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シナリオ詳細

<オンネリネン>誰がために火炎は燃ゆ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●夜闇を燃やす
 町が燃えていた。旅人も純種も、老いも若きも、貧富の差すらなく、みな平等に燃えていた。
 若い女が、小脇にまるめた毛布らしきものを抱え家から飛び出すが、それを仲間の一人が狙撃銃で撃った。足を撃たれた女はよろめき、毛布を庇うようにして仰向けに倒れると、家から伸びた炎に呑まれていく。
 そんな光景が、あちこちで広がっていた。
 あちこちで悲鳴とものが燃え崩れる音が重なり、こうこうと辺りを照らすのだ。
 それは略奪でも、抹殺でもない。まして正義の誅殺でもない。
 虐殺と呼ぶに相応しい光景だった。

 夜が明け、空を鳥が飛んでいく。
 焼け落ちた家屋が並ぶ中に、銀色の鎧を着て立つ。
 翼のような肩装甲。
 金色の柄頭には天義の古代文字で『撃鉄』と彫り込まれている。
 彼の名はセルゲイ・ヨーフ。
 独立都市アドラステイア下層に住まう、『撃鉄』の称号をもつ聖銃士である。

●傭兵都市ラサを目指して
 独立都市アドラステイアは、港町を占拠する形で現れた壁に覆われた町である。
 三つの階層からなり、天義とは異なる信仰をもつ。魔種であったにも関わらず枢機卿という座に長らくついていたアストリアをはじめ、天義のありかたに異を唱える者たちの町。
 ……そうであっただけなら、どんなにマシだっただろうか。
「あー、君、せ……せる……セルバス? セルキス?」
「セルゲイ・ヨーフです。ファーザー」
 直立不動。きをつけの姿勢で動かないセルゲイに、コーヒーのマグカップを片手に眼鏡の男がデスク越しにこちらを見ている。
 壁際の棚には珍妙かつ高級そうな美術品が並んでおり、中にはなめした人革のマスクなるものまであった。が、セルゲイはそちらを見ない。まっすぐにだけ、相手を見る。
「今日付できみは第十七傭兵部隊に配属だ。指揮官兼教官役として。
 未来ある子供達を先導し、希望ある力を身につけさせてやってくれ」
「……は」
 ここあアドラステイアで傭兵部隊と言えば、『オンネリネンの子供達』に他ならない。下層のスラム街から徴用された少年兵たちだけで構成される部隊だ。
 イエスでもノーでもない、平淡なトーンで応えるセルゲイに、男はさもつまらなそうにコーヒーを啜る。
「わかるだろうセルバス君。我々アドラステイアの市民は悪逆天義より独立した聖なる子供達を養う責務をもつ。そのため外貨を稼ぐ必要があるのだ。
 我々は決して悪しき天義のように子供達をただ甘やかし魔種による支配の夢を見せるようなことがあってはならないのだよ。
 戦う力をもった子供達はいつか君のように聖騎士へととりたてられ、聖なる職務に就くことだってできるようになるだろう。すべての子供達が力を、そして未来を手にする機会を得るのだ。素晴らしいことだとはおもわんかね」
「…………はい、その通りです。ファーザー」
 セルゲイはそう返してから、内心で黒く淀むものを感じていた。

