PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蒼月狂騒曲

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 
 蒼い蒼い月の夜。
 森の奥。佇む館。地下の底には広い部屋。
 そこに蠢く、悪二つ。
「完成したか!」
「その通り、ご覧!」
 息巻く男に女性が示すのは、異形の巨人。
「『万霊巨兵・クムバカルナ』! 万の死霊を束ねた破壊神!」
「素晴らしい! コレで町の支配は吾輩に!」
「全く、俗に極まる願いだね! ローウィッド!」
「何をアルディア! 其方とて、追放者共への復讐に囚われているではないか!?」
「アハハハ! 確かに、全ては復讐の為! 君は正しく、その贄!」
「面白い! ならば吾も其方の全てを糧としよう! 我が野望の為に!」
「それでこそ!」
「けどですね」
「ん、何だい?」
「随分沢山の怨念を束ねてますが、制御出来るので?」
「馬鹿にしないでくれ。抜かりはない。この制御装置があれば、全ては意のままさ」
 自慢げに取り出す装置を受け取り、感心する。
「成程、なかなかのお手前で」
「そうそう。讃えたまえ。崇めたまえ」
「おい、誰と話しているのだ?」
「誰って……」
「てい」
 ゴシャン。
「ぎゃあああああ!?」
 無情に握り潰される制御装置。
「な、何だ貴様は!?」
 目ん玉剥いて怒鳴るローウィッド。
「ああ、ハイ」
 静々お辞儀する修道女。
「アタシ、『エメレア・アルヴェート』と申します。救い願う御霊の声を聞きまして、お邪魔致しました次第です」
 「……『天慈災禍の狂い姫』!?」
「ご存知で?」
 嬉しそう。
「何故ここが!?」
「通り掛かりました」
「何ぃ!?」
「最近、良い徳が積めまして。そこからの道中でここに。正しく、神のお導き」
 そう言えば、さして遠くない土地で人柱絡みの騒動があったと聞いたが……まさか。
 余計な気を回した神に、殺意が湧く。
「だ……だが、入り口にはゴブリン共が番に……」
「その方々でしたら」
 指さされて見れば、入り口に山と積まれる彼らだったモノ。
「『遊んでくれたら通してやる』と言われたので」
「そう言う意味ではない! いや、こっちの意味でも誰がここまでやれと言った!?」
「自己判断です」
 しれっと返す。
「では、救済を」
「ぬぅ……」
 咄嗟に懐に手を入れる。取り出す銃器。
「させるか!」
 響く銃声。
 カーン。
 弾けて散った。
「は?」
「ダメですよ」
 唖然とするローウィッドに向かって、ヤレヤレと。
「アタシには教主様が『絶対加護』を施してます。致死の害は、無効です」
 つまり、外的要因では絶対に死なない。
「何と……」
 絶句。
「この様な破戒者を……。偽善者が……」
「心配性なんですよ。アタシは『不死転入』が施術済みだから無問題ですのに」
「ウソ!?」
 アルディアが腰抜かす。
「ソレだよ! 理由ソレだよ! 聖職者以前に人として手ぇ出しちゃ駄目なヤツだろ!?」
