シナリオ詳細
コングと鉄帝鬼ごっこ
オープニング
●こういうときは楽しいことをしよう
ここは鉄帝。脳筋の国。強い奴が注目され、強い奴が偉い国。
そんな環境において、かのゴリラは莫大な人気を誇っていた。
「ラド・バウA級闘士! 野生解放! コンバルグゥゥゥ――コオオオオオオング!」
「ウホアアアアアアアアアア!!」
闘技場ラド・バウ。今日はコンバルグ・コング (p3n000122)の観覧試合が開催される日だ。
S級が試合に出ることがない以上、A級闘士のバトルは実質的に最上級の娯楽となる。
特に強くて優しくてゴリラというイケメン三拍子のそろったファイターであるコンバルグ・コングの試合はチケットが飛ぶように売れるのだ。
更に言えばコングバナナ味のポップコーンは飛ぶように売れるしコングマスクを被った子供がコングの腕を摸した玩具を振りかざして叫んだりする。
芸能という点においても、コングは鉄帝の注目の的である。
そんな彼が――
「ローレット! 一緒に呼べ! ローレット、面白い! ローレット、好き! ローレット来ないなら、オレ、コノ仕事、ヤラナイ! ウホッホ! ウホッホホ! ホアァー!」
途中から知性を投げ捨てて吼え始めたコングが、ハンバーガーショップでピラミッドみたいに詰まれたハンバーガー(100個)をムシャムシャ食いながら言った。
『この仕事』というのは、今しがた破り捨てられた『鉄帝鬼ごっこ』というイベントの企画書である。
「それでミーを?」
隣で三段のハンバーガーをむしゃりとかじった郷田 貴道(p3p000401)がぽつりと漏らす。
貴道の向かいの席に座って居たDDという男が苦笑して肩をすくめた。破り捨てられることは予測していたらしく、鞄からもうひとつ企画書を取り出してくる。
「今から二年くらい前か。コングの旦那とエキシビジョンマッチをしただろ? あのときの――」
「あの時のパンチは良かった」
急にウホウホするのをやめたコングが、真剣な顔つきで貴道のほうを見た。
「あれから二年。普通の奴なら大して変わらない。けれど、お前達は急速に成長した。オレは、オマエたちの進化を味わいたい」
貴道はそれに対する返答を、どうすべきか迷った。
ラド・バウA級闘士というのは、強さの次元が常人から遥か上に振り切ってしまった逸脱者たちの集まりだ。貴道の世界にもそういう逸脱者は多く居たが、その誰もが同じような孤独に苛まれる。
『これ以上強くなって何になる?』という寂しさと、『強いせいで勝負の舞台から外される』という孤独。それゆえに闇に墜ちた者だって少なくない。
コングが表舞台に居続けるには、どんな心境が――。
「テリヤキバーガー! ウマイ! あと100個喰う! ウホウホウホウホ!」
気付けばコングがゴリラに戻っていた。さっきまでの感情はなんだったのか。
貴道はHAHAと爽やかに笑って企画書を受け取った。
「オーケー、あれだけ熱烈にラブコールされて応えないって選択肢はないよな」
●鉄帝鬼ごっこ
説明しよう!
鉄帝鬼ごっことは鉄帝ラド・バウ運営委員会がたまに行うファン向けイベントのひとつである!
