シナリオ詳細
<Closed Emerald>もう1人の自分
オープニング
「ごめん、悪いけど……許してほしい」
白で統一された軍帽と軍服を着込んだ青年が、静かに大樹を撫でた。
翡翠国の内部に存在する大樹『エルヴィール』は、付近の町において信仰を受ける一種の土地神のような存在だった。
天高くそびえ、日の光を零しながら人々の営みを見守る、穏やかなりし大樹である。
それを、そっと撫でる青年はしかし、彼女へ信仰を持つ者に非ず。
「これも、僕の宿命なんだ」
言うや否や、青年は腰に差した太刀を振り抜いた。
深い黒色のエフェクトを纏った刀身は、いっそ美しくさえある洗練された動きで大樹を切り刻む。
激しく痛んだ大樹の樹皮がどす黒く変色すれば、血のようなものがあふれ出る。
軋む大樹が、悲鳴を上げ――内側から、ソレが姿を見せた。
黒い血のようなそれは、のたうち回り、やがて大樹を3分の1ほどにまで切り詰めたようなサイズ感でまとまっていく。
纏まり、形成し、再構築して姿を見せたのは、蔦ないしは樹木で出来た巨人のような何か。
「恨んでくれていいよ」
そう言って青年は自嘲気味に笑う。
「さあ、行くといい。全てを薙ぎ払うか、その怒りが潰えるまで君は止まらないはずだ」
言った青年に向けて、軋みを上げた巨人が足を振り下ろす。
しかし、それは青年の腕一本で食い止められてしまう。
「君じゃあ僕を傷つけることはできない」
緩やかに答え、青年はその場で跳躍する。
「さて……とはいえ、1体じゃ直ぐに倒されるか……」
少しばかり考えた様子を見せて、青年は再び跳躍。
巨人を迂回するようにして家屋の屋根を踏破すると、そのまま太刀を振り払う。
すさまじい速度で放たれた斬撃が、再び大樹に大きく傷をつけた。
どろりとふたたび零れ出た血のような何かが、今度は巨人の半分ほどのサイズの樹木で出来た蜥蜴のように変質する。
「貴様! そこで何をしている! ……お前がエルヴィールを傷つけたのか!」
その声を聞いて、青年は眼下を見下ろした。
そこには、ロングボウを構えている男が3人。
それ以外の9人ほどが巨人と蜥蜴を抑え込もうと抵抗しているのが見えた。
「意外と早い到着だね、森林警備隊。僕は、マーク……マーク。『金星天』、マークだ」
事も無げに、青年――マークが森林警備隊へと己が名前を告げた。
●
緊急クエスト『Closed Emerald』――画面上に凛然と浮かぶのは、その表示だった。
一時的に『完全封鎖』にまで陥った『翡翠』――混沌世界における『深緑』に相当する国家のサクラメントが、また突如として開放された。
それは、『国境完全封鎖』を待っていたが如く暴れまわった翡翠の民にとっての敵――『余所者』と呼ばれていたに対しての、穏健派な翡翠民からのSOSであった。
本格的に姿を見せた『バグNPC』なる存在。
彼らはこの世界がゲームであることを明確に理解し、その上で自らの野心、目的をもって活動する者達である。
しかも彼らは、ある意味で『バグ』の名に相応しく、強力な能力を持っていた。
そんなバグ陣営において、バグNPCの一人である『ピエロ』から、イレギュラーズへご褒美の如く伝えられた存在がいた。
名を『パラディーゾ』――天国篇とも記される彼らは、これまでログアウト不可状態へと落とし込まれていたイレギュラーズ達のデータを解析して新たに生み出されたバグデータとでもいうべき存在だった。
――同時、逆説的に言うのならば、『ログアウト不可能状態になったイレギュラーズのアバターはパラディーゾとして姿を見せうる』ということでもある。
「……僕が翡翠で?」
マーク(p3x001309)は緊急クエストの欄に自身の名前が記されているのを見て、思わずそう呟いた。
新たなる敵、パラディーゾなる存在。
その一角に堂々と自身の名が乗っていたのである。
「そうか、僕もログアウトできないから……」
真っすぐ見据えた文字、マークは自然と受注に指を乗せていた。
- <Closed Emerald>もう1人の自分完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年11月09日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
