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シナリオ詳細

秋入梅 はじまりのひ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●紅葉に染まる秋入梅

 しとしとと、秋空模様に雨が降る。
 まるで何かを悲しむかのような梅雨入り雨が静かに地面へと降り積もる。積もった雨はまだら模様を地面へと描いていき、そして消えていく。

 しとどに濡れた頬を赤く染め雨の中に佇む青年は、どこか寂しそうな面持ちで空を見上げていた。
 頬の赤みから想像されるような温もりを彼から感じることはできなかったが、口から吐く息は彼の命の証明をするかのように白く空中に消えていった。
 彼は自分自身へと向けられた視線に気付いたようで、一度大きく瞬きをした後その透き通るような赤い眼にその姿を捉え、緩やかに首を傾げさせ唇を薄く開きか細い声でその相手へと話しかける。

「やあ、初めまして……だよね?僕の名前は、……あぁ、そうだった。」

 続ける言葉を失ったようにはた、と口を動かすことを止め……唇に指を添えて目を伏せさせる。頬に落ちる陰から存外睫が長いらしい彼は、一般的に綺麗な顔と称されても問題ないであろう容姿をしている。
 時が止まったかのように静かな雨の声だけが響く世界。濡れた髪が彼の頬にぴったりと張り付き、頬を雨の滴が生きているかのようにとめどなく滑り落ちる。
 再び彼の唇が動きだすまで然程時間はかかっていなかったが、それでも長い時が過ぎたのだと感じさせるのには十分な間だった。

「僕は、どこのだれなのだろう?記憶がないんだ」
「君たちは、僕の記憶がどこにあるか……わかるかい?」

 そんな風に少しばかりの期待を込めて見つめてくる彼の片手には、タイトルが書かれていない本が携えられていた。


●真っ白な世界

「彼の世界は真っ白になってしまったんだ」
「どうしてかって?」
「だって本がこんな状態なのだから当然だろう」

 そう当然だと言うように彼が差し出してきた本にはタイトルも書かれていなければ、中もいくつもの空白の頁が続くばかりだった。
 唯一確認できたのは……秋の頃、梅雨入りのような雨に濡れる麗しい青年の描写のみ。

「この世界にルールはない。だって何も書かれていないのだから」
「だからこそ君たちに預けてみたいんだ」
「『特異運命座標』の君たちに、さ」

「というわけで、君たちには彼の記憶を取り戻してほしい」
「彼の記憶はどこかに落ちているだろうし、君たちが新しく作ってあげてもいいんじゃないかな」
「君たちに肉付けされた彼が、これからどう歩んでいくのかそれを見守っていきたいと思うんだ」

「だって、濡れたまま一人きりなんて寂しいエンディングは好みじゃないでしょ?」
「ハッピーエンドを目指して頑張ってね」

 微笑んだカストルは『特異運命座標』である君たちを見て更に笑みを深めた。

NMコメント

 誰かとの繋がりが自分の存在証明になる。

 初めまして、お餅。と申します。秋ももう終わったような気分ですが、秋の世界のお話です。
 初めてのライブノベルです、どうぞよろしくお願い致します!

●世界説明
 いつまでも秋が続く世界。
 24時間で1日過ぎるが日付の概念が失われているため季節が移ろうことはない。
 今は雨が降り続いている。

●目標
 彼の周りに、皆さんが幸せになれると思う要素をすきなだけ持ってきてあげてください。
 人でも、物でも、彼自身のことでも。
 幸せを際立たせるための不幸でも。

●他に出来る事
 彼と会話をすることができます。何かで一緒に遊ぶことができます。
 遊んでいるうちに彼自身が何かを感じることがあるかもしれません。

●特殊ルール
 物語の先が書かれていない何も起こらない世界ですが、貴方たちが思えば好きな物を手に入れることができ、好きなように世界を作ることができます。
 望めばきっと空に浮くことだってできるでしょう。

●NPC
・彼
 名前もわからず、記憶もまったくない赤い眼をした青年。雨に濡れて寂しそうに空を見上げていた。
 ぱっと見は10代後半だが、綺麗な顔をしているため年齢不詳気味。実年齢は不明。

●サンプルプレイング
 彼が何も持っていないというのなら、まずは傘をあげようか。
 ずっと濡れているのは可哀想だろう?これなら雨が降っても雪が降っても濡れることはなくなるし、なによりも相合傘で僕も雨をしのげるからね!
 お礼はいいよ、僕の好きなものをこれから一緒に食べに行ってくれるなら、それでチャラだ。

 以上となります。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

  • 秋入梅 はじまりのひ完了
  • NM名お餅。
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月26日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
杜里 ちぐさ(p3p010035)
明日を希う猫又情報屋

リプレイ

●しあわせの形

(しあわせ、しあわせ…いざ、そのように、言われてしまうと、どうしたものか、なやんでしまいますの)

