PandoraPartyProject

シナリオ詳細

死ぬならば、舞台で。

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●【速報】歌姫 クラリティ引退発表 -/--のライブを最後に芸能活動終了
 歌い続けた。
 それが存在理由だと思って居たから。
 歌い続けた。
 そうすることで人は私をほめたたえたから。
 歌い続けた。
 そうすることでしか私は息が出来なかった。
 歌い続けた。
 歌は私のすべてだったから。

 歌は呼吸。歌詞は血液で、流れる旋律は脈動、一音一音は赤血球に等しい。
 マイクは肺だ。果てなくこの音を響かせて。

 やがて、「私」は――クラリティは、歌姫と謳われるようになった。
 ファンが居て、私に歌をくれるひとが居て、同業(ライバル)がいて。
 スポットライトが照らすのはいつも私だけだった。

 ある日、同級生だったひとから連絡がきた。
 家など知らないから、事務所に届けたらしい。
 同窓会と呼ばれたそれに参加してくれないか、とのことだった。
 肺に、見えない煙が溜まっていく。

 夢であり運命を辿る過程で、沢山のひとに迷惑をかけてしまった。そんな自己満足的理由で少しだけ顔を出した。
 が。

(あれ、)

 ぎんいろのゆびわ。
 しあわせなかぞく。
 しごといそがしい。
 じょうしめんどい。
 おまえはすごいよ。

(わたし、)

(息って、どうやって、)

 私は違った。当たり前と、普通とが、とおい、とおい世界に来てしまったのだ。

(私も、皆みたいに、なれるのかな)

 だから。私は、歌姫を引退することにした。

「クラリティさん、引退には早すぎませんか?!」
「なにか病を抱えていらっしゃるのですか!!?」
「まだまだ歌を聞きたいというファンが署名活度を行っているようですがどうお考えですか」
「もっと大きな会見を開いてください!!」
 フラッシュは嫌いだ。眩しくて、うるさくて。普通をさらに遠くする。
「私。夢を、叶えたいんです」


「嬢ちゃんも中々に大変な生活をしてるみたいだな」
 からから笑ったヤツェク・ブルーフラワー (p3p009093)は、クラリティにひらりと手を振り。古びた酒場の一角、そこが指定された待ち合わせ場所だった。
「ワタシ達は……何を、すればいいかな?」
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)は歌姫の分のサラダを取り分けながら問い。
「私のラストステージを、手伝っていただけるかしら」
 クラリティは店長らしき男にひらりと手を振る。頷いた男はいわゆる『いつもの』を届け、またカウンターへ戻って。
 ひとくち口に含んだクラリティは、笑みを浮かべると、告げた。
「歌姫の最後を、見届けて欲しいの」

NMコメント

 まばゆい星に憧れたとしても、星は地上に憧れるのでしょうか。
 リクエストありがとうございます。染です。
 さあ、ラストステージです。

●依頼内容
 歌姫「クラリティ」の護衛

 酒場で行われるラストステージが終わるまでの護衛を頼まれました。
 さて、彼女がどうしてイレギュラーズに依頼をしたのでしょうか。

●世界観
 幻想のような世界が広がっているライブノベル。
 剣と魔法の世界です。

●クラリティ
 歌の才能を持つ女。24歳。
 青春を歌に捧げた代償は孤高と栄光。いつしか小さな幸せを失っていたという事実に気が付き、もう戻らない時間をこれからで埋めていこうと考えています。
 クラリティは芸名です。

●酒場
 こじんまりとしているけれども温かみある酒場。
 冒険者たちの薄い懐に優しい人気の店だそうです。
 クラリティが下積み時代に歌っていた酒場。そのことを知るのは関係者と酒場のオーナー夫妻だけ。
 小さなステージがありますが、注目されるのは難しいでしょう。
 頼めばメニューの注文もできそうです。