 簡単に言うと、死んだらそこら辺の『何か』に肉体を提供して活用していただく親切心溢れる術。
「そんな良いモノじゃないですよ? 誰方が入られるかはガチャですから」
「碌なモンが入る気せんわ!!」
「そんなに持ち上げないでくださいよー」
「褒めてないー!!」
 頭掻きむしったその時。
 オォン……。
 不吉な響きに、ハッと顔を上げる。
 そびえる巨体。その六眼に灯る、紅い光。
「不味い! 暴走だ!」
「どうするのだ!?」
 焦燥の問いに、苦悩は一瞬。
「……この場で、自爆させる!」
「な……!?」
 驚く彼に向ける顔は悲しげ。
「……すまない。せっかく君の願いを叶える術を手に入れたのに……。でも、このままではこの子は全てを破壊してしまう。君が手に入れる筈の、宝物まで。だから……」
「そんな事はどうでもいい!」
 細い肩を掴む。
「コレは、お前の努力の結晶ではないか! 苦渋の中、ようやく辿り着いた証ではないか!」
 彼の想いに、儚げに。けれど嬉しげに。
「ありがとう。けれど、大丈夫。全てはボクの頭脳の中にある。その軌跡をなぞれば、また辿り着ける。いや、今度はきっと遥か先の高みまで。そう……」
 そっと、抱き返す。
「君が、隣にいてくれるなら……」
「アルディア……」
 見つめ合う。違いの唇がゆっくりと……。
「お取り込み中すみませんが」
「もう、良い所なのに!」
「自爆との事ですが、どの様に? 下手にバラすと広域で呪詛汚染が起こりますよ?」
「分かってるよ!」
 取り出すのは携帯ボタン。
「コレで自爆させれば、仕込んでおいた聖典が蒸散して全てを強制昇華する。絶対に失敗はない」
「てやっ」
 ガオン。
 正拳突きで吹っ飛ばされたボタン、爆散。
「わぁあああああ!?」
 さっきもやったこの下り。
「良い加減にしろ! 何なんだ君は!? 馬鹿か!? 馬鹿なんだな!?」
 貴女も大概だが。
「どうするんだ!? これで止める術はなくなったんだぞ!? この辺り全部焼け野原だぞ!? 近くには町だってあるんだ! 何人死ぬか分からないぞ!?」
 キレ気味で喚き散らす。気持ちは分かるが、そもそもテロを企んでたのは貴女方ではなかろうか?
「大丈夫ですよ」
「は?」
 エメレアが笑っていた。
「貴女は良い技士です。この子達は明確に平等に定められています。願いは、たった一つに」
「な、何を……」
「ぶたせてくださいな」
「え?」
「怒っているのは、貴女にです」
 アルディアを指す。
「尊厳の蹂躙。怒ってます」
 走る悪寒。
「だから、『ぶたせて』」
 判決は、単純。
「一回だけ、思いっきり。ソレで終わりにするそうです。優しい子です」
 気配。
 見下ろす、六つの赤。
「大丈夫ですよ。あっという間です」
 優しい声が、目眩を誘う。
「アルディア!」
 気付けば、彼の腕の中。
「ロ……ローウィッド……」
「気をしっかり持て! 逃げるぞ!」
「で、でも……」
「森を出て町に入る! そうすれば……」
「逃げると無辜の方々も死んじゃいますよ?」
 怖ろしく、アッサリと。
 
