーヘッドキックである。
コケコッコの群れで、最も厄介な相手といえばボス・コケコッコに違いない。
種の保存のため狩ることは出来ないが、だからといって無視するには強敵過ぎる。必要数のコケコッコを捕獲するためには、誰かがボスを抑えなければならないわけで……。
「あっ! こら、やめ……僕を狙うのはやめろ!!」
成り行き上、現在はヨハンがボスに狙われていた。
自身に対して治癒を施し、必死に逃げ回る姿はあまりに悲惨だ。本来、ヨハンの受け持つポジションは後方支援。敵の最高戦力を身体で受け止める者を、後ろで支える役どころだ。
「これっ! 無黒さんと勘違いされてますね!? 背丈? 背丈ですか?」
なんて。
事実に気づいたところでもはや、逃げ回る以外に術はない。
「ちゃんとお肉にできたらその分わけてもらえるかな……くれるよね?」
「残念ながら、コケコッコはダメらしい。だが、帰ったら別の丸焼きが欲しいとルーキスには言っている。よければ食べに来るか?」
コケコッコを満載した木箱を抱え、リュコスとルナールは逃走を開始していた。
つい先ほど、必要数のコケコッコは狩り終えた。あとは無事に、森を抜けてコケコッコを依頼主に届けるだけだ。
箱詰のコケコッコへと、熱い視線を落とすリュコスへ、淡々とした調子でルーキスは声をかける。
感情の起伏が薄く、ともすれば冷徹にも見られかねないルナールであるが、その実、存外に面倒見のいい性格をしているのであった。
「輸送チームの撤退、確認しました! 皆さん、撤収! 撤収ですよ!」
コケコッコの群れを引き付けながら、リディアは叫ぶ。
イルマを引き摺る葵、げっそりと疲れた顔をしているヨハンと無黒が「ようやく」といった様子で早々に撤退を開始した。
「……だいじょうぶですか?」
通り過ぎ様に、ヨハンはリディアへ治療を施す。
これでもうしばらくは、コケコッコの相手もこなせるだろう。
「えぇ、私の本分は元々耐久受けですから!」
姿勢を低くし、正眼に剣を構えたリディアは決意の籠った眼差しでそんなことを言う。
「はー、久しぶりにスッキリした……」
最後に、晴れやかな表情をしたルーキスが撤退していくのを見送って、リディアは1人、コケコッコとの戦いへと向かう。
それからしばらく。
森の外で待つ仲間の元へ、傷だらけのリディアは帰還した。
最終的に捕獲したコケコッコは37匹。
最低ラインの30よりも多い数に、依頼人は大喜びであったという。
「必要であれば買いに来るといい。特別に3割引きで売ってやるとも!」
なんて。
上機嫌な老商人は、良い笑みを浮かべそう言った。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
皆さんの奮闘の末、無事にコケコッコは必要数を確保できました。
おかげで今年の冬も、美味しいコケコッコが食べられます。
好物なんです。
本当にありがとうございます。
また縁があれば別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
コケコッコ×30~50の確保
※コケコッコは脚が早い。生け捕りにするか、相応の知識に則って〆なければ、すぐに肉が悪くなる。
●ターゲット
・コケコッコ
白か茶色の体毛。
黄色い嘴。雄の個体は燃えるようなトサカを備える。
飛行できないが、鳥に似た魔物。
肉は非常に美味い。
コケコッコの特徴は以下。
・脚力が異常に高いこと。
・群れで行動すること。
・1つの群れは20~30のコケコッコによって構成される。
・群れの仲間が襲われていれば救けに行く。群れ以外の個体が襲われていれば、逃走に移る。
コケコッコの攻撃には【致命】【必殺】が付与されている。
・ボス・コケコッコ/リーダー・コケコッコ
コケコッコの変異個体。
ボス・コケコッコは1つの群れに1体。体長は2メートルほど。
リーダー・コケコッコは1つの群れに1~2体。体長は1メートルほど。
通常のコケコッコよりも強く、勇敢である。
また、ボス&リーダーの鳴き声には【ブレイク】【混乱】が付与されている。
蹴撃:物近単に中~大ダメージ、致命、必殺
雄叫び:神中範に小ダメージ、ブレイク、混乱
●フィールド
幻想郊外のとある森。
コケコッコが多く生息している。
森の中央には湖と草原が存在しており、付近には幾つもの群れがいるはずだ。
※日暮れ以降、コケコッコは姿を晦ますだろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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