 『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は悩んでいた。いざ幸せを、と言われるとどうにも形にできないことばかり思い浮かんでしまう。
 だってそれは形にできるものではないということが理解しているから。
 そんな彼女を、青年は真っ新な期待の眼差しで見つめている。

(しあわせとは、なにかを、手にいれただけで満たせるものでは、ないということを)
(わたしは、もう、知っているのかもしれませんの)

 愛おしい人の姿を思い浮かべては、その気持ちを形作るように言葉を紡ごうと思考をめぐらす。
 思考の波は揺れ動く気持ちと同じように暖かく、人を想い優しさを紡ごうとする彼女によく馴染んだ。

(しあわせとは、いつまでも、ずっと、こうしていたい…そのように、ねがいたくなることですの)
(ですので……)

「わたしが、もちこむものは…『夢』、ですの。といっても、かたちのないものは、もちこめませんから」
「わたしの、『夢』とは…本ですの」
「雨から、本をまもる、建物ごと。図書館を、この世界に、つくりましょう」

 彼女が紡いだ言葉に青年は瞬きを一つ、二つ。すぐに表情をほころばせ、弾んだ声が返ってきた。

「そっか、それが君が僕に分けてくれる優しさなんだね」

 その言葉と同時に二人の周りにまるで植物が育つように本棚や本、建物の外壁が組みあがっていく。さめざめと降る雨の中、彼女の優しさに包まれた夢たちは、その世界に新たな息吹をもたらした。
 はるか遠い王国の、あるいは見知らぬ海の底の。想像力をかき立てるような冒険譚。更にはみたこともない動植物ばかりの図鑑まで。
 青年に夢を与えられるようにと彼女が望んだものが、全てここには揃っていた。

(かれが、暇つぶしに、それを、読みふけったとき、それを、じぶんでも、さがしたくなるような本を)
(この世界に、えがかれていない場所に、それらをさがしにいって。)

「これからは、ご自身で、世界を、つむいでいって、ください」
「自分自身の『夢』を、みつける、ためにも」


(それを、さがしているあいだ…きっと、かれは、満ちたりて、しあわせであってくれるに、ちがいありませんの)

 青年が紡ぐ世界がどんなものであれ、幸せを見つけた証明だと信じる彼女の祈りに応えるように、雨上がりの空はどこまでも高く見えた。




●秋空にジャムを一杯

「何だってそんな雨の中一人でいるんです?」

 そんな『粛々たる狙撃』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)からの問いかけに、青年はゆるりと思考をめぐらした後首を傾げた。
 応える言葉を持ち合わせていないようで、へらりと笑顔のみで返答する。
 確かな答えが返ってこなくとも、放っておけばこのまま動かず空白の時を揺蕩うのだろうかと思えば、なんだか落ち着かずつい手を貸してしまっていた。

「僕はジョシュアと言います。雨を凌げる場所で温かい紅茶でもどうでしょう?」

 彼の言葉通りに雨が凌げそうな東屋と、湯気の立つ紅茶が二つ。ぱちくりと瞬きをしてみれば、幻覚ではないことが確認できた。

「甘くしたいなら砂糖やジャムを入れるといいですよ。」
「そういえばその本……濡れてしまってませんか?」

「少し、濡れてしまったみたい。だけど、君が助けてくれたから大丈夫」
「ただ、覚えていることはないんだ……」

 青年は静かに本の表紙をとても大事そうに撫でる。

「……なら、記憶を探しに行きませんか?」

 ハッピーエンドの作り方なんてわからないけれど、それでも彼の記憶が見つかればきっと……。
 紅茶が少し冷める頃。さて、どちらへ行こうかと思案していると二人の前に突然レンガの道がパズルのように組み上げられていく。

「秋なら金木犀など咲いているのかもしれません。記憶と香りは結びついているらしいですよ」
「そういえば貴方に家はあるんでしょうか?これはさすがにないと困りますよね」

 会話を一つ、二つ、三つ。重ねる度に、道を進む度に。周りには金木犀の生垣や建物が増えていき青年は当然のようにその道を歩いていく。

「家はどうだったかな。まだ、思い出せないんだと、思う」

「……何処に行こうとも帰る家があってそこに貴方を迎えてくれる家族が居れば、それは多分……幸せなことだと思います……」
「尽力しますから貴方もあると願って下さい」

「……君には、そういう家はある?僕は君が幸せでいてくれたらいいなって思ったんだ」
「お礼ができないのが…、歯がゆいな」
「そっか……これが、悔しいって感情だったよね。一つ、思い出せた気がする。」

 手の届かなかった夢があるんだ、と青年は物悲し気に目を細めて彼のことを見た。

 感情という記憶を取り戻すことができた青年を前に、彼は役目を終えたと感じるのだろうか。
 それでも青年のこれからに光が差すように想った彼のぬくもりは、その寒さを和らげるには十分だったように見えた。




●オカシなお巡りさん

(お家を聞いてもわからない。名前を聞いてもわからない)
(泣いてしまいたいのはこちらの方だぜわんわんわわん……と冗談は置いといて)

