PandoraPartyProject

シナリオ詳細

彼岸花の中で出会う

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・彼岸花の咲くそこは


 からり。下駄の音が、石畳の上に響いた。少女がぶらりぶらりと踏み出した足が地面をこすり、その度に乾いた音が鳴る。
 少女の目は正面を向いているようで、どこか遠くを見ている。その瞳が瞼に覆い隠される度、映し出された紅色がちろりちろりと消えた。


 会いたい、人がいた。好きな人がいた。
 彼は優しくて、いつも穏やかな目線でこちらを見つめていた。伸ばされた手は温かくて、握り返すとその温もりがよく伝わってきた。くすぐったいような、恥ずかしいようなそんな気持ちになったのを覚えている。

 彼は少女が人でないことを知っていた。その存在や異能を恐れるどころか、ただの少女として扱ってくれた。その喜びは、数十年経った今でも表現することができない。

 多分あの頃は、満たされていた。彼の優しさに。彼の包み込むような愛に。

 そんな彼は、私を置いて逝ってしまったのだけれども。

 戻ってきて。お願いだから、戻ってきて。長い時が経った今でも、私はここから動くこともできないの。
 ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃない。約束したじゃない。
 ねえ、どうしたら私に会いに来てくれる? 私、あなたと会うためならなんでもするわ。


 少女は祈る。もう一度、言葉を交わせるように、と。微笑みかけられるように、と。
 しかし、それは叶わぬことだ。生きている者は、この世にいる者とは住む世界が違うのだから。

 とはいえ、奇跡ということも、ないわけではない。
 降り積った想いは、少女の異能を一つの形に変える。どこかの神社のようなこの一角、彼岸花の咲き乱れるこの場所で、世界の境目を曖昧にさせた。

 世界の形なんて、今はいい。それよりも、私は。

 彼岸花の中に、ひとつの影が降りる。その姿に向かって、少女は手を伸ばした。



・会いたい、逢いたい


「会いたい人はいるかい?」

 境界案内人カストルは本の背表紙をなぞり、ゆっくりと言葉を選んだ。

 少女が願ったことで、世界と世界の境が曖昧になった。本来その世界は外界と自由に出入りできるものではなく、誰かが願ったからといって、自由にできるものではない。
 だが異能は、その無理を押し通してしまった。

「今その場所では、願えば誰にだって会えるんだ」

 異能の力が残っている限りだけど、とカストルは付け足す。

 生きている者、死んでいる者、違う世界にいる者。奇跡はそれを問いはしない。言葉を交わすことも、笑い合うこともできる。
 ただ一つ、叶わないこともある。

「触れることだけは、できないみたいだ。どうにも、身体は世界を超えてくることはできないらしい」

 会うことができるのは、魂のみ。その人の輪郭。
 それでもいい、どんな形でも会いたいと思うのなら、足を踏み入れてほしい。そうすればきっと、その願いは満たされることだろう。

NMコメント

シナリオ詳細

 こんにちは。椿叶です。
 会いたくても会えない人と会う話です。

世界観:
少女の異能のために、本来会えない人と会えるようになっています。過去の世界、未来の世界、死後の世界など、つなぐ世界に制限はありません。しかし、呼び寄せることができるのは、その人の魂のみです。言葉を交わすことはできても、触れることはできません。
場所は、日本の神社を模している、彼岸花が咲き乱れているところになっています。

目標:
会いたい人を呼ぶことです。
異能の力を使いつぶせば、その場所は世界と世界をつなぐ役割を失います。皆様には世界のことは特に気にせず、会いたい人と会い、自由な時間を過ごしてもらえたらと思います。
相手と過ごせる時間は、数十分から一時間程度です。

できる事:
・会いたい人を呼ぶこと
・対話をすること
・少女に話しかけること

できないこと:
・呼び寄せた相手に触れること(触れようとするとすり抜けます)

少女について:
異能を持つ、人ではない何かです。妖の類だとお考え下さい。少女は自分のことを「紅音」と名乗っています。
少女を呼べば応答してくれます。恋人との仲睦まじい様子が見られるかもしれません。しかし彼女もまた、会いたい人に会っている最中ですので、そっとしておいても良いかもしれません。

サンプルプレイング:

 僕が会いたい人。会いたい人。姉さん、だね。
 会って、僕が昔よりも成長したって、言いたいんだ。まだ僕は、半人前で、誰かに助けてもらわないと生きてはいけないんだけれど。それでも、姉さんに守られてばかりな僕ではなくなったんだって、伝えたい。あの時の子どもは、これだけ立派になったんだよって。
 姉さん、僕より小さいんだね。ほら、目線が、僕の方が上だ。姉さんに見上げられるなんて、思ってもなかったよ。