 蒼い蒼い月の夜。昏い声が鳴り響く。



 連絡を受けて駆けつけると、机に突っ伏す『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の姿。
「ああ、来てくれましたか……。ご苦労様です……」
 上げた顔には凄い隈。
「早速、依頼内容を……」
 嫌な予感がする。
「狂い姫が……」
 回れ右して出ようとしたら、扉に輝く結界陣。
「逃がさないです……」
 ハメられた。


 顛末を聞いた。
 もう胃が痛い。
 と言うか、何でソコまで事情が分かるのか。
「依頼人が当のテロリストさん達なので」
 どう言う事?
「どーにもならない助けてと連絡してきたのです」
 あちこちに連絡先置いとく方針、改めた方が良いかもしれない。そもそも官憲か軍関連ではないのか。
「捕まるから嫌だそうです」
 オイ。
「放っておく訳にも……。近くに町もありますし……」
 立地とか考えろ。
「件の巨兵を止めてください。猪娘の方は、適当に……」
 猪が遺憾の意を示すぞ。
「テロリストさん達も、二の次三の次で良いのです。むしろ死んでみるといーのです」
 同意しかない。
「町の安全を……第一目標に……」
 言って力尽きる。
 誰か、胃薬持ってない?

 皆がゲンナリする中、妙にウキウキしてる者が一人。
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)。
 いつか結んだ、いつかの結び。
「また踊れるね☆ エメレアちゃん♪」
 嬉しげにさざめくお友達。
 かくて始まる、蒼い月夜の大騒ぎ。

GMコメント

こんにちは。土斑猫です。
今回は前回シナリオ『弔い騒動奇譚』のアフターアクションとなります。
ご希望の程、ありがとうございます。
狂い姫の恐怖、再びです。

●目標
 『万霊巨兵・クムバカルナ』を止め、町を守る事。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 良い意味でも悪い意味でも。

●ロケーション
 時間帯は深夜。月夜で明るく、視界良好。
 フィールドは森林。手前に町。森林中央には空間があり、崩壊した洋館がある。
 森林はそう聞いてイメージ出来る情景。針葉樹林。足場悪し。立体行動可能だが、衣類が引っかかるなどして行動が阻害される場合あり。
 中央の洋館は破壊され、瓦礫の山。足場が劣悪で転倒の危険あり。

●敵
『万霊巨兵・クムバカルナ』×1
 アルディアが万の死霊で造った身長20mのアンデット・ゴーレム。
 中央の洋館に座しており、ゲーム開始と共に動き始める。標的はアルディアで、彼女を追う形で移動する。
 基本的にPCには無関心であり、攻撃してくる事はない。
 撃破する事は可能。反撃はしてこないが、膨大な体力とやたら強固な防御を誇る。
 町に到達してしまうと依頼失敗。

 攻撃方法は以下。
・『踏み潰し』:物至範に大ダメージ。
 行動終了時、正面に隣接すると巻き込まれる。防御不可。

・『呪霊砲』:MAP兵器。10Rに一回、正面マス一列にフィールド端までをレンジに収める超長距離砲撃を放つ。射線上にいるPC全てが対象となり、防御不可。ダメージは無し。全ステータスが半分になる。
 物理的な破壊力はないが、受けた生物の精神を凄まじい鬱状態にする。
 町を直撃されると住民が全て寝込んでしまい、失敗となる。

『エメレア・アルヴェート』×一人
 『天慈災禍の狂い姫』。
 14歳。人間種。女性。
 修道女でネクロマンサーで『人権<死人権』が信条。
 クムバカルナの周囲を警護する様に動き回り、レンジに入ったPCに攻撃する。
 隣接して話し合い可能。会話中も攻撃はやめない。
 撃破すると失敗判定。
 『絶対加護』所持。PCの攻撃ヒット時、クリティカル判定が出るとその攻撃を無効化する。

 戦闘方法は以下。
・『徒手空拳』:物至単にダメージ。
・『カタパルトメイデン』:物至単に大ダメージ。防御不可のぶん投げ。決まった場合、投げられた方向に別のPCがいると巻き込まれる(物遠単に大ダメージ)。
・『死霊』:神遠扇にダメージ。呪いを付与。
  あくまで攻撃。敵の増援とはならない。

●NPC
『アルディア・メルト』
 18歳?。幻想種。女性。
 魔術研究家。かなり難ありな性格で、危険視されて学会から追放された。以来、恨みを晴らすために研究を続けていた。ローウィッドと出会い、財力を利用する為に手を握る。が、そうやって共に過ごすうちに……。
 復讐の為ならテロも辞さないアレな方。

 ローウィッドと共に森の中を逃げ回る。
 隣接し、3R維持する事で捕縛出来る。クムバカルナの前に連れて行くとぶん殴られ、クムバカルナはスッキリして成仏する。本人は死ぬ。
 ローウィッドを瀕死状態にすると、彼の助命を条件に捕縛される。

『ローウィッド・エドガー』
 29歳。獣種。男性。
 とある地方のお金持ち。町長の座を狙ったけど敢えなく落選。獣種差別だと逆恨みして凶行に走る。
 アルディアの知識と技術とついでに身体を狙うものの、本気になってしまった。
 目的で手段は正当化されると考えたり、田舎町のデモで大量破壊兵器を使おうとしたりと色々残念な方。

 アルディアと行動を共にする。
 アルディアを捕縛しようとすると攻撃してくる。

 攻撃方法は以下。
 『呪詛穿ち』:呪殺用の小型拳銃。神遠単に大ダメージ。呪い付与。2回で打ち止め。
 『護身術』:物至単にダメージ。愛の力でやたらクリティカルが出る。

※なお、NPC二人は町に逃げ込む事を望んでいるため、町を目指して移動する。
結果、追尾するクムバカルナを誘導してしまう。

※色々なアクション・アイディア、歓迎します。可能な限り拾い上げますので、皆様の可能性、見せてくださいませ。
 なお、基本はコメディです(←重要)