 『オンネリネンの子供達』の生還率は低い。
 他国に傭兵として送られた彼らは武器と戦闘の訓練だけを受けた子供にすぎない。多くの場合使い捨ての戦力として投入され、必然的に多くが死ぬ。
 傭兵が死亡したとしても料金がかわらず、金はアドラステイアに直送されるため持ち逃げの心配がない。そのうえ神の名の下に命令に絶対に従うのでそのへんの畑兵士を抜いてくるよりずっと使い勝手が良いとすら言われる『商品』だ。
 一方アドラステイア側からすれば……。
「聖騎士セルゲイ! 出立されるのですね!」
 粗末な服をきた子供達が、キラキラとした目で馬上のセルゲイへ駆け寄ってくる。
 振り向くと、彼の後ろには馬車が二台。オンネリネン第十七傭兵部隊の子供達が乗っている馬車がある。
 アドラステイア正門前にはスラムの子供達が集まり、『聖騎士の出撃』を憧れの目で見ていた。
「すげーなーセルゲイさんは。俺もオンネリネンに選ばれて戦地で手柄あげてーよ。そんであの人みたいに聖騎士になるんだ」
 そんな言葉が聞こえてくる。
 セルゲイは……厳密にはそのルートを辿っていない。
 亡き弟セダが、病に倒れた自分を助けるため傭兵業に手を染めたのだ。その働きが認められ聖騎士となり、下層スラム街ではかなり裕福といえる暮らしができるようになった。
 誰からも見放された天義のそれとは違って。
 ……そうだ。そうだ。
 国は自分たちを見つけない。国は自分たちを助けない。
 自分の手で掴むしかないのだ。それを、アドラステイアの大人達は教えてくれた。
「撃鉄の聖銃士、セルゲイ・ヨーフ! オンネリネン第十七傭兵部隊と共に出立する! 門を開けよ!」

●虐殺、明けて
 ラサという国でかつて、幻想種奴隷の売買が大々的に行われていたことを覚えているだろうか。
 そのことが深緑との外交問題にまで発展した段階で、ラサの名だたる傭兵頭や大商人たちが会合を開き、奴隷売買の表だった排除を決定した。
 当時極めて強い力を持っていた魔種を後ろ盾にしていた商品や傭兵たちはそのまま闇に潜り奴隷売買を続け、その波は幻想王国にまで波及したという。
 そしてもちろん、闇商人が隠れ住む町もラサには多く点在していた。
「聖騎士セルゲイ! 周辺の探索が完了しました。逃げ隠れていた人間が5人おりましたが、すべて抹殺いたしました!」
 敬礼しながら述べるのは、キラキラとした目を子供だった。オンネリネン第十七傭兵部隊の暫定的な副官にあたるカナタンという少年兵である。見た目から性別はわからない。
 ただセルゲイの鎧と剣に憧れの目を向けているのは、明らかである。
 対するセルゲイは『ご苦労さまです』と簡潔に述べてから、黒く焦げた家々を見る。
 黙っていると、カナタンが口を開いた。
「ここは邪悪な人間の住処だったと聞いています。奴隷を密売していた闇商人の隠れ家なのですよね?」
「……」
 セルゲイも確かなことは知らない。作戦にはこの村への攻撃命令とその手順が書かれていたのみである。村で見た、女や子供や歩けない老人たちは、何だったのかも……知らない。
 カナタンが笑ったような声を出した。
「これでもっとキシェフを稼げますね。姉にも、もっと良い暮らしをさせてやれそうです」
「……姉が?」
 思わず振り返って問いかけると、カナタンは再び笑った。少女のような屈託のない笑みだった。
「自慢の姉です。重い病気を煩っているんですけど、アドラステイアと偉大なるファーザーたちのおかげでベッドと毛布が与えられているんです」
「そうか……私の弟も、そうでした。私のために、戦地へ出たのです」
「セルゲイ様がご病気を? ははっ、冗談でしょう?」
 本当に冗談だと思ったようで、カナタンはまた笑った。
「そうだな……私も、そんな風に思うよ」
 今ではまるで、身体が軽い。
 この剣と鎧は亡き弟のために、弟の称号を継いで授かったものだ。
 ポケットからピルケースを取り出し、イコルの錠剤を手に取る。口にふくんで飲み込むと、聖なる気持ちがわき上がってきた。
 そうだ。これは聖なる戦いなのだ。
 悪を討ち、平等で優しい世界を作るための戦いなのだ。
「さあ、行きましょう。次の作戦地も、おなじ闇商人のアジトだそうですから……」

