PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<蒼穹のハルモニア>例え、世界が別つとも

完了

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 我らは共に在るべしと。
 姿形が異なれど、永劫の別離など我らの前には存在はせず――

 電脳世界は0と1で出来たかりそめだった。その外見さえもユニークに自らが変化を齎した。
 美しい娘子の姿を借りる物も居れば憧憬を満たす者も居る。愛らしきキャラクターに変化をする者に、悍ましき怪物に成り得る者も。
 それは現実(リアル)と電脳世界(アバター)による解離であった。
 故に、現実に目を向けず、日々を謳歌する者にとっては楽園で。
 現実に逢いたい者が居れば、それらへの帰還が叶わぬP.P. (p3x004937)にとっては監獄であった。

 それが、P.P.と呼ばれた『少女』の胸中そのもの。
 不意に訪れた親友達との別離は、彼女にとっての驚愕だったのだろう。
 親友達。どのような困難にでも手を繋いで進んでゆくという希望であった。
 蒼穹の瞳を持った親友達は歌うように生を謳歌する。
 彼女が帰還出来なくなったことをSiki (p3x000229)とGone (p3x000438)も『現実』では聞き及んでいた。
『こちら』での彼女のことは知らない。故に、『こちら』で彼女を――親友のリアを探そうものなら、広大な世界を更に隔てて手も届かぬと言う不安ばかりであった。
 シキも、サンディも彼女を無理に探し出すことはしないだろう。
 それは信頼とも呼ぶのかも知れない。屹度、彼女ならば黒幕を『ぶん殴って』でも出てきてくれるはずだから。


「ごめんねえ。あのね、お仕事(クエスト)一緒に行けなくなっちゃって!」
 申し訳なさそうにP.P.に頭を下げたのは『春の魔術士』スノウローズ (p3y000024)。所謂、中の人バレ最速を決めたバーチャル美少女である。
 華やぐ春色を纏っている彼女は申し訳なさそうにちら、とP.P.を見遣る。猫のような彼女が拗ねてしまわぬかを確認したのだろう。
「忙しそうだものね。いいわ」
「ほんと!? それでね、ぴーつーちゃん。私の代わりにお仕事手伝ってくれる人いないかなってクエスト参加の募集をしてみたんだけど」
 こそりとクエストボードを伺うスノウローズに倣いP.P.も其方を一瞥する。黒き外套に包まれたモンスター然としたアバターがクエストボードに釘付けなのだ。
「彼とか……」
「え……」
「あ、ほら、でも……」
 その背後からクエストを確認して首を捻っている竜の少女が見えた。鮮やかな紫苑の髪に、現実の親友の面影を感じさせる可愛らしい少女だ。
「あのこはSikiちゃんかな。それからGoneさん……って、ぴーつーちゃんどうしたの?」
 しき、と呼ばれたアバターにどきりと胸が高鳴ったのは屹度、親友と同じ名であったからだ。
 まさかね、と息を呑んでから「じゃあ、二人とクエストは行っておくわね」とP.P.はスノウローズに手を振った。
「ああー、ぴーつーちゃん、報酬は」
「分けないわよ」
「けちぃ」
 拗ねるスノウローズに小さく笑って、P.P.にとっての『はじめまして』を二人へ。

 ――かりそめの世界で、かりそめの体で。
 互いに正体も知らないけれど。この一期一会を楽しむのがゲームだから。

 クエストボードに貼られていたのは数日間のキャラバン護衛クエストであった。
 時間の余裕があるP.P.はスノウローズも日々せわしなく走り回っているからと納得して「よろしく」と二人へと向き直る。
 伝承から航海へ向けてのんびりと荷馬車を走らせるクエストでは野営を行い、賊を倒しながら三日ほどかかるらしい。
「すまないねえ」
 肩を竦めた商人NPCは説明口調でクエスト内容を説明してくれる。
「実は、伝承から航海へ続いている道に山賊がよく出るようになってね。モンスターの出現もあるって噂なんだ。
 君たちには申し訳ないけれど、三日の間、同行して欲しいんだ。寝泊まりも荷馬車で行うことになるが、その辺りは納得してくれると嬉しい」
 報酬はそれなりに。伝承をスタートして潮騒の航海にまで辿り着くまでののんびりとした旅だと認識すれば良いという。
 問題は何時、山賊やモンスターが襲ってくるかが不透明である事だけだ。
 三人で協力してこなして欲しいと願う商人に受諾ボタンを押したSikiは「よろしく」と微笑んだ。
「……」
 静かに佇むGoneはモンスターとして認識されなかったことに安堵しながら出立の準備を整える彼女たちの背を眺めていた。