  • 蒼月狂騒曲完了
  • GM名土斑猫
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年11月11日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
釈提院 沙弥(p3p009634)
破戒求道者
プラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)
想い、花ひらく
アザミ・フォン・ムスペルヘイム(p3p010208)

リプレイ


 こんな所で、『私』は何をしているんだろう?
 自分と向き合おうともせずに目を逸らして、バカ騒ぎしちゃって。
 我ながら怠惰すぎて嫌になっちゃうね。
 何で、こんな力を持っちゃったのかな?
 どうして、全部忘れちゃったのかな?
 『私』って、こうまでして生きてる意味あるのかな?
 何かもう、疲れちゃった。
 何もかも消えて無くなっちゃえば楽なのに。
 いっそ、全部壊して回っちゃおうかな?
 そうして、最期に自分も消えちゃおっかな?

 誘うのか。
 律するのか。
 響いたのは。
 黒い、咆哮。

 我に帰った『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)。吼えるのは、漆黒の拘束具に包まれた巨人。
「おぅ……」
 唖然と呻く『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)。
「でけぇ……」
 途方に暮れる『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)。
「どうしたモノかしらねぇ……」
 困り果てる『特異運命座標』釈提院 沙弥(p3p009634)。
「おお! 来てくれたのだな!?」
「た、助かったよ……」
 森の奥から走ってくる人影二つ。ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)が眉を潜める。
「……獣種に幻想種……ですね……」
 ああ、と得心する『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)。
「成程、アイツらね」
 おやおやと小首傾げるプラハ・ユズハ・ハッセルバッハ(p3p010206)。
「仲がいいですね。繋いだ手が離れません」
 呆れて呻くアザミ・フォン・ムスペルヘイム(p3p010208)。
「いい気なもんだな……」
 総意の皆の前に、息も絶え絶えで転がり付く二人。
「す、すまん……水、を……」
「喉……カラカラ、で……」
 過呼吸でも起こしそうな二人。ロウランが水筒を渡す。
 貪る様に飲む二人。なお、一つの水筒で『ほら、飲みたまえ』、『いや、しかし……』、『わたしと飲み口を共有するのが嫌かい?』、『いや、それは……』、『うふふ、可愛いなぁ。君は……』、『か、からかうんじゃない!』等と言ったやり取りをかましている。
 イラっとする。
 何なら軽く、殺意も湧く。
「やれやれ、仕返しのつもりでもここまで大きなゴーレムを作るなんて……。片付けるのも一苦労の筈でしょうに……?」
 剣呑に染まる空気を宥める様に、ロウランが語り掛ける。
「何だ、片付けるって! ボクの傑作を粗大ゴミみたいに!」
「貴様、アルディアがどれ程の苦難の果てにアレを造り上げたと思っているのだ!?」
 仲良く喚く。
「うるさいっス!」
「アボッ!?」
「ホンギャ!?」
 拳骨。でかいタンコブ押さえてのた打ち回る二人に、怒鳴る葵。
「何、偉そうしてるっスか!? そもそもの元凶はアンタ達でしょうが!?」
「ち、違うよ! ボクはチャンと制御法を確立してたんだ! なのに……なのに『アイツ』が……」
 必死の体で言い訳するアルディアをポケーと眺めていたマリカが、ピクリと顔を上げる。
「どうしたの?」
 気づいた沙弥の問いに答える事なく。その顔が、歓喜に綻ぶ。
「来た♡」
 瞬間、覚えのある怖気に天を仰ぐ。
「皆、避けた方が良いわよ」
「へ?」
「む?」
「何g……」
「神罰」
 疑問の言葉も終わらぬ内に、衝撃。大地が砕け、デカいクレーターが刻まれる。経験豊富なメンバーは耐えられるが、色ボケ二人に関してはその限りでは無く。
 情けない悲鳴と共にコロコロと。
「おやおや、こんな所にいらっしゃいましたか」
 土煙の向こうからしゃなりと現れる少女。ローウィッドとアルディアが震えあがる。
「うわぁあああああ!!」
「で、出たよぉおおお!!」
 近くにいたロウランにしがみつこうとしてドつかれる二人を横目に、沙弥は親しげな笑みを向ける。
「お久しぶり、と言う程は経っていないわね。『狂い姫』さん」
 しげしげと見て、ポンと手を打つエメレア。
「コレはコレは、異教徒様。その節はご協力のほど、ありがとうございます」
 言って、ペコンとお辞儀。
 彼女の中では『アレ』が協力した事になってるらしい。訂正したい気もするが、間違いなく聞いてくれないし通じない。放置する。
「それで、今宵は何故?」
