シナリオ詳細
<Noise>ヘビーラッシュVSヒーローズ(仮)。或いは、エンドロールのその直前…。
オープニング
●紫煙燻らす総監督
見渡す限りに広がるそれは、壊れた機械の残骸だった。
その中央には、これまた機械で出来た巨人が寝かされている。
全長にしておよそ10メートルほどはあるだろうか。
左腕と下半身は欠損しており、自力で動くことは出来ないその巨人だが、目に当たる部分には赤い光が灯っている。
半壊状態にありながら、それは未だ稼動を続けているのである。
ところは練達。
郊外にある廃棄場。
ゴミの山の頂に立つその男は、メガホン片手にゆるく紫煙を燻らせていた。
「うぅむ……参ったな。少し強く造り過ぎたか?」
男の視線のその先には、先にも述べた巨人の姿。
巨人までの距離はおよそ40メートルほどか。
それ以上近づいてしまえば、巨人は彼を敵とみなして襲い掛かる寸法なのだ。
「監督! どうするんです? 監督がリアリティのある画が撮りたいってんで、あっちこっちの発明家に協力を頼んだ結果がコレですよ! こっちで用意した演者じゃ、あれはぜったいに倒せない!」
ゴミ山の頂に立つ男へ向け、そう叫んだのは若い女性だ。
大きなカメラを担いだ彼女の役割は“撮影”。
また、その周囲には他にもカメラやマイクといった機材を抱えた若い男女が複数人。
つまるところ、彼らは映画の撮影隊だ。
「だろうな。何しろあれは……ヘビーラッシュは、この映画のラスボスだ。クライマックスで大暴れする怪物だ。怪物がグーパンの1つや、鉛玉の1発で沈むか?」
「沈まないから困ってるんですよ。どうするんです?」
「どうするって、倒すしかねぇだろ? とはいえ、あいつは【紅焔】を吐き、どんな奴でもぶっ【飛】ばして、【必殺】のビームを撃つからな。おまけに【氷結】効果の付いた弾を撃ち出す護衛付き。温くねぇぞ」
「沈まねぇの温くねぇのと、あんたが企画して取り付けさせた機能でしょうが! 何か無いんすか、緊急停止ボタンみたいなの」
「あったよ。あったが、しかし……壊れちまったみたいでな」
咥えた煙草を唇で揺らし、監督と呼ばれた男は盛大な溜め息を零した。
撮影係の女性は、その言葉を聞いて驚愕に口をあんぐりと開く。
硬直すること数秒、彼女はようやっと正気を取り戻し、悲鳴のような声をあげた。
「そ、それってあれじゃないですか!? 最近、セフィロトで起きてる異常事態の関連なんじゃ……!」
「うん? あれはドーム内だけの出来事……あぁ、いや。そうか、既にイカれていたヘビーラッシュを、ドームの外に持ち出しちまったのか」
参ったな。
本日何度目かのその台詞を監督は口の端に乗せた。
それから、ふと思い出したように監督は言う。
「アレを倒せる奴を雇うか? そしたらよ、すげぇリアリティのある画が撮れると思わねぇか?」
「はぁ? 今いる演者はどうするんです?」
「もちろんそのまま起用するさ。要するにスタントマンってやつだよ。幸い、まだ他のシーンは撮ってねぇからな、なんとでもなる」
「はぁ?」
「分かんねぇか? 演者どもにアレを倒させるんじゃなくてな、アレを倒した奴らを演者に演じさせるんだよ。ピンチをチャンスにってやつだ!」
ふぅ、と紫煙を吐き出して監督は今日一いい笑顔を浮かべて見せた。
そんな監督の顔を見て、撮影隊は「あぁ、また徹夜が続くのか」なんて、げんなりとした顔をする。
●クランクイン
「銀幕スターになりたいかー!」
拳を突き上げ『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はそう叫ぶ。
返事は無い。
彼女が何を言い出したのか、その場に集った面々には理解できなかったからだ。
しかし、そんな周囲の冷たい反応にもめげずにユリーカは1冊の本を取り出す。
本のタイトルは『ヘビーラッシュVSヒーローズ(仮)』。