ファイターを『鬼ごっこ』の鬼にして、限られたフィールド内で一般参加者が逃げ続けるというゲームである。
大抵の場合は体力豊かなファイターが大半のプレイヤーを捕まえ、僅かに残ったプレイヤーが商品としてなんかキラキラしたメダルやファイターの直筆サインブロマイドといったファン向けの景品がもらえるのだが……。
「この旦那、『手加減』って言葉を知らねえ」
「だろうな」
街を破壊しながら進むコングの後ろ姿を見て、貴道は深く頷いた。なんかもう日常の行動からして周りを破壊するのだ。
街の人達が『コングさんにバイクが潰された! 縁起が良い!』とかいって喜ぶしDDが秒で小切手を切って渡すので誰も困ってないらしいしかえって人気というのが鉄帝のぶっ飛んだ感じをかもしているが……。
「ある程度以上に頑丈でタフな奴でないとコングの旦那が一人残らず捕まえちまう。それもすぐにな。途中にあるものをドカドカぶっ壊すもんだから見てる方は楽しいらしいんだが、すぐに終わるせいでイベント運営チームは困っちまってる。
もっと言やあ、コングの旦那は闘技場のバトル以外に興味がねえからこういうイベントに出たがらねえ。
そこで――」
「両方の問題を解決するのがミー……いや、ミーたちローレット・イレギュラーズってわけか。なるほどな」
コングの生き方は、極論すれば『我慢しなかった貴道』だ。なら、そいつが幸せになって、周りも楽しませて、そんでもって自分たちにまで金がはいるなら万事ハッピーってもんだろう。
DDは頷いて話を続けた。
「会場は鉄帝にある遊園地だ。アイアンランドっつー、まあ鉄帝にしちゃフツーの遊園地だよ。観覧車があってお化け屋敷があってコースターが回ってる。そこでローレット8人対コング1人の鬼ごっこをするわけさ」
どうだい、楽しそうだろ?
DDは笑ってそういった。『ヤバそうだろ』という意味を込めながら。
- コングと鉄帝鬼ごっこ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年10月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●コングと鉄帝鬼ごっこ
いかにも鉄帝らしい遊園地『アイアンランド』は毎年のように改装工事という名の作り直しが行われるという豪快なテーマパークだ。
そして改装前には『どうせ壊すんだから』の精神で有名ファイターを呼び鬼ごっこを開催するという。
巨大モニターの前に集まった観客達は腕組みし、通で知られるオッサンがにやりと笑った。
「今年のファイターは誰かね」
「破壊の派手さでいやあハラマイトかねえ。ブラックサンが集合した時はアツかったがあの数が駆け回ると映像が追い切れないからな。観覧車をすぱすぱ斬っちまうブレイドもよかったが鬼ごっこ向きじゃねえし……」
「コングはどうだい」
「ありゃあ最高に派手な花火だが、あの人は手加減できねえからな。すぐに終わっちゃつまらねえ」
「あれにガンガンくらいつけるチャレンジャーがいりゃあ別なんだろうが……」
などと話し合っていると、モニターに咆哮するコンバルグ・コングが表示された。
ワッと沸き立ち、そして期待を込めた目で次なるチャレンジャーに注目した。
彼らの期待は――。
――『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)!
『混沌世界に降り立ったスーパーボクサー! 拳ひとつで何でも解決! ヤツの肉体には神が宿っている!』
――『雷龍』ユー・コンレイ(p3p010183)!
登録ナンバー一万台から期待の新人が参戦! 再現性九龍城からやってきたチャイニーズマフィアの実力やいかに!
――『青眼の灰狼』シュロット(p3p009930)!
過去も記憶も一切不明、謎の男がエントリー! ニュービーローレットなれど機械の目と弓の腕は一級品。噂では鉄帝ヘッズの血が流れてるらしいぞ!
――『至高の一杯』御子神・天狐(p3p009798)!
うどんの国からフライングうどん・モンスター教がやってきた! 爆速屋台とうどん戦法がコングをいかに苦しめるか!?
――『わもきち』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)!
みんな大好きガトリンアザラシ! 最近じゃジェット噴射で空も飛ぶ! アザラシVSゴリラは、キッズたちの大好物だ!
――『スチームメカニック』リサ・ディーラング(p3p008016)!
スチームパンクの世界からやってきたヘビーアームガール! 今日は荷車いっぱいのメカを惜しみなく投入する予定だ。罠は三日前からコトコト仕込んだとっておき。どんな目がでるか楽しみだ!
――『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)!
VDMランドの覇者がやってきた! 新鮮な摩耗戦法はコングに有利! 虎とゴリラのスーパービースト対決が見られるか!?