GMコメント

 リアさんが行方不明時の時系列でのシナリオです。
 リクエストありがとうございます。例え、世界が皆さんを別つとも。必ず巡り会う運命の悪戯に乾杯を。

●目的
 クエスト『旅は道連れ』の攻略

●クエスト『旅は道連れ』
 皆さんが受ける事となったクエストです。伝承をスタートし航海を目指します。
 約3日程度の旅です。荷馬車に揺られてのんびりとした風景を楽しめるクエストとなっています。
 クエストのポイントは『積荷』です。積荷を狙うモンスターや山賊が時折クエストポイントに発生します。
 其れ等を退けて出来る限り『積荷』を護って下さい。積荷を守り切り、キャラバンが無事にゴール地点の航海へ繋がる片田舎の街へと辿り着いた時点でクリアです。

・『積荷』
 5ポイントが付いています。奪われる、損傷することで1ポイントずつ減少していきます。
 0ポイントになった時点でクエストが失敗してしまうので注意してあげて下さい。

 基本的には『まったり』とした旅を楽しんで頂けるシナリオです。戦闘には重点を置かなくても大丈夫です。
 皆さんは『相手が誰だか知らない状態』からスタートします。
 現実世界では親友ですが、この世界では見知らぬ他人なのです。RPを楽しみながら、クエストクリアを目指して下さいませ。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。

  • <蒼穹のハルモニア>例え、世界が別つとも完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年11月13日 22時21分
  • 参加人数3/3人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(3人)

Siki(p3x000229)
また、いつか
Gone(p3x000438)
遍在する風
P.P.(p3x004937)
いとしき声

リプレイ


 穏やかな風は現実とも変わりなく。平穏を絵に描いたような長閑な風景を眺めながら『プロトコル・ペルセポネー』P.P.(p3x004937)はクエストデータを指先で弾いた。音を立てて閉じたウィンドウにはMAPデータも付随している。
「経路としてはガブリエル様……こほん、バルツァーレク領を行くのよね。
 そしたら、途中にセキエイって言う街があるはずだから、そこで色々準備しましょうか」
 振り返るP.P.の空の色の瞳は勝ち気な気配を纏わせて。頷いた『青の罪火』Siki(p3x000229)の傍らで、何処か居心地が悪いと肩を竦めてみせる『遍在する風』Gone(p3x000438)はMAPデータを眺めるふりをした。
「……プレイヤー、ダと、言ったガ……気にな……か、……ラ……隠れ……トシ……ウ……」
 姿をSikiの陰へと隠したGoneは非実体化する。己の姿がR.O.Oのエネミーデータに酷似していることを知っているのだろう。『囁く風』の言葉を借りる前に、宵闇に溶け込んだその姿へとSikiはしゃがみ込み「おーい」と声を掛けた。
「セキエイに寄るらしいよ。何か必要なものは?
 イチオウ、セキエイの街で食べ物とか毛布とか色々、必要なものは買っていこうと思うんだ」
「トクに……ソレだけで、良い……」
 呟いたGoneにSikiは聞こえているなら良かったと微笑んだ。呼び出した霊魂をマウント代わりに腰掛けていたP.P.はそんな二人の様子をじいと観察し続ける。
「ああ、P.P.、おやつはいくらまで?」
「遠足じゃなくてクエスト――仕事よ?」
「遠足じゃない? それは残念。ま、お仕事だからねぇ。きちんと必要なものをそろえていこうか。
 でも、セキエイまでは少し距離もある。……あ、美味しそうなりんごだ! 買ってっていい?」
 走り出そうとするSikiの影から姿を見せて「待った」と声を掛けるGoneは如何したモノかとP.P.を振り返る。そんな様子も眺めては「うーん」とP.P.は呟いた。
 当初はと言えばスノウローズと共に簡単なクエストを受けてのんびりと過すつもりであったP.P.。彼女はこの世界に囚われ、時間を持て余している状況だ。敵が動くまで、その間に斯くも愉快な箱庭での生活に慣れ親しんでおきたかった。合流する事となった二人の様子にP.P.は妙な既視感を覚えずには居られなかった。
「りんご、1つだけよ」
「分った。君は必要かい? Gone」
 果物屋の軒先でリンゴを一つ掴み取ったSikiが幸せそうに笑みを浮かべる。その笑顔に感じた既視感の意味を理解してP.P.はくすりと微笑んだ。
 まるで幼子のように微笑んだ笑顔は甘やかな色彩に彩られる。彼女のライラックの髪が風で揺らぐ様さえも愛おしい。
「2人ともお喋りしたいな。トランプ持ってきたんだ、よかったらやろうよ。ふふ、私ポーカーフェイス得意なんだよ!」
 荷馬車へとリンゴと一緒に乗り込んだSikiにP.P.は「そろそろ出発よね?」とクエストNPCへと問いかけた。
「あ、トランプやるの? だったらあたしもやるわ! 貴方達の事、もっと知りたいからね!」
 軽く答えたP.P.は『ネコロマンシア』の霊魂に「警戒宜しくね!」と声を掛ける。幼い少女は靱やかな黒猫のようにするりと荷馬車へと乗り込んだ。
「……」
 さて、如何したものかと途惑うGoneのそのシルエットを確認してからクエストNPCが「乗った乗った!」と軽やかに。
 その声音を聞きながらそろそろとGoneは荷馬車へと乗り込んで。見張り番は今は必要なさそうだ。トランプを手に笑みを浮かべるSikiに観念したというように骨の指先がカードを一枚引いた。