監督と呼ばれた男の書いた脚本だ。
「それぞれの思惑、目的から練達に集った数人の男女。彼らは時に反発し、時に協力し合いながら、練達に現れた機械の巨人を打ち倒す……と、大まかなお話の流れはそのようなものなのです」
そして、ラスボスとして設定された機械の巨人が、冒頭に登場した“ヘビーラッシュ”というわけだ。
ヘビーラッシュは機械廃棄所の中央に存在し、半径40メートル以内に入ったものへ襲い掛かるよう設定されている。
映画に出演する演者たちが、協力してそれを倒すシーンを初めに撮影する予定となっていたらしいのだが……。
「強くし過ぎて、易々とは倒せなくなってしまった、ということらしいのです」
そのため撮影は先に進まないでいる。
初めに他のシーンを撮影しても良いのだが、人を襲う可能性のある機械を長く放置するわけにもいかない。
また、監督のこだわりにより、クライマックスのシーンだけは本物の戦闘風景を撮影したいということだ。
「皆さんがヘビーラッシュを倒すのです。その後、演者さんたちは皆さんに扮して、残りのシーンを撮影する……おわかりなのです?」
なんて。
どこか演技っぽい仕草でユリーカは言った。
何かの映画作品の真似だろうか。
おそろしいほど“様”になっていない。
「また、ヘビーラッシュの周囲にはクモに似た僚機“ガーディアン”が2機控えているです。そっちも格好よく壊してほしいとのことです」
ヘビーラッシュおよびガーディアンの撃破。
依頼の内容としては簡単なものだ。
しかし、幾つか注意すべき点もある。
「まず1つ目は足場の悪さですね。ゴミ山ですので、当然それが【崩落】して生き埋めになる危険もあります」
また、戦場には撮影隊が入ることになる。
彼ら彼女らの安全確保も必要だろう。
「そして2つ目……これが“映画のクライマックス”ということです」
なるべく格好よく、時には少しコミカルに、そして決着は派手に決めることが要求されるのだ。
なぜなら映画のクライマックスとは、得てしてそういうものだから。
「マイクも入っていますからね。できれば台詞にも気を配ってほしいというのが監督からの要望なのです」
本来であれば、監督の要望を突っぱねることは容易であった。
しかし、件の監督であるがローレットに対し非常に協力的かつ情報通ということもあり、組織として仲良くしておきたいというのも事実。
また、依頼の内容は、監督が大金を注ぎ込んで作ったヘビーラッシュを破壊すること。
ヘビーラッシュの制御が狂っているとはいえ、ローレットの目的と監督のオーダーは相反するものではないのだ。
人命の保護という手間こそ増えるが、言ってしまえば“その程度”のこと。
いつもやっていることだろう、と言われれば、なるほど確かにその通りではある。
「映画の撮影とか……本当そんな悠長なことを言っている場合ではないのですが」
なんて、言って。
ユリーカは、ひどく重たいため息を零した。
- <Noise>ヘビーラッシュVSヒーローズ(仮)。或いは、エンドロールのその直前…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月27日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●scene1
「回せぇ! カメラを回し続けろぉ!」
ガラクタで出来た山全体に、汚い親父の怒鳴り声が響き渡った。
片手にメガホンを持ってはいるが、主に振り回すために使っている。本来の用途を果たしていないが、しかし彼の声は十全に、誰の耳にも届いていた。
「凱歌は私が奏でよう……舞い踊ってくれたまえ、英雄たちよ!」
便乗して『廻世紅皇・唯我の一刀』皇 刺幻(p3p007840)もまた、仲間たちへ指示を飛ばす。燃えるような紅い髪が、風に靡くその様を見て、監督はおや? と小首を傾げる?