――『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)!
逃げた女は数知れず。逃げ足なら誰にも負けないサムライボーイが鉄帝鬼ごっこへ乱入してきたぞ! 自慢の俊足とスタミナで逃げ切るか、超火力戦法でぶった切るか。観客も目が離せない!
続けざまに八人のバストアップカットとスタイリッシュフォントによる名前がカットインしていく映像。
観客達はゆっくりと拳を握り、そして……。
「「YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEA!!」」
大興奮で飛び上がった。
さあ、大興奮の鬼ごっこイベントが始まるぜ!
●これはチェイスか? それともレイドか?
観覧車の上で焼き鳥を囓るサメがいた。シュロットの連れてきた陸鮫である。
彼はゆっくりと周り続けている観覧車のうえで気配をできるだけ殺しつつ、開始ブザーの音を聞いていた。
入場ゲートから入ってくるコングの姿が見える。
もうそのゲートの時点で周囲のものを破壊して歩いているし、ウェルカムゲートに至っては引っこ抜いてぶん投げる勢いだった。
お土産屋の窓を突き破って突き刺さるゲートに、フィールド外の観客達は拍手喝采で盛り上がっている。既にビールをがぶ飲みしているヤツもいた。
「理解しがたい感性だ……楽しそうなのはわかるが……」
こちらは依頼を受けた身。実際参加したら楽しそうだと思ったのも事実だ。
シュロットは弓を構え、通常よりもだいぶ高い位置に狙いを付けて放った。
料金案内のプレートにザクンと刺さる矢。距離的にははるか射程の外だが、物理的に届かないわけではない。攻撃としての意味は、もちろんない。
コングはそれをちらりと見てから、即座に観覧車の上(つまりシュロット)へと目を向けた。
望遠鏡並みの視力(機械の目で実際望遠化した)と、コングの目がたしかに合った。
「あっちも超視力を……? いや、違う!」
瞬時に弾道を逆算したのだ。コングは一直線にこちらへと向かってくる。シュロットはくつろぐ陸鮫を叩いておこすと、その場から素早く離脱した。スナイパーが同じ場所にいるものではない。
一方、コングの進行方向上にはたまたまコンレイがいた。
「ひっ! こっち来た! なぜバレた!?」
記念撮影用の顔出し看板の裏に隠れていたコンレイは焦り、ちらりと顔出し用の穴からのぞき見る。
『俺たち鉄帝マン!』という愉快な顔出し看板である。確かにコングはこちらにダッシュで近づき……そして、クンと鼻を少しだけ動かした。
「居る」
「うおお!?」
居場所を気付かれた――のと、コングが突っ込んでくるのは同時だった。
回避した、わけではない。しようとおもってできる速度じゃない。
コンレイは予めその場から飛び上がりジェットコースターの乗り場屋根へとよじ登ると、その下を破壊しながら突き進んでくるコングをかわすべくコースターユニットへと飛び乗った。
と同時に走り出すジェットコースター。初速からけっこうな速度で飛び出すスタイルらしく、固定具などつけていないコンレイは振り落とされないように安全バーを握りしめる。
「これでなんとか……」
ちらりと後ろを見ると、ジェットコースターのレールの上をゴリラローリングアタックで追跡してきていた。すごい速度で。
「嘘だろ!」
しかも追いついてくる。このままじゃ死ぬと直感したコンレイはコースターから飛び降り、支柱の一つを掴んで減速。くるくると周りながら地面へと逃れる。
それができたのも、コースターへ接触する寸前にシュロットが狙撃し注意を引いてくれていたからかもしれない。
だがここからどうする? と迷うコンレイの横に、『うどんisアート』と書かれた屋台が急ブレーキでとまった。あの自動車が見せるギュイーンってタイヤ痕残しながら横向きに滑っる止まり方(俗称スライドブレーキ)で。
屋台の主はもちろん……。
「天狐(うどんの人)!」
「乗るのじゃ」