 プレイングには、会いたい人の特徴(名前、性格、関係性など)を記載していただけたらと思います。

  • 彼岸花の中で出会う完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月15日 22時05分
  • 参加人数2/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
シェンメイ(p3p010186)
梦想

リプレイ

・別れを、告げる

 逢いたい人に会えると聞いてつい来てしまった。頭をかきながら、『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は前を見上げた。乾いた骨の音がローブの中で響く。

 さて。逢いたい人、か。永遠の少女、或いは――。

 さあ、と風が吹き、彼岸花が揺れる。一面に広がる紅い色が囁いて、ヴェルミリオを囲う。ここが待ち人の来る場所だと主張しているようだった。

 永遠の少女は、いつでも自分の側にある。心はずっと繋がっている。だから、今会うのなら、心残りがある人の方がいいだろう。

「ロビン。冒険者ロビン・グランツ。来てくれると嬉しいですぞ」

 生涯の友。冒険の師。そんな短い言葉で収めてしまうのには、彼との付き合いは深すぎる。だけど、その表現が一番しっくりくるのだから不思議だ。

 くらりと目の前の空間が歪み、ゆっくりとその中に人影が現れる。次第に色が付き始めたそれは、確かに記憶の中の人物と一致していた。

「俺なんか喚ぶなよ。他にいるだろ、会いたい人が」

 風に吹かれる金髪も、皮肉気に笑っているところも。そのくせ、目尻が嬉しそうに線を描いているところも、全部、知っている。

「別れも言わせてくれぬ薄情者の言うことなど聞こえませんぞ!」

 ただ、逢いたかった。理由はそれで充分だろうに。

「冒険者を引退して以降会えなかっただけでなく、別れも言わずに逝ってしまうとは。どういうつもりでしょうな」

 冒険者は危険と隣合わせだ。だから、闘えなくなって引退、なんてことも珍しい話ではない。それでも、身近な人にそんな不運が降ってくるとは思いもしなかった。
 相手は彼だ。不運のことも考えてはいたけれど、きっと大丈夫、という想いの方が随分と勝っていたのだ。
 だから彼が怪我をしたと聞いたときには、動揺した。怪我をしたこと自体にも、引退を選ばざるを得なかったことにも。
 せめて、会おうと思った。そうして彼がまたいつもと同じように笑っているのが見たかったのだ。

 ロビンはヴェルミリオの言いたいことを察したのか、口の端を吊り上げた。笑おうとして、失敗していた。

「俺の意地、みたいなもんさ。悪かった悪かった」

 すっとその言葉がヴェルミリオの胸の中に飛び込んだ。ああ、そうだ。彼は、そういう人だった。彼との思い出がひとつ、またひとつと蘇る。

「貴殿が残してくださった知恵は確かに今も活きて、スケさんの助けになっておりますぞ」

 小言ばかり言いたいのではない。

「こちらに来てからの事を話しましょう! スケさんはこちらに来てから様々な冒険者に会いましたぞ。それからこちらには、あの世界にはなかった文明があり、どれも面白く――」

 言いたいのは、彼の知らない自分。

「ここにスケさんが在るのは、貴殿のおかげですぞ」

 そして、あの世界で、彼に伝えられなかった感謝。

 彼に出会わなければ、今の世界でも冒険者として過ごせているかは分からない。だからこそ、精一杯の気持ちを伝えたかった。
 彼から与えられたものが膨らんで、成長して、変わっていたのだと。彼の与えてくれた知恵が、冒険者としての自分を成り立たせているのだと。

「ヴェルミリオ。成長したな」

 彼はふいに柔らかく微笑んだ。

「ここで会えてよかった」
「スケさんもですぞ」

 拳を突き合せようとして、すり抜ける。それでも、自分たちの想いは同じだと確かめることができた。

「さよならだな」
「さよならですな」

 もしまた会えることがあれば、また成長した姿を見せたいものですな。ヴェルミリオはそう独り言ち、輪郭のぼやけていくロビンの姿を見続けた。
 やがてその姿が消え、そこにあった紅い花が揺れ始める。

 彼はもういない。だけど、いたことは、自分の心に残り続ける。

 彼に出会えたこと、そして別れを告げられたことへの感謝を。ヴェルミリオは遠くを歩く少女と、傍らの青年を見つめ、深く頭を下げた。



・ボクはただ

 母は綺麗な人だった。記憶の中の彼女は優しくて、穏やかで、でもそれ以上のことはほとんど覚えていない。それでも焼いてくれたホットケーキがおいしかったことは覚えているのだから不思議だ。