 黙って示すのは、後ろで震える二人。そして、何とも言えない顔で取り囲むメンバー達。
「ローレットの方々ですね。お手伝いにでも?」
 答える様に響く、唸り。夜気が揺れる。這い上がる怖気を、無視して。
「ええ、事情は承知しているわ。哀れな御霊ね。悪い様にはしないから、鎮めてはもらえないかしら?」
「それなら簡単です」
 穏やかな笑みが、アルディアを指差す。
「あの方を一回ぶてば、あの子は安らぎの園へ旅立ちます。確定事項」
 震え上がるアルディア。
「馬鹿言うな! 死んじゃうじゃないか!」
「無問題です。共に至れます」
「冗談じゃない!」
「無念があります? なら、アタシが救いますのでぶたれてください。前提条件」
 どう足掻いても、ぶたれる前提。
「き、君達〜何とかしてくれよ〜」
 半泣きで懇願するも、返ってくる視線は絶対零度。
「……な、何?」
「だって……」
 困り顔のロウラン。
「貴女達に仕返しを決意させる町も、多分何かしら落ち度はあるのかもしれませんが……」
 見つめる、クムバカルナ。
「……仕返しでここまで大きな物を作るというのも、間違ってますね……」
 明らかに、後先考えてない。
「貴女、私と同類の匂いがするわね……。私も世の中のルールより自分の探求心を優先するし」
 腰を屈めたジュリエット。アルディアの顔を眺めながら。
「それに、クムバカルナは中々の代物ね」
「おお、分かるのかい!?」
 はしゃぐ彼女に『ええ』と微笑み。
「惜しいわぁ……。依頼じゃなければ談義したい技術者だったのに」
 ウンウンと頷くアルディア。で。
「ま、仕事は仕事。ぶっちゃけ、私も研究とかの活動資金がないと困るのよね、アンタ達の事情や街にも興味ないもの。と言う訳で、最悪の場合は大人しく殴られて頂戴ね?」
 ポンポンと叩く肩。固まるアルディア。
「お、鬼畜生か!? 君達は!?」
 沈黙。
「目を逸らすなぁあー!!」
 魂の叫びが響いた、その時。 
『チャージ、完了シマシタ』
 唐突に響く、声。
「あん?」
「何スか?」
 思わず振り向いた先、此方を凝視するクムバカルナの姿。
『カウントヲ開始シマス。10、9、8、7……』
 不穏なカウントダウンと共に、ギギギと口が開いていく。
「何でしょうね? お歌でも歌うのでしょうか?」
「……いや、そう言う牧歌的な気配は全くないぞ。アレ……」
『4、3、2、1……』
 口中に満ちていく、異様な密度の魔力。
「あ、あの、その……」
「……逃げた方が良いヤツかしら……? コレ……」
 皆が油断していた訳ではない。何と言うか、アレである。余りにも度を過ぎた危機が眼前にあると、思考が現実を拒否して停止してしまう。アレ。
『0。重霊砲、発射』
 輝く黒閃。迸る赤黒の光が、月の空を禍しく染める。
「ぬぉあああ!?」
「やば……」
 文字通り光の速度。視認してからの回避なぞ間に合う道理もなく。
 運悪く射線上にいた葵と世界が敢えなく飲まれる。
「キャアアア! 葵さん!? 世界さ〜ん!?」
「うわエグ……」
「死んじゃいましたか?」
 どう考えても、即死必至の超弩級砲撃。二人の身を案じて……と言うか、諦めて絶叫する者。遥か地平まで続く光の奔流を、呆然と眺める者。見ないフリする者。多種多様。
「おや、焼け残ってますね」
 見た目の威力から、二人ともお墓は空ですね~とか考えていたプラハ。うずくまる、二つの影に気づく。
「あ、生きてた……」
「だ、大丈夫ですか!? お二人……共……?」
 慌てて駆け寄ったロウランが、異変に気付く。
「ああ……駄目っス……オレは……オレって奴は……駄目駄目っス……」
「畜生……こんな見え見えを食らうなんて……俺はなんて無能なんだ……」
 ブツブツとネガティブを唱え、膝を抱えて沈み込む二人。負のオーラが目に見える様で、思わず引いてしまう。
「……身体的損傷はないわね。と言う事は、精神に強烈なデバフを生じさせる魔法?」
「強烈な鬱状態に堕とす効果……って所かしら?」
 冷静な分析をするジュリエットと沙弥。頭脳担当は強い。
「これ、町に撃たれたらマズそうですね」
 プラハの言葉に、固まる皆さん。そう、このアホみたいな射程なら近場の町まで悠々。物理的被害が皆無とは言え、町の住民が上から下まで満遍なく鬱になったりしたら行政体としてお終い。そんな地獄、見たくない。
「まずいな……。そこの二人、出来る限り配慮はしてやるから……」
 そこらに転がってた筈のローウィッドとアルディアに言うアザミ。でも、ソコにはもう誰も無く。
「アレ?」
「お二人なら、先程お逃げになられましたよ」
 ノホホンとした声と激しい打撃音に振り向けば、いつの間にかおっぱじめてるマリカとエメレア。
「逃げたの!?」
「逃げましたよ」
 まあ、『取り合えずぶん殴られろ』が基本方針になりそうな気配だったので。無理もないっちゃあ無理もない。
「あのお二人、元から町に逃げ込む算段でしたから。無問題です」
「無問題じゃないだろ!? あんの馬鹿共!!」
 響く地響き。クムバカルナが動き始める。六つの視線は、迷う事無く一定の方向を。恐らくは。
「グダグダしてる場合じゃないわね。ほら、さっさと起きなさい」
 溜息ついたジュリエットが、立ち直れない葵の尻を蹴り上げた。