 がたり、ごとり。音を立てて荷馬車は進む。もうすぐセキエイの街だろうか。案内は任せてと笑ったP.P.にGoneとSikiは頷いた。
「P.P.は詳しいの?」
「まあ、それなりに。あなたたちよりかは詳しいと思うわ。
 ……まあ、何事もなく着ければ良いけどそうとも行かなさそうだから。2人とも、準備は?」
 立ち上がったGoneを一瞥してからP.P.は目を伏せる。顕現したのは魔鎌タナトス、彼女の『爪』となる獲物。
 準備は完了していると言いたげに身を揺らがせたSikiは蒼く色づく剣を引き抜いた。透き通った刀身は彼女の瞳のようにきらりと輝いて。
 空を踊るように飛び出した竜の少女はアタッカーである2人を支えてみせると襲い来る山賊を見遣った。
「どうやら襲うべき相手を間違ったみたいだね?」
 揶揄うように笑ったSikiが前線へと飛び出した。青龍はその息吹に誘いを掛ける。こころを揺らがせ、惑わせて。決して逃がさぬ強き気配。
 DEMON――それは欠落した『A』がGoneへと適応したIDEAscriptの鎌。データをも切り裂くその刃は勢いよく振り回される。
 名付けて換気扇。鎌鼬は周辺を薙ぎ払う。ただ、黙した儘に鎌を振るう様子はエネミーのようにも思えてP.P.は小さく笑った。
 地を蹴った彼女は煉獄の焔を放つ。斬撃に乗せられた憎悪は自らが焦がれる天界を思わせて。恋い焦がれた世界は決してひとごろしには行き着かぬ場所。地獄の業火に身を焼かれても、手を伸すことは違いなく。
「二人とも、我が儘を言ってもいい?」
「……アあ」
 頷くGoneは鎌を握り直す。P.P.はセキエイの近くで人を殺したくないと囁いた。Sikiは緩やかに頷いて。誰かの命を奪う行いは、恐ろしいことだから。
「分った」
「……ありがと」
 首を振って、Sikiは盾となる。手を伸して身を挺す。二人の為ならば痛みだってお安いご用だと。笑う唇は楽しげに。
(……現実ではいつも前のめりな私は支えられてばかりだから。
 この2人の面影がどうにも大切な君たちと重なるのは、偶然? それとも……)