ビッと親指で屋台側を示す天狐。一も二もなく飛びつきしがみついたコンレイと、謎の脚力で突っ走る天狐。
直後その場にあったポップコーン屋台を拳で粉砕しながらコングが墜落(着地?)してきた。
左手にはひしゃげたジェットコースターが握られ、それを思い切り投擲してきた。
「ぬおおおお!?」
天狐はバックミラーでそれを確認すると牽引レバーに仕込まれたスイッチをオン。うどん屋台からジェットノズルが片側だけ展開し、うどん汁(鰹だし)を噴射した。
強制的な、そしてアンバランスな加速によって急カーブをかけた屋台のそばをひしゃげたコースターがかすっていく。
直後にスイッチをもうひとつ入れ、更に展開したノズルからうどん汁(昆布だし)が噴射された。さっきから上下左右にゆられまくってるコンレイはそろそろ三半規管が限界だ。
「ここは引くぞい!」
広い場所は不利。この場合は暗い場所に逃げ込むのが妥当だろう。
天狐は屋台のライト(赤提灯)を発光させると広いトンネルへと入っていった。
天狐は結果として逃げ切った。
というのも、トンネル脇にあったプールの底に沈むかたちで潜んでいたワモンに、通りすがりつつあったコングが気付いたからだ。
ナックルウォークで走るその動きをとめ、フッと振り向くコング。
水中のでかい筒に縦になって入ってたワモン(上から見るとだいぶ愉快)がその気配を察知したのか、いきなりジェットを噴射して空へと飛び上がった。
「ふっふっふ、よく見つけたなコングのおっちゃん! このバナナはオイラからのおごりだからまずは食ってくれ!」
おりゃーといって専用ミサイルポットからバナナミサイルを乱射。
殺傷能力のない癒やしのバナナがコングを襲う! 襲うっていうか、キャッチしたコングが『ウマイ』て言いながら食べ始めた。
「オマエ、美味いもの選ぶ才能、アル」
「だろー?」
二人でベンチに座ってバナナもぐもぐする風景が、巨大スクリーンに映し出された。三分くらい。
それがコングのあたえたインターバルだと気付いたのは、観客だけではない。ワモンはよっこらせと立ち上がる(?)と、ジェットのスイッチをひれでぺちっとおした。
「それじゃあ再開だぜ! アザラシフライング、オン!」
顔の形がうにょーんってゆがむくらいの速度で地面と水平に吹っ飛んでいくワモン。
これだけの速度で逃げれば追っ手は来れまい……と思った直後。
真横をコングがローリングアタックのフォームで併走していた。
「速え!?」
ワモンは作戦変更。ジェットを下に向けて上空へと飛び上がると、おニューのアザラシガトリングを向けた。
「海豹牙斗燐具薙払猛怒(アザラシガトリングなぎはらうモード)!」
テロップカットインが入るくらいの勢いで叫ぶと激しい弾幕をコングへとぶちまけた。
そこへシュロットの援護射撃。攻撃が目的なのではない。ある意味これは合図だ。
何の合図かと言えば……。
「Udon EATS!」
『出前』と書かれた札を立てた天狐がジェット加速した屋台ごとコングへタックルをしかけた。
一斉攻撃をうけたコングは……。
「オマエタチ、ツヨイ。将来、タノシミ……!」
地面を両手でドンと叩いた。
いや、効果音は『ボッ』である。
大地にクレーターができ、周囲の風景が下方向に流れていく。
厳密にはコングの与えた衝撃波によって全員一斉に空へ吹っ飛ばされたのである。
へろへろになって墜落してきたところをキャッチし、コングは『つかまえた』シールをはってその場に置いた。
そして、改めてトンネルへと振り返った。
お化け屋敷。パンチで解決するのが得意な鉄帝民にとって『おばけ』は割と苦手分野である。
とはいえスリルは求めるので、お化け屋敷はちょっとした病院一棟分をまるごと使って作られていた。
そんなエリアにセンサー地雷やワイヤーとラップなど山ほどの罠を仕掛けまくったリサが潜んでいた。
どうせ見つかるだろと踏んで、わざわざ『入り口はこちら』と案内を出すまでして。
「フフフ、三日もかけて完成された完璧なトラップハウスっす。