●悪と、悪と、そして
 天義国のカフェに集められたのは、小金井・正純(p3p008000)をはじめとするイレギュラーズたちだった。
「ん……」
 情報屋であるラヴィネイル・アルビーアルビーは資料の束を横に置くと、一枚の依頼書をスッとテーブルにすべらせるようにして突き出してくる。
「『オンネリネンの子供達』という傭兵部隊が大陸各所に送られています。
 現地のクライアントの指示をうけ、金で兵力を売る……傭兵部隊というだけあって、傭兵業です。
 彼らに与えられた任務は、ラサで活動していた闇商人たちの『家族』を隠れ集落ごと燃やし虐殺することです」
 闇商人たちは家族を安全な場所に住まわせ、自分たちもまた闇に潜り活動を続けている。
 が、そんな彼らの家族を攻撃することであぶり出し一掃しようという計画が一部の過激な団体からあがっているらしい。
 そしてそんな汚れ仕事に、オンネリネンの子供達は活用されているのだ。
 そしてラヴィネイルは依頼書を再び指さした。
「この、ローレットへの依頼は、ラサの傭商連合から正式に出されたもの。つまり……過激派の行いに対して連合は否定的だということです。
 依頼内容は、書いてあるとおり虐殺の阻止。オンネリネンの子供達と戦うことになるでしょう。
 第十七傭兵部隊は新しく編成された部隊なので、戦力はわかりませんが……指揮官のセルゲイ・ヨーフの情報なら、分かります」
 そうですよね。とラヴィネイルは正純をあらためて見た。
 頷き、そして依頼書を見やる。
「セルゲイ……あなたが、『ただの民』を虐殺するなんて……」

GMコメント

●オーダー
 成功条件は『オンネリネンの子供達』を撃退することです
 隠れ集落の場所は既に特定できており、その場所を襲撃中の傭兵部隊に対し攻撃を行うことで虐殺を中止させます。

 彼らは『効率的な虐殺』を行おうとしているので、その手順を邪魔することで虐殺自体は簡単に停止させることが可能です。
 が、皆さんが敗北したりへんに時間をかけすぎたり、相手をいたずらに逆上させるようなことがあった場合住民への被害が出る危険が増すでしょう。
 また、住民はラサという社会から隠れて暮らしているためこの集落から逃げ出すことがありません。がんとして家に閉じこもり施錠するなどして身を守るでしょう。ですが家々が粗末な木造であるため、火を付けられると非常に危険です。

●エネミー
・オンネリネン第十七傭兵部隊
 少年兵の集団です。
 カカナという子供が副官についていますが、この役職は死ねばすぐに交代されます。

・『猟犬型聖獣』バクタム
 嗅覚に優れ、夜目のきく猟犬型の聖獣。全長2mほどの大きさであり、子供によってはうまく騎乗できる者もいる。(ただし騎乗戦闘には適さない)
 兵とセットで複数体を点在させる形で運用し、主に警戒や警報を行う役割を持つ。

・『撃鉄の聖銃士』セルゲイ・ヨーフ
 殉死した旧撃鉄の意志と称号を継いだ兄。白銀の鷹を摸した鎧を着ている。
 固体戦闘能力は割と高め。
 超物攻。CTFBやや高。EXA超高。
 使用スキル不明。連続攻撃やブレイク、必殺などの用意があると思われる。
 追い詰められた際、異常高い戦闘能力を発揮するとの報告もあり。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

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●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖銃士とは
 キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
 鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。

●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
 活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。