「もう何が何だかメチャクチャじゃねぇっスか! 全部アイツか!? あのエレメアって奴が元凶なんスか!? それともやっぱり、悪いのは『アレ』作った張本人共……? いやもう、どうだっていいわ!」
「あんまり荒ぶらない方が良いわよ。彼らを追っているのはクムバカルナも同じなのだから。集中してないと、また『食らう』わよ?」
 後遺症で乱れる思考を、頭を掻きむしって立て直す葵。追随する沙弥が刺した釘に身震いする。結構トラウマらしい。
 後方を爆進する巨体を見て、プラハはフムと思考を巡らす。
「抱きついても引っ張っても、なんともなりませんね。なので、人の手を借ります。ずばり、そこにいるテロリスト達!」
 見据える先に、件の二人の姿。
「あなたです。かぼちゃのお面とピエロのマスクをしたあなた方」
 届いた声に、ビクリと振り返る二人の顔。
「クムバカルナさんが町から離れれば無罪です。嘘ではないですよ? わたしのいたお城ではそうできたのですから。一緒にデコボコ地面を掘りましょう。クムバカルナさんが脚を取られて別の方向に行く様に」
 ブンブンと顔を振る二人。全力の拒否。『それでは』と言って、地面を叩く。ニョキニョキ出てくる、土塊の拳。
「取り合えず、ボコボコです」
 流れる汗は、脂汗。