「お前さん、さっきまで男じゃなかったか?」
「性別がそんなに大事か? 画として映えれば、それでいいじゃないか」
「……それもそうか」
よし、と気を取り直した監督は、眼前にそびえる機械の巨人“ヘビーラッシュ”を見据えると、次の指示を飛ばすのだった。
「さぁ、あいつをぶち壊してくれ!」
こうして、波乱の映画撮影は幕を開けた。
「まずはひと当てして、ヘビーラッシュの強さをアピールするんだ! 抜かるんじゃねぇぞ!」
ゴミ山を転がるように滑り落ちながら、監督は叫んだ。
その指示を受け、真っ先に動き始めたのは『上級大尉』赤羽 旭日(p3p008879)だ。カメラマンの1人から、カメラを1台借り受けると、仲間たちの頭上をぐるりと、雄姿を撮影して回る。
「さて……裏方かな。エンドクレジットには乗せてくれよ?」
タイミングよく、ヘビーラッシュが鋼の巨腕を振り下ろす。
巻き起こされた土煙の中、1人、2人と仲間たちが姿を見せた。
各々の得物を手に取って、さぁ仕事の時間だ、とでも言うように、悠然と歩むその姿はまさしく強者のそれである。
「なかなか面白いことを言うね~というか素敵に無茶ぶりな感じ? まぁ依頼だから多少は努力はしてみるけど」
ごうん、と機械の唸る音。
粉塵を散らし『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)がバイクを駆って疾駆したのを皮切りに、残る皆も一斉に駆け出したではないか。
「映画撮影! じ、自分こういうの初めてでありまして……」
きっちりとした、しかしどこかサイバーチックな制服を着た青年……『特異運命座標』ムサシ・セルブライト(p3p010126)がそう零せば、隣を進む『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)も無言で首肯し同意を示す。
語尾に「にゃ」を付ける口癖ゆえに、ちぐさは発声を控えているのだ。
旭日が急に高度を下げた。
カメラがずいっと寄る先には『ヒーロー志望』山本 雄斗(p3p009723)の姿があった。
「わー、凄い特撮に出演できるなんて夢みたい!」
喜色満面である彼は、カメラが自分を向いていることに気が付いたのか、キリリと顔を引き締めて、腰に手をあて、片腕をまっすぐ胸の前に掲げて見せる。
「ロール、チェンジ‼」
光が瞬き、アップテンポのBGMが鳴り響く。
まずはブーツ、次に手袋、衣服はヒーロー然としたものに閃光と共に切り替わり、最後に頭をヘルメットが覆う。
円らな瞳を、黒いバイザーが覆い隠せば、それで変身は完了だ。
その間、実に0.05秒。
「早いな! では、変身のプロセスをもう1回見てみよう……ってナレーションを入れて、スローモーションで変身バンクをもっかい流すか?」
監督が零した呟きを、アシスタントを務める男が素早くメモに書き記す。
「悪い風が吹いてるな……」
そう呟いた『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は、手にしたギターをひと掻き鳴らす。
キマっただろうか?
ちら、と視線を横へ向ければ、カメラマンとマイクスタッフが揃って「グッド」のサインを返した。
先制したラムダが、蜘蛛型ロボット“ガーディアン”の躱しながら、ヘビーラッシュへと肉薄。
ガーディアンは、雄斗の拳とムサシ、ちぐさの狙撃を受けて動きを止めた。
ラムダの放った斬撃が、ヘビーラッシュの鋼の腕に受け止められて火花を散らす。軋むような咆哮をあげ、ヘビーラッシュが拳を地面へ打ち付ければ、衝撃に飲まれラムダの体はボールのように弾かれた。
吹き飛ばされたラムダの真下を駆け抜けて、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はゴミ山の頂上へと至る。
「さあ、Step on it!! 行きますよ!」
低く腰を沈め、大きく振りかぶるは巨大なテーブルナイフ“ハーロヴィット・トゥユー”。
一閃。
金の髪を風に躍らせ、ウィズィはナイフを振り抜いた。
衝撃を浴びたゴミ山が、ガララと大きな音を鳴らして崩壊を開始。
ウィズィがゴミを足場に駆け下りて……ヘビーラッシュはゴミ山の中に姿を消した。
最後にひとつ、足掻くように伸ばした巨腕は、あと数メートルといったところで、ギリギリウィズィに届かない。
●scene2