  • <オンネリネン>誰がために火炎は燃ゆ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年10月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
三國・誠司(p3p008563)
一般人
オライオン(p3p009186)
最果にて、報われたのだ
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●どこにもいない人間
 ラサの東に位置する森林地帯。複数の商人たちが土地の権利を争ったことで立ち入りの難しくなったこのエリアに、ひっそりと生えた集落がある。
 まるで洗濯機の裏にはえたカビみたいだなと思いながら、『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)は井戸水を汲みに家から出てきた婦人に「どうも」と声をかけた。
 相手は『この人誰だったかな』という顔をするが、まるで前から知っているかのように美咲は振る舞ってみせる。誰何を問うのは失礼ではと相手に思わせるテクであり、美咲の得意技だ。
 やろうと思えば知らない学校の同窓会や知らない会社の二次会にだって紛れ込む自身があるし、こうした閉鎖した集落に紛れ込むことも、短期間であれば可能だ。その上、消えてから『そんな人いたっけ?』と住民の首をかしげさせる程度の痕跡しか残さない。
「旦那様は……今日も?」
 なんともいえない指を動かすジェスチャーをしてみせる美咲に、相手が勝手に補完をして答える。
「そうね。『商品』が売れないとかで……今度はヴィーザルに出稼ぎに言ったわ。冬の間は帰ってこられないかもしれないわね」
「それは寂しいですねえ」
 あちこちの人間と何気ない日常会話を行いながら、端々から情報を集めてつなぎ合わせる。これもこれで、得意技だ。
 事前に聞いていた通り、彼らはラサでも立場を失った闇商人たちの家族であり、そして彼らも自分たちの立場を理解しているからこそ集落から出ようとしないのだろう。
 一時期は黒い金で豪遊していたのだろうが、今は命を繋ぐことのほうが大事だというところか……。
 表に出れば一族郎党殺されたり『じゃあ次はお前らが奴隷ね』とか言われかねない連中だ。住民たちの目にも、あまり希望の光はない。
 これも罪に対する罰だと、いうのだろうか……。
(で、この人達を殺してより深く罰しようって? どこの世界でも過激派は似たようなことするっスね……)

●人類は正しさをもたない
 黄昏時の空を飛んでいく鳥の群れ。渡り鳥だろうか。『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)の結んだ髪が長くなびくのと逆方向へ、綺麗な鏃形をつくって飛んでいく。
 翼をもったり空を飛んだりすることが自由の代名詞だと聞いたことがある。星に手が届くことを自由だと言った絵物語もあった。
 だがどちらも、墜ちる恐怖に身を縛られることに他ならない。
 『高く飛んだところで落ちるだけだ』などと言って聞かせたところで、鳥は結局飛ぶのだろう。そうせずに済むなら、とっくにやめているだろうから。
「セルゲイ……」
 彼女の後ろに、二人の男が立った。
「ヤツを止めるんだろ。正純ちゃん」
 なびく前髪をおさえて振り返ると、『一般人』三國・誠司(p3p008563)がケースから出した大筒を地面に立てるようにして持っていた。
「けど、今回の戦いにあるのは『正しさ』とかじゃあない。つらい選択を、場合によっちゃしなきゃいけなくなる」
「もし説得に失敗するなら、その時は……」
 鞘におさめた刀を杖のようについて、『傷跡を分かつ』咲々宮 幻介(p3p001387)が顎を上げる。
「拙者の剣は殺人の剣。斬って殺すことにのみ長けた一族でござる。
 出来れば皆の意に添う形にしたいが……無辜の民の命が喪われるのと秤に掛ければ、どちらを選ぶべきかは言うまでも無い」
「分かっていますよ」
 弓をとり、きびすを返す。
 裏ルートから手に入れたという森への入り口へと、歩き出す。
「ここまで武装満載で押しかけておいて。今更別れ話をするティーンエイジャーみたいに泣き付いたりはしません。だって私達はもう――」