イレギュラーズが到着したのは、2体の『大樹の嘆き』が姿を見せ、森林警備隊がソレを押さえようと動き始めた直後だった。
「新手か! 余所者が何の用だ!」
隊長らしい幻想種が声を荒げる。
「ボク達はキミ達や翡翠の敵じゃ無い。アイツ(偽マーク)を止めに来たんだ。
ボク達は絶対に君達に攻撃しない。それを信じろって言っても無理だろうから、せめて上手く利用して欲しい」
警備隊よりも前に走りこんで、『妖精勇者』セララ(p3x000273)は声をかける。
その言葉は嘘じゃないと、背中を警備隊へと晒しながら。
セララ自身のハイバランスな在り方もあり、それでもある程度は対処できるから――ではない。
言葉では信じられないことは分かってる。
だからこその態度で示すのだ。
「アイツ(偽マーク)は強い。ボク達が倒れたらきっとこの場の誰も止められない。だから君達にとって合理的な行動を取ってほしいんだ。
ようするに、ボクらを壁や盾として見て貰っても構わないよ! ってこと!」
それだけ言って、セララは巨人の前に立つ。
「疑う気持ちはわかる、にわかに信じられないのも……だから、私達の行動を見て判断してほしい」
輝く光晶翼に薬品をしみこませ、『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)はそれらを今にも暴れ出さんばかりの蜥蜴を射程に収めた。
医神の眷属として――何より、樹木を神体とする奉戴する神のことを考えれば、イズルはこの国に対して一種の親近感のような物を覚えている。
「いけ――!」
風を切って、一斉に翼から羽が射出されて奔る。
連続して樹木の巨人に突き立つ羽は薬品の効力により、その身体へ神経の麻痺を伝播する。
蜥蜴はぶるぶると痺れ出す。
「バグNPCに巨人にトカゲ、こいつぁ強敵そろいにゃー。
おまけに中立NPC軍もあわさって下手したら三つ巴、難易度ハードモードにゃね!」
燦然とクエスト欄に記されていた難易度の表記を思い起こしながら、『ニャンラトテップ』ネコモ(p3x008783)は笑う。
「やりがいがあるってもんにゃ!」
もちろん、おじけづくわけなどない。
全身のバネを活用して、爆ぜるように巨人の足元へと肉薄。
「いくよにゃー……昇――猫――拳!」
踏み込み、身体を捻りながら飛びあがる。
サイズ感の違いで顎よりもというよりも鳩尾へと突き立つ形となったアッパーカットが、巨人の身体へと食い込んでいく。
『ォォォ!!』
イズル、ネコモの連撃に巨人が苦悶の声を上げた。
「……、なんともまあ、面倒な事になったのう。
新緑と翡翠、様々な所に相違があろうと、やはり根の部分は同じなのやもしれぬ、か」
戦場を見渡して、『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)はぽつりと。
「まあ、まあ、黙って蹂躙されるのを鑑賞する趣味があるわけでも、あの者達と何かあった訳でもなし、助けに入ろうかの」
タオの周囲に蒼炎の玉が姿を見せる。それらはタオの指示に従って一斉に巨人の方へ突っ込んで行く。
一斉に引火した火の玉は巨人の身体を包み込むようにして蒼い火柱と化して天へ向けて立ち上がる。
苛烈な炎は巨人の芯にまで浸透し、より一層と熱量を上げる。
『ォォォォ』
憤怒の色を籠めた巨人の雄叫びが戦場を劈いて、近くにいたネコモめがけて拳が振り下ろされる。
巨人の肉体が解け、蔦状に変じれば、伸長して殴りつけてくる。
強烈な衝撃に、ネコモの身体がぐらりと揺れ動く。
『ギャァァ!!!!』
蜥蜴が身体を揺らしながら雄叫びを上げる。
そのまま、セララめがけて突撃を仕掛けていく。
突撃しながらセララをがぶりと食らった蜥蜴は勢いを殺しきれずその場ですっころんだ。
「ああ、なんて可哀想に。ごめん、僕が君達を呼び起こさなければそんなにも苦しむことは無かったろうに」
『金星天』はそう憐れむように笑う。
言葉は、声色は正しく憐れみと嘆きに満ちている。
けれど、その表情は笑みは歪み、本当はそんなことを思っていないことは明らかだった。
「僕は訣別の騎士・マーク! 翡翠と皆を助けに来たイレギュラーズだ!