「Siki!」
 そう呼んだP.P.の声音に、Sikiは目を見開いた。前を進んだ射干玉の髪。手を引いてくれる鮮やかな臙脂色。
 2人の、青い瞳が思い返されてSikiは息を呑む。
「うん! 分った!」
 どれだけ離れたって。君たちならば見付けられる。0と1、データで構築された体であったって。その心は変わらないから。
 逃げ果せる盗賊の背を眺めながらP.P.は満足げに2人を振り返った。
「ふふ、初めて出会うはずなのに、面白いくらい連携が取れるのね、あたし達」
 揶揄うような彼女の声にGoneは肩を竦めた――それ以上に何も返せないから。


 セキエイへと辿り着いて、物資を購入し、一度目の夜がやってきた。荷馬車は傷つかず、代わる代わるの安全確認や偵察が効を為す。
 スノウローズと二人きりだったらこんなにものんびりと出来なかったとぼやいたP.P.にGoneは「だろうナ」と呟いた。
「ふっふっふ、今宵はシチューにします! 材料もセキエイで揃えてきたから大丈夫よ」
 鍋を手にしたP.P.にGoneは薪作りは獲物からの副産物で良いかと火をおこす。
 筋肉と呼べる代物はその肉体に存在していないが腕力ならばと設営を手伝えば、荷馬車の馬たちが水を求めるようにGoneの体を尾でばちりと叩いた。
「グ、」
「はは、Gone。馬に気に入られた?」
「……ドウ、だろ……ナ……」
 この様な外見ではNPC達に畏れられることも多かった。何とも奇妙な心地であると肩を竦めるGoneが馬たちへと水を準備している様子を眺めながらSikiは積み上がった薪へと焔の吐息を吐き出した。
「シチューはね、現実でも得意料理なの。ふふ、ただのデータなんかじゃないから――あたしの『本物』を貴方達に見せてあげる!」
「やった、シチュー! 私は大盛で頼むねぇ。P.P.の『本物』かぁ……ふふ、楽しみにしてるねぇ」
 Sikiはふと、思い出すことがあると目を細める。彼女は隠しては居るつもりなのだろうけれど、それでも『彼女』であることが分る。
 P.P.の小さな体であろうとも、性格はまるで変わらない。豪胆で、それでいて繊細で。誰よりも気遣いやさんな『だいすき』なひと。
 Sikiが目を細めてP.P.が料理を行う様子を眺めていれば「Siki、人参を切って」とお呼びの声が掛かる。
「料理は……分からン……コレなら出せルガ……」
 呟くGoneに「あー、それはデザートかしら」と女性2人は顔を見合わせた。座って待っていなさい。そんなP.P.の言葉に甘え、Goneは滞りなく続けられる夕食の準備を眺めている。
「私のアバターは現実の友人の姿を借りたんだ。角に尻尾、かっこいいでしょ。あと、青にも思い入れがあってね! Goneは? どうしてそんな格好なの?」
 楽しげにシチューを頬張りながらSikiは問いかけた。どこか知っている、それでいて大好きなシチューの味わいは心をほっと落ち着ける。
 まだまだあると鍋から皿へとおかわりを掬ってくれるP.P.に「ありがとう!」と微笑んだSikiは黙りこくったGoneをまじまじと見遣った。
「……このアバターになった理由? 知らヌ。俺は騎士を作ったハズダ。ま、化け物扱いも慣れたがナ」
「バグなのかなあ?」
「……まあ、あるでしょうね。こういう世界だもの」
 自分のアバターの理由も告げぬP.P.にGoneは小さく頷いた。和やかな時を過して、二人が眠りについた頃にGoneは今晩の夜営は任せて欲しいとそっと荷馬車を抜け出した。
 山賊の根城を見遣りながら、吹かせた風はざわめいた。音を立てる風は奇妙な気配をも孕み、皆を脅かす。山賊達の前に立っていたのは闇の外套に身を包んだ骨のモンスターであった。