「殺し合いをしているんだもの」
 カツン、と石を踏む『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)。
 足音というより、剣を石に打ち付けたような固く鋭い金属音がした。
「闇商人の稼ぎで生きなければならない家族。故郷の命令で戦わなければならない子供達。誰にでも理由がきっとあるのでしょうね。けどそんな原因論に興味は無いわ」
 両手を天秤のようにかざし、そしてパチンと打ち合わせる。
「全員にあるのは目的だけ。その立場を選択してしまった彼らと、この立場を選択した私たちだけ」
「いいえ? すこし、違う……」
 眼帯で覆った左目のあたりに親指をさしいれ、眼帯の位置を整える『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)。
「『選択しないこと』を選んだ人間たちと、それと戦う事を選択した私達がいるのでしょう」
 両目を覆う仮面のようなものごしに、ヴィリスが視線を送ってきた気がした。
 アッシュはそれを受けて、小さく息をついた。
「彼らに罪があるとして、どこに宿るものなのでしょうね?」
「主曰く、人には罪ありき――」
 彼女たちの会話に、黒い影のような人物が混ざり込んだ。
 全身を覆い、表情すらよく見せない男、『元神父』オライオン(p3p009186)。
 彼は本を小脇に抱え、乗ってきた灰色の獣ネメルシアスから降りその場で待つように命じた。
 身を伏せるネメルシアスから視線を戻し、フードのさきを摘まんで下ろす。
「ヴィリス君の言にならって目的論的に言うのであれば、もとより罪は万人にある。
 表面化するのは、『罰する相手が誰か』でしかない」
「ん……」
「ああ!」
 深い話に入ったと感じて身を乗り出しかけたアッシュの一方で、ヴィリスは口元で笑みを作って言った。
「バレなきゃ犯罪じゃないって奴ね!」
 サッと視線をオライオンに向けるアッシュ。
 オライオンはフードの先を摘まんだまま……。
「然様。歴史は勝者が作るもの。戦わなければ、罰することも叶わない」

 仲間達と合流し、『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)は森の中を進む。
「悪だ、正義だと善悪で正しさを見ようとするから……大切な事を人は見失う」
 罰する相手は誰か。
 仮に敗者が罰を受けるのだとするならば。
「セルゲイ。そしてオンネリネンの子供達よ」
 ベルフラウは歩みを進めながら、十字架を模した短槍を肩から持ち上げた。
 あえて高く掲げ、自らを示す。
 日は沈みゆき、夜がやがてゆってくる。
「自らの意思を通せたものこそが正しく在れる。
 正義とは、自らの手を離れれば瑠璃よりも脆いものなのだから」