イレギュラーズと同じ姿で大樹を傷つけている奴らが、翡翠の真の敵! 軍服姿で僕と同じ顔のコイツも、その一味だ!」
その姿をみとめ、『マルク・シリングのアバター』マーク(p3x001309)は剣を自分の姿をしたバグへと突きつける。
「この敵は僕らが撃退する。僕らを信じられなくても、アレを倒すまでは『敵の敵』と認めて欲しい。アレを倒した後なら、君達に倒されたって構わない。皆をこんな所で死なせたくない!」
全く同じ顔を見て、森林警備隊がどよめきを見せた。
「僕か」
金星天の前へと走り抜けて、マークは剣を振り下ろした。
美しき軌跡を描いた剣はスムーズに金星天の身体を裂いた。
「な……」
「この剣なら、お前を倒せる!」
驚きながらも余裕を隠さぬ金星天は、間合いを整えて太刀を構えてきた。
「神光に正義と全く滅茶苦茶な状況が続きますねっ!?
いえ、考え事は今は後回しです。まずは翡翠の方々を助けませんと!」
自らへと科すは異界の自分の影――『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)は自身を強化するや、魔術を行使する。
「迸る――インタラプト!」
杖の先端より放たれるは電流。
音を立てながら放たれた一条の電撃が蜥蜴に炸裂すると、辺り一帯へ向かって蛇のように余波が迸る。
もたらされた電流は蜥蜴の身体を連続で打ち据え、その身体を痺れさせていく。
「ごめんね、キミはあとで!」
セララはその場でおやつをもぐもぐした後、口の中から這い出るや、巨人めがけて聖剣を向ける。
天雷を尾田政権は真っすぐに斬撃を振り払う。
攻撃を受けた巨人が、ぐらりと大きくたじろいだ。
「ほんと、あっちこっちで面倒な事を起こしてくれたものね、あの連中。
そっちがその気なら、とことん付き合ってやるわ」
身体を少しばかり屈め、『プロトコル・ペルセポネー』P.P.(p3x004937)は駆け抜けた。
全身のバネを駆使しして、一気に肉薄。
「……あなた達は何も悪くはない。けど、ごめんなさい。
このまま放っておくと、きっと大きな被害を齎せてしまうでしょう。
翡翠は必ず救うから……今は大人しくして置いて頂戴!」
ひしひしと感じるのは怒り、悲しみ、屈辱。
その全てが理解できる。
跳躍から巨人の身体に着地する刹那に鋭利な爪を振り払い、通り抜けてはもう一度。
それを繰り返した後、一度後退。
砂埃が舞い、地面が削れていた。
「なんで私が翡翠を救わなきゃいけないんだ……? どっちかというと敵対してた側だけど……
まいいや! きうりは細かいこと考えない!」
ペキッと自分の身体からきゅうりを引っこ抜いた『雑草魂』きうりん(p3x008356)は、それを蜥蜴めがけて放り投げた。
きゅうりを投げつけられたは顔を上げてきうりんに視線を合わせた。
「よしっ! こい蜥蜴! エサの時間だぞ!!」
挑発ともに自身の太刀振る舞いを弱く見せる。
『ぎゃぎゃぎゃ!』
その声を聞けば、蜥蜴がこちらに意識を取られたことなどすぐわかる。
●
『ォォォォォォ!!』
巨人の怒号が響く。
脚部が、腕部が蔦に変じて距離を伸ばしてやや遠い場所まで攻撃が届いていく。
『ギャオォォォ』
蜥蜴の怨嗟が響く。
目の前のきうりんを喰らうべく、食らい、抉り、薙ぎ払っている。
イレギュラーズの激闘は続いていた。
最大の懸念事項というべきパラディーゾの存在は、マークの手で抑え込まれている。
だが、2体の大樹の嘆きは量よりも質と言わんばかりの猛攻を繰り返してきていた。
生み出したのがパラディーゾという存在だからなのか、産み落とされた大樹の嘆きのスペックもかなりの物だ。
一つでも何かを間違えて、最悪の連鎖が起きたらデスカウントが増えかねない。