 母との数少ない思い出を抱きしめて、自分は生きている。こぼれそうになる何かを一生懸命拾い上げて、胸にしまい込んで、生き永らえている。彼岸花を指の先でつつきながら、『梦想』シェンメイ(p3p010186)は口元に笑みを浮かべた。ああ、今日も傷が痛い。

 ねえ、お母さん。お母さんが生きている間はお父さんもよく笑っていたんだ。
 ねえ、お母さん。ボクのところに、戻ってきてくれないかな。

 ざわり。彼岸花が揺れる。まるで囁くように風に吹かれるそれが、ふいに目の前に迫る。くらりくらりと歪む視界に、ぽたりと一粒、水滴が落ちた。

「シェンメイ」

 奇跡は叶えてくれた。そこに立っているのは、幼い頃に見た母の姿で、思わず泣きたくなった。
 曖昧だった記憶のかけらが、一つひとつ重なっていく。ああ、お父さんが言っていた通りだ。ボクは確かに、お母さんに似ている。

「おかあ、さん」

 母は優しく微笑んでいる。ホットケーキを焼いているときの彼女の姿と重なって、シェンメイは思わず駆け出していた。

「お母さん」

 抱きしめようと思った。小さな子どもに戻ったように、まっすぐに手を伸ばす。しかしその身体に形はなくて、シェンメイが掴んだのはただ紅い花だけだった。

 どうして。
 ただ、温もりがほしいだけなのに。母の温かさを思い出したいだけなのに。

 母が亡くなってから、思い描くような家族の像はどこかに消えた。父はふさぎ込んで、シェンメイを傷つけるようになった。自分の身体にも、心にも傷は増えていく。でもそれでも、この痛みも傷も、父の愛情の形だから、自分は幸せなのだと唱え続けた。
 それでも心の隙間は空いていくばかりだった。埋めてくれる誰かを求めて、たくさんの人に抱きしめてもらった。
 それで温まればよかったのに、どれだけひとに触れても冷たいのだ。欲しい温もりは与えられず、ただ冷えていくばかりだった。

 あのね。ボクが触れたいのは、お母さんなんだよ。ただ幸せな家族に戻りたいだけ。なのに、どうしてすり抜けてしまうの。

「シェンメイ」

 彼岸花の中に崩れるシェンメイにかけられる声は、どこまでも穏やかで優しい。その声だけで満足したいのに、溢れる気持ちが抑えられない。
 再会なのだからきっと、笑えたほうがよかったのだろう。だけど零れるのは涙ばかりだ。

「戻ってきてよ、お母さん」

 母の腕がゆっくりと伸ばされる。抱きしめるような恰好で回されたそれに、やはり温度はない。だけど、今までに触れた誰よりも温かく感じられた。

「ねえ、シェンメイ。お母さんはずっと、あなたを見守っているわ」

 大好きよ。愛している。

 そんな言葉が耳に届けられる。
 ボクがほしかったのは、その言葉と、気持ち。だけど。

「お母さん、ずっとここにいて」
「ううん。それはできないの」

 そこから先は聞きたくなかった。だからぎゅっと目を閉じて、ただ「そっか」とだけ呟いた。

「いつか、また、会いに行くわ」
「……うん」
「さようなら」

 いつか会えるなら、今は別れを認めよう。さよならは言わないけれど。

 回されていた腕がゆっくりと薄くなって、やがて消える。振り返るとそこは、ただ紅い景色が広がっているだけだった。
 母の姿を記憶に閉じ込めたくて、瞼を閉じる。浮かんでいた涙が頬を伝った。

 お母さんに作ってもらったホットケーキ。覚えてるよ。
 お母さん。ボクを産んでくれてありがとう。

 帰ろう。そう一言呟き、シェンメイは立ち上がる。彼岸花が絡みつくように足に触れた。

 お父さんには、お母さんに会ったことは内緒にしなくちゃ。だって、お父さんが怒っちゃうかもしれないから。



・世界は閉じる

 曖昧に歪んだ世界の境目が、元に戻る。もう誰かが自由に行き来することはできなくなる。邂逅はほんのわずかの時間だけ。それでも、少女の想いは果たされた。

 空を見上げた少女は、ここを訪れた誰かのことを順番に思い出す。自分の一番大切な人と、大切な誰かに会いに来た人のことを、ゆっくりと。

 彼岸花の中を歩きながら、少女は祈る。ここを訪れたひとの道行が明るくなりますように、と。幸せが降りそそぎますように、と。

成否

成功

状態異常

なし

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