●夜襲と虐殺
 そんな経験をもつ人もそういないだろうが、『仕事で虐殺をする』場合は早さと効率と無感情さが重んじられる。
 人を殺して楽しいわけでもなければ、特に恨みがあるわけでもない。
 アドラステイアに外貨をもたらすための必要な業務であるという点においてのみ『オンネリネンの子供達』にとって紛れもなく正しいが、それ以外は正否など関係ないという具合だ。第一、この行為に手を染めることで自分たちにもお金(この場合はキシェフ)が入り自分や兄弟の暮らしを向上できるという点で、努力しないという選択肢はない。
 なので、オンネリネン第十七傭兵部隊は足音を殺して集落を取り囲み、手分けして油をまいて逃げ道を塞いだ後、中央の家屋に火矢を射かけるという形で虐殺を開始するのだった。
 が、矢に火を付けたその段階で――。
「上だ!」
 『猟犬型聖獣』バクタムが吼えるのを見てから、傭兵部隊の副官カナタンが叫んだ。
 有翼の獅子ネメルシアスに跨がったオライオンが、自由降下によって矢に火をつけた兵めがけて突進したのだ。
 抜刀。からの斬撃。
 矢を反撃のために放ったが、その矢は空中で切り裂かれ、兵はかろうじて斬撃をかわして転がった。落ちた火矢が地面を燃やし、秋口の乾燥した草をじわじわと燃え広がらせていく。
 着地するオライオン。振り返ると、家々は固く閉ざされ木蓋式の窓も閉ざしていた。
 彼らにとって他に行き場がなく、縮こまって死ぬのを待つしか無い状態であることを、オライオンは事前に潜入した美咲から聞いていた。
 だが、それでも呼びかける。
「火が回っている! 外へ出てひと固まりになって避難してくれ! 俺達がこの場で食い止める、生きる為に今は走るのだ!
 見ろ、この炎はお前達の罪。大義を謳いながら……神を賛美しながらお前達は生命を刈り取ろうとした。今見えている光景は神なぞの願いなどではない、ただの非道なのだ!」
「頑固な連中でござる……」
 それでもがんとして家に閉じこもる住民たちに、幻介は苦い顔をした。
 無辜の民であればともかく、酷い殺され方をするだけの心当たりがあるのだろう。
「家屋を破壊してでも、戦場から避難して貰うしかあるまい」
 とは言ったものの、幻介へと吼えるバクタムの視線を無視はできない。
 建物に対する特別な破壊適性があるわけでもない今、背を向けて壁をがしがし壊し続けるだけの余裕はないのだ。
 グルル、と唸るバクタム。そのそばについていた兵士も剣を抜き、幻介へ一斉に襲いかか――るより早く、幻介はバグタムの横を駆け抜け、そしてその肉体を激しく切り裂いていた。
「拙者の剣は殺傷力が高過ぎて、下手をすると一撃で殺してしまいかねない故に……」
「分かってる。子供達のほうは任せて貰うわね」
 ヴィリスは靴のヒールをポンと蹴飛ばすようにして脱ぎ捨てると、剣の足を露わにした。
 まるで蠱惑的に誘うかのように膝を高く上げて見せると、口の片方だけを上げて笑う。
「安心して。観客がいないと舞台は寂しいでしょう? 今日は誰の命も奪わせないわ」
「傲慢だ!」
 剣をもった兵が斬りかかる。
 が、ヴィリスはそれを回し蹴りではねのけると、ぴょんと飛び退きムーンサルトジャンプをかけながら足の剣に光をあつめ、宙返りの容量で蹴り出した。罪と意識だけを刈り取る光が少年兵に命中。
 崩れ落ちる少年兵。そこへ、美咲が拳銃で別の兵へ牽制射撃をしながら接近し組み付いていく。無力化して捕らえるためだ。
「確かに、闇商人に養われる彼らも、咎を背負うべきなのかもしれません。
 ……ですが。彼らが『偶々、そう生まれた』のだとして、其れを理由に彼らを殺すのは、あなた方が受けた迫害と、何が違うのですか」
 問いかけるアッシュ。
 弓を構えたカナタンが、アッシュめがけて矢を放った。
「知らないよ! 邪悪な人間達を殺して何が悪いんだ!」
「誰が」
 ぱしり、とアッシュは矢を顔の正面で受け止める。
「誰が、そう決めたのです。少なくともあなたでは、ありませんよね?」
 カナタンはそれに答えることができないようだった。
 虐殺が正しい行為かと言えば、否に大きく傾くだろう。
 『アドラステイアが命じたから正しい』というフィルタを通さなければ直視できないほどだ。
 かけより、牙をむき出しにして飛びかかるバクタムまで巻き込んで銀色の雷光をまき散らす。
「あなた方が正義であると云うのなら、殊更、盲目になるべきではありませんよ。
 罪なき人の屍の上に立つ正義なら……其れこそ。あなた方が嫌った嘗ての天義の其れと、同じなのです」