そんな戦闘が繰り広げられていた。
それでも恐らくはパラディーゾと真正面からやり合うよりはましなのだろう。
「巨人よ、キミも落ち着くことだ」
イズルは蜥蜴へとぶちまけたのと同じ薬品を染み込ませた光晶翼を巨人へと射出。
まばゆく輝かせて奔る毒入りの羽は、全てが巨人へと突き立ったように見える。
そのまま神経性の毒は巨人の身体に突き立ち、蜥蜴同様に痺れ毒を齎さんと試みる。
しかしながら、抵抗能力が強いのか、巨人の動きは止まらない。
「結構痛いにゃーでも、もうこの際、数回の死に戻りなんて気にしないにゃ!」
強烈な一撃を浴びたネコモは自らを奮い立たせると、再び走り出した。
握りしめた拳を、渾身の力を籠めて殴りつける。
メシリと、木の軋む音がして、巨人が呻く。
直後、巨人が足元を薙ぎ払った。
「蒼き炎は罪科の証」
再び灯した蒼い炎がタオの周囲をさまよっている。
タオは意識を集中させて炎の玉を構築して、一気に蒼炎弾を叩きつけていく。
火の玉は巨人を焼き付け、巨人の片腕を焼き払う。
更に追撃とばかりに火の玉をぶちまけていく。
「うお!? まずった……!」
きうりんが声を上げた。
振り返れば、ちょうどきうりんが宙を舞うところだった。
文字通り宙を舞った理由は蜥蜴がきうりんに噛みついて上へ放り投げたせいだ。
「私は何度だって蘇るよ!」
自由落下をつづけたきうりんは文字通り、蜥蜴に食べられた。
ログアウトの文字が表示され、続いてクールタイムのカウントダウンが数字を刻む。
「――人型を取る以上、弱点は決まってます!」
カノンは魔力を杖の先端に集束させていく。
狙うは巨人の足元。――脚部。
術式が展開され、折り重なっていく。
充足した魔力が爆ぜるようにして戦場へと放たれる。
複数の魔弾は巨人の足部分へと連続して突き立って行った。
「きうりん……あとで褒めてあげるわ! 速くあれを止めないと」
P.P.は捕食されたきうりんのクールタイムを確かめた後、速度を跳ね上げる。
最高速度で突っ切って、巨人めがけて爪の連撃を叩きつけていく。
「――いける!」
HPのメモリがミリを刻んだのを確認して、P.P.は最後の跳躍。
突き出すように撃ち抜いた手が、巨人の心臓相当を撃ち抜き――ぐらりと身体が崩れて落ちていった。
●
巨人を討伐してから少し、イレギュラーズは蜥蜴を討伐するために動き出していた。
「復活! はいはい、邪魔邪魔ー! 蜥蜴のエサになるのは私なんだからね!」
クールタイム明け、再ログインを果たしたきうりんが再び蜥蜴の目の前へと走り出して、ウィークネスで注意を引き付ける。
『ぎゃぎゃ!』
蜥蜴の反応は上々。驚いた様子もないのは、人よりも知性がないからだろうか。
「お腹いっぱいになるまで食べていられるかな!」
全身の生命エネルギーを循環させながら、きうりんは笑う。
活性化された免疫力は、敵への反撃を担うもの。
『ぎゃぎゃ!』
「油断はできない……」
イズルは薬品を地面へと一筋滴らせた。
地面へと浸透した薬品は、術式を通して半透明の大樹を呼び起こす。
範囲全体を癒す大樹の光が、巨人との戦いで疲弊するイレギュラーズを温かく包み込む。
光に照らされ、包まれたところから傷が癒え、蓄積した毒素を取り除いていく。
「にゃははは! 元気百倍にゃー!」
癒しを得たネコモがその場で身体に捻りを加えて止まる。
「猫道ー拳!」
その手に気を集めて弾を作れば、腰を入れて重心ごと前に押し出すように、形成した気弾を放つ。
真っすぐに放たれた気弾は戦場を駆け抜けて、蜥蜴の顔めがけて叩きつけられた。
巨大な蜥蜴が、僅かにたたらを踏み、頭部に炎が散り付いてみえる。
『ぎゃぎゃあ!』
