PandoraPartyProject

シナリオ詳細

茨の館で晩餐を

完了

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・洋館への扉

 それは古びた洋館のようだった。重厚な造りの門には茨が絡みついており、外の門を寄せ付けない雰囲気が醸し出されている。
 まるで血のように赤黒く咲き誇るそれに、一人の少年が手を伸ばす。錠前の代わりを果たしていた蔦を引きちぎり、ぐっと門に体重をかけた。
 長年放置されていたのか、鉄がこすれる音は随分大きい。時間をかけて洋館への道を開き、少年はふうと一息ついた。屋根の上に佇むガーコイルを見上げ、静かに微笑む。

 少年が館に向かって歩くと、庭の影から何かが盛り上がった。ただの黒い影でしかなかったそれは、少年が館に近づくにつれて、人の形をとっていく。
 影はひとつ、ふたつ、と数を増やし、やがて両手の数ほどの人となった。

「君たちも手伝ってくれるのかい」
 少年の喉から、くすりと笑い声が零れた。

「さすがに久々のおもてなしだからね。人手が欲しかったところさ」

 影に口はない。それでも意思を主張するかのように、手が広げられる。

「人ならざる者たちが、誰かを招くパーティー。摩訶不思議な料理を用意して、酔わせて、狂わせて。こんなに楽しいこと、いつぶりだろう」
 少年の瞳に、じわりと紅い色が滲む。不思議な光を宿ししたそれが、つうと細められた。

 少年は数百年に一度目を醒まし、思い立ったように人を招く。そうして不気味な名前の料理を作り、迷い込んだ者に振る舞うのだ。そうして誰かが恐る恐るフォークを手に取るのを、目を閉じながら舌に肉を載せるのを、恍惚とした笑みで眺めるのだ。
 それが数百年に一度の楽しみ。永い永い人生の、ほんのひと時の楽しみ。

「最後はちゃあんと伝えるんだけどね。ぜーんぶ、ただの食べ物だって」

 騙しやがって。そう客人が怒るところまでが、一連の劇なのだ。

 さて。不気味で美しい料理をお出ししてあげなくては、楽しいことが始まらない。料理はもう考えてあるが、リクエストがあれば増やしてもいいだろう。
 扉はもう開いた。あとは誰かが迷い込んで、堕ちてくるのを待てばいい。

「ふふ、楽しみだねえ」

 少年の呟きは、庭の薔薇に吸い込まれた。



・今宵あなたを

「不気味な料理が並んでいるね」
 境界案内人のカストルは、ふっと苦笑いを浮かべた。見てごらん、と提示したメニューに書かれているのは、物語の中でしか出てこないようなものばかりだ。
「君たちは招かれた。あとはもう堕ちて、彼を満足させるまで食事をするだけだけど」
 カストルは微笑む。覚悟はあるかい、と暗に問いかけるように。

~MENU~

 悪魔の角のペスカトーレ
 ドラゴンの肉のポワレ
 堕天使の心臓のケーキ
 吸血鬼の牙のチョコレート
 少女の血のワイン

 etc.

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 グロテスクな料理を食べようという話です。

・目標
 洋館で少年が作る料理を食べていただきます。料理は名前から想像するものとは違い、普通の食材で作られております。安心して食べてもらえたらと思うのですが、このことは皆さまに「伝わっていない」ことになっているので、料理を出されたら怖がってください。
 あとは思い切って食べても構いませんし、怯えたまま食べても構いません。少年は最初のリアクションが良ければ満足します。なお、料理が褒められたら喜びます。
 メニューに示した料理は一例です。皆様のリクエストによっては料理が増えます。希望があれば記載していただければと思います。

・世界観
 人ならざる者が住む世界です。西洋の古びた館のような場所が舞台です。

・少年について
 少年の名はありません。洋館に結びつけられた魔術的な存在で、その生のほとんどを眠って過ごしています。
 名が無いと困る、と言われたことが過去にありますが、「マスター」だったり「主人」だったり、その時々の気分で呼び名を決めています。「主人」の類語であればだいたい返事をしてくれます。
 少年は見物がしたいだけなので、話しかけても話しかけなくても良いですが、話しかけると彼の楽しみを増やすことになるでしょう。

・サンプルプレイング

 マスター、何だいこのメニューは……。本当に食べられるのかい? 物語で魔女が振る舞う料理みたいだね。
 そうだね、僕は「少年の血のワイン」と「毒林檎のパイ」にしようかな。何とも言えず嫌な名前のメニューだね。食材は何なんだい? まさか本当に毒林檎が入っているんじゃないだろうね……。やめてくれよ、まだ僕は死にたくはないんだから。

  • 茨の館で晩餐を完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月31日 22時05分
  • 参加人数3/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(3人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
シェンメイ(p3p010186)
梦想

リプレイ

・どうぞ思い切って

「よお小僧のマスター」

 ここは飯屋なんだって? と笑いながら『錆びついた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は椅子を引いた。木製の足が床とこすれ、キ、と音が響く。

「とりあえず腹が減ったからなんか食わせてくれや」

 そう奥に向かって言うと、一つ扉を隔てた場所から少年が姿を現した。バクルドに座るように促し、その目をつぅと細めた。

「ああ、思ったより早い来客だ。嬉しいねぇ。……何でも、はちょっとね。メニューから選んでくれるかい?」

 机の上には何もない。メニューなんてどこにあるのか。そう思ったとき、ふいに後ろから人影が現れた。鼻も口もないそれが、ひらりと紙を一枚寄こしてくる。
 そこに書かれているのは、どこでも聞いたことのないような不思議なものばかりだ。ドラゴンやら堕天使の心臓やら、こりゃ食えるのか?