「次はヘビーラッシュと交戦しながら、ガーディアンを撃破してくれ! いいか! あっさりと片付けすぎるんじゃないぞ! いい感じに苦戦しつつ、派手にぶっ壊してくれ!」
相も変わらず煩い男だ。
引き止めている刺幻の顔にも、呆れと焦りが滲んでいる。
何しろこの男、少し目を離した隙にカメラを持って、最前線へ向かっていくのだ。
齢40は超えているのに、赤ん坊より目が離せない。
「宇宙保安官として、この星の治安を乱す貴様をデリートする! ……であります!」
ムサシの指さす先に居たのはガーディアンだ。
銀の体に幾つもの弾痕を残したそれは、ギリ、と歯車の回る音を立てガラクタの山を疾駆する。
ムサシはまっすぐ、迫る巨体を見据えると両手で銃を構えて低く腰を落とした。
引き金を絞る。
火花が散って、弾丸が射出された。
空の薬莢が斜め後方へと散る。
疾駆する弾丸は、狙い違わずガーディアンのメインカメラを撃ち抜いた。
だが、ガーディアンは止まらない。
身体に備わる無数の刃を展開し、盾のように分厚い装甲でムサシの弾丸を受けながら、ただがむしゃらに前へ、前へと疾駆する。
「くっ……軍属でないものがまだ戦っているのだ!」
跳躍。
刃がムサシを貫く直前、風を切り裂き1つの影が飛来する。
ムサシとガーディアンの間に割り込んだ旭日は、その両腕でガーディアンの頭を掴み、動きを止めた。
刃に抉られ、旭日の手や肩、胸からは血が流れ始める。
「私が――私達があきらめるわけにはいかない!」
翼を広げ。
地面を蹴って。
ガーディアンを抱えたまま、旭日は低く飛翔した。
加速を乗せた旭日の疾駆に巻き込まれ、ガーディアンは仰向けになって地面を削り、転がっていく。
晒された腹部は、背中に比べて装甲が薄い。
血塗れた旭日がトドメを刺すべく立ち上がるが、よろり、と堪らず姿勢を崩した。
しかし、そんな旭日をムサシは寸でで支えて見せる。
そして、彼が構えた銃はまっすぐガーディアンの喉元を捉え……。
「全弾くれてやるさ、特等席でな……であります」
ジェットパックを巧みに操り、雄斗は斜め前方へ向け跳び上がる。
ガーディアンの放った弾丸を回避し、数メートルほど上空へ。
直後、先ほどまで雄斗の立っていた位置へ、冷気を纏ったガーディアンが降ってきた。
ガラクタの山を崩しながら、ガーディアンは首をもたげて、頭上の雄斗を仰ぎ見る。
「仮面特異点、ローレリアン参上。悪の組織の好きにはさせないぞ!」
半身を逸らし、腕を大きく振りかぶった雄斗の姿がそこにはあった。
右手に剣を、左手に盾を。
輝く魔力が剣を多い、まるで地上に落ちた星のようではないか。
ガーディアンは脚を曲げて、力を溜めた。
跳躍し、空中に留まる雄斗を斬り裂こうという魂胆か。
8本の脚をバネのようにして、地面を蹴った、その瞬間……。
「……ふっ!」
地面を滑るように駆けていたちぐさは、その足下へ目がけて魔力弾を撃つ。
足場が崩れたことにより、ガーディアンの跳躍は不完全に終わった。傾いた姿勢で、無防備な側面を雄斗に晒している状態だ。
それと同時に、雄斗のチャージも完了。
一際、剣の放つ輝きが強くなったのを確認し、ちぐさはカメラマンへと合図を送った。
“今が撮る時にゃ”
口の動きだけでそう伝えれば、カメラマンは小さく頷きガーディアンへとレンズを向けた。
余波に備え、ちぐさはカメラマンの斜め前で立ち止まる。
そして、その時は訪れた。
雄斗が剣を一閃させれば、光輪を散らす魔力の刃が解き放たれる。
それはまっすぐ、ガーディアンの側面へと命中。
装甲に大きな裂傷を刻み、2メートルの鋼の体をガラクタの山へと叩き落とした。
舞う粉塵を突き破り、ガーディアンが飛び出した。
剥き出しになった全身の刃が、低い位置へ降りてきていた雄斗の体に突き刺さる。
盾も剣も、突進の勢いに押されて後ろへ弾かれた。
手放してこそいないが、軽々とは振れない不自然な姿勢だ。ともすると、肩関節が外れているのかも知れない。
「う、ぐぁ!?」
短い悲鳴をあげた雄斗が、ガーディアンもろとも地面を転がる。
体中を斬られたのだろう。
血溜まりの中、雄斗はもがく。
そんな彼を助け出すべく、ちぐさは駆けた。
風のように。
或いは、1匹の獣のように。
オーラの刃を備えた剣を腰の位置に構えたちぐさは、ガーディアンへと肉薄。
その耳に、猛るギターの音色が響いた。
アップテンポなメロディーが、内なる獣の闘争心をかき立てる。
知らず、口元に笑みを浮かべたちぐさは、大上段に剣を構えて体ごとガーディアンへとぶつかっていった。