叫び声を上げた蜥蜴が、尻尾を薙ぎ払う。
大きくしなる尻尾の組織が分裂、伸長し、長くまで伸びていく。
激しい衝撃が数人を襲う。
「影よ、食らいつくせ」
タオがその言葉と共に念じると、その足元にある影が蜥蜴めがけて伸びていく。
するすると伸びた影は蜥蜴の足元付近まで近づくと、その形を狐のように改めた。
そのまま、地面から飛び掛かるようにして狐型の影が踊り、蜥蜴の首筋に食らいつく。
思わぬ角度の奇襲に、蜥蜴が悲鳴のような物を上げた。
「きうりんが抑えてくれていたのだから、決めるわ!」
P.P.はじりりと足場を踏みしめ、身を屈めて狙いを定める。
敵の挙動をじっと見据えるのは、猫のように。
ほんの一瞬の隙目掛け、一歩で跳躍、そのまま走り出す。
「大人しく――眠りなさい!」
爪が連続で蜥蜴の身体に傷を入れていく。
インパクトの都度、身体を揺らして大きな隙を作る蜥蜴めがけ、一度、二度と繰り返し、最後の一歩で間合いを開ける。
『げぎゃぎゃ』
血反吐を吐きながら荒い息を吐く蜥蜴を見て、一息ついて。
その頃、カノンの準備は終わっていた。
「巨躯による膨大な生命力もリーチも脅威ですが、的が大きくなりすぎるのも考え物ですね」
収束する魔力が杖の先に集まっていく。
鮮やかな色を放ちながら形を成した魔力を、まずは弾幕のようにして振り抜いて――余ったものに更に魔力を重ねていく。
形成される魔刃は、カノンの身すら削りながら形を成していく。
「終わらせましょう――」
そのまま、ただ横に払えば、爆発にも等しい魔力解放と斬撃が蜥蜴めがけて放たれた。
「――招雷」
突如として立ち込めた雷雲から、濃密な魔力を帯びた雷がセララの聖剣へ降り注ぐ。
「天雷――いくよ!」
激しいスパークを放ちながら、聖剣を構えて、真っすぐに前へ。
蜥蜴に対して真っ向から向き合うように突っ込んで、跳躍。
「全力、全壊! ギガ――セララブレイク!!」
それは正しく雷霆のように、上段から降り注いだ。
焼け焦げるような音と共に、蜥蜴が消滅していく。
●
身体が砕け散った。
傷が全身を駆け巡った。
身体が横に真っ二つに割れる痛みがあった。
3度、死(それ)があった。
その全てを意志だけで崩壊一歩手前に抑え、マークは顔を上げた。
握りしめた剣に力が籠る。
収束する魔力は濃く――溢れる闘志をも剣身へ集めて、マークは自分の姿をしたバグを見る。
笑みを隠さず、太刀を抜いているアレが自分なのだという。
そんなことがあるか。「ごめん」――などと嘯きながら、平気で人を苦しめられるあれが自分であるわけがない。
あるいは、現実世界における『冠位魔種』に相当するだけあり、『魔種への反転をきたしたら』――ああなるのだろうか。
そんなことを想像したこともないが――だとしたら猶更、許せない。
「同じ姿の別物だとしても……自分にだけは、負けられない!」
振り払われた自分の太刀を盾で防ぎ、渾身の力を籠めて自分を斬り伏せた。
手ごたえは――ある。
倒せて――
「さすがに僕だけあって僕の苦手とするところは分かってるみたいだね」
――ない。
金星天の小さな呟きが聞こえた。
「大樹の嘆きももうじき倒れてしまうだろうし、悪いけど退かせてもらうよ」
間合いを一気に開けて射程外まで退いた金星天は太刀を収めると、くるりと踵を返して飛ぶように去っていった。
その姿をマークは追うことをしなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
無事、大樹の嘆きを鎮圧し、金星天を退けることが出来ました。
金星天のマークさんがこれからどういう動きを見せるのかについては、また次回。