 いや、まあ、飯のあれこれには頓着はしねえんだが……。そうは思えども、不安は拭えない。だって食べたことがあるだろうか、こんな食材たち。好んで食べる者などいるのなら、会ってみたいものだ。

「で、どれにするんだい?」

 少年がにやりと笑う。バクルドは思わず唸り、メニューを端から眺めなおした。食えればいい、と言うと大げさかもしれないが、さすがにこれは。
 近づいてきた少年の指が、メニューに触れる。おすすめを知りたいかい、と彼が呟いたとき、バクルドの腹は決まった。

「よし! 小僧のマスター、この『ドラゴンの肉のポワレ』と『悪魔の角のペスカトーレ』と『河豚の肝のシャーベット』、あとはお任せで持ってきてくれ」

 あえて大きな声で告げれば、くす、と笑い声が降ってくる。
 用意してくるから。そう踵を返した彼が扉の向こうに消えてから、バクルドはやっと息を吐き出した。


 運ばれてきたのは、毒々しいのは確かだが、思っていたよりも普通の料理だった。最悪の状況を想定しすぎたせいなのか、それとも最近まともな食事をとっていなかったせいなのか。それはこの際置いておくとして。とにかくこの料理たちは食べられるのだろうか。

「曼殊沙華を混ぜたお酒はサービスさ」
「そりゃ、どうも」

 今更だが、随分命知らずなものを頼んでしまったと思う。過酷耐性があるから恐らく大丈夫だとは思うが、嫌な汗が流れそうになるのは否定できない。
 しかし、せっかくの飯なのにあれこれ考えても仕方ない。食ったら皆同じ、男は度胸、そう言い聞かせて、ナイフとフォークを手にとる。

 まずはポワレから。ぱりっとした表面が香ばしく、内側はふっくらとしている。噛めば噛むほどあふれてくる肉汁に、思わず感嘆の声が出た。

「うんめぇな! 名前の割にはイケる。こいつぁいい! 小僧のマスターなかなかやるな!」

 毒々しい見た目も名前も、食べてみれば中々良いスパイスに思えてくる。ああ、これは、美味しい。忘れられそうにない味だ。

 次々と料理に手を伸ばし、口に運んでいく姿に、少年がにやりと笑う。

「実はそれ、普通の食べ物」
「は」

 ぴた、と手が止まる。少年の目と料理を交互に見つめ、やがてバクルドは豪快に笑った。


・特別な甘味を

 いい趣味してるご主人様だな。少しだけ気が合いそうだ。
 口の中で小さく笑いながら『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は席についた。広げられたテーブルクロスの上に、影がゆらりと落ちる。見上げれば、そこにはやはりというべきか少年がいた。彼がパチンと指を鳴らすと、メニューがひらりと落ちてくる。

「ゆっくり選んでくれていいよ」

 薄気味悪く笑う彼に、思わず口の端を吊り上げた。
 多分自分は、彼の期待には応えられない。悪いけれども。
 普段図書館に籠って本ばかり読んでいるけれど、驚くことに関しては飽和気味だ。それくらい混沌世界では不思議なことがあるのだ。だから、こんな料理くらいでは驚いたり怖がったりしやしない。

 ひとまず何か注文するか、と世界はメニューに目を通す。甘い物と甘い物と甘い物。これに限る。

「堕天使の心臓のケーキとか、吸血鬼の牙のチョコとか、あと他にもあればそれもだな」
「ん。じゃあ、『魔女の唇のムース』でどう」
「なら、それも頼む」

 はあい、と少年が奥に消える。壁の近くで蠢く人の影を見ながら、世界は一つ息を吸った。


 さて。偉そうに驚かないなんて言ったものの、実は懸念すべきことが一つだけある。
 並べられた甘味の数々を見ながら、世界は額に手を当てた。ちらりと少年の顔を見ると、にんまりとした笑みを浮かべている。

 出されたものは普通の食べ物とは聞いているが、問題はそれが自分にとっても普通の食べ物かどうか、だ。例えばこの世界では、自分の良く知る世界ではゲテモノ料理になるものが当たり前に食べられているのかもしれない。食文化は場所が違えば変わるのだから。