 ――襲ったら呪う。


 荷馬車はのんびりと進む。モンスターの襲来はあったが、山賊による再度の襲撃はなかった。
 どうやらモンスターによる幽霊騒ぎに応えたのだろうとGoneは独りごちる。
「わ、見て――!」
 荷馬車から身を乗り出したSikiが叫ぶ。坂道を下れば、海が近づいてくる。MAPを展開すればクエストのゴール地点であるらしい。
 鮮やかな光を返した海の色彩。空を映して透き通ったそれを眺めてはSikiは「綺麗!」と華やぐ笑みをそのかんばせへと乗せて。綻ぶ花にP.P.は小さく頷いて。
「あの海に辿り着いたらクエストは終了ね」
 あと少し。がたん、ごとんとリズミカルに進む音。車輪が立てたそれさえも三人の少しの時間を愉快に彩るようで。

「さ、皆。ありがとう! お陰で、無事に辿り着いたよ!」
 定型文を思わせたクエストNPCの言葉にSikiは「よかった」と微笑んだ。P.P.は「ここから先も気をつけなよ?」とNPCへと声を掛けている。
(ピーツーの微妙に心配してそうな感じ。Sikiのこの人を怪しまない感じ。
 数年前にどっかのクォーツ院を覗き込んだ時を思い出すな。アレも今では随分前か……)
 懐旧に浸るGoneをちら、と見遣ったP.P.はゆっくりと立ち上がる。隣に立てば随分と背の差があるように感じたのはアバターの所為か。
『普段』なら、見下ろす彼女が随分と大きく見える。クエストの終了通知を余所に置き去りにしてP.P.は唇で三日月を作った。
「今回は有難うね、SikiにGone。――いえ、シキとサンディ」
「ふふ、どういたしまして。私も楽しかったよぉ。大好きな君たちとゆっくり過ごせるのは久しぶりだもん」
 まるで悪戯っ子のように微笑んだSikiへとP.P.はふ、と吹き出した。ああ、どうやら似たもの同士。分っていたのに秘密にしていたのはお互い様。
 二人の瞳がかち合って、柔らかに細められるその様子にGoneはぎょうと身を固くする。肩を跳ねさせれば風は今なら二人に届く――
「……って、知ってたのかっ!? いつから!? や、そんな気は何となくしてたけどさ。やっぱリアにゃー敵わねーなぁ。まさか、シキもか?」
 慌てたGoneは今はモンスターかどうかなんて疑う余地もない。そうして語らえば世界を隔てようとも日常が戻ってきたと感じて胸を撫で下ろす。
「え? いつから気づいてたの、って…さて、いつからでしょう? なんて。リアはいつから?」
 Sikiの悪戯めいた声音にP.P.は「さあ」と肩を竦めて。そんなの、ずっと前からだった。挨拶を交わして、クエストを受けてから。
 直ぐに二人の事が分ったのだ。まるで結ぶことのなかったリボンを丁寧に結べば、簡単に心は繋がってくれるから。優しく大切に結び上げたそれが解けぬようにと共に過ごした三日間。長閑な緑が喧噪から遠く、三人を運んでくれるから。
 P.P.の瞳に揺らいだのは静かな海のような、気配。鮮やかな空を思わせたSikiの瞳がGoneの黒衣を覗き込む。
 伽藍堂な彼の風。骨の指先はほっそりとしすぎて握り甲斐がないけれど。自身等を包み込むあの穏やかな風は彼のものだと知っているから。
「ふふ、分かるわよ。
 だって、シキはシキのままだし、サンディだって姿はそんなだけど立ち回りとか気の遣い方とかそのままだし。
 ……どれだけ、あたしが貴方達の事見ていると思っているのかしら」

 止まない雨は無い。
 明けない夜も無い。
 ハーモニーはきっと美しく響く。

 だって、見て。空はこんなにも、蒼いんだもの。

 ――例え、世界が別つとも。
 我ら、決して逸れることがなきように手を握っていよう。この蒼穹が我らを繋いでいてくれるから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度は素敵なシナリオへのお声かけをありがとうございました。
 皆さんが例え別たれたとて。手を握って進める未来がずっと続いていきますように。

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