●できること
 ・ステージを綺麗にする
 ・歌姫を護る
 ・ラストステージを宣伝する などなど

 これはあくまで例であり、すべてをクラリティが望んでいるとも限りません。
 皆さん自身で考えて、クラリティの最期を素晴らしいものにしてあげてください。

●その他
 染のライブノベルはアドリブアレンジが結構つきます。
 それはやめてくれ!といった方のみアドリブ不要とプレイングにお書きくださいね。

 それでは、クラリティの最期を、宜しくお願い致します。

  • 死ぬならば、舞台で。完了
  • NM名
  • 種別リクエスト(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月24日 22時05分
  • 参加人数2/4人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
※参加確定済み※

リプレイ

 ――何のために、歌っていたのだろう。


 取り分けたサラダはあまりにも瑞々しかった。
 まんまるなたまごをトングで潰せば、心に溜まった暗い気持ちも溢れるだろうか。
 クルトンとベーコンを添えれば、彩り鮮やかなサラダはブーケのようだった。
 クラリティはぼんやりとその手元を眺め、はっとしたように笑みを浮かべた。
「あなた達が依頼を受けてくれたのよね。ありがとう、助かるわ」
「ううん、大丈夫だよ……それより、ちょっとお疲れみたいだから…まずはクラリティさんも座って」
 『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は立ち上がりクラリティの分の椅子を引いた。クラリティは小さく礼をし、その椅子に腰かけて。
「温かいスープ…ポトフなんかどうかな」
「あら、いいわね。近頃冷え込むから……すみません、ポトフをお願い。それから、エールも三つ」
「わ、ワタシ、未成年……」
「おっと、それはいけないわね。であれば、エール二つとオレンジジュースを一つ」
 細い手だ。妙に細い。それは栄光の代償か。
 問うことは出来なかった。彼女の笑顔は崩れれば戻るとは思えなかったからだ。
「歌えん奴を無理に歌わすほど若くはないさ。よくある話だ。
 舞台に憑りつかれた奴は、結局どうしても戻って来るからな。その時に、また歌えばいい。己を恥じることなどなく」
 眉を上げ笑った『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は口の周りにエールの髭を作りながら笑った。
「だから、一時の物であれ、終幕は美しく。フィナーレにエゴをぶつけてくる奴は、お引き取り願おう」
「ええ、そうして頂きたいの。だからこそ、あなたたちの出番ってわけね」
「うん、頑張る……」
 きんと冷えたオレンジジュースはやけにすっぱくて、苦しくて。飲み干してしまえばその苦しさも忘れるから、フラーゴラは勢いよくコップを空にした。
(これは、クラリティの問題だからな。まあしかし、依頼してきたということは躊躇いがあるのだろう。なにかが)
 当の本人は届いたポトフにご満悦。ウインナーに勢いよく噛みついて、スープを飲んで。ただ、その顔に綺麗に張り付けられた笑顔の仮面が崩れることは、一度たりともなかったのだけれど。


 ――私の歌で、何か変わった?


「喉の慣らしの為に、簡単な曲を一ついいかい?」
「ええ、もちろんよ」
「はは、ありがとう。冒険家で詩人でギター弾き、そんな生き方は人に勧められるもんじゃないさ。おれは気が付いたらこうなっていた」
「ううん、ヤツェクさんだって戦いだってギターだって出来るんだよ…凄いことだよ。
 歌だけだと歌が上手く行かなかった時にきっと袋小路に詰まるはずだから……」
「人生のもしを考えたことがない、と言えば嘘になる。
 が、結局人はなりたいようにしかなれない。アンタも自分のありたい姿でいられればいいな」
「……そうね」
 室内に流れ出すチューニングの音色。ヤツェクの固い指先がギターの弦を弾く。
「だから、アンタの聞かせたい奴に、今日の歌が届くといいな。
 ところで、歌うのは、好きなのか? どうして歌い続けていた?」
「どうしてって……それしか、生き方を知らなかったからかしら。
 学校を出て、普通なら高校に行ったり、アルバイトをしたりするでしょう。だけど、そんなありふれた青春は私にはなかったから。そうやって歌って、お金を稼ぐしかなかったから……かしらね?」
「そっかぁ……ワタシも好きな人との恋が上手くいかないとか、好きな人がいなくなったりしたら落ち込むんだろうなあ…」
「あら、可愛いわね。好きな人……その気持ちも、大切にしなさいね」
「……クラリティさんは、好きな人はいたりしなかったの?」
「私? うーん……忘れちゃったわ」
「そっかあ……」
「ま、そんなこともあるさ。それより、何を歌いたいか、聞こう。それに合わせよう」
「そうね……しっとりした曲を歌うつもりだから、そんな感じでお願いしても?」
「ああ、任せてくれ」
 チューニンフは終わり、試しにと奏でられたメロディにクラリティは目を伏せた。
 そんな様子を、陰から見つめるものが居ることも知らず。