外敵はもちろん私自身だってもう入れない鉄壁の要塞と化し――」
ボッて音がした。
続いてセンサー地雷の爆発音。
それも一個や二個ではない。凄まじい数の地雷が次々に爆発し続ける音だ。その音はとんでもない速度でこっちへ近づいてきている。
「知ってたっす!!」
罠を解くとか避けるとかじゃなく、踏み潰して突っ込んでくるのがコングである。
鉄条網やバリケードも物理的に粉砕し突っ込んできたコングは、壁に偽装して隠れていたリサへと一直線にコングローリングアタックを炸裂させた。
「所詮は時間稼ぎ。本番はここからっす!」
パワードスーツを素早く装着し、ジェットパックを作動。わざと脆くしていた壁を射撃で破壊し飛び出すと、メリーゴーランドへと突っ込んだ。
木馬を複数粉砕しながらブレーキをかけたエサは素早く反転。先ほどの穴からジャンプで飛び出してきたコングめがけて魔導蒸気機関搭載巨大火砲『Final Heaven』を力の限りぶっ放した。
このためにチューンした四連装ガトリングガンが一斉に火を噴くが、コングは弾幕をうけ火花をちらしながらも咆哮をあげ、そしてまっすぐナックルウォークで突っ込んでくる。
「ぜ、全然効いてな、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
複数の木馬と一緒に空高く吹っ飛ばされていくリサ。
コングはまっさらになったメリーゴーランドの上でゆーっくり回転しつつ、肩に手を当てた。
コングの鎧にヒビが入っている。それを取り外すと、肩から血が流れていた。
そう、効いていないのではない。効いていたが、我慢していたのだ。
「ローレット……前より、強くなっている」
どこか満足げに頷くと、コングはその場から走り出した。
「うおおおおおお!」
「ウホオオオオオ!」
リニアドライブでジグザグに立体迷路の中を駆け抜けていくマリア。
その進行方向上の側面壁をぶち破りコングが出現。マリアはリニアレールを無理矢理切り離してスライディングするとコングの腕をすりぬけ、再び起動した急加速によって距離をとる。
「それにしても相変わらず恐ろしいパワーだね! 当たったらひとたまりもないよ!」
が、この迷宮の中でマリアを追い続けている現状は好都合。その間に仲間が逃げてくれるだろう。
……とか思った直後に周りの風景がボッてした。具体的には立体迷宮が瓦礫の山に変わった。
ぷはあといって飛び出したマリアの前に、仁王立ちするコングがいる。
「そうこなくっちゃあね……」
マリアは頬に出来た傷を親指でピッとはらうと、己に深紅の雷を纏った。尋常ではないエネルギーがマリアの中を流れ、スパークする。
コングはそれに対して警戒の姿勢を少しだけみせたが、かざした手でくいくいと手招きをした。打ってこいという意味だろう。
「――はは!」
マリアは笑い、そして溜めに溜めたエネルギーをコングめがけて解放した。
一瞬にして紅蓮の分身体を無数に作り出したマリアの連続キックとパンチラッシュがコングを全方向から滅多打ちにしていく。その威力の凄まじいところは攻撃火力ではなく……。
「君の装甲は抜けなくても、APを0にするくらいなら出来るかもしれないよ?」
以前に打ち込んだMアタック戦法のはるか先へ進化した摩耗戦法。コングは思わずグオオと唸った。
そして、マリアをがしりとつかみ取る。
避けられないが、その必要もない。
コングが、歯を見せて獰猛に笑ったからだ。
「強くなったな、猫」
「虎!」
「……虎」
コングは頷き、そして振りかぶる。
「俺を最初に倒すローレットは……虎、オマエかもしれない」
そう言いながら、はるか空へとマリアをぶん投げた。
幻介と貴道の姿は、これまで見ることはなかった。
なぜなら彼らは巧みに気配を消し、コングの追跡を逃れていたからだ。
そんな彼らが現れたのは……。
「いよいよ、リングインの時間だ」
「まあ、逃げ続けていても面白くはないでござるからなあ」