 集落を取り囲む形で配置されていたオンネリネン第十七傭兵部隊。その指揮官であるセルゲイは、彼らから遠く離れていたわけではない。むしろ率先して混ざり、率先して手を汚すことを選んでいた。
「セルゲイ。卿の正義は、『撃鉄』を起こす先には何がある。
 直接悪事に手を染めたでもない民衆を殺す。それがセルゲイ・ヨーフの正義なのか?」
「貴様の知ったことか! この世界を破壊し、蝕む貴様らが言えたことか!」
 セルゲイの剣は連続してベルフラウへと襲いかかるが、鉄壁のガードをもつベルフラウを倒す事は難しかった。
 ただでさえ頑強な彼女が無効化能力のあるシールドを纏い、更には【棘】効果までその内側に仕込んでいる。
「それはアドラステイアの正義だ。世界は、国は、組織は、卿の正義を求めない。
 目を啓け。セルゲイ・ヨーフは何故戦う。私は私の正義の為に戦っているぞ! 貴様のそれは何だ!?」
「黙れ! こんなこと――!」
 ガキンと、剣と槍をぶつけつばぜり合いの状態を作って睨む。
「こんなことをしなければ生きられない私を笑いに来たのか! それとも、お前がすべての子供達を養えるとでも!」
 憤るセルゲイの感情の波が。
 ――ふと、止まる。
 ぶつけ合っていた剣を引き、数歩下がった。
「いや、違うな。本当の狙いはなんだ。私をこの場に引きつけて……」
 ハッとして振り返る。別の場所に配置していた部下達が危ないと気付いたのだろう。
 そして同時に、ベルフラウも相手に分からない程度に薄く顔をしかめた。
 極めて頑強なベルフラウにとって最も嫌な対応方法は『無視される』ことである。
 背後に正純や誠司を庇っている以上、それ以外の行動がとれず無視され続ければそれだけ『実質的に何もしてない』状態になってしまうのだ。
 マズイと思ったのもつかの間、セルゲイは背を向けて走り出す。
「待ちなさい、撃鉄の聖銃士セルゲイ!」
 それを阻んだのは、ベルフラウのカバーから外れ弓を構えた正純だった。
「旅人に、ローレットに関係の無い力なき人々をこうして殺すことが、貴方が弟から引き継いだ正義なの?」
「そこをどけ流星の弓使い正純!」
 セルゲイの繰り出す剣を、弓で受ける。
「ここで連中をオーダー通りに殺せば報酬が手に入る! 弟もやっていたことだ! それで今の私がある! カナタンだってそうだ! それを貴様は――『正義でない』と笑うのか!」
「セルゲイ。お前は今矛盾した」
 誠司の砲撃がセルゲイを襲う。
 直撃をくらった彼が吹き飛び、転がる。ベルフラウと誠司、そして正純によって三角形に取り囲み、構えた。
「ティーチャーだか言いなりで、自分で選びもしない奴が寝言いってんじゃねぇぞ!!」
「――ッ」
 歯がみするセルゲイに、誠司はあえて大砲ではなく自分の指を突きつける。
「間違えたとき。迷ったとき。お前はいつも『誰かのせい』にしてきた。
 正純ちゃんとの意見が食い違った時も、オレのせいにしたようにな。
 貧困になったのは国のせい。聖騎士になるのも弟のせい。
 それで今度は、人を虐殺するのは金のせいか!? 君は――オマエは一度も自分で選択してないんだよ! セルゲイ!」
 それはおそらく、ベルフラウの槍よりも、正純の矢よりも、誠司の砲弾よりもセルゲイを揺らした。剣がかたかたと震え、セルゲイは歯を食いしばる。
「う――」
 集落を抜け、アッシュたちが駆け寄ってくる。カナタンたちの制圧を終えたのだろう。セルゲイは剣をベルフラウたちを見てから、剣を振り上げ――。
「うわああああああああああああッ!!」
 思い切り、剣を正純めがけて投げつけてきた。
 咄嗟に割り込み、剣を身体でうける。ダメージはさしてない。が……。
 それによって開いた隙間から、セルゲイは走って逃げ出したのだった。
「待ちなさい!」
 矢を放つ正純。だが、セルゲイはすぐに夜の闇の中に消えてしまった。
 仲間達が駆け寄ってきて、ランタンをかざす。
 足下に転がった剣には、『撃鉄』の称号が彫り込まれていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――オンネリネンの子供達を撃退しました
 ――集落に死者は出ていません。特に通報はされなかったため、彼らはこのまま隠れ住むようです。
 ――オンネリネン第十七傭兵部隊のうち数名が生きたまま捕縛されました。残りはこの場から撤退しています。

 ――撃鉄の聖銃士セルゲイが逃亡しました
 ――情報屋ラヴィネイルによれば、セルゲイはアドラステイアに戻っていないようです……

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