ふぅ、と小さな吐息を零し。
ヤツェクはギターの弦を、指の先で叩くように弾き鳴らした。
「滾るねえ」
紡ぐ言葉は少ない。
しかし、彼の心情はギターの音色が雄弁過ぎるほどに語り、響かせる。
力強くも、小気味のよいアップテンポが鳴り渡る。
タッピング……ハンマー奏法とも呼ばれる技術を遺憾なく発揮し、鳴らす音色はウィズィ、そしてラムダの闘志を否応もなく上昇させた。
「love trembling love……」
ハスキーな歌声。
それは、戦士たちへと捧げる歌。
どこか悲しく、しかし胸を熱くする。
ガラクタの山を押しのけて、ヘビーラッシュが身を起こす。
崩落に巻き込まれた為か、幾らかはその装甲にへこみや傷が残っていた。
しかし、見上げるほどの巨体は健在。
本より下半身や片腕が存在しない不完全な体だが、威容は微塵も損なわれてはいなかった。
「さぁ、どうする! ヘビーラッシュが本気を出したぞ! 生半可な覚悟で受け止めきれる強さじゃねぇ!」
勝手なことを喚く監督を、意識の外へと追いやってウィズィは顔にかかる金の髪を掻き上げた。
その頬を、つぅと一筋汗が伝う。
「これはなかなか……」
「あの程度の倒壊だとこれが限界か……それじゃあラストバトルと行こうか」
ウィズィとラムダが、武器を構えるのと同時。
ごう、と空気が震える音をたてながら、ヘビーラッシュが業火を吐いた。
ゴミ山が燃え、黒い煙が立ち上る。
噎せ返る撮影スタッフを、旭日やムサシがフォローしながら後ろへ下げた。
「お前らの映画へ対する情熱は、しかし本物の業火ごときに負けんのか!」
ただ1人、監督だけは制止を振り切り前へ出た。
カメラもマイクも手にしないまま、一体何をしに行ったのか。
けれど、しかし……。
「っと、そこまでだ。死体じゃメガホンを振れないだろ?」
最前線へ出る前に、ヤツェクに止められている。
その姿を見て、撮影隊は安堵の吐息を零すのだった。
監督の肩にそっと手を置き、刺幻は怪しく微笑んだ。
獣のような、悪魔のような……ぞっとするほど美しい笑みだ。
「監督、あのデカいのが膝を着く瞬間とか見たくないですか?」
「あ? あのデブツをか? いけんの? 本気で?」
「……ふふっ、私にお任せを」
そう言って刺幻は、刀を抜いて肩に担ぐ。
契約はここに成った。
巨腕が地面を殴打する。
飛び散る瓦礫に、ヒビ割れる大地。
衝撃を間近で受けたウィズィが地面を転がる。
「あっつ!? あぁ、もう……大ぶりだけど一撃が重すぎるよ」
その様子を見たラムダは、舌打ちを零し悪態を吐いた。
がらり、と音を立てながらウィズィはガラクタを押しのけ立ち上がる。
「っ……負けない。負けられない、絶対に!」
額から血を流しながらウィズィは吠えた。
質量の差が、もろに戦況に影響している。
2人の攻撃は、確かにヘビーラッシュの体を傷つけるが、致命傷を与えるにはほど遠い。
数を重ねればそれも叶うのだろうが、先に体力が尽きるのは2人の方だろう。
「特に腕と胸の装甲は分厚いね……狙うなら顔面かな?」
なんて。
ラムダがぼやいた、その直後……。
「さぁ、我が魔曲に崩れ落ちろ!」
ヘビーラッシュが拳を上げた瞬間を狙い、4条の魔光が放たれた。
刺幻の放った4条の魔光は、絡み合うようにしてヘビーラッシュの腰へと命中。
ちょうど、腕を振り上げた不安定な姿勢だったこともあり、ヘビーラッシュはバランスを崩し頭から地面へ倒れ込む。
「ナイス! ナイスゥ!」
轟音の響き渡る中、監督の歓声がやけにうるさく木霊した。
●scene3
砂埃が立ちこめる。
その奥で、ぼんやりと……しかし、確かに何かが目映く輝いた。
背筋に走った悪寒に従い、ラムダはガラクタの山から跳んだ。
直後、ラムダの背後を光線が射貫いた。背を僅かに焼かれたラムダは、苦悶に顔を歪めてガラクタの山を滑り落ちる。
「悪あがきの好きな機械だな」
そう呟いたラムダの横を、ウィズィは駆け抜けていく。
じゃらん。
ギターの音が鳴り響く。
五月蠅いほどに激しい音色は、まるで戦場の喧騒にも似ていた。
耳障りなはずの爆音はしかし、不思議とウィズィの戦意へ薪をくべるのだ。
砂埃の中を突き抜け、ヘビーラッシュの眼前へと至ったウィズィは愛用の巨大なイフを躊躇なくその眼窩へ突き刺す。
装甲が厚くて抜けないのなら、装甲ごと引っぺがせばいい。
鍛えた体の全てを使い、ナイフを奥へ、奥へと突き込む。
「こんな……こんなガラクタなんて、一気に!」