こきりと拳を鳴らし、コーヒーカップ型回転アトラクションから立ち上がる貴道。
刀に手をかけ同じく立ち上がる幻介。
二人は開始からずっと気配をけしたまま二人でコーヒーカップ出回っていたのである。すごい絵面である。
コングはそれに応えるように、ドンと遠くから跳躍して現れた。衝撃でコーヒーカップが吹き飛ぶが、土台の回転盤はそのまま回っている。
コング、幻介、そして貴道がにらみ合う。
「こっからは俺達の大好きな……殴りっこだ!」
貴道はギラギラと笑い、そしてコングへと殴りかかった。
常人ではよけるどころか退くことすら困難なフットワークで距離を詰め、コングの顎を的確に殴りつける。
と同時に、幻介がカッと目を見開いた。
「華嵐――」
あまりに早い斬撃。しかもたった一打ではない。
「水絶――虹光――神断!」
幾閃もの斬撃がコングを襲う。
その剣筋に、観客たちは思わずおおと声を漏らした。もちろん、貴道の豪快なパンチにもだ。
対するコングは……。
「……フ」
笑い、そしてドンと自分の胸を叩いた。
ダメージの蓄積した鎧が崩れ落ち、コングの屈強なボディが露わになる。
「来い!」
「おう!」
真正面に立った貴道とコング。二人は拳を思い切り叩き込み合った。
実際、ここまでの戦いでコングのAPは底を突いていた。HPはどうかわからないが、真正面からただ殴り合うことしか今はできない。いや、『そうしたい』のだ。
互いに鼻やら口やらから血を吹き、しかし笑って拳を繰り出し合う。交差した拳。貴道の頬にめり込まれた拳で、貴道は崩れ落ちた。
「まともに戦って勝てるわけないで御座るな……」
苦笑する幻介に、しかしコングは首を振った。
「いずれ、オマエたちはオレを越える」
「……」
A級のその言葉に、幻介も、そして観客たちも息を呑んだ。
それはつまり、S級に手を伸ばしうる逸材だということだ。
「強さは希望。強さは、それだけで人を救う。オマエは、もっと強くなれ」
敬意を表するように貴道を抱え上げ、そして幻介の肩にポンと手を載せた。
「コンバルグ殿……」
何か言いかけた幻介――を持ち上げ、貴道と一緒に天空へとぶん投げた。
「あっやっぱりこうなるので御座るなぁ――!?」
こうして、鉄帝鬼ごっこは大興奮のまま幕を閉じた。
逃走に成功した者はなかったが、イベントは大満足のうちに成功したといって、過言ではない!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――ナイスファイト!
GMコメント
●コングと鬼ごっこ
遊園地を舞台にコングと鬼ごっこをします。
その様子は中継され観客たちが外で見ています。
あと、コングがヤベーせいでパンドラが減ったり戦闘不能になったりします。
あんまり細かいルールはありません。よほどズルでなければ大体のことはOKという鉄帝的な考えです。(例えば届かないくらいの空をずっと飛び続けるだけとかはナシになります)
全員バラバラに逃げてもいいですし、いっそ『ここは任せて先に行け!』と言ってコングにバトルを挑んでみてもいいでしょう。
コングは謎の野生の勘でこちらの居場所を当ててきたり、途中に障害物があってもド派手に破壊したり、大抵の相手はボッて吹っ飛ばしたりします。とにかく滅茶苦茶に強い人です。
●コンバルグ・コング
https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000122
ラドバウA級闘士。鉄帝のスター的存在。
バトルが強くて人に優しくゴリラという非常に分かりやすい人間性が人気のタネ。
今現在の強さとは別に、どんどん強くなるローレットをとても好ましく思っている様子。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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