MVPはマークさん、EXF3回分の覚悟へ。金星天を抑えておかなければ、損害はこの程度では済まなかったでしょう。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
さて、そんなわけで<Closed Emerald>2本目。
マルクさんのパラディーゾと森林警備隊、大樹の嘆きの三つ巴に介入するお話です。
●オーダー
【1】大樹の嘆きの討伐
【2】『金星天』マルク・シリングの撃退
【3】出来る限り多く森林警備隊を生存させる
【3】は努力条件とします。
●フィールドデータ
エルヴィールと呼ばれる町の内部。
多くの家屋が立ち並び、中央奥に傷つけられた大樹『エルヴィール』があります。
家屋以外は平たんな地形が多く、戦闘に支障はないでしょう。
●エネミーデータ
・大樹の嘆き〔巨人〕
巨人型の大樹の嘆き。大体6~7mほど。
巨体ゆえにブロックに複数人を必要とします。
防技と抵抗が高く、物攻も高め。
踏みつけや蹴り飛ばし、拳の振り下ろしなどを行ないます。
巨体ゆえ射程も広く、全ての攻撃が中距離相当にまで伸びます。
・大樹の嘆き〔蜥蜴〕
蜥蜴型の形状をした、3m強ぐらいの大樹の嘆き。
巨体ゆえにブロックに複数人を必要とします。
こちらは防技、反応、物攻が高め。
尻尾の薙ぎ払い、猛毒を放つ吐息、突進などの攻撃を行ないます。
薙ぎ払いは自域相当、中扇相当の2種類。
突進は【移】の中貫に相当します。
・『金星天』マーク
マークさんのデータが解析されて生み出されたバグNPCです。
バグNPCらしく、しっかり強敵です。
豊富なHP、堅牢な防技と抵抗、やや高めの物攻と比較的隙の無いタンク型です。
ある程度削られるか、大樹の嘆きが2体とも倒された場合、撤退します。
●中立よりエネミーデータ
・森林警備隊×12
ロングボウを装備するアタッカーと抑え込み用の大盾を装備したタンクで構成されています。
現時点では皆さんも外部の敵として攻撃される可能性が高いです。
接触して説得なり妥協点なりを探り、分業することをおすすめします。
●重要な備考
<Closed Emerald>には敵側から『トロフィー』の救出チャンスが与えられています。
<Closed Emerald>ではその達成度に応じて一定数のキャラクターが『デスカウントの少ない順』から解放されます。
但し、<Closed Emerald>ではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
●『パラディーゾ』イベント
<Closed Emerald>でパラディーゾが介入してきている事により、全体で特殊イベントが発生しています。
<Closed Emerald>で『トロフィー』の救出チャンスとしてMVPを獲得したキャラクターに特殊な判定が生じます。
MVPを獲得したキャラクターはR.O.O3.0においてログアウト不可能になったキャラクター一名を指定して開放する事が可能です。
指定は個別にメールを送付しますが、決定は相談の上でも独断でも構いません。(尚、自分でも構いません)
但し、当シナリオではデスカウント値(及びその他事由)等により、更なるログアウト不能が生じる可能性がありますのでご注意下さい。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『サクラメント』
今シナリオでは町の入り口に解放されたサクラメントがあります。死亡後の再ログインは可能ですが、最低でも3~6Tのロスが発生します。
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