「とはいえ、そのまま死なすには正直惜しい術者だわ」
 クムバカルナの牽制をしながら、思案するジュリエット。
「要は街を攻撃させたり中に入れなきゃいいんでしょ? 愛の逃避行でもしてくれればいいんだけど。まあ、言う事聞かないなら取り敢えず男の方を死なない程度にボコしましょうか」
 どうあっても、殴られる。
「ソレはソレとして……」
 改めて見上げる、クムバカルナ。
「浄化用の聖典が仕込んであるって言ってたわね。外側から起爆させる方法はあるかしら?」
 アナザーアナライズで解析。この道に関しては、彼女とて相応の自負がある。
「単純に壊すよりはよっぽど建設的だわ、無理な時は……やっぱ面倒だし最後にはぶたれて頂戴」
 本人達が聞いたらガン泣きしそうな結論を出しつつ、解析を進めようとした時。
「不許可」
 怖気立つ気配に身を翻す。瞬間、掠めた蹴りが後ろの大木をへし折る。
「狂い姫……」
「いけませんね、哀れな御霊の成就を邪魔しては。メッです」
 朗らかな笑顔と共に、強烈な掌底。防御ごと吹っ飛ばされた所に迫る追撃。
 ヤバいと思うと同時、二人の間で膨れ上がる何か。ケタケタ嗤ってパンと弾ける。衝撃に吹っ飛ばされる二人。飛び込んできたのはマリカ。
「キャハ☆ ダメだよ! エメレアちゃんはマリカちゃんと遊ぶんだから♡」
「おやおや、今は大事なお勤め中。踊るのは後ですよ? ご同胞」
「知らないよ♪ 今が楽しければ、それで良いの☆」
「あらあら、イケナイ娘。お仕置きですか?」
「オシオキ♪ してして♡」
「ではでは、ご要望にお応えしまして」
 互いの影から起き上がる死彩の繰り人形。怨嗟の喜びと共にぶつかり合う。正しく正しく地獄絵図。取り残されたジュリエット。ポツリと一言。
「……やっぱ、本業は違うわね……」


「何で個人間の争いが町を巻き込みそうになってるんですかねぇ……」
 クムバカルナの足止めに回った世界。グチグチ言いながらも、手持ちの精霊爆弾を罠として仕掛けていく。
「巨大であるが故に、足止めも容易! 全力でいきますよ!」
 ロウランも魔砲で援護。双方の爆撃がクムバカルナの右足に集中。体勢を崩し、たたらを踏む巨体。
「体のキレが悪いですよ、大丈夫ですか?」
 ロウランの呼びかけに頭を掻く世界。
「鬱はギフトで回復したが、ダウンした分までは戻らねぇからな……。ま、どんな状況だろうとやれる事をやるだけだ」
「そうですね。とにかく、あのお二人が捕まるまでは」
 ステイシスを起動する世界に合わせ、ロウランも拳に聖光を纏う。
 突撃しようとした瞬間。
『チャージ、完了シマシタ』
 悪夢のカウントダウン。
「ヤバイ!」
「回避を!」
『8,7、6、略……』
「略したぞ!!」
「な、何ですか!? ソレ!」
『4、3、2、1……』
「特に略してねぇ!!」
「ええー!!!」
『発射』
 ぶっ放される砲撃。敢え無く飲まれる二人。重く圧し掛かる心の痛み。嘆く所に落ちてくる足。
「うぎゃぁああああ!!!」
「いやー!!!」
 咄嗟に避けたから良いモノの、仲良く瓦礫に埋もれる二人。
「ち……ちくしょう……」
「労災……出ないでしょうか……」
 多分、出ない。

「オカシナ方ですねぇ。あのままであれば、アタシも巻き込まれましたのに」
 先の重霊砲の射線にいたエメレア。助けたのは、マリカ。笑って言う。
「だって、憂鬱になったら遊んで貰えなくなっちゃうもの♪」
「ふむ?」
「町はね、正直どうでもいいの☆ ダメにしたら怒られちゃうから、仕方なく?」
「ほう?」
「アンデッドゴーレムって、人工的なワイトみたいな? 新鮮味に欠けるっていうか~? いくら強くても、そんなに霊魂使ってたらコスト悪くな~い?」
「ほうほう」
「もう少し1人1人大事に扱ってあげなきゃかわいそうだよ~♪」
「ふむふむ」
「作ったヒトは幻想種? ふ~ん、勝手に死んじゃえば?」
 ケタケタ笑うマリカ。頷くエメレア。
「成程成程。ご同胞。貴女は、『此方』の方ですね」
 青い青い、瞳が笑う。狂々狂々、嬉しく嗤う。