 そんな冗談を胸中で歌いながら、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)はふと考えた。

(ようは彼を助ける名目で何をしてもいいわけだ。……いや大丈夫わかってるよ。別に変な事はしないって)
(ただちょっと私的に利用するだけさ)

 目の前で腕を組みそんなことを考えていることなど知らないと言うように赤い眼の青年はあどけない表情で彼を見る。

「さてまず生活環境を整えようか。何もない場所に人間が一人だけなんて寂しいだろう?」

「確かに寂しい……ような気もするけど」

 それはそうだろう、と言わんばかりに彼が頷く。
 そもそも天然記念物とかになりたいならともかく、そうでないなら仲間は欲しいはずで、青年に超常的な生命力でも無ければ生きていくことも難しいだろうから、と。
 彼の創造は迅速且つ的確に行われた。この青年の世界に必要なものを構築していくことに時間は然程かからなかったのではないかと思う。
 それもそのはずだ。彼には青年の幸せのためという大義名分の他に、少しだけ……ほんの少しだけその幸せ探しにあやかりたい気持ちがあったのだから。

 最後にどんな富豪が住んでいるのかと思うような大きな家を建て、そして腰に両手を当てて青年へ振り返り、

「金で幸せは買えないが、幸せになれるものを買う事はできる」
「そして幸せになるものと言えば当然(?)甘い物だ」

 と、大きく頷きながら断言するのであった。

「……そうなのかい?ふふ、君は素直で愛らしい人なんだね」

 きっと彼好みのスイーツの店もあるのだろう。いや、半数以上がそうかもしれない。

「きっと気に入るはずだ。なにせアレは人生を潤すのに必須とも言える存在だからな」
「さあチョコでもクッキーでもマカロンでも何でも買うがいい」
(そして俺に半分分け与えてくれ)
(……これで果たして彼が幸せになれるのかという点については我ながら若干疑問ではあるが、幸せとは失って初めて気付くものとも言うし問題ないと思っておこう。)

 そんな彼の考えなどやはり気付かないまま、青年は彼の手を引いて歩き出す。

「じゃあ、君の幸せを教えてくれたお礼に、教えてくれた幸せのお裾分けしようか。」
「幸せは、分かち合えば二倍に増えるものなんだろう?」

最初の店はあそこがいい、あぁ蜂蜜がよく合うシフォンケーキを売っているお店。幸せの味は、舌を蕩かす蜜の味なのだから。




●きみの名前はまだ、ない

(彼には名前も無いみたいにゃ。名前が無いと不便だけど、幸せかどうかとは違う気がするにゃ)
(幸せ……悩むにゃ。)
(そうにゃ!!)

 『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)は滅多に見ない難し気な表情で考える。しかしそれもすぐに崩れ、両の手をぱちんと合わせて名案だと言わんばかりにしゃがんでいた青年にずいと顔を寄せた。

「僕からはきみに『思い出』をあげるにゃ」

「思い出?」

 青年が首を傾げて聞き返せば、小さな背をむん!と逸らせてすぐに大袈裟に頷いて見せる。

「思い出は、時には苦しくなったり悲しくなったりするにゃ。僕もパパやママのことを思い出すと今でも寂しいって思ったりあるにゃ」
「……でも、それ以上に、あったかいにゃ」

 彼の中にあるのは、大切な家族と過ごしたかけがえのない宝物。
 そんな幸せを、少しでも伝えてあげたい、与えてあげたい。想いに質量があったなら、もしくは可視化できたのなら。
 その小さな体からあふれ出ているであろう言葉にし尽くせない気持ちを、青年へと繋ごうとしてくれていることがわかっただろう。

「僕の名前がただの認識記号じゃなく家族の証なのも、育ててくれた人たちを飼い主じゃなくて家族だと思えるのも」
「僕が「にゃ」って言うのも思い出のおかげなのにゃ」

 青年は静かに彼の話を聞いた。賢明に伝えようとしてくれている彼の声を聞き逃さないように。

「僕や他のイレギュラーズと出会ったこと、何かを貰ったり、話したりしたこと、そういうのが思い出になるにゃ」
「それは楽しい思い出かにゃ?つまらない思い出かにゃ?」

「きみは、思い出っていう贈り物を迷惑に感じるかもしれないにゃ。思い出はキレイだけじゃないからにゃ」
「でも僕は、きみと出会った今を、思い出として共有したかったんだと思うにゃ」
「ヘンなヤツだ、と思ってくれて構わないにゃ」
「にゃはは、実は僕もそう思ってるにゃ。でも、かけがえの無い思い出にゃ」

 青年は静かに頬を濡らしながら、小さな少年を抱きしめた。




●はじまりのひ

 ここで出会って、話をして。青年にとって何が幸せだったのか、わかる者は居ない。
 けれども確かに、ここには青年が生きている。思い出として、その存在を証明してくれた彼らのおかげで。

成否

成功

状態異常

なし

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