 もし、ドラゴンや堕天使の心臓が、この世界では当たり前に食べられているものだったらどうだろう。ここではそれが普通で、普段自分が食べているようなものが「ゲテモノ料理」だったとしたら。そういった話ではないとは思いたいが、そもそも住む場所が違うのだ。無いとも限らないだろう。

 となると、自分に残された選択肢は一つ。
 驚きはしない。しないけれど、変なものが入っていないかは警戒するし、調べる。

 まずは堕天使の心臓をフォークでつついてみる。肉のような弾力はなく、代わりにクリームの柔らかい感触があった。フォークを握る手が、思わず緩んだ。
 これは本当に普通の甘味かもしれない。そうは思いつつも、警戒を続ける。

 ナイフでケーキを切ってみると、中から赤色のソースが溢れてきた。苺だろうか、それともラズベリーだろうか。
 思い切ってスプーンですくい、ほんの少し口の中に入れてみる。舌の先で触れてみると、ラズベリーの風味が鼻腔に広がった。ああ、本当にただの食べ物だ。

 特に意識したわけではないが、彼の望む反応になっているのではないだろうか。いや、乗せられているわけではない。あくまで本気なのだから。

 もう異常はないと分かったし、あとは普通に食べようか。折角だから、スイーツを思いっきり味わっていきたいものである。

「気に入ってくれたかい?」

 す、と少年が目の前に座る。彼の目が嬉しそうに輝いているように見えるのは、蝋燭の明かりのせいだろう。
 このまま見つめられ続けるのも落ち着かない。話している方がまだ良いから、この世界の事でも尋ねてみようか。
 牙の形のチョコレートを噛み砕きながら、何を尋ねようか考えはじめた。


・異国の料理

 わーいごはんだごはんだ、なんて言っていたけれど、すぐご飯にできるか分からなくなってきた。

 影のような人に渡されたメニューを眺めながら、『梦想』シェンメイ(p3p010186)は首を傾げていた。
 困ったことに、メニューに書いてあるものが何だか分からないのだ。読めない漢字に、知らない言葉ばかり。何だろう、これは。
 一昨日からお腹がぺこぺこだ。だから早く食べたいのだけれど。

「……の……のぺ、すかと……れ?」
「おや、お困りかい」

 少年がメニューをのぞき込んでくる。そっと見上げると、そこに浮かんでいたのは呆れではなく、どこか慈愛に近かった。それにほっとして、ほんの少し甘えた声がでる。

「どらごん……のほわれ?」
「ポワレだね。表面がぱりっとしてて、中がふわっとした料理さ。肉と魚料理に使う」
「それにどらごんをつかってるの? どらごんって龍だよね? 龍いるのかな? ボク見て見たいな……」

 きっと大きいんだろうなあ、と言うと、少年は苦笑した。

「食材は、どうだろうね。まあ、ひとまず好きなのを選びな。どんな料理かは、教えてあげるから」

 文字が読めたのは、一部だけ。てん……のこころケーキと、チョコレートと、しょうおんなのちのワイン。これくらい。
 主人は時折、どんな料理とか、読み方とかを教えてくれる。全然読めないし知らないものだけど、なんとなく分かったような気になる。

 ケーキもチョコレートも大好き。今言ったのは全部頼んじゃおうかな。
 あと、何か、何か食べたい物。そうだ、寿桃包はどうだろう。

「ねえご主人様。寿桃包もいい? ボク、それ食べたいなあ」

 寿桃包は甘くて可愛くておいしいから、きっと気に入ってくれると思うんだけど。そう付け足せば、「ちょっと待ってて」と優しい声が返ってきた。


 出てきた料理は、初めて見るものばかりだ。だけど、不思議とどこかで見たことがある気がする。どこでだっけ、マフィアの入っちゃダメって言われた部屋だっけ、と記憶を辿っていると、少年が不思議そうにこちらを見つめてきた。慌てて首を振り、渡されたカトラリーを手に取る。

 見たことがある気がするとはいえ、異国の料理なのは間違いないのだろう。食べ方が分からない。
 異国では包丁を持って食べるのだろうか。手に持ったはいいが、この先どうしたらいいか。フォークは知ってるけれど……。

 少年が苦笑しながら、シェンメイにカトラリーの使い方を教えてくれた。おっかなびっくり食べながら、食材についてあれこれ質問してみる。

 これは何のお肉なの? これはお魚なの? これは何? チョコレートもなんだかちょっと変な感じだね。
 そんなことを言いながら食べていると、気が付けばお皿の上は空っぽになっていた。
 ふー。美味しかった。

「食べてもなんともないね」
「中身は君が普段食べてる食材だからね。……あまり怖くはなかったかな? でも、君みたいな子も、新鮮で嬉しいな」

 また来てくれるかい、と少年は笑っていたから、同じように頷いて返した。

「じゃあまたね、ご主人様。バイバイ」

 手を振り合うと、本当にまた会えるような気がした。次はいつかなんて、分かりやしないけれど。
 さて、かーえろっと。シェンメイは立ち上がり、外に向かって歩き始めた。

成否

成功

状態異常

なし

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