 ――私の歌、は


 歌姫、と呼ばれるだけあって、彼女が「売り物」にしているその声は、それは美しく、人々の心を魅了するものであった。
 人々の小さな歓声が渦を巻いた。
 が。
 それにつられるように、ろくでなしが歌姫の歌を阻む。
「おいおい、こりゃあのクラリティじゃねえの? 近くで見るとやっぱべっぴんさんだねえ」
「あっは、そうだなあ! クラリティさん、こんなくっせえところにいるなら狙いは……ははっ」
「おいおいおいおい、そりゃあ野暮ってもんじゃあねえの?」
 下賤な輩は美しい音色を汚し、苛んで。
 クラリティが眉を顰め、思わず歌うのをやめようとした。それを静止したのはヤツェクだ。
「いいや、続けるんだ」
 陽気に笑ったヤツェクが頷けば、クラリティも頷き返し、喉のチューニングを続ける。
「おいおい、無視か、よッ?!」
「おっと、済まないな。足が長いもので、ついひっかけてしまったようだ」
「んだと?!!」
「くそが、やっちまえ!!」
 敵が三人を囲む。クラリティは思わず声を震わせた。が、ヤツェクの音は彼女を支え、フラーゴラがクラリティを庇った。
 ナイフがフラーゴラの頬を掠め、男たちの拳がフラーゴラを襲う。が、フラーゴラは男達の腹に拳を埋め、雄叫びのように荒々しい雨を思わせる肉弾戦を仕掛けていく。
「ワタシはこうやって戦いも、恋も、イレギュラーズの仲間とだって…! やりたいこと全部全部してる…!
 ワタシは欲張りだから、だからクラリティさんも、きっと…!」
 狼は吠えた。
 狼は歌った。
 その在り方を。高らかに。
「……そう、ね」
 クラリティは笑った。寂しげに。小さく。


 ――そうだ。私は、


「ごめんね。さっき、嘘を吐いたわ」
 薄く笑ったクラリティは、フラーゴラに向けて頭を下げた。
「どういう、こと……?」
「いたわ。私、好きな人」
「!」
「……私は、その人に振り向いてほしくて。だから、歌を歌っていたの。でももう、そんなことも忘れちゃうくらいに、疲れちゃったの」
 まだ少女だった乙女にとって、芸能界とはどれほど残酷で、残忍だっただろう。
 その才能を護る術を与えられず、実力だけで勝ち上がり、「歌姫」の称号を得るころには。すべてを犠牲にしていたのだ。
 それは、愛しい人への思いすらも。
「……人は間違えてでも、選択しながら生きていかなきゃいけない。見守って、転びそうになったら手を差し出すのが、外野に出来ることだ」
「クラリティさん……ワタシは、歌ってほしいな。今のクラリティさんにしか、歌えない歌が、あるはずだから」
「……! そう、ね。今宵は、ラストステージだもの」
「いいや、無理にやめることはないさ。お前さんがそれを望むのなら、またもう一度歌いつづければいい。
 一度きりの人生なんだ、楽しめばいいさ。そうだろう?」
「うん、私もそう思うよ……」
「そう……」
 彼女が芸能界を引退するかは、まだわからない。ただ、二人の言葉がクラリティの心を打ったのは確かだ。
 何故ならば。彼女のその瞳に、表情に、立姿に。迷いの色は、もう滲んではいなかったからだ。
「さて、クラリティ。舞台の時間だ」
「ええ、わかってる。それじゃあ、行ってくるわね」
 そうして舞台に上がったのは、「歌姫」クラリティではない。ただの女。ただの歌い手。
 原初にして原点たる、はじまりのひの少女ただひとりだったのだ。

成否

成功

状態異常

なし

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