ギシ、と。
軋む音がして、ヘビーラッシュの顔面にほんの少しの罅が走った。
ヘビーラッシュの口腔に、赤々とした火炎が踊る。
顔面に張り付き、装甲の破壊を続けるウィズィはまだそのことに気づいていない。
ゆっくりと、ヘビーラッシュはその顎を開き……。
直後、飛来した人影が強引に開きかけた顎を体当たりにより閉じさせた。
暴発。
爆炎と衝撃がヘビーラッシュの顎ごと人影……旭日の体を吹き飛ばす。
「これは死ではない。人類の勝利のための――」
火炎に飲まれる旭日はそう呟いて……。
「っぅおおおお!」
ウィズィの雄叫びと共にヘビーラッシュの顔装甲は破砕した。
半壊したガーディアンが、ゆっくりと顔を持ち上げる。
口腔に覗く銃口を、駆けるラムダへ向けていた。
ちぐさと雄斗がそれに気づくが、距離が遠く間に合わない。
刺幻は咄嗟に魔法陣を展開するが遅すぎた。
元より、撮影スタッフの警護に当たっていた3人には、十全なカバーは望めない。
駄目か、と誰もが思ったその時だ……。
銃声。
ガーディアンの弾丸は、間に割り込むムサシの腹部を撃ち抜いた。
血を吐きながら、ムサシは銃を持ち上げる。
「正真正銘、これが最後の1発であります!」
ガーディアンの眉間へと、鉛の弾を撃ち込んだ。
きっと今頃、主題歌なんかが大音量で流れているのだ。
そんなことを思うほどに、ラムダは不思議と冷静だった。
黒い外套や破れ、銀の髪は砂まみれ、白い肌には焼け焦げた後。
汗と血と泥に塗れ、刀を手に疾駆する。
よろり、と脚はもつれ、息も絶え絶えといった有様。
決して雄々しい姿ではない。
否、むしろ弱々しいとさえ言える。
けれど、それでも彼女は美しい。
命を賭して戦う戦士の姿を目にし、笑う者などどこにいようか。
「君に恨みはないけれど……仕事は完遂する主義でね」
なんて。
囁くようにそう言って。
剥き出しになったヘビーラッシュの顔面に、刃を突き立てるのだった。
呆気にとられる撮影班。
それを横目に立ち去っていくヤツェクがいた。
一方監督はと言うと、涙を流し、声を張り上げ、嬉しそうに両の腕を振り回していた。
「エクセレント! DestinyもMARVELOUSも西映も越えたぜ、こりゃぁ!」
映画史に残る名作になる。
そんな確信があったのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
ヘビーラッシュは無事に撃破され、クライマックスシーンの撮影は終了。
依頼は成功となります。
この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
ヘビーラッシュ&ガーディアン×2の破壊
●ターゲット
・ヘビーラッシュ
10メートルほどの機械の巨人。
左腕と下半身は欠損している。
半径40メートル内に立ち入った者を敵とみなして戦闘を開始するよう設定されている。
また、現在ヘビーラッシュは外部からの制御を受け付けない状態にある。
『ヘビーラッシュVSヒーローズ(仮)』におけるラスボス。
バックドラフト:神中範に大ダメージ、紅焔
口腔より爆発じみた火炎を吐き出す。
チャンプ:物中単に中ダメージ、飛
右の拳によるパンチ。
ラストターゲット:物遠貫に大ダメージ、必殺
目の部分から放つ光線。
・ガーディアン×2
ヘビーラッシュの僚機。
蜘蛛に似た形状をした、2メートルほどの機械。
頭部や脚には刃が仕込まれているほか、盾のような装甲を纏う。
ガードシステム:物近単に中ダメージ、氷結
着弾地点を凍らせる特殊弾丸を射出する。
・監督および撮影隊×7
今回の依頼人たち。
撮影に関わる人数はもっと多いが、今回戦場にまで出張って来るのは合計7人。
過酷な現場で撮影を行う撮影隊はそれなりに動けるし、避ける。
しかし監督は明らかに運動不足のようだ。
また、長年の不摂生と喫煙の習慣が祟り、長い時間動き続けることが出来ない。
●フィールド
練達。
機械の残骸が山と積まれた廃棄所。
足場は悪く、攻撃により倒壊する可能性もある。
ゴミに埋もれてしまうと【崩落】状態が付与される。
また、ゴミ山には都合7人の撮影隊がカメラやマイクを抱えて走り回っている。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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