「背骨折られたくなきゃ大人しく止まるっス! バカ共!」
 ローウィッド達に向かって、葵が吼える。
「アルディアは渡さんぞ!」
「町の人まで巻き込むのは流石に大問題っス! 何としてでも止めるっスよ!」
 ローウィッドが魔銃を放つ。わざと受けつつ、デッドエンドワンでカウンター。直撃したローウィッドはなお倒れず、更に二発続けざま。枯れた音を立てた魔銃を捨てると、構えを取りながらアルディアに叫ぶ。
「逃げろ!」
「でも!」
「言うな! 最後の最期、漢の誉れを!」
 決死の覚悟に涙を飲むと、茂みの中に。けれど。
 パチンと指を鳴らす音。途端、燃え上がる炎。
 悲鳴を上げて腰を抜かす前に、ユラリと現れるアザミ。
「復讐ね……。まあ、その気持ちはわからなくもないけど、こんな騒動引き起こして。傍迷惑過ぎないか?」
 呆れ果てた顔で、震えるアルディアを見下ろす。
「ってか、私と同い年位なんだよな? 貴女」
 思う所があるらしく。
「貴女みたいな色ボケにはなりたくないが……そう思える相手が居るのは素直に羨ましいと思える」
 前を見れば、葵の蹴戦を尻に食らって泡を吹くローウィッド。
「だからという訳じゃないが……少しくらいなら、手伝おう」
 ガクリと項垂れるアルディア。雷の鎖が絡みつく。


 ジュリエットの解析による方針。
 アザミの練達上位式によってアルディアを模した式神を錬成し、クムバカルナに殴らせる。
 成就に緩んだ所にロウランが聖光を打ち込み、死霊の均衡を崩す。
 隙間を縫い、ジュリエットが内部の聖典に干渉。起爆・浄化する。
 可能であると、アルディアが太鼓判を押した。


「死人権とは、完全なる安息の権利です」
 笑みを浮かべるエメレアの前には、気絶したマリカと彼女を抱き抱える沙弥。エメレアに抱き締められ、放り投げられ。折れた木の幹に突き刺さる所を、巻き込まれるのを構わずに助けられた。
「人権は、成す権利です。数多の苦しみと共に、数多の事を成せる権利です。死人には何も成す術はありません。故に、絶対の安息が認められるのです」
 優しく笑いながら、『同胞よ』と囁く。
「アタシは貴女を殺しました。されど貴女は死ななかった」
 『助けたからね』と苦笑する沙弥に、『それこそが証左です』と。
「貴女はまだ、安息に至れる場所にきていないのです。苦しみなさい。もっともっと、苦しみなさい。そして、成すのです。成すべきモノを、成すのです。その時、貴女は初めて至るのです。そして、なお願いが遺るなら」
 青い瞳、狂りと光り。
「アタシが、共にソレを壊しましょう。愛しい愛しい」
 ――同胞よ――。
 青ざめた顔で、沙弥は笑う。正しくこの娘は、『狂い姫』なのだと。折れた肋骨が痛む。意識が閉じる前に、せめて此れだけは。
「何が、貴女を……そこまで至らせたのかしらね……?」
「さあ?」
 答えは、曖昧。
「『わたし』は、ずっと前に置いてきましたから」
 笑う声。
 霞む視界の向こう。蒼い蒼い月の下。哀しい巨人が、安らぎに至った。

成否

成功

MVP

ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母

状態異常

日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
回言 世界(p3p007315)[重傷]
狂言回し
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)[重傷]
マリカ・ハウ(p3p009233)[重傷]
冥府への導き手
釈提院 沙弥(p3p009634)[重傷]
破戒求道者

あとがき

土斑猫ですお疲れ様です。
今回、コメディに全振りするつもりだったのですが、皆様がかなりしっかりしたプレイングを書いてくださいまして。心情表現にも引っ張られて予定よりシリアスっぽい雰囲気になってしまいました(汗)ただ、大変楽しい執筆でもありました。
誠にありがとうございます。
次の機会がありましたら、どうぞよしなに。

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